スターズのVtuber事業。
それにいち早く適応したのは星アキラだった。
彼は、彼が活躍していた世界から、Vtuberとの類似点を見つけ出したのである。
「なるほど。
これ、着ぐるみか」
と。
この『皮をまとっている感覚』を知っていると、Vtuberの演技は格段に楽になる。
そこから派生する動きなどが自分の意志とずれるというのを知っている人間と知らない人間の差がVtuberだとはっきりと差になるのだ。
もちろん、2Dではそこまで変わらないが、これが3Dになるとはっきりと差が出る。
そして、数字はもっと差が出るし、それが役者に容赦なく突きつけられるのもVtuberの世界である。
「しかし、何でスターズがVtuber事業に手を出すのですか?」
スターズ事務所での撮影の後、町田リカが話しかけてきたので画面を確認しながら私は返事をする。
さすがスターズ。
3Dキャラから撮影機材まで入れたら数千万というのに準備するなんて。
「一つは、この業界が成長途中であるというのがありますね。
まだまだこの業界は出来上がったばかりで、ルールも決まっていない。
スターズはこの業界を一気に取りに来るのかもしれませんよ」
大手が金にものを言わせてぶん殴れば、個人が主体で企業もまだ様子見のこの業界を一気に握れるかもしれない。
そのための初期投資として数千万は安いものという考えが大手ならばできるのだ。
「面白い業界ですよね。
バーチャルリアリティ。
一昔前なら、おとぎ話かSFかと言われたものがここまで来るとは思いませんでしたよ」
声がしたので振り向くと、手塚由紀治監督がいた。
近く公表されるという映画『デスアイランド』の打ち合わせだろう。
「なんとなくでいいならば、このVRは役者の寿命を延ばすことができるでしょうね」
手塚監督の声に皆が聞き入る。
少なくとも彼は監督として作品を作り、それを世に送り出してきた人間である。
役者をやる以上、それ相応の敬意は払われるべきだと私も思っており、皆と同じく監督の言葉に聞き入る。
「人間は老います。
体力なんかはその最たるものでしょうね。
それに比べて声は、まだ老いるのが遅い。
おまけに動きはコンピューターが補正してくれるから、実際に動かなくてもいい」
事実VR上で劇をやろうという動きが出ていた。
背景も舞台もVRならばロケの必要はなく、セットも作った後ならば使いまわしが可能だ。
費用よりも時間の節約の方がVRの利点になるだろうか。
ロケで鬼門として恐れられる天気を気にしなくていいだけで、撮影は格段に楽になる。
「私たちに声優になれと?」
ちょっと不機嫌そうな声で町田リカがぼやく。
そのぼやきに手塚監督はわざとらしく肩をすくめた。
「元々声優でも役者から声優になった人も多く活躍しているし、その逆もあります。
この業界はそれほど垣根は高くないんですよ。
外国ではアニメーションは3D化の方向に進みつつあります。
そこで求められるのは今は声優かもしれませんが……」
一旦手塚監督は間を取る。
そのサングラス越しの目ははっきりと私を見ていた。
「動きをもっている役者が主流になるかもしれません。
何しろ、コンピューターは個性がない。
着ぐるみよろしく、動いて話せるキャラクターが居るのと居ないのでは、作品の深みが違ってきます」
ああ。この目は何度か見てきた。
監督たちに、プロデューサーに、役者たちに。
試されている目だ。
「そうだ。
ここに来た要件を思い出しましたよ。
このVtuber事業も、『デスアイランド』とコラボしてもらう事になりそうです」
元々原作がある作品で、その映画化に合わせていくつかのコラボグッズが作られている。
作品がマッチするという事で、バトルロイヤルゲームの有料MODとして販売されることが決定していた。
そして、ゲームとなれば今のVtuberにとっての主戦場である。
「期待していますよ。
十詩歌月さん」
「ええ。スターズの看板に泥をぬるつもりはありませんよ」
帰り道。
街角に映る百城千代子の姿を見て、唐突に悟る。
手塚監督の声と共に。
「なんとなくでいいならば、このVRは役者の寿命を延ばすことができるでしょうね」
「そうか。
この計画は、はじめから天使の延命のためにあったんだ」
その声を聞いたものは私しかいなく、街角に映る百城千代子は、天使の姿で微笑み続けていた。
Vtuberの3D化のお値段。
ふぇありすや犬山たまきが動画で出していたりする。
同時に登録者10万を超えないと使う場所がないのも3Dである。
リアルの方に重点があるスターズだとチャンネル登録10万は多分軽く超える。
百城千代子あたり百万行くかもしれない。