とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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同盟とは、裏を返せば利用し合う関係。

「へぇ〜……じゃあ賢いのね、固法くんって」

「い、いやぁ……ははは」

 

 学園都市第三位に褒められて、半分嬉しいがそれ以上に気まずい非色は、思わず目を逸らしてしまった。

 というか、何故自分の話になるのだろうか。いや、まぁこの四人は知り合いらしいし、唯一いつもいない自分に白羽の矢が立つのは分からないでもない。

 でも、正直、勘弁して欲しかった。

 

「……ていうか、固法くんって呼び方、固法先輩と被りません?」

「そうですわね。非色さん、とお呼びしましょうか」

「なんでそこで『さん』なのよ……。非色くんで良いんじゃない?」

 

 しかもなんか距離が近くなってきた。やはり中学一年生にこの状況は緊張する。せっかく手作りカレーを食べているのに、味を感じない程に緊張していた。

 

「あ、じゃあさ、黒子。あの話、相談してみたら?」

「あの話? ……ああ、爆弾魔のレベルの話ですの?」

「そうそう。頭良いんなら、案外分かるかもよ?」

「しかし……部外者にお話しするようなことではないのですが……」

「私には話したのに?」

 

 それを言われたら弱い黒子は、仕方なさそうに尋ねた。

 

「非色さん、爆弾魔の事件はご存知ですの?」

「あ、は、はい。知ってますよ。この前犯人捕まりましたよね?」

「はい。威力は大能力者並だったのですが、書庫に載っているレベルは異能力者……どういう事だと思われます?」

「……え?」

 

 その話には、少し興味が出た。何せ、自分も経験した威力だったから。

 

「あ、あの威力で……レベル2?」

「‥‥現場を見たんですの?」

「え? あ、あーいや……爆発現場を通り掛かったってだけで……」

 

 誤魔化しつつ、顎に手を当てる。正直、無能力者の自分に出来る助言があるのか、といった所だが、思い当たる可能性だけ聞いてみた。

 

「近くに爆発物があったり、とかは?」

「いえ、ありませんでしたわ」

「もしくは、建物自体にガタが来てたとか……」

「使われていないビルでしたが、簡単に壊れるような造りではありませんでした」

 

 二つ目の問いには初春が答えた。

 

「能力者の能力はなんですか?」

「アルミを爆弾に変える、というものです」

「じゃあ、近くに空き缶のゴミがあったりとか……」

「いえ、ガソリンやオイルとは違いますので、能力を使ったとて誘爆はしませんよ。そもそも、実際に爆発したと思われるスプーンは鞄の中に入っていましたし」

 

 それもバツ。なら他には。

 

「犯人は一人じゃないとか?」

「いえ、1人ですの。本人から聞きましたわ」

 

 黒子に首を横に振られた。どうやら、全部考えられた可能性のようだ。答えを出そうにも情報が少な過ぎる。

 そんな時だった。今まで黙っていた佐天が口を開いた。

 

「あ、じゃああれは? 『幻想御手(レベルアッパー)』」

「……え、何それ」

 

 思わず素で聞くと、佐天は丁寧に答えてくれた。

 

「簡単にいうと、能力者は簡単にレベルを上げられて、無能力者は能力者になるっていう何かのことだよ」

「え、何それ。チート?」

「みたいなものだと思う。私も噂で聞いた程度なんだから」

「ふーん……」

 

 なるほど、と顎に手を当てて唸る非色。道理で最近、能力者の犯罪が増えているわけだ。バスジャックの時とか思ったより苦労した事を思い出した。

 

「なるほどね……確かにそれなら納得はいくけど……そんな都合の良いアイテムあるのかしら?」

「ですが、実際の犯行に使われた能力と書庫のデータが違う例は今回が初めてではありません。幻想御手(レベルアッパー)というのを一度、調べてみるのも悪くないかもしれませんよ」

 

 初春のセリフで、黒子はさらに顎に手を当てた。そんな眉唾物の話に乗るのは癪だが、確かにこう続けてポンポンと書庫との食い違いがあれば、一度は探ってみるのも悪くない。

 

「問題は、それをどう探すか、ですの。ネットの噂程度のものを探すにも限度がありますわ」

「だったら、実際に手に入れたって書き込みを片っ端から漁ってみたらどうですか?」

「……デマを書き込んだ人にも一々、会うことになりますわよ」

「あ、じゃあ俺も手伝いますよ」

 

 非色が声を掛けると、四人が一斉に顔を向けた。その勢いに思わずヒヨッてしまった。何故、自分が発言するとみんなして反応するのだろうか? 

 

「え、なんですか」

「いえ、意外と協力して下さろうとしてくださるとは」

「普通、こんな話聞いたら関わろうとしないわよ」

「あ、いや……こう見えて俺、喧嘩強いからさ。手伝えることがあればなーって……」

「こう見えてって……どう見てもそうですよね」

 

 初春の冷静なツッコミが炸裂した。実際、滅茶苦茶強くてヒーローをやっているわけだから、仕方ないと言えば仕方ないのだろう。

 だが、ここは混ざっておきたいところだ。ヒーローにならずに情報収集出来るのであれば、それはそれでありがたい話だ。

 

「ていうか、それ以前に一般人のお力を危険な捜査に巻き込むわけには参りませんわ」

「え、でも俺、多分、そこらの能力者より強いですよ」

「‥……言いますのね?」

 

 あ、やべっ、と心の中で呟く。そういえば、目の前にいるほとんどが能力者だった。

 

「……あ、いや勿論、大能力者や超能力者には敵いませんよ? 相手が間抜けなら戦いようがありますけど、万全の状態で来られたら……まぁ、今の俺じゃ手も足も出ませんから」

 

 そう、今の非色では。武器があればなんとか渡り合えるだろう。……いや、超能力者は勝てそうにない。

 

「大丈夫ですよ。足は引っ張りませんから」

「……どうします?」

 

 初春が黒子に尋ねた。

 

「……いえ、ですから少し喧嘩が強い程度でしたら……」

「岩を握力で握り潰せますよ」

「‥……握力が強くても」

「サッカーグラウンドの端から端までボール蹴り飛ばせます」

「だとしても……」

「バイクに跳ねられても小さめの青タン一個で済みます!」

「……え、人間?」

 

 しまった、と頬に汗を流す。流石に情報を与え過ぎた。普通の人間の身体の基準がわからないため、思わず正体がバレそうなヒントを与えてしまった。

 

「……さ、流石にそれは盛りましたが」

 

 なので、退く事にした。しかし、この退き方は一度しか使えない。次以降の戦力自慢は一回もしくじれない。

 と、思ったのだが、さっきのテレポート攻撃を防いだのを見た黒子は、確かにただの喧嘩バカでない事も理解している。事情があるのかは知らないが、とりあえず仲間に入れてやるのも良いかもしれない。

 

「……分かりましたわ」

「やったぜ」

「ちょっ、白井さん。良いんですか?」

「固法先輩の弟さんですし、この体格ですし、話を聞くだけならば問題無いでしょう。……もちろん、条件は付けさせていただきますが」

「え、いや俺は俺のやり方で……」

「生意気言わないで下さいまし。まず、向こうから手を出してこない限り暴力は禁じます。それから、私達の使っている通信機を使う事。任務が終わるまで、外す事は許しませんの」

「あ、はい。分かりました」

 

 それくらいなら覚悟はしていた。何の問題もない。

 そんな中、唯一取り残されていた女子が一人、おずおずと手を上げた。

 

「あの……ちなみに私は」

「佐天さんは何かする必要はありませんわ」

「部外者だからね」

「危険過ぎます」

「ですよね……」

 

 女子三人から止められ、大人しく引き下がった。

 

 ×××

 

 とりあえず、初春、黒子は一七七支部に戻った。普通に風紀委員の仕事もあるし、あまりのんびりはしていられない。

 で、残った佐天、美琴、非色は。とりあえず、部屋でのんびりしていた。何故、佐天の部屋でのんびりしているのか分からないが、要するに選択を間違えたのだ。

 風紀委員の二人が帰ると言い出したので、てっきり自分と同じ一般人の美琴も帰るものだと思っていた。しかし、帰らずに「佐天さん、もう少しお話していっても良い?」「良いですよ」となり、帰るって言い出せずにこうなった。

 

「へぇー、佐天さんって普段、こういう服着てるんだ」

「可愛いですよね? この前、セブンスミストで買っちゃいました」

「良いなぁ。私は校則で休みの日も制服着用でさ」

「やっぱり厳しいんですね、常盤台」

 

 しかも、割と男が混ざりづらい会話をしている。非色は思わず一人でぼんやりしてしまっていた。というか、徐々に意識が薄れていった。というか、お昼寝を始めてしまった。

 二人で佐天のタンスに眠っている服を見ていると、心地良さそうな寝息が耳に届いた。

 

「……?」

「……あ、寝ちゃった……」

 

 二人して顔を見合わせて、眠っている唯一の男の子の顔を覗き込む。

 

「少し悪いことしちゃったかしら? この子、男の子だものね。退屈させちゃったみたい」

「あ、あはは……そういえば、今更ですけど、さっきまで女四人に男一人でしたもんね」

「……で、どういう関係なの? この子と佐天さん」

 

 唐突にやってきた直球に、思わずギョッとする佐天。

 

「ど、どういう、とは……?」

「つっ、つつ……付き合ってるの?」

 

 可愛い年上である。からかう気満々だった癖に、自分で照れているのだから。これが学園都市に7人しかいない超能力者の第三位なのだから、本当に人は見かけによらない。

 

「そういうんじゃないですよ。私にも非色くんにも、まだ恋愛は早いなって感じますから」

「そ、そういうもの?」

「そうですよ。特に、非色くんはまだまだお子様ですからね」

 

 何せ、女の子と目も合わせられないのだから。身体は大きくても気は小さいのだろう。

 

「ふーん……でも、良い子じゃない」

「はい。あまり誰かといるところ見たことなかったから分かりませんでしたけど、面倒見は良いし運動神経も良いし頭も良いし度胸もありますし……中一とは思えませんよね?」

「あ、うん。それは私も思った」

 

 二人揃って、寝息を立てている少年に目を向ける。特に、岩をも砕きそうな両腕の上腕二頭筋だ。

 

「‥……少し、筋肉見てみない?」

「ですね」

 

 寝ている男子中学生の服をめくる女子中学生の絵が、そこにはあった。

 

 ×××

 

 一方、その頃。風紀委員の二人組は、支部に戻りながら呑気に話し始めた。

 

「しかし、非色くんが固法先輩の弟さんだったなんて‥‥今だに信じられません」

「確かに、あまり似ていませんの。顔つきも大人っぽい固法先輩に比べて、かなり子供に見えますし」

 

 まぁ、筋肉の分を比較すると、やはりつい最近までランドセルを背負っていた子供には見えないが。

 

「何か事情があったりするんですかね?」

「あまり首は突っ込まないほうが良いと思いますわよ。固法先輩が話さない、という事はそういう事でしょう」

「……まぁ、そうかもしれませんけど」

 

 確かに、その辺は放っておいた方が良いのかもしれない。そんな話をしながら支部に入った。

 ……すると、そのお姉さんが机の上で両手で顔を覆っているのが見えた。

 

「……まさか、非色に好きな人が……? いや、でもそんなまさか私の部屋に来た時は口もまともに利かなかった子なのに……その好きな人のおかげ……? 喜ぶべきなのかしら……」

 

 なんかすごいぶつぶつ言ってた。思わず引いてしまうほどに。

 

「こ、固法先輩……?」

「どうかいたしましたの?」

「‥……あ、ああ、二人とも。いや、ちょっとね……。弟がね」

「「お、弟?」」

 

 ついさっき知り合ったばかりの少年の顔を思い浮かべる。しかし、こうして見た後も顔は全然、似ていない。

 

「そう。……あ、弟がいるって話、したことなかったっけ?」

「あ、はい。聞いていませんけど……」

「弟がいるんだけど……なんか、今日携帯見ながら百面相してたのよ。‥‥アレは絶対、好きな子がいると睨んでいるんだけど、どう思う?」

 

 目がマジだった。そんな事で悩んでいるのか、私達の先輩。と言わんばかりに。

 

「いえ、知りませんが」

「だって! 携帯見ながらソワソワしてたのよ⁉︎ ため息ついて、なんかもう……色々と! こんなの、普通気になるでしょ!」

「いえ、私は一人っ子なので」

 

 そんなに気になるのだろうか? 姉が弟に好きな人がいると知ったときは。

 

「と、とにかく、気になるの! その相手が誰なのか、そして弟は変な女に引っかかってないのか!」

「……」

「え、えっと……どうしましょう、白井さん?」

「その方なら、初春のクラスメートですのよ」

「し、白井さぁん⁉︎」

 

 面倒な空気を察した黒子は、早くも切り離し作業に取り掛かった。

 もはや弁解する時間も与えずに速攻で初春の両肩を掴んだ美偉は、ガクガクと揺すりながら聞いた。

 

「そうなの⁉︎ どういう事⁉︎」

「え、えっと……ていうか、弟さん……非色くんも同じクラスで……」

「下の名前で呼んでる⁉︎ どういう関係なの⁉︎」

「せ、説明させてくださーい!」

 

 涙目で説明した。

 

 ×××

 

 さて、その日の夜。非色は早速、仕事に取り掛かる。コスチュームは勿論、いつもの服だ。元の服装のまま戦闘力を見せるのはなるべく避けたいから。そういうのは顔バレのリスクが高まる。

 着替えを終えて、部屋の窓からこっそりと出て行こうとした所で、スマホが震えた。

 

「さ、佐天さん?」

 

 なんだろ、と思いつつ、とりあえず電話に出た。

 

「もしもし?」

『……あ、非色くん?』

「う、うん」

 

 クラスメートに下の名前で呼ばれると、やはり背中がむず痒くなる。それ以上に、いまの服装で名前を呼ばれること自体がなんか変な感じだが。

 

『これから行くの?』

「うん、今から家出るとこ」

『そっか……じゃあ、気を付けてね。それだけ』

「え、そ、それだけ?」

『うん。……なんか、私も一緒にいたのに、さっきは「一緒に行く」って言えなくて‥‥サイトの向こうの人、なんか不良っぽいというか、怖そうだったから……』

「気にしなくて良いよ。行くって言っても止められてたと思うしね」

 

 そんなこと言い出せば非色も止めた事だろう。

 

『と、とにかく、気を付けてねっ。ホント、怪我だけはしないように』

「大丈夫だよ」

『じゃあね』

「うん」

 

 挨拶だけして電話は切れた。心配されるのはやはり慣れない。いらない心配なら尚更だ。不安にさせて申し訳ない、と頭の中で謝りつつ、とりあえずビルから飛び降りた。

 通信機を耳に付けると、夜の街の屋上を駆け巡りながら、通信の向こうの風紀委員に声を掛ける。

 

「もしもし、白井さんですか?」

『あ、いえ初春です。私がここから指示を出しますね』

「了解。で、どうしたら良い?」

『とりあえず、指定するポイントに向かって下さい』

「はいはい」

 

 それだけ聞いて、ふとひとつの疑問が浮かんだ。そういえば、姉も風紀委員の同じ支部にいるはずなのだが、何も言わないのだろうか? それとも、ずっと黒子と話しているテイで話を進めているのだろうか。

 何にしても、ギリギリの綱渡りだ。何せ、姉にバレたら絶対に怒られるのだから。

 

「上手く、やらないとな」

 

 そう呟くと、とりあえず目的の場所に向かった。

 

 


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