とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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ホント恋する乙女って面倒臭い。

 黒子は、後悔していた。何にって、目の前の光景に、である。

 

「何あんた。このちっこいのと残りたいって言いたいわけね?」

「とうまはこっちのガサツな短髪と残りたいんだ?」

 

 事の発端は、地下の生徒を地上に出している時だった。急に電気が落ち、付近が見渡せなくなる。

 なので、携帯の電気でしばらく歩いていると、上条当麻、インデックス、そして風斬氷華と遭遇。テロリストが徘徊しているため、地上に逃げるよう注意喚起をしたわけだが、一度に移動できる人数は二人が限界。

 上条はテレポート出来ないため、インデックス、風斬、美琴が先に撤退することになったのだが……まぁ喧しい。

 側から見ても「他の女とコイツが二人になるのは許せない」と言った感じなのが見え見えだ。

 

「非色さんがいれば……」

 

 少なくともあの人がいて、ここに残れば、二人きりにはならないわけだから、さっさと撤退できたわけで。

 ……そもそも、あの人はこの事態を把握できているのだろうか? 地下にいるのかどうかも分からない。

 いや、今は寂しがっている場合ではない。とにかく、脱出が最優先だ。

 

「はぁ……お姉様は、私と救助活動の手伝いに来てくれているのでは?」

「……!」

「何者かが地下で蠢いている以上、戦闘能力のない方々を優先したい所ではあるのですが」

「そ、そうよね! ほらみなさいよ。私とこいつは別の出口から行けば良いのよ!」

「う、うう〜! そ、それなら私にだって言い分があるかも! 相手は魔術……」

「おおいインデックス少し待とうか!」

 

 大慌てで上条がインデックスの口を塞いだ。

 

「魔術師がどうとか言うなよ。どうせ信用されないだろうし、ややこしくなるだけだから」

「で、でも私だけ仲間外れなのは気に食わないかも! 実際、あの短髪より私の方が役に立てるかもしれないんだよ!」

「あー……じゃあ、インデックス。お前は外を見張っててくれ。もし、外で何かあれば必ず俺が駆け付ける」

「うぐっ……なんか、言いくるめられてる気がするかも……」

「違うっつの。こうなっちまった以上、風斬を守れるのはお前だけだ」

「ーっ……! ま、任せて欲しいかも!」

 

 そんな風に言われれば、すぐにインデックスは嬉しそうな顔になってしまう。例え、避難させられているとわかっていても。

 しかし、そんなことを目の前で言われれば、やはり気に食わない人がいるわけで。

 

「ち、ちょっと待ちなさいよ! 相手が誰だか知らないけど、私よりそのちっこいのを頼る気⁉︎」

「だーもううるせーな!」

「そ、そうかも! 私が任されたんだから、短髪はここで大人しくしてれば良いのかも!」

「んだとコラァッ‼︎ あんた、私より強いつもりかー!」

「あ、あの皆さん……少しは落ち着いた方が……」

「まったく……これでは避難どころではありませんわ……」

 

 ぼやきながら、携帯を取り出し、何処かへ電話する黒子。

 その隣で、三人の言い争いは加熱されていった。

 

「どの道、全員外に出るんだから、誰が残ったって良いだろ!」

「良くないわよ! あんた少しはこっちの気を察しなさいよ!」

「そもそも、とうまがもう少し乙女心を理解してくれていれば、こんな言い争いには発展していないんだよ!」

「俺の所為になるのかよ!」

「あ、あの……私が残れば済む話なのでは……」

「風斬はダメだろ」

「ひょうかを危険には晒せないんだよ!」

「レベル幾つだか知らないけど、一般人を置いてレベル5が逃げるわけにいかないわよ!」

「う、うう……」

 

 ありがたいやら嬉しいやら照れるやらで、正直困ってしまった。こんな自分を、こんな風に気遣ってくれる人達がいる、と。

 そんな時だ。五人の元に地響きが伝わって来る。

 

「! これは……!」

「始まったか……!」

 

 もう小競り合いをしている場合ではない。

 

「お前ら、早く行け!」

「ツインテール! 氷華と一緒に連れてって欲しいかも!」

「黒子、私とこの人連れて行って!」

「あ、あの……私は後でも……!」

「白井、もうお前が決めてくれ!」

「了解しましたわ」

 

 言うと、黒子は風斬とインデックスの肩に手を置いた。

 

「えらいんだよ、ツインテール!」

「ちょっ……黒子⁉︎ お姉さまを裏切る気⁉︎」

「お姉様」

 

 キラキラと瞳を輝かせるインデックスと、顔を真っ赤にして怒る美琴を前に、黒子は冷静な口調で告げた。

 

「そこの類人猿をお願いします」

 

 直後、二人の間の形成が逆転し、インデックスが顔を真っ赤にして怒気を露わにし、美琴が「満更でもないかも……」と言った顔をする。

 

「ちょっ……ツインテール、やっぱ待っ」

「任せなさい。さ、行くわよあんた!」

「では、行きましょう」

 

 黒子は風斬とインデックスを連れて表に出た。

 残った上条は、真剣な表情で美琴に声を掛ける。

 

「御坂、お前は先に出口へ向かえ」

「な、何言ってんの? 私だって戦えるわよ!」

「あいつらを守ってくれ。相手は……詳しく言えねえけど、とにかく何をしてくるか分からない奴らなんだ」

「無理ね」

「なっ……お、お前なぁ!」

「あんたとあのちっこいのがどんな関係だか知らないけど、あの子に代わってここに残った以上、私は私で仕事をこなすわ」

「っ……」

 

 そんな風に言われれば、上条も無闇に拒否するわけにいかない。その上条に、美琴は畳み掛けて言った。

 

「ていうか、あんた超能力者を舐めてない? あんたと一緒に戦ったのは一方通行以来だけど、この街の第三位なんだからね」

「だーもうっ、勝手にしろ! 無理はするなよ!」

「あんたに言われたくないわね」

 

 そう言うと、二人は地下街で音のする方に走った。

 

 ×××

 

「はい、表で油を売っていたヒーローさん? お二人の保護をお願いしますわ」

「……」

 

 予想が外れた非色は、黒子に呼び出され、それはもう攻められていた。いや、未だテロリストの狙いがはっきりしていない以上、ハズレと言い切れないが、何にしても周りから見ればサボっていただけだろう。

 

「わぁ、二丁水銃だ! カッコ良いんだよ!」

「あ、ありがとう……」

 

 インデックスにキラキラした目で見られ、非色は思わず目を逸らす。知り合いにこうして見られるのは少し苦手だ。

 が、その目を逸らした先には、風斬が同じようにニコニコ微笑んでいた。

 

「あ、私も知っている……というか、何度か活躍を見たことがあります……!」

「そうかい? もしかしたら、どこかですれ違っていたのかもね」

 

 しかし、知らない人とは普通に話せる。相変わらず、マスクを被っていれば饒舌な奴だ。

 

「いつも、学園都市を守ってくださっていますよね? 活躍、応援してますよ」

「ありがとう。そう言ってもらえると、力が出るよ。特に、あなたのような綺麗な方に応援されると本当に」

「き、綺麗……ですか?」

「むっ、二丁水銃! ひょうかをナンパしちゃダメなんだよ!」

 

 まるで風斬を庇うように両手を広げて前に出るインデックスの頭を、非色は優しく撫でた。

 

「そんなつもりはないよ。俺は、ヒーローだから、彼女みたいに綺麗な人も、君みたいに可愛い子も、ムカつくイケメンも、童顔な子も、いじめられてそうなブサイクな子も、みんな平等に守るよ」

「な、なら良いけれど……え、か、かわいい?」

「うん」

「え、えへへ……かおりに自慢しちゃおう。学園都市のヒーローに褒められたって」

 

 なんてやっている時だった。隣にいるツインテールの少女に、足の甲を踵で踏み抜かれたのは。

 

「ーっ⁉︎」

「ナンパヒーロー。そう言うなら、もう少し仕事をしては如何ですの?」

「な、なんで踏んだの? てか、だからナンパなんてしてなくて……!」

「誰がなんと言おうと、あなたがなんと誤魔化そうと、今のは歴とした性犯罪ですの」

「ナンパじゃないのかよ⁉︎」

 

 怒る黒子と、何故怒られているのかわからない、と言う感じで慌てるヒーロー。そんなやり取りを見て、インデックスは既視感を抱いた。このヒーロー、何処かの誰かに似ている。

 

「えっと……くろこ、で良いのかな?」

「ええ。なんです?」

「苦労してるんだね……私、少し気持ち分かるかも」

「分かってくれますか……あなた、お姉様と喧嘩していた割に見所ありますのね」

「ちょいとちょいと。俺が苦労かけさせてる、みたいな言い方やめてくれない? むしろ、俺は苦労してる人を助けてる人で……」

「「あなたも同類ですの(なんだよ)」」

「なんで⁉︎」

 

 なんてやってる時だった。三人の隣で、クスッと微笑むような声がする。隣を見ると、風斬がクスクスと控えめに笑みを浮かべていた。

 

「どうしたの? ひょうか」

「ご、ごめんなさい……なんだか、みんなが楽しそうで……ふふっ」

「ちょっと……別に楽しくはありませんの! 不愉快なだけですわ、特にこの男は!」

「痛たたた……くはないけど、ちょっと小突かないで」

 

 ドスッドスッと黒子に脇腹を突かれる様子を、さらに風斬は笑って眺めているときだった。

 地中から、ゴーレムが姿を現した。

 

 ×××

 

 ほんの数分前、上条と美琴は音のする方向に歩いていた。

 

「で、相手はどんな奴なの?」

「俺も知らねえよ。ただ、この街の能力者みたいに能力は一つ、って事はないかもしれない」

「はぁ? どういうこと?」

「学園都市の能力者とは訳が違うってことだ。気を抜くなよ」

 

 それを言われ、美琴の表情も自然と引き締まる。確かに……:特に今年はありえない奴がよく相手になることが多い。

 

「じゃ、私はあのゴーレムを相手にするわ。あなたは、それを召喚した奴をお願い」

「大丈夫か?」

「さっき一体、レールガン一発で吹っ飛ばして来たところよ」

 

 それを聞いて、上条は一先ず信用しておくことにする。すると、今度こそ暗闇の奥から、巨大な何かの影が歩いて来るのが視界に入った。

 

「……なんだぁ? 禁書目録もあの女狐もいないじゃねえか」

 

 そう言ったのは、巨大な影の足元にいる金髪のゴスロリ女……シェリー=クロムウェルだった。

 

「アレが術者か……!」

「とりあえず、一発ぶっ放すわよ」

「え? ちょっ」

 

 止める間も無く、キィーン……と、コインを弾く音が隣から響いた。ヤバい、と上条が思ったのも束の間、目の前のゴーレムが急に地中に潜るようにして姿を消した。

 それにより、美琴は跳ね上げたコインをキャッチする。

 

「お前らとやり合うのも面白そうだが、あんたら二人相手は面倒なのよね」

「逃げられると思ってるわけ?」

「無理矢理にでも逃げてやるよ」

 

 そう言いつつ、シェリーはニヤリと微笑みながらチョークを地面につける。何のつもりだ? と二人が思う間もなく、そこからシェリーの真下が爆発し、さらに地下へと潜って行った。

 

「クソッ……狙いはインデックスともう一人かよ⁉︎」

「追うわよ!」

「いや、御坂。お前はインデックス達の方を頼む!」

「あんたはどうするの?」

「俺は、あの魔術師を追う」

「あんた一人で平気なの?」

「平気、と言うよりそうするしかないだろ。ゴーレムはおそらくインデックスを追ったが、あいつ自身がそうとは限らない。このまま俺と御坂があいつの後を追えば、インデックスの方が無防備だ」

 

 かと言って、術者本人であるシェリーを追わなければ、無限にゴーレムを作られてしまう。

 

「分かったわ」

「じゃあな」

 

 それだけ話し、上条は穴の中へ、美琴は地上に戻るために黒子へ電話を掛けた。

 

 


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