とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

54 / 97
短気は損気。

 一方通行は毛布に包んだ打ち止めを抱えたまま、マンションから飛び降りた。

 

「ちょっー! ミサカに何をするつもりなのー⁉︎ ってミサカはミサカは……!」

「黙ってろ!」

 

 さて、ここからどうするか。奴らが一人で挑んで来ているとは考えにくい。ならば、建物の中に身を潜め、ゲリラ戦で一人ずつ減らしていくのがセオリーだ。

 が、それは普通の人間同士の場合だ。広域殲滅を容易くこなす一方通行にとっては、むしろ開けた場所で待ち受けた方が良い。

 

「ど、どこまで行くの〜⁉︎」

「舌噛むから黙ってろ」

 

 そう言いつつ、高速での移動を開始する。序盤での催涙弾以外で、武器を使用してこない。つまり、一方通行の能力を把握しているということだ。それが、二丁水銃のように反射を攻略する程、把握しているかは分からないが、それくらいは想定しておくべきだろう。

 開けた場所は、一番近くだった河原まで来た。ここならこの時間は人通りも少ないし、多少は派手にやっても問題はない。掛かってくるなら返り討ちにしてやる所だ。

 

「ね、ねぇ……そろそろ寝てる乙女をこんな人気のない所に連れて来た理由を説明して欲しいかも……って、ミサカはミサカは不安げに尋ねてみたり……?」

「黙ってろ。……それと、絶対に離れンな」

「と、突然の告白⁉︎ わ、悪く無いけど……ミサカとしてはもう少し男らしい人に惹かれてみたい……それこそ、あの途中でイメチェンしたヒーローさんみたいに……なんてミサカはミサカは腰をくねくねさせながら……」

「次喋ったらダイビングさせンぞ」

 

 川を促され、打ち止めは慌てて両手で口を塞ぐ。

 さて、何処から仕掛けて来るか。大した使い手のようで、気配も足音も一切、掴ませない。僅かにその場を照らす外灯だけが、影を揺らしていた。

 直後、パキンッと音がした。それと共に、外灯の明かりが消える。

 

「……そう来やがるか」

「っ……!」

 

 わっ、何何? ってミサカはミサカは混乱してみる! と言いそうになったが、川に投げられるので慌てて口を塞いだ。

 さらに狙撃が続き、川沿いの灯りが次々に消えて行く。この暗闇に乗じて仕掛けて来るつもりだろうが、例え自分を殴る物が超業物の刀であっても傷一つ負わせられない。

 打ち止めはキチンと近くにいるし、暗闇に目も慣れてきて、何があっても対処は可能だ。

 そう思っていた直後だった。ジッ、と唐突に前方にフラッシュが発生する。

 

「アアッ⁉︎」

 

 そのフラッシュの最中、一瞬だけ視界に映ったのは、暗殺者のマスクだった。

 

「ダレだ、テメェ?」

「お前に用はない」

 

 そう言った直後、隣から「ひゃっ!」と声がすると共に、ダンッと大きく踏み込んで遠くにジャンプしたような音が聞こえた。

 

「! 打ち止め!」

「さ〜ら〜わ〜れ〜る〜……!」

 

 あっさりと連れ去られてしまった。油断があったとはいえ、完全に気配を消すスキルの高さ、全てが自身の想定を超えていた。

 

「チッ……」

 

 所詮、自分は悪党。誰かを助けるなんて出来やしない。特に追うこともせずに、チカチカした目が元に戻って来たので、部屋に戻ることにした。

 土手沿いに上がり、帰路につこうとした所で、ふと近くを見覚えのある奴が通る。

 

「……えーっと、この辺?」

「はい。この辺りで、ミサカの中でも一番、大事な個体が連れ去られています。と、ミサカは焦りを表に出さずに助けをこいます」

「って言われてもなぁ……見つけるから、お願いだから姉ちゃんに一緒に謝ってよ?」

「……ダサいヒーローですね、とミサカは本音を露わにしつつ鼻で笑います」

「やかましい!」

 

 見覚えのある二人組だった。というか、あのヒーローはまだ帰っていなかったのか、とため息を漏らす。

 ちょうど良い。あの個体について詳しくは知らないが、任せるならヒーローだろう。

 

「オイ」

「? げっ……あ、一方通行……!」

 

 失礼な反応をしつつも、ヒーローは御坂妹を庇うように前に出た。殺すつもりがないと分かっていても、トラウマがフラッシュバックする可能性もある。 相変わらず甘いヒーローだが、そういう奴ほど利用しやすい。

 

「あのチビを探してんのか?」

「どのチビ?」

「はい。ミサカ達の司令塔とも呼べる個体です」

「そいつなら、さっき変な仮面をつけた野郎に連れて行かれた」

「……え?」

「方向までは暗くて分からなかった。後はテメェが何とかしろ」

 

 言われて、非色はマスクの機能を使う。熱源感知で付近を見渡すと、近くで幼女を抱き抱えて移動している男の姿が見えた。

 

「……いた。ちょっと行って来る!」

「見つけたのか?」

「一方通行は……あ、いや、なんでもない」

 

 御坂妹さんをお願い、と言おうとしたのを堪えた。今の所、トラウマが再発している様子は見えないが、元々、表情が読み取りにくい子なのだ。無理している可能性は否めない。

 

「よし、一緒に行こう。御坂妹さん」

「え、一緒に、ですか……?」

「着いたら近くに隠れてて。終わったら病院まで送るから」

 

 明らかに無理をした意見に、一方通行は小さくため息をついた。この男は何処まで自分だけで背負うつもりなのか、と。

 

「チッ、バカが……」

「え、な、何?」

「こいつはオレが病院まで送る。それでイイだろ」

「え、でも……」

「ミサカなら問題ありませんよ」

 

 懸念のある御坂妹の方を見ると、頷いて返事をする。

 

「……じゃあ、頼むよ? 何かしたら、一方通行。ボコボコにするから」

「ハッ、やってみやがれ」

 

 それだけ言うと、非色はその場から立ち去った。その背中を眺めながら、一方通行は自宅に向かう。病院とは正反対だ。

 

「? 送っては下さらないのですか? と、ミサカは正反対の方向に歩き出すあなたの方向音痴説を疑います」

「バカ言え。テメェだってオレに送られる義理はねェだろ」

「しかし、あなたが……」

「どンな神経してやがンだ。テメェ、オレが怖くねェのか?」

 

 言われて、御坂妹は小さく俯く。ほら見たことか、と思った一方通行は、もはや結論は出たと言うようにその場で背中を向けて帰ろうとした。

 

「確かに、怖く無いと言えば嘘になります」

「そォかよ。じゃあな」

「しかし、それでもあなたと対峙した際の状況を思い浮かべます。毎回、あなたは私を脅すようなセリフを言っていました。まるで私に『やめて』と言わせるように」

「……」

 

 足を止めてしまう一方通行。それに、続けて御坂妹は言った。

 

「そもそも、ミサカ達はあなたがいなければここに存在しませんでした。あなたのお陰で、ミサカは日々を生活出来ています。……だから、ミサカもあの助けてくれたヒーローを見習い、恐怖心を振り払って、あなたとのコミュニケーションを望みます。……と、ミサカはとりあえず知ったかぶりのボクシングスタイルで構えてみます」

「……チッ、ウゼェ野郎だ」

 

 それだけ吐き捨てると、一方通行はまた180度回転した。歩き出したのは病院の方角だ。

 

「前まで送るだけだ。そこから先は自分で帰れ」

「ありがとうございます。……と、ミサカは素直じゃないあなたの脇腹を突……」

「ダイビングさせんぞ」

 

 黙ってついて行った。

 

 ×××

 

 打ち止めを追跡する非色は、バイクで移動するマスクの男の後を追う。街の屋根の上を飛び跳ね、ショートカットを繰り返しているにも関わらず、簡単に追いつけない。

 つまり、こちらの動きをさらに先読みされている。逃げ慣れているのか、それとも単純に賢いのか。

 

「……ゴリ押しじゃ無理そうだな」

 

 ならば、知略には知略である。あの男の狙いが単なる誘拐なのかは知らないが、自分でも追いつけない程の知能を持って移動しているやつが誘拐なんてバカな真似をするとは思えない。

 つまり、暗部の誰かと見るべきだろう。仮にこの前のアイテムのような連中が相手なら、奴らの協力者と能力を警戒した上で「暗部ならヒーローである自分からどう逃げるか」を考えた方が良い。

 ここまで逃げ切れている以上、こちらがヒーローとバレている前提で動いているのなら、ヒーロー対策のつもりで動いているだろう。

 二丁水銃は人との衝突事故を防ぐため、地上を走らない。その代わり、空中を移動するからショートカットも信号も効かない。

 つまり……。

 

「こっちか……!」

 

 信号が少なく、建物も無くて人が通る場所……つまり、駅前やバス停付近がベストだ。夜とはいえ、まだ21時過ぎ。夜遊びが好きな学生や、研究所帰りの研究者達もいる。

 次に通りそうな場所の先読みを完了すると、移動を開始した。

 

 ×××

 

「……?」

 

 後ろからバカ正直に追ってこないところを見ると、手段を変えたようだ。

 一応、打ち止めは薬で眠らせている。暴れられることはないと思うが、騒がしい娘だし、起こしておく方が面倒臭そうだ。

 さて、奴はどう来るか。待ち伏せか、道を塞いで誘導して来るか、或いは……。

 いや、なんであれ備えておけば奇襲を凌げる。そう身構えながら、駅付近のトンネルを潜った時だ。

 

「っ?」

「女の子の回収に来たよー」

 

 直後、真上を影が通ると共に、糸のようなものが自身の背後に乗せていた打ち止めを引き上げた。

 

「何?」

 

 顔を上げると、二丁水銃がトンネルの上で待ち構えていた。

 

「おい、そこは線路だぞ」

「線路を仕切る金網の上だからセーフ」

 

 それだけ言うと、非色は打ち止めを抱えて立ち去った。が、そのまま逃すような否菜ではない。

 線路を飛び越えて逃げ出す非色に、思いっきりバイクを投げ付けた。直撃し、落下しながらも打ち止めの事を庇うように背中から着地するヒーローの方へ、さらに追撃を仕掛けようとしたが、すでに立ち上がり、臨戦態勢に入っていたため、不用意には仕掛けなかった。

 

「バイクは投げるものじゃないんですけど?」

「お前に用はない。その娘を寄越せ」

「ねぇ、会話する気ある? 聞いてんの?」

「抵抗するなら、今度こそ殺すぞ」

「バーカバーカ。キャッチボールもできないのかバーカ」

「10秒やる。さっさとそこから立ち去れ。バカ」

「お前がバカ」

「お前とそこの小娘はなんの関係もないだろう。アホ」

「お前がアホ」

「……」

「……」

 

 徐々に、徐々に二人の間に確執が生まれていく。近くにいた打ち止めが泣きそうになる程度には、超人同士の空気の悪さは圧があった。

 

「「ブッ飛ばす」」

 

 互いにそう告げると、一気に踏み込んで、二人仲良く電車に撥ねられた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。