工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった   作:ストロングゼロ

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黒の組織から来た女

「いやー、今日は依頼なしか。ここのところ殺人事件ばかりだったから、なんか久しぶり♪早く晩ごはんの支度しなきゃ。博士が痩せちゃう〜。って、あれ? 新一の家の前で女の子が倒れてる」

 

「…………」

 

 珍しく事件に巻き込まれずに毛利探偵事務所から帰宅してたら、新一の家の前で小さな女の子が倒れていた。

 大人のサイズの白衣を身にまとった、赤みがかったウェーブ状の茶髪が特徴の彼女が誰なのか、さすがに勘の悪いあたしでも察しがつく。

 

「こ、この子はまさか……、いや、間違いない……」

 

 あたしは行き倒れになっていた少女を抱きかかえて、博士の家に連れていき、自分のベッドに寝かせた。

 

 

 

 

「んっ……、んんっ……、――っ!? こ、ここは……?」

 

「気が付いたようじゃな」

「大丈夫? 痛いところとかない?」

 

「あなたたち……、誰?」

 

 少女は意識が戻ると、あたしたちの顔を確認して誰かと質問をした。

 こうやって見ると本当に小学生にしか見えないわね……。

 

「わしはこの家の家主で発明家の阿笠博士じゃ」

「あたしは居候の藤峰愛梨寿よ。高校2年生」

 

 あたしと博士は少女に自己紹介する。さて、彼女が思ったとおりの人間ならどう反応するだろう……。

 

「藤峰愛梨寿……? そう……、あなたが工藤新一ってわけね」

 

「な、なぜそれを君が知ってるんじゃ?」

「博士、ダメじゃん。それ言ったら。カマかけてるかもしれないのに」

「あっ!? す、すまん」

 

 おおーっ、名前を聞いただけであたしの正体を見破ったぞ、この人。

 コナンくんの正体は多分だけど博士が教えたんだろうし、なんで分かったんだろう? 

 工藤新一=藤峰愛梨寿の構図はコナンが新一よりもかなり分かりにくいはずなんだけど。

 

「正体を見破られても冷静なのね」

 

「まさか。驚いてるわよ。こんな小さな女の子、しかも初対面の子があたしの秘密を知ってるんだもん。理由を聞かせてもらえるかしら?」

 

 本当に驚いていたので、あたしは少女に理由を尋ねる。

 彼女の正体はほとんど分かっているけど、素知らぬ顔をしながら。

 

「シェリー……、これが私のコードネームよ。この意味分かるかしら?」

 

「アリスくん。酒の名前をコードネームにしている組織って……」

「ええ、予測はしてたけど、黒ずくめの男たちの仲間みたいね。こんな小さい子がいるとは思わなかったけど。でも、なんであそこで倒れていたの?」

 

 何度か黒の組織の連中とはニアミスしていて、奴らが酒の名前をコードネームにしていることは博士も知ることとなっている。

 とりあえず、この子の話を最後まで聞きましょう。

 

APTX(アポトキシン)4869……。それが私が開発した薬の名前」

 

「えっ?」

 

「そしてあなたの飲まされた薬の名前でもある。工藤新一はこの薬が原因で女性の体になったんでしょ? 私も飲んだのよ。あの薬……」

 

 シェリーはあたしが飲まされた薬の開発者だと告白して自分も薬を飲んだという。

 あー、やっぱり小さくなるパターンもあったんだ。もしかしたら、男になってしまったり、死んじゃったりして彼女が現れないパターンも考えたけど、この辺りは漫画と同じなのね……。

 

「ふーん。あれはそんな名前の薬だったのね。ということは、あなたは元男の子ってこと? いや、それだと変な話になるわよね。開発したとか、言ってたし」

 

「私は薬を飲んで幼児化したの。大人の体から小さな子供の体にね……」

 

「幼児化じゃと? アリスくんとはまるで違うのう」

 

 シェリーが薬で幼児化した話を聞くと博士は驚いた顔をする。

 そうよね。コナンくんっていう前例がいるからそもそも彼女のことを博士は容易に受け入れたんだもん。薬で小さくなる効果まであの薬にあるって知ったらびっくりするわよね。

 

「動物実験の段階で薬を投与されて生き残ったマウスが二匹居た。一匹は幼児化したマウス……、そして、もう一匹は雄が雌へと性転換したマウス……。あなたの正体が工藤新一だと分かったのもそれがきっかけよ」

 

「へぇ……」

 

「あの薬を飲んだ人間であなただけ、死亡が確認されてなかった。知ってた? 組織はあなたの家に二度ほど捜査員を派遣してたの。私も薬の考案者としてそれに同行したわ」

 

 なるほど、性転換したマウスもいたのか。それなら彼女があたしの正体に気付いた理由も大体予測がつく。

 

「あー、そうなんだ。下手にあそこに住まなくて良かったわ。鉢合わせしたら面倒だもんね」

 

「一度目の調査は家の中が埃だらけで人が住んでる形跡もなくお開きになった……。二度目の調査はその一ヶ月後。相変わらず埃だらけで私もあなたが死んだものだと思い始めたその時よ……、あなたの母親の洋服ダンスの変化に気付いて鳥肌が立ったのは……」

 

「……………」

 

「無くなってたのよ。一ヶ月前にはあった、あなたの母親の服が、下着まで含めてごっそりと……。さっき話したマウスの件があったから仮説を立てるのは容易だったわ。工藤新一はAPTX(アポトキシン)4869を投与され、性転換した可能性があるってね。そして、彼が消えた後に現れた女子高生の探偵“藤峰愛梨寿”。藤峰は工藤新一の母親の旧姓……。あなたと工藤新一を結びつけるのにも時間はかからなかった」

 

 やっぱり、有希子の服を許可を取って拝借したことが原因だったか。

 そして、博士の案だが有希子の旧姓を偽名に使っていることもあたしと新一を結びつける根拠になっているみたいだ。探偵としてメディアに出てる分、あたしのほうがコナンよりも目立ってるし……。

 

 うーん。性転換を前提にして考えると新一とあたしを結びつけることは可能ってわけね……。

 

「じゃあ組織は工藤新一が女になったことを……」

 

「感謝して。あなたのデータは死亡確認に書き換えてあげたから。貴重なサンプルとなったあなたに興味があったから生かしてあげたわ。組織に報告すれば私のところに回ってくる前に殺される可能性が高いからね。ま、データを書き換えたのが組織を裏切った私だと分かれば、再び疑い始めるかもしれないけど」

 

 ふぅ、良かった。組織ではあたしが死んでることになってるみたいね。

 まぁ、いつまで安全なのかはわからないみたいだけど。

 

「うん。データ書き換えてくれて、ありがと」

 

「……嫌味? 薬を作った張本人の私に礼なんて」

 

「感謝してって言ったのはシェリーちゃんの方じゃん。あたしが生きてるのはあなたのおかげ。薬を飲ませたのはあなたじゃない。それだけよ。ダイナマイト投げつけられて怪我しても、アルフレッド・ノーベルを恨んだりしないでしょ?」

 

 シェリーが悪いなんてあたしは思ってない。だって、薬を飲ませてきたのはジンだし。

 それよりも、死亡したことにしてくれた彼女への感謝のほうが大きい。

 

「呆れたお人好しね。甘過ぎるわよ。ノーベルは別に人殺しの道具を作ろうとは考えてなかったでしょ? 彼は土木業や建設業のためにダイナマイトを発明した」

 

「じゃあ、シェリーちゃんは人殺しのために薬を作ったの?」

 

「……そうじゃないって言えばあなたは信じるっていうのかしら?」

 

 あたしの質問にシェリーは少しだけ哀しそうな顔をして、自分の言うことを信じるのか尋ねてきた。

 そんなの――決まってるじゃない。

 

「うん。信じるわよ」

 

「――っ!? 少しは疑いなさいよ。探偵なんでしょ?」

 

「目を見れば大体わかるわ。やっぱり、毒薬と知らずに開発に携わってたみたいね。それより、組織を裏切ったっていうのは――」

 

 彼女は利用されただけ。知らずに自分が作った薬を使って人が殺されていたなんてことを知った彼女の絶望は計り知れない。

 

「いい加減、あの組織が嫌になったのよ。試作段階のあの薬を勝手に人間に投与されたことも理由のひとつだけど、最も大きな原因は私の姉――殺されたのよ。組織の手にかかってね。何度問いただしても組織はその理由を教えてくれなかった。そして、その正式な回答が得られるまで私は薬の研究を中止するという対抗手段をとった。当然、組織に歯向った私は研究所のある個室に拘束され、処分を上が決定するまで待たされるハメになった」

 

「姉が組織に殺されて……、まさか……」

 

「どーせ殺されるのならと、その時飲んだのが……APTX(アポトキシン)4869……。幸運にも死のうと思って飲んだその薬は、私の体を幼児化させ、手枷から私を解放し――小さなダストシュートから脱出させてくれたのよ……」

 

 シェリーの話は大体、漫画で読んで知ってる話だった。

 しかし、姉がいたことはすっかり忘れていた。この子のお姉さんって、間違いなくあの人よね……。

 

「どこにも行くあてが無かった私の唯一の頼りは工藤新一あなただけ。私と同じ状況に陥ったあなたなら、きっと私のことを理解してくれると思ったから――って、何するのよ!?」

 

「そっか、そっか〜〜。あたしを頼りにしてくれたんだ。何か嬉しいなぁ。大変だったわね」

 

 あたしは気付いたら、シェリーをギュッと抱きしめて頭を撫でていた。

 何かハーフっぽい見た目でめちゃめちゃ可愛いくて堪らなくなっちゃったから……。

 

「な、馴れ馴れしい人ね。私の話を聞いてた? この見た目だけど……」

 

「大人なんでしょ? わかってるわよ。そんなこと」

 

「じゃあ離してくれる? 鬱陶しいから」

 

 あたしが頭を撫でることを、迷惑そうな顔をして抗議する彼女。

 髪の毛さらさらしてる……。ずっと触っていたいんだけど……やっぱダメか……。

 

「え〜〜、同じ境遇のあたしと仲良くなりに来たんじゃないの?」

 

「こういうスキンシップは嫌いなの」

 

「あら、そうなの? じゃ、晩御飯作ったげるから、待ってて。ごめんね、博士。遅くなっちゃって」

 

「ああ、ワシは構わんが」

 

 これ以上、抱きしめてたら本気で怒られそうだったのであたしは晩御飯を作るためにキッチンへと向かった。

 

 じゃあ、今日は彼女も来てくれたことだし、あれを作ろうかな……。

 

 

 

 

 

「ジャーン♪ 今日のご飯はビーフシチューでーす♡」

 

「おおっ! いつにも増して気合が入っとるのう」

 

「ビーフシチュー……?」

 

 今日のメニューはビーフシチュー。

 我ながら美味しそうに出来たと思うわ。お口に合えば良いんだけど……。

 

「うん、美味い。アリスくん、店で出せるぞ。これは」

 

「この味は……」

 

「友達に習ったのよ。ビーフシチューを美味しく作るコツをね」

 

 実はこのビーフシチューはある人から作り方のコツを教えてもらった。

 いやー、大した工夫でもないのにこんなに美味しくなるなんてびっくりね。

 

「ほう、そうじゃったのか。蘭くんかね?」

 

「ううん。別の人。ビーフシチューを簡単に美味しくするにはね、お肉と野菜を先にバターで炒めて、隠し味にチョコレートと――」

 

「野菜ジュースを入れる…………」

  

 シェリーがあたしの作ったビーフシチューの最後の工夫を言い当てる。

 正解だ。このシチューには野菜ジュースが入っている。

 

「――そう。最後に野菜ジュースを入れて煮込むと数十種類の野菜の味が馴染んで豊かな味になるの。楽しそうに教えてくれたわ。あなたのお姉さんが」

 

 広田雅美と電話でやり取りしてたとき、世間話がてらこういう話もしていた。

 さっきの会話でようやく思い出した。広田雅美はシェリーの実姉だ……。

 

「……気付いてたの? 広田雅美が私の姉だって」

 

「何となくね。死ぬ前も妹のことをずっと気にかけていたから。組織から切り離したいって……。あなたの話を聞いてピンときたのよ。広田雅美があなたのお姉さんだって」

 

「ええ、広田雅美は私の姉、宮野明美が使っていた偽名……、めったに会えなかったけど、得意げな顔をして私に料理を振る舞ってコツを教えてくれたわ…………」

  

 シェリーはあたしの作ったシチューを懐かしそうな顔をして口に運んでいた。

 そっか、やっぱり妹の彼女にもこのビーフシチューの話はしていたか……。

 

「ごめんなさい。助けてあげられなかった。あたしはあなたのお姉さんを……。もっと早く、推理して違和感に気付けば、もしかしたらあたしは……」

 

 あたしはシェリーに姉の命を救えなかったことを謝罪する。

 何もかも遅かった。あたしが早く彼女を見つけ出せれば……助けられたかもしれないのに――。

 

「…………お姉ちゃん。なんで……、私なんかのために……、ぐすっ……、どうして……」

 

 スプーンを置いてシェリーは涙を流した。宮野明美が犯罪に手を染めて殺されるまで至ったのは、彼女を救うためだったから。

 それを知っているからこそ、姉を失った彼女には堪えたのだろう。クールに振る舞っているが、彼女の姉への想いは隠せなかった――。

 

 

「組織から必ずあなたを守るわ。お姉さんの代わりなんて出来ないけど、責任は取らせてもらう」

 

「……工藤くん?」

 

 あたしは彼女を守りたい。組織の手から……何としてでも。

 宮野明美はあたしの目の前で死んだ。彼女の身をずっと案じて……。大した縁じゃないけども、そうしたいのだ。

 

「あたしは藤峰愛梨寿よ。アリスちゃんって呼んでね♪」

 

「――さっきからずっと気になっていたんだけど、工藤くんってそっちの気があるの? そもそも、女性的な心というか……、正体を明かしても女性のフリを崩さないし、演技が上手すぎるわ」

 

 あー、博士以来だわ。あたしの仕草にツッコミを入れたのは。

 確かに新一が性転換しただけなら、正体を知る彼女の前で女のフリをする必要はないもんね。

 シェリーは聞いちゃいけない話かもしれないとか思ってそう……。

 

「これ、アリスくん。転生の話をしとらんから」

 

「そうだったわね。あれは、薬の開発者でもわからないもんね」

 

「……………?」

 

 あたしは彼女に自分は新一の体だけど別の人格が宿っている話をした。

 さすがに薬の開発者の彼女もこの話は寝耳に水だったらしく、ポカーンとしながら話を聞いている。

 

 そして、一通りの話が終わった――。

 

 

 

「アリスという女の子の魂が工藤新一の肉体に? 何それ……? そんな話……」

 

「やっぱり、信じられないか」

 

「でも、あり得なくはないかも。性転換したマウスは気性が激しくて食欲旺盛だった。でも、雌になった瞬間に別個体のように大人しくなって少食になったの。ホルモンバランスが変わったからだと思ったけど――何より、あなたがそんな嘘をつく意味がない。薬の開発者である私にそんなことを言うなんて、ナンセンスだもの」

 

「なるほどのう」

 

 シェリーはあたしの話を聞いて、性転換したマウスの性格が急変した話をする。

 なにそれ? 怖い話なんだけど……。

 

「じゃあ信じてくれるのね」

 

「不本意なのは間違いないわよ。スピリチュアルな話は嫌いなの。でも、そう考える方が違和感を感じないから仕方ないわ」

 

 シェリーは渋々ということを強調しながら、あたしの話を信じてくれた。

 ふぅ、良かった。ここの説明が一番難しいのよね……。

 

「そっか。じゃあ、お互いのことがわかったところで、あなたの名前を考えましょう」

 

「名前……?」

 

「そ、名前よ。シェリーちゃんも、宮野志保ちゃんも、使うわけにはいかないでしょう? でも、呼び名がなきゃ不便だし」

 

「好きになさい。なんだっていいわよ。そんなの」

 

 あたしたちはシェリーの偽名を考えることになる。

 まぁ、考え付いたのは漫画と同じで“コーデリア・グレイ”のグレイから“灰”と“V・I・ウォーショースキー”の“I”から“あい”を取ってそれを組み合わされた、“灰原哀”という名前になった。

 

 でも――。

 

「じゃあ、“灰原哀”ちゃんね。むぅ〜〜」

 

「なんで不満そうなの?」

 

「だって、“哀”じゃなくて“愛”なら、愛梨寿の“愛”とお揃いでかわいいじゃない」

 

 あたしは博士以上に“哀”ではなくて“愛”を使うことを推した。

 自分の名前に“愛”の字が使われていてお揃いにしたかったから。でも、哀は譲らなかった。

 

「理由を聞いて自分の決断に自信が持てたわ」

 

「哀ちゃ〜ん、そりゃないわよ〜」

 

 お揃いにしたかったというあたしの言葉を聞いて哀はそうしなくて良かったと微笑んでいる。んもう。厳しいこというわね〜。

 

 

「ところで哀くん、解毒剤は作れるのかね? その、APTX(アポトキシン)4869とやらの」

 

「無理よ。あんな膨大なデータいちいち覚えてないわ。大体、藤峰さんは転生とやらをしたんでしょ? 工藤新一の体に戻る必要はないじゃない」

 

 ここに来てようやく博士は哀に解毒剤が作れるか尋ねて、哀は無理だと答える。

 さらにあたしは元に戻る必要性がないとも……。

 確かにそうよね。体が小さくなったコナンくんとは事情が違うよね。不便じゃないんだもん。

 

「それが、何とか戻ろうと思っちゃったりしてるんだよね。新一のこと、待ってる人が沢山いるからさ」

 

「とんだお人好しだと思ってたけど、そこまでいくと馬鹿ね……」

 

「それは否定しないけど、何とかならないかな? 哀ちゃんだけが頼りなのよ」

 

 あたしが元通りにしたいという意味をきちんと捉えた哀は馬鹿だと言う。

 そうかもしれないけど、戻りたいのは事実だから、彼女の助けは必要不可欠だ。

 

「残念だけど、研究所や施設は私が消えた瞬間に全部消すくらいのことはやる組織だから。薬のデータなんか残さない。諦めてちょうだい。役立たずで悪いわね」

 

 彼女は黒の組織は哀が脱走して血眼になって彼女を捜している上に、研究成果を誰かに話しても無駄になるように証拠を必ず潰すと断言した。

 

「まっ、そんなに簡単じゃないか。気長に頑張るしかないってことね」

 

「……ところで。いつまで私を膝の上に乗せてるつもりなの? そういうの止めてくれるとありがたいわ」

 

「だって可愛いんだもん」

 

 偽名を考えるにあたって、あたしは哀をずっと膝の上に座らせて後ろから抱いていた。

 いやー、何かわからないけど母性みたいなのが溢れちゃう。

 

「私はあなたよりも歳上なの。ちょっとは敬意を持ちなさい」

 

「いいじゃん。昔から妹が欲しかったのよね〜」

 

「あなたみたいな姉は要らないわ。離しなさい……、――あっ! 思い出した。そういえば、あそこなら薬のデータがあるかも」

 

 ムッとした表情でイライラを口にする哀はその瞬間に何かを思い出したみたいだ。

 

 彼女によれば、姉である宮野明美の恩師である南洋大学教授の広田正巳のところに薬のデータが入ったフロッピーディスクがあるかもしれないということだ。

 哀が数年前に姉から送ってもらった旅行写真のデータが入ったフロッピーディスクを送り返したときに薬のデータが混じっていたことが原因らしい。

 

 そして、それはビンゴだった。広田教授に電話して確かめたところ、宮野明美が送ったフロッピーディスクの中に変なデータが入ったものが紛れていたとのことだ。

 

 今日はもう遅かったので、あたしたちはアポをとって翌日の夜に静岡に向かうことに決めた。

 

「じゃあ、今日はお風呂入ってゆっくり寝なさい。疲れてるでしょ? 新一の家から哀ちゃんの枕も持ってくるから」

 

 ということで、あたしは哀にゆっくりするように声をかけた。

 彼女がさっき使ってた枕はあたしのだから、新しいの持ってこなきゃ。

 

「ねぇ、ところで……さっき私が寝ていたベッドってあなたのベッドよね?」

 

「そうだよ」

 

「私はどこで寝るのかしら? この家、阿笠博士の一人暮らしだったんでしょ? いくつも寝室があるとは思えないんだけど」

 

「あのベッドに決まってるじゃない」

 

 哀は自分が寝る場所を心配していたので、あたしのベッドを使えば良いと答えた。

 そんなの当たり前じゃない。

 

「じゃあ、あなたはどこで寝るのよ?」

 

「もちろん、自分のベッドで寝るわよ」

 

「「…………」」

 

 あたしも自分のベッドで寝ると答えると哀はしばらく黙った。

 ああ、スペースの心配をしてるのね。

 

「大丈夫よ、哀ちゃん。小さいから」

 

「ソファで寝るわ。毛布貸して」

 

「いやーん。照れちゃってかわいい♡」

「はぁ……、この人を頼ってここに来たことをこんなに早く後悔するなんて思わなかったわ……」

 

 あたしが一緒に寝ることを照れて嫌がる哀のことを可愛いと言うと、彼女は思いきり迷惑そうな顔をする。

 結局、今度二段ベッドを買う約束をして今日のところは諦めてもらった。

 

 妹が出来たみたいで嬉しいのは本当なんだけどな――。

 

 翌日――大学教授、広田正巳の家に向かったあたしたちはまたもや事件に遭遇することになった――。

 

 




灰原哀がついに登場。
次回、大学教授殺人事件です。 

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