とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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オフの日くらいは力を抜け。

 超人兵士作成計画試験体117号……柔条否菜(じゅうじょうひな)は、超人である。超人兵士作成計画後、昏睡状態で回復の見込みがなかったことから死亡したと思われ、唯一、生き残った固法非色を除いて一番新しい被検体であった為、サイボーグにして何かに使えないかと回収された。

 が、その回収された研究所に雷が落ち、本人が電撃使いであった事もあってか、その衝撃で心臓が動き出し、たまたま同じ研究所にいた学園都市第二位、垣根帝督の能力で損傷した臓器を修復し、生き返った。

 そこから先、否菜は超人として学園都市に使われる事になった。訓練を受け、あらゆる銃器、刃物、格闘術を叩き込まれ、垣根との模擬戦を幾度と無く繰り返させられ、メキメキと実力をつけ、学園都市に存在する最高機密クラスの暗部「マッスル」として活動している。ちなみに、命名したのは否菜と垣根の二人である。

 暗部を組む以前から、垣根と意外と仲が良く、本当は「スクール」の一員になる予定であったが、基本的に一人で何でもできる否菜が入ると、スクールのメンバーにいる若干一名の存在意義がなくなり、全力で拒否されてしまったので、一人で暗部をやるハメになった。

 しかし、その実力は下手な暗部1部隊以上。垣根との模擬戦を重ねた結果、能力に対する耐性が身体に備わった上、自身もレベル3の電撃使いで隙のない人材である。

 さて、そんな否菜だが、今日は任務がない。任務がない日は、基本的にヘッドホンを首から下げて、ゲーセンで時間を潰している。特に、クレーンゲームが好きで、景品はどうでも良いが、何かを取るというのがとても楽しい。上手くはないが。

 

「……ふぅ、よし……」

 

 千円かけてようやく一つのぬいぐるみを落とし、満足していた。

 が、満足と欲望は表裏一体。もっと満足したい、と思ってさらに別の筐体に手を伸ばす。

 しばらくゲーセンでプライズを乱獲していると、ふと視線を集めていることに気付いた。横を見ると、そこにはどこかで見た気がするセミロングの少女が立っている。

 

「うわー……すごい……」

「……」

「あ、す、すみません……つい見入ってしまって……でも、すごいですね! そんなにたくさん景品取れるなんて!」

「……」

 

 少し嬉しいな、と思わないでもなかった。まぁ、その分、金をかけているわけで、決して上手に取れているわけではないが。

 

「何か、コツみたいなものがあるんですか?」

「……まぁ、少しは」

「どんな感じですか⁉︎」

 

 なんだろう、この子……と、否菜は一歩引く。初対面で大分グイグイ来る。

 しかし、だ。こうして「なんかクレーンゲームうまい!」みたいに思われるのは嫌ではない。初体験だからか、本当に嫌ではない。とても嫌ではない。

 

「……まずは、ゲーセンによってクレーンのアームの強弱が違う。片方のアームだけ強くしてたり、両方弱くしてたり、逆に両方強くしてたり。その癖を見抜くことが大切だ」

「おお……なんかカッコ良い……!」

「あとは、そもそも基本の取り方を動画とかで学んでおくこと。それ知っておかないと一生取れないこともあるし」

「わかりました!」

「そんなわけで、まずはこいつでお手本」

 

 素直に返事をされ、調子に乗り始めた否菜は、さらにスラスラと話しながら近くの筐体に100円を入れた。

 幸い、ここのゲーセンのクレーンの癖は抑えた。

 

「……ここだ」

「え、アームの片方が景品落とすとこに引っ掛かってますけど……」

「良いんだよ。引っ掛けて、もう片方は景品にかけて、アームが縮むのを利用して落とし口に寄せる」

「な、なるほど……」

「で、少しずつ寄せて……こう」

「おお……!」

 

 何度か繰り返し、最後にフィニッシュ。見事に700円で景品を獲得した。やり方を知っている割に結構かかったのは黙っておく所である。

 

「ふっ、楽勝……!」

「すごいですね……! ありがとうございます」

「すごい? 知ってる。当たり前のことだ」

「よっ、日本一!」

「それどころか世界一……!」

 

 なんてやってる時だった。ふと我に返った否菜は、ピシッと固まる。自分は一体、何をテンション上げているのか、と。

 裏の人間は表の人間に関わり過ぎてはいけないのは当然だというのに。

 

「……」

「って、急にどうして方向転換を⁉︎」

 

 唐突に回れ右して、景品も取らずにゲーセンの出口に歩き始める否菜の後を、慌てて少女は追った。

 

「ど、どうしたんですか⁉︎ 私、何かしちゃいました?」

「別に」

「ど、どうかしたんですよね? だって……」

「気にするな。そしてついて来るな」

「で、でも……」

「殺すぞ」

 

 ジロリ、と睨まれる。その瞳からは、冷酷な殺意が異常なほど放たれていた。まるで、今まで何人もの人間を平気で殺して来たような、そんな目だ。

 流石にそんな目で見られれば、少女も引き下がるしかない。

 一歩引いて、小さく項垂れる少女を眺めて、否菜はゲーセンから出て行った。少し、迂闊だったと自省しながら。

 が、すぐに引き返す羽目になる。景品を忘れていた。

 取りに戻ると、なんかさっきまで一緒にいた少女が二人の男に絡まれていた。

 

「さっき、なんか男にふられてたっしょ?」

「俺達ならあんな思いさせないって」

「い、いえ、あの……」

 

 見捨てても良かったが、話の内容的に自分にも責任があるようなので、助けてあげることにした。

 

「おい」

「え?」

「あ? あ、お前さっきの……!」

「退け。殺すぞ」

 

 威圧的に言うと、殺気に気づいたのか男二人はそそくさと退散した。その背中を眺めながら、否菜は少女の横を通り過ぎる。

 

「あ、あの……!」

「礼はいい。忘れ物を取りに来ただけだ」

「え?」

 

 言いながら、否菜は少女の横を通り過ぎ、クレーンゲームから景品を取り出した。両手いっぱいの袋には、もう景品は入らない。

 なので、小脇に抱えることにした。ゲコ太のぬいぐるみを。

 

「あ、あの……!」

「なんだよ」

「そのぬいぐるみ、私の先輩が好きな奴で……せっかく見つけたし、取ってあげたいんですけど……」

「取れよ」

「と、取れる自信がないんです! やり方を教わったとはいえ! だから見てて下さい!」

「……」

 

 面倒なことをほざき始めた。というか、なんか勝手に親近感のようなものを芽生えさせているんじゃないだろうか? 

 さっき、殺意の波動をぶつけられたばかりだというのに、なかなかのメンタルである。

 色々と面倒くさい空気を悟り、もうさっさととらせてやることにした。

 

「分かった。見ててやるから早くしろ」

「やった! ありがとうございます!」

 

 無駄な時間を過ごすことになるが、元はと言えば自分が撒いた種と言えなくもないので、とりあえず気にせずにクレーンゲームを眺める。

 

「あ、私は佐天涙子って言います!」

「……山田太郎だ」

 

 暗部に名乗るなよ、と思いつつ、とりあえず偽名を名乗っておいた。

 

 ×××

 

 早く終わらせるためならば、多少は献身的になっても良い。そう思い、リングの横に立つコーチの如きサポートを始めた。まぁ、そんな事をすればどうなるかは普通なら分かるものだが。

 で、大体、30分が経過した頃、ようやく……ようやく景品をゲットした。

 

「「よっっっしゃあああああああ‼︎」」

 

 再びゲーセンモードに戻っていた否菜は、佐天と仲良くハイタッチしていた。思いの外、時間が掛かったのは、割とミステイクも多かったからだ。

 

「……やっと一つ取れたー……」

「お前が下手くそだからだろ。本当なら700円で取れてた」

「あ、ひどい! 山田さんだって間違ったアドバイスしてたくせに!」

「うるせーよ。俺は間違って良いんだよ。第一、俺の金でもないし」

「このー!」

「喧しい」

 

 佐天のヘロヘロパンチを回避し、デコピンを放った。思わぬ威力に、思わず尻餅をつく佐天。

 

「ったいなー……」

「先に仕掛けてきたのはお前の方だ」

「そんな硬く捉えなくても……まぁ良いや。それより、連絡先、教えてもらえませんか?」

「あ?」

「また一緒にゲームしたいので!」

「……」

 

 そこで、ようやくハッと正気に戻った。まさか、こんな短期間で同じミスを二度もすることになるとは思わなかった。自分もつくづく学習能力がない。

 だと言うのに、不思議とそれを拒否する気にはなれなかった。もしかしたら「楽しかった」なんて思ってしまっているのかもしれない。

 幸いというかなんというか、プライベート用と仕事用の携帯は使い分けている。

 

「……良いだろう」

 

 まぁ、今日が終われば連絡先だけ交換してシカトを決め込めば良い。そう決めると、アドレスだけ交換して別れた。

 肩まで伸びた黒い髪を揺らしながら走って帰宅していく少女の背中を眺めながら、自分もゲーセンから離れて行った。

 自宅でありアジトでもあるマンションに帰宅しながら、ボンヤリと空を眺める。

 

「……」

 

 良い子だった。自分が普通じゃないのも分かっていただろうに、普通に接してくれて、その上で一緒にいて楽しかった。こんなことは初めての経験だ。

 いや、そもそも他人と遊ぶ事自体が初めてかもしれない。精々、垣根とたまにラーメンを食べに行くくらいだ。

 だから「楽しかった」なんて感情自体が初めてかもしれない。

 

「……ちっ」

 

 だが、所詮自分は暗部の人間。あの子と関わり合って良いはずがない。どこかで会った気がしないでもない奴だったが、とにかくそんなのは気にしている場合じゃない。

 楽しかったは楽しかった。が、向こうにどんな思いをさせたとしても、必要以上に関わるべきではない。何故なら、結局悲しむのもあの女の子の方だから。

 

「……必要とあったら、殺すしかないか……」

 

 そう心に秘めた直後だ。携帯に電話がかかって来た。仕事用の携帯の方だ。直後、脳内でスイッチが切り替わったように目の色が変わった。いや、目の色だけではない。脳内の思考も殺し屋用の冷徹な顔へと変換し、声音すらも変えて声を掛けた。

 

「仕事か?」

『ええ、その通りです』

「詳しく聞こう」

 

 まるで従順な犬になったかのような態度で声を掛けると、そのままの足で近くの路地裏に入り、ジャンプする。ビルの屋上に立つと、首から下げているヘッドホンを装着する。それにより、目、鼻、口を覆うようにカーボン製のヘルメットが出現し、顔を覆った。

 それと共に、上半身のシャツを脱ぎ捨てた。その下から出て来たのは、仕事用の戦闘服(夏仕様)だ。

 

「……了解した」

 

 任務を受諾し、一気にその場から姿を消した。

 

 


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