とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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強者を引き寄せる体質。

 もうすぐ夏休みも終わり、そんな時期だが、夏休みの宿題など秒で終わらせた非色は焦る様子を一切見せなかったので、美偉としては可愛げがなかった。というか、学力だけ見れば自分よりも賢いんじゃないか、と思える。

 そんな非色だが、今日は勉強会に参加していた。自分の勉強は終わっているが、同級生はそうとは限らないのだから。

 

「もおおおお! 夏休みなのに宿題出過ぎー!」

「……だから手伝ってるじゃん……」

「なんで非色くんは終わってるの⁉︎ ずるい!」

「ごめんね。優秀で」

「むかつくー!」

 

 からかいながら、佐天と二人で木山の研究所にて勉強していた。

 

「ていうか、どうして俺なの?」

「御坂さんや固法先輩は学年違うし、白井さんは『宿題は自分でやりなさい!』って言いそうだし……」

「初春さんは?」

「言ったんだけど……『スカートめくらないって約束するなら手伝ってあげます』だそうで……」

「え、いつもスカートめくってるの?」

「え? うん」

 

 そんな「当然」と言わんばかりに返事をされても、非色としては困るばかりであった。

 

「あ、もしかして……目の前でめくって欲しい?」

「え、いやそんなことは……!」

「良いよ? 何なら、白井さんのでも」

「えっ……あ、いやだからそんな事ダメだって……!」

 

 ニヤニヤしながら迫られ、非色は目を逸らす。佐天にとっても、こんな純情な少年が未だにヒーローだなんて信じ難かった。

 良い機会だし、非色があんまりにも有能過ぎて宿題の進みがえげつない事を加味して、聞いてみることにした。

 

「ね、非色くん」

「な、何?」

「ぶっちゃけ、いつもつるんでるメンバーの中で誰が一番好き?」

「え……み、みんな良い人だと思うけど……」

「そういうんじゃなくて……誰が、女の子として好き?」

「え、女の子って……」

 

 グイグイと攻められ、非色は慌てて後ずさる。

 

「あるでしょ、そういう……好みみたいなの。見た目でも中身でも良いからさ」

「な、ないよ」

「あるでしょ、そういう好みみたいなの。見た目でも中身でも良いからさ」

「やり直し⁉︎」

 

 正しい選択肢を選ばないといけないのか、と非色は冷や汗を流す。

 

「本当に、無いよ。そもそも……俺は人のこと言える容姿じゃないし……」

「そんなことないよ! 可愛い顔してるよ! ……筋肉を見ると、少しアンバランスだけど」

 

 実際、歳の割には幼い顔をしているが、身長は中一にして160センチを超え、服を脱いで力を入れれば大胸筋、腹筋、背筋が全て剥き出しになる。間違っても、去年までランドセルを背負っていた学生の身体ではない。

 

「と、とにかく俺に好みとかそういうのはありません!」

「むー……強情な……」

「ていうか、勉強は?」

「後で!」

 

 人を勉強に付き合わせておいて、この言い草である。まぁ、困っている人間を助けると思えば嫌な気はしないが。

 

「……でも、本当に好みとか……考えたことも無いから」

「えー、面白くなーい。強いて言うなら?」

「う、うーん……」

「じゃあ、まず髪型!」

「髪型……うーん、長い方が良い、かなぁ……」

 

 朧げに、何となく惹かれる人を思い浮かべる。

 

「茶髪で髪が長くて、それを束ねてて……」

「白井さんじゃん」

「ち、違うよ!」

「身長は自分より低くて、体型は年相応で、元気な子がタイプ?」

「うん、まぁ……」

「白井さんじゃん」

「だ、だから違うって!」

 

 そもそも、初恋が分からない非色にとって、好みの女の子とか、可愛い子はどんな子か、とか分からない。そんな話を急にされても、戸惑うばかりだ。

 

「た、確かに笑顔は素敵だし……そ、それに可愛……き、綺麗とも思うけど……で、でも……」

「うん、もう無理だよ。認めよう? 好きなんでしょ?」

「やだ!」

「やだって言っちゃってるし……」

 

 呆れ気味に「やれやれ……」と佐天はため息をつく。何故そこまで意地を張るのか、と不思議なくらいだ。

 

「何より……俺みたいな化け物に好きになられた所で、白井さんは困るだけでしょ……」

「バケモノ?」

「ほら……その、何? 普通の人ではないじゃん」

「……」

 

 実際、生物兵器のようなものだ。学園都市に利用されないのが不思議なくらいだ。

 少なくとも、非色と一緒にいても先は無い。高校でも、大学でも、社会人になってもヒーローは続けるつもりだし、仮に付き合ったとして、ヒーローが理由で二人きりのデートの時も途中で抜けてしまうかもしれない。

 危険も多く付き纏うし、心配も掛けさせる。友達として付き合う分にも少し、負い目を感じているというのに。

 しかし、佐天はそんな非色に対し、あっけらかんとした表情で聞いた。

 

「そんなの、誰も気にしてないよ?」

「え?」

「……ていうか、さっきすこーしからかっただけでドギマギする人を、化け物だなんて言われてもなぁ……」

「うっ……」

 

 それはその通りだ。少々、異性に対する耐性が無さすぎる。万が一にもハニートラップなどがあった時には……。

 

「……ちょっと不安だなぁ」

「? 何が?」

「いや、別に。さ、勉強に戻ろう」

 

 明らかに何か企んでる表情のまま、とりあえず勉強に戻ろうとペンを持った。そんな佐天に、非色が少し不安げに声を掛けた。

 

「……あの、本当に超人って……その、ペナルティーにならないと思う?」

「え?」

「……」

 

 それが、恋愛のことを言っているのか、友情に関する話なのかはわからない。いや、話の流れ的には恋愛の話でないとおかしいが、非色に限って言えば頭が色々とおかしいので友達間に関する話である可能性も否めなかった。

 何であれ、その質問は少し可愛らしさを感じてしまった。

 

「大丈夫だよ。少なくとも、私も白井さんも、初春も御坂さんも何も思わないって」

「……そ、そっか……」

 

 嬉しそうに微笑むと、そのまま勉強を続けた。

 

 ×××

 

 勉強会を終えた非色は、そのままヒーロー活動に向かい、佐天は一人で帰宅していた。

 そんな中、携帯が震え、メッセージを送信した相手との待ち合わせ場所に向かい、今に至る。

 

「あ、あの……佐天さん。私はどうしたら良いのでしょう……非色くんと……」

「……」

「やはり、その……この気持ちは、恋心と表現しても差し支えないのでしょうか……」

 

 面倒臭い、と思わないでもなかった。なんで私に相談するの? と。

 もう面倒なので、さっさと真実を告げることにした。

 

「……どういう事です? 今更」

「い、今更ってなんですの⁉︎」

「いや、今更でしょう。あんなにわかりやすくて……」

「んなっ……⁉︎」

 

 カァッと顔を真っ赤にする黒子。本来なら友達同士の恋愛とか興味津々だが、今日は少し疲れた。さっきまでその相手と勉強をしていたのだから、尚更だ。

 

「ど、どういう……!」

「いや、もう良いんで、そういうの」

「テキトー過ぎではありませんの⁉︎」

「ていうか、なんで私に聞くんですか?」

「だ、だって……佐天さんは、その……そういう殿方との経験も、多くありそうですし……」

「いや、全然そんなことありませんけど」

 

 普通に話したりすることができる程度で、彼氏なんていたこともない。

 

「ていうか、そんな相談されても、私は白井さんが非色くんとどうなりたいのか分かりませんし……」

「私は別にあの男とどうこうではなく、あの男と一緒にいる時に発生する胸の痛みをどうにかしたいだけですの!」

「告れば良いじゃん」

「コクっ……⁉︎」

「だって好きなんでしょ?」

 

 もう投げやりとも思える口調に、黒子は腹を立てつつも何も言い返せない。つい先日、ツンデレ先輩にも「素直になれ」と言われたばかりなこともあって、否定しづらかった。

 

「……す、好きというか……放っておけないというか……別に、恋人になりたいとも思っていませんし……私は、今のままでも……」

「ふーん……まぁ、白井さんがそう言うなら良いけど……でも、非色くんの方から告白して来たらどうするんですか?」

「非色さんから、告白……?」

「え?」

 

 急に目の前から怒気を感じた。何をそんなに怒る事があったのか……なんて思った時には遅かった。

 黒子は、自分に捲し立ててきた。

 

「あの男、この前私になんて告白したか分かっていて仰っていますの?」

「え、告白されたんですか?」

「『女性の中では一番好きです、お姉ちゃんと同じくらい』だそうで」

「え、ええ……」

 

 さすがの一言に、佐天も大きく引いた。

 

「お姉ちゃんと同じって……」

「もう少し言い方があると思いません⁉︎ あの告白……今、思い出しても腹立たしいですわ!」

「うん、それは、うん……」

 

 佐天も、同情するように頷いた。その口説き文句はない。それと共に、非色が黒子のことが大好きであることを察した。あの子的には、一番の口説き文句であったのだろう。

 

「でも……もし、もしだよ?」

「はい?」

「非色くんに、もし恋人が出来たら、少しは無理とかしなくなると思うけどなぁ……」

 

 それを聞くと、黒子は顎に手を当てる。確かに、心配になる面は多々ある。少し前だって、片手を無くしてきた所なのだ。

 そのことを知らない佐天だが、非色がヒーローということを知れば、今までAIMバースト、テレスティーナを相手にしてきたという事になる。中々に無茶苦茶をして来ていたので、少しは無理してもらうのはやめて欲しい所だ。

 

「……」

 

 そのためならば、少し考えてみよう、そう黒子は思い、飲み物を口に含んだ。

 

 ×××

 

 その日の夜、非色は時間ギリギリまで活動するため、今日も元気に夜の街を跳ね回っていた。

 そんな時だった。コンビニ前で廃材や金属バットを持った男達が誰かを囲んでいるのが見えた。非色が足場にしている街灯からは被害者の姿は見えないが、明らかに穏やかな雰囲気では無い。すぐに加勢することにした。

 

「よぉ、最強」

「お前、どっかの無能力者にのされちまったらしいな?」

「君達も無能力者にのされるんだよ?」

「「「あ?」」」

 

 頭上から声が聞こえた直後、先頭にいた男が蹴散らされる。

 

「なっ……て、テメェは⁉︎」

「どうも。……あ、いや違くて……えーっと、わ、我は貴様ら悪事を働かんとせし者どもを打ち砕……」

「死ねオラァッ‼︎ 邪魔すんな!」

「危なっ⁉︎ 人が話してる時に殴りかかって来ない!」

 

 別方向からの廃材による殴打を右手で受け止めつつ、左手の平から液が射出され、後方に吹き飛ばされた。それにより、さらに後ろの男も巻き込んで倒れる。

 手に残った廃材を、さらに別方向の敵に投げ付け、さらにバウンドさせ別の敵をダウンさせ、敵の群れが怯んだのを確認すると、距離を詰めて群れの真ん中に入った。

 一人の方に飛び蹴りを放つと同時に踏み台にし、別の敵に蹴りを放つ。そのまま数十人いた敵を一瞬で制圧すると、最後に華麗に着地し、後ろにいた少年に声を掛けた。

 

「さ、終わったよ。大丈……じゃない。無事かい? 少年」

「よォ」

「あっ……」

 

 襲われていたのは、一方通行。学園都市最強の能力者であった。マスクの裏で、大量の汗をかき始めた。

 

 


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