とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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どんな強者でも姉には勝てない。

 一方通行は、死を覚悟した。それと共に、すべてを後悔した。

 

『考えが甘すぎンだよ……。誰かを救えば、もう一度、やり直すことが出来るかもしれねェだなンて……』

『所詮、オレに……人助けなンて、出来やしねェンだ……』

『ったく……このオレ様が……あンな下らねェヒーロー様に、当てられたなンて、な……』

 

 そう強く思いながら、意識を手放したのが、最後の記憶だった。それが、自分の最後の思考になると思っていた。

 が、そうはならなかった。自分の身に何が起こったのかは分からないが、病院で病人服に身を包み、ベッドで寝ていた以上は、しぶとくも生き残ったということだろう。

 耳と首には見覚えのないイヤホンのようなものとチョーカーが付けられている。

 

「ンだ、これ……ア?」

 

 身体を起こして横を見ると、椅子に座ったまま見覚えのない男が寝息を立てていた。いや、よくよく思い出せば見覚えがある。確か、二丁水銃の素顔だったはずだ。

 

「チッ……お人好しにもほどがあンだろうが……テメェの腕を捥いだ奴の見舞いかよ……」

 

 そう言いつつも、小さくため息をつく。しかし、自分にも、まだお見舞いに来てくれる人がいると思うと、もう少し生きてやるか、とも思える。

 ……とはいえ、その間抜けヅラは少し腹が立ったので、結局起こしてしまうが。

 

「オイ」

「痛いっ⁉︎」

 

 デコピンして無理矢理、叩き起こした。

 

 ×××

 

「そんなわけで、芳川さんと打ち止めも無事。芳川さんは病室で寝てるし、打ち止めは調整してる」

「そォかよ……」

 

 打ち止めの報告をすると、一方通行は真顔のまま外の景色を眺めた。内心、ホッとしているのは内緒だ。

 

「にしても一方通行が撃たれたって聞いた時は焦ったよ。どうやったら撃てるのか分からないもの」

「うるせェ。てか、テメェこそ随分、てこずったみてェだな」

「まぁ、ちょっとね……」

 

 超人が相手だったことは言うべきじゃないのだろう。

 話を濁したのを察し、一方通行は続けた。

 

「ったく……虫唾が走るぜ。このオレが、ガキ一人を助けるためにこンなモンがなきゃ生活できねェ身体になるとはな。焼きが回ったモンだ」

「でも、それほど助けたかったんでしょ?」

「……ア?」

「それが、妹達への贖罪でも罪滅ぼしでも詫びだったとしても、立派だと思うよ。『やり直す』のは大変なことだし『どうすればやり直した事になるのか』なんてまともな答えもないものだけど、それでも腐らずに一歩踏み出せたんだから」

「……チッ」

 

 正面から説教臭く言われ、一方通行は舌打ちをする。年下の癖に、随分と達観している奴だ。いや、もしかしたら子供だから故の純真さから来ているのかもしれない。

 

「オマエ、よくウザいって言われねェか?」

「言われないよ! どういう意味だ⁉︎」

「なンでもねェよ。オマエの周りにはイイ奴が多いンだな」

「だからどういう意味⁉︎」

 

 とりあえず、そう言ってからかいつつ、一方通行は寝返りをうった。

 

「しばらく入院生活が続くンだ。オマエみたいなウザいのにいられりゃ、傷に響く。さっさと帰りやがれ」

「はいはい……」

 

 この純真さは、必ず何処かに危うさが含まれる。特に、この街の科学者にとってはカモでしかないかもしれない。

 なら、このヒーローの弱点となり得る点は自分が補う。そう心に決めつつ、一方通行は、とりあえず一眠り……と、思ったのだが、窓がカラカラと開く音がした。何かと思って目を開くと、非色が窓から逃げようとしているのが見えた。

 

「……何してンだ?」

「帰るんだよ」

「なンでそこから?」

「廊下に姉ちゃんと白井さんがいるから、逃げるの。ただでさえ、無理言って説教は待ってもらってるんだから……」

「……」

 

 本当に割とダメな奴なのかもしれない。

 ため息をついた一方通行は、非色に手を差し出す。握手だと思った非色がそれに応じた直後だ。

 

「じゃ、怒られて来い」

「え?」

 

 直後、電極のスイッチを入れる。グンっと手を引っ張られ、非色の身体は病室の扉に投げつけられた。

 勿論、電極自体も完成品とは言えないので、エラーが発生して一方通行も死にかけた。

 

 ×××

 

 そんなわけで、いきなり約束を破った非色は美偉と黒子に雷を落とされた。黒子までセットで付いてきた辺り、もうダメかもしれない。

 8月31日までに片が付いたのは良かったが、明日から新学期である。

 

「はぁ……夏休みも終わりかぁ……なんか、全然休んだ気しないんですけど」

「そりゃそうよ。あなた、ずっと働いてたわけだし」

 

 自宅で、美偉と非色は食事をしながら、愚痴を漏らす。

 

「学校かぁ……あんま行きたくないな……」

「? どうして? 佐天さんや初春さんみたいな友達も出来たじゃない」

「いやー……女の子同士の中に入るの、あんま好きじゃないし……勉強も正直、簡単過ぎるし……体育は手を抜かないと怪我させちゃうし……」

「……」

 

 確かに、と美偉は目を逸らす。

 

「上条さんも一方通行も黒妻さんも学校違うしなぁ……」

「学年もね。……え、一方通行?」

「え? あ……」

「あ、あなたそんなすごい人と友達なの?」

「まぁ、うん……御坂さんには言わないでね」

「あら、どうして?」

「いや、まぁ……なんていうか、どうなるか分かったものじゃないから……」

 

 つい口を滑らせ、非色は止めるべき栓を閉めておくことにした。それを向こうが聞いてくれるかは別だが、まぁ大丈夫だろう。

 

「本当に頼むよ。御坂さんにだけは絶対内緒で」

「ど、どうして?」

「すごく仲悪いから」

 

 仲悪い、なんて単語で言い表せるものではないが、まぁそう言うなら美偉としても断る理由はない。わざわざ嫌っている人の名前を挙げる事もないだろう。

 

「わ、分かったわ……」

 

 納得してくれたので、とりあえすホッと一息ついた。

 

「そういや、姉ちゃんも明日から学校でしょ?」

「ええ、そうよ?」

「ヤンキーとかいない? 大丈夫?」

「平気よ。私だって風紀委員で訓練を受けたし、そこらの能力者には負けないわ」

 

 それを言われれば、その通りだろう。能力だけ強ければ喧嘩も強くなるわけではない。

 

「でも、何かあったら俺を呼んでね。そいつには生まれてきた事を後悔させてあげるから」

「何をする気よ……そういうことするのはよしなさい」

「あ、訓練と言えばさ、姉ちゃん」

「? 何?」

「俺に格闘技教えてくれない?」

 

 直後、美偉の手がぴたりと止まる。

 

「あ、あなたそれ以上、強くなる気?」

「あー……いや、うん。まぁちょっとね……」

「……何かあったの?」

 

 あったにはあった。が、それは言えない。言えば、狙われるかもしれないから。

 特に、あの男は自分を殺すと宣言してきた。おそらく、どんな手を使ってでも殺しに来るだろう。人質を取られたりすれば最悪だ。

 

「……ダメ。ちゃんと話しなさい」

「え……でも、割と危険な……」

「ダメです。あなたと私は家族よ? 可能な限り話しなさい」

「……知ったら死ぬかもしれないよ?」

 

 何せ、学園都市から公的に認められていると思われる殺し屋だ。その上、数少ない……というか、何なら世界に二人しかいない超人だ。

 多分、自分が消されないのも、二人目の超人という価値があるからだ。

 そんな話を聞けば、流石の美偉も微妙に冷や汗を流してしまう。この弟は、一体何を知っているのか、と。

 流石に脅かすつもりがなかった非色は、微笑みながら誤魔化すことにした。

 

「まぁ、相性が悪い相手がいた時のためだよ。てか、いたし。もしかしたら、世界には俺なんかより余程、とんでもない肉体を持ってる奴がいるかもしれないし」

「想像したくないわね、それは……」

「そういう時のために、せめて効果的な殴り方くらい覚えておきたいってだけ」

「……」

 

 なるほど、と美偉は理解したように頷く。要するに、その自身の肉体と同じレベルの超人と言える相手がもう一人いて、そいつと何かあったのだろう。

 上手く濁して伝えてくれたので、とりあえず把握は出来た。

 

「ま、教えるだけなら良いわよ。と言っても、風紀委員で習う技なんて合気道とか少林寺拳法みたいな護身術系の技だからね」

「それで十分だよ」

「あと、私厳しいからね。途中で音を上げないこと」

「楽勝でしょ」

「じゃ、今日からね」

「え、今日から?」

 

 このあと、泣かされるに泣かされた。

 

 ×××

 

「はぁ……疲れた……精神が特に」

 

 湯船に浸かりながら、非色は天井を眺めた。すごいスパルタだった。型を崩せば、崩した部分を叩かれ、怒鳴られ、また叩かれる。まぁ、少なくともどのような型かは頭に叩き込めたが。

 なるべくコンパクトに且つ、体全体を使って突きを放つ事で、最小限の動きで最高の威力を繰り出せる。

 有意義ではあったが……やはり、あの姉は怖かった。

 

「はぁ……疲れたなぁ……」

 

 どちらかと言うと、動きより理屈を知りたかった。技が使えなくても、知っていれば凌げるかもしれないから。明日からは、ボクシングや柔道、空手、CQCなども調べてみるつもりだ。

 とりあえず、風呂から上がって寝間着に着替えると、美偉がリビングで立っていた。

 

「あー……ねぇ、非色」

「? 何?」

「良かったら、一緒に寝ない?」

「良いけど……どうして?」

「あ、うん。……その、何? あなたがしばらく外で泊まってた時から思ってたんだけど……あなた、いついなくなるか分からないから……なるべくなら、一緒にいたいと思って……」

 

 言われて、非色は控えめに俯く。確かに、ヒーローなんてやっていればいつ死ぬか分からない。なるべくなら、普通の姉弟として過ごしていたいものだ。

 

「……うん。じゃあ、一緒に寝よっか」

「ありがと。……覚えてる? あなたがこの部屋に来たばかりの時は、ベッドじゃ寝付きにくくて床で寝てたの」

「その話はいいよ……」

「ふふ、ごめんごめん」

 

 そんな話をしながら、美偉の部屋に入った。二人でベッドの中に入り、二人で手を繋ぐ。

 床の方が寝やすい、なんてひどい癖がついていた非色だったが、強引に美偉が一緒に寝ることでその癖を治した。

 直ってからは、余りにも寝相が酷かったので部屋を分けたわけだが。

 

「久しぶりね、一緒に寝るの」

「うん」

 

 懐かしい感情に浸りつつ、少し、申し訳なさが芽生えてきた。

 

「……ごめん。姉ちゃん」

「? 何が?」

「心配ばかりかけて。……内緒で、ヒーローなんてやって……」

「……そうね。友達は中々、作らないし、と思ったら隠れてヒーローなんてやってるし、ホントに心配ばかりかけさせられてるわ」

「うぐっ……」

 

 でも、と言葉を継ぎつつ、美偉は身体を横にして非色の方を向いた。

 いつもと違って眼鏡を外している綺麗な姉の笑みが、まっすぐと自分を見据えて、頬の上に手を当てられた。

 

「でも……それがあなたのやりたい事、なんでしょ?」

「あ、うん……」

「なら、謝らないで最後までやりなさい。……必ずこの部屋に戻って来る、それを約束してくれれば、好きにやって良いわ」

 

 それを言われると、非色は思わず頬を赤らめる。そんな風に言ってもらえるとは思わなかった。応援されると、少し嬉しくなってしまうのだ。

 

「ありがと……姉ちゃん」

「うん。じゃ、寝ましょう。とにかく、明日から学校だからね」

 

 それだけ話すと、二人で手を繋いだまま目を閉じた。

 

 




超電磁砲メインって言ったけど、多分シェリーとかオリアナとかとも戦っちゃう。超電磁砲本編が一方通行から大覇星祭まであきすぎなのよ。

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