さて、アレからゴーレムの召喚者は追い返された。風斬がたとえ人間では無いとしても、上条とインデックスは友人として受け入れ、めでたしめでたし……とはならなかった。
何故なら、黒子も美琴もとっても激怒しているからである。
まず、黒子。ヒーローを逃した挙句、敵も実はまだ攻撃する手を緩めておらず、その事で非色に八つ当たりしていた。
美琴に至っては論外。外に出ようとしたが、どこからも出れなくて大回りして迷子になりかけている間に全部終わっていたから、なんか腹立たしくて上条に八つ当たりしていた。
この先輩にしてこの後輩あり、である。
「ははは、モテる男というのは大変だね」
「いやモテてませんよ別に」
木山の研究所で、非色はダラダラしながら愚痴を吐いていた。
「にしても、岩の巨人、か……面白い話が聞けたな」
「そうですか?」
「君も、戦う相手に応じて装備を変えた方が良いかもしれないな。相手が人間でないのなら、殺すつもりでやっても構わないのだろう?」
「まぁ、確かに……」
「それなら、武器の一つくらい持ってても良いんじゃないか? 例えば、そうだな……警棒とか」
「いやいや、その時々で現場にあるもの使うんで大丈夫ですよ」
実際、その辺にある街灯やガードレール、車などを使って殴り飛ばしている。それはそれで器物破損な気がしないでもないが、非色は壊れた器物しか武器にしていないのでギリギリセーフだろう。
「そうか? それにしては、この前は義手を壊して来たな」
「うっ……す、すみません……」
「いやいや、仕方ない事だ。……けど、だからこそ左手の負担を減らすためにも、用意したらどうかな?」
「うーん……」
やはり、あまり乗り気ではないようだ。まぁ、そもそも性格が好戦的な方ではないし、他人を傷つけるためだけの道具が好きではないのかもしれない。
「……気乗りしないのは分かるよ。でも、だからって君が傷ついて良いというわけでもない。これから先、片腕を機械で補うことになった以上、この義手も立派な君の体だ。自分を守るため、と思えば、少しは賛同してくれる気にはならないかな?」
「……」
正面からそう言われると、非色は納得いかなさそうにしながらも少し頬を赤らめる。
「……まぁ、考えておきます」
「よろしい。こちらは勝手に色々と作っておこう」
「楽しんでません?」
「気のせいだ」
なんか木山に持ってはいけない趣味を抱かせてしまった感じがあった。
「ところで……今日はヒーロー活動の方は良いのかい?」
「あ……そ、そうですね。そろそろ行かないと……」
「そうか。無理しない程度に頑張りたまえ」
「ありがとうございます」
それだけ返事をすると、非色は研究所を後にした。
×××
数日後、もうすぐ大覇星祭ということもあり、学校はそれの準備期間に入っていた。
柵川中学でも、誰がどの種目に出るかを決める会議を行なっていた。もちろん、出るつもりのない非色には無関係のイベントである。
机に伏せて爆睡したのが運の尽きだった。そもそも、どう説明して欠場にするかを考えていなかった非色は、とりあえず「何にも参加しません」と言えば不参加になると思っていた。
その結果、佐天と二人三脚になった、
「なんで⁉︎」
「私がそうしといた!」
「何余計なことしてくれちゃってんの⁉︎ 俺、周りの人を怪我させたくないから出ないって言ったよね⁉︎」
「いやいや、私考えたんだけどさ、能力者が多数出る運動会だから、みんな怪我は覚悟の上だよ」
それを言われると、それは確かにと言わざるを得ない。最大限の注意をして万全の安全策をとっているとは言え、それでも能力者の数だけ能力がある。100%はない。怪我人も出るだろう。
「ちょっと身体が強いってだけで、学園都市の学生時代でしか経験できない行事を逃すのはもったいないよ!」
「で、でも……正体がバレるかもだし……」
「能力を応用させれば、非色くんの運動能力くらい再現できるよ。念動能力者、肉体強化能力者、風力能力者……応用すれば何だって言い訳はつくから」
「……で、でも……」
「じゃあ何? 非色くんは大覇星祭、出たくないの?」
「っ……」
「別に、勝てなくても良いんだよ。ただ、みんなで楽しめればそれで良いの」
それはその通りだ。柵川中学は決して優勝を狙うような学校ではないし、同じ色の他校からも期待されてなどいない。
何より、普通に考えれば能力者のほとんどは遠距離攻撃をして来るばかりなので、フィジカルが問題で怪我をさせる事は少ないのだ。
「……わ、分かったよ。じゃあ、頑張る」
「うん、よし。早速、今から練習ね?」
「え、今から?」
「みんな外でやってるよ」
「まぁ、良いけど……」
そんなわけで、校庭で練習するハメになった。
まぁ、別に非色も出たくないわけではない。それに、黒板に書いてある出場欄によると、自分の出番は1種目だけだ。何の問題もないだろう。
仕方ないので、体操着に着替えて校庭へ出た。ヒーロー活動は遅れてしまうが、佐天の純粋な優しさは無駄にしたくない。
「とりあえず、私達だけでも優勝目指す?」
「だね」
そう決めて、校庭に出た。広い方ではないが、それでも割と大勢の生徒が表に出ている。皆、やることはやるということなのだろう。これは佐天や非色も負けていられない。
まずは足元。専用の紐で足を結び、解けないように固定する。
さて、続いて肩を組んで……。
「はい」
「え……?」
ふと、非色は体を止めてしまう。何故なら、肩を組むということは当然、身体が密着してしまうわけであって。特に、佐天は中一にしてはかなりの発育だ。
「あ〜……いや、その……か、肩組むの?」
「二人三脚だからね」
気付いていないのか、それとも分かっているけど気にしていないのか。何れにしても、佐天は平然としている。
なのに、自分があたふたするのはカッコ悪い。無理して強引に肩を組んだ。柔らかい感触が、自分の右半身に走り、少し胸が高鳴る。
「っ……!」
「非色くん?」
「な、何? 何でもないよ?」
「いや何も言ってないけど……」
すごかった。何がって、女の子の身体は思ったよりも柔らかかっ……じゃなくて! と、途中で首を横に振るう。練習中に何を考えているのか、自分は。
「じゃ、まずはお互いに外側の足からね?」
「そ、ソトガワ?」
「なんでカタコト?」
とにかく、頭の中で煩悩を殴り続け、正常な意識に戻す。と言っても、初めての感触にとても戻りそうにないわけだが。
「じゃ、せーのっ……1、2! 1、2……」
「い、いち……ニっ、位置、煮っ……はうっ⁉︎」
「ひ、非色くん⁉︎」
走ってる時にも、胸が揺れて自分の胸に当たったりあたらなかったり……お陰で結んだ脚はそのままにしたまま、身体を真横に逸らしてしまった。
「な、何してんの⁉︎」
「ご、ごめん……ちょっと、休ませて」
「まだ始まってもいませんが⁉︎」
思春期に入りつつある少年に、二人三脚はハードルが高過ぎた。ちなみに佐天が何とも思っていないのは、夏休みに入る前、自身の自宅で開かれたパーティーの時に、御坂と一緒に身体を突いた経験があったからであったり。
とにかく、その日の訓練は足を引っ張るに引っ張った。
×××
今日のヒーロー活動は休み。と言うのも、もう単純に半身に残った感触がいつまで経っても消えなかったからだ。
部屋に帰っても、ソファーの上で丸まったまま、ずっと右半身を撫で続けていると、いつの間にか姉が帰って来る時間になっていた。
「ただい……まぁ⁉︎ ひ、非色⁉︎ お、お腹でも痛いの?」
「……姉ちゃん……」
ボロボロになった表情で姉を見上げる非色。この超人である弟がここまでになるなんて、余程のことがあったに違いない。まさか、ヒーロー活動中に超能力者にでも襲われたのだろうか? だとしたら……。
「俺なんて死んじゃえば良いんだ……」
「何言ってんの⁉︎」
どうやら違うようだ。いくら敵に負けても「死んじゃえば良い」とはならない。
「ちょっと、どうしたの? 話しなさいよ」
「……」
言われて顔を上げる非色。言えるわけがない、唯一の肉親に異性の体について、なんて。
「……言わない」
「どうして⁉︎」
「俺みたいにえっちで下劣な触り魔は死んじゃえば良いんだああああ!」
「本当に何が⁉︎」
非色には全く無縁だと思っていた言葉が飛び込んできて、思わず美偉は割と本気で心配になってしまう。
「とにかく落ち着いて! 何があったとしても、あなたが死んじゃえば良い、なんて事は無いんだからね⁉︎」
「……それは姉ちゃんが、俺が何したのかを知らないから言えるんだよ」
「……何したの?」
「言いたくない! 姉ちゃんのこと好きだし嫌われたくないから!」
「めんどくさい!」
そう言いつつも「やだこの弟可愛い」と思ったのは、言うまでもない。
「嫌わないから言ってごらんなさい? 私はあなたが例えスキルアウトになっても、絶対に見捨てず正しい道に引き摺り返すと誓うわ」
「……スキルアウトの方がまだマシなことだし……」
本当に面倒だった。普段、善性が溢れているから尚更のことだ。
しかし、そういう真っ直ぐな子供だからこそ、懐柔する方法はいくらでもあるわけで。
「じゃあ何? 非色は仮に私が、あなたの言う『嫌われるような事』をしてしまったら、私のこと嫌いになるの?」
「っ、そ、それは……」
「さっき『好き』と言ってくれたのは嘘だったのね……」
「う、嘘じゃないよ! 何があっても、俺は姉ちゃんが……!」
「じゃあ、私も一緒って言えば、話す気になる?」
「……」
言われて、非色は顔を真っ赤に染めて黙り込む。やはり、巷を騒がすヒーローであっても、所詮は中学生だ。姉には敵わない。
頬を赤く染めたまま、非色はポツリポツリと呟くように答えた。
「そ、その……実は、俺……」
「うん」
「佐天さんのおっぱいを触ってしまいました!」
言い方。
「謝って来なさい!」
当然、部屋を叩き出されるのだった。
×××
「いや……お前言い方ってもんがあるだろ……」
「ですよね……」
スキルアウト御用達のラーメン屋の屋台、そこで黒妻と晩ご飯を共にしていた。
「二人三脚で横乳が当たっただけで『おっぱいを触ってしまいました!』は大袈裟だろ……」
「いえ、大袈裟ではないです! 触れたことには変わりないんですから!」
五感が発達している非色にとって、触れるだけでもそれなりの感触は楽しめてしまうのだ。体操着越しの山が二つ、その下のブラジャーと、大きいと言っても所詮は中学生なので、ある程度の硬さと張りがある胸の感触が、全て楽しめてしまう。揉んだらどうなってしまうんだ。
「……まぁ、お前が反省してんならそれで良いだろ。別に、練習で多少、そういう事が起こるのは仕方ない事だし、ちゃんと美偉の誤解を解いてやれよ」
「でも、姉ちゃんって一度、怒ると中々、許してくれなくて……」
「あー……なら、その時は言ってやれよ」
「? 何を?」
「『姉ちゃんだって一年くらい前は黒妻さんのを握ってた癖に!』って」
「何を?」
「決まってんだろ? チ……」
「先輩?」
後ろから声が掛けられ、二人は揃って肩を震わせた。振り向くと、後ろには文字通り話題の女が立っていた。
「ね、姉ちゃん……お、俺実はまだ佐天さんに……」
「あ、ええ。あなたはいいの。さっき佐天さんに電話して大体、聞いたから。私こそちゃんと話聞いてあげなくてごめんね?」
「あ、ううん」
意外なことに、もう全く怒っていないどころか誤解まで解けていた。
「けど、気にしてたら佐天さんにも気を使わせちゃうから。なるべく意識しないようにしてあげること。良い?」
「わ、わかった!」
「じゃ、もう夜なんだし帰りなさい。どうしても慣れなかったら、私も何か協力するから」
「ありがとう!」
それだけ話すと、非色は帰ることにした。やはり、頼りになる姉だ。正直、解決するには女の子の身体にベタベタ触るしかないような悩みにも協力してくれるそうだ。
とりあえずホッとしていると、ふと気になったことがあったので聞いてみた。
「あ、ところで姉ちゃん。姉ちゃんは黒妻さんの何を握ったの?」
「帰ってなさい? ご飯できてるから先食べてて」
「え? いや……」
「……」
「あ、はい。帰ります」
その後、黒妻がどうなったのか、非色は知らない。