工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった   作:ストロングゼロ

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黒の組織との再会 後編

「哀ちゃん! 哀ちゃん! ねぇ、聞こえる!?」

 

『ふ、藤峰さん? どこにいるの?』

 

「ホテルの前に停めている博士の車の中で、追跡メガネを介して交信してるのよ」

 

 あたしは会場内が混乱してきたので、警部に容疑者たちのことを任せてホテルを退散し、博士の車から哀に交信をし続けていた。

 よーやく、彼女の声が聞けて少しだけ安心したわ……。

 

『私……、どーしたの?』

 

「落ち着いて、よく思い出してもらえる? 目暮警部に話しかけている時に、あなたがどうなったのかを」

 

 どうやら哀は記憶が混乱しているらしく、自分の置かれてる状況もまだ把握してないらしい。

 あたしは彼女に冷静になるように声をかけて順を追って話してもらうことにした。

 

『ああ……そういえば私……、記者がなだれ込んで来て、あなたを見失って……それから誰かが後ろから……。あっ――!?』

 

「後ろから……どうしたの?」

 

『誰かに薬を嗅がされて、どこかの酒蔵に監禁されているみたいよ……』

 

 哀は会場が慌ただしくなった混乱の中で何者かに捕まって酒蔵に監禁されていると告げる。

 監禁した人物が誰なのかは想像するに容易い。

 

「誰かにって……まさか!?」

 

『ええ、恐らく警察の監視下で殺人をやってのけた組織の一員……ピスコ!』

 

「やっぱり……。状況はわかったわ。それで、ピスコは近くにいるの?」

 

『いいえ、今は誰もいないわ。扉にはしっかりと鍵がかかってるけどね……』

 

 ピスコは哀の監禁場所である酒蔵にはいないみたいだ。

 哀にもう少し詳しく様子を聞くと、残っているのはダンボール箱と清掃員のツナギ。どうやらピスコはトイレに用意していたダンボール箱に彼女を入れツナギを着て、ここに連れてきた可能性が高い。恐らく、会場で呑口を殺しそこねた時はトイレで殺害する予定だったのだろう……。

 

「わかったわ。まずはその酒蔵からの脱出方法を考えましょう。大丈夫よ、落ち着いて考えれば必ず――」

『いい? 藤峰さん。よーく聞いて。私の体を幼児化させてあなたを性転換させたAPTX(アポトキシン)4869の“アポト”は“アポトーシス”……つまりプログラム細胞死のこと。そう……、細胞は自らを殺す機能を持っていて、それを抑制するシグナルによって製造してるってわけ』

 

「ふえっ? 哀ちゃん?」

 

 哀と一緒に脱出方法を考えようと提案しようとすると彼女はいきなり科学の講義を始めた。

 いやいや、そんな話は今いらないでしょーが。

 

『ただ、この薬はアポトシースを誘導すだけじゃなくテロメアザ活性も持っていて、細胞の増殖能力を高め――』

 

「ねぇ、哀ちゃん。そんなことより、今は脱出を考えるべきでしょ?」

 

『いいから! 黙って聞きなさいよ! ――もう2度と、もう2度とあなたと言葉を交わすことなんてないんだから……』

 

 あたしが哀に薬の話を止めるように声をかけると、彼女はもう話すことが出来なくなるから話しているとか言ってくる。まさか、哀は――。

 

「正体がバレたから……ってこと? 哀ちゃんを監禁してる奴は幼児化してもあなたに気付いたから……」

 

『そうよ。例え、ここから脱出出来たとしても2日も経たないうちに彼らは私を見つけるわ。そうなれば、組織はあなたも博士も私と関わった全員を殺す。だからもう、私はここから脱出しようがあなたには会えないの。せめて私が生きている間に私が知ってる薬の情報をあなたに教えるわ――。あなたは私にとって最後に出来た大切な人だから……』

 

 哀の言葉には悲壮感と覚悟が込められていた。

 組織の恐ろしさを嫌というほど知っているからこそ、彼女はあたしに自分の知識を出来るだけ伝えてくれようとしてるのだろう。

 

「あ、哀ちゃん……。――あのさ、さっきから気になってたんだけど、あなたの後ろの方で鳴ってる電子音って博士の作ったゲーム?」

 

 しかし、あたしはその前に気になっていることがあった。

 ピコピコと哀のセリフの隙間から電子音が聞こえてきたからだ。

 

『こんなときに、どうでもいいことを聞くわね。学校で円谷くんから返してもらった博士のゲームが入ったMOを持ってたからそれをピスコがパソコンで中のデータを調べていたのよ。パソコンに携帯がケーブルで繋がっているから――ああ、やっぱり私の顔を検索したんだわ』

 

「えっと、哀ちゃんは今は縛られたりはしてないのね?」

 

 哀がパソコンを触っていると聞いてあたしは彼女が拘束されてないことを知った。

 ピスコは哀を縛ったりしなかった――これが意味することは大きい。

 

『だから急いでるんじゃないの。彼等が長時間、私を縛りもしないで放って置くわけがないから――』

「ううん、ピスコは戻らないわ。あと一時間くらいは……」

 

 ピスコが戻るまでまだ余裕があることを哀に伝える。だって奴はあたしの仕掛けた網に引っかかってくれたのだから。

 

『ど、どういうこと?』

 

「あたしが警部に頼んだのよ。紫のハンカチをもらった人を事情聴取してホテルから出さないようにしてって。あの後、警部に聞いたんだけど、紫のハンカチをもらって会場に残っていたのは7人。つまり、その中にピスコが居たってこと――」

 

 あたしは彼女にピスコが置かれた状況を手短に説明した。

 哀が拘束されてないことと携帯に繋ぎっぱなしのパソコンの状態から推測すると、恐らく哀を監禁した奴は何かの目的でちょっとだけホテルから出ようとした所を出口で刑事に止められ事情聴取を受けてる。

 

 しかも、奴は今、外部との連絡が取れないでいる可能性が高い。だって哀がいなくなってから、もう1時間近く経っているのに仲間が現れていないんだから。

 この状況から導き出せる答えは単純。紫のハンカチを持っていた7人の中にピスコはいる。

 

 その7人とはすなわち紫のハンカチを持っていた――“南条実果”、“三瓶康夫”、“樽見直哉”、“クリス・ヴィンヤード”、“俵芳治”、“枡山憲三”、“麦倉直道”の7名のことだ。

 

『じゃあここはまだ杯戸シティホテル内ってこと?』

 

「そのとおり♪だから、あたしがちゃっちゃとピスコが誰か見抜いて殺人の証拠さえ挙げちゃえば、奴は警察に捕まる。つまり、哀ちゃんは助かるってことよ」

 

 まだ、1時間ある。その間にピスコの正体を掴んで警察に捕まえてもらう。これで哀を助けることができるはずだ。

 

『それができるの?』

 

「当然! あたしだっていつまでも名探偵の助手止まりじゃないんだから。安心しちゃって大丈夫よ♪だから――2度と言葉を交わせないなんて、寂しいこと言わないでよ。あなたはあたしにとっても大事な人なんだから。……あたしを信じて――哀ちゃん……!」

 

『いつもそうやって甘いことばかり言って……。期待せずに待っててあげるわ』

 

 あたしだって、通常では考えられないくらい殺人事件の現場で犯人と対決した経験がある。

 その経験はちゃんと自分の中で蓄積されているんだ。

 

 だから、今日だけでも良いから――あたしは名探偵になる……!!

 

「うん! じゃあ哀ちゃんは脱出する方法を考えてみて!」

 

 しかし、ことは簡単じゃない。助けを呼べば助け出した従業員が組織に狙われたりして無事ではないということで、哀は助けを呼ぶことを拒んだのだ。

 

「じゃあ自力でなんとかそこから脱出する方法を見つけるしかないけど、脱出できそうなところとか見当たる?」

 

『あるのは古びた暖炉くらい――こんな体じゃなきゃ、手足を突っ張って登れそうだけど……』

 

「こんな体じゃなきゃ……ああーっ! そうだ! 哀ちゃん、パイカルっていう中国酒ってそこにあるかしら? 酒蔵なんでしょ?」

 

 そういえば、哀ちゃんは風邪気味だった。あの外交官の人が殺された日のあたしと同じで……。

 背丈の問題はパイカルがあれば何とかなるかもしれない。

 

『…………ちょっと待って。ええ、あったけど……パイカル。こんなものどうするのよ?』

 

「それを飲めば、一時的に元の体に戻れるわ」

 

『はぁ? あり得ないでしょ。そんなの』

 

 哀は酒を飲んで元に戻れる話を信じようとしなかった。

 そりゃあ、科学者なら尚更信じられないわよね。

 

「あたしはそれを飲んで新一の体に戻ったの。まぁ、その逆を見られて平次に秘密がバレたんだけど」

 

『ああ、そういえば関西の探偵って人があなたの正体を知ってたわね。そういう経緯だったんだ……。にわかに信じられないけど……試してみるわ……』

 

「効果が出るまで少し時間がかかるわよ。体調も悪くなるから、逃げる準備だけはしていてね」

 

 あたしが平次に正体がバレた経緯とこんな嘘をつくはずがないと考えた彼女は素直にパイカルを飲んでくれた。

 早く体の大きさが戻れば良いんだけど――。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

『いませんぜ、ピスコのヤツ。30分後に落ち合う段取りなのに音沙汰ねーし、発信機を頼りに来てみればパソコンはあるものの、奴の姿はどこにもねぇ。一体、何処に消えちまったんだか。――大体、なんなんですかい? この酒蔵』

 

『恐らくピスコが、念のために確保しておいた部屋だ。会場での殺しが失敗した場合、どっかで殺った後、ここへ運び込むつもりだったんだろうよ』

 

『とにかく、早くずらかった方が良さそうですぜ、兄貴』

 

『ああ、そうだな……』

 

 危なかった〜〜。もう少しでこいつらに哀が見つかるところだった。

 哀は体が元に戻るまでの間、必死でMOに薬のデータを転送しようとしていた。薬のデータを閲覧するためのパスワードが“SHERRING FORD”というコナン・ドイルがシャーロック・ホームズと名付ける前の仮の名前という推測が当たってて良かったわ。

 “出来損ないの名探偵”ってこの薬は呼ばれてたみたいだから、新一の記憶を辿って思いついたんだ。

 

 そんなことをしていると、哀は大人の体に変化する前兆がきて苦しみだす。

 さらに間が悪いことにパソコンに付けられていたらしい発信器が反応しないことを訝しく思ったジンとウオッカが酒蔵に向かっていく姿を確認した。

 

 そして、間一髪――哀は元の体に戻り、暖炉の中をよじ登って身を隠すことに成功したのだ。

 

「哀ちゃん、服着てる?」

 

『ええ、清掃員のツナギがあったでしょ? これを着てるわ。データが入ったMOも持ってる』

 

 哀は冷静だった。元の体に戻って素早く着替えて暖炉の中に隠れたのだから。

 これで煙突を登って外に出られそうね……。

 

「さすがね。じゃあ、焦らずに慎重に脱出して。あたしも何とかなりそうだから」

 

『まさか、ピスコが誰だかわかったの?』

 

「うん。まぁ、一応最初からこの人っぽいなって思ってたから。今は確信を持てたわ。まさか南条と樽見があんなことしてるなんて思わなかったけど、おかげで謎はすべて解けた」

 

 あたしは事件が起こって目暮警部が捜査を開始したあたりで目をつけていた人物がいた。

 犯人だからこそ、変なことを口走った()()()は最初から怪しかった。

 南条と樽見があの暗がりの中で抱き合っている写真を見てようやくあたしは()()()が犯人だと確信できたのである。

 

『ふふっ、今日はいつにも増して冴えてるじゃない』

 

「哀ちゃんのためだからね。このハンカチに付いている焦げ目と料理の中に入っていたシャンデリアの破片はやっぱり重要な鍵だったわよ。じゃあ、あとで落ち合い――」

 

 あたしが手に入れた2つのヒントはやはり犯行を裏付ける重要なアイテムだった。

 これでピスコの正体がわかったので奴を追い詰めることができる。犯人の落とし物には重要なヒントが眠っていることが多いわね。

 

 ん? 落とし物――?

 

 そういえば、哀ってジンの車とか知ってたってことはそれなりに親しかったのかしら……。

 彼はとんでもないスピードで発信器を見つけた。大した観察眼だと思う。抜け目がない……。

 

 そこまで考えたとき……背筋が寒くなった気がした――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ほ、本当? 警部……、本当に()()()は紫のハンカチを持っていたんですか?」

 

 ピスコを逮捕してもらうために、あたしは警部に電話をしたが彼からの返答は思いもよらないものだった。()()()は既に警察の手を離れていたのである。

 

『ああ、済まないが解放せざる得なかった。それより事件の真相がわかったと言っていたが――』

 

 くっ……、誤算だったわ。あたしが()()()の紫のハンカチは持っているから、それで時間を稼げると思ったのに――。

 

「ごめんなさい、警部! あとでまた連絡します! 博士、あたしは哀ちゃんのところに向かうわ! あとよろしく!」

 

「お、おい! アリスくん!」 

 

 あたしは走り出した。哀が危ない……! なんてことだ……誤算だったわ……。

 とにかく彼女を何としてでも守るんだ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄貴、本当にシェリーの奴は来るんですかい?」

 

「ああ、間違いない。髪の毛だ。見つけたんだよ。暖炉のそばで、奴のその赤みがかった茶髪をな。ピスコにとっ捕まったんだか、やつがいない間にあの酒蔵に忍び込んだのか知らねぇが、聞こえてたぜ。暖炉の中から、奴の震えるような吐息がな」

 

 哀が監禁されていたのはホテルの旧館の物置にされている一室だった。

 そして、あたしはその屋上の出入り口で身を隠しながらジンとウオッカを確認する。

 

 やっぱり、髪の毛が車の中とか物置に落ちていて、それをヒントに哀の存在に気付いてたのね。

 

 彼女とあたしは博士の家の地下を私室としていて掃除とかも交代でやってるんだけど、哀は代謝が良くなっているのか髪の毛が部屋の中に結構たくさん落ちてたりする。

 だから少しだけしか滞在してなくても髪の一本や二本落としている可能性があった。

 

 つまりジンくらいの観察眼なら既にあのとき、哀が暖炉に潜んでいることに気付いていたかもしれないと思ってしまったのだ。

 

 敢えて暖炉を探さずに泳がせたのは彼女が煙突を登って来ることを予測して、ここで仕留めたかったからだろう。尋問をしながら……。危なかった――一歩間違えたら哀が殺されていた。

 

 ピスコの足止めが出来ると思ったあたしはジンとウオッカの待ち伏せのリスクを回避する方が良いと考えて、彼女に物置に戻るように指示を出したのだ。

 

「それじゃあ、何で暖炉で始末しなかったんでやすか?」

 

「薄汚れたあの暖炉の中でやってもよかったんだが、せめて死に花ぐらい咲かせてやろうと思ってな」

 

You are a romanticist. It was unexpected(意外とロマンチストなんだな)!」

 

 あたしは変声機で声を渋いオジサンっぽい声に変えて英語で話しかけた。

 理由はその方が勝手に敵を想像しそうだったからである。

 

「誰だ!?」

 

I'm sorry, she won't come(悪いけど、彼女は来ないぜ)! 地獄への列車からは途中下車してもらったからな! ようやく食い付いてくれましたね。彼女を餌にした甲斐がありましたよ!

 

 そして、変声機を駆使して次々と声色を変えてこちらの人数を多く見せかけようとした。

 簡単にコチラに近づけさせないように……。

 

「まさか、FBIかCIA……!? ちっ、踊らされてたってわけか……!」

 

「シェリーのバックにそんな連中がついてたってことですかい?」

 

「動揺するな。撃たないで隠れているところを見ると銃は持ってねぇみたいだ。背を向けずに一人ずつ消せばいい」

 

 しかし、英語とか人数を多く見せようとかそんな子供騙しに引っかかるジンじゃない。

 お構いなしに声のする方に近づいてくる。

 

「くっ……」

 

「そこだ! だ、誰もいねーだと!? うっ……!」

 

 ジンが銃を向けた場所にはスピーカーを仕込んでおり、そこから音声が流れるようにしていたのだ。ふぅ、声をかける前にこっそりと前もって投げて置いたけど、雪がクッションになって音を消してくれたから助かったわ……。

 

 ジンが銃を向けたので、その腕を麻酔銃で狙い撃ちにしてやった。彼はうめき声を上げて膝をつく。

 

「てめー、やりやがったな!」

 

「シュートッ!」

 

「――ぐあッ! 銃がッ!」

 

 膝をついたジンを見て、怒り狂ったウオッカが銃を撃ちながら、あたしがいる屋上から下に向かう階段の方まで走ってきたので、即席のサッカーボールを彼の銃口めがけて蹴りつける。

 割れやすくなっているサッカーボールはウオッカの銃を吹き飛ばして四散する。あたしはそのまま彼らを放置して退散した。

 

 よし、あとはピスコから哀を守らないと――。

 

 

 

 

 

「素晴らしい。君はまだ赤ん坊だったから覚えちゃいないだろうが、科学者だった君の御両親と私はとても親しくてね……。開発中の薬のことはよく聞かされていたんだよ……。でもまさかここまで君が進めていたとは……。事故死した御両親もさぞかしお喜びだろう……」

 

「…………はぁ、はぁ。あなたがピスコだったのね」

 

「そうだよ。君にはこれから死んでもらう。これも命令なんだ。悪く思わんでくれよ――志保ちゃん」

「そこまでよ! 桝山さん。それとも、ピスコって呼んだ方がいいのかしら?」

 

 ここは哀が監禁されていた物置――。

 体のサイズが元に戻り、体調を崩している哀にちょっかいをかけているのは自動車メーカーの会長である桝山。

 そう、ピスコの正体は彼だったのだ――。

 

「――っ!? だ、誰だ!」

 

「あなた、最初から怪しかったのよね。あなただけよ、通報というワードに過剰反応して目暮警部からあたしの身元を探ろうとしたのは……。そりゃあ気になるわよね。組織の人間としても、殺人事件の犯人としても、自分の犯行を警察にチクったのは誰なのか……」

 

 組織の作戦がバレていたというのは彼としても想定外だっただろう。だからこそ気になってしょうがなかった――通報者が誰なのか……。

 全員が事故か殺人か……を論じてる中でそんなところを最初に気にしていた彼にあたしは違和感を感じていた。

 

「上手く吞口議員の頭上にシャンデリアを落として事故に見せかけたつもりだろうけど、そうはいかないわよ。あれはあんたが落としたのよね? サイレンサー付きの拳銃を使って……」

 

「どこだ! どこにいる!?」

 

「目印は、あらかじめシャンデリアの鎖に付けておいた蛍光塗料ね。スライド上映で会場内が暗くなれば、その光が浮かび上がるって寸法よ。もちろん、そのまま発砲すれば銃口から火花が出て周りの人に気付かれちゃうけど、ハンカチをサイレンサーの先に被せれば、発砲と同時にハンカチが吹っ飛び、火花を隠してくれるという理屈」 

 

 キョロキョロとあたしのことを探しているピスコにあたしは彼が呑口を殺したトリックの解説をする。

 焦げ目が残ったハンカチやシャンデリアの破片のおかげでこのトリックは看破できた。

 

「酒巻監督を偲ぶ会のハンカチを使ったのも、後で回収しなくても足がつきにくいって思ったからでしょうけど、不運ねぇ……。あの紫のハンカチを貰った客は、すでにほとんど帰っちゃってたから、容疑者はたったの7人だけになったんだもん」

 

「シャンデリアの真下に居て、鎖を狙えないクリスさんと俵さんはシロ、証拠の鎖を口から吐き出した三瓶さんと司会で客に注目されていた麦倉さんも違うわよね。事件直前に抱き合っていた樽見さんと南条さんはあり得ないでしょ。つまり、あの会場であの犯行を成しえる事ができたのは、桝山さん、あなただけなのよ」

 

「そこか! ――す、スピーカー?」

 

 あたしが桝山を犯人だと特定した理由を話したとき、彼の放った銃弾が木箱に当たり、お酒がこぼれた。

 そう、その箱にはスピーカーが仕込んでいる。

 

「ちなみに吞口さんがシャンデリアの下に来たのは、その真下の床にも蛍光塗料を塗っていたからね。逮捕寸前の彼に、挽回のチャンスをやるから明かりが落ちたら光る場所で指令を待て、とでも脅しをかけたんでしょう? 違うかしら? ピ・ス・コさ〜〜ん♡」

 

「誰だ、何者なんだ! お前は!」

 

「藤峰愛梨寿……探偵よ! ついでにこの子の騎士(ナイト)ってところかしら」

 

 あたしはピスコと対峙した。後ろにいる哀の盾になりながら……。

 この男が哀を酷い目に遭わせようとしたのは許せない。

 

「き、貴様は……あの、女子高生探偵の……! だから、警察の取り調べがあそこまで執拗だったのか……、信頼の置ける筋の情報だったから……!」

 

「ふふっ、あたしのことを知ってるなら警察と密に繋がってることも知ってるでしょ? 上の2人も警察に捕まっちゃった頃だろうし――教えてもらおうかしら? どうしてあなたが取り調べ中にあの紫のハンカチを持っていたのかを。だから警部はあなたを解放しちゃった。一体あのハンカチは……」

 

 たった一つだけ……分からなかったのは彼が紫のハンカチを持っていたことだ。

 それさえなければ、ピスコは警部に任せて哀を救出して終わりだったのに……、彼は解放されてしまった。

 

「ハッ、世の中には知らなくってもいいこともあるんだよ。それに状況をよく見ろ。警察なんか呼べやしない」

 

「ピスコ、あなたこそ観察力不足じゃないかしら? よく自分の足元を見なさい。その水たまりは――“スピリタス”アルコール度数96%の強〜〜いお酒なんだから。さて、アリスちゃんからの問題で〜す♪そんな酒が気化してる側で煙草なんか吸ってるとどうなるでしょうか〜〜? 正解は〜、このあとすぐ♪」

 

 タバコをのんきに吸いながら余裕ぶっこいている彼を見てあたしは作戦を考えた。

 度数の高い酒瓶を彼に割らせることで気化したアルコールが彼の周りに立ち上る。

 

 そして――またたく間に火の手が上がった!

 

「おい、小娘、どこだ、出てこい。くそっ!」

 

 火事になれば当然警察が駆けつける。警部には桝山が犯人だということは伝えた。

 もうあたしの出る幕はない。哀を抱きかかえてここを脱出する――。

 

 

 

 これで一気に組織の連中を3人も捕まえられたはず――そう思ってたんだけど……。

 

 

 

 

「うそっ!? ジンがピスコを射殺したの!?」

 

「あぁ、哀くんが暖炉に置き忘れたメガネから会話を聞いとったんじゃが、射殺後またすぐに煙突から逃げて行ったようじゃ」

 

 変ね、麻酔銃で撃たれて動けるんなんて……。どうやって動いたのかしら……。

 眠ったら警察から逃れられないと思ってたのに……。

 

「それで? バレちゃったの? 私の体が小さくなったこと」

 

「いや、バレとらんようじゃ。安心せい」 

 

「じゃ、安心して暮らせるわね。哀ちゃん」

 

 ジンとウオッカに逃げられたのは痛いけど、哀の秘密がバレなかったのは不幸中の幸いだ。

 これで彼女が一緒に暮らせないとか言わなくて済む。

 

「バカね、私がこの町に潜んでいると知られた以上、もうあなたたちの側にはいられないわよ。ツナギに入れておいたあのMOも燃えてしまっただろうし。もう、私がここに留まる意味も――」

「あるわよ。あたし、哀ちゃんが居ないと寂しいもん」

 

 でも、哀はジンたちが自分のいる町を知ってしまったからには側に居られないとか言ってきた。

 MOのデータなんてどうでも良いから、あたしは彼女と居たいのに……。

 

「寂しいもん、じゃないわよ。聞き分けが悪いわね。私は嫌なの。何よりもあなたに迷惑をかけるのが」  

 

「あたしは哀ちゃんからだったら、いくらでも迷惑かけられてもいい。それに、大丈夫よ。ジンって奴があなたの性格を知ってるなら、この町を探すなんて無駄なことしないだろうし」

 

 ジンはきっと哀の性格ならこの町を危険だとして出ていくと予測するだろう。

 その思考をさらに発展させるために海外の人間が彼女のバックにいると匂わせたし……。

 

「なんで、ジンが私の性格をよく知ってるってあなたは言い切れるの?」

 

「ん〜? 女の勘ってやつ?」

 

「はぁ?」

 

「冗談よ髪の毛一本であそこまであなただと見抜いて、その後の行動パターンも見事に予測した彼があなたのこと知らないはずがないって思っただけだから」

 

 もしかしたら、薬のことを気にして杯戸シティホテルに哀が来ることからジンは読んでいたのかもしれない。

 たった一本の髪の毛でそこまで予測することが出来るジンはこの町を探すのは無駄だと判断するだろう。

 

「なるほど、そういうことなら安心できそうじゃのう」

 

「でも、ごめん。哀ちゃん……。守るって言ったのに、危険な目に遭わせてしてしまって……、あたしがもっと……」

 

 危険な目に遭って運が悪かったら殺されてたかもしれない。もっとちゃんと状況を判断していれば監禁されることもなかっただろう。

 

「なんで謝るのよ……。あなたのおかげで怪我もなく生き残れた。だから……、ありがと……

 

「えっ? 何か言ったぁ? ごめん、よく聞こえなかったんだけど」

 

 彼女にあたしが謝罪すると、哀は小声で何かを言った。

 もっと大きな声で言わなきゃ、わからないじゃない。

 

「な、何でもない……」

 

 頬を桃色に染めてプイと顔を隠す彼女。どうしたんだろう……。

 

 後日、ピスコの関わっていた会社とか呑口の家族が粛清されていた。

 やはり組織は危険な存在だ。油断したらあたしも危なかったのだろう。

 でも、連中と戦うことを諦めるわけにはいかないわ。次に対決するときはもっと爪を研いでおくから……覚悟してなさい――。

 

 

 




今回のアリスは覚醒していたので、いつもよりも鋭くなっていました。
髪の毛の件は同居してるからこそ気づいていて、男女の仲を疑ったりしたのも女性ならではの勘という解釈をしていただければと思います。
原作では灰原が「えっち」っていうシーンが好きですが、ここではセリフを変えざる得なかったのが残念。

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