工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった   作:ストロングゼロ

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黒の組織との再会 前編

「あら、哀ちゃん。お友達と今帰り?」

 

「ええ、そうよ。あなたこそ、どうしたの? 学校は」

 

「ああ、今日は帝丹高校休みなのよ。何かの記念日で。だから、早めに買い物に行こうって思ってさ。哀ちゃん、風邪気味だったから生姜をたっぷり使った鳥団子スープでも作ろうかしら」

 

 平日だというのに高校が休みだったあたしは、探偵事務所も小五郎の麻雀の予定で休みだったので早めの買い物に出かけて、下校中の哀と鉢合わせした。あら、一緒に帰ってるお友達って……。

 

「ねぇ、灰原さん。こ、この人ってまさか藤峰愛梨寿?」

「間違いありませんよ! 彗星のごとく現れて、怪盗キッドをも打ち破る切れ味の鋭い推理で一世を風靡している女子高生探偵です!」

「この前もテレビに出てたよなぁ。おい、灰原、お前と知り合いなのかよ!」

 

 恐らく漫画で出てきたコナンのクラスメイトであろう、歩美、光彦、元太の3人があたしに気が付いて口々に哀に話しかけていた。

 コナンが居なくても、友達になってくれてたみたいね……。この子たちコミュニケーション能力ありそうだもん。ああ、良かった……。

 

「あたしと哀ちゃんは一緒に住んでるのよ。阿笠博士の家で。この子は妹みたいなものだから」

「ただの親戚よ……、親戚……!」

 

 あたしは哀の頭を撫でながら子供たちに彼女と同居していることを告げる。彼女は迷惑そうな顔をしてあたしの手を振り払いながら妹って言葉に過剰反応した……。

 

「えー、知らなかった。博士も教えてくれなかったし」

「これはニュースですね。まさか、身近に有名な探偵が住んでいたなんて」

「でもよー、実物はなんか頭良さそうに見えねーな」

「そう言われてみれば」「そうかも」

 

 元太から頭悪そうって言われて、歩美と光彦が同意した。

 ええーっ!? テレビの編集抜きにするとあたしって小学生から見ても、そんな印象なの……? そりゃないわよ……。

 

「あはは……、あたしって子供にまでバカそうに見えるのね……」

「その緩みきった表情のせいじゃないかしら?」

 

 あー、昔は先生によくヘラヘラするなって怒られたっけ……。あたしもコナンみたいに眼鏡をかけてみようかしら? ダメだわ……、眼鏡をかけたら賢そうに見えるって発想がもうバカっぽいもん。

 

 

 

「じゃあな!」

「また、明日!」

「バイバーイ!」

 

「気を付けて帰るのよ〜♪」

 

 少しだけ雑談して子供たちは帰路についた。あたしはとりあえず買い物を後回しにして哀と博士の家に戻ることにする。

 

「いや〜、哀ちゃんに友達が出来ていて良かったわ。お姉さん、安心しちゃった」

 

「……そうね。でも不安になるわ。私の存在があの子たちの日常を――」

「大丈夫よ。あたしがそんなことさせない。約束したじゃん。あなたを守るって」

 

 哀は自分の存在が他の人を傷つけることを恐れているみたいだ。

 だからこそ、あたしは黒の組織を許さない。彼女と出会ってから彼らをとっ捕まえてやろうという気持ちがさらに上がった。

 

「わかってないのね……。あなたはまだ組織の恐ろしさを……。――っ!?」

「どしたの? 哀ちゃん。そんな顔して……あの黒いポルシェに何かあるの……?」

 

 そんな会話をしてる折にふと、哀は歩みを止めて顔を青くする。

 黒いポルシェが止まっているけど……、それに反応してるのかしら?

 

「うーん。ポルシェ356A……50年前のクラシックカーというやつね。うわぁ……古っ……、完全に趣味の車じゃん。持ち主は出かけているみたい」

 

「ジン……、ジンの愛車もこの車なのよ……」

 

 あたしが新一の知識からこの車が相当な年代物だということ口にすると、哀はジンの車だと告げる。なんですって……それじゃもしかして連中はこの近くに……。

 

「へぇ、そりゃあ良いことを聞いたわ」

 

「なんで、笑ってるの?」

 

 あたしの口角が釣り上がったのをみて、哀は訝しそうな顔をした。

 だってラッキーじゃない。ターゲットがわざわざこっちに来てくれたんだから。

 

 

 

 

「アリスくん、言われたものを持ってきたが、一体何を?」

 

「サンキュー、博士。昔の車はこうすれば……」

 

 博士が持ってきてくれたハンガーとペンチと針金を利用してポルシェのドアを開ける。

 よし、上手くいった。さてさて、どこに仕掛けようかしら……。

 

「ちょ、ちょっと、あなた……、何するつもりなの?」

 

「えっ? 発信器と盗聴器を仕掛けるんだけど」

「バカなの? まだ、彼らの車だと決まったわけじゃ……。――っ!? ふ、藤峰さん、通りの向こうに――」

 

 あたしがガムで発信器と盗聴器を包み込み、助手席付近に仕掛けていると哀が通りの向こうにジンとウオッカを発見した。

 ビンゴじゃない。相変わらず目立つ格好してるから遠目から見えるのね……。

 

 

 

 

「ん? 車の周り、やけに雪が荒れてるな……」

「通行人が見てたんじゃないですかい? 兄貴の車……珍しいから」

 

「フン……ドイツのアマガエルも偉くなったもんだ……」

 

 なんか、ジンがウオッカに車を褒められて嬉しそうにしてた……。

 やっぱり、車好きって周囲の人に注目されると嬉しいもんなのかしら……。とりあえず気付かれないで良かったわ。

 

 

「さぁ、博士追うわよ。でも、ナンバー覚えられたら厄介だから車間は出来るだけ開けてね♪」

 

「無謀よ! あなた、何の準備も無しに組織に関わるのがどんなに危険なことか!」

「虎穴に入らずんば――だよ。哀ちゃん。ちょっと静かにしてね」

 

 博士に距離を取りつつ追跡メガネを利用して追いかけることを伝える。

 哀が危険とか言ってるけど、盗聴が出来ないからとりあえず黙って貰おう。

 

『ああ、オレだ……。どうだ? そっちの様子は。――なに? まだ来ない? ふっ、心配するな。ターゲットは18時丁度に杯戸シティホテルに顔を出す。テメーの別れの会にならとも知らずにな』

 

 ふむふむ、杯戸シティホテルで何かするつもりね。この口ぶりは十中八九――殺しでしょうけど。

 

『とにかく奴の手が後ろに回る前に口を塞げとの命令だ。ぬかるなよ、ピスコ。なんなら、例の薬を使っても構わねーぜ』

 

「ピスコ……?」

 

「そのコードネームなら耳にした事があるわ……。会ったことはないけど……」

 

 コードネーム、ピスコ……。そんな人、黒の組織に居たっけ? とにかく、ピスコって奴が殺しをするってことね。

 

『あ、兄貴……、何ですか? それ』 

 

『多分、発信器と盗聴器だ……』

 

「あれま、バレちった」

 

「な、なんじゃと!?」

 

 あちゃー、ジンのやつ……やるわね。こんなに早く発信器を見つけるなんて……。

 

 

「どうするのよ。追跡がバレたわよ。だから危険だって言ったでしょ。早く逃げなさい」

 

「うん。ジンを侮ってたことは認めるけど、このまま引き下がるつもりはないわ。連中、杯戸シティホテルで殺人を計画してた。それを潰すつもり」

 

 哀は逃げるように進言するが、あたしはこのまま殺人が起こるのを指をくわえて見過ごすつもりはない。

 幸い、奴らの会話から杯戸シティホテルで事が行われることがわかった。だから、あたしはそこを目指す。

 

「相変わらずの正義感ね。くだらない……。私は巻き込まれるのはごめんよ」

 

「もちろんよ。哀ちゃんはあたしと違って顔が割れてるもん。子供の頃の顔も知られてるし――。博士と一緒に車で待ってて、例の薬の情報くらい持ち帰るから」

 

「れ、例の薬……?」

 

「そう、例の薬――恐らくAPTX(アポトキシン)4869。ジンが匂わせてたからね。ピスコって人がそれを使用することを」

 

 もちろん、哀を巻き添えにするつもりはこれっぽっちもない。

 しかし、APTX(アポトキシン)4869の使用を匂わせる発言もあったし、あたしはこの機を逃すなんて考えられなかった――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「哀ちゃん、ホントに一緒に来るの?」

 

「考えてみたら、あなただけだと暴走して逆に危険だもの。それに……あの薬を作ったのは私だから」

 

「……あまり思い詰めないでね。開き直りも時には大事よ」

 

 哀はきっと薬の開発者としてこれ以上殺人にあれが利用されることを見過ごせないんだろう。

 正義感なんてくだらないとか言ってるけど……本当は優しい子だから……。

 

「……そんなことより、ここで合ってるの?」

 

「うん。ピスコに“別れの会”とか言ってたから、間違いないと思うわ。彼のターゲットもここにいるはず」

 

 哀がここで合ってるかどうかを聞いたこの場所は“巨匠を偲ぶ会”の会場だ。

 映画監督の酒巻とかいう人を偲ぶ人たちが集まっているんだって。さて、どうやって入ろうかな……。

 

「哀ちゃん、お願い……」

「仕方ないわね……。あー! ボールが転がって行っちゃったぁー」

 

「あらあら、ダメでしょ! 哀ちゃん、勝手に入ったら! おほほ、すみません。すぐに出ますので」

 

 哀に子供が勝手に会場に入って行った演技をしてもらって、あたしはそれを追いかける保護者のフリをして中に潜入する。

 コナンなら子供だから素通り出来るだろうけど、あたしが無策で通り抜けようとしても絶対に受付に捕まっちゃうもんね……。

 さて、ピスコってやつを探すわよ……。

 

 

「助かったわ。哀ちゃん」

 

「え、ええ……、こ、これくらい、な、なんでもないわ」

 

「ピスコが殺そうとしているのは恐らく――」

 

「うっ……、――はぁ、はぁ……。ううっ……」

 

 哀のおかげで容易に会場に入れたけど、それに伴うように彼女の顔色がみるみる悪くなっていった。明らかに精彩を欠いている……。

 

「ねぇ、やっぱり1回出ましょうか? いつもの哀ちゃんらしくないじゃない。どうかしたの?」

 

「……イヤな夢を見たのよ」

 

「イヤな夢?」

 

「彼らに見つかって、追い詰められ――あなたが撃たれる夢よ。そして、その後……私に関わった人間が次々と……」

 

 哀はあたしが死ぬ夢を見たらしい。この前、平次もそんなこと言ってたし……。

 人の夢の中で何でこんなにあたしは死ぬんだろう……。それで、そんなに不安そうな表情なのかぁ。

 

「ま、またあたし……人の夢で撃たれちゃったんだ。どんだけ危なかっしいって思われてるのよ……。ほら、これを付けて」

 

「追跡メガネ?」

 

「うん。これって凄いのよ。長年の幼馴染だってこれ付けられるだけで、近くに居ても正体に気付かないの」

 

 あたしは不安がる哀に追跡メガネをかけさせた。  

 この眼鏡はなかなか便利だし、正体を隠すにはもってこいのアイテムだ。

 

「何それ? 漫画かアニメの話?」

 

「まぁね。あたしの知ってる1番凄い探偵のお話よ。頼りにしてるわよ、哀ちゃん♡」

 

「…………うん」

 

 哀の背中を軽く叩きながら声をかけると、彼女は目を逸しながらコクンと頷いた。

 なんか、いつものリアクションと違うんだけど……。

 

「あり? 本当にどうしたのよ」

 

「別に……、そのサングラスと帽子似合わないって思っただけよ」

 

「仕方ないでしょー。割と有名人になっちゃったんだから」

 

 あたしが哀の顔を覗き込むと、彼女はツンとした表情でサングラスと帽子を深く被っている格好をディスってきた。

 今回は藤峰愛梨寿が関わっていることがバレたら面倒だから自衛くらいしなくちゃならない。

 

 哀ちゃんはいつもの感じに戻ってくれたわね……。

 

 

 

「彼女は直本賞受賞の女流作家、“南条実果”、彼はプロ野球の球団オーナーの“三瓶康夫”。それに、敏腕音楽プロデューサーの“樽見直哉”……アメリカの人気女優“クリス・ヴィンヤード”に有名大学教授“俵芳治”……、さらに自動車メーカーの会長の“増山憲三”って……経済界の大物まで来てるのね」

 

「そうそうたる顔ぶれね」

「なんつっても、“巨匠を偲ぶ会”だもん。あはっ、TVカメラまであるわね♪」

 

 おおーっ、会場の中は有名人だらけだ。TVカメラもあるし、ホントにこんなところでピスコは人殺しをしようと思っているのか。

 大胆なやつよね。薬を使うってやり方だったら、食べ物や飲み物に混ぜるっていうのもアリだけど……。

 

「あなたはこんな状況でも緊張感の欠片もないんだから……。それで、分かったの? ピスコが狙ってるターゲット」

 

「うん。ジンが電話で言ってた、18時前後にここに来て、尚且つ、明日にも警察に捕まりそうな人物は……今あそこでレポーター達に囲まれてる、あの人よ。きっと」

 

「なるほど、“呑口重彦”――今、収賄疑惑で新聞を賑わせてる政治家ってわけね」

 

 ターゲットを見つけるのは簡単だった。後ろに手が迫るっていうのは即ち逮捕されるっていうこと――つまり、収賄疑惑のかかっている“呑口重彦”議員がピスコのターゲットだろう。

 

「捕まる前に口を封じるってことは、あの政治家も組織の一員なのかな?」

 

「さぁ、どうかしら? 捕まればわかるんじゃない?」

 

 さすがに哀も組織のメンバーを把握しきれていないので呑口についてはノーコメントだった。

 とにかく、呑口をマークしよう。助っ人も、もうすぐ来ることだし……。

 

 

「ちょっと失礼しますよ」

 

「あ、あれは目暮警部」

「うん。あたしが呼んどいた。犯罪防止の抑止力にはなると思ってさ。あの政治家が殺されるかもしれないってね」

 

 警察がいるのといないのとでは、犯罪のやりやすさも全然違うだろう。あたしは会場に入る前に、呑口が会場に入るのを見かけていたので、予め目暮警部に一報を入れていた。

 殺人を未然に防ぐには、相手に諦めてもらうのが一番だ。目暮警部が牽制すればピスコも諦めるかもしれない。

 

「では、皆さん。酒巻監督が生前ひた隠しにしていたと言う秘蔵フィルムをスライドでご覧に入れましょう」

 

 アナウンサーの“麦倉直道”が、今からスライドを使うと口にした。

 あら〜、会場内が消灯しちゃったわね。こりゃ、何か嫌な予感がするわ。とりあえず、スライドの光だけが頼りね……。

 

「ちょっと、彼がいなくなってるわよ」

 

「嘘でしょ!?」

 

 哀の言葉であたしは呑口の姿が見えなくなったことに気が付いた。 

 あたしたちは呑口を探す。目暮警部たちもまた同じように探しまわるけど、彼の姿を見つけることは出来ない。

 

「――んっ? フラッシュ?」

 

 誰かがカメラのフラッシュ機能を使い、写真を撮ったみたいね。何を撮ったんだろう?

 

「この音は……何かしら? 上に向かっていくような……。――っ!?」

 

 フラッシュにアナウンサーの麦倉が反応したころ、変な音が上に向かっていくのを感じた。そして――ガラスの割れる音が響き渡る。

 な、何が起こったっていうの? 早く電気を付けてもらわないと何もわからない。

 

「明かりをつけろ!」

 

「……ありゃ、これは……ハンカチ?」

 

 明かりをつけるように叫ぶ声を聞きながら、あたしは頭の上にヒラヒラと落ちてきたハンカチを手にする。なんで、こんなものが上から……。

 

「……ようやく電気がついたわね。くっ……、まさかこんなことって……」

 

 会場の明かりが戻りーーあたしは目にする。呑口がシャンデリアに押し潰された状態で亡くなっているのを――。

 信じられないわ。警察が見てる中でこんな大胆な殺しをやってのけるなんて……。

 とんでもないわね。あの組織の連中は……。

 

 

 

「警視庁の目暮警部です! 皆さん、お静かに。そして、ここから離れないようにしてください!」

 

 目暮警部が大声を出して、会場内の人間に外に出ないように声をかける。

 いつもならあたしがしゃしゃり出て捜査に加わるんだけど、ピスコがどこに居るのか分からないので今は自重することにした。

 

「おい、どうだ……?」

 

「駄目ですね。もう息はありません」

 

「そうか……直ぐに、署に連絡してくれ」

 

 目暮警部は高木刑事に呑口の生死を確認させていた。やはり見た目どおり死んでいるみたい……。

 くっ……、みすみす目の前で殺されるなんて悔しいわ……。

 

「あんたらにしては、やけに来るのが早いな」

 

 そんな彼らのやり取りを見ていた球団オーナーの三瓶は事件が起きてすぐに目暮たちがいることに疑問を呈する。

 

「通報があったのですよ。呑口議員が誰かに狙われているとね」

 

 警部は三瓶に通報があったことを伝えた。まぁ、誰かというか。ピスコなんだけど……。問題はピスコが誰かって事よね。

 

 目暮警部の聞き込みによると、呑口の近くにいたのは女優のクリスと大学教授の俵。特に俵に至っては服が破れていることから、かなり際どいところにいたみたい。  

 そして、クリスは、不審な人物は見ていないとのこと。

 

 まぁ、どう見ても事故っぽいからプロデューサーの樽見って人が言うようにシャンデリアの鎖が古くなって切れてしまい、偶然にも下にいた呑口が死んだと考えるのが自然よね。

 

 だけどあなたたちをここから出すわけにいかないわ。今日殺される予定の人がたまたま事故死なんてあり得ないんだから。

 

「じゃが、殺人を示唆する通報があったんじゃろ? それはどうするんだね? 我々を詮索する前に、まずは通報者の事を詳しく教えて欲しいもんじゃ。もしかしたら通報者が犯人かもしれんからのう」

 

 自動車メーカーの会長である桝山はその通報者が犯人かもしれないと目暮警部にその通報者を明かすように求めた。

 まっ、彼にはあたしは別件で調査してることがあるということで、名前は伏せるように頼んでいるから黙ってくれたけど……。

 普段から彼に信用されるように頑張ってきて良かったわ……。

 

「天罰に決まってますよ。普段の行いが悪いから……」

「よく死体の前で食べられますね」

「フン……、肝の小さい若造は黙ってろ! ――っ!? ぺっ――! おい! シェフを呼べ!」

 

 こんなときに呑気に料理を食べていた三瓶は何か異物を口に含んだらしく、それを慌てて吐き出した。んっ……? あれはまさか……。

 

「これは……、シャンデリアの破片ね……。なんで料理の中に……?」

 

 あたしはハンカチを床に落として、それを拾うフリをしながらこっそりと三瓶が吐き出したものを拾った。ハンカチで包みながら……。

 これは犯人のトリックを解くための大きな鍵になりそうね……。

 

 

「殺人ならシャンデリアに何らかの仕掛けがないと変ですよね? しかしそれが見当たらないなら事故で決まりじゃないですか? わかったなら、私たちを早く解放してくださる?」

 

 あたしがシャンデリアの破片を回収した頃、警部たちは作家の南条に解放しろと迫られていた。確かに彼女のセリフは的を射ている。

 これは風向きが悪いわね。警部にはもう少し頑張ってもらいたいけど……。

 

「藤峰さん、引きましょう。私たちがいることが奴らに知られれば危険だわ。あなたなんて顔が割れてない優位がこの件で台無しになるかもしれないんだから」

 

「確かに危険は危険よね。――でも、ここでピスコを捕まえられればかなり安全になるんじゃない? 哀ちゃんの明日が……」

 

 哀は逃げたほうが良いとあたしの手を握りしめながら言った。

 でも、あたしはこんな危険人物を放置出来ない。それに哀の身の安全を考えるなら、このチャンスに組織の人間を捕まえておいたほうがいい。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、あなたが優れた探偵とはいえヒントがその鎖だけじゃどうしようもないんじゃない?」

 

「手がかりは2()()()()わよ」

 

「えっ?」

 

「このハンカチが落ちてきたのよ。シャンデリアが落下した後、明かりがつく前に……」

 

 あたしはさっき手に入れた紫色のハンカチを哀に見せる。これがシャンデリアの破片と同様にこの事件を解く鍵になるかもしれない。

 

「それがなんだって言うのよ。犯人の名前が書いてあるわけでもあるまいし」

 

「そうでもないわ。ほらこの祭典の名前が入った刺繍があるでしょ。実はこのハンカチはここで配られていたものなのよ」

 

 このハンカチの刺繍から会場で配られていた品であることがわかった。だから、招待客はみんなこれを受け取っている。

 

「ふーん。それが何なの?」

 

「よく周りを見て。他の客達の持つハンカチはそれぞれ色が違うでしょ? 色が違うのは、酒巻監督の代表作、“虹色のハンカチ”から来てるみたいなの。つまり、受付の人に聞けば、紫のハンカチを渡された人たちがわかるということよ」

 

 さらにこのハンカチの色は映画にちなんで7種類あるので、紫色のハンカチを受け取った人に限定して調査すればかなりに人数が絞れるはずだ。

 一気に容疑者が1/7になるのだから、それだけで大きな前進ってわけ。

 

「でも、それは本当に、あの殺人に関係してる物かどうかなんて……」

 

「もちろん、まだ何に使ったかも、犯人のものかさえも分かない。でもね、あたしは事件に関わっているってかなり確信をもっているわ」

 

 哀はハンカチが犯行に関係あるのか懐疑的だけどあたしはこの推測にそれなりの自信があった。

 

「どうして?」

 

「これね、あたしの頭の上に落ちてきたのよ。哀ちゃんの頭の上なら誰かの手元から落ちてきた可能性もあるけど、あたしの背丈で頭の上に落ちてきたのなら……」

 

「かなり高い位置から落ちてきた可能性が高いわね」

 

「そして、被害者も頭上から落ちてきたシャンデリアに押し潰されて死んでいる……。どう? 何の関わりもないって考える方が不自然じゃない?」

 

 そう、ハンカチはあたしの頭に落ちてきたのなら、高い位置から落ちたということになる。

 つまり、誰かが誤って落としたという線はないのだ。ハンカチが頭に落ちてきて、それとほぼ同時に……シャンデリアが天井から落ちた。

 この因果関係こそ、この事件の核心なのではとあたしは推理してる。

 

「いつもいつも、知らないうちに真相に迫っているんだから。そのクールな顔がずっと続いて欲しいものね。ところで、ここから出て受付まで行けないでしょ? 容疑者候補はここにいる全員なんだから」

 

「まぁ、気が進まないけど……目暮警部に何とかしてもらうわ。哀ちゃんはなるべくあたしの近くから離れないようにして隠れてて」

 

 この会場は警察によって外には簡単に出られなくなっている。トイレと言って出ることは出来るが、招待客ですらないあたしがそれを言うのはリスキーだ。サングラスに帽子という格好も怪しいし……。

 こういうときは子供の体が羨ましくなる。

 

 やはり、目暮警部に頼むのが一番無難だろう……。

 

 

「呑口議員が亡くなられたのは本当ですか!」

「事故死だと聞いたのですが! どうなんですか!?」

「あ、後で答えますから……」

「早く教えて下さい!!」

 

 あたしが警部に近付こうとしたとき、会場の扉が開いて記者たちが騒いでいて警察の制止を振り切ろうとしていた。

 うはぁ……、こりゃ警部たちも押さえるの限界だろうなー。

 

「ど、どうします? 警部……」

「うむ、どう見ても事故にしか見えんし……ひとまず帰すか……」

 

 困り顔の高木刑事が目暮警部に話しかけて、彼も会場内の人たちを帰そうと言い始めていた。まぁ、この状況なら仕方ないけど……。

 

「警部……、それなら条件に当てはまる人を除いて帰してあげてください……」

「そ、その声はアリ……むぐっ……」

 

 小声で警部に話しかけると、彼があたしの名前を口に出そうとしたので、咄嗟に彼の口を塞いだ。危ない、危ない……。

 

「すみません。あたしのことは他言無用で……。容疑者が絞り込めましたので、今から話す条件に該当する人たちを事情聴取してくださいませんか?」

「わ、わかった……それで、その条件は?」

 

 目暮警部にあたしは受付で紫色のハンカチを渡した人物のみを事情聴取するように手短に話した。

 恐らく容疑者はその中にいるからだ。人数を絞れば、それだけ監視しやすくなるし……。

 

「紫色のハンカチだな。承知した。高木くん!」

「今から受付で聞いてきます! ――って、うわっ!」

 

「日売テレビです! 事故のときどこにいましたか!」

「状況を詳しく教えて下さい!」

「この事故についてわかることを話してください! お願いします!」

 

 高木が受付のところに向かおうとしたとき――記者たちが扉の前の制止を振り切って会場内になだれ込んできた。

 困ったわね……。せめて哀だけでも外に連れ出した方が良さそうだわ……。

 

「これは……、一度退散したほうが賢いわね。哀ちゃん、出るわよ。――あれ?」

 

 記者たちが大勢入ったこの状況であたしは哀を見失ってしまった。

 ちょ、ちょっと……、どこに行ってしまったのよ……。

 

「哀ちゃん! 返事をして! 哀ちゃ〜〜ん!!」

 

 何ということだ……。哀が会場から忽然と消えてしまった。

 あたしは猛烈に嫌な予感がしながら彼女を探したが見つからない。

 

 黒の組織との本格的な死闘が始まった――。

 

 




コナンのボディのほうが潜入に向いてるし、メディアに出てるアリスはこういうとき不利だというお話です。
次回は大人バージョンのシェリーさん、初登場!
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