とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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大人げない人の大人な部分は子供には見えない。

 翌日、放課後になり、非色はいつものように活動を始める。街の生徒を見下ろせるよう、高層ビルの上を辿っての移動。気持ち良さそうに、風を浴びながら街を見て回っている中、ふと電話が入る。

 

「? 御坂さん?」

 

 珍し……くはないが、いやこうやって急に電話をして来るのはやっぱり珍しい。何事かと思い、応答する。

 

「もしもし?」

『話があるんだけど』

 

 開口一番それかよ、と、思ったが、とりあえず口には出さずに耳を傾ける。……とはいえ、何かしてしまっただろうか? 黒子関係? いやでもデートを終えたばかりでまさかそんな……。

 などと頭の中で少しずつ悪い想像を広げていると、そんな考えを読んだように美琴が口を挟んだ。

 

『安心しなさい。黒子関係じゃないから』

「え、あ、そ、そうですか……」

『今何処?』

「今、今は……てか、俺からそっちに行きますよ」

『そう。じゃあ、橋が近くにかかった土手沿ね』

「あ、はい」

 

 なんでそんな所? と、少し気になったが、自分が今いる位置から5分かからない。

 建物の上を飛ばし、街灯や電柱を利用して移動。そんな間でも、頭の中で何の用なのか考えてしまう。呼び出しを食らった時の声音から、もうなんか不機嫌に感じたから。

 そんな中、なんの要件なのか、思い当たると同時に土手沿いに到着し、変身を解除した。

 

「まさか……恋人が出来た白井さんが羨ましくて、自分も上条さんとの距離を縮めたいから手伝わされるとか⁉︎」

「レールガーン」

「あぶねええええええええええ‼︎」

 

 光速で飛んできた稲妻を帯びたコインを慌てて回避した。後ろを見ると、相変わらずお嬢様には見えない活発な先輩が後ろで立っている。

 

「な、何するんですか! いきなり人に必殺技かまします⁉︎」

「どうせ避けられるんでしょうが」

「いや、そういう問題じゃないでしょ。じゃあ俺が今から石投げても、どうせ避けられるし許されるんですよね⁉︎」

「な訳ないでしょ」

「暴君だ!」

「人がいない間に、他人が恥ずかしくなる独り言を言うのは良いわけね?」

「……」

 

 そうだった、自分が悪かった。というか、ガッツリ聞かれていた。

 

「すみませんでした……」

「別にそんなのいいわ。それより、聞きたい事があるんだけど」

「なんですか?」

「あなた……」

「あらぁ、御坂さんじゃなあい☆」

 

 そんな中、ふと別の声が割り込んでくる。二人してそっちに顔を向けると、少なくとも美琴にとっては絶対に見たくない顔が見えた。

 

「げっ……食蜂」

「あ、食蜂さん!」

「なんであんたそんな元気なのよ……」

「だって、前はお互いの背中を守り合って戦った仲ですからね。ね、食蜂さん!」

「そうねぇ。年下のあなたの方が、年下の隣の子より礼儀がなっているわね?」

「チッ」

 

 ……逆に、非色としては同じ中学で同じ学年で同じレベル5なのに、何故こんなに仲悪いのか、気になって仕方なかった。

 

「あんた、なんでここにいんのよ」

「いやね、偶然よ」

「嘘こけ!」

「本当のことなのに……ヒーローくん、人の話を信用できない人ってどう思うかしら?」

「酷いですよねー。人間関係は、まず信頼からだというのに」

「そうねぇ」

「どの口が言うかぁ! 食蜂!」

 

 むっきーと怒る美琴。食蜂は食蜂でケタケタと笑っている。そんな二人の様子を眺めながら、非色は続ける。

 

「ていうか、御坂さん。何の話かわかんないけど……立ち話じゃなくてファミレスとか入りません?」

「いや、そんな所で出来る話じゃないから。……てか、食蜂。あんたさっさと帰りなさいよ」

「ふふ、そういえばぁ……御坂さんにこの前の借り、まだ返してもらってないわよね?」

「っ、な、なんの話よ……!」

 

 また会話から外されている非色。こいつら自分達だけの世界に入り過ぎではないだろうか? ……まぁ、言わぬが花っぽいので黙っておいたが。

 

「ほら、何処かのエレクトロマスターさんが爺さんに嵌められて暴走した件? アレの解決に、私も尽力したのよねぇ。ヒーローくんと」

 

 ね? とウインクして非色に微笑みかける食蜂。普通に「可愛い」と狼狽えてしまった。

 その非色の頬を、ぐいーっと美琴がつねる。

 

「あ、ん、た、は! 黒子がいるのに何をデレデレしてんのよ!」

「し、してふぁへんよ!」

「ふふ、しても良いのよぉ? あなたぐらいのお年頃だと、年上のお姉さんとか好きそうだものね」

「あんたも誘惑すんな! た、確かにこいつは私とかあんたみたいに年上の知り合い多いんだから、黒子が困るでしょうが!」

「あら、御坂さんも年上のつもりなのね。体型は白井さんと大差ないのにぃ」

「どういう意味だコラァッ‼︎」

「ちょーっ、す、ストップストップ! 喧嘩はダメですって!」

 

 ビチバチッと稲妻を漏らす美琴の前に、まるで食蜂を庇うようにして立ち塞がる非色。

 

「あんたは食蜂の味方なわけ⁉︎ 私との方が付き合い長いでしょうが!」

「いや、味方とかじゃなくて、能力使うと怪我人が出ますから! ね?」

「ふふ、そうよ御坂さぁん? 年上なのに、年下に仲裁されちゃうなんて、流石の貫禄ねぇ?」

「退きなさい、怪我じゃ済まないわよ」

「ちょっ、食蜂さんも煽るなっつーの!」

 

 アワアワと慌てた様子で二人の間で手を翳す。しかし、元々犬猿の仲なだけあって、喧嘩は徐々にヒートアップしていく。

 

「何、非色。あんたホントどっちの味方なわけ? そもそも私が集めたのになんで食蜂の肩ばっか持ってんのよ」

「いや、ですから……俺は、別にどっちの味方とかじゃ……」

「非色くんは弱い者の味方よねぇ? 私と脳筋の御坂さんが正面から戦ったら、間違いなく私が黒焦げにされちゃうもの」

「いや間違ってないけど、だからってあんま煽るのは……」

「少なくとも、その胸だけ大人な女よりは私の方が大人でしょ。普段、接してるからこそ分かるわよね? 私、こう見えて年下の子とかちゃんとまとめてるし」

「そうですけど……どっちが大人でも良いから……」

「私は年上の人もまとめられるけどねぇ? 能力なんて使わなくても、私に尽くしてくれる良い子はたくさんいるしぃ。少なくとも精々、3〜4人しかお友達がいない御坂さんよりは私の方がまとめる力もあると思わなぁい?」

「ああん⁉︎」

「いや、とりあえずキレるのやめませんか御坂さん。あと、食蜂さんも一々、競い合うのやめようよ。カリスマ性にも色々あるんだからさ……」

「……」

 

 そんな中、少しだけ冷静になった美琴が、ふと怪訝そうな表情になる。異変に気づいた非色と食蜂が「どったの?」と視線で問うと、非色の方を見て聞いた。

 

「ていうか……非色。あんたどうして私には敬語なのに食蜂にはタメ口なわけ?」

「え?」

「あら……確かに」

 

 そういえばそうかも、と非色は顎に手を当てる。なんでかな……と、思って思い出すが、すぐ理由は理解した。

 出会った時、普段の時かヒーローの時かの差だろう。美琴とは素で出会ったから、年上のイメージが強くて敬語がそのまま続いてしまったのに対し、食蜂と出会い、そのまま協力したのはヒーローの時。しかも、ヒーローのまま顔を晒す事さえあった為、素の時もタメ口で話すようになっていた。

 つまり、特に扱いに差があるわけではない。そのまま話そうと口を開……こうとしたのだが、先に勝ち誇った表情で美琴が大声を出した。

 

「つまり、それは私の方が敬われてるって事でしょ! あんたはこいつに舐められてんのよ!」

「いやなんでそうなるんですか⁉︎」

「……」

 

 ジロリと食蜂に睨まれ、冷や汗をかく非色。いや全然全くそんなことないのだが、それを言って信じてもらえるだろうか? 

 たらりと頬から冷たい汗を垂らすと、ふと食蜂は笑みを漏らした。

 

「ぷっ……ふふっ」

「っ、な、何笑ってんのよ」

 

 その小馬鹿にしたような笑みが、一々美琴の癪に触る。声のトーン、口元に上品に添えられた手、そして僅かな仕草でも確かに揺れる胸、全てが腹立たしい。

 それを、まるで承知しているように食蜂は告げた。

 

「ホント、脳筋ねぇ。食べた栄養は脳にもいかず胸にもいかず……一体、どこに向かっているのかしらぁ?」

「ああん⁉︎」

「敬われるかどうかが年上としての魅力ではないわぁ。生まれた年が先、という時点で多少の優劣が発生するのは当然だもの」

 

 それはその通りだろう。小馬鹿にした態度とは真逆にまともなことを言われ、非色だけでなく美琴も聞く態度を示す。

 

「……じゃあなんだってのよ」

「つまり、彼にとって私は、年上であるにも関わらず親しみやすいということよ? むしろ、この方が大人な証拠ではないかしらぁ?」

「んなっ……!」

 

 確かにそういう見方は出来る……と、非色は思えたが、そもそも出会いの時の姿の差だから、お門違いも良い所だ。

 ……いや、そう考えるとこの喧嘩の原因は自分にある気さえしてきた。

 

「そ、そんなわけないでしょ⁉︎ じゃあ何、私がまさかよりにもよってあんたより親しみづらいとでも言うわけ⁉︎」

「そう聞こえなかったのかしらぁ? そもそも、私が御坂さんに劣っている部分なんて、脳筋さんな面以外にないしぃ」

「言ったなこの牛乳コラァッ‼︎」

「すぐ胸のことにしかいかないわけえ? どれだけ拘ってるのよぉ。あなたのそのA弱の胸も、需要ある人にはあるんじゃないかしらぁ? 主に、ロリコンさんとかぁ?」

 

 ブチっ、と、何かが切れる音が美琴から聞こえた気がした。それと同時に「ゴロゴロ……」と、なんか天気が一瞬だけ悪くなったような気配も。

 

「だ、れ、が、ロリだゴラァァァァァァァァァッッ‼︎」

「御坂さんストップ!」

「退きなさい、非色! そいつ殺せない!」

「殺しちゃダメですってば! ……てか、食蜂さんも! 煽るなって言ってんでしょうが⁉︎」

「あらぁ? 私は本当のことを言っただけよ?」

「全然、ホントじゃないですから! 俺にとっては御坂さんも食蜂さんもお友達なので、そんな敬語ひとつに左右されるような優劣とかないので!」

「……」

「……」

「き、気に入らないんならどっちかの口調に統一しますから!」

 

 そこまでは良かった。仲裁役として、しっかり言うべきことは言い、二人を落ち着かせるに至っている。

 しかし、いくらマスクをかぶると軽口が叩けるとか言っても、二重人格などではない。つまり、非色の時でも余計なことを言ってしまう事は多々あるわけで。

 

「良い年した年上が、こんなくだらない事で能力使わないで下さいよ! レベル5になってまで得た能力は幼稚な喧嘩用じゃないでしょうに⁉︎ そんなんじゃどっちも大人には見えませんから!」

 

 ビギッと、二人の額に青筋が立つのと、ヒクっと引き攣るのが同時だった。あれ、また何か言っちゃった? なんて思った時には遅い。正論ならどんな言い方をしても良いわけではないのだから。

 生意気な口を叩いたヒーローの腕を、二人は両サイドがガッシリ掴む。嫌な予感が脳天から足の裏にまで伝った。

 

「へぇ……言うじゃない、中学一年生」

「相変わらず、相手が誰であろうと舐めた態度をとるのねぇ?」

「いやそんなつもりは……」

「悪気がないなら尚更だわ。色々と歳上として教えてあげる」

「主に、礼儀と言葉遣いをね? 内容が正しければ、何を言っても良いってことは無いって事を教育してあげるわぁ」

「え、あ、あの……もしかして、怒ってます?」

「「言われなきゃわからない?」」

 

 死んだな、と、我ながらそう判断せざるを得なかった。

 

 ×××

 

 コテンパンにとっちめられた非色を放置して、美琴は今更になって聞きたいことを聞き損ねたことを思い出した。

 が、なんかもうどうでも良くなってきてしまったため、今日じゃなくて良いや、という感じになっていた。

 そんな美琴は一応、聞くことは聞いておくことにした。

 

「……で、あんたはなんでついてきたわけ?」

「偶々、学校で白井さんとすれ違った時、頭の中を覗いたら普通に妹達やら一方通行やらの話をあなたにバラしてたのが見えたのよ。……御坂さんがどうなろうが知ったことじゃないけど、あの子がその絡みで責められるのは気が引けただけよ」

「……あんたが、他人の心配?」

「私、あの子の事、結構気に入ってるし、信頼も出来ると思っているのよ? 私の事を、恐れ多くも『友達』なんて平然と言える子、中々いないもの」

「……」

 

 それはその通りだ。多分、彼に肩書きなんてものは通用しないのだろう。まぁ一方通行に勝ったわけだし、そうでなくてもジャイアントキリングと呼べる成果を挙げて来た男だ。

 肩書きなんかにビビるタマではないのだろうし、おそらくそいつが今、反省して悔い改めるようなことがあれば、許し友達になることも平然とするのだろう。木山春生などが良い事例だ。

 もしかしたら……例えそれが、一方通行であってもそうなのかもしれない。

 

「あなたも非色くんのお友達なら、気をつけて見ていてあげなさあい。何度か彼の頭の中は覗いたけど……科学の街で誰よりも人のために尽くすけど、誰よりも機械的な子だから」

「……」

「でも、機械的に見えるだけで、機械じゃない。いつか、何かきっかけがあると爆発する事もあるから」

 

 それだけ言うと「じゃあね」と言って食蜂は立ち去った。その背中を眺めながら、美琴は倒れている非色を見下ろす。少し、いじめ過ぎたのか、体育座りをしたままブツブツと呟いている。

 人のために尽くすけど機械的……その言葉はやたらとしっくり来た。

 

「……」

 

 自分も、可能な限り彼を見ていてあげる必要があるのだろう。それこそ最悪、他の気に食わないレベル5と協力するハメになっても。

 そう噛み締めつつ、とりあえずヒーローを捨て置いて美琴も帰宅した。

 

 




9月ってまだ衣替えしてなかったんですね。気にせず次からドリームランカー行って、その次に暗部行きます。

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