とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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隣のクラスでも外国人でも異種族でも異星人でも、気が合えば友達。

 ゴーレムが突如。地中から現れたにも関わらず、非色と黒子の動きは早かった。黒子はインデックスと風斬をワープで移動させ、非色は上から振り下ろされる岩の拳を両腕でガードする。

 

「重っ……!」

 

 が、咄嗟の一撃であったことで、ズシンと自身の足元の道路が陥没しかける。ビシビシっ……と、足元に亀裂が走り、道路にクレーターが形成される。

 左手から、再び稲妻が走る。流石に酷使しすぎたか……と、奥歯を噛み締めた直後、横からゴーレムのもう片方の拳が自身の身体を捕えた。

 

「うお何事おおおおおっっ⁉︎」

 

 よりにもよって、掴まる物が何もない開けた場所に飛ばされたため、為す術なく飛ばされてしまう。

 戦わずに上手くあしらったゴーレムは、辺りを見回す。が、離れた場所に学生達が走って逃げているのが見えた。その中には、インデックスと風斬の姿もある。

 その後を追おうとした直後、左拳の指にマンホールが差し込まれ、切断される。

 

「……やはり、私の能力では指一本が限界ですのね」

 

 黒子が近くの地面に手を置いていた。あのヒーローが何をしているのかは知らないが、どうせすぐ戻ってくる。それまでは自分が相手をするしかない。

 さて、相性は最悪だがどうするか? 単純だ。マンホールをテレポートさせ続け、面積を削る。

 

「これでどこまで保つか……」

 

 良くも悪くも、自身の能力は応用が効く。それは攻撃にもサポートにも、そして何より逃走にも。無理はしない範囲で動くしかないのだ。

 

「……」

 

 油断なくゴーレムを睨んでいると、一気に拳を繰り出してくる。改めて受けると、とんでも無い速さだ。この巨体から繰り出されるとは思えない速度の拳だ。

 テレポートでなければ避け切れない。

 

「面倒な相手です、のね!」

 

 背後に回り込んで回避しつつ、道路のマンホールに手を添える。それが飛ばされ、ゴーレムの指をさらに切断した。

 が、いくら指を潰しても、出来なくなるのは「掴めなくなる」だけ。殴るだけなら指なんかいらない。

 それは、黒子も理解していた。

 

「……まったく、面倒な相手ですの」

 

 回避を最優先で、しばらく敵の攻撃を見切る。しかし……キリがない。このままでは、やはりジリ貧だ。どうしたものか……と、悩んでいる時だ。

 

「……ゅ────ん…………ドッカァ────ーン‼︎」

「……」

 

 幼稚な轟音と共に、車が降って来てゴーレムに叩き付けられた。爆発と共に大きく身体が削れるゴーレム。

 衝撃によって亀裂が入り、足元までひび割れていく。バランスが保てなくなり、崩れかけた。

 

「もう一ぱーつ!」

 

 さらに、折れた道路標識が肩に突き刺さる。その肩にぶら下がり、グンッと体重をかける。その後に続いて、黒子もテレポートして同じように道路標識にぶら下がった。

 それにより、岩の身体は大きくえぐられ、肩は破壊される。完全に機能が停止したのか、それとも魔術を解いたのか、そのままドシャッとその場に崩れ落ちた。

 

「あれ……終わり?」

「あなた、随分と簡単にぶっ飛ばされましたのね」

「うるさいなー。いくら超人でも、飛ばされたら簡単には戻って来れないの」

「ヒーローなら空くらい飛べるようになりなさいな」

「いやそんな無茶言われても……それに近いことできるってことで許してよ」

「あれは飛んでいるんじゃなくてぶら下がるって言うんですの」

 

 ……まったくだった。テレポートを繰り返して空中を維持している黒子の方が余程、飛んでいるように見える。

 

「で、どうです?」

「? 何が?」

「敵は周りにいます? 私よりも索敵能力は高いでしょう?」

「あ、はい。一応……うん。付近に脅威は迫って無さそう、かな?」

 

 何となく辺りを見回して確認する。第六感に引っかかる何かも無いし、遠くからこちらを見学されている、と言う感じもしない。

 

「うん。じゃ、俺は召喚者を……」

「ダメですの」

「は? なんで……」

「とぼけてはいけませんの。あなたの左手、故障していますわね?」

「えっ……な、なんで?」

 

 ドキッと胸が跳ね上がる。何故それを知っているのか。

 

「見ていれば分かりますの。微妙に左手を庇っていますし、拳を防御する際も右手の下に左手を重ねていたのが見えていましたわ」

「……よく見過ぎでしょ……」

「犯人の方はお姉さまが追っておりますし、一先ずゴーレムも撃退しました。あなたは一時、退却して左手を直して来なさいな」

「……いや、ヒーローとして一般人を置いていくわけには……」

「ヒーローも一般人ですの!」

「なっ……⁉︎」

 

 今のは聞き捨てならない。ヒーローが一般人と呼ばれるのは我慢ならなかった。

 

「俺は一般人じゃないよ! ヒーローの世界じゃ、警察の方が一般人だから!」

「なっ……わ、私が一般人と⁉︎」

「そうだよ!」

「あったま来ましたわ! あなた、逮捕しますの!」

「やってみろバーカ!」

 

 犯人そっちのけで、鬼ごっこが始まった。

 

 ×××

 

「……なんかよく分かんないけど、いなくなったみたいね」

 

 ゴーレムが破壊されたことを知り、その場を魔術で覗くと、ちょうど厄介な二人がいなくなったようだ。

 さて、本日三機目の親友を生み出す。都合が良いことに、障害がいなくなったのだ。聖人もどきを相手にすると思った時は肝が冷えたが、いなくなったのなら仕事は容易い。

 

「……さて、やるか……」

 

 そう呟くと、再びエリスを召喚し、動かした。ゴゴゴゴッと地鳴りと共に地中から目標の元へ移動する。

 とはいえ、真面目な話、自身の目的を抜きにしてもあの聖人(仮)は無視出来ない。イギリスに戻れたら、報告の必要がある。

 最悪の想定は「学園都市が聖人に近い生き物を生み出そうとし、それが叶った」という事。神の力の一端をどう再現したかなど知らないが、放っておけば強大な力となり得るわけだ。

 あのスパイのチャラチャラした金髪は、この事をイギリス清教に伝えてあるのだろうか? 少なくとも、自分は聞いていなかったのだが。

 いや、何にしても今はもう忘れよう。それよりも、そろそろ……。

 

「よう」

「……来たわね。幻想殺し」

 

 こちらはこちらで敵がいる。恐らく自身のゴーレムを、触れるだけで瓦解させられる能力の持ち主だ。

 だからこそ、ここは自分が相手にすることにした。自身の魔術の弱点と言える部位を、逆に武器にする方法で。

 ゆっくりと歩いてくるツンツン頭の男は、拳を構えながら声をかけて来た。

 

「テメェ、一体何考えてこんな事をしでかしてやがんだ……! 科学サイドと喧嘩したいってのか?」

「そうよ。科学と魔術は相容れない存在。手を取り合うなんてバカはさせない。境界線を引き、もう二度とこちらに来れないようにする」

「二度と、だと?」

「聞いたことない? 超能力者が魔術を使うと。肉体が壊されるって」

「……!」

 

 言われて脳裏に浮かんだのは、土御門元春。クラスメートで、つい最近、自分も魔術師だと分かったサングラスの男だ。

 

「私の親友もそれによって血塗れになった。もう二度と、そんな悲劇を繰り返させない為にも、私達は住み分けするべきなのよ!」

「クソッ、噛み合わねーな。お互いを守るためにそれを言ってんのなら、なんで戦争をおっ始めようってなんだよ!」

 

 そこで、ハッとして上条はその矛盾に気づく。

 

「……そうか。テメェの理屈なら、本当に戦争を起こす気なんかねえよな。『戦争が起きそう』って状況を作るだけで……!」

「! 買い被ってんなよクソガキが!」

 

 直後、上条の周りの壁や天井に光のサークルが写る。

 

「何を……⁉︎」

「私の魔術じゃ、エリスをいくつも組み上げる事は出来ない。無理に作ろうとすれば、その場を生き埋めにしちまう。けどな、そいつも使いようなんだよ!」

「馬鹿野郎が……!」

 

 奥歯を噛みしめ、襲いかかってくる瓦礫を前に、上条は身構えた。

 

 ×××

 

 一方、インデックスと風斬は、ゴーレムに追われていた。

 

「も〜……! 全然、頼りにならないんだよ、あの二人!」

「い、インデックスちゃん……大丈夫?」

「大丈夫では、ない……かも!」

 

 涙目になって走っていた。そもそも、こんな風にガッツリ追いかけっこすること自体、得意ではないというのに。

 魔術に干渉し、混乱させてゴーレムの動きを乱すにも限界があった。もう完全に逃げるしかないのだが、身体の大きさが違う。逃げきれそうにない。

 そんな時だった。ゴーレムが振るった拳が近くのビルに直撃し、瓦礫が落ちて来た。

 その落下点にいるのは、インデックス。

 

「! 危ない!」

「え?」

 

 直後、インデックスの顔面を覆ったのは、ふにッとした柔らかい感触。後になって、それが胸だと分かった。

 とりあえず、そんなことはどうでも良いのでお礼を言わなければならない。

 

「いたた……だ、大丈夫? インデックスちゃん……」

「あ、ありがとうなんだよ。ひょう……」

 

 が、顔を上げたインデックスの口が止まった。何故なら、目の前で友人の顔が半分、削れていたからだ。

 

「ひ、ひょうか……顔……」

「え……?」

 

 言われて、風斬は自身の顔に手を当てる。そこには、大きな穴が空いている。

 

「え……な、なにこれ……」

「! ひょうか!」

 

 が、今はショックを受けている場合ではない。後からのゴーレムによる殴打に、今度はインデックスが庇う番だった。

 だが、二度目は避けられない。微妙に放心状態になっている風斬を庇うようにインデックスが前に出た直後だった。ゴガッと、鈍い音がする。

 

「な……?」

「ごめんごめん、ちょっとアホの子がしつこくて遅れた。俺もまだまだだね」

 

 そこに立っていたのは、右腕を折り曲げてガードして立っていたヒーローの姿だった。

 グググッと、ゴーレムは力を入れるが、二丁水銃は踏ん張る。微妙に足元がグリグリと押され掛けているが、そんな事よりも風斬とインデックスが気になるようで目をそちらに向けている。

 

「『グレネード』」

 

 左手をゴーレムに向け、弾を二発、射出する。それがゴーレムの右腕の関節に減り込み、暴発し、それによって怯んだほんの一瞬の隙で、ガードしている右手を外して後ろに下がりながらインデックスと風斬を庇いつつ、思いっきり空振りさせて横転させた。

 身体を起こす前に、二人の体を担いだまま近くの壁沿いに身を寄せる。二人の顔を見ると、インデックスが食いかかってきた。

 

「ひ、ヒーローの癖に来るのが遅いんだよ!」

「わ、悪かったよ。三体目が作られる、とか考える前に喧嘩になっちゃってな……」

「まったく、やっぱりとうまの方が頼りになるんだね」

 

 それはどうだか分からないが、とりあえず今は黙っておいた。言い返す立場にないから。

 それよりも、だ。風斬の方が気になる。欠けた顔から覗かれる三角柱の何かは見覚えがある。AIMバーストの核にそっくりだ。

 何となく事情を察した非色は、徐々に修復されていく少女の顔に手を当てると、小さく頷いた。

 

「……うん。やっぱり綺麗だ」

「え……?」

「良い? 君達は逃げて。君の正体がなんであっても、俺にとっては守るべき市民だから。友達同士なんだろう?」

「う、うん……」

 

 インデックスは控えめに頷いて答えた。

 

「よし、なら早く行きなさい」

「……うん! いこう、ひょうか!」

「あ……うん!」

 

 それだけ言うと、インデックスは風斬の手を引いて立ち去った。

 さて、あとは目の前の化物と、その召喚者を叩き潰すだけだ。サングラスの位置を調整し、首をコキコキと左右に捻り、軽くジャンプしながら呼吸を整えると、立ち上がるゴーレムを前に身構え、一気に突撃した。

 

 


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