醜いフレンズルドウイーク≪完結≫   作:星野谷 月光

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恋する者たちを世界は優しく受け入れる
いくら時が流れようとも
ーハーマン・フップフェルド「as time goes by」


えぴろーぐ

それから、月日は巡り……

季節は何度目かの夏となった。

私は新しくサバンナの平原に建てた家で、静かにダージリン・クーラーを飲んでいる。

酒の製造もまた、かばんが新しく始めたことだ。

最初は蜂蜜や果実を発酵させたどろりとしたものだけだった。

今は紅茶によるリキュールを作るほどになったが。

 

「平和だ……」

 

そう、つまりそれだけ平和ということだ。

あの円盤はサバンナとジャングル、海をまたぐように着地し、それは特に被害無く行われた。

着地の日だけはラッキービーストを使い、フレンズ達の避難や引っ越しを大急ぎで行ったがね。

そのとき、円盤の一部が壊れ、中から赤い機械の獣があふれ出して来た。

しかし、あれはこちらにさほど興味がなさそうであり、

さらにビーバーたちの土木工事で厳重に穴をふさぐともう出てこなくなった。

 

「もう、また飲んでますの?」

 

ミーアキャットがピン、とグラスを小突いた。

サバンナの赤い赤い夕日に、眼鏡が光る。

 

「これはかばんが試作品をぜひにと……いや、すまない」

「もう、今日は授業が終わったらあまり口うるさくは言いませんけど……

身体を大事になさってくださいね。

ああ、ペリカンがこれを届けて下さいましたの」

 

そう言ってロウで封をされた封書をミーアキャットは渡してきた。

署名には「キュルル」とある。

 

「ほう……ありがとう」

 

スローイングナイフで封を切って中身を見る。

キュルルとアムールトラはあれから隣島であるリウキウ地方に行った。

若い二人には、過去のしがらみは不要であり、また新天地を求めるのは若者の常だ。

手紙を読むと、あちらでも元気にやっているらしい。

 

「その、失礼ですけど何が書いてありますの?

キュルルさんはお元気でしょうか……?」

「ああ、これを見たまえ」

 

私は絵はがきの裏を見せた。

そこには、リウキウの青い海、燦々と照りつける太陽の下。

魚を捕ってはしゃぐ()()()()の姿があった。

キュルルの描いた思わず顔のほころぶ優しい絵だ。

彼らの娘は、とても聡明そうで、それでいながらたくましく健やかに成長していると解る。

こんなにもまぶしい笑顔なのだから。

 

「……キュルルさん、親子三人幸せそうですわね」

「ああ……誇らしいことだ」

 

ミーアキャットがこちらを向く。その顔にも笑顔があった。

 

「この娘の名前はなんと?」

「このジャパリパークの古い職員の名前を取って……トワ、だそうだ」

「キセキとかの方がそれらしいですのに……でも、なんだか素敵な名前ですわ」

「ああ、この幸福がずっと続くことを祈って……とね」

 

ここで奇妙な足音がする。ラッキービーストだ。

 

「ルドウイーク、カバントサーバルカラメッセージガアルヨ」

 

何だろう。そう急ぐ事も無いはずだが……

 

「ああ、再生してくれ」

 

ラッキービーストの目が光り、空中に幻影が映し出された。

 

『ルドウイークさん、今日は良いお知らせがあってラッキーさんに通信をお願いしました。

でも、緊急じゃないから録画になっちゃうけど……

新しいヒトが見つかりました。あの円盤から出てきたヒトです。

ケムリクサにすごく詳しくて、これならあのアンチセルリウム放出ケムリクサが作れそうです!

えっと、みんないい人達ですよ!』

 

サーバルが後ろから二人の男女を連れて現われた。

初々しい恋人同士らしく、表情が生き生きとしている。

 

『これは……ムシか?』

『どうなんでしょうねー、シロにちょっと似ててかわいいかも……』

 

二人は不思議そうにラッキービーストを見ている。

 

『ワカバくんとりんちゃん!

他にもたーくさん姉妹がいるんだって!お友達になったよ!』

 

私は、思わず顔がほころび、ダージリン・クーラーを一口飲んだ。

その後もメッセージは続いていくが、どれも喜ばしい事ばかりだった。

 

「まあ……でも、良いことばかりでよかったですの」

「ミーアキャット、お祝いに乾杯しないかね?」

 

私は紅茶リキュールを酔わない程度。

極限まで薄く作ったものをミーアキャットに渡した。

 

「まあ……何にですか?」

「そうさな……新しい命と恋人達、そしてジャパリパークに!太陽あれ!」

 

キン、とグラスが涼やかな音を立てる。

燃えるように赤い夕日と、静かにそよぐ風がいつまでも優しく包む。

きっと、これからもずっと。




これにて完全に完結です!
なんだか蛇足っぽくなりましたが、
ここまでおつきあいいただき本当にありがとうございました!

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