それから毎週、上田が来るのに合わせて短編小説のようなものを用意する日々が続いた。基本的に放課後や休みの日にスマホや何かのメモ帳にネタやら小説を書いて、それを部活の日に部室のパソコンに打ち込んでいく。それが間に合わないときは、手書きの原稿用紙に書いて上田に渡した。上田が来るのは週1回と言ってはいたが、原稿を受け取ると、じっくり読みたいからとそのまま持ち帰り、次の活動日にそれなりの感想を用意して俺に伝えてくれた。実質、上田と会うのが週2回に増えた格好だ。
必ず読んでくれる人がいて、しかも感想も用意してくれるというある種の安心感と謎の責任感から真面目に創作をしてしまう。
部活の日以外も、何かしら書いたり考えたりしてるから、ある意味で部活が毎日になったような気分だ。
そんな風になって数週間、ある土曜日の晩に上田から連絡が来た。連絡先を交換しても向こうから何もなかったし俺も何もしなかったから、こうして連絡を取るのは初めてだな。
「明日の演劇部の地区大会は観に行くの?」
おっと……すっかり忘れていたぜ。ここんところ珍しく部活が忙しかったからな。明日は暇だ。幸いにも今書いてる新作は割と順調だし1日サボっても大丈夫だろう。
「観に行くつもり」と返信する。すると上田からまた返信が来た。
「せっかくだから演劇部に差し入れを買いたいんだけど、一人で選ぶと不安だから一緒に行かない?」
お……おぅ……。いや目的もハッキリしてるし、特に深い意味は無いんだろうなぁ。上田は、ちゃっかりしてそうだし、俺の役目は荷物持ちだろう。
俺たちは地区大会の会場になっている高校の近くのショッピングモールで朝待ち合わせることとなった。
「おはよう~ちゃんと来てるわね~」
と元気そうに上田は現れた。そういえば上田の私服を見るのは初めてだな。
「まぁな。で、差し入れって何を買うんだ?」
「それを決めてもらおうと思って鈴木くんを呼んだの♪」
マジか……。上田って意外とノープランなんだな……。まぁ、ショッピングモールなら色々選べるし時間的にも見て回る余裕もありそうだ。
「個別包装の方がいいわよね……」「舞台で疲れるだろうから甘いモノがいいかしら……」「タケノコの山とキノコの里ってどっちがいいかしら……」
上田は色々なお菓子を真剣に見比べながら選ぶ。
これを見ている限り、少なくとも上田は何か揉めたりして演劇部を辞めたというわけでは無さそうだが……。
ただ円満なら辞める理由が無いような気もするし。なかなかに謎だ。
むしろこれを題材に何か書きたいくらいだが……。それを上田に見せるわけにはいかないし、そもそも真相を知らないから書けないな。
しばらく悩んでから、レジに行く。買ったのはチョコレートをラングドシャクッキーで挟んだお菓子だ。甘さは遠慮しないタイプを買ってみた。
「甘いもの好きだったらいいけど……」
上田のとても小さな独り言はレジ店員の声にかき消された。
ちなみにお会計はワリカンとなった。俺は同じ部室ということでお世話になっているし俺が買うべきと言い、上田は上田で、そもそも自分が言い出したからと言い結果的にはワリカンになった。大した金額じゃないし別に良かったんだけどなぁ。
まぁ人にはそれぞれ主義主張もあるしな。
彼氏に「他の男から奢られるな!」とか言われてる可能性だって……。
そういえば上田って、そもそも彼氏いるのか?なんだか急に心がもやっとしてきたぞ。知りたいような知りたくないような……、まぁ今はそれを聞けるほどの仲かどうかもまだ怪しいし、それについてはいったん保留とするか。
地区大会の会場である女子校に着くと上田は迷う事なく、劇場として使われているホールに向かう。ついて行くか。
「迷わないんだな。」
「まぁね~去年に何度か来てるし、勝手知ったるなんとやらよ。」
「差し入れはどうするんだ?」
「私たちは一応、部外者でただのお客さんだから、受付に預けちゃうわ。」
「へ~。」
そう言うと、ホールに入り受付にいた、他校のどっかの学生に差し入れを渡してテキパキと名前を書いてその紙も渡した。
「慣れてるな。」
「まぁね~去年、受付の手伝いとかもしたしね。あ、ちゃんと差出人は鈴木くんと私にしといたから!」
「そりゃどうも。ありがとうな」
「お礼を言うのは私の方よ。今日は付き合ってくれてありがとう。」
「どういたしまして。」
「それじゃ、お芝居見ましょ」
「だな」
ちょうど前の高校が終わり、ホールのドアが開く。俺たちはホールに入り適当な席に陣取り観劇させてもらうことにした。
舞台の感想については文句なく面白かった。それに感動もさせてもらった。家族の話やらアンドロイドの話やら、これは舞台を観た人じゃなきゃ通じないだろうなぁ。「広くてすてきな宇宙じゃないか」というその作品は有名な劇団の脚本らしいから、興味があれば観てみて欲しい。
上田に至っては感動して、涙目になっている。
「泣いてない。泣いてないわよ!ほら、せっかくだし他の高校さんも観ていくわよ」
とド下手なごまかし方をしていた。ホントに元演劇部なのか?と言いたくなるが、まぁかわいいからなんだってOKだろう。上田はいつも本当に良い表情を見せてくれる。
もし彼氏がいるのだとしたら、ソイツがうらやましいレベルだ。
ひとしきり、観劇が終わると俺たちは部外者なのでさっさと帰ることにした。上田は自分の高校の成績が気になるし評論も聞きたそうにはしていたが、やがて自分から「まぁもう私は部外者か……鈴木くん帰りましょ」と言ってきた。
なんというかここまで、深入りしたがったり実際に首を突っ込む姿を見ていると本当になんで退部したんだろうなぁ……。その理由を俺は上田の口から聞ける日が来るのだろうか……。
帰り道も舞台の感想で盛り上がったが、上田本人の話題になることなく、その日は解散となった。
生徒会長の上田さん
良い印象だけど何かしら裏があるのかつかめない部分が多いですよね。
まぁそこが彼女の魅力なのかもしれませんが……
上田さんのそういうところに鈴木くんは惹かれているのかも知れませんね。
ってそんなことを言ったら鈴木くんに怒られそうだなwww
「広くて素敵な宇宙じゃないか」は一応出演という側で私が学生時代にかかわった作品です。ホント、楽しい作品です。高校生にも人気の作品ですし、何かしらで見ることもあると思います。もし何かで見かけたらと。
ちなみに、「広くて~」には前作と言える作品がありまして
「銀河旋律」っていうんですけどね。
らき☆べるの15話( https://syosetu.org/novel/151513/15.html )~21話で使われてますので気になるようならぜひ(という宣伝w)