さて、どのようにして非色はオリアナを追うのか、そんなの決まっている。顔を見ればサングラスがその顔をブックマークして記憶し、自動で追跡出来る。
それにより、非色は追跡を始めた。さて、今度は向こうも本気で殺しに来るだろう。油断なんかしてくれないはずだ。
だが、こちらも元より油断なんてしていない。
「さて、行くか……!」
そう呟くと、非色は軽くジャンプしてビルの上に登る。
「おい、待て。勝手に動くな」
が、その非色に下からステイルが声を掛ける。
「行くなら僕も一緒に、だ。相手が君の言う通りの特徴だとしたら『速記原典』を持つ危険な相手だ。土御門が『動くなら二人一組』と決めた以上、それに従う方が良い」
「あーそうですかー分かりましたよー」
「なら、早く引き上げろ。例の糸があるだろう」
「はいはい」
言われて、非色は屋上から水鉄砲を向け、糸を放つ。それにステイルは掴まり、引き上げられる。
「ふん、よくやったと褒めてあげるよ」
「さっさと行くよ。居場所は割り出してる」
「その前に、この糸を外してもらえないか?」
「外れないよ。電気か火かで燃やすか、水で溶かすかしないと」
「チッ……面倒な」
あっさりとルーンカードを取り出し、糸を断ち切る。
「なんだ。切れるんだ」
「切れないと思って手を貸したのか⁉︎」
「言っとくけど、あんたら普通に怪しいからね。今回の件、あんたらの組織はローマ正教の陣地拡大を阻止するために動いてる、と言う見方も出来るし、俺は正義の味方とも思ってないから」
「……なんだと?」
「学園都市が狙われている、と言えば俺はとりあえず敵には回らないからね。協力は取り付けられる。上条さんが信頼してるみたいだから今は手を貸してるけどね」
「……」
ヒーローなんて馬鹿な真似をしているのでもっとアホかと思っていたが、予想以上に頭は回るようだ。土御門が仕掛けそうな罠を大量に含んだ話術を理解した上で、協力して来ている。
逆に、自分達が学園都市で問題さえ起こさなければ、彼も信頼に足る人物ということだろう。
「ふんっ……君は思った以上に煩わしい男だな」
「あんたが言うな」
「まぁ良いさ。とにかく、僕らの任務はオリアナの捕獲と尋問だ。その間、土御門と上条当麻はリドヴィアを探す。その間にイギリス清教から情報が来た場合は、その内容次第で現行の作戦を中止して別任務に切り替える。それ以外の余計な情報は考えるな」
「あっそ」
それだけ話すと、二人は今度こそ動き始めた。オリアナは油断できる相手ではない。今度こそ、確実に仕留める。
×××
人気のない道で着替えを済ませたオリアナは、堂々と歩いて移動していた。早くも運んでいたブツが偽物とバレた時点で、自身の働きは大きく変わる。
とはいえ今のところ、視線は感じないし、誰かにつけられている感じはしない。
そんな中だ。ふと大きめの公園に通りかかった。そのセンターステージでは、ついさっき相手をしたヒーローが主人公のショーをやっていた。
「あら……もしかして、私が相手した子、結構人気な子だったのかしら?」
そう言いつつ、とりあえずオリアナはショーを素通りする。しかし、変な格好だった。今思い出しても面白い。それだけに、あんな不本意な最後は流石に同情せざるを得なかったが。
救急車くらい呼んでやった方が良かっただろうか? いや、でもあの出血量は明らかに死んでいるはずだし、やはり無駄なことはすべきでは無い。
そんな中だ。ふと視線を感じる。
「……!」
まさか、もう見つかった? 探知魔法からの攻撃を逆探知、防御、迎撃をやってのける術式を展開しているのに、それに反応はない。
いや、どう見つかったか、など大した問題では無い。それより早急にしなければならないのは、追っ手を撒く……或いは殺すことである。
「さて、まぁ他人を巻き込むのはお姉さんの主義じゃないし……少し誘導しましょう」
何処で戦うか? そんなの決まっている。人払のルーンを撒き散らした使われていない廃ビルだ。相手が多人数の場合は、遮蔽物と罠を利用したゲリラ戦を仕掛けるべきだ。
セオリーに従い、一先ず人気の少ない廃ビルを探し出し、追ってきている敵を誘い込む。先手を取られることは避けたい。
×××
数分後、オリアナが入ったと思われる建物にステイルと非色が到着した。廃ビルだから人の気配はない……というわけでなく、ご丁寧にも人払いのルーンを貼ってあるのだろう。
「迎撃の準備は済ませてあるみたいだね」
「ステイルくん、で良いのかな?」
「くん付けはやめてくれないか、気持ち悪い」
「じゃあステイルさん」
「同じだ」
「ステイルどん」
「燃やすよ?」
「一気に突入して中に入るから、君はバックアップね」
「いや、前と同じで良いだろう。僕は外側から敵が逃げないかを見張る。君は、足止めを頼む」
「え、良いの?」
「ああ」
生返事をしながら、ステイルはルーンカードを取り出し、ビルの外側に貼り付ける。
「何してんの?」
「何、監視の魔術だよ。僕は君と違って、360度見張ることも高い位置を取ってビル全体を眺めることも出来ない」
「了解。じゃ、まぁ吉報を待ってて」
それだけ言うと、非色はビルの中に突入した。
×××
「驚いたわ。あの出血量で生きていたのね。ていうか、何があったの?」
「朝、チョコレート食べ過ぎちゃってね」
適当な誤魔化しをしつつ、罠を全部回避してオリアナの元へたどり着いた。奇襲を仕掛けることもなく、非色は正面から目標を見据える。
オリアナもまた、目の前の不審者にしか見えない少年を睨み返した。
「にしても、あなた何者? 何故私を追い回すの?」
そこが一番わからない。検討はついている。学園都市の追手だろう。現在大覇星祭が行われている今、周りに不信感を与える事なく自分を追わせられる最強の単騎だ。
だが、それにしても微妙に違う気がする。これは理屈から来るものではなく、直感的なものだ。まだ会話なんてしたことも無いが、学園都市に命令されて動いているような奴が、グッズの販売までされるほど人気を得るとは思えない。
だから、一先ず時間稼ぎでも無ければ気を逸らすためでもなく、ただ単純に会話をしてみたい、と思って声をかけてしまった。
さて、彼からはどのような返事が来るのか? 少し期待していると、そこから飛んできたのは、予想外の返事だった。
「? ヒーローですけど?」
「…………はい?」
さも当然、と言わんばかりに告げた言葉は「ヒーロー」と聞こえた気がしたが、気の所為だろうか?
「なんですって?」
「だから、ヒーロー」
「正義を守る?」
「正義を守る」
「悪と戦う?」
「悪と……うん、まぁ悪とも戦う」
「正体不明の弱き者の味方……」
「ちょっ、さっきからそんなに褒めないでよ、照れる」
ほめてねえよ、と柄にもなく口調が荒れそうになったが、今はグッと我慢する。
「そう。妄言ね、あなたに興味が出た自分が恥ずかしいわ」
「こっちもあんたに聞きたいことがあんだけどさ、なんでこんな事してんの?」
「なんで、とは?」
「いや、正直、俺はあんたらの事なんか何一つ知らないんだけどさ、何がしたくて学園都市を支配しようとしてんの?」
言われて、オリアナは心底つまらなさそうな顔でヒーローを見る。そんなありきたりな質問、答えるだけ無駄だ。
「ソレを聞いてどうするの? 話せば、お姉さんの好きにさせてもらえるのかしら?」
「どうだろ」
「は?」
「俺、この街がローマ正教に支配されるとどうなるとか、聞いてないのよ。なんか上手く誤魔化されちゃって。元々、学園都市は腐り切ってる。あんたらがこの街に手を出す事でこの街が良くなるのなら、少しでも理不尽な思いをする奴が減るのだとしたら、あんたの側についても良い」
「……」
またも、ガラにもなくポカンとしてしまう。マスクをしているから表情は見えないとはいえ、考えがここまで訳の分からない奴は初めてだ。
しかし、それならこちらも利用出来る。どうやら、追っ手側はヒーロー(自称)の信頼を得るのに失敗しているようだ。
「支配、と言う言い方をするから悪いことに聞こえるのよ。お姉さん達は、何もこの街の子達を家畜や奴隷にしよう、なんて考えてるわけじゃないわ。決して、使徒十字は悪さをするものでは無いもの」
「と言うと?」
「ただ、どんな事が起こっても、そこにいるみんなが幸せに感じる、という事よ。仮に交通事故で友達が亡くなったとしても、悲しむ事なく前を向いて生きていけるようにね」
「……ふーん」
まるで興味なさそうな相槌に、少しイラっとする。聞いといてその態度……まるで子供を相手にしているようだ。
「つまり、人を人でなくす最悪の兵器って事ね。ブッコロ決定」
「やっぱりそうなるんじゃない。……けど、それが本当に良くないことかしら? 友達を失い、後を追うような子が出るくらいなら、悲しむ間も与えず先を見させた方が」
「良くないね」
そのセリフに、非色はキッパリと反論する。思わず、オリアナが狼狽えて眉を吊り上げる程度には、ハッキリした反抗だった。
「事故で友達を失って、悲しみから後を追うのは間違ってる。……でも、その悲しみを忘れちゃうのも間違ってるよね」
「なんですって……?」
「悲しいなら悲しめば良いでしょ。それを乗り越えるのに時間は掛かったって良い。けど、それらを感じずに前に進むのは、電源を切って最後のセーブ地点に飛んで、事象そのものを無かったことにするのと同じだよ。それは、前進じゃなくて逃げだ」
「……ふふ、言うわね。存外、イイ男なのかしら?」
ニヤリと唇を歪めた割に、瞳から発される殺意は一段と強くなる。眉間に川の字ができる程のシワが寄せられると共に、英単語帳を噛み切った。
ゾッと背筋が冷たくなった非色は、反射的に回避行動を取る。
「いや……あなたみたいに何の苦労も知らず、綺麗事ばかり抜かすガキが、イイ男なわけないわよねッ‼︎」
直後、放たれたのは紫色の電気を帯びた球体だった。それが非色がジャンプした真下を通る。
その非色に、さらに新たな魔術を生み出したオリアナは、伸縮自在の影の剣を伸ばした。
「あなたには分からない! この世界には絶対的なルールとも呼べる基準が必要なのよ!」
その一刺しを、首を横に捻って回避する。頬と布が避け、血が噴き出すが、非色は無視して天井に糸を伸ばし、張り付いて次の攻撃に備える。
「ルールだ?」
「そうよ。あなたみたいな分かりやすい人助けをしたって、本当にその相手が救われるとは限らない!」
次は、複数の銀色の球が迫って来る。速度は無いが、間を通り抜ける隙間も無い程の数だ。
それらに対し、天井に穴を開けて上の階に移動し、窓を叩き割って同じ部屋に戻り、水鉄砲を向けた。
それを読んでいたように、オリアナはさらに次の魔術を使用する。透明な手裏剣だ。それを六つ飛ばす。
「ッ……!」
第六感で回避するにも限度がある。避けられたのは四発まで、残りの二発を腕と腹にもらった。
それは、オリアナにとって好機でしかない。
「世界の全員が幸せになれる、そんなルールを私達が作る! その邪魔をするなら、例え人気者のヒーローであっても容赦するつもりはないわ!」
直後、魔術と共に正面からジャンプで接近した。床を巻き込んだ砂地獄。傷口をもらいながらも、ジャンプして躱されるだろう。
そこを捉えにいった。ヒールでの飛び蹴りが、ヒーローの腹に空いた穴に直撃する。ブシッと出血と傷口が大きく広がるが、それを踏みつけるように蹴りの方向を変えた。
その先は、砂地獄だ。
「あなたに、腐り切った親からDVを受け、家に帰りたがらない子供が救える?」
ズブズブと砂地獄に埋まって行く身体に、さらにヒールがズブズブと埋まっていく。
「あなたに、これからテロに巻き込まれるであろうバスに乗り込む老婆が救える?」
魔術を徐々に解き、足元をコンクリートに戻し、埋められたヒーローはコンクリートの中に埋め込まれた。踏み付けていたヒールを脱ぐと、最後にもう一度、英単語帳を裂き、ヒーローが埋まっているコンクリートの上に落とした。
「あなたに、あなたの想像もつかないようなこの世の理不尽が全て救えると言うのなら、やってみなさいよ‼︎」
直後、目の前が爆発する。爆風に巻き込まれ、後方に飛びつつも、受け身をとってオリアナはすぐに立ち上がった。
あれだけ手痛い目に遭わせてやってまだ生きていたら、流石にもう人間ではない。もっと何か別の生き物だ。
それでも、完全に死体を見るまで気が抜けない。何せ、一度は死んだと思って見逃したのだから。
肩で息をしつつも、片手に英単語帳を構えたまま油断なく煙の方を眺めた。モクモクと上がる爆煙、大きく陥没したビルの床と、衝撃によってひび割れた床や天井、今にも崩れそうなものだ。
流石に仕留めたと思いたい。そんな風に強く願ったからだろうか?
「……もしかして、今の話は君の思い出か何かかな? だとしたら嫌なこと思い出させちゃったね」
その呑気な声が聞こえ、思わず凍りついた。
煙の中から放り投げられたのは、一足のヒール。それが、数回バウンドして自分の前に落ちる。
「けど、それでこの世に基準点が必要って言うのは、やっぱり違うよ」
煙の中の一部が、人の形を象るように濃くなっていく。それは、こちらに歩いてきているように見える。
「その現場にあんたが居合わせたのか、それとも被害者だったのかは知らないけど、その時にどうするべきか、という模範解答はない」
片手を振るい、煙を払うように姿を現したのは、やはりというかなんというか、変な格好のヒーローだった。
「あんたがするべきだったのは、後悔が残らないように『自分で自分の中に定めたルール』に従い、行動するべきだった」
「ッ……!」
「結局、自分を律することができるのも、自分がどう行動を移すかを決めるのも自分だけだ。……なら、ルールでも基準点でも、自分流を作るのは自分だけだ。他人にそれを委ねるな」
マスク越しでも分かる。あのヒーローは、オリアナを真っ直ぐを見据えている。思わず、こちらが目を逸らしてしまう程、真っ直ぐだ。
「俺のルールは『困ってる人は助ける、間違った奴は正す、殺しはしない』。この三つだ。それに則り、今からあんたを正しい道に戻してあげる」
「ッ……『礎を担いし者』‼︎」
魔法名、魔術師が「相手を殺す」と決めた際に名乗る名。それを宣言すると共に、オリアナの頭上に黒い球体が出現する。
そこから降り注がれるのは大量の鋭利な刃物。それに対し、非色は正面から歩いた。頭を庇うように構えるのは左腕。ただし、鋼鉄の手袋はせずに突っ込んだ。
刃物を回避しつつも、かざした左手首に突き刺さり、義手がその場に落とされる。
「ッ……!」
直後、オリアナは硬直する。その落ちた手首の断面は、機械で出来ていたからだ。
その一瞬の隙を、非色は逃さなかった。オリアナの足の間をスライディングして通り、よろめかせると共に後ろをと、背中に液体を発射して一気に捕らえた。真下に英単語帳が転がり、それをつまみ上げる。
「しまっ……!」
「動かないで。その液、すごくネバネバするから、転んだら床にも張り付いて動けなくなるよ」
それを注意され、オリアナは両手を動かそうとするが、動かない。確かに、これは腕力で切るのは無理そうだ。
それでも、油断なくヒーローの方を睨む。まだ足技がある。
「ちなみにその液、俺が作ったんだ。俺の攻撃力だと、相手を怪我させて最悪、殺しちゃうから。相手に何の後遺症も与えないために、捕獲して警備員に引き渡すには、こいつが必須だったんだ」
対抗しようとするオリアナに、非色は静かに言い聞かせながら、続けて落ちている義手を拾った。
「この左腕は、夏休みに機械になったんだ。学園都市第一位を止めるために払った代償だ。あの時は苦労したよ、ほんとに」
「……」
目を丸くして黙って聞き入るオリアナ。自身の先ほどのセリフを、思わず恥じてしまった。
「お姉さんだって、俺なんかよりよっぽど強い力を持ってるじゃない。それなら、もっと良い事にその力を使いなよ。人間、素直なのが一番なんだから」
そう言い聞かされ、オリアナは反論する気も失せた。まさか、こんな得体も知らない奴に言い負かされる日が来るなんて思いもしなかった。口でも戦闘でも、完全に負けた。
目を閉じてそんな風に思った時だった。非色の元に電話がかかって来る。
「もしもし?」
『なんだ、生きていたのか』
この出端からご挨拶な感じ、間違いなくステイルだ。
「何? 今ちょうど終わった所だよ」
『そうか。なら、なるべくゆっくりして来ると良い』
「は? なんで?」
『僕の方は、ルーンを貼り終えて魔術を発動した所だ。オリアナがまだこの中にいるなら、今から火葬にしてやれる』
直後、非色は真顔になる。
「なんでそれでゆっくりすることになるんだよ⁉︎」
『まとめて燃えてくれた方が、僕としてはスッキリするからね』
「ふざけんな! え、それ止められないの?」
『無理だ』
「この野郎おおおお‼︎ お前初めからこのつもりだったな⁉︎」
『一応、静かになるまで待っていたんだよ。だが、激しい魔術の轟音やら、その余波やらはこちらに届いてきた直後に静かになったものだから、君は既にやられたのかと……』
「うるせーよ! もう切るよ!」
たしかに、さっきオリアナが吹っ飛ばした穴の真下からは、新たな火が出ているのか、目に悪いオレンジがパチパチと揺れている。
こうなれば、もう時間がない。オリアナの前でしゃがむと、持ち上げようと手を伸ばすが、それが空中で止まる。急に脳裏に浮かんだのは、さっきの胸だ。
「っ、な、何? やるなら一思いに……!」
「うえっ……あ、いや……その、下から今……炎が出てるんだけど……まぁ、その……俗に言う火事?」
「え、な、なんで?」
「で……窓から逃げないといけないんだけど……この高さから落ちたら、オリアナさん怪我するよね?」
「そうね?」
「だから俺が担ぐしかないんだけど……ど、どこを持ったら良い……ですか?」
「坊や、ひょっとして童貞?」
「どーてい?」
「エッチな経験無い?」
「っ、あ、あるわけないじゃないですか!」
直後、オリアナはニンマリと表情を歪める。上半身を拘束されているとは思えない態度だ。
「そうねぇ……まず、女の子は丁重に扱うコト。基本的に女性の身体は敏感でデリケートなの。気を付けられる?」
「あ、は、はいっ……!」
「本当はおんぶなりなんなりしてくれれば良いんだけど、今はこの坊やの白濁液でドロドロになっちゃってるし……やっぱり足かしら?」
「は、白濁液って……そ、それは粘着液です!」
「あら、白濁液で何を示しているのか分かっちゃうお年頃なのね」
「ーっ……!」
マスクの下で顔が真っ赤に染まる。やかんのように湯気が出そうになっていた。
「と、とにかく足を持てば良いんですね⁉︎」
「ええ、それが一番、身体を密着させずに済むかもね? ……あ、でもそれだと……どう足掻いてもお姉さんの下着、高い所から大サービスする事になっちゃうわね」
「だ、ダメダメダメですそんなの! 外に俺の知り合いの男が一人いますし!」
「あら、私に気遣ってくれるの? 優しい子はお姉さん好きよ?」
またも心臓が跳ね上がる音がする。この人、何なんだろう。
一方で、からかう側のオリアナはニヤニヤしたまま非色に歩み寄り、左脚を伸ばして上げた。
「まぁでも、命には変えられないものね。どうぞ? 私の足を持って?」
「い、いえでも……そんな女性の方に恥はかかせるなって姉ちゃんが……」
なんてモタモタやっている時だった。火の周りが激しくなり、ガタンと足元が揺れる。片足立ちになっていたオリアナは勿論、バランスを崩し、非色に正面からもたれかかった。
「あら……これはちょっと想定外」
「ちょっ……な、何やってんですかあんた⁉︎」
「ふふ、お姉さんと密着しちゃったわね」
「いやっ……液体のお陰で何の感触も感じませんよ!」
「あら、何が言いたいのか分かっちゃうなんて……えっちな坊や」
「ーっ……!」
顔が真っ赤に染まる非色。この二人、こう見えて戦闘を終えて決着がついた直後である。
「も、もうこうなったら仕方ない……このまま出ますよ!」
「優しくね?」
「わ、わわっ……分かりましたから! しっかり掴まっててくださいね⁉︎」
そう言うと、オリアナは非色にしがみつく。非色は自身の左手首と英単語帳を持ったままビルから飛び降り、ステイルの真横に移動した。
「なんだ、戻って来……」
「ふぅ、スリリングだったわね、坊や」
「ふ、太ももをすりすりさせないでください!」
「……この下衆が」
「ち、違うからね⁉︎ と、とにかく話は後! 近くで噴水浴びれる所探して!」
「もしもし、土御門かい? オリアナを捕獲した。……ああ、わかった。可能な限り、情報を集めるとしよう」
「シカトしないでってー!」
「ふふ、お姉さんとくっついているのは嫌なの?」
「あんたは黙ってろ!」
どちらが勝ったのか、イマイチ判断しづらかったが、一先ず情報源を得ることには成功した。