とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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アホほど準備をした奴が勝つ。

 さらに数日が経過した。アホほどの特訓を繰り返し、二人はガンガン実力をつけていった。まぁ二人三脚の実力なのだが。

 だが、それでも特訓の日々は当日が来るまで終わらない。

 

「念動能力者の対策は?」

「非色くんの合図次第で、宙返りして回避する事もあるため、フォームを作る」

「敵にリードを許されたときは?」

「慌てず焦らず、自分達のペースで走る。加速する手段がないため、堅実な走りが一番の利をもたらす」

「今回、有効と思われるブラフを全て答えよ」

「手をかざすなどの能力者の素振り、敵に焦っていることを悟られないように表情は固定する事、敵に『そこに罠がある』と思わせるように意味もなくジャンプしたり、潜るような仕草を取る事」

 

 現在、9月14日。大覇星祭まであと二週間ほど。

 教員が休みを取ったその日の数学の自習中、速烈で課題を終わらせた非色は、佐天の課題も解き方を教える事で秒で片付け、次の大覇星祭の対策の復習をしていた。

 

「……テスト前ですか?」

 

 初春から当然のツッコミが飛んできて、佐天は首を横に振る。

 

「違うよ。二人三脚の対策」

「なんか私の知ってる二人三脚対策と違うんですけど……」

「そりゃ相手が能力者だからね。私、ポーズだけなら宙返りも出来るようになったよ?」

「え、なんでそんな事……」

「能力者の妨害を回避するには、超人並みの動きが必要だからね。実際は非色くんが私の身体を持ち上げてくれるんだけど、形だけでも私もバク宙とかロンダートとか出来ないとって事で」

「ほ、本気過ぎる……」

 

 引き気味に初春は非色を眺めるが、非色は頭上に「?」を浮かべてキョトンとしている。よくそんな顔ができるものだ。

 

「当たり前でしょ。やるからには絶対に勝つ」

「そ、そうですか……でも、事前に情報収集するのはアンフェアな気が……」

「ジャイアントキリングで必要なのは情報だよ」

 

 それに、ルールでは禁止されていない。何より、自分の能力に自信がある奴ほど、そう言う細かい準備を怠るものだ。そこにつけ入る隙があると、非色は睨んでいた。

 

「よし、じゃあ続きね。佐天さん」

「うん!」

 

 ノリノリで当日に備える二人は、それはそれで楽しそうではあった。ダメ元だから、と言うのもあるのだろうが、気負わずに格上に挑む機会を得られるのはとても羨ましい。思わず、初春も混ざりたくなる程度には。

 しかし、まぁ残念ながら自分は風紀委員の仕事があるため参加は出来ないが。

 

「ふふ、頑張って下さいね。二人とも」

「「うん」」

 

 それだけ話すと、とりあえず勉強に集中する二人を、初春は黙って眺めながら「これは白井さんには話せないなぁ……」としみじみ思った。

 

 ×××

 

 さて、放課後。今日も大覇星祭の練習。佐天と非色は二人で肩を組み、一緒に走る。

 まずは普通に走る……のだが、佐天が全速力で走ってもバランスを崩さないくらいにはなった。

 続いて、まずは念動能力者の攻撃を回避するシュミレーション。非色が危機を察知し、組んでいる肩をトントンと叩く。

 直後、走っている方向を向いて非色を前に佐天は横に並びながら、小さく屈伸する。

 

「よっ……!」

 

 両足を振り上げ、頭を軸に空中を一回転する。実際は非色が佐天の身体を支えて跳んでいるわけだが、フォームは完璧だ。

 着地すると、再び外側の足から走り始める。続いて、今度は空中で前方に身体を倒して一回転し、着地する。

 などとシンクロ体操のような事を連続してこなしていた。周りの生徒から見たら「あいつら何の練習してんの?」と言う具合だろう。

 で、距離分を走り、ようやく一息つく。

 

「ふぅー! 疲れたぁ……!」

「お疲れさま」

「うん。……でも、このままならいけそうだね!」

「いや、これが出来てようやく勝負が出来るってだけだよ。基本的に、勝負は時の運だから」

「あ、なるほど……じゃあ、今スタートラインに立った所?」

「正確に言えば、スタートラインより一歩前かな。対策も一応、考えているわけだし」

「つまり……私達がリードしてる?」

「他のグループが、俺達の想定を超えていなければね」

「? ……あ、そ、そっか」

 

 徐々に話が難しくて分からなくなってきたが、なんとか理解が追いついた。要するに、当日になるまで結局、準備が万端かどうか分からないということだ。

 

「なんか……ドキドキしてきたよ……!」

「スポーツ選手はみんなこのドキドキを楽しんでるんだよ」

「も、もっと練習しようかな……」

「あ、いや過剰な練習は身体に負担かけちゃうから。程々にね? 苦労して練習したのに試合当日までに怪我して出場もできないなんて嫌でしょ?」

「あ、そ、そっか……分かった」

 

 とりあえずそこは止めておかなければならない。ここまでやったからには、非色だって勝ちたいものだ。

 まぁ、逆に言えば身体を壊さない程度になら練習しても良いということだが……それは良いだろう。とりあえず、楽しめれば良いのだから。辛い思いをしてまでやることではない。

 なので、必要以上に強要するのはやめようと、練習を再開しようとした直後だ。

 その非色に、佐天が聞いた。

 

「ところでさ、非色くん」

「? 何?」

「当日、白井さんとデートしないの?」

「な、なんでそれを⁉︎」

「あ、するんだ」

「っ……!」

 

 思わず滑らせた口を、非色は慌てて塞ぐ。が、もう遅い。

 

「へぇ〜? 白井さんと?」

「あ、うん……ま、まぁ……」

「なーんだ。白井さんを誘うようにけしかけようと思ってたのに……」

「な、なんでそんな事……」

「いや、見てるこっちとしては、かなりジレったいから」

「何がさ⁉︎」

 

 全然、話が見えない……と言わんばかりの反応をする非色だが、佐天から見ればむしろ白々しい。

 

「いやいや、白井さんのこと大好きなくせに……もう無理だよ」

「だ、大好き⁉︎ あ、いや好きだけど……」

「そういうんじゃなくてさ。正義感が強くて、時には規則を破る芯もあって、その上で自分にも優しく厳しくしてくれる白井さんを見てると、胸がドキドキするくらい緊張するんでしょ?」

「っ……う、うん……」

 

 顔を赤くして頷いて答えるしかない。基本的に嘘が苦手な非色は、この手のことを隠すことができないのだ。

 

「非色くんはヒーローやってるんだし、本当の気持ちを伝えられないまま白井さんと離れ離れ……なんて事になったら、後から後悔するかもよ?」

「え、は、離れ離れって……?」

「ほら、前に音信不通になったことあったじゃん。あんな感じでしばらく連絡取れなくなったりだとか……」

 

 そういう意味か、とホッと胸を撫で下ろしつつも、よくよく考えればほっと出来る事ではない。一方通行との一件、あれこそ上条と美琴が助けに来てくれたから無事に帰れたものの、あのまま一人だったら死んでいただろう。

 それに、ついこの前だって学園都市外部からとんでもない能力者が現れたし、万が一もあり得る。

 

「……で、でもぉ……告白は恥ずかしいしぃ……」

「……本当に悪人と戦ってるヒーロー?」

「う、ううううるさいな! 良いでしょ、もう! さ、続きやろう」

「まぁ、そうだよねぇ。女の子の身体にも弱いヒーローだもんねぇ」

「や、喧しいー!」

 

 その後、とりあえず強引に練習に戻った。まぁ、告白するにしてもなんにしても、もう少し勇気を振り絞らないと無理だ。何せ、向こうにキモがられたら最悪だ。「え、ヒーローだからってモテると思ってる?」「それともモテるためにヒーローやってた?」「死ねば?」と思われるのが怖い。

 いや、実際、黒子がそんな風に思うかはわからない。だが……どうしても悪かった時の想定が拭えない。

 もう少し女性に慣れたら……なんて、おそらく一生、告白できないんだろうな、というヘタレを発揮していた。

 

 ×××

 

「まったく……どう思います⁉︎ 俺、そんなに白井さんのこと大好きそうに見えます⁉︎」

 

 練習後、非色は木山の元で愚痴っていた。

 嫌な事があるとすぐ自分を頼ってくれるのは嬉しいが、愚痴を言えるような友達が、まさか十いくつも歳が離れている自分しかいないのだろうか? と、木山は少し不安になってしまう。

 まぁ、非色の場合は生い立ちが少々、特殊なため、仕方無いとは思うが。木山としても、世話になった少年を邪険にするつもりはない。

 何はともあれ、今の質問に対する答えを提示してやらねばならない。コーヒーを一口、口に含むと、一息ついてから答えた。

 

「とても分かりやすいよ、君は」

「ええっ⁉︎ そ、そんな……!」

「どれくらい分かりやすいかと言うと、夕飯前にお腹が膨れた少年に対して『お菓子食べ過ぎたでしょ』と言えるくらい分かりやすい」

「なんでそんな幼稚な例えなんですか⁉︎」

「君が幼稚だからだ」

「ひどい!」

 

 あんまりなセリフに、思わず悲痛なセリフを漏らしてしまう非色。しかし実際、幼稚なのだから仕方ない。

 そんな分かりきったこと、木山にとってはどうでも良い。それより気になるのは、その先の話だ。

 

「それで、しないのかね? 告白」

「えっ、こ……告白、ですか……?」

「分かっているのだろう? 君は死と隣り合わせの生活をしているわけだし、生きているうちに言うべきことは言った方が良いことくらい」

「……そ、そうなんですけど……うう……」

 

 恥ずかしさのあまり、そのまま俯いてしまう。告白、なんて自分には一番縁のない話だと思っていた。今年はやはり特殊な年だ。

 

「まぁ、告白するかしないかは君に任せるよ。するのであれば、ちゃんとシチュエーションを考えるように」

「え、ど、どういう事ですか?」

「私もそういう経験が多いわけでないから何とも言えないが……例えば、そうだな。他人にプロポーズを迫る際、フランス料理の店とラーメン屋……どちらが良いと思う?」

「ラーメン屋が良いです。フランス料理食べたことないし」

「……もう少し告白するかは考えた方が良いかもしれないな」

「何故ですか⁉︎」

「ああ、そうだ。君に渡しておきたいものがあった」

「聞いてました⁉︎」

 

 驚く程、あからさまに無視して強引に話を逸らした木山は、棚の中から一つの箱を取り出した。さらにそこから出したのは、腕時計だった。

 

「? なんですかそれ?」

「義手につける腕時計だよ」

「何故、腕時計?」

 

 まぁ、不思議だろう。普段、非色は腕時計をつけないし、義手限定なことも謎だ。

 それを見越していたように、木山は一から説明し始めた。

 

「やはり、その義手の弱点は接続部だ。この前のゴーレム戦でも、そこがやられかけていた」

「ああ、強化パーツって事ですか? でも、なんで時計?」

「戦闘時に、時計を押してみるんだ。そうなれば、左手を覆うように鋼鉄のグローブが出て来る。……ああ、掌の砲門は空くように出来ているから安心してくれたまえ」

「なるほど……あ、ありがとうございます!」

「使えるかどうかは実戦で試して欲しい。一応、ライフルの銃弾程度なら弾ける硬度にしておいた」

 

 言われて、非色は時計を受け取り、腕につけてみた。色は青と白。そのキザな色合いがまた、非色の心をくすぐる。見た目は完全に普通の腕時計だ。

 

「でも……普通の人と戦う時はこれ使ったら殺しちゃうかもですね」

「まぁ、その辺の使い分けは君の判断に任せるよ」

 

 目を輝かせながら腕時計を眺めているときだった。研究所のインターホンが鳴り響いた。

 

「? お客さんかな?」

「敵なら俺が叩き潰しますよ!」

「今の私に敵はいないから、落ち着きたまえ」

 

 腕時計で試しにグローブを作ってシャドウボクシングをし始めた中学生を落ち着けた木山は、そのまま応答する。向こうにいるのは、御坂美琴に瓜二つの少女だった。

 

「妹達? 何か私に用かい?」

『夜分遅くに失礼します。こちらに、ヒーローさんはいらっしゃいますか? と、ミサカは恐れながら要件のみを伝えます』

「いるよ」

『助けていただきたい事があるので、代わっていただけますか?』

「ああ、分かったよ。立ち話もなんだ、入りたまえ」

 

 そう言うと、木山は研究所の扉を開けた。数秒後、御坂妹が中に入って来る。

 

「あ、妹さん。どうしたの?」

「時間がないので、要件のみで失礼します。ヒーローさん」

「何? 今の俺、ご機嫌だから大概のことはオーケーしちゃうよ」

「ミサカ達に再び危機が迫っています。現在、お姉さまの後輩と思わしき方が交戦中ですので、移動しながらの説明を推奨します。……と、ミサカは提案を……」

「行こうか」

 

 すぐに黒子のことを言っている、と理解した非色は、頷いて立ち上がる。木山に挨拶をして研究所を飛び出した。

 唐突に危機が飛び込んでくるパターン……なんと無く嫌な予感がしつつ、変身して現場に向かった。

 

 




章タイトル色々変えましたが、今のに落ち着きました。

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