とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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大覇星祭編
ヒーロータイムは唐突に。


 大覇星祭、それは学園都市で毎年、七日間に渡って開催される行事である。一般的な運動会とは異なり、学園都市の全生徒が学校単位で参加。しかも、その様子はテレビによって世界に配信され、生徒の父兄には学園都市の内部が一部開放される。

 何よりの違いは、すべての種目が能力者達によって競われることにある。

 さて、そんなイベントの初日、つまり開会式の日、非色は遅刻ギリギリで街を走っていた。理由は単純、ついいつもの癖で、学生服で登校しようとしたからだ。

 大慌てで部屋に引き返すが、このままでは間に合わない。そのため、ヒーロースーツに着替えていた。こういう時、コンパクトな変身アイテムはとても助かるものだ。

 開会式といっても、現地に赴くのは学園都市の中でも、常盤台や霧ヶ丘のような名門校だけで、柵川中学のような一般的な学校はそれぞれの校舎にのみ集まる。

 従って、非色もそれに従っていたのだが……。

 

「おいおい……なんだあれ?」

「学園都市にはあんなヒーローのコスプレしてる奴もいるのか?」

「能力者なのか素なのか知らねーけど、すごいな」

 

 当然、一般客がいる以上は注目が集まってしまう。悪い気はしないが、正直、居心地も悪い。何より、このまま移動すれば、さらに多くの人に見られ、柵川中学生がヒーローである事がバレる。

 

「……遅刻を覚悟するしかないかな」

 

 そう呟くと、近くのビルに侵入し、装備を解除した。そのまま窓から飛び降り、シュタッと着地する。サングラスだけ装備したまま、最短ルートを検索しようとした時だ。

 

「こんな所でサボりかしらぁ? そういうの、いけないんだゾ?」

「っ⁉︎」

 

 慌てて振り返ると、そこには綺麗な金髪の少女がいた。……いや、スタイル的には少女じゃない。思わず、目を逸らしてしまうほど。

 

「え、あ……い、今の見てた?」

「ん? 何のことかしらぁ? 私、今来た所だしぃ」

「そ、そっか……」

 

 とりあえずホッと胸を撫で下ろしながら、サングラスを外す。

 

「えっと……君も遅刻じゃない?」

「私は良いのよ。操作力でどうとでもなるしぃ……」

「操作? よく分かんないけど……俺、送ろうか?」

「大丈夫。それより、早く行かないと遅刻確定だゾ?」

「あ、うん。じゃ、またね」

 

 それだけ話すと、引き続き非色は人に気付かれにくいルートから学校に向かう。

 その背中を眺めながら、金髪の少女……食蜂操祈はニヤリと唇を歪ませた。

 

「ふふっ……素直で良い子じゃなぁい。それだけに、危険かもしれないケド」

 

 そう言いつつ、自分も目的地に向かった。ギリギリの時間ではあるが、全然間に合う。これから、開会式での開会宣言だ。

 

 ×××

 

 開会式が終わり、白井黒子は早速、初春飾利と行動を共にしていた。と、言うのも、怪我を負った黒子は出場不可な上、車椅子に乗らなければならない。従って、出場者でない人に力を借りる他ないのだ。

 

「はぁーあ……別に、車椅子なんて必要ありませんのに……」

「念には念を入れるためですよ、白井さん。……多分、無理させないようにっていう意味があってのことだとも思います」

「はぁ……まぁ、確かにこの前の件は反省しておりますが……」

 

 そう言いつつも、やはり車椅子生活というのは少し窮屈だ。自由に動けないし、誰かに押してもらわないと小回りも効かない。

 ……というか、あの男はどうしたのだろうか? 自分が告白した相手。未だに返事をよこさず、催促しても「え、いや、あの……ちょっと恥ずかしいので……もう少し待って……」とか濁す男らしくない奴。あれは何してるのだろうか? 

 それに、佐天の姿がないのも気になる。……もしかして、あの二人は既に付き合っているのだろうか? だから、自分の告白の返事も濁しているんじゃ……なんて少し不安になっていると、初春が声をかけてきた。

 

「あ、白井さん。あのモニター、御坂さん達の競技みたいですよ」

「見ましょう」

 

 速烈でモニターの方を振り向いた。競技は二人三脚。ちょうど、アナウンスが続いていた。

 

『さらに第三コース、常盤台中学所属……御坂美琴、婚后光子ペア!』

「お姉様……あの憎き婚后光子と……うぎぎっ!」

「ま、まぁまぁ白井さん。どの道、怪我してしまったんですし、仕方ないですよ」

『最後、第四コースは柵川中学所属、佐天涙子、固法非色ペアだ!』

「……は?」

 

 最後のセリフに、黒子はポカンと口を開ける。知っていた初春が思わず吹き出す程度には面白い声と顔だった。

 モニター上には、確かに佐天と非色の姿がある。

 

「……なんで?」

「出場するそうですよ? 聞いてないんですか?」

「あ、あなた、知ってて黙っていましたわね⁉︎ ……あ、まさか固法先輩がいないのは……!」

「生で見に行っているからです」

「意外とブラコンですわよね、あの方……」

 

 そう呟きつつも、黒子の怒りは別の人に向かっていた。その対象は、固法非色。多分、告白する前から決まっていたこととはいえ、告られた子に返事もしていないのに、他の子とあんなに密着するだろうか。

 ……まさか、それこそ本当に佐天と付き合っているとか……。

 

「……」

「一応、言っておくと、非色くんと佐天さんは付き合ってませんよ?」

「べ、別にそんな事で不安になどなっていませんの!」

「そうですか」

 

 冷たく返しつつ、とりあえず試合を観戦する事にした。

 

 ×××

 

「なんであんた達いるわけ……?」

「そりゃ勿論、勝つためですよ!」

 

 美琴のげんなりした表情に、佐天はピースを使って答えた。まるでいたずらが成功した子供のようである。

 能力者の中に、たった二人だけ無能力者だが、美琴は油断出来ない。何故なら、非色がいるからだ。

 

「まさか、このような所で固法さんと相対することになるとは……しかし、私も負けられませんの。手抜きはしませんわよ?」

「あ、あはは……お手柔らかに」

 

 婚后に言われ、非色は苦笑いで応える。随分と久しぶりに顔を合わせた相手だが、ほぼ初対面に等しいのでコミュ障を発動してしまう。

 さて、そろそろスタート時間だ。各走者達は、一斉にスタートラインであるアーチの下に並び、構える。

 直後、ふと非色は敵意を感知。耳元で、すぐ佐天に指示を出した。

 

「開始直後、垂直跳びね」

「! 了解……!」

 

 そう告げた直後、アナウンスの声が聞こえる。

 

『さて、このレース……やはり常盤台が堅いと見て良いのかな?』

『能力をぶっ倒れるまでぶつけ合うならそうだろうけど、レースというルールがある上で勝ちを競うのなら、戦術次第で大番狂わせもあるかと!』

『と言うと……それこそ唯一の無能力者ペア、柵川中学の二人も?』

『まぁ、参加することに意義がありますから。無理だと諦めて何もしなかったら、何も起こりません』

 

 少なくとも、佐天にとってはカチンと来る実況である。非色は苦笑いで受け流しているが、もちろん内心は穏やかではない。

 何も知らないアナウンスは、そのまま声を掛ける。

 

『さぁ、間も無くレーススタートです』

 

 審判が、耳に手を当て、ピストルを空に向ける。それにより、走者全員の表情が引き締まった。

 パンッ、という乾いた発砲音の直後、全走者がスタート……とはならなかった。第二走者の二人組、藍鈴女子の片方の身に纏われている包帯、それと道路の舗装の一部が四散した。

 

「おおおおおおッ⁉︎」

「んんっ⁉︎ な、何事で……!」

 

 襲いかかる対象は、他の三組の走者。それらの身体に巻き付き、全員が身動きが取れなくなる。

 

『あーっと、スタート同時に藍鈴女子高校の選手の包帯が、ヘビのように絡み付いたァッ‼︎』

『いや、一組だけ逃れていますね』

『えっ?』

 

 そう言う通り、柵川中学の二人組は、垂直にジャンプし、スタート位置の印であるアーチに掴まっていた。

 

『おおーっと! 意外や意外、まさかの無能力者ペアだけ、今の攻撃を逃れたようです!』

『しかし、藍鈴女子の二人はすでにスタートしています。逃れただけでは意味がないでしょう』

 

 そう言う通り、差は少しずつ開いている。佐天が「どうするの?」なんて聞くまでも無く、非色から指示が出た。

 

「身体を大きく振って、一気にジャンプするよ。佐天さんはポーズだけ真似してくれれば良いから」

「了解!」

 

 そう言って、2、3回ほど体を振った直後、大きくジャンプした。それこそ、リードを許した二人組に並ぶ位置まで。

 

「げっ……ま、マジ⁉︎」

「胸を借りますよ、先輩」

 

 そう言うと、非色と佐天は地味に走り始めた。

 

『おーっと! 柵川中学コンビ、一気にトップ争いを繰り広げた!』

『身体能力だけであれやった、という事でしょうね。二人とも中学生にしては良い体格していますし、不可能ではないのでしょう』

『いや、にしても二人三脚であんな綺麗に着地できる?』

『とにかく、これでレースは大きく二組に分かれた事になります。このままトップの二組が勝ち上がるのか、後半組が巻き返すのか、波乱の展開となりました!』

 

 そのアナウンスを背に、非色と佐天は隣からのアスファルトを利用した妨害を回避しながら進んだ。

 

 ×××

 

「よし、抜けましたわ! さぁ、参りますわよ、御坂さん!」

「……」

「御坂さん?」

 

 能力から抜け出した婚后は、隣の美琴に声を掛ける。……が、その表情は婚后ですら鳥肌が立つほどの怒りを蓄えていた。

 

「ど、どうかされましたの?」

「婚后さん、さっきの非色くんの顔、見た?」

「え?」

「口パクでこう言ったの。『お先に失礼します』って」

 

 ピキッ、と、婚后の額にも青筋が浮かぶ。

 

「年上として、教えてやらないとね」

「そうですわね。目上の者への態度というものを」

 

 それだけ言うと、二人は一気に走り出した。絶対に負けたくない。あの生意気な後輩には。

 

 ×××

 

「もう……! 何なのよこいつら……!」

「全然、当たらない!」

 

 藍鈴女子の二人組が、直接的なものでは無く足元のアスファルトを緩め、捕らえに行っているわけだが、非色の反応速度による回避以外、全て走りに捧げているため、徐々に差が開いていく。

 そんな時だった。そんなトップ争いをする二人組に、もう一組の影が迫る。

 

「行くぜオラアアアア!」

「退け退け退けェッ‼︎」

 

 足元の摩擦係数を無くし、手元に火を出して加速している男組が距離を詰めて来ていた。

 

「チッ……! もう来た……!」

 

 見事なコントロールで、舗装道路の崩れた部分を回避しながら距離を詰めていく。

 その二人組がまず目をつけたのは、藍鈴女子の二人だった。まずは地面そのものを無茶苦茶にしてくる奴らをリタイアさせないといけない。

 速度なら負けないので、妨害の手段がない無能力者組など無視で良いのだ。一気に藍鈴女子達を追い抜く。

 しかし、その抜かれた二人はニヤリと微笑んだ。

 

「念動能力者の前を走るなんて、愚の骨頂!」

 

 そう言って、能力を起動しようとした時だ。ツルッと足を滑らせた。

 

「なっ……⁉︎」

「悪ぃな、俺達はトップに躍り出れば、もう抜かれる事はねぇんだ」

「き、きゃああああ⁉︎」

 

 足を掬われ、そのままツルツルとクッションになっている壁に衝突する。さて、これで前を走るのは無能力者の二人だけだ。

 

「普通に出し抜ける相手だが……」

「念には念を入れさせてもらうぜ」

 

 そう言うと、一気に距離を縮めていった。その後ろで、砂鉄による紐が繋がれていて、水上スキーのように常盤台組がついてきているのも知らずに。

 楽をしている二人のうちの電撃使いが、風力使いに声をかけた。

 

「そろそろ良いんじゃない? 勢いついたし、道も作ってくれたし」

「ですわね。では、参りますわよ」

 

 直後、突風が発生した。それにより、二人の体は一気に前進する。ピッタリと前にいた男二人の後ろを追って。

 

「げっ……ま、マジかよ⁉︎」

「さて、まずはあいつらから抜くわよ」

「ええ」

 

 そう言った直後、美琴は近くの街灯に電気を伸ばし、ぶら下がると大きくジャンプして男子組を追い抜いた。

 さて、前を走る残る一組は無能力者組の二人だけだ。チラッと非色に目を向ける美琴。向こうも同じように自分を見据えている。

 

「上等よ……行くわよ、婚后さん!」

「ええ!」

 

 そのまま二人で走り出した。ほぼ走る速さは一緒だが、差が1メートルほど開いていて簡単には追いつけない。

 だが、美琴には余裕があった。何故なら、キチンと非色限定の対策は考えておいたから。彼には能力など使う必要もない。たった一言で動きを止められる。

 一方で、非色にも美琴への対策は出来ていた。おそらくだが、これで勝てるはずだ。

 ゴールまでもうあと5メートルを切った。あと3秒もせずにゴール出来る、という点で、非色と美琴は同時にお互いの反対側の観客の方を指さした。

 

「あっ、上条さんが応援してる!」

「あっ、黒子が応援してる!」

「「ええっ⁉︎」」

 

 二人揃って動揺し、パートナーを巻き込んで転び、ほぼ同時にゴールテープを切った。

 

 ×××

 

「まったく……汚い真似を……」

「あんたが言いますか」

「どっちもですよ……」

「しかし、良い勝負でしたわ」

 

 四人で歩きながら、転んでついた体操服の汚れを払う。

 

「あーもう、私これからまだ競技あるのに……!」

「とりあえず、着替えて来たらどうです?」

「そうね。一度、寮に戻るわ」

「私も泡浮さん達と合流しませんと」

 

 との事で、とりあえず四人は解散した。結果は、一応同率一位ということで、無能力者コンビとしては大金星である。

 満足した佐天は、非色に声をかけた。

 

「で、この後どうする? とりあえず、二人で打ち上げでも……」

「ごめん、用ができた。それ明日からでも良い?」

「え?」

「さっき序盤でジャンプした時、なんか見えたから」

 

 大きくジャンプし、距離を稼いだ時だった。非色の視界には、路地裏で怪しくたむろする黒い服の神父と、金髪グラサン体操服が何かを話しているのが見えた。まず間違いなく堅気の人間ではない。

 

「あ、あー……もしかして……」

「白井さん達には内緒にしておいて」

 

 言いながら、非色は路地裏に入り、ポケットから変身アイテムを取り出す。それによって身を包むと、そのままビルの屋上に跳ね上がった。

 

 

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