気づけば鬼化した炭治郎になっていた。(本物の炭治郎もいる模様) 作:リーグロード
気がつけば日の射さない何処かの森の中に立っていた。なぜこのような場所に立っていたかが思い出せない。
俺が覚えているのはアスファルトで舗装された地面がある場所にいた筈で、こんな土だらけで自然豊かな地面があるこんな場所は見覚えがない。
それにしても、突然見覚えの全く無い夜の森に投げ出されて不安にならない現代人がいるだろうか? いや、探せば数人ぐらいはいるだろうが、俺は残念ながらその数人の内には入らない。
気が付いた最初は大声で誰かいないのかと叫んでいたが、返ってきたのはカラスや野犬の遠吠えのみだった。
少し泣きそうになってしまったが、俺は大人だから涙は見せはしない。もし、俺が泣くときは俺の推しキャラが死んだときだけだ。
とりあえず、どうにかこの森を抜けて誰か人のいる場所を見つけて助けてもらわねば。とはいえだ、右へ行けばいいのか左へ行けばいいのかこの時点では全く分からない。下手に動いて余計に道に迷うのもあれだが、そもそも助けが来る保証もない以上はどうにか行動を起こさない限りは死ぬ可能性も出てくる。
「動くも地獄動かぬも地獄だなこりゃ」
どうするべきか悩み辺りを見回してみると、1つ気づいたことがある。この森は木々が深く上を見ても葉っぱしか見えず月や星の明かりも一切見えはしない。
だというのに、俺の目には少し先の石ころの数が分かるぐらいの薄暗さにしか見えない。さっき辺りを見回してみたときは明かりになるようなものは一切見えなかったというのにどういうことなのだろうか?
とりあえず、薄っすらとはいえ辺りが見渡せるというのならば動かない理由にはなりはしないだろう。俺はそこら辺に落ちていた木の枝を拾いそれを投げて枝の矛先の方角に歩くことに決めた。
そして、薄暗い森のなかを歩いていくが、どれだけ歩こうと疲れないのだ。仕事以外家に引きこもりっぱなしの俺じゃあ20分もすれば休憩の一つでも取るはずなのだが、疲れるどころか鼻歌まじりにスキップできるくらい余裕がある。
試しに走ってみたがこれも疲れることなく、調子に乗って忍者走りするくらだった。しかも、走った速度は途轍もなく、木の枝や大きな石に地面か盛り上がったデカイ木の根っこをアスレチックの障害物感覚で悠々と乗り越えていった。
途中はしゃいで「加速装置!!!」とか言って音を置き去りにするレベルの速度で走って盛大に転んで悶絶したのはここだけの秘密だ。
そうこうしてかなりの距離を走ってようやく足を止める。別に疲れた訳ではない。足だって特に痛いわけでもない。
走り始める前と終えた後の状態は大して変わってはいない。その証拠に俺は息切れ一つ起こさずに済んでいる。
なら、何故俺が足を止めたのかというと、微かにだが水の流れる音が聞こえたのだ。だから、俺は足を止めて目を閉じて先程聞こえた水音がどこから聞こえたのかを探る。
目を閉じ耳を澄ませると、チョロチョロっという水音が走っているときよりもハッキリと聞こえた。俺はその音の方向へと走り水源を目指す。
「おお! 本当に川があった。滅茶苦茶速く走ったのにすぐ着かないからてっきり空耳かと思ったけど……。この森にいつの間にか立っていた時から気づいていたが、これって小説でよくある転生って奴で、特典は肉体スペックチートな奴か!」
最初にあった不安などどこへやら、森の中を自由自在に飛んだり跳ねたりしているうちに、いつのまにやら不安よりもワクワクやドキドキのほうが強くなってしまっている。
全く現金な人間だな。自分のことながら最初にあった不安がこんなことで取り除かれて、思わずフッと笑みがこぼれる。
「さて、今は大してのどは渇いてないが……、こんな森のなかを歩き続けるんだ。少しでも水分補給はしておかないとな」
俺は水を飲もうと川に近づいて手で掬い取ろうとすると、水面に映る自分の顔に驚いてしまう。
「えっ? これもしかして俺?」
そこに映っていたのはいつもの見慣れたモブ顔の俺の姿ではなく、顔に大きな火傷のような痣があるが、長髪でどこか危ない気配を感じさせるようなそんなイケメンが俺の目に映っていたのだ。
「いや待て……、この顔はどこかで見たことがあるぞ? 特にこの火傷のような痣は見覚えがある。どこだっけかな? 確かついこの間どこかで……! あっ思い出した!」
そうだこのオデコに出来た火傷のような痣って鬼滅の刃の主人公の竈門炭治郎のじゃないか。そういえば、急な状況と辺りの薄暗さで気づいていなかったが、俺が着ている服って和服だこれ。
ん? 待てよ。ここは森の中で俺の顔は髪が伸びた長髪の炭治郎の顔で原作でこの状況に当てはまるのは…………!!?
「もしかして今って鱗滝さんのところで呼吸の修業中か!? さっきまでやたら滅多ら走っても全然疲れなかったのはその修業のおかげってことか!?」
どうしよう? 今すぐに帰らなければ禰豆子が鱗滝さんに頸を斬られてしまう。だが、ここがどこかも俺が立っていた場所も鱗滝さんの家の場所も何も分からない。
そもそも帰ったところでどういう話をすればいいんだ? 気づいたら突然森で修業中の炭治郎に憑依していましたと。
うん。何言ってんだこいつってなるよね。そもそも、この大正時代に憑依転生しましたとか言って理解してくれる人物が存在するだろうか? いや、探せば数人ぐらいはいるかもしれないが、漫画やアニメで見た限り鱗滝さんはそういうのに理解がある人物とは思えない。「何を訳の分からん事を言っておる」とか言って頬を叩いて怒られるに決まっている。
………………!
うん。いきなりこんな状況に追い込まれたし、元一般人の俺にどうしろというのだろうか? ちょっと考えたけど逃げるっきゃねぇな。
ごめん禰豆子に炭治郎。そして、一応善逸と伊之助にも謝っておこう。これで全て許して貰えるとは思ってないけど。
まあ、これもある種の運命と思って諦めるしかないな。昔何処かの誰かが言っていた『人生諦めが肝心』だと。
うっし。うじうじ悩むのはこれでお終い。どうにもならん時はならん。変に悩んで後悔して落ち込むぐらいならどっか吹っ切れて楽しく生きるのがオタクの人生だ。
俺は今日も変わらず今を笑って生きるために楽しみを探す。それに考えてみれば、この体は凄く調子がいい。原作では十二鬼月落ちとはいえそれなりに強い力を持った鬼を骨が折れた状態で、しかも床に散らばった小説の原稿を踏まずにたった一人で勝ったんだ。
そう考えると、一般隊士や雑魚鬼程度だったら俺でも難なく勝てそうだな。
そうやって色々考えていると、遠く離れた向こうの山が段々と明るくなってきた。どうやら森の中を走り回ってこの川で考え込んでいるうちに夜が明けたようだ。
この大正時代に飛ばされてどうしようか悩んだ悩みの種を吹き飛ばした(放り出して逃げたともいう)俺の新しい人生を祝福するかのようだ。
俺は登りゆく朝日を体全体で堪能しようと両手を広げて待ち構える。朝日が俺の足元付近に近づいた瞬間………………突如俺の体は煙を上げて燃え始めた。
「えっ? いっっっぎゃああぁぁぁ!!!? 熱い痛い熱い痛い!!!」
俺はすぐさま朝日から逃げるように日陰へと飛び込んだ。さっきのはいったい何だったんだ? この森の朝日は炎でできているのか? けれど、煙を出しているのは俺が着ている服ではなく服からはみ出した肌から出ている。
え? 本日何度目のちょっと待てだ!? 朝日で体が燃えて、顔は炭治郎ってことは……。
もしかして! 原作じゃなくて二次小説版の鬼化炭治郎なのかぁぁぁぁぁ!!!