工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった 作:ストロングゼロ
「今夜は特別な趣向が凝らしてあります。乗船時に渡した箱を開けてみてください」
あたしと蘭と小五郎は、4月19日……Q・セリザべス号で行われる鈴木財閥60周年パーティーに参加する。
史郎の挨拶もそこそこに、園子の母親である朋子が船に乗るときに乗客全員に配っていた箱を開けるように促した。
「蘭ちゃん、これって」
「うん。“
箱の中に入っていたのは怪盗キッドが狙っている“漆黒の星”。なるほど、面白い趣向を考えたわね……。
「もちろん、本物はただ一つ。それ以外は精巧に作られた模造真珠というわけです。本物を持っているのが誰か知っているのも私一人。さぁ皆さん、それを胸にお付けください。そしてキッドに見せつけてやるのです! 盗れるなら盗ってみなさいとね!」
「へぇ、これならキッドも本物を簡単には見つけられないね」
500人余りいる乗客が全員、精巧に作られた“漆黒の星”のレプリカを身に着けていれば、どれが本物なのかキッドであろうともすぐには判別できないはずだ。
だから、この方法はある程度は有効ではある。
「うん。“漆黒の星”を晒すのはリスクあると思うけど。園子のお母さんはキッドのプライドも傷つけたいんだろうね。あれ? 園子ちゃん、どうしたの? キョロキョロして」
「姉貴がどこにも居ないのよ。おかしいわね〜」
あたしは誰かを探すような仕草をしている園子に話しかけると、彼女は姉である鈴木綾子を探していると答えた。
最近、婚約した園子の姉がいないなんてちょっと変ね。必ず顔を出すはずなんだけど……。
「家に電話してみれば」
「うん。そうしてみる」
園子は家に電話を掛けると、驚いた顔をする。そして、慌ててあたしの方に駆け寄ってきた。
「姉貴とパパがまだ家に居たんだけど……。茶木警視から出港を2時間遅らせるって言われたんだって。じゃあ、さっき挨拶してたのは――」
園子によれば、茶木から史郎に連絡が入って出港が遅れると伝えたらしい。
それで、彼と園子の姉は家にまだいるのだとか……。つまり、電話をしたのが怪盗キッドで……史郎になりすまして乗船したということ。
「怪盗キッドってわけね。確かに史郎さんが見当たらないわ。――すみません。史郎さん見ませんでしたか?」
「さっきトイレに向かって行ったのを見たけど……」
「ありがとう!」
「ちょっと、アリス〜!?」
あたしが史郎の行方を尋ねると、彼がトイレに向かったと答えてくれた人が居たので、あたしは彼を追ってトイレへと向かった――。
「遅かったか……」
トイレには変装に使ったマスクや服が放置されていた。
やはり彼は史郎に変装して、ここに乗り込んできたってわけね。
「お、おい。君……、ここは男子トイレだぞ」
「あーん、ごめんなさい。間違えちゃった♡」
「あ、ああ。私は構わないけど……」
あら、失礼。何も考えずに男子トイレに駆け込んじゃった。そりゃあ、入ってきた人はあたしを見たらびっくりするわよね……。
「先生、キッドが史郎さんに化けて船に乗り込んでいました」
「んだと。それは本当か? アリス」
「ええ。恐らく他の乗客に化けて紛れているのかと。それより、蘭ちゃんは?」
あたしは小五郎にキッドが侵入したことを伝えた。
そういえば、蘭はどこに行ったのかしら? 姿が見当たらないわ……。
「お前を探しに行ってたが……怪盗1412号に捕まってるかもしれねー――」
「奴の名前は怪盗キッドだ!!」
蘭はあたしを探しに行ったらしい。小五郎が怪盗1412号の名前を出したとき、中森警部が怪盗キッドだと訂正してきた。
どっちでも良いような気がする……。
「これは、中森警部。先日はどうも」
「ああ、君か。そこの探偵の命令で深夜の杯戸シティホテルの屋上で張り込んでいた……」
あたしが中森警部に挨拶をすると、先日の夜にホテルの屋上で会ったことを思い出してくれた。小五郎の指示であそこで待機していたと説明したんだっけ……。
「すみません。彼の近くに居たのに逃しちゃって。中森警部もこの船の警備をされるんですね」
「ええ。彼が警視庁で怪盗キッドの専任になっていますのよ。つまりあなたと同じく、60年間もの間、鈴木家の家宝だった――“漆黒の星”を守る
中森警部の話を聞こうとすると、朋子が割り込んできた。
ナイトだったんだ。あたしって……。
「どうも。初めまして、朋子さん」
「娘がいつもあなたの自慢話をしますのよ。お手並み拝見させてもらいますわ」
園子がどんな風にあたしのことを話しているのか分からないが、彼女の期待には応えなくてはならない。頑張らないと……。
「いやー、あたしなんか先生と比べたらまだまだ……」
「だーはっはっは! そうです。キッドを捕まえるのはこの私にお任せあれ! それよりこの500人の乗客の中で誰が本物をつけてるのか教えてもらえませんか?」
「精巧に出来ているといっても所詮は模造品。よく見ればわかります。例えば、私のつけている物のように光沢が鈍いものや毛利探偵がつけられているもののように輝きすぎているものなど……安っぽい見かけのものもありますから。多少は絞れるでしょう」
小五郎はさっそく朋子に本物の“漆黒の星”の所持者を教えて欲しいと頼むけど、彼女は教える気がないっぽい。
「しかし、ひとりひとりをチェックするのは何とも……」
「ふぅ、仕方ありませんわね。では、とっておきのヒントを……本物は“最も相応しい人”に預けました。偶然にもそれに値するのは500人の内にたった一人しかいませんでしたの」
「そ、それだけ……ですか?」
「名探偵なら、それで十分では? 優秀な助手も居られるみたいですし」
朋子は“最も相応しい人”が本物を持っているとヒントを与えてくれた。
うーん。誰だろう……。“最も相応しい人”っていうのはどういう意味だ……。
「いやー、やっぱり毛利さんだ! それにアリスちゃんも! お久しぶりです。いつぞやの事件ではお世話になりました」
あたしが朋子のヒントの意味を考えていると男性が小五郎に声をかけた。この声って……。
「あはっ、旗本さんじゃないですか。それに三船さんも」
「おいおい、まだそっちのおっさんの助手なんかやってんのかよ」
以前に関わった事件で知り合ったフランス料理店を多数出している旗本グループの旗本と三船電子工業の若社長の三船があたしたちに近付いてきた。
彼らも同じ船に居たんだ。この料理は旗本の料理だったのかー。それにしても……。
「三船さん。ダメですよ。ちゃんと真珠つけないと」
「ガキっぽいゲームは嫌いなんでね」
「んもう。それで三船さんが怪盗キッドだって警察の人に疑われても知りませんよ」
「ちっ、しゃーねぇな」
真珠を胸につけてなかった三船はあたしに促されると、しぶしぶハンカチを使って真珠を取り出すと胸に付けた。相変わらず、この人は勝手気ままなんだから。
「しかし、蘭のやつどこに行ったんだ?」
「きっと、船内で迷ってるのよ。蘭って方向音痴だから」
「方向音痴で悪かったわね……」
蘭を気にする小五郎の声に園子が彼女の方向音痴ぶりを主張すると、気まずそうな顔をした彼女が現れた。
「蘭ちゃん、ごめんね。あたしのこと探してくれてたんでしょ?」
「ううん。迷ったのは私のせいだから。こっちこそ心配かけてごめん」
でも、蘭が無事なら良かったわ。キッドに捕まってたら大変だもんね……。
「怪盗キッドがこの船にもぐり込んでいます。奴は顔や声、性格まで模写できるので、キッドに対抗するためにペアを作って合言葉を決めておいてください」
「合言葉だってー。蘭ちゃん、どうする?」
「アリスちゃんが決めて。こういうのよく分からなくって」
茶木警視が成りすまし防止のためにペアを作ってお互いにお互いがわかるように合言葉を決めるように促した。
「んー、じゃあ。あたしが“新一”って言ったら、蘭が“愛してる”っていうのはどうかしら?」
「もー、アリスちゃん。からかわないで、真面目に決めてよ〜」
あたしがふざけると蘭は困り顔をして、肩を小突いてきた。
ついつい、彼女をからかってしまう……。
「えへへ。なら、あたしが“ホームズ”って言ったら、蘭ちゃんは“ルパン”って答えてね」
「うん。わかった。――っ!? あれ?」
――と、その時……急に明かりが消えた。
そして煙とともに鳩を連れた白いタキシードの男が船室の上方に現れる。あれ〜〜、スポットライト当たってるし、何かのショーかしら?
「すでに“漆黒の星”は私の手の中だ……」
「か、怪盗キッド!」
「ば、馬鹿な。いつの間に……!」
いやいや、キッドじゃないでしょ。こんな演出してるのに……。
「悪い怪盗さんには、お仕置きしてあげなくっちゃ……」
「ぐわぁあああっ!」
そして、朋子がその白タキシード男に向かって銃を発砲して、男は叫び声を上げながら落下してしまった。
「「きゃあああああっ!」」
明かりがつくと、血まみれの男がテーブルの上に倒れている。そりゃ、悲鳴も上がるでしょうね。
だから、この茶番は何なのよ……。
「彼はこの余興のために私が雇った天才マジシャン。真田一三ですわ。皆さん、怪盗キッドの役を見事に演じた彼に拍手を」
どうやら、朋子が乗客を楽しませるためにマジシャンを使ってショーを行ったらしい。
倒れていた男はムクッと起き上がりお辞儀をした。
それにしても、朋子が本物の“漆黒の星”を預けたという人物は誰だろう。
あたしは真田が手品を始めたので、それを見ながら頭をひねる。
そもそも朋子って警戒心が強くてプライドも高い。あたしや中森警部のことをナイトとか言ってたけど、どうも心の底からは信じてもらってないっぽいのよね。
つまり、預けるならそれなりに信用に足る人物じゃなきゃならないけど、それに該当するのって……。
それにあれも気になる。小五郎に偽物の見分け方を指南したのも……。
粗悪品が紛れてるってわざわざ言うことかしら? せっかく偽物をたくさん用意したのに……。
そこまで、考えたとき――マジックのトランプをシャッフルしていた客の一人がトランプを落としてしまう。あれま、蘭と園子が拾うの手伝ってあげてるし……。
「なぁに、カードを落としたくらいじゃ
真田はカードを落とした客に慰めるような言葉をかける。
ん? ちょっと待って……“ツキ”って確か……。
「先生、この船の招待客リストを借りてもいいですか?」
「なんだ? アリス……、んなもん見てどーすんだよ?」
「“漆黒の星”を所持している人が分かるかもしれません」
“最も相応しい人”というのがあたしの考えたとおりの人なら、それに該当する人物はこの船に一人しかいないはずだ。
それを確かめるべく、乗船者リストを持っている小五郎にお願いしているのだ。
「何っ!? 本当か!?」
「いや〜ん、やっぱり手品見た〜〜い♡」
「アホか! 手品なんかどーだっていいだろ!?」
でも、あたしは手品も気になってしまっていた。やっぱ、マジックショーとか気になるじゃない……。
「それでは、あなたの選ぶカードを予言しましょう」
真田は蘭が選ぶカードを予言するみたいだ。へぇ〜。当てられるのかしら? ワクワクするわね……。
「では、ハートのAという事で……」
彼が蘭の選ぶカードを予言すると、彼女は真田の手からトランプを1枚取る。
そして、そのトランプには――。
「えっ? こ、これは……?」
“クレオパトラに魅了されたシーザーのごとく私はもう貴方のそばに……”
なんと、蘭が手に取ったカードにはキッドからのメッセージが書かれていた。
場内は一気に騒然として、キッドが既にことを成し終えたような雰囲気が流れている。
なるほど。こうやって自分のペースに巻き込んで、人のスキを突くのが彼のやり方ってわけね……。
でも、ほとんど分かったわ。“漆黒の星”を持っている人も怪盗キッドが誰なのかも……。
――船は後10分で東京港につく。
中森警部は部屋から誰も出すなと指示を出しているわね……。
さてと、キッドが動く前にあたしが彼を止めないと……そう思って動いたとき――。
「あっ!? 真珠が……」
蘭の胸の真珠が床に落ちて転がった……。
「落ちましたよ。お嬢さん。――っ!? な、なんだっ!?」
それに気付いた客が拾おうとすると彼女の真珠が突然破裂する。
真珠の爆発に客が驚いていると次々とそれが転がってきて爆発が連鎖した。
やるわね。ここまでこの場を混乱させるなんて……。あえてスキを突くために彼と距離を取っていたのは悪手だったか……。
パニックに陥った客は次々と真珠を外すけど、爆発騒ぎは収まらない。
やがて、客たちは外に出ようと出口に詰めかける――。
「きゃっ!?」
そんな騒ぎの中、朋子は転んでしまい慌てて蘭が彼女を抱き起こした。
「あれ? ママの真珠は?」
園子は朋子の真珠がなくなっていることに気が付き声を出した。やはり、盗まれてしまったか……。
そう、本物の“漆黒の星”を持っていたのは――。
「キッドに“漆黒の星”が盗まれましたわ!」
今、悲鳴を上げている朋子だった。まったく、見事としか言えない手腕だわ。
でも、まだゲームは終わってないわよ。怪盗キッド……。
客たちは扉の警備を破りついに部屋の外へ逃げて行き、キッドも外に出たと中森警部は後を追う。
「蘭ちゃん。大丈夫?」
「アリスちゃん、私なら平気。びっくりしたね。どうやって怪盗キッドは“漆黒の星”を盗んだんだろう?」
「うん。それも含めて全部分かっちゃった。キッドの正体も何もかも」
あたしは蘭に怪盗キッドの手口と正体がわかったと伝えた。
中森警部は出ていったが、彼はまだこの近くにいるのだ。
「えーっ!? アリスちゃん、キッドが誰なのか分かったの?」
「しーっ……、声が大きいよ。それで、蘭ちゃんにお願いがあるんだけど……、ちょっと一緒に来てくれる?」
あたしは蘭の手を引いて機関室へと向かった。
よし、ここなら誰も来なさそうね……。都合がいいわ……。
「ちょっと、アリスちゃん。大丈夫なの? こんな、誰もいないようなところに来ても」
「ごめんね〜。人気がないところじゃないと話せなくてさ。間抜けなのよ。あたし……。朋子さんが本物を持っているって分かったのに、キッドに盗まれちゃったから」
あたしが朋子が“最も相応しい人”だということに気付いた瞬間にキッドは船内にパニックを起こして、朋子に近付いて彼女から“漆黒の星”を盗んだ。
指を咥えて見ていたあたしはなんて無能なんだろう……。
「えっ? アリスちゃん、分かってたの?」
「ええ。真珠の宝石言葉は“月”と“女性”。朋子さんの言う“最もふさわしい人”って名前に月の入った女性のことなのよ。で、名簿を見たら名前に月と入っている女性は船の上では鈴木朋子さんだけだったの」
そう。答えは呆れるくらい簡単だった。真珠の宝石言葉さえ知っていれば……。
「すごーい。よく気が付いたね。流石アリスちゃん。でも、キッドの正体も分かったって言ってたよね」
「新一!」
「へっ?」
「だから、あたしが“新一”って言ったら、“愛してる”って返すやつ。いつもの蘭ちゃんのリアクションはあんなもんじゃないのよ。もっとこう……、ハバネロくんみたいに顔を真っ赤にさせるわ。そこが可愛いんだから」
そして、あたしは違和感を蘭に語った。合言葉を決めるときにふざけて見せたのだが、どうもいつもの蘭と比べて淡白なリアクションだった。
顔を全然赤くしてなかったのである。
「えっ? そんな変なリアクションとらないよ〜。まさかそれで私がキッドだって言うの? アリスちゃん」
「まだあるわよ。さっきやったマジックはトランプを選ぶ直前にすべて予言したトランプと入れ替えて、どこから引いてもそのトランプになったっていうトリックなんだけど。実際にはメッセージカードが出てきた」
「そのメッセージカードを出せるのは真田さんしかいないような……」
あたしは先ほどの真田の手品の際にキッドがメッセージカードとトランプのカードをすり替えた話をした。
これを実行するにはキッドがトランプに触らなきゃならない。
「ううん。真田さんは朋子さんに指一本触れてないから……キッドじゃないわ。トランプにも朋子さんにも触れた人物が居るでしょ? ばら撒かれたトランプを拾ってあげたり、倒れた朋子さんを起こしてあげたりした人物が……。ほら、あなたのことよ……
様々な事実から浮かび上がること――それはキッドが蘭に変装しているってことだ。
彼女はトランプを拾う際に、トランプのうちの一枚を抜いてメッセージを貼り付けてあたかもそれを引いたかのように見せかけたのだ。
「そ、そんな。私じゃない。だって、私はその朋子さんのヒントだって聞いてないんだよ。本物を持っている人が誰かなんて分かるはずないよ」
「ところがそうでもないのよ。朋子さんは手袋をして手の油から真珠を守ろうとしていた。そもそも、三船さんみたいに真珠がデリケートと知っている人もいるけど、そんな大事なものを他人に預けるはずがない」
ヒントがなくても宝石に関する知識と常識的な考えがあれば朋子が本物を持っているという結論を出さざる得ない。
だって、真珠を扱うのって神経使うし、朋子は誰が本物を持っているのか知ってたのに、自分の真珠を丁寧に扱っていたんだもん。彼女が偽物を持っていたとは、考えにくい。
「でも、それだけじゃ……」
「証拠は不十分。でも、朋子さんが色あせた真珠を身に着けていたことから、それは確信に変わるはずよ。真珠の光沢はせいぜい数十年しか持たないの。だから60年前の真珠が今なお美しいはずはないのよ。米花博物館で光沢を放っていた真珠が偽物だと気付いたあなたは、予告状にわざわざ“本物”と書いて負けず嫌いな朋子さんに“本物”を持ってこさせたのでしょ?」
色あせた真珠を朋子は粗悪品扱いしていたけど、実際はその逆だ。
古い真珠は光沢が無くなっている。だから、キッドは博物館の展示物が偽物だとわかって挑発的な予告状を出したのである。
「もーう。アリスちゃんがそんなに疑うなら警察を呼ぼうか?」
「それはさせないわよ! ドライブシュートッ!」
あたしは博士に作ってもらった、どこでもサッカーボール射出ブレスレットからガスが入ったボールを出して、それを思いっきり電話に向かって蹴りつける。“キック力増強ハイヒール”なんてもんを無理言って作ってもらえて良かったわ……。
転けそうになっちゃったけど、電話は破壊できたみたい。
「あなたが消えちゃったのには、驚いたわ。でも、考えてみれば単純なトリックだった。あのとき閃光弾を使ったあなたは素早く警官に変装したの。沢山いる警官に紛れてしまえば、あたかもその場から消えたように見える。2度同じ手は使わせないわよ。ふふっ、批評家も捨てたもんじゃないでしょ♪」
「ったく。最初から俺を疑って変な合言葉を振ってきたのかよ」
あたしがキッドがあの夜に消えたトリックについて説明すると、彼はようやく素の声を聞かせてくれた。
「ううん。いつものノリだよ。蘭ちゃんの照れる顔を見るのがあたしの趣味だもん」
「そりゃあ、いい趣味をしてやがる……」
まぁ、蘭にキッドが化けていたのを疑ったのはあたしがいつものように彼女をからかったことが原因だから偶然なんだけど……。
「でも、あなたがあたしの近くにいるのは何となく予測出来たわ。だって、わざわざあたしの手元に予告状を送るなんてことしたんだもの」
「ちっ、少しカッコつけすぎちまったか。おらよ」
「あら、素直なのね」
あたしが蘭を疑った理由を付け足すと、ついにキッドは降参して、真珠をあたしに投げて返してくれた。
あー、良かった。これであたしや小五郎の面目が立つわね……。
「そうそう、この服を借りて救命ボートに眠らせてる女の子……早く言ってやらねーとカゼひいちまうぜ? 俺は完璧主義者なんでね♡」
彼は蘭を早く助けた方が良いと言って、下着を見せてきた。
うんうん。新一ですらブラつけるのには抵抗あったのに、躊躇わないのは凄いわね。
「いやーん。えっちなんだから」
「ふっ……」
キッドは閃光弾を投げつける。周囲はまばゆい光に包まれた。
「さてと……、あれ?」
「どこに行くのかな〜〜? 怪盗さん♪そういう手はもっと
あたしは予め準備しておいたサングラスをかけて、キッドの右腕を掴んだ。
まぁ、彼が女性に対して紳士なのは漫画の知識で知ってたから蘭が裸になんてされてないと確信したわけだけど……。
「よくお似合いですよ。お姫様……。用意周到でイラッとするくらい……」
「ごめんね〜。相手の失敗に難癖つけるのが探偵だから……許してね♡」
ここに来て、キッドはようやく焦ったような声色になった。
どうやら、あたしに腕を掴まれたのは彼にとって予想外だったらしい。
「この前言ったこと、根に持ってるんだな……」
「ううん。あたしはそういう探偵の仕事が好きだから。芸術家なんて肩こりそうだし」
別にエンターテイナーになるつもりはないし、難癖つける作業も楽しいから先日のキッドのセリフに腹が立った訳ではない。
でも、彼に探偵の執念深さを教えてあげたいとは思っていた。
「ははっ、こんなにやり辛い奴は初めてだぜ。やるよ。腕の一本くらい」
「へっ? 腕が千切れた〜〜!?」
キッドはおもむろに自分の右腕を左手で引っ張ると、腕が千切れて真っ赤な血が吹き出す。
あたしは呆気に取られて手を離してしまった。
「いい観客にもなれるじゃねーか。あばよ。お姫様♪」
その瞬間、彼は煙を大量に繰り出してその場から消えてしまう。
しまった。腕を掴んで完全に油断した――。
「今度は煙幕……、悔しい〜。もう少しだったのに、逃げられちゃった〜〜!」
結局、キッドには見事に逃げられてしまう……。あたしは地団駄踏んだけど時すでに遅しだ。
そして、蘭は救命ボートの中でキチンとドレスを着て無事だった。どうやら彼は事前にクリーニング屋さんに化けて蘭の着る服をリサーチしてたらしい。やっぱり、怪盗キッドを捕まえるのは容易なことじゃなかったか――。
「お手柄、女子高生探偵……怪盗キッドに完全勝利……か。もう、アリスと蘭だけ怪盗キッド様に会えてズルいわよ。どんな顔だったの?」
園子は新聞の一面を見ながらあたしと蘭だけが怪盗キッドに接触していたことをズルいって言ってきた。
ごめんね。捕まえる気満々だったんだけど……。
「私は眠らさせれて見てないけど、アリスちゃんはどうなの? 直接対決したんでしょ?」
「うん。若かったよ。もしかしたらあたしらと年齢変わらないかも」
「え〜っ!? それはあり得ないでしょう」
「じゃ、今度現れたら捕まえて証明してあげるわよ。負けたのが悔しいし」
キッドがあたしたちと同年代と言っても園子が信じてくれないので、あたしは彼女に次は彼を捕まえると宣言する。
こんなに悔しくなるとは思わなかった。
「新聞は完全勝利って書いてるけど」
「今回はあたしの負けよ。もっと早く確信を持つべきだったわ。蘭ちゃんの顔をよ〜〜く覚えなきゃ」
「……そ、そんなに見つめられると……、恥ずかしいよ」
あたしは蘭の表情だけで確信が持てなかったことを反省して、彼女の顔を間近で凝視する。
うん。やっぱり今日も可愛いわね……。
「この照れ顔なのよ。蘭ちゃんの真骨頂は! 目に焼き付けるわよ〜〜!」
「も〜〜う。止めてってば!」
「にゃはは、怒った顔も可愛いんだから♪」
真っ赤に頬を染める蘭の顔を拝みながら、あたしはもっとレベルアップしようと誓ったのだった――。
次回は和葉の初登場回でも書こうかと思います。
修羅場の予感……。