とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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寛容さは時に狂気を感じる。

「待ちやがれコルァアアアアッッ‼︎」

「絶対に待たないいいいいいッッ‼︎」

 

 全力で追う一方通行と、全力で逃げる非色。前方を走る非色は街の中のダッシュを人とぶつかる前にビルの壁に飛び移り、壁を走る。

 その後ろを一方通行は能力を使い、空を飛んで移動する。背中に風を操った翼で後を追った。

 移動しつつもクレバーな一方通行は、移動しながら非色に狙いを定める。実験のバックアップがない今、下手に街を破壊するわけにはいかない。

 そのため、人とビルの少ない場所で攻撃を開始する。

 目の前の非色はビルの壁を蹴って反対側のビルに移り、左手から糸を出して屋上にくっ付けると、一気に屋上まで跳ね上がった。

 

「チッ……!」

 

 垂直への移動。真後ろをつけていた身としては面倒だ。だが、奴と違って自分は能力による飛行。演算さえ間違えなければ、急上昇も簡単な話だ。

 グンッと空に跳ね上がり、マンションの屋上に登り切って前を見ると、非色の姿は無かった。

 

「……」

 

 さて、これからどうするか。弱者になった事のない一方通行は、ヒーローの思考をトレースし、自分が追われる立場ならどう動くかを想像した。

 夜の街は足音が響きやすい。特に、ビルとビルの間の路地裏などは、音が反響してよく聞こえる。自身の耳に音による振動が届けば、そこから逆算して位置が割れる。

 その事を、あの小賢しい非色が知らないはずがない。つまり……。

 

「……よォ」

「……」

 

 ビルの淵に掴まってやり過ごそうとしているのはすぐに分かった。

 

「あ、あはは……」

「テメェに用があ……」

「あ──────!」

「……ア? あ、テメェっ……!」

 

 後ろを指差され、なんとなく見てしまったのが運の尽きだった。逃げられた。

 そこからまた、鬼ごっこ再開。

 非色の背中を追っている中、一方通行は奥歯を噛み締めた。この構図、気に喰わない。何故、そもそも自分はあの男を追っているのか。

 あいつとツンツン頭の奴らにやられてから、自分の様子はどこかおかしくなった。

 絡んできた奴を殺さずに逃したりと、とにかく今までの自分とは思えない事をするようになった。

 

「……チッ」

 

 そんな自分が、何故だか無性にイライラする。腹立たしい事この上ない。何故かは分からないが、とにかく苛立ちが酷い。苛立ちが酷いのに他人をボコボコにする気にもならず、その矛盾が尚更、一方通行を苛立たせていた。

 とにかく、自分をこんなんにしたのはあのツンツン頭と目の前のヒーローだ。責任は取らせる。

 そんな中、目の前のヒーローは公園に降りた。人の姿は見当たらない。つまり、足を止めるなら今だ。

 

「待て、っつってンだろォがッ‼︎」

「ふおおおおおおおおおおお‼︎」

 

 背中の翼を叩きつけた。小さな竜巻が振り下ろされ、慌ててダイビングして回避するヒーロー。前方に転がりつつ、両手を地面につけ、跳ね上げて近くの街灯の上に乗った。

 

「ち、ちょっと! この前そんなんしてなかったじゃん!」

「負けりゃ新技くらい考えるに決まってンだろ!」

「意外と可愛い事言うね」

「殺されてェのかテメェ⁉︎」

 

 怒鳴りながら、一方通行も地上に降り立つ。

 ポケットに手を突っ込み、ジロリと自分を見上げて来る様子から攻撃して来そうな空気は感じない。……が、そもそも能力的に、例え両腕がなくても100を超えるパターンの攻撃を生み出せるので、油断はできない。

 

「テメェに話があるっつってンだろ」

「は、話……? 辞世の句的な?」

「違ェっつの。……とはいえ、頭上で会話させられンのも腹立つけどな。降りて来い」

「え、あ、うん。分かった」

 

 あっさりとヒーローはその場から降りて、自分の前に立った。

 

「えっと……何? 拳で語り合う的な話?」

「違う」

「俺としてはもうあんたと話すことなんか無いんだけど……」

「ア? ……てか、テメェだってオレに言いてェことあンじゃねェのか」

「? 無いよ?」

「……」

 

 この男は、自分に片手を引きちぎられた事を忘れているのだろうか? いや、ヒーローとしての矜持が、無理をさせている可能性も否めない。目の前のこいつは、少なくともただのコスプレ野郎では無いのだから。

 

「で、話って何?」

「……」

 

 話、とは言ったものの、まだ何を言えば良いのか定まっていない。まさか「お前の所為で雑魚を蹂躙する気も起きなくなった」なんて言えない。言えば、またバトルが始まる。

 それはそれで構わないが、今の自分には目の前の男を相手にする気力が無い。何とか、頭に浮かんだ言葉を絞り出した。

 

「……てか、テメェなンで足を止めた?」

「え、止めさせた癖に何言ってんの……?」

 

 この言い草は頭に来るが、今はとりあえず無視する事にした。

 

「そうじゃねェ。殺されると思わなかったのか」

「いや、だって……公園で力を使ってきた割に、追いかけて来てる時は仕掛けて来なかったし……なんか前と違うなって思って。戦うにしても戦わないにしても人気の少ないとこに行かないといけないから、この公園に出るわけにもいかないし……」

 

 戦うことも可能性として置いておいた上で、自分をここまで誘導してきていたようだ。本当に頭悪いことをしているのに頭が悪く無いよく分からない奴である。要するに、読めない男だ。

 そんな中、非色はふと思い出したように「あっ」と声を漏らした。

 

「そういえば、一方通行って友達が欲しかったんだっけ? なんか、こう……誰も傷つけたくないとか何とか……」

 

 デリカシーの無さは、一方通行の能力を貫いた。プチッ、と何かが切れた一方通行は、その場で足元に能力を使用する。

 甲高い耳に響く音と共に足元はひび割れ、一方通行を中心に亀裂が走る。ヤバい、と思った非色は足元からの奇襲を警戒したが、本命は一方通行の竜巻のような翼だった。

 

「現代アートみてェになりやがれ‼︎」

「あああああああああ……!」

 

 思いっきりぶっ飛ばしてやった。多分、あの程度では死にはしないだろうが、追撃をする気にもならなかった。ただし、次に遭遇した時はブッ飛ばす。

 そう誓いながら、とりあえず帰宅する事にした。随分と無駄な時間を過ごした気がする。

 その場でクルリと背中を向け、自分の暮らしているマンションに向かおうとした時だ。

 

「おーい……おーい!」

「ア?」

 

 近くを見渡すと、ボロボロの毛布に身を包んだ幼女が、自分に大きく手を振っていた。

 

 ×××

 

 天井亜雄は、半ば自暴自棄になっていた。元々は量産型能力者計画の責任者であったが、その実験は失敗に終わり、その後は絶対能力進化実験にも参加していたが、どっかの無能力者とヒーローのおかげで計画は台無しになり、このままでは自身の身の危険を感じていた。

 ならば、残った妹達と「最終信号」を使い、外部組織を利用してクーデターを起こそうと考えていた。

 だが、その最終信号に逃げられ、現在は足取りが掴めなくなっている。そのため、プロに仕事を依頼することにした。

 

「君が『マッスル』の構成員で良いんだな? ……マッスルってなんだ?」

「御託はいい。仕事はなんだ」

 

 目の前に立っている、怪しげなマスクとスーツを着た男に声を掛けたが、つれない返事が返される。

 

「この少女を、連れてきてくれ。ギャラはその時に払う」

「……手段は問わなくて良いんだな?」

「ああ、任せる。期限は8月31日……つまり、明日の夜までだ。……なるべく、目立たないように頼む」

「了解した」

 

 それだけ言うと、その男はすぐに施設から姿を消した。割と無茶苦茶な注文であった気がしないでも無いが、それでも文句一つ言わずに了承する姿は、天井にとってとても頼もしかった。これから、何が起きるか知りもしないというのに。

 

「ふっ……所詮は学園都市の犬だな」

 

 そう呟いて、自身も自身のすべき事を進めた。

 

 ×××

 

 最終信号……打ち止めに勝手についてこられた一方通行だが、特に追い払うこともせずに、そのまま自分の部屋で一泊することになった。

 目の前で寝息を立てる、妹達の中でも一際、若い少女を見て、一方通行はため息をついた。

 聞いた話通りなら、目の前の少女だって妹達の一人だ。ならば当然、自分が何をしてきたのかも分かっているはずだ。

 

「……チッ、ったく……なンだってンだ……」

 

 そもそも、追い出していない現状が分からない。さっさと叩き出しておけば良かったのに、何故、部屋に泊めているのだろうか? 

 妹達への贖罪のつもりなのか、それともヒーローやツンツン頭の真似事でもしたくなったか。何にしても、そんな自分に反吐が出る。

 今日だって、あの男に直球で言われた事がやたらと頭に残り、八つ当たりしてしまった。まるで、図星を突かれて激情に駆られたように。何であれ、今の自分はかなりみっともない気がしてならない。

 そもそも、あのヒーローは何なのだろうか? 普通、手を千切られた相手とまともに話そうなんて思えるのだろうか? 自分なんかより余程、イカれている気がする。

 

「……」

 

 だが、あの男なら、自分と……なんて、思った時だ。パリン、とやけに小気味良い音が響いた。

 

「アン?」

 

 顔を向けると、窓を割って自身の部屋に転がって来ていたのは、一つのグレネードだった。いや、形が普通のグレネードとは違う気がする……。

 なんて思った直後、その予想はピタリとハマった。玉の中から、白いガスが漏れ出した。

 

「チッ……何処のバカだ……!」

 

 何者か知らないが、消しに現れたようだ。その対象が自分なのかこのチビなのかは分からないが、どちらにせよ、催涙弾なんて撃ってくるような相手はロクなもんじゃない。スキルアウトとは別の意味で。

 空気のベクトルを変えて催涙ガスを一気に窓から追い出した。が、その後に続いて、さらに2個、3個とグレネードが飛び込んで来る。

 

「チッ……」

 

 自分は問題無いが、近くで寝ているアホ毛チビは別だ。仕方ないので、ため息をついてあほ毛を持って撤退することにした。

 

「おい、起きろチビ」

「えっ……って、毛布を取らないでええええ! もしかして、あなた意外とロリコンさん?」

「殺すぞ。早くしろ」

「せめて毛布だけ持って行かせて〜!」

「……チッ」

 

 舌打ちをして、仕方なく一方通行は打ち止めと毛布を担いで部屋を出て行った。

 

 ×××

 

 グレネードランチャーを構えた、暗部組織「マッスル」唯一の構成員、柔条否菜は、携帯を取り出した。通話先は、依頼人の天井だ。

 

『もしもし?』

「おい、一方通行が護衛なんて聞いていないぞ」

『な、何? 一方通行だと? 何故だ!』

「俺が聞いている」

 

 どうやら、向こうも把握していなかったようだ。なんであれ、現状の報酬では割りに合わない。

 

「報酬は倍だ。増えた分は前金として、今すぐ口座に振り込め」

『チッ……分かった』

 

 携帯で送金されたのを確認すると、電話を切って再び追跡を始めた。一方通行を倒せ、なんて無茶な依頼でない限り、何とかなると踏むしかない。

 

 


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