気づけば鬼化した炭治郎になっていた。(本物の炭治郎もいる模様)   作:リーグロード

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この話を作り上げるのにまるまる一週間かかってしまった!いざ作ろうにも、途中で息詰まるとベットに入ってYouTubeを見てしまい、いつの間にか寝てしまっているから全然進みませんでした。
まじで、毎日投稿している人はどうやって作っているのか是非とも話を聞いてみたい。


初めての吸血

 俺が炭治郎じゃなく鬼化炭治郎になったという事実に気づいて色々と日陰の中で体中をまさぐってみた。

 とりあえず鬼になって変わったことといえば、朝日を浴びると燃えるように熱く死にそうになる。歯が人間だった時と比べて異様に長い。暗闇の中でも薄っすらとだが周囲の状況が見える。

 とまあ、今のところこんなところだ。鬼の再生力を確認しようとも思ったが、現代っ子の俺が自分から自分の身体を傷つけるなんて蛮行できるはずがない。けれどまあ、自分の身体を調べている間に、朝日によって出来た火傷は全て治っているので、一応は再生能力はあるのは分かった。

 さて、これからどうしようか? 朝日を浴びて咄嗟に日陰に入ったのはいいが、岩陰に隠れただけでこのまま太陽が昇り切れば今度こそ消滅だ。

 

 この辺に洞窟とかそういうのは無さそうだし、森の中に行けば多少は日の光から逃げられるだろうけど完全にはいかないだろう。

 

 一つ方法がないこともない。だが、この方法は俺個人としてはあまり取りたくはない方法だが、こうなったら仕方がない。本当に仕方がないけどやるしかない。

 無惨様も朝日を浴びて消滅する前に穴を掘って地面に隠れようとしていた、俺もそれを真似て日の光を回避するとしよう。

 

 俺は覚悟を決めて地面に向かって手で穴を掘っていく。現代っ子の俺が土まみれになるのはかなりの抵抗があるが、日の光で焼かれるような感覚はもう二度と味わいたくはない。あれは本当に痛いのだから、例えるならば夏のプールで体全体を日焼けした後辛子味噌を塗りたくって叩きまくられてる感覚に近いかな。

 

 それにしても相変わらずこの肉体スペックは凄いな。掘り始めて1分程度ですでに俺の腰辺りまで入れる深さまで掘れたぞ。この調子なら何とか日が昇りきるうちに俺の体がすっぽり入りきれる深さまで掘り進めそうだ。

 

 ……何て掘り始めは思っていたのに、穴の深さが肩辺りまでのところに来ると、そこから先を掘り進めようにも固すぎて爪の先程度までしか土を掘ることしかできない。

 

 まずいまずいまずい! このままじゃ頭から日の光を浴びて消滅してしまう。何とかしなければ、せめてスコップでもあればまだ救いはあっただろうけどこんな森の中じゃそんなものが落ちているはずもないし、鬼の体だし血鬼術でどうにかできないかと考えたが、どうやって血鬼術を発動すればいいのか分からん。

 

 なら今出来そうなことといえば鬼殺隊が使う『呼吸』の仕方だろう。上弦の壱も月の呼吸を使用できたようだし、俺にもできるだろう。

 けど、主人公が数年かけて会得した呼吸法を今から日が昇りきるまでに会得するのはいささか無理ゲーじゃないかな? 

 そりゃあ、緑壱さんのように生まれながらにして日の呼吸を使える天才(化け物)も存在しているが、それを俺に求めるなよ神様!? 

 

 とりあえず、やれば助かる。やらなければ死んでしまうんならやるしかねえよな。

 とりあえず、アニメでの見よう見まねでやってみるしかねぇ! 息を吸う音が聞こえるくらい深く大きく吸ってみる。ヒュゴォォォォ!!! 肺にとにかく空気を送り込む。

 この状態で穴を掘ってみたが、結果は呼吸モドキをしてみる前とさほど変わらなかった。精々爪先が指先に変わった程度である。他にも色々な方法で呼吸法を試してみたが、どれも成果は出ず刻一刻と岩の日陰が小さくなってきている。このままいけばあと30分もしないうちにこの日陰は完全に無くなり、俺の体は日に当たって死んでしまうだろう。

 

 焦りと死の恐怖が手に拳を作り出し、俺はその拳を目の前にある憎き地面に向けて振り下ろす。

 その瞬間、目の前が一瞬轟音と共に真っ暗になった。

 

「はへぇ? ────っぺっぺ!」

 

 驚きの声と共に口に入った土を吐き捨てる。今何が起こったのか理解できなかったが、目の前の惨状を見てすぐに理解できた。俺が掘り進めていた穴が吹き飛んでいたのだ。

 あの轟音は俺が拳を叩きつけた音で、視界が一瞬真っ黒になったのは殴った拍子に地面の土が吹き飛んだからだ。

 

 そのおかげで、肩までしかなかった穴の深さが頭がすっぽり隠れられるほどの深さまで届いた。つまり、掘るよりも鬼の身体能力で殴って掘り進めたほうが効率はよかったということだ。ならば、あとはこのまま殴り続けて穴を掘っていけば、日に当たらない深さまでいけるだろ。

 

 だが、当然固い地面を殴って掘り進めていけば拳を痛めるのは当たり前で、殴って掘り進めれば進むほど土が顔に当たって口や髪の毛に入り込む。本当にうざったらしいが焼かれて死ぬのに比べれば多少はマシだ。うん我慢しよう。

 

 大分掘り進めた。ここまで掘り進めることができれば日の光も入ってはこまい。後はここで日が沈むまでジッとしていればいい。

 そう鬼の活動時間は夜。オタクの活動時間も夜だ! ならば、俺にとってはあまり変わりはない。ただまあ、漫画やアニメがない生活はかなり苦しいが、ここは鬼滅の刃の世界。二次小説が好きな俺が憧れていた転生モノだ。多少の犠牲なくして生は謳歌できない。

 血涙を流す覚悟だが腹をくくれ炭治郎! お前は我慢できるはずだ長男なんだから。

 

「というか、よく考えれば俺って鬼なんだから無惨様側なんだよな……。嫌だな、あのパワハラ上司の元で働くとかマジで地獄なのだが……」

 

 あの男は鬼の思考を読み取る能力があるからな。もし俺が無惨様の前に立ったらパワハラ上司だとか歩く地雷原なんて考えてしまい殺されそうだ。

 ああ……神様どうか鬼舞辻無惨に出会いませんようにお願いいたします。

 

 ♦

 

 俺が神様にお願いしたりなんやかんやと考えていると、いつの間にか眠っていたようで穴の入口を見てみるともうすっかり日は沈んでいるようだ。

 掘った穴の中からのそのそと外に出て月明かりの光を存分に浴びる。

 

「ふぅ、この世界の最初の1日は無事に終わったな」

 

 穴の中で丸まって寝たことで固まった体をバキバキと音を鳴らしてほぐしていく。

 

「う〜ん、とりあえずこのまま川に沿って歩いて村でも見つけるか」

 

 なにかの本で読んだ事がある。山や森の中で迷ったらまずは川を見つけてそれに沿って歩いていけば人里に出会えると。

 

「っと、その前にこの泥だらけになった体と服を綺麗にするか。流石に汚れたままだと普通に怪しまれるからな」

 

 川に入って頭から思いっきり水を浴びる。鬼の体になったおかげか、冷水だというのにまったく平気なのだ。もしかして対熱耐性とか対寒耐性なんてものでも備わっているのか? 

 着ている服を脱いで見てみると、前も後ろも泥だらけで川に放り込んだだけで川の水が一瞬で泥水に変わる程に汚れていた。

 こびりついた泥と汚れを服が破れない程度にこすって落としていく。ある程度汚れを落とし終えたら、濡れた服を思いっきり絞って乾かしていく。

 

「よし、多少濡れているけど鬼の体なら冷えても風邪はひかないだろう」

 

 人里目指して走る前の準備運動を軽く済ませ、俺は自身の肉体スペックを再確認する目的も含め全速力で地面を蹴って走り出した。

 森の中故に決して整理された道ではないというのに、俺の体の軸は一切ブレずに軽々と道なき道を突き進んでいく。

 昨日は慣れない超スピードと調子に乗って変な走り方で走った為に転んでしまったが、一度体験したスピードならもう大丈夫だ。それに今度は転ばないようにちゃんとした走りで走っているからな。

 

 森の木々を恐ろしい程の速度で避けていく。今のスピードは遊園地にあるジェットコースター並みといっても過言ではない。

 だというのに、俺は木や岩を一切スピードを落とさず軽々と避けていく。以前の俺だったなら確実にできなかったことが当たり前にできる。そのことにちょっとした優越感や全能感みたいなのが湧き上がるが、原作を読んでいる俺はすぐに自重する。

 生まれながらのチート存在の緑壱や刀を握って2ヶ月で柱に就任した時透無一郎など人間でもこれなのに……いや、緑壱は本当に人間か? 

 まあいいや、鬼にも厄介な能力持ちが最低でも5人はいる。上弦の参に関しては能力ではなく武だが、今の俺が戦って勝てる存在じゃないだろう。

 そもそも、鬼を殺す為の日輪刀がない以上は、雑魚鬼ですら勝てはしないだろう。まあ、こちらも負けることはないだろうが。

 

 っと、全力で走り始めて30分を少し超えたところで、人里の明かりが目に入った。

 案外早く見つかったことにちょっと驚いたがあのスピードで30分ならかなりの距離を走ったかと考えるとそうおかしな事でもないか。

 それにしても、あれだけのスピードを出して走ったにも関わらずまるで疲れていない。

 

(改めて確認すると凄いな鬼の肉体というのは。これならば、戦闘中にスタミナ切れでダウンというのは無さそうだな!)

 

 グッと拳を握って自分の強さに安心を抱く。まだ鬼や鬼殺隊とも戦っていないが、少なくとも十二鬼月や(きのえ)以上の隊士と戦わない限り多分負けることはないだろう。こればかりは実際に戦ってみなければ分からないけどな。

 とはいえ、いきなりの遭遇戦というのはマジで勘弁してほしい。こういう二次小説パターンじゃ、いきなり手順をすっ飛ばして強敵と出会ってしまうなんてことがあるから怖いんだよな。

 例えば、村人を襲っている十二鬼月と遭遇するとか、任務中の柱とバッタリ出くわしてしまうだとか、そういうシャレにならない事態というのはほんの些細な油断から起こり得てしまうから恐ろしいのだ。

 

 だから俺はいきなり村に入りはせず、遠巻きながら鬼の視力を使って自分が入っても問題が無いかを確認する。見たところ背中に滅の字が入った服を着ている者はおらず、鬼のような輩も存在していなさそうだ。

 流石に心配し過ぎたかとほっと息を吐く。だが、このまま村の中に入ってどうする? 今のところ腹が減ったなどという食欲は湧かないし、そもそも人を食べたいとすら思わない。

 とはいえ、人を喰わずにいるままでは大して強くはなれず、いずれ鬼殺隊の人間に頸を斬られて殺されるかもしれない。

 そもそも、こちらがいくら人を喰わないと主張したところで、あちらが納得するとは原作を読んでいる俺からすれば想像できない。

 

 ならば、人を喰って強くなることが生き延びる最善策なのだろうが……、いくら生き延びる為とはいえ何の罪もない人を喰うのは俺には無理だ。

 

「ふぅ~、いったん落ち着こう。まだ時間はたっぷりとある。鬼になった禰豆子だって人を喰わなくても上弦の陸と戦えていたんだ。焦ることはないし悲観することもない。ひとまずは、人に会ってみよう」

 

 俺は考えることを後回しにして、成り行きに任せようと決めて村へと足を運ぶ。けれど、考えることを一旦やめたとはいえ不安がなくなったという訳ではない。

 

 もし俺が人と会った瞬間、食人衝動に襲われて人を喰ったとしたら俺はどうするのだろうか? 自分が人ではなくなったと絶望するのか、はたまた問題無く喰えたと安堵するのだろうか? 

 

 どちらにせよ鬼殺隊案件待ったなしだな。鬼を太陽以外で唯一殺せる武器日輪刀を所持する鬼殺隊といきなり事を構えるのは愚策も愚策だ。

 せめて、俺と同じ鬼と戦ってからか修業で経験を積んでから動いたほうが良いだろう。

 だから、今回は人に会っても何もしない。結局考えることをやめたといってもビビりな俺は行動を起こす前に結論を出す。いいことなのだろうが、戦闘中でもこんなやり方じゃあ頸を跳ね飛ばされるかもな。

 ハハハッ、と乾いた笑い声をだして割と笑えない未来を想像する。

 

 

 いざ、この大正時代の村に初めて足を踏み入れる。日が完全に沈み外の明かりは月と星と家から漏れ出る光のみ、家の外にいるのは俺以外誰もいない。そりゃあ、コンビニもない時代に誰が夜中の外を出歩くんだという話だ。

 

「う~ん、だけどまいったな」

 

 こうなったら、人に出会うには家を訪ねなければならない。だが、顔見知りでもない他人の家に押し入るのは実は人見知りがある俺にはいささか抵抗がある。

 というか、俺が人に会いたいのは食人衝動があるのかどうか確かめたいだけだし、(まあ、外じゃなくて家の中でゆっくりと休みたいという思いもないわけではないが)この鬼の体ならば外で過ごしてもそこまで辛いわけではない。

 

(これは、行動を起こす前に結論を出す人間という自己評価を改めなくてはいけないな)

 

 やれやれ、と首を振って自分の無鉄砲さに我ながら呆れてしまう。いつまでもここにいてもしょうがないし、今日は太陽が当たらないような洞穴でも見つけるとしよう。

 

 そう決めて、俺はやって来た森に帰ろうと振り返ると、その森の中から大量の木の枝を持ってこっちに向かってやって来る女性を発見する。

 その女性はこちらに気づいていないのか、重そうに木の枝を持ってフラフラとした足取りで向かってくる。

 

「ふぅうう、きゃっ!?」

 

 手に持った木の枝で足元が見えてなかったのか、地面のちょっとした段差に足をとられ手に持った木の枝をバラまきながら倒れようとしていた。

 それを見た俺は、鬼の身体能力を使って走り出し、倒そうになった女性を優しく傷つけないように腰に手をまわして受け止める。

 

「大丈夫ですか? あまり欲張って一度に大量に運ぶとこうやって転んで怪我しますよ?」

 

 ひとまず怪しまれないように優しい人を演じてみたのだろうがどうだろうか? 一応漫画知識でやってみたが、彼女から何も反応がない。一体どうしたのか? もしや助けるためとはいえ体に抱き着いたのはまずかったか? 

 そう思って彼女の顔を覗き込むと、

 

「あ……あわぁ!? あわわわぁ???」

 

 顔を分かりやすいくらいに真っ赤にして慌てている。どうやら俺に助けられて照れているようだ? あれ、そんなに恥ずかしいことしたっけかな? 

 

 彼女があわあわ! と口を閉じたり開いている間に、俺はこの状況は一体何なのだと考える。

 

 ああ……、そうだよな! 客観的にこの状況を見えないから最初はなんでここまで照れているのか分からなかったが、今の俺は以前のモブ顔の俺じゃなく、自分的にはイケメンに見える鬼化した炭治郎の顔だからな。

 もし、今この場面を俺が第三者の視点から見れば『どこの乙女ゲームのイベントシーンだよ!』って叫んでいただろう。

 

 とりあえず、今もこの状況に頭がついていけずに、ずっとあわあわ! している彼女を正気に戻そう。

 再び転ばないようにしっかりと立たせて、彼女の目線に合うように少し(かが)んで『ゆっくり息を吸って深呼吸してごらん』と言って落ち着かせる。

 そうすると、彼女もスーハ―スーハ―と深呼吸をして、ようやく落ち着いたのか今だ顔は赤いがそれでも慌てる様子もなくペコリと頭を下げてお礼してきた。

 

「あ……あのう、ありがとうございました」

 

「いえいえ、別に大したことはしていませんよ」

 

 俺が演じられる精一杯のイケメンスマイルで対応する。そうすると、再び彼女は顔を真っ赤にして口を鯉のようにパクパクと動かしてフリーズする。

 

(うわぁ……、自分でも今の俺の顔はかなりイケメンだと思っていたけど、こうして女の人の顔が真っ赤になるところを見ると改めて自分がイケメンになったという自覚がでるな)

 

「あの、この辺りで見ない顔ですが、もしかして旅人の方ですか? もし、今日泊まる場所がなければさっきのお礼にぜひウチに泊まっていってください!」

 

 俺が無自覚にモテない男子に喧嘩を売っていると、彼女から先程のお礼に泊まっていってくれと申し出てくれた。つい先ほどまでなら喜んだ提案だったが、今となっては正直微妙な感じだ。泊まりにいったとしても彼女の両親がなんと言うか分からないし、面倒ごとは回避することにしよう。

 

「そんな気にしなくていいよ。本当に大した事はしていないし、急にお邪魔すると君の両親も迷惑するだろうし遠慮するよ」

 

「そんなことないですよ! それにウチの両親は昨年流行り病でどちらも死んでしまって。だからこの時間まで働いていたんです」

 

 両親を言い訳に断ろうとしていたのに、まさかその両親が死んでいるとは。そんな話を聞いたあとではますます断りにくくなってしまった。

 そもそも、女の人がこんな時間にあんな大量の枝を運んでいたんだ。少しはそういう可能性があることも考えられただろうに、あまりにも考えが足りなさすぎる。

 

「ささ、こちらへどうぞ。あの家が私のウチなんです!」

 

 俺があれこれと頭の中で言い訳を考えていると、彼女は俺の手を強引に掴んで自分の家まで引っ張って行く。この程度の力ならばあまり力を入れずとも、俺が足を止めるだけで彼女は俺を動かすことはできなくなるだろう。

 けれど、俺はそんな彼女の好意を振り払えず流れるままに彼女の家の前にまで来てしまった。途中で俺が落とした木の枝のことを言うと今度は羞恥心で顔を真っ赤にする彼女を見てリンゴのような人だなと思ってしまう。

 

「どうぞ入ってください! 何もないですけど精一杯歓迎いたします」

 

 家の中を見たところ、田舎のおばあちゃん家と似たような感じだった。特に変わった物はなく、まさに和風な家といえるような造りになっていた。

 玄関から入ってすぐ右を見るとまあまあ大きな鏡が壁に掛かっていて、それを覗くと川辺の水よりも綺麗にハッキリと映った俺の顔が見える。

 

(確かにこの顔で親しみやすい感じに近づけば、大抵の女性はコロッと堕ちてしまうだろうな)

 

「どうかなさいました?」

 

 鏡を覗き込んだまま突っ立っている俺を見て疑問に思った彼女が話しかけてきた。

 

「えっ? いや別に何でもないよ。とてもいい鏡だなと思ってつい見続けちゃっただけなんで」

 

「ありがとうございます。あれは父が母に結婚記念日で都会へ行った時に買ってきた物なんです」

 

 やってしまった! 両親が死んでしまったと聞いたのに、それを思い出させるようなことを不用意にするなんて。さっきもそうだが、俺は先を考える力が本当に欠如している。

 

「あっ、その、ごめん! 変に両親を思い出させるようなことを言っちゃって」

 

「へっ!? だ、大丈夫ですよ! もう一年も経ってますし、死んじゃったことは悲しいですけど私はこうして元気に生きてますから! だから、……大丈夫ですよ」

 

 大丈夫だと言った彼女の顔は笑っていた。だがそれは吹っ切れたようなものではなく、人生はそういうものだと諦めた悲しい顔をしていた。

 本人は誤魔化しているつもりかもしれないが、俺にはその顔が噓つきの顔だって知っている。だってその顔はいつも鏡の前でしていた俺の顔とそっくりの顔だから。

 

「ああもう! ほらほら、ここに座って待っていてください。今すぐに夕餉の準備をいたしますから」

 

 俺は肩を押さえつけられて部屋の真ん中に置かれているちゃぶ台の前に敷かれている座布団の上に座らされる。そのまま彼女は台所まで走っていく。

 俺は手持ち無沙汰になって家の中をぐるりと見渡す。本当に昔風の家ってだけで大正時代だと感じさせるような物はないな。

 このままじっとしているだけでは暇だし、俺は台所に行った彼女の手伝いでもしようかと思い立ち台所へと向かった。

 そこでは、実に手際良く料理している彼女の姿があった。見た感じ手伝うような必要性を感じさせない程の手際の良さだったが、せめて食器を取り出すぐらいの事はしようと思って彼女に話しかけにいった。

 

「へぇ、随分と手際がいいんだね?」

 

「えっ、あ……ありがとうございます。けど、どうしてここに? あっ、もしかして、待たせすぎましたか!? す、すみません。あとほんの少しだけ待っていてください」

 

「いやいや、そんなつもりで来たんじゃないよ。流石に泊めてもらう上に何の手伝いもしないのは気が引けるから何か手伝えないかと思って来たんだ」

 

「そんな、私が怪我をしそうになったのを助けてくださいましたし、運んでいた薪の材料も半分以上も持ってもらったんです。これぐらいのお礼をしなくては私の気が晴れません!」

 

「う~ん、でも何もせずにいるってのも退屈だし、せめて食器を出すぐらいはするよ」

 

 頭をかいて何かさせてくれと頼みこむと彼女はそういうことでしたらと渋々と食器が置かれている棚の場所を指差して教えてくれた。俺は教えて貰った棚から食器を取り出してちゃぶ台まで持っていこうとすると、彼女がまな板の上に置かれている魚を熟練の動きともいえる速度でさばいていく姿を見てつい──

 

「へぇ、凄い上手だね。きっと将来はいいお嫁さんになれると思うよ」

 

「っっっ!!! な、なにをいきなっ!? 痛っ!」

 

 俺が呟いた何でもない一言を聞いてこっちを勢い良く振り返って、顔から湯気でも出るのではないかと心配してしまうほど真っ赤にした顔で慌てる彼女は、魚を切っていた包丁で誤って自分の指を切ってしまう。

 それを見てしまった俺は、慌てて怪我をした彼女に近寄って切った指先を凝視する。

 

「痛たたたっ! あっ、心配しないでください。ちょっと切ってしまいましたけどこれぐらいの切り傷なら舐めておけばなんてこと……? どうしま──!?」

 

 俺は彼女の切った指先から垂れ出ている赤い液体を見た瞬間、今まで感じなかった食人衝動が襲いかかってきた。けれど、ここまで俺に好意というものを見せてくれた彼女を問答無用で襲って喰らうなんて! という理性が鬼の本能に抗っている。

 そんな気持ちで怪我した指先を凝視している俺を心配だから見ているのかと勘違いした彼女は、俺を安心させるために『舐めて』おけば平気と言ってきた。

 

「そうだね、ちゃんと舐めて消毒しなくちゃ……」

 

 その時、俺は別に食べなくても舐めるぐらいはいいんじゃないかという思考になり、彼女の怪我した指を噛み砕かないようにアメを舐めるかのように口いっぱいに頬張り切り優しく傷を舐めまわしていく。

 

「ひゃっ!? 別にそこまでしなくても、はぅ! そ、そんな必死に舐めまわさなくても。うぅん──!?」

 

 傷口から出た血を舐め尽くすと、今度は赤ん坊のように傷口から血を出そうとチューチューと吸い始める。

 

「はぁ、はぁ、うぅん。もっと、ちゃんと血を舐めとらないと!」

 

 必死になって血を舐める俺の舌の感触にくすぐったそうに、けれど気持ち良さそうに彼女は口を抑えて感じていた。

 

♦︎

 

 自分を助けてくれて、優しくカッコイイと思った人が自分の血を見て豹変したかのように傷口を口にくわえて舐めまわす。そのことに恐怖を覚えるよりも、もっと他の感情が芽生えてきた。

 それは征服欲にも似たもので、自分の指をまるで犬のように舐めまわす彼を見て、あたかも自分が彼のご主人様にでもなったかのような錯覚を覚える。

 私は自分の口を抑えていた手を離して、いまだ必死になって舐める彼の頭の上にそっと手を乗せる。彼はそれに気づいたのかどうかは知らないが、頭の上に乗った手を振り払わずにいてくれた。それが嬉しくて私は彼の女みたいに伸びた綺麗な髪を流すように撫でていった。

 

 そして、私の指を口からゆっくり出して、唾液まみれになった指を綺麗にするかのように舌でチロチロとほんの少しにじみ出た血が混じった自分の唾液を舐めとっていく。唾液まみれだった私の指はほんの数秒で綺麗になった。

 

 彼はそれでようやく理性が戻ったのだろうか、顔が茹で上がったかのように真っ赤にさせて、手で先程まで私の指をくわえていた口を隠して立ち上がり、運んでいる途中だった食器を持って台所から出ていく。その際に、彼の口から小さく『指を汚して悪かった』と言ってそのまま行ってしまった。

 

 私は彼がこの場から出て行くのを見送って、いまだ湿っている自分の指先を見て胸が破裂しそうなくらい高鳴っている鼓動をぎゅっと抑え、その指先をゆっくりと口の方まで持っていく。

 そしてそれを、私は戸惑うことなく口の中に放り込み、指が痛くなるくらい歯を突き立てて、指先に残ったほんの少しの唾液を求めるように先程彼がしたのと同様に、チューチューと赤ん坊のように自分の指を吸い始める。

 ダメなことだと頭では分かっているはずなのに、まるで彼と接吻しているかのように感じてしまい止まらなくなってしまう。

 

♦︎

 

 そうやって彼女が台所で間接キスに夢中になっている間に、俺は気まずくなる前にさっさとこの家を出ようと決めて玄関から立ち去ろうとした。だけどその前に、彼女の血を吸ってから何だか目に違和感を覚える。ゴミでも目に入ったのだろうか? 家を出る前に、せめてこの家の壁に掛かっている鏡で確認しようと、自分の目をよ~く見てみると、最初にこの鏡で見たときは真っ黒な瞳だったというのに、今の俺の瞳はさっき吸いとった血のように真っ赤に染まっていた。

 それも不思議なことに、その真っ赤な瞳を見続けていると、だんだん頭の中がフワフワとし始めてきて、まるでお酒を飲んで幸せの気分に浸っているかのように感じる。

 そのまま何も考えられないようになって、血のように真っ赤に染まった自分の瞳に魅了されたかのように見続ける。

 そうやっていつまでも鏡を見続けていると、突然肩を叩かれてハッと我に返った。

 

「あの、夕餉の準備が終わりました。ですから、どうぞ座って食べてください」

 

 いつの間に用意されていたのか、ちゃぶ台の上には出来立ての料理が置かれており、後ろに先程まで俺の痴態を晒した彼女が立っていた。どういうことだ? 俺はただ鏡を見ていただけなのに、もう料理が完成して出されている。

 はっ、まさか、さっき彼女の血を吸ったことで俺の血鬼術が発現したのか!? おそらくは催眠系の術で、目を見ることで相手を魅了することができるといったところか。

 

「あの? 本当にさっきのことは私は全然気にしていないので、遠慮なんかしないでください」

 

 どうやら彼女は、俺が自分の血鬼術がどういう力を持っているのかと考え込んでいるのを、先程の痴態を恥じて動かないのだと勘違いしているようだ。

 っていうか、突然の血鬼術でさっきのことは忘れていたのに、何で思い出すことを言うんだよ。

 あの痴態を再び思い出してしまい、目の前に立つ彼女のように顔を真っ赤に染めて『本当にごめんなさい』と蚊の鳴くような声で謝って用意された料理の前に座った。

 

「「それじゃ、いただきます」」

 

 せっかく用意された料理が目の前にあるのだ、これを食べずに立ち去るのは勿体ないし彼女に悪い。箸を手に持って料理に手を付けていく。最初はとりあえず白米からと思って一口食べたのだが……

 

(あれ? 味が全くしない?)

 

 大正時代だからか、品種改良なんかされていない米とはこういうものかと思ったが、野菜の漬物を口にしたがそれも全く味がしなかった。あれ? と思って目の前に座る彼女を見るが、彼女は美味しそうに料理を食べていた。

 もしかして、鬼になったことで味覚が変わって人間の血や肉以外は全く味がしなくなっているのか。確かに先程の彼女の血はほんの少しとはいえ夢中になって舐めてしまうほど美味だった。それはまるで、分厚いステーキを熱々に熱した時に溢れ出る肉汁のように濃厚でインパクトのある味だった。

 

 彼女の血でこれなのだ、もしこの歯を彼女の柔らかな肉に突き立てて食いちぎって喰えばどんな味がするだろうか。じゅるりと想像で口の中で涎が溢れそうになるが、それを理性で飲み込んで我慢する。

 

「あの、今更ですけど、旅人さんのお名前ってなんていうんですか?」

 

 俺が味のしない食事を黙々と進めていると、すでに食事を終えた彼女が唐突に名前を訪ねてきた。そういえば、お互い自己紹介すらまともにしていなかったな思い出す。

 

「俺の名は……」

 

 しまった、どうしよう。このまま竈門炭治郎と名乗ってもいいが、これまで膨大な数の二次小説を読んだ俺の経験から想像するに、これを火種に柱が感づいたりだとか、鬼にならなかった禰豆子が噂を聞きつけて足取りを掴むなんていうことが起こりえるかもしれない。

 とりあえず、何とか偽名を考えよう。なるべくこの大正時代でも通じそうな当たり障りない名前にしよう。

 

 俺は自分の名前を考える時間を作るべく怪しまれないように胸を叩いて飯が喉に詰まった演技をして時間を稼ぐ。彼女はそれに騙されて慌てて台所に走っていき水を一杯持ってくる。俺はそれを飲みながら自分の名前を即興で考えついた。

 

「ふう、ありがとう。そういえば、自己紹介の途中だったね。俺の名前は夜刀神 七花だ。君の名前は?」

 

「七花さんですね。私の名前は暁美 奏といいます」

 

 互いに自己紹介を終えて、食べ終わった食器を洗って雑談に入る。奏は俺が何で旅をしているのかだとか、家族はどうしているのかという当たり障りのない質問で、俺はこの辺りで滅の文字が入った服を着ている人間を見たことがあるのか、最近ここらで人が消えたり奇妙な生き物を見たかなどといった話をする。

 

 そうして、時間は過ぎてゆき既に時間は11時を超えて奏は寝る準備に取り掛かる。俺はこのまま布団に入り朝日が昇る前にこの家を出ようと奏が寝静まるまでジッと目をつぶってこれからのことを考える。

 最初は奏を見たときは食人衝動がでなかったというのに、料理中に奏が指を切って血を流したのを見た瞬間からおかしくなった。まさか、奏は稀血の持ち主なのかもしれない。そう考えると、俺も禰豆子のように稀血を見ても即座に喰らいつかない程度の理性はあることが証明できた。

 

 そして、あの程度の血の量で血鬼術が発動できるようになったのは正直言って嬉しい。血鬼術があるのとないのとでは取れる戦術の幅が大きく違ってくる。発動条件は俺の目を見ること。まるで東洋の吸血鬼のようだな。

 

「さて、随分と時間が経った。もう奏も寝付いただろう」

 

 ムクリと体を起こし、奏が起きないよう音を立てずに自分が寝ていた布団を片付けていく。少し想定外のこともあったが、それでもかなりお世話になった。俺は寝息をたてて眠っている奏の頭を自分がしてくれたように優しく撫でると、奏はくすぐったそうに笑った。あまりやり過ぎると起きてしまうかもしれないから名残惜しいがこの辺でやめておこう。

 

「それじゃ、世話になった。もしまた会う時があれば、勝手に出ていったことを詫びるよ」

 

 そう言い残して俺はゆっくりと玄関の扉を閉めて出ていった。

 

 

 




オリ主が完全に陰獣化してしまった。当初の予定では軽く奏の指を舐めてからかう程度にしたかったというのに、書いている途中で何故か同人誌の内容にすり替わってしまった。
はっ!まさかこれは妖怪のせいなのでは!?(責任転嫁)

いや、マジで最初はオリ主が指をくわえるだけで、その後包帯を探しに行ったオリ主の隙をついて奏が間接キスをしている場面を見たオリ主がからかうという展開だったというに、どうしてこうなった!
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