とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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学園都市は日本人から見ても外国。

 盾を得た非色は、人気の無い使われなくなった立体駐車場のビルの中に来ていた。サングラスによって人が実際にいないことは確認済み。あまり見られたく無い為、ここを選んだ。

 変身前のまま来ると、変身アイテムの盾を出し、左手の時計につける。

 駐車場内は薄暗く、窓もない。あるのはフロア番号が書かれている柱のみ。練習するには持ってこいだ。

 

「さて、これは練習しないとなぁ……」

 

 まずは、縦に変形させるとこだ。せっかくなら、この音声認識もカッコ良いものにしたい。

 

「『アイギス』」

 

 知ったかぶりの知識でつけた名前を言った直後、左手首についているプレートが広がり、盾になった。もうそれだけでカッコ良くてニヤケを抑えるので精一杯だった。

 さて、まずは練習である。盾のフチを抱えるように持つと、身体を絞ってかまえる。

 サングラスに、投げてバウンドを重ねた結果、自分の元に戻ってくるルート、を計算させると、一気に解き放った。

 

「フッ……!」

 

 ゴウンッ、ゴインッと柱から壁、また柱へとバウンドにバウンドを重ねていく。

 が、自分の元に戻ることなく転がった。おそらく、僅かに投げたポイントにズレがあったのだろう。

 ボルダリングと一緒で、数ミリ、或いは一つのズレが後々において大きく影響して来るのだろう。

 

「うーん……難しいな」

 

 左手の機能を使い、盾を引き寄せる。犬の予知までもう少しある。この盾が救助に役立つかは分からないが、護る役割をする以上、役には立つだろう。

 そう思って、何度か練習を繰り返した。まぁ、言ってしまえば左手の時計を使えば引き寄せる事は簡単なのだが、微細なコントロールの練習と思えば必要な事だ。

 また、キャッチングからのスローイングも滑らかにしないといけない。

 そう思いながら、何度も何度も繰り返していると、携帯から音楽が鳴り響く。アラームだ。残念ながら、練習にばかり身を割く暇はない。ちゃんとヒーローとしての活動もしなければならない。

 そんなわけで、ビルから出てヒーロースーツを着ていざ……と、思った時だ。やたらと街中でキョロキョロしている女性が真下にいるのが目に入った。

 

「……迷子かな?」

 

 気になったので、道案内をしてあげることにした。困っている人は、何も不良に絡まれたり事件に巻き込まれている人だけでは無い。

 とりあえず、ヒーローのままだと目立つので、また変身を解除してから降りた。

 

「どうも。もしかして、道に……」

 

 と、聞きかけたところで、思わず唖然としてしまう。

 何故なら、そこにいた女は、非色より遥かに背が高く、大きな刀を帯刀している。落ち着いた空気を見にまとっていて、少し見惚れそうになる程、綺麗な顔立ちをしていたから。

 ……のだが、それ以上に気になったのはその服装。ジーンズを半分破き、上半身のTシャツもおへそを出すように捲し上げ、縛ってある。

 よって、思わず自分から絡んでおいて失礼な事を口走ってしまう。

 

「っ、な、なんですかあなた⁉︎ 痴女⁉︎」

「なっ……!」

 

 落ち着いた空気、が一気に崩れたように顔を真っ赤にした。

 

「だ、誰が痴女ですか誰が⁉︎」

「鏡見ろ鏡! 風邪引きますよ⁉︎ もう10月ですし……!」

「ほ、放っておいて下さい! 別に趣味でこんな格好をしているわけではないので」

「いやいや、とにかく……はい!」

 

 言いながら、非色は上着を脱いで肩の上から羽織らせる。

 

「ほら、とにかく着てください」

「っ、い、いえ……本当、大丈夫なので……」

「あなたが良くても他の人がダメです! そんな男を挑発するような服装で外を出歩いては、あなたが被害者になったとしても、原因を作ったのはあなたになってしまいます!」

「大丈夫です。被害者になる程やわではありませんので」

「そういう問題じゃねえんですが! そんな人が手を出したら、怪我させちゃうでしょ⁉︎」

「うぐっ……」

 

 なるべく平和でいたい非色が捲し立てると、女の人は押し黙る。

 

「とにかく、目的地があるのならそこまで案内しますから、それは羽織っていて下さい」

「……わ、分かりました……」

「まったく……まるで痴漢現場を押さえて慰謝料をもらおうとするミニスカJKみたいな人ですね」

「そ、その言い方はやめて下さい!」

 

 そんなわけで、非色はヒーローになる前に、道案内をする事にした。

 

「で、どこに行きたいんですか?」

「あ、はい。上条当麻という少年の自宅です」

 

 それを聞いて、非色は片眉を上げる。

 

「上条さんに何か?」

「お知り合いですか?」

「ええ、まぁ……私の友人を預かってもらっている、借りを作りっぱなしの方です」

「友人……ああ、インデックスさんですか?」

「ええ。……お知り合いですか?」

「たまに会ったとき、挨拶する程度ですけどね。前に常盤台で一緒に飯を食べたりしましたよ」

 

 あの時が初めて会ったっけ、と思い出す。というか、今更だけど彼女は何歳なのだろうか? 黒子と同じ位にも見えるし、もっと下にも見える。

 

「そうでしたか……あの子がお世話になりました」

「あ、いえいえ、そんな面倒見たとかじゃないので」

「いえ……あの子にとって、楽しかった思い出というのは貴重ですから」

 

 それを聞いて、非色は思わず少し真顔になってしまう。訳ありだ、とは前から思っていたが、この人と繋がっている以上、只者ではないのだろう。この人自体、さっきから歩き方や重心移動がえげつない。

 

「……着きましたよ」

「あら、ご丁寧にありがとうございます」

「いえいえ、これくらい別に全然、平気ですよ」

「この御恩はいつか必ず、お返し致します」

「そんな大袈裟ですから。他人に対し親切に接するのは人として当たり前な事です」

「……」

 

 言うと、神裂は目を丸くして非色を眺める。なんですか? と、視線で問うと、神裂はそのまま続けた。

 

「学園都市の方々は、皆そうなのですか?」

「え?」

 

 言われて脳裏に浮かんだのは、上条当麻。学園都市の外から来ただけあって、知り合いは上条くらいしかいないのだろう。

 本当にこういう人ばかりなら良いのだが、残念ながらそうはいかないのが現実だ。

 

「いえいえ、中には面倒くさがって『忙しい』って一蹴する人もいますから。俺の知り合いは、助けてくれる人ばかりですけど、学園都市だって親切な人ばかりじゃないですよ」

「……そうですか」

「まぁ、でも風紀委員とかなら、その辺なんとかしてくれますし、基本は良い人が多いですよ。少なくとも生徒は」

 

 何とか取り繕うように言った。元々、こちらに親友を預けているという話だし、あまり印象を悪くすると上条とインデックスを離れ離れにさせてしまうかもしれない。

 が、まぁ学生寮の前で長話も良くない。神裂も、笑みを浮かべて改めて非色に頭を下げた。

 

「……ありがとうございます。最後に、お名前だけ聞かせていただいてよろしいですか?」

「あ、固法非色です」

「固法非色、さん……ですね。では、また後日」

「あ、はい」

 

 だからお礼はいいのに……と、思いつつも、そのまま立ち去った。

 

 ×××

 

 さて、今度こそヒーローとなり、街の見回り……をしようとした所で、電話がかかって来た。相手は、固法美偉だ。

 

「もしもし、姉ちゃん?」

『非色? 少し協力して欲しいことがあるんだけど……今、良い?』

「すぐ行く」

 

 そんなわけで、すぐ戻った。

 せっかくなので、新たな移動方法を試す。胸の盾を出すと、それを建物の真上から放り投げた。

 後に続いて、軽くジャンプしてから糸を飛ばし、くっ付ける。それにより、身体は引っ張られて自動で動ける。

 

「あはっ、これ楽だ!」

 

 何もしなくても移動出来るのは良かった。まぁ、直進しか出来ないわけだが。

 それでも空中ならば方向転換の必要がない。空に道なんてないから。

 衝突前に速度を落とし、窓から侵入した。

 

「おいっすー」

「来たわね」

「美山くんは?」

「白井さんが病院に連れて行ったわ」

「は? なんで?」

「あの子の強引な予知能力、身体に負担がかかっていたみたい。貧血程度で済んでいるけど、これ以上、彼を酷使するわけにはいかないわ」

「……なるほど」

 

 それは迂闊だった。確かに、今のレベル以上の能力を使っているのだから、副作用があってもおかしくなかった。

 内心で反省しつつ、とりあえず今は仕事をすることにした。

 

「で、次の予知の場所は?」

「公園よ。写真によると、大規模な火事が起こるわ。予知で出た人影も少なくない。その上で、白井さんが助けないといけない。……忙しくなるわよ」

「警備は?」

「残念だけど、証拠が予知能力者ってだけじゃ、警備員は動かせない……けど、すぐ出動出来るようにはしておいてくれてる」

「それだけじゃ足りないでしょ」

「分かってる。風紀委員を他所の支部から集めてある。何が原因で出火するか予測する為に、表向きは『事故防止強化月間』って事で、公園の入り口で私も待機するから」

「なるほどね」

 

 確かにそれなら、大怪我をする人は現れないかもしれない。だが、どんな原因で火事が起こるか、それも考えておくべきだろう。

 

「他に何か欲しいと思うものはある?」

「酸素ボンベは用意してあるんでしょ?」

「ええ、もちろん」

「他には……そうだな。俺もいるし、何よりあんまり装備を整え過ぎると白井さんの邪魔になるんじゃない?」

「なるほどね……じゃあ、こんなもんで良っか」

 

 さて、それならばさっさと準備に取り掛かろう。……とはいえ、非色はヒーロースーツでいくので、一緒にいるわけにはいかないが。

 

「あなたはどうするつもり?」

「サングラスの機能で、入園した人の顔をブックマークして追跡、火事が起こった時、園内にいる人をピックアップして白井さんに知らせる。間に合いそうになければカバーするよ」

「……あなたの事だから、いらない心配かもしれないけど、気をつけるのよ? 怪我一つでもしたら、私も白井さんも悲しむからね」

「分かってるよ。新武装もあるし、なんとかなる」

「また新しいものもらったの?」

 

 ……しまった、と非色は目を逸らす。アイテムのことは内緒にするべきだろうに。

 

「もらってないよ?」

「……」

「……もらいました」

「はい。今度、また菓子折り持っていかないとね……」

「え、今まで持って行ってたの?」

「当たり前じゃない。仮にも親代わりですもの。お世話になったのなら、それなりに挨拶しないと」

「……」

 

 ……やっぱりこの人は姉なんだな、と改めて思った。血が繋がっていなくとも、こうして自分が他の人とより良い関係を築くために色々と見えないところでお世話をしてくれている。

 

「なんか、ごめんね。姉ちゃん」

「別に平気よ。……で、どんなの?」

「いや、法に触れるようなものじゃないよ。盾だから。『アイギス』」

 

 唱えた直後、胸から丸いプレートが飛び出した。それを、左手の機能を使って引き寄せる。ガキン、と金属音が耳に響くと共に、腕に引っ付いた。

 シャキン、シャキンッと円形の縁が広がり、盾になった。

 

「あらまた立派なものを……」

「殴ってみる?」

「じゃあ、一発」

 

 直後、美偉から廻し蹴りが放たれる。それを非色は肘を折り曲げ、盾を外にして受けた。ゴウゥゥゥンッッ……と、鐘のような音が響き渡った。

 

「……本当に立派な盾じゃない」

「俺も初めて使った」

「あなた、自分で試さなかったの?」

「俺が試しちゃったら、流石に壊れると思うから」

「なるほどね……」

 

 とはいえ、非色のパワーに耐えられる左手の時計と同じ素材で作ってあるので、2発くらいなら耐えられたかもしれないが。

 

「にしても、本当に華麗に可変してたわね。どんな仕組みしてるのかしら?」

 

 言いながら、美偉が能力を使ったのが、運の尽きだった。その目が捉えたのは、盾の向こうにある非色の左手。その中が、機械で出来ていた。

 反射的に、美偉は非色の左手首を掴み上げた。

 

「非色!」

「っ、な、何……?」

「ど、どうしたの……? この、左手……」

「え? 何が……あっ」

 

 遅れて非色が「あっ、やべっ……」と言わんばかりの反応をする。それを見て、さらに美偉は確信してしまった。

 この弟、まだ自分に隠し事をしていた。しかも、左手が機械なんていう大きな隠し事を。

 

「どういう事よ……!」

「や、こ、これは……」

「そんなに言えないことなの⁉︎」

「ち、違うんだよ。えっと……これは、この前、ラーメン屋で火傷して……」

「火傷でどうして切断になるのよ! 下手くそな嘘はやめなさい!」

「じ、じゃあ、交通事故で……」

「じゃあって言ってる時点で嘘じゃない、それ」

 

 嘘をつけばつくほど、墓穴が掘られていく。そもそも、嘘をついてまで隠そうとする時点で、美偉の視点では「それだけ重要なことが隠れている」ようにしか見えないのだ。

 このまま問い詰めて、場合によってはやはりヒーロー活動の停止を……と、思った直後、電話がかかって来た。

 

「……もしもし?」

『固法先輩ですの? 美山の容態は一応、安定しました。能力の使用は控えるように言われてしまいましたが……』

「……わかったわ。とりあえず、現場へ向かいましょう。もう時間もないし」

 

 しかし、今はこれから起こり得る火事を最優先に考えなければならない。

 とりあえず保留にしつつも、美偉はあとで必ず問い詰める、そう決めた。

 

 


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