とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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一人より二人。

 現場には、上条と美琴の二人で向かうことにした。と、言うのも、十中八九、非色はボロカスにやられていると判断したからだ。

 美琴では逆立ちしても一方通行にダメージを与えられない。しかし、上条の右手なら話は別だ。

 従って、美琴に任されたのは非色と御坂妹の回収。そして、上条が一方通行を倒す。

 その上条が現場に到着し、見た光景は一瞬で自身の怒りの沸点を超えた。マスクをぶち割られ、片手を捥がれた後輩がその場に倒れていたのだから。

 

「固法から、離れろっつってんだよ! 聞こえねェのか三下ァッ‼︎」

 

 その怒号は、後方で待機している美琴にも聞こえた。実際、美琴にも倒れている非色の姿は視認できる。思わず口を片手で覆ってしまった。

 とりあえず回収しないといけないが、一方通行自身もかなり傷ついている。片腕はおそらく折れているのだろう。是が非でも非色を殺しておきたいだろうに、そんな中に突っ込むのは危険だ。

 

「……つーか、誰だオマエ。何勘違いしてんのか知らねーけど、コイツからオレに喧嘩売って来たンだぜ」

「黙れよ。お前がふざけた実験の被験者だってことは知ってんだ。さっさとそこから退けよ」

「……」

 

 なンだってンだ今日は、と一方通行は奥歯を噛み締める。ゴリ押しのようなやり方でヒーローがようやく自分にダメージを与えてきたと思ったら、顔も名前も知らない奴が絡んで来た。

 厄日、なんてものがあるとは思っていなかったが、確かに運気が落ちる日というのは少なからずあるようだ。

 

「チッ……面倒臭ェ……あ?」

「っ……!」

 

 その直後だった。強引に立ち上がった非色が一方通行に殴り掛かる。反射できるかわからない以上、一方通行は後ろに退がって避けるしかない。

 その代わりに、足元から砂利を噴出させた。直撃し、後ろにひっくり返る非色。

 

「どンだけ頑丈なンだオマエ」

「固法……!」

 

 ひっくり返った非色の頭を掴むと、ベクトルの操作により地面に一気に叩きつける。

 顔面が地面に直撃し、完全にサングラスが割れ、布も引き裂かれた。その非色を、一方通行は蹴り飛ばし、上条の横を通り抜けさせ、コンテナ群に突っ込ませた。

 

「固法、無事か⁉︎」

 

 いや、無事なわけがない。慌てて駆け寄ったが、その身体はあまりに痛々しいものだ。

 そんな中、非色は手を伸ばし、何かを触るような仕草をする。何をしようとしているのか上条が片眉を上げて聞こうとしたが、非色が触れたのは自分の顔だった。目の辺りの。

 

「や、やべっ……こ、固法じゃないですよ?」

「いや、もう遅ぇし、言ってる場合でも無いだろ」

 

 立ち上がろうとする非色だが、身体がふらりとよろけてしまう。

 

「無理するな。あとは任せろ」

「全然元気だから。ほら、左手以外は割となんでも……」

「良いから引っ込んでろっつってんだろ!」

 

 大声を上げられ、非色は思わず肩を震わせる。

 

「お前のやろうとしてたことはすげぇよ。尊敬もしてる。超人的な力があるからって、普通はできる事じゃない」

「……」

「けど、そのために友達と縁を切って、必要のない嘘をついて、こんなズタボロになって腕まで失って……格好ばっかつけてんじゃねぇぞ‼︎」

 

 尻餅をついたまま、非色は唖然としてしまう。

 

「……とにかく、説教は後だ。お前は身体を休めろ」

「や、でも俺、自動で体の傷も修復されるから……」

「良いから来なさい」

 

 ぐいっと後ろからさらに引っ張られる。後ろには美琴が待機していた。

 

「後頼むぞ、ビリビリ」

「それはこっちのセリフよ」

 

 それだけ話すと、美琴は非色と御坂妹を連れて撤退した。

 その背中を眺めながら、一方通行は小さく舌打ちをして、折れていない方の手で自身の頭を横に倒し、首を鳴らした。

 

「アーア……いい加減、今日の実験は終わらせてやろうと思ってた時にこれかよ……で、オマエはどうすンの?」

「決まってんだろ。お前をぶっ飛ばす」

「あっそォ……一応、言っとくぞ。さっきオレが殴られてンのを見てた上で、ンな寝言をほざいてンならやめとけ。あいつがオレに触れられたのは……」

「そんな事、関係ねーんだよ」

 

 自分のセリフを遮って、目の前の無能力者はそのまま続けた。

 

「ただ、お前は何人もの妹達を殺して、固法をボコボコにして、御坂を傷つけた。それだけだ」

「……クッ、ククッ……あっそ。それが、テメェが死ぬ理由で良いンだな?」

「誰が死ぬかよ」

 

 その言葉が火蓋として切り落とされた。超能力者と無能力者が、正面からぶつかり合った。

 

 ×××

 

 一度、美琴が引き返したのは近くの橋の付近だ。そこで、非色と御坂妹を置いておく。

 一先ず、非色は腰を下ろす。捥がれた左手の止血も進み、他の傷口も徐々に塞がっていく。もう少し休めば、すぐに上条の援護に行ける。

 いくら片腕を折ったとはいえ、一方通行の能力は例え両手足が折れていても機能するものだ。上条一人で何とかなるとは思えない。

 いつ行くかを考えていると、左手を控えめに触られる感覚が走った。顔を向けると、美琴が声をかけてきていた。

 

「ごめん……」

「何が?」

「私の所為で……片手、無くなって……」

「平気ですよ。俺の身体、強過ぎるからそれでもハンデが足りないくらいですし。てか、そもそも御坂さんの所為でもありませんし」

「……」

 

 しかし、美琴は気にしてしまっているようで、肩を落としたまま俯いている。

 

「本当に気にしないで。御坂さん」

「……無理よ。あんたがどこまで知ってるのか知らないけど、今回の発端は、私が……」

「違うよ」

 

 美琴の言葉を、非色は正面から否定する。

 

「一番、悪いのはこの実験を提唱した奴です。それさえ分かれば、俺はそれで結構です」

「でも……固法先輩にも、あなたの親御さんにも、なんてお詫びしたら良いのか……」

 

 確かに、左手が無くなっているのは大きな障害だ。学園都市であれば新たな義手は作れるかもしれないとはいえ、それでもこれから先、普通に暮らせるわけではない。

 しかし、非色はそれにも首を横に振って答える。

 

「大丈夫ですよ。知ってると思うけど、俺と姉ちゃんは義理の姉弟です。俺は元々、置き去り出身で親もいませんし、身体だって元々、人間の身体ではありませんから」

「っ……」

 

 確かに、普通じゃ無い。力強さ、早さ、硬さだけでなく、回復の早さもだ。これではまるで能力者だ。

 今なら、少しくらいどんな実験であったのか、詳しく聞いても良いのだろうか? そんな事を思った時、御坂妹が口を挟んだ。

 

「何故、ですか?」

「「?」」

「あなた方は、何故ミサカにそこまで構うのですか? と、ミサカは素朴な疑問を投げかけます。ミサカは、所詮は作り物の身体、あなた方とは違い、ボタン一つで完成する品物です。どうして……」

「……そんなの、決まってるでしょ」

 

 美琴は、少し覚悟を決めるように答えた。

 

「私は、あんたの姉だからよ」

「ですが……」

「分かってる。同じお母さんから生まれたモノじゃない。私の所為であなた達は今まで散々、地獄を見てきたのもわかってるわ。だから、今更こんなことを言う資格は無いのかもしれないけど……私に、あなた達を守らせて?」

「……」

 

 そんな風に正面から言われた時だった。ふと、御坂妹が辺りを見回す。それに気づき、美琴が片眉を上げた。

 

「どうかした?」

「あの……少年は……?」

「へ?」

 

 非色がいたはずの場所には何もいない。代わりに、破けたマスクだけがそこに残されていた。

 

「あのバカ……何も分かってない……」

 

 ×××

 

「はっ、はぁっ……!」

 

 上条は、上から降って来る鉄骨を回避していた。

 その様子を眺めながら、一方通行は「はっ」と笑みを溢す。どんな奴が代理で来たかと思えば、自分に近づくことさえままならない雑魚だった。

 まぁ、それならそれで結構だ。今はこいつの相手などしてる場合では無いのだから。

 

「チッ、雑魚が粘ってンじゃねェよ」

「ッ……!」

 

 一方通行は熱くなった頭を冷やし、冷静に付近を見渡す。あのヒーローが、このまま撤退したとは思えない。

 奴が自分を殴れた理由は想像がついている。反射を逆手にとられたわけだが、それなら反射の方向を調整すれば良いし、何より近づかなければ問題ない。

 後は、奴が来た時に備えて警戒しておくだけで良い。

 

「……」

 

 そんな余裕まんまな一方通行を見て、身構えながら、上条は頭を回す。奴にとって今の所は遊び程度でしか無いのだろう。何とか近付きさえすれば右手で殴れるのに。

 どう近づくかを考えなければならない。だが、自分は所詮、右手以外は普通の男子高校生。何でも反射できる相手にどう近づけば良いのか……なんて考えている時だ。

 

「上条さん、俺があなたを奴の元に届けます」

「?」

 

 その直後だ。空から大量に物が落ちてきた。コンテナやボロボロになった車が上条と一方通行の間を遮るように落下して来る。

 ズンッ、ズン、ドスンッ、と腹に響く音を立てて地面に突き刺さる。

 やっと来たか、と一方通行はニヤリとほくそ笑む。上から降って来た以上、奴は上空にいる。

 

「コソコソしてねェで出てきやがれ、ヒーロー! 今度こそ、愉快なオブジェにしてやるからよ‼︎」

 

 さらに上から物が落ちて来るが、一方通行に直撃はしない。ランダムにドスドスと周りに落ちてきた。

 最後に、マスクをつけていないヒーローが降りて来る。

 

「よォ、ヒーロー様がレベル0のザコを置いて逃げるとは、随分だな」

「こっちだって不本意だったよ」

「……」

 

 いいながら、一方通行は眉間にシワを寄せる。ヒーローの傷がほとんど塞がっている。流石に左手だけは戻っていないが、それでも傷の多くが塞がっている。

 

「テメェ……肉体再生の能力者か?」

「違うよ。……似たようなもんではあるけど」

「ま、どうでも良いがな」

 

 建物の上から飛び降りて着地する。

 

「そっちこそ、逃げなくて良かったの? もう随分、疲弊してるみたいだけど」

「ハッ、認めてやるよ。確かにテメェはよくやった。このオレにこれだけダメージを与えてくれたンだからな」

 

 言いながら、一方通行はニヤリとほくそ笑み、折れていない右手を開いてコキコキと鳴らす。

 

「だから、いい加減楽になれ」

「それは、自分に言ってるの?」

「最後まで、口の減らねェ野郎だな」

 

 その台詞を最後に、非色が右手の拳を振りかぶって突撃し、一方通行は距離をとって右手を前に向ける。空気のベクトルを操り、風圧で一気に吹き飛ばす。

 後方に非色の身体は吹き飛び、コンテナもろとも巻き込んで倒れた。

 直後、一方通行は、コンテナの隙間から突撃してきた上条の方に振り返った。

 

「!」

「バカが、気付いてねェとでも思ったか?」

 

 コンテナの投擲は上条の姿を隠すと共に接近させるためのバリケード。非色の突撃は、自身に視線誘導するため。トドメは上条に殴らせる作戦だった。

 一方通行の能力を超えて殴る技術は簡単に出来ることでは無い。さっきの戦闘の様子を見るに、あのツンツン頭は所詮、素人だ。自身を殴っても向こうの手が折れるだけだ。

 が、それでも念には念を入れ、一方通行は足元の砂利を上条に向けて飛ばす。わざわざ全力でやらなくても、あの超人以外はこれ一発で倒せる。

 そう踏んでいた一方通行だが、上条はその攻撃を姿勢を思いっきり低くして回避していた。

 

「……チッ、雑魚の癖に……!」

 

 殴られる、その恐怖心が一方通行の身体を後ろに逸させかけたが、所詮はただの拳。反射できる。そう踏んで、殴らせた上で次こそ確実に足元の砂利を叩きつける。

 だが、ここで一方通行の視界は暗転した。全体重を乗せた顎へのアッパーカットが、完璧に炸裂した。

 

「ゴフッ……⁉︎」

 

 これでも喧嘩の場数はかなり踏んで来た上条の拳は、素人にしてはかなり重たいものだ。油断はしていなかったが、当たると思っていなかった一撃が完璧に入り、一方通行の身体は宙に浮かび上がる。

 

「なっ……て、テメェ……一体……⁉︎」

「無能力者だよ、最弱の」

 

 宙に浮いたまま、上条の顔を薄っすらと視界に収める。あのヒーローもどきも、目の前のこいつも、一体何故、こんな自殺行為に等しいことが出来るのか。

 何度も殴られた自分は、学園都市の頂点に立つ第一位だ。あらゆる攻撃を弾くベクトル操作が可能で、普通に考えれば勝てるはずがない。

 そんな自分に、何故ここまで食い下がろうと思えるのか。何度叩きのめされても、何度殺され掛けても、真っ直ぐとこちらを見据えて。

 これではまるで、あの人形達が人間で、それを守るために戦っていたみたいではないか。

 地面に落下し、一方通行は目を閉じる。まだ、意識はある。が、立ち上がる気にはなれなかった。もう、立つ気力もない。多分、もう直ぐ気を失うだろう。

 

「……おい、テメェ……」

「?」

「なンで、あの人形達のために……ここまでする……?」

「決まってんだろ。妹達は人形じゃなくて、人間だからだ」

 

 正面からさっきまで思っていた事と真逆の事を言われ、今度こそ一方通行は意識を底に置いてきた。

 

 


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