とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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追跡ゲームは情報と推測が命。

 ステイル=マグヌスは、魔術師である。今は、上条当麻の知り合いということで、外部から観光客として学園都市に来ていた。以前から、インデックスの件やら何やらでちょくちょく学園都市に出向いている。

 そのステイルは土御門元春と、上条当麻と話をしていた。

 

「魔術師が……?」

「ああ。この街に潜入して、厄介な代物を取引しているんですたい」

 

 中途半端な博多弁で土御門に説明され、上条は表情を引き締める。

 

「それで、ステイルもここに来てるってのか?」

「じゃなきゃ、好きにタバコも吸えず、機械の目に二十四時間も監視されるような街に、わざわざここに近寄る理由もないね」

「いかんな〜ステイル。フリでももっと楽しそうにできんもんかにゃー? 表向きは旅行者なんだぜい?」

「ふんっ」

 

 そう言われても、気に入らないものは気に入らない。せめて、喫煙くらいは好きにさせて欲しいもの、というのがステイルの主張だったが、そもそも日本では二十歳未満のタバコは厳禁である。

 

「なら、神裂は来ないのか? 一応、知り合いだし……あいつ聖人とか言ってめちゃくちゃ強いんじゃなかったっけ?」

「ダメだ。神裂は使えない。何しろ、取引される霊装が霊装で……」

「どうも。こんな所でいじめの相談? 俺も混ぜてよ」

 

 唐突に、明るい声がかけられ、ステイルと土御門は声のする方を見て応戦体制に入る……が、遅かった。既にその男は、自分達の真ん中に割り込んでいる。

 

「って、二丁水銃⁉︎ ま、待て……!」

「待ちません」

「チッ、面倒な……!」

 

 ステイルが魔術を使用するよりも早く、非色が拳を振るう。裏拳がステイルの顔面に直撃し、壁に背中を強打する。

 

「お、おい待て固法!」

「は? ……あ、か、上条さん⁉︎」

 

 慌てて声をかけた上条により、土御門の顔面にも迫っていた拳はピタッと制止した。

 

「ふぅ……危なかったな……」

「ステイル、無事か⁉︎」

「何とか、ね……」

 

 よろけたまま身体を起こすステイルは、ジロリと割り込んできた覆面の男を見る。

 

「何者かな? 君は」

「ヒーロー」

「……バカにしているのか?」

「それはこっちのセリフだよ。学園都市の人間でも無ければ、生徒の観戦に来た奴でもないよね。そんな奴が『何者』なんて聞く権利あると思ってんの?」

「チッ……話にならないな」

「まぁ待て、ステイル」

 

 間に入ったのは土御門だ。お互いの立場を一応、知っているため、こういう場合の話の整理は自分がするべきだろう。

 

「こいつは一応、ヒーローで名前が通ってる。名前は二丁水銃。ふざけた格好をしてるけど、実力はある」

「ふざけてないよ! 木……協力者の人が作ってくれた大事なスーツだよ!」

「はいはい。で、ヒーロー。こいつはお前の言う通り学園都市の人間でもないし、観戦が目的で来てもいない。けど、この街の脅威になる為に侵入したわけでもない」

「信用できると思ってんの? 言っとくけど、あんたも十分怪しいからね」

「待てよ、固法」

 

 更に口を挟んだのは上条だった。

 

「本当にこいつらは悪い奴じゃない。インデックスの友達だ」

「そうなんですか? あと、あの……この格好してる時に名前で呼んで欲しくないんですけど……」

「あ、ああ、そっか。とにかく、むしろこいつらは今、学園都市に紛れ込んだ本当の敵を探しに来てる」

「て言うと……この前のゴーレムみたいな?」

「そうだ」

 

 言われて、とりあえず非色は構えを解く。上条がそう言うのなら、とりあえず従っておいても良いのだろう。

 

「なんだ、それならそうと言ってよ〜。あ、大丈夫? 頬腫れちゃってるな……湿布いる?」

「必要ない」

 

 そう言いつつ、ステイルはジロリと非色を見下ろす。

 

「とにかく、君には関係のない話だ。さっさとそのヒーロー活動とかいうのに戻りたまえ」

「そうはいかないよ。学園都市に敵が紛れ込んでいるんでしょ? なら、俺も働かないわけにはいかない」

「……魔術師がどういう相手か分かっていないのか? 君のようなサークル活動とはわけが違う」

「君と同レベルな相手なら何の問題もないよ」

 

 ピクッ、とステイルは片眉をあげ、上条と土御門は冷や汗を流す。この二人、まさか相性悪いのだろうか? 

 とにかく、今はこんなことで遊んでいる場合ではない。

 

「おいおい、ステイル。とにかく今は言い争いなんかしている場合じゃないぜい?」

「……そうは言うがね」

「ヒーロー。協力したいと言うのなら、まずはそれを証明してもらおうかにゃー?」

「土御門、本気かい? 僕はこんなの信用できないんだけどね」

「分かってる。こいつは俺達の味方じゃない。けど、敵でもないんだぜい? 使えるものは利用しておかないと、止められるもんも止められんぜよ」

「……」

「それに、固の……二丁水銃は普通に良い奴だ。新聞やニュースで活躍している所も報じられているし、インデックスも助けてもらった事がある。悪い奴じゃねえよ」

 

 上条にまでそんな風に言われれば、ステイルも頷くしかない。ある意味では上条当麻以上の最悪な初対面であったから、気に入らないのだが。

 

「で? どうする?」

「その運び屋を捕まえることで証明するよ。そいつの特徴は?」

「名前はオリアナ・トムソン。外見の見た目は分かっていないが、強いて言うなら、デカいものを持っている」

 

 その説明には、上条が片眉を上げる。

 

「どういう事だよ?」

「さっきも言ったぜ、カミやん。こいつは……」

「運び屋だからって事だよね。それなりに大きなものを運送している、ってとこ?」

「そういう事だにゃー。外国人の女で、さらに何か大きなものを運んでるとなれば、それなりに縛られるだろ?」

「了解」

「そうだ、土御門。それでなんで神裂は無理なんだよ?」

 

 思い出したように上条が聞くと、土御門とステイルは微妙に神妙な顔になる。上条は当然、神裂も知らない非色は頭上に「?」を浮かべる。

 

「その霊装の名前は『刺突杭剣』って言うんだぜい。そいつの効果はな、あらゆる聖人を一撃で即死させる、だ」

「!」

「せーじん?」

「詳細は省くぜい。それを説明してやる時間はない。そういうメチャ強人種がいると思え。刺突杭剣は、その聖人を一撃で葬られる。距離に関係なく、切先を向けられただけでな」

 

 なるほど、と非色は顎に手を当てる。その聖人がなんだか分からないが、そんなものがあるのなら確かに危ない。それが聖人であれなんであれ、人の命がかかっているのであればヒーローの出番だ。

 

「分かった。とりあえず外国人の女で大きな荷物を持ってる奴、ね?」

「ああ」

「じゃ、とりあえず上から見て回るよ。……あ、連絡先」

「ほいほい」

 

 土御門と連絡先だけ交換すると、非色はその場でジャンプし、ビルの屋上に移動した。その背中を眺めながら、土御門は上条に声を掛ける。

 

「……で、カミやん。とりあえずお前さんはインデックスの方を頼む」

「どういう事だ?」

「今回の件、とりあえず禁書目録は巻き込まない方が良いってことですたい。この学園都市は魔術的真空地帯だが、それをよく思っていない連中は常に学園都市に監視の目を置き、学園都市へ乗り込む大義名分を手に入れようとしている」

「マジかよ……」

「逆に、そんな連中の目をインデックスに向けさせておけば、俺やステイルが多少、暴れても見過ごされる可能性がある」

「君の本来の仕事だな。なるべく、彼女の側にいてやれ。魔術さんが起こりそうなものなら、こちらから連絡するからさりげなく遠ざけておいてくれ」

「わ、分かった」

 

 それだけ話すと、上条はとりあえずその場から離れる。残ったのは、ステイルと土御門。

 二本目のタバコに火をつけながら、ステイルは土御門に声を掛けた。

 

「……で、土御門。あのヒーローとかいう奴、本気で信用するつもりか?」

「まさか。手は増やすけど、こちらから連絡は渡さんぜい。何せ、あっちはカミやん以上に魔術師について何も知らないからにゃー。無意識にでもこちらの情報や戦力をバラされる事もある」

「だろうね。なら良かったよ」

 

 この町でどれだけ信用されていようが、それが自分達まで信用できる、ということにはならない。

 

「ただ……ステイル。あのヒーローは確かに使える男だぜい? 何せ、今見ただけでもとんでもない跳躍力だ」

「……能力者ではなかったのか?」

「だよな、普通はそう思う所だが、無能力者なんだにゃー」

「まさか先日、戻って来たシェリー=クロムウェルが話していた『聖人もどき』とは……」

「そう、あいつの事だ」

 

 なるほど、とステイルは相槌を打つ。

 

「色んな事情があるにせよ、あいつはあいつで自分の青臭い正義に従って動いている。少なくとも、オレ達がこの街で問題を起こさない限りは、あいつが敵に回ることはない……と、思って良いですたい」

「……分かった。必要以上に邪険にするのはよそう」

 

 そう言いつつ、二人もその場で動き始めた。

 

 ×××

 

 早速、動き始めたヒーローは、ビルの屋上を跳ねながら移動していた。一般客だけで無く生徒からも注目されるが、今朝と違って気にしている余裕はなかった。

 さて、このクソ広い学園都市の中でたった一人の人間を見つける……やはり、簡単ではない。特徴があるとはいえ、それはあくまで人間単位で見られる特徴だ。それこそ、さっきの神父レベルの特徴が欲しいものだ。

 

「とりあえず……推理してみるしかないか……」

 

 その物をどこに運ぶか分からない以上、通りそうな場所を推測するしかない。

 おそらくだが、素人ではないのだろう。何せ、学園都市に「侵入」という形で来ているのだから。

 その上、追われている自覚もあると考えて良いだろう。運び屋、と言っていた以上、そう考えるのが自然だ。

 大きさはかなりの大きさ、というが人間が運べるものの大きさなど、自分の身長と同じくらいのものが限界だ。そうでないと、戦闘が起きた時に対処出来ない。いや、それより小さいかもしれない。戦闘の際は、せめて片手だけでも空けなければならないから。

 そこそこな大きさで、片手で持てる荷物を運ぶ際、自分ならどういう道を運ぶか。

 

「ビルの上……って、ダメダメ」

 

 自分が超人であることを抜きにして考えなければならない。

 となると、やはり人混みに紛れつつ、走っても運んでいるものが他人にぶつからない程々な場所がベストだろう。学園都市外部の人間にそれが選べられるとは思えない。地図くらいは提供されているのだろうが、そこから分かるのは「ここなら運ぶのにちょうど良さそう」くらいのものだけだ。

 なら、自分もそこへ向かえば良い。何箇所かあるが、20分粘って来なければ他の場所へ移る。時間がかかり過ぎるが、これしかないだろう。

 

「……」

 

 一瞬、初春に協力してもらうのも考えたが、それはダメだ。今頃、車椅子の黒子と一緒に行動しているだろうし、何より年に一度のお祭りを自分の都合で邪魔したくない。

 しばらく移動をしていると、電話がかかって来た。応答すると、白井黒子からだった。

 

「もしもし?」

『あ、非色さんですの? 見ましたわ、あなたの競技』

「え? あ、それはどうも」

『お姉様のペアと互角とは流石ですわ。……それで、その……良かったら、佐天さんも一緒に打ち上げとかは……』

「ごめん今忙しいから無理」

『え? いや……』

「じゃーね」

 

 一方的に電話を切ってしまった。今、非色にとって重要なのは、学園都市の敵だけだ。もちろん、そんな断り方をすれば、つい先日、告白したばかりの少女は反感を抱くわけで。

 

『ちょっ、あなた本気で切る気……!』

 

 あっさりと切ってしまった。そのまま、街をしばらく駆け巡って最初のポイントにつくと、ふと視界に入った。金髪の髪、大きな布で包んだ荷物を持った女性が。

 

「見つけた……!」

 

 ニヤリとほくそ笑むと、追跡を開始した。

 

 


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