とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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楽して手に入る力にロクなものはない。

 情報収集を終えた非色は、自分の部屋に窓から戻る。そこで着替えをしながら、通信機で初春に報告をしていた。

 

「うん、そう。サイトの隠しページからダウンロードしたんだって」

『そうですか……。ありがとうございます。大きな進歩です』

「いやいや、大したことないよ。白井さんの方はどうだった?」

『それが……邪魔が入ったみたいで空振りに終わりました』

 

 なるほど、と非色は頭の中で頷く。まぁ、黒子はともかく美琴は脳筋っぽいし、うまく聞き出せなかったんだろう。

 

『でも、非色くんが上手くやってくれたので良かったです。……どうやったんですか?』

「あ、あはは……それはー……ねぇ?」

 

 電話なのに目を逸らしながら着替えを進める。尋問の際は通信を切った。名前を言われるだけで台無しになるのだから。

 暴力沙汰にならないよう、まずは水鉄砲を置き、その上で慎重に取引した。捕まえに来たわけではないことを伝え、自分の力を見せる。具体的には、近くに落ちてたドラム缶を素手で引き裂いて。

 その後に質問すると、快く教えてくれた。

 

『とにかく、ありがとうございました。通信機は明日、返していただければ結構ですので』

「分かった。じゃ、またね」

『はい』

 

 それだけ話して電話を切った。着替えはすっかり終わり、何食わぬ顔でリビングに顔を出すと、既に美偉が帰って来ていた。

 

「う、うわっ⁉︎」

「きゃっ⁉︎ ……ひ、非色。いたの……?」

「え? あ、うん。か、帰ってたんだ……」

 

 風紀委員が支部にいる間はてっきり姉もそこにいるものだと踏んでいた。

 

「じゃあなんで無視したのよ。さっきノックしたのよ? 返事無いんだもの」

「あ、え、えっと……ね、寝てたんだよ」

 

 上手い言い訳が思いつかなかった。というか、それくらいしか言えない。

 しかし、美偉の視線は明らかに疑っている。ジト目中のジト目、という奴だ。それにより、非色は思わず目を逸らしてしまう。

 

「まさかとは思うけど、非色ってもしかして……」

「な、何……?」

 

 聞いたらまずい、とわかっているのに反射的に聞いてしまった。嫌な冷や汗が背中を伝る。夏だから心地よい、とはいかなかった。むしろ胃がねじ切れんばかりである。

 そんな非色の気を知ってか知らずか、美偉は遠慮気味に聞いた。

 

「……好きな子が出来たの?」

「……はい?」

 

 緊張の糸が蒸発していくのを感じた。何を言っているのか理解できない、と言わんばかりに眉間にシワを寄せる非色。

 

「な、何言ってんの?」

「今日、クラスの子の家でカレー食べたんだって?」

「た、食べた、けど……」

「それに、朝は携帯見ながらソワソワしてたじゃない! 好きな子が出来たんでしょ⁉︎」

「え、み、見られてたの⁉︎」

 

 なんか恥ずかしい。携帯を見てソワソワしていたのは、なんかとても恥ずかしかった。

 

「で、どうなの? 変な子に引っかかってない?」

「そ、そんなことないよ! ていうか、別に好きな子でもないから!」

「本当に? いきなり部屋に招待して手作り料理作るような子でしょ?」

「佐天さんは変な子じゃないよ! 今日の料理だって、試験勉強の面倒を見てあげたお礼ってだけで作ってくれたんだから!」

「あ、ムキになってる! やっぱ好きなんだ!」

「ちっがーう!」

 

 お互いに随分と下らない事でヒートアップするものだった。

 

「と、とにかく、佐天さんは友達だから! 変なことは一切ないんだから!」

「とも、だち……?」

「そうだよ!」

 

 すると、唐突に黙り込む美偉。何事かと非色が眉間にシワを寄せた直後だった。

 美偉の眼鏡の奥から、きらりと光り輝く水滴が流れた。

 

「はぁ⁉︎ な、なんで泣くの⁉︎」

「非色に、友達……ぐすっ。良かった、全然友達と遊びに行かないし、そういう話、しないし……浮いてるんだろうなって、心配だったから……。でも、私からは聞けないし……」

「い、いやいや! 落ち着いてよ……」

 

 知らない所で心配をかけてしまっていたようだ。苦笑いを浮かべつつ、とりあえず姉を落ち着かせる。

 

「わ、悪かったよ……。ごめんね?」

「‥‥別に、謝ることないわよ。とにかく、その佐天さんって人とは友達なのね?」

「う、うん」

「なら、大事にしなさい。何があっても裏切らないこと。良い?」

「は、はい!」

 

 なんか変なことで、姉弟の絆が深まった。

 

 ×××

 

 翌日、今日も元気にヒーロー活動……と行きたい所だった非色に一本の電話がかかってきた。

 かけてきたのは、佐天涙子。最近、知り合ったクラスメートだ。

 

「もしもし?」

『あ、非色くん⁉︎ 今日、暇?』

 

 ‥‥正直、昨日ヒーローの半休とったから今日は仕事したいのだが……ただ、断れば怪しまれる気がしないでもない。

 その為、とりあえずOKすることにした。

 

「良いよ」

『やった! 実は、報告しておきたい事があったんだ』

「あ、そう……」

 

 報告、とか言われても、多分ロクな事じゃないだろう。昨日の夜も、真剣な顔をした姉から馬鹿な話を聞かされ、何故か少し絆が深まったくらいだ。

 とはいえ、姉から友達は大事にしろと言われたばかりだし、とりあえず付き合っておかなければならない。

 

「で、何処に集合?」

『んー……じゃあ、喫茶店で!』

「了か……あっ、待った」

『どうしたの?』

 

 そういえば、通信機を返さなければならないことを思い出した。

 

「悪いんだけど、風紀委員に寄ってからで良い?」

『なんで?』

「通信機を返さないといけないから」

『分かった。じゃあ、先に行って涼んでるね』

 

 またコスチューム以外でのお出掛けである。とりあえず、ゴーグルと帽子とマスクを鞄の中に詰め込んで部屋を出て行った。

 外を歩きながら、今度は初春に電話を掛ける。

 

「もしもし、初春さん?」

『あ、非色くんですか?』

「通信機返したいんだけど……どうすれば良い?」

『あ、じゃあ今から支部の方に来れます?』

「え、し、支部に行くの?」

『何か不都合がありました?』

「や、その……姉がいるから……」

『……あー』

 

 なるほど、と、初春は頭の中で理解する。多分、心配掛けさせたくないのだろう。

 

『でも、私も幻想御手(レベルアッパー)の調査でここを離れられなくて……』

「白井さんは?」

『あ、白井さんでしたら今、病院にいますよ』

「なんで?」

『爆弾魔が昏睡状態に陥ってしまいましたので』

「え、どうしたの。睡眠薬過剰摂取とか?」

『詳しいことは私も……』

「じゃ、白井さんに連絡して合流すれば良いかな?」

『あ、はい。それで大丈夫だと思います』

「了解」

 

 それだけ話して、通話を切った。このままだと佐天との約束をまた遠回しにしなければならない。

 

「……うーん、白井さん許してくれるかなぁ」

 

 不安に思いながら、三人目に電話をかけた。

 

『もしもし、非色さんですか? 申し訳ございませんが、今は……』

「あー……タイミング悪いですか?』

『はい。また改めて……』

「了解です」

 

 そこで電話を切った。まぁ自分が報告した事は初春越しに伝わっているだろうし、通信機の一つくらいそんなに焦ることないのだろう。

 結局、先に佐天さんとの約束を果たすために、再び電話をかけて、今度こそ移動した。

 

 ×××

 

 近くの喫茶店で、佐天と二人でコーヒーを頼んだ。もちろん、ブラックは飲めないのでお砂糖たっぷりミルク入りである。

 

「で、何の用?」

「いやー、初春は忙しいみたいだったからさぁ。見てよこれ」

 

 言いながら見せつけてきたのは、音楽プレイヤーだった。すぐに合点がいった。つまり……。

 

「ああ、手に入ったんだ。幻想御手」

「え、リアクション薄くない……?」

「昨日、見つけられたから。使用者を締め上げ……じゃない、聞いたから幻想御手(レベルアッパー)の入手方法」

「あ、そうなんだ……。ちぇーっ」

 

 もう少しリアクションを大きくした方が良かったのだろうか? 

 

「使ったの?」

「ううん、まだ」

「辞めた方が良いよ。証拠があるわけじゃないけど、聞くだけでレベルが上がるチートアイテムにデメリットが無いとは思えない」

「……そうなの?」

「だと思うよ。確証はないけどね」

 

 実際、あの爆弾魔の、原因不明の昏睡状態。どうにも、幻想御手(レベルアッパー)と無関係とは思えない。

 

「そもそも、真っ当なアイテムなら正式に発表するでしょ。こんなもんが出回ってる理由なんて、まだ試作段階で裏サイトに出回らせて使う、というのが一番それっぽい」

 

 勿論、他の狙いという線もあるが。

 

「……そっか。そうなんだ。でも、私……やっぱり能力に憧れてるんだ。それを使えるようになりたくて、学園都市に来たんだもん」

 

 そう言う佐天の目は、どこか寂しそうに見えた。それは、普通の人ならそうだろう。

 非色は自分がかなり特殊であることを理解していた。もうここに来た理由なんてかまるっきり覚えていないし、親の顔も知らない。学園都市が真っ当でないことを理解している。だから、能力が欲しいとは思わない。

 しかし、普通の家庭で生まれ、如何にもな理由でここに来た生徒なら? 能力に憧れるのも分からなくはない。

 

「じゃ、佐天さんはそれ使いたいの?」

「……正直に言うと」

 

 肯いて答える佐天。まぁ、確かに現状では幻想御手がどれだけ危険なものか分からないし、昏睡状態に陥った爆弾魔一人では「幻想御手を使って昏睡状態に陥った」とは断言出来ない。

 でも、やはりおいしい話には裏があると思うので、止めておこうと思った時だ。

 

「あら、非色さんに佐天さん?」

「え、あ、白井さんと……御坂さん!」

 

 思わぬ来客が入った。現れたのは御坂美琴、白井黒子、そしてなんか目が死んでるお姉さんだった。

 勿論、異性に囲まれると何も話せなくなる非色は黙り込んでしまったので、佐天が声を掛けた。

 

「その人は……?」

「木山春生先生ですの。現在、起こっている幻想御手(レベルアッパー)の捜査にご協力いただいております」

「よろしく。君達は……」

「あ、佐天涙子です」

「こ、固法非色です……?」

「……風紀委員、なのかな?」

「いえ、このお二方は一般の方ですわ」

「じゃ、別の席にしようか。デートの邪魔になってしまう」

「「えっ」」

 

 木山が気を利かすと、二人は思わず固まった。微妙に頬を赤く染めたまま。非色はともかく、佐天はすぐに脳を機能させ、弁解した。

 

「違いますよー。私と非色くんはそういう関係じゃないです」

「そうなのか?」

「そうだよ。ね?」

「っ、そ、そうですね。それに、幻想御手(レベルアッパー)の話ですよね? 聞かせて欲しいです」

 

 非色が声を掛けると、黒子が首を横に振った。

 

「いえ、関係ない方に話すと巻き込んでしまうことも……」

「あ、あー……いやいや、俺は幻想御手(レベルアッパー)のサイトを聞き出した張本人ですよ? 関係ないってことは……」

「ですが、一般人でしょう」

「それなら御坂さんだってそうですよね?」

「っ、そ、それは……」

 

 チラリ、と美琴を見る黒子。ずっとぼんやりしていた美琴は急に話を振られてハッとしたが、すぐに答えた。

 

「あ、あー……良いんじゃない? 話くらい」

「お姉様……まぁ、協力を一度、許可してしまった以上は仕方ありませんわね」

「やったぜ」

「ただし、ひとつお聞かせ願いますか?」

「え」

 

 急に鋭い目で見られ、思わずドキリと胸が跳ね上がる。黒子が聞いてくる内容は大体、理解していた。

 

「何故、そこまでこの事件に執着するので?」

 

 やはりか、と頭の中で相槌を打つ。しかし「ヒーローとして動きたいからです」とは言えない。何せ二丁水銃と分かれば確実に黒子は襲いかかって来るのだから。

 どう言い訳をしようか考えていると、佐天が目に入った。そうだ、これを使えば良い。

 

「じ、実は…… 幻想御手(レベルアッパー)の入手方法を知っている友人がいまして……その人に、幻想御手(レベルアッパー)を使った際の副作用を聞かれているんです」

「……!」

「……なるほど。そういうことでしたか」

 

 上手い言い方である。佐天の事を言わずに、入手している、とも言わず、あらゆる可能性を考えた上でギリギリ、こう言った。

 自分の事を庇ったような言い方に、佐天は目を丸くして非色を見る。いや、庇ったわけではない。一先ず事情を聞き、その上で自分で判断しろ、ということなのだろう。

 

「では、失礼して相席させていただきますね」

 

 それだけ話して、一緒に座る事になった。とりあえず全員、飲み物を注文して改めて話を続けた。

 

「で、話をまとめると、ネット上で噂の幻想御手(レベルアッパー)なるものがあり、君達はそれが昏睡した学生達に関係しているのではないか、と」

「はい。その上で、現段階では公表を前から、実態を調査することになりましたの」

「ふむ……なるほど」

 

 まだ可能性の域を出ていない話ではあるが、やはり昏睡と幻想御手は関係あるように考えられている。その時点で、昏睡状態に陥ったのは爆弾魔以外の幻想御手の使用者も同じのようだ。

 チラッと佐天を見ると、大きく声を掛け出した。

 

「あ、あの……! 昏睡? 状態になった人って回復した人は……!」

「いませんの。例外なく皆、昏睡が続いております」

「そ、そうですか……」

 

 どうやら、まだ決めあぐねているようだ。顎に手を当てて考え込む佐天を他所に、黒子は話を進めた。

 

「実は、幻想御手(レベルアッパー)を入手する目処は立っておりますの。そちらを木山先生に調査していただきたいのです」

「ほう……そうなのか。それを見つけたのが、彼だと?」

「はい。今、風紀委員の同僚がダウンロードしている所ですわ」

「分かった。では、早速そちらに……」

「あ、あの!」

 

 そこで、再び割り込んだのは佐天だった。美琴、黒子、木山が一斉に顔を上げる中、非色は俯いたまま激甘コーヒーを飲んでいた。

 ゴクリ、と唾を飲み込んだ佐天は、勇気を振り絞って音楽プレイヤーを差し出した。

 

「まだ使っていないので本物か分かりませんが、これを使って下さい!」

「佐天さん……良いの?」

「は、はいっ! ……いえ、正直ちょっと名残惜しいですが……! わ、私の気が変わらない内に……!」

「分かった。では、ありがたく借りさせてもらおう」

 

 木山が佐天の手から音楽プレイヤーを受け取った。

 

 


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