さて、まぁいつもの如く黒子、美偉、木山に怒られるに怒られた非色だが、もう次の日にはピンピンしていたので手に負えない。
翌日からは、何事もなく大覇星祭が始まり、非色は佐天、初春と学校の応援に励んだ。
そして、何も応援だけではない。全校生徒参加の競技をサボる予定だったが、参加してみる事にした。
競技の内容は……例えば竹取物語。グラウンド中央に置いてある竹を両校が走り込んで取り合うもの。
「位置について、よーい……」
パンっの合図で、非色は目立たないように佐天、初春と一緒に行動。なるべく相手校が取ろうとしていない奴を選び、初春と佐天が掴んだ直後。敵の能力により竹は引っ張られる。
「わっ、ちょっ……!」
「取られちゃいます〜!」
「二人とも、フリで良いから力入れて」
後から非色が竹を手にした直後、一緒に引っ張っているはずだった佐天は後にこう語った。
──まるで、虚無を引いたようであった。と……。
「……大人げないことして」
「まぁ、まだ私と同じ中学一年生ですし」
というのは、モニターでその様子を見ていた美琴と黒子の呟きだった。
続いて、お昼ご飯。何処で食べるか探し回っている非色、佐天、初春、黒子、美琴の5人の元に、見覚えのある大きな影が二つあった。
「お弁当持ってきたわよ」
「わっ、固法先輩と、黒妻さん!」
「よう。ひさしぶり。非色、競技見てたぜ。うまく誤魔化してたな」
「あざっす!」
残念ながら競技に参加出来ない黒妻であったが、こうして祭りに参加することはできた。
「今、ご飯食べるところ探してるんですけど……」
「非色さん、ジャンプしてその辺漁ってきて下さいな」
「いやどういう扱いしてんの、ヒーローを」
「いや、悪いけどあんた普段はヒーロー感ゼロよ」
「ただのヘタレなマッチョにしか見えませんもの」
「あんたら俺のこと嫌いなんですか?」
なんて話している中、黒妻が手を叩いていった。
「それなら、俺が良い場所知ってるぜ」
そう言って、ついていって先は……高いビルの屋上だった。もう使われていないからかボロボロだが、見晴らしは最高である。
「良い場所だろ?」
「そうですね……周りにスキルアウトが気絶していなければ……」
「食事の前の良い運動にもなりましたものね」
「いやそういう意味じゃなくて」
顔パスでいけるから、俺を信じろよ。と、黒妻は言ってビルに入ったが、佐天や初春と言った可愛いけど弱々しい女子を見つけて、スキルアウト達は突撃して来たので、掃除した。
お昼が終わった後は、さらに各々、競技へ向かう中、非色は別行動をした。マスクを被る時間などではなく、大覇星祭に参加出来ないメンバーを思い出したからだ。
「ったく……メンドくせェな……」
「ミサカはお祭りではしゃげて嬉しいかも! って、ミサカはミサカは誘ってくれたヒーローさんに喜びの舞を披露してみる!」
「はしゃぐのは結構ですが、周りの人にぶつかりそうです。と、ミサカは己の幼少期の容姿をした幼い個体に注意します」
「出店でご飯食べるだけでも参加する事になるから」
そう言いながら一方通行、打ち止め、御坂妹を連れ回していた。
そんな中、不機嫌そうな白髪が舌打ちしながら言った。
「何より……なンでオレがテメェのコスプレしながら歩かなきゃいけねェンだ」
そう言う一方通行の目には、非色のサングラス(マスク収納済み)が掛けられていた。
「だって、御坂さんに見つかりたくないでしょ? ……言っとくけど、それ貸しだから。あげてないから」
「ンなモン、誰が欲しがンだよ! マジブッ殺すぞクソガキ!」
「でもねでもね、ミサカが欲しいって言ったらこの人、二丁水銃なりきりセット買ってくれたんだよ! って、ミサカはミサカは内緒の情報を自慢してみる!」
「オイ、ガキ」
「ほう……それは羨ま……興味深いです。一度、貸してもらえませんか? と、ミサカは上位個体の聞き捨てならない情報に探りを入れます」
「いや、俺のグッズとかホント誰に許可取ってんの……あと、俺の前でそれしないでね。恥ずかしいだけだから」
そんな話をしていると、打ち止めが「おっ」と声を漏らす。
「たこ焼き! 美味しそう! って、ミサカはミサカは良い香りを漂わせている屋台を指差してみたり!」
「アン? 仕方ねェな……おら、買ってこい。オマエ、ついて行ってやれ」
「了解しました。……と、ミサカはさりげなく二人分のお金をくれるツンデレに……」
「殴るぞ」
「行ってきます」
二人の姉妹にしか見えない姉妹が買いに行くのを眺める非色に、一方通行が隣から声を掛ける。
「オマエ、また無茶したらしィな」
「え、そんなのしてないよ」
「誤魔化すな」
「……耳が早いね」
誰に聞いたんだか……と、思ったが、元々今回の件には妹達が絡んでいる。一方通行が、そのことを知らないはずがない。
「理想を追うのも結構だが、あンまそればっか追ってると、いつか保たなくなる時が来ンぞ」
「大丈夫だよ。俺、頑丈だし……」
「身体じゃねェ。中身だ」
精神的な面を言っているのだろう。未だ心を折られるような事になったことがない非色だが、堪えているに過ぎない場面だってある。一方通行の時とか、まさにそれだ。
「良いか、テメェがどういうつもりで吐いた戯言だが知ンねェけどよ、勝手にそう宣言しておきながら、オレの知らねェ所でクタバったら、もう一度殺しに行くぞ」
「……なんか宣言したっけ?」
「言ってたろォが。友達だとか、なンとか」
「……」
言われて、非色は少し意外そうに目を丸くする。もしかして……柄にもなく心配かけてしまったのだろうか?
確かに、一方通行ほどの強さなら、巻き込んでも怪我したりしないだろうが……いや、言いたい事はそこじゃないのだろう。
「ありがとう。じゃあ、二丁水銃二号に……」
「それはやらねェ」
と、四人で歩いた。
三人を病院に送り終えた後は、病院の前でウロウロしていると、走っている上条と衝突した。
「痛ッ‼︎ な、なんだ、電柱か⁉︎」
「いや、人なんですけど」
「! 固法、助けてくれ! 俺今……」
「捕まえたわよ、上条!」
「うぐえっ……!」
「公衆の面前で秋沙のズボンを脱がした罪の重さを知れ!」
「だ、だからあれはわざとじゃ……ひぃっ!」
吹寄の頭突きが迫る直前、上条の前に非色が立ち塞がり、頭突きを胸で受け止めた。
「ちょっ、落ち着いて下さ……大丈夫ですか?」
「あなた……普段、金属でも食べて生きてるの……?」
「すみません……」
「食べてるの⁉︎」
「いえ、食べてませんが……」
額を抑えて蹲る吹寄。少し悪いことをしたと思い、前で膝をついて額を撫でながら、上条に聞いた。
「で、脱がしたんですか?」
「……転んで両手がズボンに当たって」
「謝りました?」
「謝る前に、吹寄に追いかけられて……」
「まずそこからでしょうに……」
「うぐっ……だ、だよな……」
と、何故か他所のラッキースケベを解決し、とりあえずいつものメンバーに合流しに行った。
×××
さて、そしていよいよ日が沈み、夕方。丸一日遊んでいるわけにはいかない、と決めた非色は、ヒーローとして活動を始めた。
後夜祭の場を見て回っていた。ビル街を移動していると、地上にいるメンバーから歓声が上がる。
「うおっ、二丁水銃! 二丁水銃だ!」
「すげぇ、本物?」
「見てるとやっぱすげえわ。なんで自分の体あんな軽々持ち上げられるわけ?」
「化け物!」
何とも言えない声援だが、やはり嬉しいものは嬉しかった。
そんな中だ。キキーッという甲高い音と共に、乗用車が明らかに違反した速度を飛ばして行動を走っていた。
「オラオラ、どけどけェ〜っ! オラァ、今かぁ、未来に帰うんだおおおおお!」
酔っ払い運転のようだ。落雷でも待って落ち着いて欲しい所であったが、放っておくわけにはいかない。
ビルから一気に降下した非色は、車の上に着地すると、まずフロントガラスを叩き割った。
「ああっ⁉︎ なんだコラ! やんのか、アア⁉︎」
「俺も好きだよ。マーティとドク。でも、なんだかんだ1が一番好きかな」
「うるせえ! 誰だ、変なマスクつけやがって⁉︎」
「でも、あんたが帰るべきは未来じゃなくて刑務所」
そう言った直後、叩き割ったフロントガラスから、まずは運転手を引っ張り出し、通り過ぎたビルに向かって投げつけ、糸を出して動きを封じた。
続いて、そのまま車の前に降りると、正面から車と相撲を取り、強引に持ち上げ、タイヤを浮かせてみせた。
「よっ……と!」
その後、持ち上げたまま車をひっくり返して地面に下ろした。
「おいおい、本物の化け物かよ!」
「良いぞ、ヒーロー!」
「応援ありがとう、通報はよろしく!」
それだけ言うと、またすぐにビルの真上に戻ってパトロールを続けた。
そんな中だった。ぷるるるっと電話がかかって来る。
「もしもし?」
『あ、非色さん。今、お時間ありますの?』
「あ、白井さん。無理です」
『は? な、何故? まさか、また事件でも……』
「パトロール中ですので」
『なら、話は早いですの。いつも通る公園に、10分後に集合していただけます?』
「え、いや無理って今……」
『来なかったら……そうですわね。この前のオリアナさんの事、お姉さんに紹介を』
「行きます」
それだけは勘弁して欲しかった。悪い人ではないけど、普通にちょっと良い思い出がない。かなりからかわれてばかりだった気がする。それに、その……胸も、見てしまったし。
半ば強制的に参加させられた非色は、すぐにその公園に姿を表した。人のいない所でスーツを解除し、しばらく歩いていると、何やらやたらと明るい場所が目に入る。
キャンプファイアーを上げて、フォークダンスをしていた。中に、上条と美琴がいるのも見える。
「遅いですわよ」
「……あ、し、白井さん……」
「こういうのは普通、殿方から誘ってくださるものだと思っておりましたが……まぁ、良いですわ」
「?」
「私と、踊っていただけませんこと?」
「……」
思わず、それを聞いて頬が赤くなる。相変わらず、同級生と思えないくらいチャーミングな顔なのに、表情や落ち着きは同級生と思えない。
しかし、女性の方がそう言ってくれているのなら、自分もそれ相応の態度で返さないといけない。
強引に笑みを浮かべ、余裕のある態度を作り、思い浮かぶ限り紳士的な対応を心がけた。
「よ……」
「……よ? (よろこんで? よろしく?)」
「よ…………よいですけど、俺経験ないんですけど……」
「……」
ダメダメだった。さっきから第六感センサーにビンビン伝わって来ている、自分と黒子を監視している馬鹿達から落胆するような何かを感じ取れる程度にはダメダメだった。
「ふふ……まぁ、非色さんですものね」
「っ……ご、ごめん……」
「今の返事がダメだという自覚が芽生えただけでも、大きな進歩ですわ」
不思議と褒められた気がしなかった。
「あなたの運動神経なら、私の動きを真似することなど容易いでしょう? 合わせて動きなさいな」
「え……いや、でも……」
「参りましょう?」
強引ではあったが、それくらいでやらないと非色は自分から動けない。
非色の手を取り、実に緩やか且つ洗練された動きで、黒子は舞う。それに必死に合わせようとする非色……だが、上手くいかない。
その拙さも、黒子は許容するどころか抱擁するように合わせ、踊る。
「……し、白井さん……上手ですね……」
「それはもちろん。これでも、お嬢様ですので」
正直、合わせるので精一杯だった。その隙をついたように、黒子は強引に非色の手を、自分の元に抱き寄せるように引き込む。
「っ、な、え……?」
「非色さん、こんな時に……いえ、このような場ですから、改めて言わせて下さいな」
「な、なんですか……?」
しかし、力も体重も非色の方が強い。どちらかと言うと、黒子が自分から引き寄せられるために、腕を引いた。
クルクルと体を回しながら、非色が広げた腕に背中を預け、上を向きながら顔を近づけ、赤くなった頬のまま、一世一代の勝負に出た。
「私は、固法非色さんの事をお慕いしております。……私と、恋人になってくださいませんこと?」
「っ……ふえ?」
思わず、間抜けな声が漏れる。ムードとしては十分、あり得る可能性ではあったのに。
そんな慌てているのが目に見えてわかる非色を見て「くすっ」と微笑んだ黒子は、分かりきっている答えを急かした。
「お返事は?」
「っ……っっ…………!」
悩んでいる。かなり、悩んでいる。恐らく、付き合いたいという気持ちと、ヒーローとしてそれが許されるのかを考えているのだろう。
気持ちは分かる。最近になって、分かるようになった。彼が戦う相手は本当に危険な相手が多いし、元は大したことなくても、あらゆる手を使われることで恐ろしい相手に成り代わることもある。
でも、だからこそ黒子は強く思った。ナメるな、と。自分の身は自分で守る。自分で守りきれない相手でも、必ずヒーローの足は引っ張らない。色んな人に助けてもらう。
そんな意味を込めて、少し挑発的に微笑んだ。
「あなたには……私を守りながら、強敵と戦う覚悟も度胸も、ないのですか?」
「っ……」
それを聞いて、非色は一瞬出し抜かれたような表情になる。が、やがて自分の中で気合を入れ直した。
そうだ、自分はヒーロー。好きな人一人、守れないようではこの先、何か守れるわけがない。
「よ……よろしく、お願いしましゅっ……」
「ふふ、相変わらず締まらない方ですわ」
そう言いながら、二人は周りの視線など気にすることなく、炎の周りで踊り続けた。
大覇星祭終わりです。
この後、ドリームランカーをやるのか、木原くんとかヴェントとかのとこをやるかは決まっていません。