とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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中学生のデートは途中から友達と遊んでるだけになる。

 街を回る、と言っても、基本的に第七学区から出る事はない。二人で出かけることが決まった事自体が急な話であったし、非色があまり金を持っていないので精々、ウィンドウショッピングくらい。

 さて、そんなわけで二人はセブンスミストで、洋服を見ていた。……のだが、中身が普通の中学生よりも幼い非色は、すぐに退屈してしまった。

 そんな非色に、黒子はニコニコしながら洋服を手に取って自身の体に当てて聞いた。

 

「どうです?」

「え? 何が?」

「これです。似合うとお思いですの?」

「常盤台って私服禁止なのでは?」

「……」

 

 ジロリ、と非色の顔を睨みつける黒子。その通りだが、そういう話をしたいわけではない。

 

「似合っているかどうかを伺っているんです。それに、これは寝巻きですのでご心配なく」

「え、えーっと……どうだろ。白井さんが制服じゃなかった事がないから、あんまりピンとこないというか……」

「……あなた、そんな事では女性に好かれませんのよ?」

「じ、じゃあお似合いです」

「じゃあ⁉︎ 一番、女性とのデート中に言ってはいけない言葉ですわ!」

 

 それを聞いて、非色は思わず黒子から目を逸らす。面倒臭ぇ、と。とはいえ、まぁ黒子につまらない思いをさせたいわけではない。それなら、向こうに合わせる必要もあるのだろう。

 せっかくなら、自分も楽しめるように振る舞った方が良いだろう。

 

「白井さんなら、こっちの方が良いと思いますよ」

 

 そう言いながら非色が手に取ったのは、子供用のフリフリした寝巻きだ。何処かのお姉様が好きそうなデザインだ。

 だが、非色は決してそんなつもりはなかった。実際に似合いそうなものを選んだだけのつもりだったが、黒子の表情は不機嫌そうになっていく。

 

「……どういうつもりで言っておりますの?」

「え? なんで?」

「それは子供用ですわ!」

「だ、ダメなんですか?」

「もう中学生ですのよ? そんな子供用なんて……!」

「だって、白井さん小さいじゃないですか」

 

 それは、あくまでも身長のことを言っていた。中学一年生なんて、所詮はまだ去年……というより、数ヶ月前までランドセルを背負っていた学年。非色の見立てだと、黒子はちょうど中一の平均身長くらいだから特別大きいわけでもない。

 よって、子供用の服もまだ着れても決して恥ずかしくないと思っていた。

 しかし、非色は失念していた。中学生は、思春期の入り口であることを。女性に対する「大きい」が、人によっては身長ではなく身体の一部と認識される恐れがあることを。

 

「せ、セクハラですか⁉︎ 最低ですわ!」

「え……セクハラ? なんで……?」

「はぁ……もう結構ですの。洋服はここまでにしましょう」

 

 なんだか分からない間に見限られてしまった。このままでは、この前とは別の意味で嫌われてしまうかもしれない。

 ヒヤリと背筋に冷たい汗が通ったので、とりあえずフォローだけでもしておくことにした。

 

「……あ、でも白井さん、人としては大きいよね?」

「何言ってますの?」

 

 全く通じていなかった。不機嫌そうにプリプリと怒る黒子の後ろを、肩を落としてついて行くしかなかった。

 黒子としても、一緒に出掛けた所でこうなるのではないか、と何となく予想はしていた。彼と自分の価値観は大きく違うし、そもそも非色が割と普通に学生として過ごせている事が奇跡なのだから。美偉にホント尊敬の念が浮かぶほど。

 まぁ、彼と遊ぶのなら、こちらが大人になるしかないのだ。

 

「それより、非色さん。あなたは行きたい所とかありませんの?」

「え、俺ですか?」

「そうですの。流石に鬼ごっこやら何やらはご勘弁願いたいものですが……そうですね。ゲームセンターやカラオケなど如何です?」

「え……あんま行ったことない……」

「え、げ、ゲーセンやカラオケに、ですか?」

「一緒に行く友達も、行くためのお金もありませんし……」

「……」

 

 少し同情してしまう黒子。中々、不憫な人生を送っている。超人になった事などないから分からないが、超人には超人の悩みがあるのだろう。

 だからこそ、自分が色々と教えてあげるべきだろう。この子は、ヒーローとしてかなりの徳を積んでいる。少しくらい、人生を楽しませてあげた方が良いだろう。

 

「……では、私がエスコートして差し上げますわ。色んな所に連れ回してあげますので、お金がなくなることも覚悟しておいて下さいな」

「っ……」

 

 そう言って微笑むと、非色は頬を赤らめて俯いてしまった。本当に可愛いヒーローである。自身の容姿の良し悪しは分からないが、少し微笑むだけでここまで照れてしまうとは。

 まぁ、そんな純粋さがあるから、ヒーローなんて続けていられるのだろうが。

 

 ×××

 

 そんな二人がまずやって来たのは、ゲームセンターだった。様々なプライズやアーケードゲームが並んでいる中、まず黒子が目をつけたのはプリクラだった。というより、それ以外にあまり興味がない。

 

「さ、入りましょう?」

「これ、なんですか?」

「プリクラ……主に女学生間で人気の写真を撮る機会ですわ。撮った写真に落書きをすることが出来ますの」

「え、普通に携帯で撮るんじゃダメなんですか? 落書きするアプリなんていくらでもあるでしょ」

「思い出として『データ』ではなく形として残すためのものですの。こういう機械を使うのと、携帯でいつもと同じ方法で撮るのとでは、風情も記憶の残り方も違うでしょう?」

 

 なるほど、と非色は納得する。そういう事なら、まぁ分かる。そもそも思い出を残した事がないので、理解し難い事ではあったが。

 

「でもこれ……男が入って平気なんです?」

「平気でしょう。恋人同士で入る方もいらっしゃるのですよ?」

「っ……」

 

 また照れた。本当に可愛い男である。まぁ、黒子に相手を照れさせて楽しむ趣味はないわけだが。何より、言っておいて自分も照れているので、今はとりあえず何も言わないでおく。

 しばらくプリクラが空くまで待機していると、ようやく二人の少女が出て来た。

 

「……あ、白井さんと……えーっと……」

「こんにちはー!」

 

 元気よく挨拶して来たのは、春上と枝先の二人だった。木山の生徒で、非色と黒子が助けた二人である。

 問題は、二人とも非色がヒーローであることを知らないことだ。春上が非色と顔を合わせたのは気絶している時だし、枝先も素顔の非色とは会った事がない。

 それを、黒子が把握していないと、非常にまずいことになる……と思って顔を向けると、黒子は微笑みながら二人に声をかけた。

 

「こんにちは、お二人とも。こちらは固法非色さん、固法先輩の弟さんですの」

「は、初めまして……」

「はじめまして!」

「あ……あなたが非色くんなの? お祭りの時、私を寮まで運んでくれたって……」

「あー……は、はい」

 

 目を逸らしながら返事をする。元々、初対面の女の子は苦手なのだ。せめてマスクをしていれば軽口を叩けるものを。

 そんな非色に、枝先がグイグイと声を掛ける。

 

「佐天さんと初春さんから聞きました。非色さんなんですよね?」

「うぇっ⁉︎ な、何が⁉︎」

「私達と同じ中学の男の子です」

「あ、そ、そっちか……」

 

 心底、ホッとしてしまった。なんやかんやで正体を(美琴が)バラしてしまったわけだが、流石に「友達の友達なら友達だよね!」というわけでどんどん連鎖式に知られるのはゴメンだし危険だ。

 

「それより気になるのは……白井さん、固法くんとどんな関係なの?」

「え?」

「そういえば……二人きりで男の子とプリクラって……あっ(察し)」

 

 枝先の反応に、黒子は微妙に頬を赤らめる。それで全てを察した枝先は、微笑みながら春上の腕を引いた。

 

「? 絆理ちゃん、どうしたの?」

「行こう。邪魔しちゃ悪いよ」

「ち、違いますからね⁉︎」

「ごゆっくり」

「???」

「違いますってば!」

 

 ニヤニヤしたまま帰られてしまった。まったく、と黒子は毒づきつつ、隣の非色を見上げた。相変わらずすっとぼけた何も分かっていない表情を浮かべている。

 

「……」

「ひょふっ⁉︎ な、何⁉︎」

「何でもありませんわ」

 

 なんとなく腹立ったので、脇腹だけ突いてプリクラ機に入った。

 

 ×××

 

 それから、二人でとにかくゲーセンの中を回った。プリクラを撮って、クレーンゲームで景品をとって、レースゲームで競い合い、リズムゲームで非色がやたらと音痴だったり、と、とにかく遊び尽くした。

 非色にとっては、これは初めての経験だった。こんな風に楽しいのは初めてだ。思わず、今後もずっとこうしていたいと思う程に。

 だが、そうもいかない。ヒーローである以上は、友達と遊べる機会も減ってしまう。

 だからこそ、今日くらいはしっかりと楽しまないと損……と、思っていると、ゲーセンの出入り口の前を通った車が目に入った。窓から、枝先と春上の口を縛って。

 

「……やれやれ」

 

 休日出勤なんて聞いていないが、こうならば仕方ない話だ。

 小さくため息をついた非色の腕を、黒子が掴んで引く。

 

「非色さん、次はあれを……!」

「あー、ごめんなさい。白井さん」

 

 セリフを遮られ、黒子が頭上に「?」を浮かべて振り返る。

 非色は、少し残念そうに苦笑いを浮かべて、懐からサングラスを取り出した。

 

「仕事だ」

「え……?」

 

 それを見せたと思ったら、黒子の前から走り去って、ゲーセンの横の路地裏に入り、ジャンプしながらマスクを装着し、車をマスクで追跡する。

 どう見てもアレは誘拐事件だ。その目的が金を強請る気なのか、それとも二人の交友関係への仕返しなのか分からないが……最悪の想定は、テレスティーナ関係だ。一番濃厚である事がとても厄介だ。

 何にしても、誘拐という事は他に仲間がいてもおかしくない。

 

「犯人の数は?」

「ザッと見た感じ、運転席に一人、助手席に一人、後部座席に一人で三人……だけど、連行する先に仲間がいると見てる」

「そうですか……で、その場に到着するまで泳がすつもりで?」

「そのつもり。ああいうバカ達は根絶やしにする他ないか……つーか俺誰と喋ってんの?」

 

 ふと振り向くと、黒子が後ろにいた。

 

「私もお付き合い致しますの」

「……いやいや、ヒーローの仕事には巻き込まないから……」

「ホント、やっぱり何も分かっていませんのね」

「え……?」

「私は、私の知らないところであなたが傷つくとがとても嫌なんですの。例えば、その左手のように」

「……」

 

 言われて、非色は黙り込んでしまう。

 

「今後は、私は隣で戦います。……よろしいですわね?」

「本当に危ないよ。今回も、もしかしたら……」

「承知で言っております」

「……でも、怪我とかしたら……」

「それとも、あなたは私を守りながら戦う自信がないんですの?」

 

 クスッと非色は微笑んでしまう。まぁ、確かに彼女の気持ちを汲んで、相手が大した連中で無いなら力を借りても良いかもしれない。

 

「……じゃ、ついて来るなら勝手にしてね。怪我しても俺は知ってるから怪我させた奴マジぶっ殺す」

「……そこは『怪我しても知らないから』と言うところでは?」

「白井さんに怪我させた奴、許すわけないでしょ」

「……行きますわよ」

 

 二人は、屋上を蹴って車の追跡を始めた。

 

 


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