とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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正体不明編
そんなんだから舐められるんだってマジで。


 夏休みが明けると、憂鬱な学校が始まる。今日は始業式なのですぐに終わるわけだが、その終わるまでをとても長く感じるのは、やはり退屈だからかもしれない。

 まだ朝のホームルームも始まらない教室で、非色はぼんやりと空を眺める。しかし、最近はそんな非色の一人の時間も許さない人物が現れた。

 

「非色くーん!」

「元気でしたか?」

 

 佐天涙子と、初春飾利の二人だ。クラスの中でも特に可愛い二人が絡んで来ていて、正直、他の男子達の視線が痛い。まぁ、いじめが始まったとしても、全員、非色とは喧嘩にもならないわけだが。

 

「どうも。佐天さん、初春さん」

「どう? ヒーロー活ど……」

「はいちょっとおいで佐天さん」

 

 突然、手榴弾を投げ込まれたので慌てて廊下に叩き出した。そのまま屋上まで運び、非色は佐天に言う。

 

「正体は秘密って分かるよね? 何をいきなり抜かしてくれてんの?」

「あー……ご、ごめんね?」

「ごめんねじゃないから! もしバレたら佐天さんを人質に俺に仕返しにくる奴とか現れるかもしんないんだからね⁉︎」

 

 すごく捲し立てると、何とか理解してくれたのか「てへっ」と舌を出しながら苦笑いを浮かべた。可愛いのが腹立たしかった。

 

「全くもう……とにかく、次から気をつけて」

「はいはい」

「ひ、非色くん……足速いです……!」

 

 後から初春がついて来ていた。そんなわざわざついて来ることなんてなかったのに。

 

「ああ、ごめん。走らせちゃったか」

「そういえば、もうすぐ大覇星祭じゃん? 非色くんがいれば、かなり良い所までいけるんじゃないの?」

 

 佐天が思いついたように言うと、初春も呼吸を整えながら頷いた。

 

「そう言えば、そんな時期ですね」

「そこらの能力者より非色くん強いし、うちの『THE・普通』な中学にも勝ち目が出て来るんじゃない?」

「いや、俺出ないよ」

「「へ?」」

 

 言うと、二人は唖然としてしまう。

 

「いや、そりゃそうでしょ。俺が出たら怪我させちゃうし、そもそも超人な事を他人にばらすようなものだよ」

「加減すれば良いじゃん」

「車に撥ねられてもピンピンしてる男だよ? 不意打ちをもらっただけでもバレるって」

 

 それを言われると、確かに、と佐天も初春も目を逸らすしかない。そこらの能力者より強い無能力者だからこそ問題だ。ヒーローだとバレれば、それこそ終わりである。

 

「そっかー。非色くんがいれば、勝てると思ったのになぁ……」

「いやいや……まぁ、そうね。本気を出せばまず負けないね」

「自信あるなぁ……」

 

 自信がないとヒーローはやっていけない。流石にレベル5を相手に出来ると思っているほど自惚れてはいないが。

 

「……」

 

 いや、しかし実際、レベル5と割と渡り合っている。麦野とも一方通行とも戦いになっていた以上は、少しは自信を持って良いのかもしれない。

 

「佐天さん、初春さん。俺って強いと思う?」

「え? わ、私よりは?」

「なんです? 急に」

「ごめん、なんでもない」

 

 冷静になる事にした。考えてみれば、姉に頭が上がらずに強いなんてことはないのだから。

 そんな中、初春がふと思い出したように声をかけて来た。

 

「そういえば、非色くん。今日、春上さんと枝先さんが転校して来る日なの、知っています?」

「あ、今日なんだ。……てか、そりゃ今日か」

「楽しみだねー。みんなと同じクラスって」

 

 正直、非色としては微妙な感じだ。何せ、ヒーローに憧れている二人組な上、非色がヒーローであることを知らない。

 万が一、佐天や初春を含めた四人で食事の時、うっかり口を滑らさないか不安な所だ。

 

「……大丈夫かなぁ、なんか不安」

「え、何が?」

「いや、これから先の学園生活が」

 

 胃に負担がかかりそうだ。胃薬の購入も考えてしまう程度には。

 

 ×××

 

 始業式が終わり、非色はさっさと教室を出ようとした。……が、その非色に後ろから初春が声を掛ける。

 

「あ、非色くん」

「何?」

「途中まで一緒に帰っても良いですか?」

「え? 春上さんと枝先さんと遊びに行かないの?」

「私は風紀委員ですから」

 

 なるほど、と非色は頷く。代わりに、佐天が自分の友達も一緒に連れて、みんなで集まっているのが見えた。

 

「大変だね」

「いえ……もう慣れましたよ」

 

 今までにも、何度かこういう事があったようだ。まぁ、それを承知で風紀委員に志願したのだろう。だから、友達との遊びに行けなくても、笑顔を浮かべられている。

 廊下を出て、下駄箱から靴を出しながら、初春がふと思い出したように声をかけて来た。

 

「そういえば、白井さんとはどうですか?」

「? どうって?」

「仲良くやれてます?」

「怒られてばかりだよ。この前だって、泊まりで友達の助けに行ったら怒られたし」

「それは連絡をしなかったからでしょう?」

「ああ、知ってるの……」

 

 正直、一人くらい愚痴を聞いてくれる味方が欲しかったのだが、黒子の周りにいるメンバーを味方に取り込むのは無理だ。

 

「白井さんは……いえ、固法先輩もみんな、非色くんが心配なんですよ?」

「分かってるけどさぁ……同級生とか姉に怒られてビビりまくってるヒーローって何?」

「あ、あはは……ショボいですね」

「……」

 

 この子も意外と毒あるな、と軽く引いていると、初春は続けて言った。

 

「とにかく、白井さんを悲しませないようにして下さいね」

「悲しませるって……もう友達やめるとかは……」

「いやいや、ですから、非色くんの身に何かある、とかです」

「え……あ、あー……」

 

 そう言えば、そんな話をした事も思い出した。黒子も美偉も、ある意味では街の平和以上に自分の身の安全を心配しているのかも……と、思ったところで、非色は「ん?」と声を漏らした。

 

「どうしました?」

「いや、白井さんって……なんで俺のことそんなに心配してくれるのかなって……」

「え?」

「だって……なんか姉ちゃんと同じレベルで心配してくれてるし……怒られるし、でも嫌われてるわけでもなさそうだし……」

「……!」

 

 その反応に、初春は思わず瞳を輝かせる。まさか、この超人にも普通の中学生と同じ感性があるのだろうか? 

 だとしたら、今の現状は決して良くない。何故、よりによって佐天が一緒でない時に限ってそういう事を思うのか。自分では、うまく言葉で自覚させられる気がしない。

 

「なんか、白井さんって……」

「し、白井さんって……?」

 

 なので、非色が言うことに耳を傾けることにした。キラキラと目を煌めかせて、次の素顔のヒーローの言葉を待つ。

 

「口うるさい妹みたい」

「……」

 

 一気に落胆した。そこでまさかの身内のような評価である。何故、妹という感想になるのか。やはり、普通の感性ではないようだ。

 もうなんかどうでも良くなった初春は、苦笑いでニコニコしながら続けた。

 

「……し、白井さんが下なんですね……」

「そりゃそうでしょ。俺の方が背も高いし」

 

 身長でその辺を決めてしまう辺り、弟なのはあなたの方では? とは言わないでおいた。

 これは白井さん、苦労しそうだなぁ……と、初春がしみじみ思っていると、非色が呟くように声を漏らした。

 

「……でも、俺にとっても白井さんは……こう、大切な人だから……」

「え?」

「あの人も、ヒーローに向いてる気がするんだ。風紀委員に属しているとは言え、風紀委員の活動範囲を超えて行動してるでしょ。本当は能力者同士の喧嘩に介入するのは警備員の役目なのに」

「……そうですね。それで、生傷作って始末書書いて……」

「うん。俺とは違うから、怪我すれば治すのに時間かかるし、場合によっては傷跡も残る。だから、俺が守ってあげないと」

「……」

 

 実はこの二人、恋愛とかそんな器に収まっていないんじゃないだろうか? 守るし守られる、の関係って、初春の知る限りでは3パターンしかない。戦場での部隊、諜報部員のコンビ、そして夫婦である。

 ……いや、割とどれも当てはまる節はある。

 

「……白井さん、幸せ者だなぁ」

「え、な、何が?」

「いえ、なんでも。……あ、そういえば一つ、非色くんに情報を」

「情報?」

 

 話を逸らすと、見事に食いついた。チョロいヒーローである。

 

「はい。学園都市に侵入者が入ったようです。何者か分かりませんが、注意するように、と」

「……特徴は?」

「写真を送ります。白井さんは早速、追っているみたいですが……」

「ま、この街に侵入できてる時点でタダモノじゃないよね」

 

 大体の話を理解した非色は、初春と共に人気の少ない路地に入った。一七七支部への近道だ。

 隣を歩きながら、非色は鞄から六角形のプレートを取り出し、胸に当てる。スイッチを押すと、非色の身を包むように布が現れた。

 最後に、サングラスを掛けて、フレームのボタンを二回押す。それと同時に、路地裏を抜けた。

 

「すごい……本物のヒーローみたい……」

「ヒーローだよ」

「そうでしたね。では、気を付けてくださいね」

「はいはい」

 

 そのまま別れ、出動した。

 

 ×××

 

 駅周辺で、白井黒子は携帯を手に歩いていた。そこに映されているのは、金髪で黒いゴスロリで黒人の外国人だ。

 それと思わしき人物が、黒子の前を歩いている。

 

「見つけましたわ。間違いなさそうですの」

 

 それだけ話すと、黒子は堂々とその人物に声をかける。

 

「あなたですのね? この街に侵入した部外者とは」

「……?」

「この街の治安維持を務めている風紀委員、白井黒子といいますの。動かないで頂けますこと?」

 

 腕章を見せながら、声を掛ける。学園都市の外に能力者はいない。能力者である上に、風紀委員として鍛えている自分の方が有利……と、思いたいが、目の前の女の落ち着き、どうにも嫌な予感がする。

 油断なく睨み付けていると、金髪の女が呟いた。

 

「探索中止。手間かけさせやがって……」

 

 それを言った直後、金髪の女はチョークを取り出し、コンクリートの地面に文字を綴った。

 何をしているのか分からないが、とにかくヤバいと察した黒子は、空間移動をする。直後、自身の真下に巨大な岩石の腕が掴みかかって来ていた。上半身のみしか見えないが、およそ5メートルほどだろうか? 

 

「! 能力者……⁉︎」

「テキトーにあしらっとけ」

「チッ……逃がしませんわ!」

 

 すぐに空間移動をこなし、金髪の女の背後をとり、拳を構えた。が、その目の前にも岩の壁が出て来る。いや、壁というより掌だ。

 

「っ……!」

 

 直感で、近くに見えた街灯の上にテレポートする。直後、地面からようやく姿を現したのは、一体の巨大な岩だった。

 

「きゃああああ!」

「や、やべぇ、逃げろ!」

「能力者同士の喧嘩か⁉︎」

 

 周りにいた生徒達も大慌てで逃げ出す。目に入ったのは、地面から巨人が出て来たことにより、道路が割れて落下しそうになっている生徒だ。

 すぐに転移し、その少女に手を当てて飛ばす。他にも巻き込まれそうになっている生徒を助けに動いた。風紀委員として見過ごせない。

 ……が、それはゴーレムにとって的でしか無かった。

 次に黒子が助けそうな相手を先読みし、そこに向かって手を伸ばす。

 

「しまっ……!」

 

 テレポートした先に掌が見え、思わず身構えた時だ。その一撃が当たる前に、一人の影が入り込んだ。手のひらのサイズが人間一人分の大きさの一撃を、非色は両手で受け止める。

 

「やっほー。元気?」

「あなた……!」

「ほらほら、早く飛んで」

 

 言われて、黒子はその場からテレポートする。その直後、非色の身体をゴーレムが握り込んだ。

 

「!」

 

 直後、ギリギリと力が込められる。車でも秒で二次元になってしまいそうな威力だ。しかし、非色の身体から、メキメキ、とも、バキボキ、という耳に響く事はなかった。

 むしろ、バギッと何かが欠けるような音がしたのはゴーレムの手の方だ。

 

「……オイオイ」

「すげぇ……!」

 

 遠くで見物している避難中の生徒から歓声が上がる。

 非色は、巨大な親指と掌に両手をつけ、徐々に自身の身体から引き剥がしていた。

 直後、非色の左手からバチっと耳に響く音と共に稲妻が走った。義手に限界がきているようだ。

 丁度、親指の相手をしているのは右腕だったので、ほんの一瞬、手を抜くと、自身の身体を親指が包む前に、下から親指を右拳で殴り砕いた。

 それと共に左手が支えてある掌の方に右手を掛け、ジャンプして飛び越えると、手の上に乗り、走ってゴーレムの顔面の方に走った。

 

「いやー、良い圧力マッサージだったよ。……あ、いや違う。ヒーローっぽいキャラで……フッ、悪くないマッサージチェアだったな。ん? チェア?」

 

 避けつつ接近すると、反対側の拳が飛んで来た。それを、右手で水鉄砲を放ち、糸状にしたまま拳を放った方の肘に貼り付け、空中を漂いながら水鉄砲を手放し、顔面に両足を揃えた蹴りを叩き込んだ。

 

「ふっ、遅いな。そんな速さでは蚊だって潰せない」

 

 蹴り込まれ、後ろにひっくり返るゴーレム。大きくジャンプをし、左手の様子を眺めながら街灯の上に飛び乗った。

 まだ使えそうだが、音声入力モード以外に切り替えられなくなった。

 

「どうしよう……姉ちゃんに義手ってバレる……」

 

 そう言いつつ、左手を確認していると、ゴーレムの右拳が飛んできて、非色が止まっていた外灯を叩き折った。

 

「うおっ、と……!」

 

 直後、非色は別の街灯に左手で糸を伸ばしつつ、右手で折れた街灯を掴み、宙を舞いながらゴーレムの後ろを取りつつ、右手でクルクルと折れた街灯を回す。

 

「おまっ……じゃないや。貴様が散らかしたもんだ、返すぞ‼︎」

 

 作った台詞を叫びながら、街灯をゴーレムの後頭部から顔面を貫いた。

 そのまま正面に降りると、左手を向けたまま足を止めた。連続でグレネードを放ちながらゴーレムに接近する。

 顔面を吹っ飛ばしたにもかかわらず、片腕で殴りかかって来るが、グレネードが破裂し、ゴーレムの動きが徐々に鈍る。

 

「『キャプチャー』」

 

 弾の種類をチェンジし、関節部に液の塊を放ち続けた。ゴーレムをさらに液で動きを封じる。

 茶色と黒と灰色の巨人が、徐々に真っ白に染まっていく。直後、その岩の塊が、突然、力が抜けたようにその場で崩れ落ちた。液体によって固定されているものの、岩の内側は崩れたようでガラガラと音がする。

 直後、非色の後ろから新たなゴーレムが形成されていく。そのまま拳を張り抜けるように構えた状態で。

 

「……しつこいなぁ……あ、いや、しつこい奴め。まだボコられ足りないか?」

 

 身構えた直後だった。さらにゴーレムの後ろから稲妻を纏った青白いビームが、一撃でゴーレムを吹き飛ばした。

 

「うひゃあ! 危なっ⁉︎」

 

 これには見覚えがある。常盤台の超電磁砲、そのものだ。流石の威力で、ゴーレムは一撃で灰となり、崩れ落ちた。

 

「どうも、ヒーロー。苦戦したみたいね?」

 

 人の形から上半身が削り取られ、煙を上げている奥から声がする。余裕そうな声、強気な笑み、見慣れた茶色い学生服……御坂美琴本人だった。

 

「く、苦戦なんかしてないよ! ……あ、いや違う。苦戦? 何の話だ? まさか、この私があの程度の木偶に……」

「そのキャラ、やめた方が良いですわよ」

「……」

 

 隣に黒子がテレポートして来て、普通に忠告される。

 

「そ、そう? でも、この方がヒーローっぽくない?」

「私は、普段のあなたの方が好きですの」

「えっ……え?」

 

 ドキッと心臓が跳ね上がり、マスクの下で頬が赤くなる。

 

「助けてくれて、ありがとうございます。ヒーローさん」

「え、あ、いや……その……うん。まぁ、なんだ……べ、別にその……」

「ふふ、照れなくても良いんですのよ?」

「え、いや……うん。ごめん……いや、うん……」

 

 戦闘後とは思えないほど甘酸っぱい空気になっていた。

 

 ×××

 

「おいおい……マジか」

 

 遠くから、金髪の女……シェリー=クロムウェルが眺めていた。自分の魔術を一撃で吹っ飛ばした女じゃない。あの変な格好の男の方だ。……いや、男かも分からないが。

 

「学園都市に、聖人でもいやがるってのか……?」

 

 いや、だとしても問題はない。奴はこちらが明らかに魔術を使ったのに対し、魔術も能力も使わず、身体能力だけで抵抗していた。

 聖人である事に気付かずあの歳まで成長したのか、或いは学園都市の何かしらであの肉体になったのか……なんにしても、警戒しておくべきだろう。

 

「さて、続けるか」

 

 そう言うと、自身の目的のためにシェリーは動き始めた。

 

 




シェリーの所って正体不明編って言うんだ。

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