とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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身バレの前に顔バレするの本当怖い。

 夏休みに突入した。本当は早朝から活動したい非色だったが、少なくとも姉が出掛けるまでの間は家を出るわけにはいかない。基本、友達がいないことはバレているので、出掛けるなんて言ったら怪しまれるかもしれない。

 そんなわけで、午前中はのんびりとゴロゴロしているしかない。

 

「はーあ……おはよー……」

「あ、おはよう。姉ちゃん」

 

 姉が起きてきて、とりあえずソファーから起き上がった。パジャマは普通に第二ボタンまで外され、その上にノーブラな為、胸の谷間までしっかりと見えていたが、不思議と非色は興奮したりしなかった。

 まだ異性にはっきりした興味があるわけでもない、というのもあるが、三年も一緒に暮らしていれば見慣れてしまうものだ。後は、そもそもそれまでは研究所暮らしで普通の情緒が育っていない、というのもあるが。

 

「顔洗って来たら。俺、朝飯準備するから」

「火事になるから大人しくしてて」

「い、いやいや。パン焼くくらい出来るって」

 

 寝ぼけてる割にハッキリと否定してきたが、パン焼くくらいは出来る、というセリフを信じてくれたのか、特に何も言わずに洗面所に引っ込んだ。

 その間に、言った通りにパンをトースターに突っ込んだ。味噌汁くらい作れたら良かったのだが、まぁその辺は弁える事が大事だろう。

 目を覚ますついでに着替えも済ませてきた美偉は、キッチンに立った。味噌汁に火を通しながら、牛乳を入れて、マーガリンとサラダの準備をする。

 その手伝いをして朝飯の準備を終えると、二人で席についた。

 

「いただきます」

「いただきます」

 

 適当な挨拶をして、パンをかじった。

 

「どうだったの? 成績」

「え、普通に学年トップだったけど」

「そ。良かった」

「そっちは? 爆弾魔」

「捕まえたわよ。白井さんがヒーローさんと共闘したんだって」

「へー。あの二丁水銃をボロクソに言ってた人だよね」

「犯人への説教を聞いて、少し感心してた。かと言って、次はやっぱり捕まえる気らしいけどね」

 

 そうなんだ、と非色はパンをかじりながら他人事のように心の中で返事をする。

 ま、アレくらいで和解出来たとは流石に思わない。向こうも自分も、お互いが正しいと信じて行動しているし、極端な話がヒーローが捕まるか、それまでに向こうが風紀委員をやめるかまで続くだろう。

 

「ね、姉ちゃん的にはどうなの? 二丁水銃」

 

 良い機会なので聞いてみた。万が一、バレた時の言い訳も考えられる。

 

「まぁ……今の所は半々ね。悪さをしているわけでもないし、相手が悪人だからって大怪我させる程の力も出していない。昨日の事件を見た限りだと、ビルの瓦礫を全部持ち上げる程の腕力があるのに、それを上手くセーブしてる」

「……!」

「……でも、風紀委員としては見過ごせないのよね。現場を抑えることが出来たら、やっぱり捕まえるべきかもって思う。だから、半々」

「……」

 

 まぁ、積極的でないって分かっただけでもラッキーだと思っておこう。思わず、小さくため息が漏れた。

 

「にしても……あの体格は何処かで見たことあるんだよねぇ……」

「ーっ⁉︎」

 

 だから、その不意打ちには思わずギョッとしてしまった。慌てて平静を装ったが、その隙を見逃すような透視能力ではない。

 

「何、心当たりがあるの?」

「ええっ⁉︎ い、いや無いよ! 俺、まだ中学生だし、あんな人……ま、まずあんな背高のっぽも見たことないし!」

「……そう。御馳走様」

 

 食べ終えた美偉は、手早く食器を片付けに行った。その後に続いて、非色もさっさと食事を終える。

 その後、二人揃って歯磨きを終えると、美偉は鞄を持って出勤の準備をした。

 

「じゃ、私もう行くからね」

「気を付けてね」

「うん。大丈夫」

 

 それだけ言うと、姉は部屋を出て行った。さて、それが確認出来れば、自分も弟ではなくヒーローになる時間だ。

 ‥……そう思ったのだが。

 

「あれ、佐天さんからだ」

 

 メールが来ていた。何事かと思って開いてみた。

 

『こんにちは! 今日は予定あるかな?』

 

 ……これは、どういう意味なのだろうか? 助けたお礼? いやそれはヒーローの自分だし……などと勝手に悩みつつ、とりあえず返事をした。

 

『暇だよ』

 

「……すこし、淡白過ぎるかな……いや、でも他に余計な情報をつけてお礼を催促してると思われたくないし……」

 

 勝手に小声で悩んでいる。ちょうどその頃、財布を忘れてとりに戻った美偉が玄関にいたのは、不幸中の不幸だったが、非色は知る由もない。

 すると、すぐに返信が来た。

 

『じゃあ、試験のお礼をしたいから、お昼に待ち合わせしない?』

 

 ああ、なるほど、と頭の中で理解する。遠回しに「治してから行こうね」と言ったつもりだったのに、全然通じてない。

 もしかしたら、自分との約束なんて、早めに終わらせたい、と思われているのかも……。

 

「はぁ……」

 

 た、ため息⁉︎ 携帯見ながら⁉︎ と、美偉は黙ってその様子を覗き見するが、非色は気付かずにとりあえず返事をした。

 

『別に、無理にお礼しなくても大丈夫だよ。昨日、事件に巻き込まれたんでしょ?』

 

 一応、気を利かせたつもりだ。純粋に怪我が心配だし、それに本当はお礼をしたくないとしたら、断る良い機会だ。

 非色としては別に行きたくないわけではないしむしろ佐天のような可愛い女の子にご飯を手作りしてもらえるならそれはそれでありがたいのだが向こうに無理させたくないし……。

 

「〜〜っ」

 

 なんかソワソワしてる……と、そろそろ出ないと遅刻してしまう美偉は、可愛い弟の様子を眺めながら思った。

 その弟の携帯には、また返信が戻ってきた。

 

『そんな事ないよ! とにかく、12時に校門の前で集合だから!』

 

 そんな事ない、という一言で元気になってしまうのだから、やはり男の子は単純だ。

 

『分かった』

 

 思わずにやけながら返事をする。今日はヒーロー活動は午後半休だ。

 その弟を見て、美偉はほぼほぼ確信する。これは、女の気配だ。

 

 ×××

 

 さて、11時半。冷静になって思ったが、非色に同級生と外出する、という経験はない。何か持っていったほうが良いのだろうか? 例えば、こう……お土産的な? 

 調べてみることにした。本気で走れば、ここから一分かからずに待ち合わせ場所に着くから時間はある。

 

「……なるほど」

 

 つまらないものですが、と言って渡すのがベストのようだ。喜ばれるのはお菓子だそうだ。

 

「行く時に買って行こうか……」

 

 事前に調べておいて良かった。他人の家にお邪魔する際、お菓子を持っていかないのは失礼だそうだ。

 さて、他にも決めるべきことはある。例えば、服の下にライダースーツを着て行くかどうか。いや、流石にそれはいらないが、せめてもしものためにマスク、ゴーグル、ニット帽くらいは必要かもしれない。

 また、水鉄砲はどうするか。やはりヒーローたるもの、いつでも備えておくべきか否か……。

 しかし、万が一に職質されて鞄の中を見せなければならないとなったとき、水鉄砲はあるだけで正体がバレてしまう。

 

「マスクとゴーグルだけにしておこう」

 

 と、いうわけで、お土産を買う為に少し早めに家を出た。

 

 ×××

 

「遅いから」

「ご、ごめん……」

 

 既に待っていた佐天が、むくれた表情で言った。結局、お土産選びに苦労して遅くなった。

 これを渡すのは家に着いてからがベストらしいので、とりあえず鞄の中で眠っててもらうことにする。

 

「それでー……食べるのはお昼ってことで良いの?」

「あーうん。そうなんだけど……その、ごめん。実は昨日、材料買った帰りに事件に巻き込まれたから、食材全部ダメになっちゃって……今日、また買い直しなんだ。お金は私が出すから手伝って欲しいなって……」

「あ、ああ……なるほど。え、いやじゃあ俺もお金出すよ」

「え? い、いやこれお礼なんだし……」

「で、でもほら……一人暮らしだし、そんな余裕ないでしょ? お礼とか、気にしなくて良いから出させてよ」

「っ……良いの?」

「良いの」

 

 流石に全額出してもらうのは申し訳ない。それに、ヒーロー活動ばかりしている非色は、お金を使うこと自体があまり無い。

 

「……じゃあ、わかった。ごめんね」

「いいって」

 

 それだけ話して、二人でスーパーに向かった。とりあえず、公園の真ん中を通って行く事にした。

 ハッキリ言って、ソワソワして落ち着かなかった。他人と出掛けることがここまで、精神的に疲れると思わなかった。隣を歩くだけでも「何か話したほうが良いかな」とか気を使ってしまう。

 普段、中学生はどんな話をしているのだろうか。部活? 勉強? ファッション? 

 

「……わからん」

「何が?」

「えっ? あ、あー……えっと」

 

 しまった、声に出てたか、と今更になって反省する。どんな話をしたら良いか、なんて本人に言えるわけがない。

 なんとか誤魔化そうと辺りを見回していると、公園内にちょうど屋台のかき氷屋さんがあった。

 

「……あ、か、かき氷食べない? 奢るよ」

「ホント? ラッキー。行こう」

 

 そう言って、二人でカキ氷を食べに行った時だった。

 

「あれ、佐天さん?」

「え……あ、み、御坂さんに、白井さんに初春?」

「……えっ」

 

 近くの花壇に腰を掛けたJCが三人でかき氷を食べていた。思いっきり知っている三人組である。

 御坂美琴は言わずもがなのレベル5の有名人、初春飾利は同級生、そして白井黒子に至っては目を合わすのも気まずい間柄である、マスク越しの関係であったが。

 

「こんにちは。佐天さん。そちらは?」

「え、あ、えっと……」

 

 デカい図体している癖に、佐天の背後に隠れてしまった。流石に異性四人相手は持たないようだ。特に、最初に声をかけてきたのが天敵である白井黒子なら尚更の話だ。

 その様子に、この中では一番、関わりのある佐天ですら「?」だったが、とりあえず紹介した。

 

「あ、この人は固法非色くん。同級生です」

「……固法?」

「黒子、知ってるの?」

「もしかして、固法先輩の弟さんですの?」

「えっ、そ、そうなんですか⁉︎」

「なんで初春が驚いてるの……いや、私も知らないけど、そうなの?」

 

 最後のは佐天に聞かれ、非色は遠慮気味に答えた。

 

「……いや、まずその固法先輩って人知らないし……」

 

 とはいえ、大体の想像はつくが。同じ苗字で、風紀委員である黒子に先輩と呼ばれている時点で分かってしまう。

 

「ああ、失礼致しましたわ。固法美偉、私や初春の先輩で、一七七支部の風紀委員の方ですの」

「あー……それなら俺の姉です」

 

 血の繋がっていない、という点を丸々カットして言った。

 

「そうだったんですかぁ⁉︎ 教えてくれればもっと早くご挨拶したのに!」

「いえ、初春は風紀委員に見えないし仕方ないんじゃない?」

「酷いです佐天さん!」

 

 いつも通り、仲良しクラスメート同士でじゃれ合う横で、黒子がジト目で非色を睨む。

 

「どうしたのよ、黒子」

「いえ、彼どこかで見たような気が……」

 

 ギョッとして慌てて目を逸らした。相変わらず勘が良い子だ。だって、本当はほぼ毎日のように鬼ごっこしている関係なのだから。

 一人、気まずそうにしている非色を気遣ってか、一番年長者の美琴が改まって聞いた。

 

「それで、佐天さんはどうしてこの人と一緒にいたの? ……まさか、デート?」

「いやいや、違いますよ。ただ、期末試験の勉強で少しお世話になったので、お礼に手料理をご馳走しようと思って」

「え……手料理って、佐天さんの部屋で?」

「そうですよ?」

 

 一足早く思春期が来ている美琴は、思わず頬を赤く染め上げた。しかし、なんで急に照れてるのか分からない佐天と非色は、思わず眉間にシワを寄せる。

 

「なんでですか?」

「あ、いや……その……二人は、そういう関係?」

「そういう?」

「な、何でもないのよ。あはは……そ、それより、それなら私達もご一緒して良いかしら? お昼まだなのよ」

「良いですわね。……異性同士が一つ屋根の下など、中学生では早過ぎますので」

「あ、じゃあ私も」

 

 え、なんでそうなるの? と言わんばかりに表情が凍りつく非色。元々リア充的存在の佐天もノリノリになってしまっていた。

 

「良いですね! ちょうど、今からその食材を買いに行く所だったんですよ!」

「じゃあ、みんなでいきましょうか」

 

 との事で、非色にとっては胃に穴が空きそうなほど緊張する半日がスタートした。

 

 ×××

 

 買い物を終えた一行は、そのままの足で佐天の部屋にやって来た。料理組は女子四人。

 唯一、料理ができない非色は一人、食卓で待たされていた。

 

「……場違い、だよなぁ……」

 

 何故、自分がこんなとこにいるのか分からない程度には気まずかった。相変わらず小心者のヒーローである。

 暇なので、部屋の中を見回す。こうして眺めると、やはり自分の部屋と女の子の部屋は割と違う。物が多いし、家具の趣味も全くの逆だ。なんか良い匂いするし。

 

「っ、と……」

 

 ふと、頭上に敵意を察知し、落ちてくる前にキャッチした。手の中に包まれたのはスプーンだ。

 

「女性の部屋をジロジロ見るのは感心致しませんわ」

「し、白井さん……」

 

 テレポートで飛ばして来たのか。遅れて本人が、非色が座ってる居間に歩いて来た。

 

「えっと……白井さんは一緒に作らないんですか?」

「お姉様の分に媚薬を入れようとしたら怒られましたの」

「……ビヤク?」

「なんでもありませんわ。……それよりも」

 

 ジロリ、と目を細める。

 

「随分と反射神経が良いのですね。初見でテレポートの攻撃を見切られたのは初めてですわ」

「え、そ、そう?」

 

 ていうか攻撃するな、と思ったのは言うまでもない。

 しかし、確かに迂闊だった。あまり元の姿では自身の能力を表に出すのは良くないのかもしれない。

 

「すみません、なんか……」

「いえいえ、怒っているわけでもありませんし」

 

 そう言う割に、視線そのものは完全に疑いの目だ。

 

「それより、頭が良いんですってね。佐天さんから聞きましたわ」

「え、そ、そうでもないと思いますけど……」

「学年トップだと言うのに?」

「……」

 

 まぁ、良いと答えるべきだろう。それに、その頭の良さは生活に全然、活かされていない。料理とかいまだに出来るようにならないし。

 

「でも、レベル0ですし……」

「レベルは関係ありませんの。能力者でもバカは犯罪を平気で犯しますので」

「ああ、それは俺も思う」

「……それで、固法先輩の弟さんですのよね? それを見込んでお聞きしたいのですが……」

 

 弟だから何なのだろうか。そもそも血が繋がってもないのに、性格に似ている部分も類似点もあったものではない。

 

「……あなたは、二丁水銃をどう思います?」

「えっ」

「あのキザで口の減らないヒーローごっこしている人ですの! どう、思われます⁉︎」

 

 さて、また困った事になった。なんて答えれば良いのかまるで分からない。いや、それは分かる。自分が正体です、とバレなければ良い。

 問題は、どう答えたら自然か、だが……まぁ、思い浮かんだのは黒子の好みの答えを言ってやれば良いだけだ。

 

「俺は好きじゃないですね。ただの人間がヒーローを名乗るなんておこがましいですよ」

「分かっていらっしゃるようで安心致しましたわ! 今日は色々と語り明かしましょう!」

 

 急に元気潑剌になった黒子のテンションに軽く引きながら、とりあえずカレーの完成を待った。胃をキリキリと痛めながら。

 

 


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