とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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だから図星はつくなっつの。

 ベクトル操作とは、触れたモノであれば何でも動かせる力だ。重力を無視し、自身が飛ばしたい方向へ、飛ばしたいものを飛ばせる。

 その力は当然、戦闘にも応用可能で、長距離、中距離、近距離、全て賄える上に、防御力ですら絶対的なモノとも言える。

 そんな完全無欠な能力を前にすれば、誰だって逃げ出したくなるはずだ。増してや、何度も挑もうなんて絶対に思うはずがない。

 

「オラ、どうしたよ三下ァッ‼︎ いつまでも逃げてンじゃねェぞ⁉︎」

 

 近くのコンテナに触れ、一気に加速させて非色の元に向かわせる。が、それを躱すだけでなく踏み台にして移動されてしまった。コンテナの中身は小麦粉のようで、地上は白い粉が舞い上がっていた。

 あの身軽さ、あの身体能力、そしてあの反射神経の動体視力、どう考えたって普通の人間ではない。

 だが、それでも自分の相手にはならない。のんびりと地面を歩きながら、コンテナをさらに連続で発射させていく。

 ただ殺すだけなら簡単だ。が、あのクソヒーローは絶対に自分の手で殺す。その為に、今は隙を作っている所だ。

 

「あんた、本当は他人なんか傷つけたくないんでしょ⁉︎」

「るせェッ‼︎」

 

 避けながら飛んでくる台詞に、一方通行は怒鳴り返す。

 

「それなのに、何で真逆のことを繰り返してんの⁉︎ 何回も、何千回も!」

「黙れっつってンだろボケがァッ‼︎」

 

 本当に鬱陶しいヒーローだ。人が聞きたくないことを、こちらに正面からぶつけて来る。

 その割に、脳裏に浮かぶのは最近の出来事だ。最強の座を目指し、大した能力もないくせに喧嘩を売ってくるバカどもの光景だ。

 

「アンタほどの頭脳が何言われたのか知らないけどさ、何簡単にバカ達に乗せられちゃってんの⁉︎」

「ッ……!」

 

 奥歯を噛みしめ、ヒーローの声を遮るようにコンテナを飛ばして轟音を掻き立てる。これ以上は聞きたくない。一気に勝負をつけることにした。

 連続で飛ばし続けたコンテナの中に紛れて、一方通行も空高く飛び上がった。自身のベクトルを操作すれば、浮かび上がることも可能だ。

 コンテナを回避する非色の動きを先読みすれば、隙を突くことも可能だ。一気に急接近し、拳を顔面に向けて構える。

 非色も同じように、拳を構えた。

 

「バカが、このままだと死ぬのはテメェだけ……ブッ⁉︎」

 

 直後、お互いの顔面にお互いの拳がぶつかり合った。ベクトルに押され、非色の拳は威力が大分減ったが、それでも超人の右フックだ。それなりに聞き、一方通行は鼻から血を噴き出す。

 そのまま二人は地面に落下し、尻餅をつく。

 

「グッ、ガァッ……!」

 

 初めてもらったパンチ。口の中に血が滲み、鼻から出る赤い液体を拭った。

 一方、非色も尻餅を着きながら、起き上がるのに時間が掛かった。思いつきではあったが、上手く行った。今のでも、まだタイミング的には50%と言えるだろう。

 

「て、テメェ……な、何しやがった……!」

「パンチ」

「ンなこと聞いてンじゃ……!」

「分かった? 妹達の痛み」

 

 言いながら、ヒーローはそのまま距離を詰めてくる。このままではまずい。どんな芸か知らないが、距離を詰められるわけにはいかなくなった。

 足の裏からベクトルを強く放ち、正面に砂利を噴出しつつ、後ろに下がって距離を置いた。

 が、そもそも非色の身体は人間レベルではない。スポーツカー以上の速さで走り、砂利道から遠回りして一方通行の真横に移動すると、裏拳を放って来た。

 

「ッ……!」

 

 それを反射的に両腕をクロスしてガードするが、しっかりと痛みが自身の腕に響き渡り、後方に弾き飛ばされる。

 確かに、演算に狂いはない。能力は発動している。実際、非色の腕にダメージが蓄積されているのは確かだ。

 だとしたら、考えうる可能性は……。

 

「テメェ……まさか……ブフッ!」

 

 が、非色はそれを考えさせなかった。正面から突撃し、ボディに蹴りを叩き込む。

 非色は、一方通行の皮膚の表面にある反射の膜に触れた直後、拳を引っ込めているのだ。その引いた拳のベクトルを内側に反転させ、一方通行を叩きのめしていた。

 もちろん、容易なことではない。タイミングの調整がかなりシビアであり、AIM拡散力場を視認できるマスクと非色の身体能力が無ければ、あとは一方通行の能力や、一方通行自身について熟知している人間でないと、まず出来ないことだ。

 その上、完璧なタイミングを見極めなければ殴った非色側にもダメージが働くため、かなり身を削った攻撃であることに変わりはない。

 

「グッ、クソ……ガッ⁉︎」

 

 マスクの機能は三分しか保たない。一気にカタをつける。

 そのために、普段の非色からは考えられない猛攻をこなしていた。殴り、蹴り、また殴って蹴る。それらのコンビネーションが、確実に一方通行の身体にダメージを与えていく。

 

「このッ……クソッタレが……ゴッファ‼︎」

 

 痛みと、的確に脳を揺らす急所を狙われているため、思考もままならない。このままでは、間違いなくやられる。

 

「調子にッ……乗ってンじゃねェぞクソヒーローがァァアアアアッッ‼︎」

 

 ならば、もう演算など関係ない。360度あらゆる角度に超強力な衝撃波を飛ばしてやれば良いだけの話だ。

 轟ッ、と爆弾でも爆発したのか、と思うような衝撃がその場全体に走り、煙と小石やコンテナ、小麦粉が舞い上がる。小さな竜巻にも見える衝撃がその場全体を一瞬だけ支配した。

 が、それこそ非色にとっては思い通りの展開だった。非色のマスクに、煙幕も何もかも意味をなさない。

 

「本当は、分かってるでしょ! そんな事したって、あんたは益々、孤独になるだけだ!」

「ッ……!」

 

 竜巻の中、抜けてきた非色の拳が、自身の顔面に炸裂した。完全にタイミングを見切られたようで、完璧に直撃する。

 

「本当に他人を傷つけたく無いのなら、あんたがするべき事はこんな事じゃ無……」

「偉そうに綺麗事、ばかり……抜かしやがって……!」

「綺麗事を言うから、ヒーローでしょ!」

 

 言いながら、非色は再び一方通行へ歩みを進める。

 

「だからもう、やめろよ」

「ッ……」

 

 奥歯を噛み締める一方通行。あと一歩の力で絶対的な力が手に入るというのに、何故こんなところでこんな奴に邪魔されなければならないのか。

 ……いや、元々は自分が蒔いた種だ。最初に出会った時に、殺しておくべきだった。普通に妹達を処理するのも飽きて来た所で、良いタイミングで挑んで来て、遊び半分で生かしておいた結果だ。

 ならば、こいつを乗り越えてこそ、絶対的な力を手に入れるにふさわしいのではないだろうか? 

 

「黙れってンだよ、三下がァァァァッッ‼︎」

 

 一方通行はさらに近くのコンテナに手を付け、浮き上がらせた。それが空中から落ちて来るのを見向きもせず、非色は再び一方通行の方へ走って拳を構える。

 

「ッ……!」

 

 それに対し、非色は逃しはしない、と言わんばかりに水鉄砲を放つ。それが、一方通行の足元に付着した。

 足の裏は、意識しない限り反射は働かない。初歩的な罠に掛かり、一方通行は足を止める。

 

「クソッ……!」

「終わりだ」

 

 こうなれば、一方通行も何かしらアクションを起こすしかなく、非色に殴り掛かった。

 お互いの拳が交差し、顔面に直撃する直前だった。舞い上がったコンテナが地面に落下し、火花を噴いた。

 それがきっかけで粉塵爆発が発生し、横から小石やコンテナの破片が飛んで来る。非色の拳は威力が殺された。それでも振り抜いた拳は、一方通行の顔面に突き刺さる。

 一方通行の拳も、非色の顔面にあたり、後方に吹き飛ばされた。

 

「ッ……!」

 

 これで終わらせられる、と油断した。次の一撃で決める、と非色が身体を起こした時だ。ふと違和感が視界全体に広がっていた。

 一方通行のAIM拡散力場が見当たらない。まだ制限時間まで1分はあったはずだ。まさか、今の一撃でマスクの機能に故障が生じたのだろうか? 

 

「っ……!」

 

 マズい、と非色は一方通行の方に目を向ける。奴の意識が飛んでいるかは分からないが、それくらいしてやらないと勝ちの目は無くなる。

 一気に距離を詰めて拳を構えた時だ。仰向けに倒れている一方通行の前髪の隙間から、無機質な赤い瞳が覗いているのが見えた。

 

「来るンじゃ、ねェよ‼︎」

 

 飛んで来たのは小石。それと共に、一方通行は身体を起こして後方に大きく下がった。

 

「逃すか……!」

「テメェの間合いには、もう入らねェよ!」

 

 さらに、絶え間なく小石が飛んでくるのを、横に回避しながら、水鉄砲を使ってコンテナに張り付け、一気に移動しようとする。

 しかし、その水鉄砲の糸に、一方通行は石をぶつけた。糸が大きくたわみ、非色の姿勢も崩れた。その隙を逃さず、石片を飛ばし続けた。

 

「ッ、ゴヴッ……⁉︎」

 

 身体にベクトル操作によって加速した石が身体全体に直撃し、後方に飛ばされる。それでも強引に空中で受け身をとり、片腕と片膝を地面につけて姿勢を正した直後だ。今度はコンテナが飛んで来て、上半身に直撃した。

 その直撃したコンテナの後ろから、さらにコンテナが連続して飛んで来て、非色の身体は別のコンテナの山に突っ込まされる。

 ガラガラと重なっていたコンテナが崩れ、完全に生き埋め状態になってしまった。

 

「ッ……!」

 

 視界が真っ暗になり、何も見えなくなる。サングラスの故障だろうか? とりあえず、マスクを取らないと呼吸もうまく出来ない。

 強引に身体を起こし、まずはマスクを外そうとした直後だ。第六感が危機を告げていた。

 

「っ……!」

 

 強引にコンテナを持ち上げて立ち上がったが遅かった。顔面に石が飛んで来て、サングラスをぶち抜いて目に直撃する。それにより、再びひっくり返って持ち上げたコンテナが落ちて来る。

 

「アガッ……!」

「……どうしたよ、ヒーロー。寝てンじゃねェぞ‼︎」

 

 近寄ってきた一方通行が、その埋もれた非色を引き抜いて地面に叩きつけると、背中を踏みつけて強引に腕を引き抜いた。

 

「オラ、立てよ。オレを止めンだろ? ヒーロー」

「ッ……」

「今から、億倍返しにしてやるからよ!」

「アアッ……⁉︎」

 

 左手の手首から先が捥がれた。鮮血が吹き出し、非色はその場で身悶えする。傷や怪我程度なら治せるが、失った身体の一部まで戻るわけではない。

 初体験の痛みに、全身が痙攣した。

 

「……おお、困ったなオイ。もう、オレを殴れねェ。けど、テメェも俺の左腕を折ったンだ。おあいこだろ」

「っ……はぁ、はぁ……!」

「まだ死ねると思うンじゃねェぞ。結局、テメェの説教なンざ、口だけだって事を教えてやる」

 

 さらにギリギリと踏みつけた背中のベクトルを強く真下に向けた時だ。非色は、右手でその辺にある石を掴み、一方通行に投げた。

 

「……」

 

 まだ抗う気か、と一方通行は眉間にシワを寄せた。絶望し、命乞いさせてやろうと思ったが、どんなに痛めつけてもこれは無理そうだ。

 ……ならば、だ。もっと残酷な方法で心を折る。

 

「なら、そろそろ実験でも始めるとするか」

「っ……⁉︎」

「元々、そのつもりで来てるしな」

「や、やめ……!」

 

 二人してミサカが立っていたはずの場所に顔を向けると、一方通行にとっては見覚えのない、非色にとっては見覚えしかない少年が立っていた。

 ツンツンしたハリネズミのような髪型、何処にでもありそうな学生服を着た少年。それが、ミサカを庇うようにして立っているのが見えた。

 

「……誰だアレ」

「……れろ」

「ア?」

「固法から、離れろっつってんだよ! 聞こえねェのか三下ァッ‼︎」

 

 上条の怒号は、河原中に響き渡った。

 

 

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