とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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秘密がバレると自由はなくなる。

 非色が規格外なだけであって、実は白井黒子もかなり人にしては強い方にいる。合気道系の柔術に、小さな身体をめいいっぱい使ったテレポートによる強襲、自身の知恵を振り絞った地形を利用する奇策。つまり、能力だけで戦うスタイルなわけでなく、自身の身体をメイン武器とし、能力によってアシストして戦っているわけだ。

 そんな彼女が超人と組めば、相手が余程の規格外でない限り負けることなどあり得ないわけで。

 

「おい、人質を連れて来たなら電話だ」

「固法非色への復讐を……」

「了解です!」

「「「あ?」」」

 

 テレポートにより、人質となった枝先と春上を縛っている椅子と誘拐犯のリーダー格の間に二丁水銃が現れた。

 

「なっ……⁉︎」

「き、貴様は……!」

 

 反応される前に、非色はその男に回し蹴りを放つ。身体が浮いたのを確認すると、足を掴んで他の敵にぶん投げた。

 

「ぐおっ……⁉︎」

「き、貴様……!」

「ダメダメ、君達。女の子を椅子に縛って良いのは手品の時だけだよ。『グレネード』」

 

 言いながら、能力を使おうとした遠くにいる敵に左手を向け、グレネードの形をした白い球を放つ。

 それは転がった直後に爆発し、男を散らばった液体によって貼り付けた。

 その隙に、黒子が非色の元にテレポートし、春上と枝先の周りに纏わりついている縄をテレポートで外した。

 

「あ……し、白井さん……!」

「お待たせ致しましたわ。……私はこの方達を救助します」

「はいはい。もし、怖かったらそのまま戻って来なくて良いからね?」

「ほざきやがって下さいまし」

 

 そう言うと、黒子はそこから姿を消す。さて、敵の数をザッと見回す。およそ10人くらいだが、少なく過ぎる。こちらを警戒してか、全員距離を置いて様子を伺って来ているが、まぁ非色にとっては警戒に値しない。

 何処から切り崩そうか考えていると、黒子が戻って来た。

 

「あら、まだ全然、片付いてないではありませんか。随分とのんびり屋さんですのね?」

「ん、いや何。みんなヒーローを相手にするのなら少しでも長く意識を保っていたいと思って気を使ってるんだよ」

「口の減らない殿方ですこと」

 

 それだけ話すと、二人は圧倒的な人数差を前に、一気に突撃した。

 

 ×××

 

 全部片付き、警備員に放り込み、二人は近くのビルの屋上で一息つく。今回、敵が非色に狙いを定めていたのは、非色が変身する前に軽く捻った連中が相手だったからだ。

 変身アイテムがなかったときは、家に帰る前に事件に遭遇することもあったため、非色のまま敵をボコったことも多々ある。

 

「まったく……逆恨みも大概にして欲しいものですわね」

「慣れてるよ」

 

 そう返しつつ、非色はマスクとスーツを解除する。その表情は、どこか悩ましげであった。

 やはり、中身が子供なだけあって、他人に嫌われるのは決して良い気がしないのだろう。しかも、今回はヒーローではなく非色本人を狙われていた。そういった点でも、やはり気にしてしまっているのかもしれない。

 なら、黒子が非色を守らなければならない。その心が、壊れてしまわないように。

 

「……ねぇ、白井さん。相談なんですけど……」

「な、なんですの?」

 

 早いな、と思わないでもないが、この前話したことを理解し、自分を頼ってくれているのなら良いことだ。耳を傾けることにした。

 

「……そろそろ、軽口を叩いたりとかしないで、普通にもう少しこう……カッコ良い事言いながら戦いたいなって思いまして……」

「……はい?」

 

 何を言っているのか分からない、と言った表情を浮かべる黒子。

 

「いやほら、なんか軽口叩くのって……要するに癖みたいなもんなんだけど……軽口叩くヒーローっていないでしょう?」

「ど──────っでもいいですの」

「辛辣⁉︎」

 

 まさかの答えに、非色は思わず大声をあげてしまう。

 

「な、なんでそんなこと言うんですか⁉︎」

「それよりも、再び遊びに戻りましょう?」

「むー……じゃあいいですよ。佐天さんとか姉ちゃんに相談しますし」

「お待ちなさい!」

 

 携帯を取り出した非色の手を、慌てて黒子は掴む。何? と、視線で聞くと、黒子は少しうろたえた表情のまま尋ねた。

 

「少しくらいで良ければ、私がそのご相談に乗りますわ」

「え、なんで急に……」

「良いから!」

 

 突然、怒ってどうしたのだろう……と、不思議に思いつつも、とりあえず聞いてもらえるなら素直に話すことにした。

 

「で、とにかくです。ヒーローの時と普段の俺、違う人格にしたいんです」

「私から見れば大分、違いますけれど……」

「え、そ、そうですか?」

「はい」

 

 思わぬ真実をしれっと告げられ、非色は目を逸らし、微妙に頬を赤らめる。少し自覚はあったものの、他人にもそれを知られているとは思わなかった。

 

「……な、なんか恥ずかしくなって来た……」

「結構、恥ずかしいことも言っていますのよ、あなた」

「え、た、例えば?」

「例えば……そ、その……わ、私の事を……ひ、姫とか……」

「え……う、嘘……」

「本当ですの!」

 

 二人揃って頬を赤く染めてしまった。普通に恥ずかしくなってしまっている。

 

「……キャラ、変えようかなぁ」

「もう勝手にして下さいな……」

 

 黒子としては、正直何でも良かった。正直、姫と呼ばれるのも悪い気はしなかったし。……とはいえ、他の人が言われるのは、それはそれで困るのだが。

 

「もっと、こう……どうせやるならカッコ良くなりたいな……決め台詞とか……」

「……いつまでするんですの? この話」

 

 とりあえず、そろそろ嫌がられているのを察したので黙ることにした。とりあえず、引き続き二人での遊びを楽しもうと思った時だ。

 黒子が、微笑みながら非色に声を掛けた。

 

「別に、取り繕う必要などありませんのよ?」

「え?」

「あなたは……二丁水銃は、一々キャラを作る必要など無い程度には、カッコ良いと思いますわ」

「……え?」

「では、そろそろ失礼致しますの」

 

 それだけ言うと、黒子はテレポートしてその場を後にした。カッコ良い、なんて直で言われたのが初めての体験だった非色は、しばらくそのまま動けなくなった。

 

 ×××

 

「はぁ、ただいま……」

「あら、おかえりなさい」

 

 家に戻ると、美偉が既に帰宅していた。

 

「あれ、姉ちゃん今日早いね」

「なるべく早く帰るようにしてるの。……あなた、今まで結構、遅くまで外にいたみたいだし」

「え……?」

「窓から帰って来てたんでしょ。今まで」

「あ、あはは……」

「まったく……」

 

 いろいろな嘘がバレた非色は、大量の汗をかいて苦笑いをするしかない。

 

「座りなさい。色々と話したいことがあるし、ご飯よ」

「あ、は、はい……」

 

 とりあえず、姉に言われるがまま席についた。食卓に盛られていたのは、唐揚げとお味噌汁とサラダと白米。非色の大好物ばかりだ。

 

「うまそ」

「というより、美味しいわよ」

「だよね。姉ちゃんの飯で不味かったものないし」

「ふふ、召し上がれ」

 

 話しながら、二人は食事を始めた。丁寧に挨拶をし、箸で摘んだ唐揚げをサクッと齧る。

 

「ん〜……美味い。肉汁が溢れて来る……」

「ふふ、ありがとう」

「でも、なんで急に唐揚げ? いつもは、揚げ物は面倒だって言うのに……」

「ん、非色と約束するため」

「?」

 

 何の? と眉間にシワを寄せたのも束の間、美偉は微笑みながら言った。

 

「あなたが、ヒーロー続ける上でのルールよ。保護者として、本当はそんな危ない行為、止めたい所なんだから」

「うっ……」

「まず、夕方18時までに帰宅すること」

「早いよ! そんなの何もできないよ!」

 

 それは流石に反論されると理解していたのか、美偉はすぐに代案を出した。

 

「冗談よ。夜の21時までに帰って来ること」

「そ、それなら良いけど……え、それでも早くない?」

「もうダメです。言質はとりました」

「ええっ⁉︎ ず、ずるい!」

「ヒーローなら、このくらいの罠に引っ掛かるんじゃないの……」

 

 最初に無茶な条件を否定させておいて「さっきよりマシだけどよくよく考えたらそれも無理」という条件を次に提示し、すんなりと言質を取る方法だ。

 ……とはいえ、我が弟ながら心配になるチョロさではあったが。

 

「とにかく、21時以降は認めません。そもそも、未成年はみんな21時以降の深夜の徘徊は禁じられているんだから」

「えー……」

「破ったらー……そうね、どうしようかしら……」

 

 まぁ、どんな条件を突き付けられても、実際に人を助ける為なら目の前の姉は許してくれるだろう、と何となく察していた。実際「じゃあ見捨てて良いの?」と聞けば向こうも「うん」とは言いづらいだろう。

 だから、油断していたとも言える。美偉は、常に非色の一歩先を見据えているのに。

 

「私が警備員の方に始末書を書くわね」

「はえ?」

「私には、あなたをキチンと高校入学まで育てる責任があるの。なのに、ヒーローなんてやっているのを黙認しているだけでも問題なのに、その上で夜遅くまで徘徊させてるとあったら、流石に始末書ものだもの」

「……」

 

 非色に、例え本人に「ヒーローグッズ没収」「1週間ご飯抜き」「木山先生との接触を禁止する」などと言ったところで無駄なのは美偉も分かっていた。

 何せ、逆を言えば、それは「ペナルティを負えば許される」と判断するからだ。自分がペナルティを負って他人が傷付かずに済むのなら、それはそれで良い事だ、と考えるのは分かっていた。

 だから、ペナルティを負うのも他人にすれば、非色は必ず言うことを聞く。

 

「……わ、分かったよ……」

「もし遅れるなら、キチンと21時までに連絡すること。内容によっては、21時半までに部屋に到着すれば多めに見てあげる」

 

 美偉も「20時55分に事件を見つけた場合」を込みで言ってくれていた。

 

「姉ちゃん、なんだかんだ俺に甘いよね」

「まだ条件は言い終えてないわよ?」

「え?」

「もし大きな事件に首を突っ込むのなら、必ず私に相談する事。メールでも電話でも良いから、一報寄越しなさい」

「あ、う、うん」

「それから、その力を悪用しないこと。……まぁ、あなたに限ってそれはないと思うけど、自棄になったり怒りに身を任せたりしないで、あなたが『戦うべき』と判断した時に力を使う」

「わ、分かった」

 

 とにかくスラスラと予め考えていたような内容を告げると「最後に」と美偉は念を押した。

 まだあるのか、と非色が肝を冷やしたのも束の間、その条件を聞いて、すぐに気を引き締めた。

 

「もう二度と、友達を傷つけないこと」

「……」

 

 おそらく、黒子の事を言っているのだろう。確かに、あの時に「友達やめよう」と言った時の、自分の胸の痛みも相当なものだった。

 けど、やはり断言は出来ない。もし、自分が暗部に狙われるようなことがあれば、場合によっては縁を切る必要も出て来るのかもしれない。

 ここは、前向きな返事をしておくべきだろう。

 

「……善処するよ」

「は?」

「約束します!」

 

 強引に約束させられた。満足そうに美偉は頷くと、笑顔に戻って食事を続けた。

 

「さ、食べましょ?」

「う、うん……」

 

 そのまま、姉弟で仲良く食事を続けた。

 

 


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