とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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大きなお胸は男子高校生の夢。

 情報待ち、とのことで、非色は一先ずヒーロースーツを解除して、のんびりと学園都市内を歩く。お昼にはまだ早いが、かと言ってそれまですることも無い。一先ず、どうせ暇してる一方通行と遊びにでも行こうか……と、思った時だ。

 

「見つけましたわ!」

 

 聞きたいけど聞きたく無い声が聞こえ、思わず肩を震わせる。ギギギっ……と、ぎこちなさの極みのような動きで後ろを見ると、白井黒子が佐天、初春に車椅子を押してもらっていた。

 

「し、白井さん……どうしたの? こんな所で……」

「どうしたの? ではありませんわ! そちらこそどうかしたんです?」

「え、な、何が?」

「分かるでしょう! さっきの電話ー!」

 

 言われて、非色は顎に手を当てる。そういえば、さっき電話がかかって来た気がする。

 

「あ、ああ……そのことか……いえ、あれはちょっと急いでた、から……」

「何にです?」

「え? えーっと……えーっと……」

 

 本当に言い訳が下手な男の子である。じとーっと黒子に睨まれ、非色は大量に冷や汗をかきながら目を逸らす。

 その非色に追撃するように、佐天が冗談めかして口を挟んだ。

 

「あー、もしかしてエッチな本でも拾ったんでしょー?」

「っ、え、エッチな……本……?」

 

 それを言われると脳裏に映るのは、先程の光景。ブルジュ・ハリファが2本並んでいる光景だ。

 思わず、頬を真っ赤に染めて俯いてしまう。

 

「そ、そんなわけ……ないじゃん……」

「え」

「え」

「なっ……⁉︎」

 

 当然、つい最近、告白してから未だに返事をもらっていない黒子は、顔を真っ赤にして怒るわけで。車椅子の上からテレポートし、非色の目の前で手のひらを振りかぶった。

 

「っ……こ、この変態男!」

「うわっ……⁉︎」

 

 その一撃を、非色は身体を逸らして回避した。

 

「な、なんですか⁉︎ 違うって言ってるでしょ!」

「今の反応で違うと思う奴はいませんの!」

「よ、よく見てよ! 今の俺、手ぶらじゃん!」

「体操服を脱ぎなさい! ズボンの間に挟んでるかもしれませんわ!」

「変態はどっちだー!」

 

 なんてやり始めれば当然、周りの人の視線は集まってしまうわけで。佐天と初春は離脱作戦に入った。一言で言えば、他人のフリである。

 それにも気付かず、ヒートアップした黒子はさらに口々に追撃する。

 

「そもそも、あなたは人に告白された自覚がおありですの⁉︎ もう一週間も返事を保留にしていますが、どういうつもりなんです⁉︎」

「あ、いやその件はほんとに悪いと思ってるけど……」

「それなのにエッチな本のために用件すら聞かずに電話を切るとは何事ですの⁉︎」

「だ、だからエッチな本なんて知らないって!」

「これだから殿方は嫌なんです! すぐに女性をそういう目で見て……!」

「なっ……なんですかそれ⁉︎」

 

 言われて、非色は黒子の身体を見下ろす。さっき、エベレストを見たからだろうか? 目の前の砂山を前に、思わず鼻で笑ったような息が漏れた。それが、さらに黒子の怒りにニトログリセリンをぶっかけた。

 

「なんですか今の笑いはああああああ‼︎」

「わ、笑ってません! 笑ってませんってばー!」

 

 そのまま二人は鬼ごっこ開始。非色は変身していないので、大きくビルの上を駆け上がるとか無理。従って、路地裏を利用する事にした。

 すぐにビルとビルの間に入り、走って逃走する。

 

「もー! 勘弁してよー!」

「喧しいですわ! 覚悟しなさい、この変態朴念仁どすけべ男ー!」

 

 テレポートされてくる金属矢を避けて躱して回避してまた避ける。しかし、大ジャンプも水鉄砲も封印されている今は、流石にテレポートを全て避け切るのは難しい。

 それを理解している黒子は、確実に追い詰めるために先回りした。

 

「いっ……⁉︎」

「捕らえました、わよ!」

 

 そう言って、非色から見て12時の方向にある看板の上に着地しようと思った直後だ。足をつけた直後、ズキッと傷口から痛みが走る。その結果、足を看板から踏み外した。

 

「しまっ……!」

 

 ヤバい、と思った頃にはもう遅い。黒子の身体は地面に落下していく。ここで逃げれば、間違いなく逃げ切れるのだろうが、そんなのヒーローとしての矜持が許さない。

 人の限界を遥かに超えた速度で、非色は黒子をキャッチした。膝の後ろと背中に腕を添えて抱き上げ、キュッと目を瞑っている少女を見下ろす。

 

「平気? 白井さん」

「はえ……?」

「ダメだよ、怪我してるのに暴れちゃ」

 

 そう優しく上から近距離で告げられ、黒子の顔は一気に真っ赤に染まる。その結果……。

 

「ってえっ⁉︎ な、何するんですか⁉︎」

「う、ううううるさいですの! そもそも、誰の所為でこうなったと思っているんです⁉︎」

 

 ヒュッ、パァンッ! と、鞭で引っ叩いたような音で非色を殴り飛ばした。

 

 ×××

 

 頬に大きな紅葉を作った非色は、ヒリヒリする頬を押さえながら土御門から連絡があった場所に向かっていた。

 そんな中、背後からまた声がかけられる。

 

「あ、固法!」

「ん? ……あ、上条さん」

「大丈夫か? 魔術師探しの方は」

 

 そういえば、この人も話だけは耳にしていた。一応、インデックスの方担当という名目で最前線から外されてはいるが。

 なんであれ、たまたまオリアナでも見つけて追いかけられたら困る。情報の共有だけ済ませておくことにした。

 

「はい。一応、見つけて刺突杭剣は壊しました」

「なんだ、もう終わったのか?」

「いや、それがどうも話は単純じゃないみたいでして……刺突杭剣じゃなかったので、土御門さんとステイルさんが調べてくれています」

 

 正直、魔術師の方がどうという話は、非色にはさっぱりだ。この街に魔術について調べる術はないだろうし、何もすることが無い。

 とはいえ、その土御門に今は呼び出されているわけだが。おそらく情報が得られるのだろうが、それを上条に伝える気はなかった。ヒーローは一般人を巻き込まない。

 

「そうか……何か分かったら言ってくれ。何でも手伝うからな」

「はい」

 

 テキトーな返事をすると、一先ず上条と別れて待ち合わせ場所に向かう。嘘をつくのは良心が痛むが、それも上条のためであり、上条と一緒に大覇星祭を楽しむクラスメートやインデックスのためだ。

 

 ×××

 

「と、いうわけで、あれがヒーローだにゃー、カミやん」

 

 走って土御門の指定した場所に向かう非色の背中を眺めながら、土御門は上条と話していた。

 土御門は、上条を呼び出していた。現状を伝えると共に、少しヒーローについて気掛かりがあったため、上条と合流させた。

 そのために、わざわざ少し遠い場所を待ち合わせ現場にしたわけだ。

 

「あのバカ……一方通行の時から何も成長してねえ」

「こんな感じで、他人は巻き込まない、でも自分は巻き込まれにいく、そう言う考え方みたいだぜい」

「あの野郎、本当に……」

「で、あれが俺やインデックスから見たカミやんだにゃー」

「……」

 

 それを言われると、上条としても何も言えなくなってしまう。つい最近も、法の書の件で、ステイルやインデックスだけ退場させて自分はオルソラを助けに行こうとした事もあった。

 

「俺は別にヒーローがどうなろうと知った事じゃないが、カミやんはいなくなられたら困る。もう少し他人に頼ることを覚えても良いんだぜい?」

「わ、悪かったよ……」

「俺に謝られても困る。他に謝る相手はいるんじゃないかにゃー?」

「わ、わかった。わかったから。……で、俺はどうしたら良い?」

「とにかく、今は会議に集まって、話だけでも聞いておいてくれ。……ああ、今の話をした後で悪いが、やっぱり今回、禁書目録を巻き込むのは無しだからな」

「ああ。分かってる」

 

 それだけ話すと、二人も集合場所に向かった。

 

 ×××

 

 さて早速、会議の時間。結局、上条と一緒になったわけだが、一先ず情報共有を優先した。オリアナの写真や能力を各々出し合った上で、イギリス清教からの情報を土御門が三人に説明を開始した。

 

「そんなわけで、奴らの企みはこの街に使徒十字を刺す事。そうなれば、この学園都市の生徒は何が起こっても幸せに感じるようになる」

「と言うと?」

「だから、まぁ……簡単に言えば、この街がローマ正教の支配下に陥る、と言った所か。それが学園都市で起これば、世界のパワーバランスが崩れる」

「……(いまいちピンと来てないと言う顔)」

 

 まぁ、非色には難しい話に感じるし、なんならその話の信憑性も無い。

 しかし、逆に上条はそのセリフが決して妄言でないことを理解していた。ただでさえ、錬金術師に吹っ飛ばされた片腕が生えて来たり、天使が降って来たり、ローマ正教と天草式の小競り合いに巻き込まれたりと、中々、波瀾万丈な経験をして来た為、信じてしまう。

 

「固法、ありえない話じゃないんだ」

「え、そ、そうですか……?」

「そうだ。それに、魔術師はこの街の能力者より戰上手で狡猾な上、容赦もない」

「一方通行より?」

「いや流石にそこまでじゃねえけど、少なくとも普通の能力者程度じゃ戦いにもならないと思う」

 

 そんなに? と、非色は土御門を見る。

 

「その通りですたい。魔術師の霊装もピンキリだが、デカいのだと本当に街一つ征服するくらいのものはあるぜい」

「ふーん……まぁ、それは分かったけどさ、学園都市になんでそんなもん刺すわけ?」

「この街で育って来たお前さんにゃ馴染めねえのかもしんないけど、魔術の世界にとって科学のこの街はかなりタブーに近い立ち位置にあるんだぜい? それに相性も悪くて、俺はこの街の能力開発を受けて、魔術を使うと身体に大きな負担をかけちまう」

「ふーん……まぁ、とにかくあながち嘘ってわけじゃないのね」

「その通りだ」

 

 まぁ、判断するに当たって材料になる情報もないし、信じる他ない。

 

「勿論、それを起動するにゃ、それなりに厳しい条件が必要ですたい。それは、今はイギリス清教に調べてもらっている所ぜよ」

「じゃあ、また結果待ち?」

「いや、それまでに俺達は少しでも進展させておきたい。やるべきは二つ、オリアナとリドヴィアを捜索する」

「リドヴィア? 誰?」

「今回、学園都市に潜入しているもう一人の魔術師だ。こいつらを締め上げ、少しでも情報を得る」

 

 なるほど、と非色は控えめに頷いた。逆に、現状で打てる手はそれしかないということだ。

 そのリドヴィアとか言う方はともかく、オリアナなら非色には情報に当てがある。

 

「なら、俺がオリアナの方をやるよ」

「バカ言わないで欲しいね」

 

 しかし、それをステイルが拒否した。

 

「? なんで? 魔術とか言うのがどんなもんだかよく分からないけど、あの量の罠を一度に使って来れる相手は、俺しか相手に出来ないんじゃないの?」

「相手に出来ていないだろう。あっさりと血塗れにされた君を信用しろ、と言うのはあまりにも無理な話だとは思わないかい?」

「そうだぜい、ヒーロー。何をされたのか知らないけど、簡単にのされたお前さんに任せるわけにはいかんにゃー」

「あ、いやあれは……」

「固法がそんなにやられたってのか?」

 

 上条と土御門にも話に入られ、非色は思わず目を逸らす。だが、情報にアテがあり、一人でなんとかなると考えている以上、そこに必要以上の人員を割くのは賢く無い。ただでさえ、学園都市の命運がかかっているというのに。

 こうなれば、恥を忍んでも言うしか無い。軽蔑される覚悟を持って、告白した。

 

「もう……じゃあ言うよ、説明する。あの時に何が起こったのか」

「ほう? お前さんがあそこまでやられた相手だ。敵の術式がどんなのか知って……」

「……そ、その……俺の、攻撃を避けて体を逸らしたオリアナの……ふ、服のボタンが取れて……それで……胸が見えて、鼻血が……」

「「「は……?」」」

 

 キョトンとする三人。こいついきなり何言ってんの? といった感じの顔だ。とにかく、すぐに気を取り戻したのはステイルだった。心底、小馬鹿にしたような顔で、非色を見下ろした。

 

「ハッ、心底情けないな。その程度で気絶するなんて。尚更、君にあとを追わせるのは……」

「ずるいにゃー! あの巨乳を生で見るとは、けしからんにも程がありますたい!」

「と、年上のお姉さんのチャックボーン⁉︎ お前それでもヒーローか! 羨ま……犯罪ですことよ⁉︎」

「う、ううううるさいな! 別に見たくて見たんじゃなくて……てか、そんな事が言いたいんじゃなくて! 俺は喧嘩で負けてああなったわけじゃ無いから……」

「「そんなにもう一度あの巨乳が見たいかー!」」

「違うわー!」

「バカどもが……」

 

 所詮、男子高校生だった。

 

 


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