とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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大事なことに限ってなかなか思い出せない。

 姉と別れた後、非色はそのままの足で適当に歩き回っていた。どうにも、何かおかしいという感覚だけが頭に残っていた。大切な事を、何か忘れてしまっているような、そんな感覚だ。

 何が足りないのだろうか? それを補うのは、おそらくポケットの中のこれだ。サングラスと、六角形のプレートのようなもの。これは一体、何なのだろうか? サングラスも自分の趣味ではないし、プレートに至っては何をするためのものなのかもわからない。

 

「……ま、いっか」

 

 忘れた以上、大したことではないのだろう。なら、気にしても仕方ないというものだ。

 それよりも、今はこれからどうするかを考えるべきだろう。急に、やることがなくなった感じだ。競技に参加するわけにもいかないし……というか、何故、競技に参加してはいけないのだったかも思い出せない。ただ、漠然とそう感じるだけ。

 しかし、他にすることなどない。予定と言う予定がさっぱりなくなってしまったような感覚だ。自分がどうしたら良いのか、わからない。

 

「どうしようかな……」

 

 ボンヤリと街を歩きながら、ふと隣の道路を見る。生徒達が競技に励んでいた。みんな楽しそうに、能力と運動神経を使って、ゴールに突き進んでいる。その速さも能力もかなりのものだが、不思議と非色は真顔で見れてしまった。

 何だか、もっと近くで似たような能力を体験したような、そんな感覚だ。

 

「……」

「あ、非色くーん!」

「……?」

 

 顔を上げると、佐天涙子と初春飾利、そして白井黒子が手を振っている。直後、ビクッと肩を震わせてしまった。白井黒子とはついさっき、恐怖の象徴のような態度で接され、思わず頬をひくつかせてしまう。

 そんな非色の態度を見て、車椅子に座る黒子は微妙に傷ついたような表情を見せる。

 

「……うっ、やはり相当気にしていますの……」

「そりゃそうだよ……。あの子、ヒーローやってる時と素顔は別人だから」

「かなり気味悪かったと思いますよ?」

「うぐっ……」

 

 さっき何があったのかを大体、聞いていた初春と佐天は、普通に黒子を説教した。そういうのは、せめて付き合ってからだ、と。少なくとも、非色にやるべき事ではない。

 

「とにかく、謝らないと」

「そうですよ。こればっかりは私達にはどうにも……」

「わ、分かっていますの」

 

 コホン、と咳払いをすると、黒子は少し羞恥が篭って赤くなった頬のまま聞いた。

 

「あの……非色さん?」

「お、俺トイレ!」

「って、ちょっ……!」

 

 直後、非色は逃げ出してしまった。相変わらず人間とは思えない速度のまま、歩道を走って退避して行く。

 

「あーあ……あれは少し時間かかるね……」

「はい……。相当警戒してしまっています」

「……」

「白井さん、あんまり落ち込まないで……」

「いえ、違いますの」

 

 黙り込んでいる黒子に佐天が声を掛けたが、真剣な表情で首を横に振る。

 

「じゃあどうしたの?」

「彼が歩道をあの速度で走るとは思えません。万が一、衝突事故にでもなったら、他人に怪我をさせてしまいます」

「あー……だから、彼は普段、建物の屋上でパトロールしてるんですね」

「何かおかしいですの……。ちょっと、後を追った方が……」

「ダメですよ。様子がおかしくても、今、白井さんが行けばどの道、話なんて聞けそうにありませんから」

 

 初春に止められ「確かに」と黒子は変に納得してしまう。初めて、自分のアホな行動に、本気で後悔した。

 

「今は、時間を置きましょう」

「そうですわね……」

 

 何となくだが、黒子の中には引っ掛かりがある。それが、後々大変な事態に及ぼしてしまうのではないか、そんな風に思える綻びがあった。

 

 ×××

 

 逃げ出した非色は、人気のない水辺の公園でふと足を止める。自分は今、どれだけの速さで走って来たのか? 普通に、ここまで来るのに5分かかっていない。

 何より、その速さで動いて来たのに息一つ乱れていない。まるで、自分が普通の人間ではないようだ。

 いや、そもそも、左手にも違和感がある。なんというか……自分のもの、という感触がない。神経は通っているし、開こうと思えば指は伸びるし、閉じようとすれば拳を作る。

 だが、ほんの僅かだがラグを感じる。もっと言うと、手に熱を感じない。手首に巻いている腕時計も謎だ。こんな気取ったもの、買った覚えがない。

 

「……」

 

 何かおかしい、そんな風に思った時だ。

 

「あら、えーっと……固法さん、でしたか?」

「えっ?」

 

 何となく聞き覚えのある声がして振り返ると、常盤台の体操服を着ている少女が二人、立っていた。

 

「え、えーっと……」

「突然、お声かけをして申し訳ありません。普段、よく白井さんとご一緒されている方ですよね? 私、泡浮と申します」

「あ、あー……そういえば、前に病院で……」

「はい。婚后さんを助けてくれた方、ですよね?」

 

 そういえば、見たことあるようなないような……と、頭を巡らせている中、もう一人が口を挟んだ。

 

「まぁ、婚后さんを? それはありがとうございます。私、婚后さんのお友達の湾内と申します」

「あ、ど、どうも……えっと、固法非色です」

「よろしければ、少しご一緒してもよろしいですか? 色々と、お聞きしたいこともございますし」

「あ、は、はい」

 

 正直、初対面に近い女性は苦手な非色だが、それでも今は何となく気を紛らわしたかった。まぁ、そもそも断る事自体が苦手なので、了承せざるを得ないわけだが。

 

「どこかのんびり出来る所は……あら、あそこにベンチがありますわ」

「良いですね。そこでどうです?」

「あ、はい」

 

 まあ同じ返しばかりになってしまっていたが、こればっかりもコミュ障の弊害である為、仕方ない。

 ひとまず、泡浮が見つけたベンチに腰を下ろす。……何故か、非色を挟むようにして。

 

「え……なんで俺が真ん中?」

「? いけませんか?」

「たまたま流れで……お話ししたいこともたくさんありますし」

 

 緊張が跳ね上がった。こんなキャバクラみたいな感覚、思春期の少年には耐えられない。

 ただでさえ、二人とも中一とは思えないくらい発育が良いコンビだ。緊張度は跳ね上がる。

 

「それで、白井さんとはどのようなご関係で?」

「え、い、いきなりですか……?」

「ふふ、クラスでは常磐台生の中でも、特に厳しく律されている方が乙女にしてしまう、という殿方が気になるのです」

「お、乙女にするって……」

 

 そんな大袈裟なものではないし、ついさっきは乙女どころかビッチになりつつあった。せっかく、こちらから返事をしようと思っていたのに。

 

「別に、普通にまだ友達です」

「「まだ?」」

「え、あ……は、はい……まだ、です……」

 

 お互いの気持ちを知り(黒子は知らないままだが)、黒子の頭が元に戻り次第、もう一度、勇気を振り絞るつもりだ。

 しかし、そんなことを言えば、人の恋バナが大好きな女子組は頬を赤く染めるわけで。「ひゃ〜……」と口元に両手を添えて、小さな悲鳴を漏らす。

 

「い、一体どのようにして⁉︎」

「何故、常盤台の中でも頭の硬さは別格の白井さんと仲良くなれたのですか⁉︎」

「ええっ⁉︎ え、えーっと、えーっと……」

 

 あまりの勢いに「何でそんなこと教えなきゃいけないの?」という疑問すら浮かばられず、説明しようとする。

 しかし、その記憶がでてこない。黒子との出会いが、すごく曖昧だ。頭の中では、佐天と二人で飯を食べる、となった時に偶然、黒子、初春、美琴と出会い、四人で揃って食事にしたのがファーストコンタクトだったはずだ。

 しかし、何となくそれよりもっと前から顔を合わせていた気もする。それこそ、二人でずっと競い合っていたような、そんな記憶が。

 

「……思い出せない」

「「……はい?」」

「多分、佐天さんの部屋で一緒にご飯食べたのが最初だと思うんだけど……もっと前にも、会ってた気がする……」

「それはつまり……」

「『お前とは、初めて会った気がしないな』的なアレですか⁉︎」

「いやそのセリフをまず知らないんだけど……」

 

 というか、半年近く経ってからその感覚に陥るのは、時差があるにも程があるというものだ。

 しかし、流石に非色はそれに違和感を覚えない程、アホではない。自分の間に何か起きたのは間違いないだろう。

 

「あの……固法さん?」

「大丈夫ですの?」

「っ……あ、ああ。平気です」

 

 深刻な顔をし過ぎた所為か、二人から少し心配されてしまう。

 気を使った湾内が、話題を変えることにした。

 

「そ、そういえば、固法さんは『二丁水銃』をご存知ですか?」

「え? あ、ああ……ニュースで見た事ありますよ。あのヒーローごっこしてる人でしょう?」

「ええ。実は私、ヒーローさんが活躍する場を目撃したことがありまして……それから、もうとってもファンになってしまったんです」

 

 湾内が両頬に手を当てながら言うが、非色は真顔のまま「ふーん……」と言わんばかりに頷き返す。

 

「湾内さんったら、もういつもその話なのですよ? ……まぁ、私もその気持ちは分かりますが」

「泡浮さんも一緒に見ましたものね?」

「だからと言って、二丁水銃水鉄砲までご購入なさるのは如何です? もう中学生ですのに」

「お、同じ水を使う者として、少しくらい親近感を覚えたって良いではありませんか!」

 

 冷たく言われ、握り拳を作って言い返す湾内。どうでも良いが、自分を挟んでその話はやめて欲しい。

 

「固法さんはどの時のコスチュームが好きです?」

「え?」

「ほら、ヒーローは徐々にスーツを変えておられるじゃないですか。最初の第一世代はヘルメットにライダースーツ、その後に第二世代でマスクだけ変わり、その次の第三世代はスーツも一新されました。今の第四世代は左手だけ水鉄砲そのものになっています」

「せ、世代とかあるんだ……」

「私は、やはり今のが好きですね。特に、胸の六角形の胸当てがとてもカッコよくて……」

「あ、あはは……」

 

 やたらとテンション高く語る湾内に、乾笑いで返す。正直、ついていけない。

 そんな中、泡浮に口を挟まれた。

 

「固法さんは、どの世代が好きです?」

「え、お、俺は……そもそもヒーローが好きではないというか……」

「……へ?」

「いや、まぁ……生で見たことなくて、ニュースとか動画でしか活躍を見てないからかもしれませんけど、明らかに人と違う身体能力を持ってるじゃないですか。要するに、それを使って暴れる口実が欲しいだけな気がするんですよ。そういう事してると真似するような人も出て来るかもしれませんし、あまり応援は……」

「「……」」

 

 なんて言っている非色を、他二人は引き気味に眺めた。

 固法非色が、食蜂操祈に奪われた記憶は「ヒーローと超人であった記憶」ともう一つ。今の非色に、ヒーローとしての矜持は無かった。

 

 ×××

 

 一方、その頃。美琴は御坂妹の捜索に熱を注ぎ過ぎ、見張りをつけられることになった。

 そのメンバーは、食蜂の派閥メンバー。強引に振り切ろうと思えば振り切れるが、それでは追われながら情報を集めることになってしまう。それはさすがに厳しい。

 そんな中、見覚えのある三人が一緒に行動しているのが見えた。迷惑が掛からない範囲で、力を貸してもらえる。

 

「黒子、ちょっと頼みたいことが……!」

 

 と、言いかけた直後だ。その黒子は、ジロリと美琴を見上げる。その目は、普段の鬱陶しい熱愛とは明らかに違う。

 

「何ですの? 人の名前を気安く呼ばないでいただけますか?」

「……え?」

 

 まるで、他人のような言葉。少なくとも、あの熱愛がなかったとしてもルームメイトから受ける言葉ではない。

 嫌な予感が一気に脳内を駆け巡り、初春と佐天の方も見上げる。が、二人も似たような目で美琴を見上げるばかりだ。

 

「白井さんのお知り合いですか?」

「いえ、うちの学校の御坂美琴という先輩ですわ」

「わー、有名人じゃん」

「……」

 

 すぐに、合点があった。犯人の顔が頭に浮かぶ。名前は、自分と同じ超能力者であり、今、自分の見張りをしている派閥のトップ。

 慌てて、もう一人しかいない味方に電話をかける。彼がダメなら、もはや自分に力を貸してくれる人物はいない。

 1コール、2コール……と、鳴った後、その人物は応答した。

 

『も、もしもし?』

「非色くん⁉︎ あなた、今どこ⁉︎ 出来たら探して欲しい人がいるんだけど……!」

『や、その前にあなた……本当に御坂美琴さん? どこで俺の番号知ったんですか?』

「っ……」

 

 ピシッ、と頭の先から凍りつく。まさか、そこまで手が回されているとは。となると、その姉もダメだろう。

 思わず、奥歯を噛み締めてしまう。これはもう悪戯では済まされない。もし、次に食蜂を見掛けたら、タダではおかないと、怒りを胸に秘めた。

 

 

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