工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった 作:ストロングゼロ
「学園祭楽しみだね〜」
「う、うん。でも、本当に私なんかがヒロインで良いのかな? アリスちゃんにやって欲しいって人、多かったのに」
「にゃはは、あたしは姫って柄じゃないのよ。それよりも
学園祭で演劇をすることになったあたしたち。園子が脚本のラブロマンス大作、“シャッフル・ロマンス”のヒロインを演じることになったのは我らが毛利蘭である。
そしてあたしは黒衣の騎士こと、スペイド王子役に立候補して役を勝ち取ったのだ。
「なんでまた騎士役をそんなにやりたがったの?」
「そりゃあ、新一以外の男に蘭ちゃんとラブシーンをさせるわけにはいかないでしょう」
「なるほど! アリスは露払いを買って出たわけね〜! まぁ、アリスがやらなかったら私がやろうと思ってたけど」
「そ、そんなことに気を使ったの?」
騎士役を買って出たのは、まぁ他の男連中に蘭とイチャイチャさせるくらいならあたしがやってやろうの精神だ。
あたしが立候補しなかったら園子も同じ考えだったらしい。うーん、本当かな……。
「そんなことって、大事なことよ。だってさ、例えばこうやって……、ほら勢い余って蘭ちゃんの唇を奪うなんて――」
「あ、あ、アリスちゃん? ち、近い……」
「目を瞑って……、ほら優しくしてあげるから♡」
あたしは立ち上がり、座っている蘭の顎をクイッと上げて顔を近づけた。
すると、蘭は怯えながらもいつの間にか目を閉じている。
「う、ううっ……、んっ……?」
「と、まぁこんなことあったら危ないじゃないは?」
蘭の唇に人差し指を当てながらあたしは自分が騎士役をやる意味について話す。
しかしまぁ、蘭もなかなか色っぽい……。
「蘭ったら、ホントに目を瞑っちゃってるし。意外とそっちもイケる口なのか」
「……もう、人が悪すぎるよ」
蘭は悪ふざけが過ぎたからなのかジト目で睨んでくる。
怖がらせてしまって、すまない。
「ごめん、ごめん。でも、想像してみ? こんな感じで新一が迫ってくるのをさ」
「し、新一が…………?」
「あんたの顔、正直よね。犯罪者にはなれないタイプだわ」
「そんじゃ、いつもの照れ顔が見れたところで、蘭ちゃんとラブラブな騎士様の役作り頑張ろっと」
新一が騎士役を演じてる様子を想像している蘭の赤くなった頬を見つめながら、あたしは練習を頑張ろうと誓った。
「一度ならず二度までも……、私をお助けになる貴方はいったい誰なのです……?」
「ああ……、黒衣をまとった名もなき騎士殿……。私の願いを叶えていただけるのなら……どうかその漆黒の仮面をお取りになって素顔を私に……」
「おお……、それが姫の望みとあらば、醜き傷を負いしこの顔――月明かりの下にさらしましょう……」
「あ、貴方はもしやスペイド……。昔、我が父に眉間を斬られ、庭から追い出された貴方が――トランプ王国の王子だったとは……」
「ああ……、幼き日の約束をまだお忘れでなければ、どうか私の唇に……、その証を……」
「んっ……」
あたしと蘭はキスをするような芝居をする。いや、これは中々攻めたラブシーンだわ。
演劇とはいえ、ドキドキするもん。歯の浮くようなセリフも多いけど……。
「カット! いや〜、すごいよ二人とも! ラブシーンも完璧じゃん!」
「……アリスの演技
園子はあたしの騎士役を絶賛してくれた。男装のメイクのコツとか有希子さんに聞いたりしてみて良かったわ。
顔はかなり様になってるじゃん。黒衣の騎士役は上手くやり遂げられそうね。
「あはは、ありがと。でも、なんか、日増しに見物に来る女の子が増えてる気がするわ」
「そりゃあ、あんたの宝塚もびっくりなくらいの男前加減が噂になってるからよ。まさか、男装がそんなに似合うとは思わなかったわ。そのおっぱいで」
まさか男役でこんなに反響があるとは思わなかったわ……。
女子の後輩とかに握手とか求められるし、探偵するよりも女の子ウケが良いんだけど。
「鎧の厚みで誤魔化してるから、何とかね……。ちょっと胸が苦しいのは我慢しなきゃいけないけどね」
「こりゃ新一も嫉妬するかもね。女のライバルが現れるなんて思いもしないだろうけど」
「あはは、さすがに新一もあたしに嫉妬はしないでしょ。ねぇ? 蘭ちゃん」
あたしが騎士役やって新一が嫉妬ねぇ。それはそれで面白いけど、そりゃあ無いでしょ。
新出先生とかがするのとは訳が違う。
「………えっ? ごめん、ボーッとしてて」
「もしかして、蘭も満更じゃないんじゃない? 騎士になったアリスに」
「……そ、そんなんじゃないけど。新一、学園祭も来ないつもりなのかなって……」
「蘭ちゃん……、大丈夫?」
「う、うん……、大丈夫だよ。大丈夫……、あっ……!」
新一が学園祭に来ないことを残念がっている蘭は元気がない。
空元気を出そうとして、手元の台本を落としてしまう始末だ。
とりあえず、あたしが新一とは微塵も疑われたりしてないんだけど、だからこそ彼が側に居ないのが不安材料ね……。
「落としましたよ、台本。見事な演技でしたね」
「あ、ありがとうございます。すみません、手元が滑ってしまって」
蘭の落とした台本を拾ったのは、たまたま劇の稽古を見学していた帝丹高校の校医である新出智昭先生だ。
ハンサムで優しいので生徒からの人気は凄い。
「いえいえ、体調が悪いのでしたらすぐに言ってくださいね。藤峰さんも素晴らしい演技でした。あれだけ上手く演じられると僕たち男の立つ瀬がありません」
「またまた、お上手なんですから」
「お世辞じゃありませんよ。女優さんを目指してみても良いんじゃないですか?」
「あはは、学校の成績悪くなったら考えます」
彼もまたあたしの演技を褒めてくれた。うーん、女優だった有希子に似たボディだし、コナンもまた子供の演技上手すぎだったから、記憶を引き継いでるあたしにも影響してんのかな〜〜。
蘭が心配だな……。せめて、学園祭だけでも新一を来させてあげられないかな……?
「というわけで、解毒剤とか出来ないかな〜〜?」
「そんな即席ラーメンみたいに出来るわけないでしょ。パイカルの成分が、風邪の症状のときにだけ解毒作用を引き起こすというヒントしかないのよ」
哀は情報不足だとして、あの薬の解毒剤を作るのは無理だと言った。
それはわかっている。出来てたら、あたしが死ぬ前にコナンは完結してるもん。
「んー、完全な奴じゃなくていいのよ。この前みたいに一時的に姿を戻すことが出来ればさー、新一が学園祭に行けるじゃん」
「あなた、お人好し過ぎるわ。リスクが高すぎる」
哀の言うリスクはわかってる。現状、新一の生存を知る者は少ない。
表舞台に彼が立てばそれが噂になり組織に伝わってあたしや蘭……、その周りにも危害が及ぶかもしれないのだ。
「哀ちゃんも台本読み、手伝ってくれたから見に来てね。愛してるって言ったら恥ずかしそうな顔するのが可愛かったなぁ」
「あなたの演技がクサすぎるから見てられないだけよ」
哀も台本を覚えるために読み合わせをしてくれた。
ラブシーンになると照れた表情を隠そうとするのが何とも言えない可愛さだった。
「そっか〜〜、哀ちゃ〜ん。愛してるぞ」
「はいはい。私もよ。そんなこと言っても薬は出てこないんだから」
「あはは、やっぱ無理か〜〜」
「と、言いたいところだけど。ほら、これ」
哀は薬が無いと言いながら、ピルケースから錠剤を取り出した。
あれれ〜〜、この薬はなんだろう〜〜。
「まさか、それって……」
「そ、
「マジで? うん、使ってみる。哀ちゃん、ありがとう〜〜。大好き〜〜♡チュッ♡」
「ばか……」
なんやかんや言ってあたしのワガママを聞いてくれた哀をギュッと抱きしめて額にキスする。
彼女は呆れたような顔をしてあたしを見つめていた。
「蘭ちゃん、アリスちゃん、演劇見に来たで」
「和葉のやつが行こうってうるさいから仕方なくやけどな」
「誰がうるさいやって?」
「お前や、お前。毎日、毎日、しつこくてかなわんかったわー」
大阪から平次と和葉がわざわざ帝丹高校まで演劇を見に来てくれた。
相変わらず二人のかけ合いは面白い。
「来てくれてありがとね。和葉ちゃん、平次くん」
「うん。二人とも大阪からわざわざ来てくれるなんて。嬉しいよ」
「ほんで、工藤くんはどこにおんの? 呼んでんねんやろ?」
あたしと蘭は二人を歓迎した。和葉は新一に興味があるみたいだ。
そういえば、彼女だけ新一の顔を知らないのよね。
「呼んだには、呼んだんだけど……」
「来れへんような余程の事情があるんやろ。和葉もあまり突いたらあかんで」
「なんや、平次にしては気が利く言い方するやんか」
「大丈夫だよ。蘭ちゃん。新一は
「藤峰……?」
あたしが新一は必ず来ると言ったら、平次の眉間がピクリと動いた。
彼はあたしの言ってる意味がますます分からなかったんだろうな……。解毒剤とか考えられないだろうし……。
さてと、解毒剤は劇が終わるくらいで効くように時間調節して飲まなきゃ……。さすがに新一を舞台に上げるのはまずいし……。
そう思ってたんだけど――。
「……はぁ、はぁ。随分といきなりじゃねーか。学園祭で演劇なんて」
『蘭ちゃん、寂しがってたからさー。解毒剤の効果がどこまで続くかわからないけど、夜くらいまでなら大丈夫だから。ごめんね、劇が終わった瞬間に戻るように調節したんだけど』
なんか、思った以上に早く解毒剤が効いちゃって劇の途中であたしは新一になっちゃった。
哀が体への負担を極力抑えてくれたおかげで前よりは変化する瞬間が楽な気がする。それでも骨が溶けるような感覚はマジでキツイけど……。
「すまねーな。世話ばかりかかせちまって」
『別に構わないけど、くれぐれも目立たないようにね。あなたが生きてるとバレると厄介なことになるのよ』
「ああ、わかった。恩に切るぜ」
ということで、役者交代。新一が黒衣の騎士として舞台に上がることになった。
「お、おのれ! 何奴!? これをブリッヂ公国、ハート姫の馬車と知っての狼藉か!」
劇は最高潮に盛り上がる黒衣の騎士がハート姫を助ける寸前の公国の兵士が帝国の兵士と対峙するシーンだ。
「元より承知の上よ!」
「姫を亡き者にし、婚姻を壊せとのご命令だ!」
「我ら帝国にとっちゃ、公国と王国には、今まで通りにいがみ合ってもらった方が、都合がいいって訳よ!」
「蘭ちゃん! 空手や空手ェ! そんな連中、いてもうたってぇ!」
あはは、和葉ったら面白いツッコミを入れるわね……。蘭が空手で兵士を圧倒したらそれはそれで面白いけど……。
さて、いよいよ出番ね。黒い鴉の羽がヒラヒラと降り始めるのが、黒衣の騎士の登場の合図だ。
「こ、黒衣の騎士ッ!」
黒衣の騎士が登場して、帝国の兵士たちは逃亡し、蘭が演じるハート姫の元に彼は近づく。
ここから盛り上がるところなんだけど――。
「1度ならず2度までも、私をお助けになる貴方は、一体誰なのです!?」
「…………」
「ああ、黒衣を纏った名も無き騎士殿! 私の願いを叶えて頂けるのなら、どうかその漆黒の仮面をお取りになって、素顔を私に!」
本来は黒衣の騎士がセリフとともに顔を晒すシーンなんだけど、声がいきなり変わるのもなー。
変声機を置いてきちゃったし、どうしようかしら……。
『姫を無言で抱きしめて!』
「えっ? アリスちゃん……?」
新一に蘭を抱きしめるように指示を出す。場内はその大胆な演出にざわつきだした。
蘭に至ってはびっくりして小声であたしの名前を呼んでるし……。
「うはっ! アリスのやつ! なかなか大胆じゃねーか!?」
「あれ、アリスちゃんなんやろ? えらい男前に見えるなぁ」
小五郎はあたしが蘭に抱きついていると思ってるから笑って見てるけど、新一だと知ったら怒るんだろうなー。
園子があたしのアドリブだと思って気を利かせてくれたので、カンペを出してそのまま続けるように蘭に伝えた。
「あ、貴方はもしや、スペイド……? 昔、我が父に眉間を切られ、庭から追い出された貴方が、トランプ王国の王子だったとは……」
「ああ、幼き日のあの約束をまだお忘れでなければ……どうか私の唇に、その証を……」
「蘭ちゃんと、アリスちゃんがっ……!」
「えらい攻めた脚本やな〜!」
「アリスのやつが男に見えてならん……!」
『キッスキッス♪』
『うるせーな』
あたしが新一を煽ってると、客席から悲鳴が上がった。嘘でしょ……、また何かあったの……。
「「――キャアァァァァァ!!」」
客席に転がっていたのは男の死体だった。あー、厄介な状況のときに事件が起きちゃったわね……。
『あれま。学園祭まで事件が起こるんだ』
『オメー、事件にやけに慣れてんなー』
『残念だったね。蘭ちゃんとキス出来なくて』
『バーロー、んなこと言ってる場合じゃねーだろ』
劇は当然、中断して警察が劇場の中に入ってきた。
うーん。この状態だと捜査には参加できそうにないわね……。平次がいるのが幸いだったわ。
◆ ◆ ◆
「亡くなったのは蒲田耕平さん、米花総合病院の医師か。劇を見ている最中に倒れられたということですが?」
「は、はい……、なんか急に苦しみ出して……」
「倒れられた時間、いつ頃かわかりませんか?」
「午後2時40分ぐらいだと思います」
「蘭くん!?」
死亡時刻を目暮警部が尋ねたとき、蘭はその時刻を正確に答えた。
そりゃ、あたしたちは分かるわよね……。
「丁度悲鳴が聞こえたのが、劇の中盤の見せ場のシーンでしたので……。ねっ、アリスちゃん」
『頷いて』
「…………」
蘭に話を振られて、新一は黙ってうなずく。彼女の言うとおり、劇の稽古していたあたしたちはどのシーンが何時頃なのか把握していた。
「アリスちゃん?」
「そっちは、アリスくんなのかね? 珍しく静かだな」
警部も蘭もいつもなら捜査に積極的に参加するあたしが何も喋らないことに疑問を持っているみたいだ。
だって、喋ったら新一ってバレちゃうんだもん。
「死因はわかりましたか?」
「はい、恐らく――」
「青酸カリや」
「え?」
高木刑事の問いに答えたのは平次だった。死体の様子からそれに気付いたのだろう。
だって死体は――。
「たぶんこの兄ちゃん、青酸カリ飲んで死んだんや。ツメの色や唇の色が紫色にならんどころかピンク色になっとる。他の毒で死んだんなら、血行が悪うなるんやけど、青酸カリは飲んだらな、細胞中の電子伝達系がやられて血液の酸素が使われないまま、逆に血色が良くなるんや」
「ええ、彼の言うとおりアーモンド臭もしますし、死因は青酸カリによるものかと……」
「服部くん、こっちに来てたのかね?」
「ああ、藤峰に誘われてな。なんで、あいつこっちに来んのやろ?」
平次もあたしが捜査に加わらないことを不思議がっていた。
行きたいんだけどね。あたしというか……、その……。
「ねぇ、アリスちゃん。捜査しなくて大丈夫なの?」
「…………」
『我慢して、平次くんも居るんだから』
『わ、わかってる!』
蘭がこちらに声をかけたとき、ウズウズしている新一に気が付いて待ったをかけた。
平次ならきっと解決してくれるから……信じましょう。
そこから、捜査は始まってどうやら青酸カリは蒲田が飲んだ売店のアイスコーヒーの中に仕込まれていたことが濃厚になった。
被害者の飲んだアイスコーヒーに触ったのは容疑者は蒲田と同じく帝丹高校の演劇部のOBとOGである
売店で飲み物を買ったのは鴻上だったが、彼女の買った飲み物は被害者と同じくアイスコーヒー。彼女は売店が混んでいて開演寸前に席に辿りついたため、トイレに行きたいと三谷に4つの飲み物を渡して座席の横に置いてもらっていた。
三谷は被害者の隣に座っていた野田にアイスコーヒーを被害者に渡してもらった。
ちなみに三谷はウーロン茶、野田はオレンジジュースを頼んでいる。フタにどの飲み物が入っているか書かれているから、二人はフタを開けてはいないと証言していたし、単純に手渡しをしただけだから毒を盛るような時間はなさそうだった。
鴻上が2つのアイスコーヒーに毒を仕込んで自分のものは飲まないという殺害方法も考えられたが、彼女はきれいにコーヒーを飲みきっていた。
そこで、ガムシロップやミルクに青酸カリが仕込まれていたと小五郎は指摘するも、被害者はなんと両方とも入れてないという事実も確認される――。
入れなかった理由は蒲田がブラックコーヒーが好きなわけでなく――。
「カップの中身が……、アイスコーヒーじゃなく、コーラだったから……」
蜷川は、ワザと注文間違いをすることで、蒲田が取り替えに彼女の元にきて婚約破棄の理由を聞きに来ると考えたらしい。
まぁ、開演寸前に飲み物を渡しているからコーラ飲んじゃったんだけど……。
『女心って分からないわね〜』
『おいおい、女のオメーがそれを言うのかよ……』
「なーんだ、だから私のもコーラだったのね。もうちょっとで、このミルクとガムシロップ、入れちゃうところだったわ」
鴻上はポケットから開けられていないミルクとガムシロップを出した。確か、彼女はトイレから帰ってきて上映が開始して暗くなってから席についたんだっけ……。
『あたしなら暗がりだったら気付かない自信あるわ〜。両方入れて根性で飲む!』
『はぁ……、おれの体、こいつに預けて大丈夫か……って気になってきたぜ。――っ!? 待てよ、おい藤峰! お前、今……、なんて言った?』
『根性で飲む!』
『バーロー、その前だ』
『暗がりなら気付かない自信が――あっ!』
あたしは新一のツッコミで犯人が誰なのか気が付いた。間違いない。犯人はあの人だ……。
ということは……、つまり毒を仕込んだのは……。
そして、証拠となるアレはあそこに……。
うわ〜〜、犯人がわかったのに言えないって苦しいわね。平次なら気付くと思うけど……。
「これより本件は、自殺と断定して……」
「待ってください。目暮警部……!」
『バカ! 声出しちゃダメって言ったじゃん!』
「「――っ!?」」
目暮警部が自殺と断定しようとしたとき、新一が声を出した。
誰もが新一をあたしだと思っていたので、男の声が黒衣の騎士から発せられたのに驚いている。
「これは自殺じゃありません。極めて単純かつ初歩的な、殺人です」
『新一! こら、黙りなさいって!』
「そう、蒲田さんは毒殺されたんです。暗闇に浮かび上がった舞台の前で。日ごろから持っている、たわいもない自らの嗜好を利用されて。しかも、犯人はその証拠を今もなお所持しているはず。僕が導き出した、この白刃を踏むかのような大胆な犯行が、真実だとしたらね」
「き、君は一体……? アリスくんではないのかね?」
あたしのバカっぽい言い回しじゃなく、男の声でしかもオシャレなセリフを放つ黒衣の騎士に警部は正体を尋ねた。
「お久しぶりです、目暮警部。工藤新一です」
『お久しぶりじゃないわよ!』
「「うおおおおっ! 工藤! 工藤!」」
工藤新一復活ッ! みたいな感じで人気者だった彼の出現に帝丹高校の生徒たちは沸いた。
すごい盛り上がりね。やはり平成のシャーロック・ホームズは伊達じゃない。
「しっ! 静かに。祭りの続きは、この血塗られた舞台に幕を下ろしたあとで」
「かぁ~、相変わらず語るねぇあの男は」
キザなセリフ1つで場内を静まり帰らせる彼は流石といったところだ。
新一なら何とかしてくれるという期待感もあるのだろう……。
「新一? なんでアリスちゃんと入れ替わって……」
「あぁ、藤峰がなんかの事件で呼び出しがかかったとかで急に代役してくれって言われちまって。あと、服部……、オメー10円玉持ってねぇか?」
「おっ? そりゃ、1つか2つやったら持ってるけど、そんなもん何に……。――はっ!? はは~ん、そういうことか~」
そこからは新一の独壇場だった。犯人である鴻上が毒を氷に仕込んで、氷を食べるクセがある蒲田を毒殺したと指摘したのだ。
鴻上は両方のアイスコーヒーに毒入り氷を仕込み、自分の氷は口に含んで取り出し、スキを見てフードの中に捨てるというトリックで蒲田を殺した。
その証拠に彼女のフードの中で溶けた青酸カリを含んだ水が酸化還元反応を起こして十円玉をピカピカにする。
彼女がアイスコーヒーがコーラだと気付いたのは劇場に入る前に毒入り氷を仕込んだからだったのだ。
まぁ、雨なのにフードを被らずに蒲田の車に案内したり怪しい点は多かったわよね。
蒲田は自分の学説のために患者にワザと間違った薬を投与して殺したりしていた結構なクズで、鴻上はそれが許せなかったらしい。だからといって、告発するとかやりようはあったでしょうに……。
『ちゃんと、警部とか学校のみんなに口止めするのよ。面倒なことが起こらないように』
『す、すまねーな。我慢できなくてさ』
過ぎたことは仕方がない。新一に情報の漏洩を防止するように努力させるしかないわね……。
「いやー! 相変わらず頼もしいね、君は! アリスくんも見事だと思っていたが、やはり君が推理すると鮮やかに聞こえるよ」
「いえいえ!」
『むぅー、目暮警部ったら。聞こえてるわよ〜』
新一が見事に一瞬で事件を解決したので、目暮警部はあたしと比較して彼を絶賛する。
そりゃ、新一はすごいけど……あたしだって頑張ってるんだからね。
「久しぶりに事情聴取に立ち会わないかね?」
「いえ、野暮用があるんで。あと、今回の事件に僕が関わったことは内密にしてください」
「それは構わんが――最近謙虚だな、君は」
当たり前だけど時間が限られてる新一は事情聴取に付き合うことを拒否した。同時に自分が関わったことをオフレコにするように警部に頼む。
「なあ工藤。なんで事情聴取に立ち会いへんねや?」
「ふっ、トリックなんて、所詮人間が考えだしたパズル。頭を捻れば、いつかは論理的な答えを……導き出せる。――情けねーが、人が人を殺した理由だけはどんなに説明されても分からねぇんだ。理解は出来ても、納得できねーんだよ。まったくな」
まぁ、あたしだって怒ることはあるけど、人を殺そうとまではとても考えられないだろうな。
世の中には色んな人が居て……考えが相容れない人もいる。殺すことは間違いだってあたしは言い切れるけど、理屈で何でも片付けることが出来ないから人間というのは争うんだ。
「お前にも分からんことがあるっちゅうことか。それはそうと、藤峰はもう……」
「いや、あいつにはまだ世話になる。どうやら、この体は時限式らしいからな」
「工藤、お前が完全に戻ったら……藤峰、居なくなるんやろ? アホやな、あいつ。なんでそないに一生懸命になるんやろうな……」
「さあな。ま、あいつになら蘭を任せられるし、戻れなくても恨まねーでいるつもりではいるよ」
平次は新一が元の体に戻ったからあたしが消えたもんだと思ったみたいだ。
いつかみんなとお別れするときが来るんだろうな……。未練がないと言ったら嘘になるけど……こればかりは仕方ない。
◆ ◆ ◆
「口止めに時間がかかっちまった。待たせて悪かったな。蘭……」
「ううん。それで、話って何だったの? わざわざこんなに高そうな店を予約するなんて……」
新一はあたしが予約しておいた店に蘭を呼び出した。
平次の機転もあって、帝丹高校のOGが殺人事件を起こしたなんて外に漏れたら高校の評判が落ちるとして、誰にも今日のことは喋らないようにみんなに口止めをした。
これでどれくらい抑止になるかわからないけど……助かったわ。
「ああ、話ってのはな。いつか、お前のところに戻ってきて、のんびり出来るようになったら……、約束してーことがある。それまでは何かあったら藤峰を頼れ」
「えっ? アリスちゃんを?」
しかし、タイミングが悪いことに思ったよりも早く解毒剤が切れかけてきた。
だから、新一は蘭にあたしを頼るように口添えして、完全に戻ったら告白することを匂わせた。
「ちゃんと話せるようになったら――素直におれの気持ち全部伝える……、だ……からさ……、わ、わりーな、ちょっと用事思い出しちまった……!」
「ちょっと新一!? 新一! どこ行くのよ!?」
そして、走って店から出ていって――近くのホテルのトイレに駆け込んだ。
ふぅ……、間一髪……。この体が変化するような感覚の不快感は酷いわね……。
「はぁ……、はぁ……」
『やっぱ、この辺の時間が限界みたいね。体の負担も半端ないし』
『藤峰……ありがとな……、蘭のことよろしく頼むぜ……』
『うん、任せて。着替えも用意してるし、大丈夫よ』
そして、あたしはコインロッカーに預けていた私服に着替えて蘭の元に向かった。
帰って新一が事件を解決したなんて伝えたら哀は怒るだろうな。
あたしの下手な芝居は見たくないとか言って来なかったけど、あんなことがあったから逆に良かったかもしれない。
「ありゃ、蘭ちゃん。ホントに居た」
「アリスちゃん、どうしてここに?」
「いやー、新一が晩飯代払ったけど食べられなくなったから奢ってくれるって言ったからタダ飯を食べに来たのよ」
あたしは蘭の正面に座りながらさっき考えた言い訳を話す。
悪いわね……。デートの邪魔をしてしまって……。
「もう、自分勝手なんだから。それにアリスちゃんも何も言わずに新一と代わるなんて酷いよ」
「あはは、ごめんごめん。でもドキドキしたんじゃない?」
「うん。びっくりしたし、嬉しかった。でもね、演劇は一緒に練習したアリスちゃんと、その成果を見せたかったとも思っていたんだよ。どっちみち、あんなことになって……ダメだったけど」
蘭は意外にもあたしと一緒に最後まで劇をやり遂げたかったとも言ってくれた。
嬉しいこと言うじゃんか。あたしも練習の成果が出せなくて消化不良だったわよ……。
「また発表する機会を作ってもらおうよ。あたしも先生とかに掛け合って見るからさ」
「……そうだね。園子にも相談してみる」
「じゃ、乾杯しよっか? ハート姫とスペイド王子に――」
「「乾杯♪」」
あたしと蘭は笑い合ってグラスを鳴らした。
あたしはあなたの王子様じゃないけれど――その日が来るまで代わりを務めてみせる。
色んな感情を流し込むように、あたしはグラスを一気に空にした――。
原作では“命がけの復活”として三部構成に分かれていたエピソードなんですけど、アリスがそもそも1ミリも蘭に疑われてないので、解毒剤が出てくるこの話だけにしました。
問題! 新出先生はこの話の時点ではベルモットでしょうか?本物でしょうか?
正解は本物でした〜〜!漫画では本物の眼鏡のフレームと偽物の眼鏡のフレームが違うのです。
それを最近知った私はやっぱりにわかだったというお話。小説を書くとその原作を深く知れるから楽しいです。
そろそろ、FBI組やベルモットの登場です!