とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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秘密を知りたがる人は大抵、悪趣味。

「ごめんなさいは?」

「ご、ごべんばばい……」

 

 車の中、まんまと逃げおおせた二人だが、食蜂のゴムボール弾乱射により、非色の顔面はズタボロだった。

 涙ながらに謝ると、食蜂は満足そうに頷いた。

 

「うむ、よろしい」

「……はぁ、まぁすぐに治るから良いけどさ……」

「で、何か分かったのかしらぁ?」

 

 とりあえず、色々と息苦しかったため、非色はマスクを取る。それを見て、思わず食蜂は目を丸くする。あれだけボロカスにしてやったのに、本当にほとんど傷が消えていた。

 

「耳の方は、もう少しかな……」

「そういえば、あの迷惑力の高い音はなんだったのかしらぁ?」

「音響兵器だよ、俺対策の。音ってのは、空気の振動。だから、大きな振動を発生させることを主軸にした大音量によって、俺に振動と音の両方をぶつける作戦だったんでしょ」

 

 リモート操作だったのか、あるいは強力な耳栓をした人間があそこにいたのかまでは分からない。何れにしても、厄介極まりないが、周りへの被害を考えると簡単に使えるものではない。ビルの屋上だから使えたものだ。

 

「なるほどねぇ……」

「……」

 

 そう言いながら、トラックの中で壁にもたれかかり、伸びをする食蜂。そこから、非色は控えめに目を逸らす。

 なんというか……彼女は本当に中学生なのだろうか? と思わんばかりだ。特に、周りにいる中学生がビリビリとかテレポートなので、なおさらそう思ってしまう。

 

「で、木原幻生がいなかったっていうのはどういう事なのかしらぁ?」

「っ、あ、そ、そうだった。多分、あいつの計画は既に進んでるんだよ」

 

 自身の煩悩を誤魔化すように非色は続けて言った。

 

「御坂さん、御坂妹さんはどうしてる?」

「私の協力者に保護を頼んでるわ。……とはいえ、御坂さんが素直に従うとは思えないのよねぇ」

「うん。俺もそう思う」

 

 あの割とバカのくせにプライドだけは一丁前の女は、他人に従うことをやたらと嫌がる。

 

「とにかく、私の隠れ家に向かいましょう?」

「俺に教えちゃって良いの?」

「私はあなたの人間性については信用しているつもりなのよぉ? ……その他人を巻き込まんとする頑固力もね」

「拘束したのは謝るから、そう言わないでよ……」

 

 割とボロクソに言われ、非色は小さくため息をつく。

 実際、信用と言っても、頭の中を覗いたから出来る事であった。その上で、一方通行に何度も挑んだ粘り強さと根性が気に入った。妹達についても知っているようだったし、頭の中が見られない美琴と組むよりは信用できるというものだった。

 

「けど、一つ言っておくわぁ」

「何?」

「もし、万が一にも、私の隠れ家で私の秘密を知ることになった時は、誰にも言わない事を、ここで誓いなさい」

 

 食蜂の脳裏に浮かんでいるのは、外装代脳。食蜂の大脳皮質の一部を切り取って培養、肥大化させた巨大な脳だ。

 表向きは自身の『心理掌握』を拡張するブースターと言われてはいるが、実は登録した人間に、心理掌握の行使を可能とするための装置である。

 その事は他人に知られるわけにはいかない。しかし、万が一、知られたら、その時は……。

 

「いや、なんの事か知らないけど、そんな事になったら、記憶消してくれれば良いよ」

「……は?」

 

 誰にも漏らさない、なんて誓いは信用できない。知られたら記憶を消す……と、思う前に、同じ事を言われてしまった。

 

「あなた……他人に頭をいじられる事に抵抗とか無いの?」

「え? いやまぁ少しはあるけど……でも、別に俺、食蜂さんの秘密とか知りたくないし……」

「や、そういうことを言ってるんじゃなくて……」

 

 何故、他人をそんなに信用できるのだろうか? 頭をいじる際、もしかしたら他の事もされるかもしれないのに……と、思った時だ。

 ガクンっと、車が停まる。

 

「な、何……?」

「渋滞だね」

「はぁ……⁉︎」

 

 急に……それも大覇星祭の日に渋滞というのは異常だ。間違いなく、何かあった。

 それと同時に、自分達が乗っている車が走っている高速を渋滞させた、という時点で、何かある感じが丸分かりだ。

 

「急ごう。食蜂さん、俺先に……」

「あなた、隠れ家の場所知らないでしょ。言っておくけど、また置いて行かれるから言わないわよぉ?」

「うぐっ……」

「行くなら……そうねぇ。私を連れて……」

 

 私を連れて行きなさい、と言おうとした所で、食蜂の口が止まる。彼の頭を覗いたとき、外国人の女を連れて空中をバカみたいなルートで移動していたのを思い出した。

 あんなので移動したら、自分の体力が一気に消耗されてしまう。向こうに辿り着いたら、戦闘の可能性だってあるのに。

 

「……仕方ないわねぇ」

「え、行かないの?」

「嬉しそうに生意気力を発揮したのはこの口かしらぁ?」

「り、リファフォンをグィグィひふぁいへぇ……」

 

 頬にリモコンを押し付けた後、食蜂は小さくため息をつく。

 

「あなた、場所は電話しながら私が伝えるから、別々で行きなさぁい」

「え、俺を先行させるの?」

「そうよ。今から力を使うけど、他人に見られたくないから」

「……わかった」

 

 続いて電話番号も登録すると、非色はトラックの扉を開け、上に飛び乗る。そこで電話を繋いだ。

 

『行くわよ?』

「いつでも」

 

 非色は耳元の案内を聞きながら、高速で空中を移動していく。

 それを眺めながら、食蜂は一度だけ深呼吸をして、小声で呟くように言った。

 

「『エクステリア』……一三対目以降の任意逆流開始……!」

 

 直後、左右に分けられる車の長蛇。その間を一気に駆け抜けた。

 

 ×××

 

 一方、御坂美琴はカイツの案内で御坂妹の所まで来ていた。ここはつまり、食蜂操祈の隠れ家。ビルの屋上に設置されている小屋の前だ。

 一応、中では御坂妹が治療を受けている為、美琴は付近を警戒中である。

 あの外国人の男が言うには、自分は何処かの誰かに狙われているらしい。それならば、ここにいると巻き込んでしまう可能性もあるのだが、御坂妹がいる以上、離れるわけにもいかない。

 そんな中、一人の老人が、建物の中から出てくるのが見えた。どうにも、何処かで見た気がする爺さんだ。

 

「こんにちは、お嬢さん」

「あんたは?」

「二丁水銃に、ここに治して欲しい人がいると聞いて来た木山幻生という医者だよ」

 

 それを聞いて、少し美琴は警戒を緩める。木山、という名前を聞いて、木山春生関係の人だと思ってしまったからだ。

 その上、二丁水銃の紹介と聞いてしまえば、気が抜けてしまうのも仕方ないといえば仕方ない。

 

「患者さんは何処かな?」

「ああ、あそこの建物の中だけど、少し待っ……」

 

 そこで、美琴の携帯が鳴り響く。応対し、耳にあてがう。固法非色からの電話だった。

 

「もしもし? 非色くん?」

『御坂さん、今どこいます?』

「妹の所よ」

『一応、そこから離れた方が良い。そこに変な爺さんが出て来たら、すぐにでも……!』

「え……爺さん?」

 

 嫌な予感が脳裏を過ぎる。まさか、今のジジイは……と思って後ろを見ると、中で警護をしていたはずのカイツが入り口から叩き出されていて、小屋の中から黒い稲妻が生えるように出現していた。

 

「! まさか……!」

『もしもし? どうしたの?』

「後でかけ直す!」

 

 すぐに電話を切って、美琴は中を除く。そこにいたのは、リモコンを手に握っているさっきのおじさんだ。

 その顔を見ると、明確にどこで見たのかを思い出す。夏休み前、木山春生の記憶の中で見たじいさんだ。置き去りの子供達を使った実験に加担していた老人。

 直後、一気に頭の中が真っ赤に染まっていく。嘘を見抜けなかった自分に腹を立てつつ、一気に放電する。

 

「あんた、その子に何をしたァアアアアッ‼︎」

「ほっほっ、元気なお嬢さんだね。如何にも、実験マウスに相応しい」

「なっ……⁉︎」

 

 さらに、黒く宙に舞い上がった稲妻のようなウイルスが、自身の元に吸い込まれていく。

 ビルの屋上で、巨大な雷撃が空に向かって突き刺さり、天を割った。

 

 ×××

 

 佐天涙子と上条当麻がそこに居合わせたのは偶然だった。

 佐天の方は、何かしらの廃工場の中に入り込み、捕まったが、中の女性に助けてもらえたので、外まで案内してもらった所だ。

 上条は、佐天を探していた。前に顔見知りになれたこともあってが、借り物競走のお守りを貸してもらえたので、返すためだ。

 その二人が偶然、出会えたことにより、敵の目的を聞き入れることができた。

 

「奴らの真の狙いは、御坂美琴だ」

「え……御坂さん、ですか……?」

「佐天さん!」

 

 慌ててその場に上条は駆け込む。

 近くにいる女性は、上条を見た直後、キュッと目を細める。

 

「あ、上条さん。どうしてこんな所に……」

「いや、借り物競走のお守りを返そうと思って。ありがとな」

「いえいえ」

 

 お守りを手渡すと、真面目な表情で、もう一人の女に聞いた。

 

「で、どういう事だ? なんでビリビリが狙われてるんだ?」

「……さぁな。私も詳しい事は知らん。今のも、あくまで推察だ」

「っ……」

「私は失礼するぞ」

 

 それだけ言うと、その女性はその場から立ち去っていく。その背中を眺めつつ、上条は佐天に声を掛けた。

 

「ビリビリ……じゃない、御坂はどこか分かるか?」

「いえ、それがわからないんです」

「クソッ……また何か起こってるってのかよ……!」

 

 そう毒づいた時だ。急に、空が暗くなる。ふと上を見上げると、近くのビルの屋上から、黒い雷が出ているのに気が付いた。

 

「……どうやら、あそこみたいだな……!」

「わ、私……風紀委員とヒーローに友達がいるので、電話してみます!」

「分かった。俺は、あそこに行く」

「ええっ⁉︎ き、危険ですよ!」

「御坂は友達なんだ。俺が止めないわけにはいかない」

 

 そう言うと、上条はそのままビルの方へ走っていく。その背中は、何処かの無鉄砲な超人にとてもそっくりで、思わずボンヤリ眺めてしまう。

 が、今は呆けている場合でもない。すぐ、黒子に電話をかけた。

 

「もしもし、白井さん⁉︎ 敵の狙いが分かったよ! え、どうやって? 敵の基地みたいなところに乗り込んで……あ、いや危険なのは分かってたけど! わー! 怒らないで……っていうか、そんな場合じゃなくて……え、非色くんと一緒に説教⁉︎ それは勘弁してよー!」

 

 話が進まなかった。

 

 ×××

 

 屋上に到着したのは、まず非色が一番乗りだった。目の前にいるのは、変な爺さん、倒れた外国人と御坂妹、そして、全身に稲妻を浴び、禍々しい羽衣のようなものを身に纏った御坂美琴の姿だった。

 

「御坂さん、見つけたよ」

『そう。すぐに行くわぁ』

「こっちも、すぐに止める」

 

 それだけ言うと、通話を切った。さて、まずはあの怪しげな爺さんからである。

 

「ほっ、ヒーローくんか。世界に二つ以上、サンプルが存在するものはつまらんものだよ。興味ないね」

「あんた、木山先生の記憶に出てきた爺さんだよね。爺さんだからって加減してもらえると思うなよ」

 

 そう決めると、あの爺さん……木原幻生に向けて糸を放つ。その直後、その真横から放たれた雷撃に包まれ、二丁水銃は屋上から追い出された。

 

 


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