とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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夏休み編
ヒーローにも休息が必要。


「うう……うううう〜……!」

 

 基本的に、御坂美琴は黒子に迷惑かけさせられる事が多い。彼女と出会い、仲良くなってから、次第にエスカレートして行く変態行為。それらを受け止めていたのは、それでも黒子が悪い奴ではない事を理解していたからだ。

 その上で、学校では基本的に「超能力者」というだけで浮いてしまっていた美琴だが、黒子は決してそれが理由でやたらと敬遠して来ることはなかった。

 つまり、あの程度の変態行為は可愛いものとして受け止められているのだが、ここの所はその行為の頻度も減りつつあった。

 特に、最近は全くない。今日は、自分に構って来る様子もなく、ベッドで枕に顔を埋めて足をバタバタさせていた。

 

「……黒子、何かあったの?」

 

 まぁ、だいたい、何があったのかは理解しているが。今日、非色とヒーローを代わってあげたわけだが、その理由が黒子だから。

 

「いえ……なんでも、ありません……の……」

「なんでもないって感じじゃないでしょ。いいから話しなさい」

「し、しかし……お姉様に、そのような面倒は……」

「バカね、こういう時のための、お姉様でしょう?」

 

 とても一方通行に関してずっと抱え込んでいた人のセリフではない。

 が、黒子はそれに関してツッコミを入れる余裕はなかった。それより、今はあのアホヒーローの事だ。

 

「……実は、その……私……」

「恋ね」

「まだ何も言ってませんが⁉︎」

 

 しかし、全部わかってる美琴としては、さっさと先に進めて欲しかった。

 

「どうせ非色くんの事でしょ? 何、また喧嘩した?」

「い、いえ……その……ち、違いますわ! そもそも、あの男には非常に腹が立っておりますの! 普段、マスクをつけている時はペラペラと歯が浮くような事をほざき散らす癖に、マスクを取ったら要領を得ない、しどろもどろな事ばかり抜かして……! その上で上げて落として……ホント、腹が立ちますの!」

「……」

 

 美琴は呆れ顔で黒子を眺めた。素直になれば良いのに、と。勿論、どのツラがそんな呆れ顔を浮かべられるのか、という感じだが。

 コホン、と咳払いした美琴は、黒子に偉そうに説教を始めた。

 

「あなたね……もう少し、素直になりなさい? (素直になれなくて電撃ばら撒く人)」

「そ、それは……」

「人間は万能じゃないんだから……特に彼の場合は鈍感でまともな情緒で育っていなさそうだし、ちゃんと気持ちを伝えないと何も伝わらないわよ(上条にヌルヌルと躱され、未だに気持ちも伝えられていない人)」

「お、仰ることはわかりますが……」

「ただでさえ少し前までは反目してた仲なんだから、何なら少しは優しくしないと怖がられちゃうかもしれないわよ? (ビリビリ女とかいう変なあだ名を付けられるほど怖がられてる人)」

「……わ、分かりましたわ。少し、考えさせていただきます」

 

 説得力など、その人の実態を知らなければ何も問題ないのかもしれない。

 

 ×××

 

 アイテムは、比較的にチームメイト同士の仲が良い。女性しかいない、というのもあるが、麦野の機嫌さえ良ければプライベートで食事や映画に行く程度には仲が良かった。

 だが、その要である麦野の機嫌は最近、とても悪かった。いや、悪いだけならまだ良かった。何せ、シャケ弁を食べさせるなり、愚痴を聞いてやるなり、シャワー浴びるなりすれば直るから。

 だが、今回のは長い。何をしても元には戻らなかった。その癖……。

 

「ひ、ひいぃぃ……た、助けてくれ! もう、私は何も……!」

「……チッ、うるせぇ!」

 

 ターゲットを殺す際、微妙に躊躇うようになって来ていた。結局は殺すのだが、特に命乞いをされるとビームを放つ際の手が少し、震えている。

 今の所は影響無いが、これがどのように転ぶのか、分かったものではない。

 仕事が終わった日、シャワーを浴びながら絹旗とフレンダは相談していた。

 

「……超どう思います?」

「十中八九、あのヒーロー様の所為ってわけよ」

「ですよね……」

 

 何より、大きく変わったのは作戦そのものだ。フレンダや絹旗は基本的に援護のみ、危険な場所に飛び込むのは麦野がやることが多くなった。滝壺の体晶の使用頻度も大きく減った。

 まるで、自分達のリスクを減らすような作戦が増えたわけだ。

 

「はぁ……どうしましょうか」

「ま、私は今のままでも構わないけど……」

「……もし任務失敗が増えたら、私達が超消される可能性もあるんですよね……」

 

 特に、この街は容赦が無い。それは、絹旗とフレンダもよく分かっていた。

 

「……とりあえず、しばらく様子を見るってわけよ」

「そうですね……」

 

 なんだかんだ、仕事をこなしている。もし影響が出るようなら、殴られることも承知の上でお話した方が良い。

 

 ×××

 

 一方通行の事件にかかりきりになってしまっていたが、ようやく通常運転に戻った。「なんかヒーローが装備整えて戻って来た」とすぐに噂が広まり、増えていた事件も再び減りつつあった。

 夏休みなだけあって、事件の数もそれは多かったが、一方通行に袋叩きにされたおかげでパワーアップしてしまった非色にとっては全く苦ではない。

 美琴に返してもらった装備を身に纏い、事件を探して駆け巡った。

 

「あ、事件発見」

 

 自分がいるマンションの真下で起こっているカツアゲ。路地裏で、小さなフードを被った女の子が男達に囲まれている。

 その真ん中に非色は舞い降りた。

 

「何々、ロリコン? もしかして、あんたら歳が近い人に相手にされないタイプ?」

「なっ……て、テメェは……!」

 

 直後、非色は掌を構え、目の前の男の肩を軽く押し出す。その勢いに負け、後方に吹っ飛ばされた。

 

「や、やべぇ……逃げるぞ!」

「こんなバケモンに敵うはずねぇ!」

「ダメダメ! 逃げるならちゃんと心を改めてくれない、と!」

 

 逃げた二人の後を追い、一人を捕まえる。手首を掴んで肘を曲げ、背中に回して捻りあげると、声を掛けた。

 

「人のお金をとっちゃダメでしょ。お金が欲しかったらバイトでもして人間性と社会性を育てなさい」

「い、いだだだ! 分かった、分かったよ悪かったって!」

「……能力者とか高位能力者が偉いとか、そんなん無いから」

「う、うるせえ! 離しやがれ!」

「返事」

「わ、分かった! 心入れ替えます!」

「お仲間にもそう伝えてくれる?」

「わかったっつの!」

 

 それだけ話すと、手を離して逃してやった。さっき押し出した奴も同じように逃げて行った。

 こんな感じで、最近は1〜2発だけで敵を追い払えるようになって来た。あの生徒達が本当に改心したのかまでは分からないが、それでも事件が減りつつあるのは確かだ。

 前より余程、労力は減った。

 

「君、大丈……」

「またあなたですか……ヒーロー」

「げっ……」

 

 しかし、今回ばかりは口を出したのは失敗だったかもしれない。何故なら、目の前にいたのは暗部の少女だったからだ。

 

「ちょうど良いです。少し、超付き合ってもらえます?」

「少し、超……?」

「良いから来い」

「俺、忙しいんだけど。まだこの街には困ってる人がたくさんいるから」

「超知りません」

「今の自分の境遇を抜けたいって話なら付き合うけど……」

「違います。良いから来て下さい」

「……そういう話じゃないなら、ここで捕まえとこうかな。君、割とあの仕事慣れてるでしょ」

 

 言われて、絹旗は奥歯を噛み締めて一歩下がって臨戦態勢に入る。と言っても、勝てる気はしない。自分の殴打を片手で受け止める化け物だ。その上、この前は麦野にも勝った男だ。

 

「……私を捕らえても、超無駄ですよ。私の代わりなんて、いくらでもいますから」

「でも、君は救われる」

「……は?」

「殺しに慣れてるだけで、殺しがしたいわけじゃないでしょ」

「……」

 

 麦野から、二丁水銃の話は聞いていた。あの男はあの男で、自分達と違う所が狂っている、と。

 それを、改めて実感した。お人好しとか、そんなレベルの事じゃない。

 

「……超厄介ですね……他の人が殺しをするのは超構わないって事ですか?」

「そんな事、言ってないでしょ。他の人が代わるなら、また俺が止めるだけだよ」

「っ……」

 

 下手な真似をしてしまった、と絹旗は後悔する。どんな理由があれど、こいつは簡単に関わるべきではなかった。被害者のフリをしてさっさと逃げれば良かった。

 そんな時だった。路地裏の後ろを明らかにスピード違反の車が通っていた。その後ろを、警備員の車が追っている。

 

「悪い、話はまた今度!」

「あっ、ちょっと……!」

 

 速攻でその場からいなくなってしまった。ジャンプして、壁を蹴って反対側の壁を蹴って、左手を伸ばした。そこから糸状の液を出し、カーブして車を追っていった。

 

 ×××

 

 作ってもらった左手の義手は、液体を掌から放つことが出来る。それを日常生活と戦闘用で使い分けるために、三つのモードがあり、手首のスイッチで切り替える。

 一つ目が液を放たないための通常モード。掌の穴が塞がり、液が出ないタイプ。

 二つ目が、マスクをつける前に糸を放つ必要が出た時。放てる液は二つのみ。それを使い分けるには、立てる指によって変化する。人差し指と親指の二本を立てた時に糸が出て、人差し指と親指と中指の三本を立てた時に捕獲用の通常モードが飛び出す。

 三つ目は、音声入力で放つモードで、放てる液の種類は四種類。マスクと連動していて「ミスト」で煙幕を放ち「ワイヤー」で糸を吐き「グレネード」で球状の弾ける液を飛ばし「キャプチャー」で通常の敵を捕獲する液を撃つ。

 

「……これだけの機能をよくほんの数日間でつけたな……」

 

 やっぱり、木山も冥土返しも化け物である。しかもまだまだ機能を追加してくれるつもりのようだ。

 その機能を数日で使いこなしている非色も非色だ。現在、その機能を存分に使い、先頭を走っていた自動車を止め、警備員に引き渡し、去った所だ。どうやら、銀行強盗だったらしい。

 

「ふぅ……」

「お疲れ様ですわ」

 

 マンションの上に腰を下ろしていると、後ろから声を掛けられる。立っていたのは、黒子だった。

 

「あ、どうも」

「その手は?」

「え?」

 

 しまった、と非色は固まる。ヒーローが自分だとバレるということは、義手を存分に使い過ぎると、本当の手でないことがバレてしまう。

 さりげなくスイッチを切って、苦笑いを浮かべる。

 

「あー……実は、俺……能力者で……」

「……」

「……す、すみません……嘘です。実は、少し前に……取れちゃって……」

「取れちゃってって……あなたねぇ……」

 

 呆れたように呟く黒子。

 

「ま、まぁでもほら、全然思い通りに動くし、むしろ水鉄砲だった時より使いやすいですし……!」

「そういう問題ではありませんわ。……この事、固法先輩には仰ったんでしょうね?」

「……言ってないです」

「参りましょうか」

「わー! 待って待って! 姉ちゃんには内緒にして! ヒーロー辞めさせられちゃう!」

「……」

 

 実際、未だに美偉はヒーローを続けて欲しくなさそうにしている。そんな中「実は手が取れてました! しかもそれを隠してました! 許してちょんまげ☆」なんて言えば確実にヒーロー変身セットを没収され、木山と関わるのも反対される。

 

「……本当は、やめた方が良いのでは?」

「やめない! 自分可愛さに周りの困ってる人を見捨てるってことになるでしょ!」

「……」

 

 仕方なさそうに黒子はため息をついた。

 

「……仕方ありませんの」

「良かったぁ……白井さん、ホント良い人……」

「っ……や、喧しいですの! どうせ固法先輩の次に、でしょう?」

「うん」

「バカ!」

「ごふっ! な、なんで……!」

 

 小突かれ、思わず変な声が漏れてしまった。理不尽な……と、思わず言いそうになったが、今度はテレポートさせられるかもしれない。

 

「……あの、非色さん」

「なんですか?」

「夏休みの間、あなたは何をしていらしたのですか?」

「え、戦って、戦って……戦って……あれ?」

 

 何もしていなかった。遊び関係は。いや、まぁそれがヒーローたる所以だと思えば頑張れるが……。

 

「……良いんですの? そのまま夏休みが終わって」

「い、良いんです! それがヒーローですから!」

「そうですか。素直に仰るのでしたら、1日2日くらい私がお付き合いしようと思ったのですが……」

「え?」

「ヒーロー様なら仕方ありませんわね」

「あー……ま、待った!」

 

 思わず大慌てで引き止めてしまった。

 落ちたな、と速攻で理解した黒子は、ニヤリとほくそ笑み、声を掛けた。

 

「で、どこに行きます?」

「……え、行ってくれるの……?」

「ええ。考えてみたら、あなたと二人で遊びに行く機会など今までありませんでしたもの」

「……じ、じゃあ……行きましょうか」

 

 言われて、黒子はクルッと回り、背中を向ける。微妙にプルプルと肩を震わせている。非色からは見えない位置で、顔を赤くしたまま小さくガッツポーズを浮かべた。

 

「では、このまま参りましょう」

「え、今ですか?」

「どうせ、暇でしょう? 私も、たまには羽を伸ばしてこいと、固法先輩よりお休みをいただいていますの」

「き、急に言われても……」

 

 だが、まぁ今遊びたいというのならそれはそれで良いだろう。非色だって、ヒーローとして何かしなければならない事があるわけでもない。いや、あるにはあるのだが……まぁ、今日じゃなくても良い。

 そう思うことにして、マスクとスーツを引っ込めた。

 

「……すごいアイテムですのね。すぐ変身できるようになって……」

「でしょ? 木山先生に作ってもらったんです。……カッコ良いでしょう?」

「ええ。まぁまぁ、カッコ良かったですの」

「ふぁっ……」

 

 にこりと微笑まれ、非色は思わず言葉を失った。変身アイテムが褒められたのは分かっていたが、まさかそこまで素直に「カッコ良い」と言われるとは思わなかった。

 ドキリ、と心臓を高鳴らせながら、とりあえずお礼を言っておいた。

 

「あ、ありがとう……」

「で、どこで遊びましょうか? こういう時は、男性が手綱を引くものですのよ?」

「わ、分かった……!」

 

 さて、遊びと言えばまず頭に浮かんだのが、小学生の頃、転校したてだった時、クラスメートに誘われたあの遊びだ。

 

「鬼ごっこ!」

「は……?」

「じゃあ缶蹴り!」

「……本気で言っていますの?」

 

 ダメなの? と言った表情をする非色に、黒子はため息をつく。やはり、こいつ普通じゃない。

 

「……とりあえず、私の買い物に付き合いなさいな。その途中、あなたが寄りたいお店等があれば、寄り道するとしましょう」

「あ、わ、分かった……?」

 

 二人で、とりあえず街並みを歩き回った。

 

 


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