工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった 作:ストロングゼロ
時系列が遡っちゃうので帝丹高校学園祭殺人事件での京極さんの下りを改稿しました。
「ちょっと園子どこ撮ってるの!?」
「ん〜〜? 想い出作りよ。想い出作り……。あと、旅のお裾分けを新一くんに……、まーどうでも良いんだけど」
「なんかいつになくやさぐれてるね」
「作戦の根本が崩れたからよ。ナメてたわ。あの子、ただでさえモテるのに水着になったら――」
「ごめんごめん、何か色んな人に声かけられちゃって」
赤いビキニを着てビーチを歩いてたら、びっくりするくらい男の人にナンパされた。
いやー、モテすぎるのも考えもんだわ。探偵事務所に変な噂も立てられたくないからやんわり躱すのも面倒だし……。
「何でよ! 何であんたばっかり! この理不尽おっぱいのせいか!? 男はやっぱりおっぱいなのか! こいつが揺れるたびに男共の視線があんたに集中するのよ!」
「んんっ……♡な、なんで、涙を流しながら胸を揉むのよ!?」
園子がいきなり、あたしの胸を鷲掴みにしながら滝のように涙を流す。
こりゃ、いつもより面倒な感じになってるわ……。ていうか、別に園子だって小さくはないじゃん。
「あんたがぜ〜〜んぶ持って行ったからよ〜〜! ビーチに来てから言い寄ってくる男のほとんどあんた! 残りは蘭! ナンパの列が出来たの初めて見たわよ! この企画を考えたのは私なのに! それだけじゃないわ! 電車でも花火でもあんたや蘭ばかり!」
園子が企画したのは“非お嬢様大作戦”――旅先で泊まる場所が、園子の家の別荘か高級ホテルばかりだから“高嶺の花にはとても手を出せない”とか思っちゃう、チェリーなボーイたちを安心させるために、わざわざ古びた旅館に宿泊しようという作戦らしい。
何かあたしのせいで失敗したみたいな感じになってるわね……。
嫌味になるから言わないけど、このボディになってから怖いくらいモテる。素顔で出歩きたくないくらい。そしてこれも事実だから否定してないけど、男子、めっちゃ胸見るじゃん。
気付いてないフリしてるけど、気付いてるからね。
何なら探偵になって観察力が上がったからなのか、盗み見なんてされようものなら余計に気になる。
「あ、あたしの場合はアレよ、アレ……。ほら、先生と一緒にテレビとか出てるから……サインとかさ」
「探偵ねぇ。知的に見える女性がモテる……とか? いや、アリスに限ってそれはないか」
「そこはかとなくディスるのやめてもらえる?」
ちょっと有名になってるからその補正分で話しかけられてるだけで、あたしが園子や蘭と比べてビジュアルが良いとは思わないけど……、と言おうとしたら、頭悪そうって言われちゃうあたし……。否定はしないけどね……。
「ねぇ、君たち……もしかして暇?」
「えっ?」
「お昼でも一緒に食べないかい? もちろんおごるからさ!」
ベタな感じであたしたちに声をかけてきたのは爽やかそうな感じの男だった。年齢は大学生くらいかしら……。
「はいはい、君たちとか言ってどーせこっちのアリスの体が目当てなんでしょ。それともこっちの蘭の方? 言っとくけどこっちは旦那がいるから、変なことしちゃダメよ」
「園子ちゃん、言い方……」
園子はあたしと蘭の背中をグイって押しながら、投げやりな口調になる。
体目当てって、そういう言い回しはやめていただきたい……。
「いや、僕が誘いたかったのは君の方なんだけど……」
「ふぇっ……? わ、わたし?」
男はスッと園子に近付き、彼女に笑顔を向けて本命は彼女だと告げた。
なんか、すっごく驚いてるけど、おそらくさっきまでガツガツしてて引かれてたのが、しおらしくなって丁度いい感じに落ち着いて見えたんだと思う。
園子なんて普段通りにしてたら可愛いし、気さくだし、気が利いて、優しいんだから京極さんが現れるまで放って置かれる方がおかしいのよ。
「やったじゃん。園子!」
「……あー、園子ちゃんって照れるとそんな顔するんだ♪ んじゃ、蘭ちゃん。あたしらは二人でデートしよっか?」
「うん! 二人の邪魔したら悪いもんね!」
あたしは蘭と手を繋いで彼女と男を二人きりにしようと提案すると、蘭もそれに乗ってくれた。それなのに――。
「……で、園子ちゃん。そろそろあたしの腕を離してもらえないかしら? 気を利かせてるつもりなんだけど」
「園子? どうしたの?」
もう片方の腕を掴みながら不安げにあたしを見つめる園子。
いやいや、非お嬢様作戦がせっかく成功したってのに何でそんな顔してんのよ。
「ご、ごめん。アリス、蘭……、ふ、不安だから付き合って……」
「「えっ?」」
いざというときに思った以上に乙女モードになってしまった園子に頼まれて、あたしと蘭も食事に付き合うことにした。
それじゃ、上手いこといくようにアシストしますか。
園子をナンパした男は道脇正彦という名前で、現在は米花大学の学生さんらしい。
偶然だけど小五郎の後輩みたいね。話も盛り上がってきたわ……。
「で、道脇さんはどうして伊豆に?」
「ああ……、彼女にひどいフラれ方をしてね、まぁただの失恋旅行さ」
「そうなんですか……」
「でも来てよかったよ! 天使を見つけることができたからさ! 僕の勘が正しければ、恐らく君は救いの女神になるはず!」
道脇はフラれて傷心旅行中らしい。でも、園子を見つけて運命の人だと思ったみたいだ。
なかなか、ロマンチックな言い回しをするじゃない。こりゃ、ナンパ慣れはしてそうね。
「えっ……?」
「あはっ、園子ちゃん。天使だって〜。女神だって〜。顔赤くしてないで、ほら。何かいいなさいよ」
「あ、うん。その……。――っ!?」
珍しくデレデレな園子の顔を愛でながら、彼の言葉に何か返事をするように促すと、ドンという音とともに道脇の前にビールが置かれる。
「生ビールお待たせしました……」
「あ、ども……」
あー、びっくりした。色黒で眼鏡の男の店員が道脇の注文した品を置いただけか。
それにしても、この人から只者じゃないオーラを感じるわ……。
「お客さん、タバコの灰、気を付けてください。掃除大変ですから」
「……? あの店員さん、どこかで会ったことない?」
店員の男が去ったあと蘭は園子とあたしにどこかで見たことないか聞いてきた。
うーん。どっかで見た気はするけど……。
「私たちが泊まってる瓦屋旅館の息子さんよ! 夏休みだから手伝いに帰ってるんだって。この海の家も同じ経営なのね」
「へぇ、あの人カッコ良かったもんね。やっぱりチェックは欠かさないんだ」
そっか、旅館に居たんだっけ。眼鏡だけど端正な顔立ちだし、何よりあの怪盗キッドもびっくりなくらいスキのない動きは惹かれるモノを感じるわ。きっと園子のレーダーにも反応して――。
「ち、違うわよ! 私たちのことジロジロ見てたから、旅館の人に聞いただけよ! ていうか、アリスの男の趣味悪くない?」
「ふぇっ? そーかな?」
「彼ならあんたに譲ったげるわよ」
「いや、別にそういうつもりで言ったんじゃないし」
いい人だと思ったからとて、付き合いたいとかそんな気は一切湧かない。
それにしても、ジロジロ見てたとか言ってたけどあたしはそんな視線感じなかったな……。つまり、彼は園子だけを見ていたってことよね……。
「ところで君たちさぁ、瓦屋旅館に泊まってるの? 僕のホテルの近くだよ! どう? 今夜みんなで海辺の洒落たレストランで食事でも……。車で迎えに行くから」
「ええーっ! いいんですかぁ♪」
道脇が夕食に誘うと園子は甘えたような声を出す。あらあら、いつもはあたしのことをぶりっ子とか言ってるのに……。
「ああ……、そのかわりカメラを忘れないこと!」
「え?」
「どうしてですか?」
「一年前、そのレストランのそばの浜辺で、茶髪でロングヘアーの女性が腹を刃物でメッタ刺しにされた殺人事件があったらしい」
「「さ、殺人!?」」
彼は何故かレストランにカメラを持っていくように頼んできたので理由を尋ねると殺人事件の話をしてきた。
なーんか、きな臭い話になってきたわね……。
「その女性はレストランに向かう途中で殺されたらしいんだけど、目撃者もなく未だ事件は未解決……。それでも一年たち――客も事件の事を忘れてレストランが繁盛しているのはいいが……。困った事にその女性はレストランが気に入ってしまったらしく、今も通ってるそうなんだ」
「か、通ってるって……?」
「そのレストランで撮る写真に、腹が裂け臓物が飛び出た、グロテスクな幽体となって写るらしい……」
「蘭ちゃん、ビビりすぎ……」
蘭が怖がりながらあたしの腕にしがみついてきた。
そんなに幽霊って怖いかしら? すぐに人を殺しちゃう殺人犯の方が怖いけど……。
「だから本当にそんな写真が撮れるかどうか、試してみようよ」
「ね、ねえ、どうする? カメラまだフィルム残ってるけど……」
「いいわね。心霊写真って興味あるし!」
「アリスちゃん、何言ってるの!? ダメ! 絶対!」
あらら、マジで怖がってるのね。確かに空手は幽霊には通じなさそう……。
しかし、殺人事件の影響で心霊写真が撮れるって本当かしら……? いやー、その理屈でいったら毛利探偵事務所なんて……蘭には黙っとこう。
「でも新一くんに見せたら何かわかるかもしれないわよ。例の衝撃的な写真も彼に見せるんだし」
「だからー、あんな誰だかわかんない写真を見せてどーすんのよ?」
「彼の推理力なら誰なのかわかるわよ」
「推理力?」
道脇は新一の話に興味があるのか身を乗り出してきた。
お尻の写真だけで蘭かどうか判別できるのか……、か。あたしは自信あるけど……、彼も簡単に解きそうね。
「この子の彼、探偵なんです! ついでにそっちの子も」
「へぇ……」
「んっ?」
何か嫌な視線ね。あたしみたいなのが探偵やってたら何か悪いのかしら……。
頭悪そうなのに探偵なんて考えられないとか思ってるのかな……。
「で、その写真ってどんな?」
「ふふ……、それが――」
「園子ッ!」
「「――っ!?」」
「焼きそば、お待ち!」
蘭のお尻ドアップ写真のことを道脇に話そうとしたそのとき、乱暴な感じで焼きそばが運ばれてきた。とりあえず、食べよっと。
「わぁ♪ 美味しそー♡」
「客がつかえてますんで、さっさと食べてくださいよ」
「ふぁーい! ずずずっ……! ごちそうさま!」
「アリスちゃん、早すぎ。あの店員さんもそこまでの速度を求めてないから」
あたしが店員に促されるまま、急いで焼きそばを食べ終えると蘭に苦笑いされた。
混んでるから、早くしてあげようと思ったんだもん。
「何なんだ、あの店員。僕たちに恨みでもあるのかなぁ?」
「それよりそのレストランやめません? 気味悪いし……」
「大丈夫! 心霊写真はただの噂だし、もう一年も経つんだよ? 殺された彼女もあのレストランに飽きてる頃さ」
道脇はどうしてもその心霊レストランに行きたいらしい。
なんだろう……。そんなに心霊写真が好きなんだろうか……。
「おい聞いたかよ? 線路沿いの林でまた見つかったってよ!」
「なにがだよ?」
「遺体だよ! 茶髪の女性がまた被害に遭ったんだってさ!」
「――遺体っ!? 蘭ちゃん、園子ちゃん、ちょっと行ってくるわ!」
「アリスちゃん!?」
そんな話をしてる中で殺人事件が起こったという話をしている人の声があたしたちの耳に届く。
「腹部を刃物でメッタ刺しか……」
「一年前と同じですね……」
「ああ……、この女性も観光客のようだしな。死亡推定時刻は昨夜の8時から9時の間、花火大会が終わった後か」
現場では横溝警部が検証を行っていた。花火大会が終わった頃ならあたしたちもかなり近いところにいたわね……。
「えっ……、それって昨夜、私たちがこの辺りを通った頃じゃない?」
「そういえばそうね」
「なんか怖い……、ほら私もアリスも茶髪だし」
「あー、ターゲットにされちゃうかもね」
「そっか、二人とも茶髪の観光客……」
嫌なことに、茶髪の観光客の女性という特徴はあたしと園子が該当する。
園子は完全に怖くなったのか、いつものような快活さがなくなってしまった。
「ヤダよ……、こんなところで死ぬなんて……。まだやりたいこともやってないのに……」
「大丈夫だよ。この伊豆にいる間、僕が君を守るから」
涙目の園子の肩を優しく抱いて、道脇は勇ましいセリフを口にする。
彼女はそれを聞いてキュンとしてるみたいだ。
「んじゃ、あたしは蘭ちゃんに空手で守ってもらおっと。お願い……、守って♡」
「も、もう、顔が近いよぉ。アリスちゃんはいつもしょうがないなぁ……」
「ねぇ、あの子って……」
「ええ、だから彼氏がいないみたいなの……」
あたしが蘭の首に手を回しながら、顔を近付けて守ってもらえるようにお願いすると、道脇と園子に変な顔をして見られた。
仲良くしてるだけなんだけど……ダメかしら……。
「夕食の場所も変えた方が良さそうだね」
「そうですね。園子がこの様子じゃ……」
「じゃあカメラも……」
「もちろん、無しだ。7時頃迎えに行くから、旅館の玄関先で待っててよ」
その後、心霊レストランに行くのはナシになって道脇と待ち合わせの約束をした。
そして、横溝警部に気を付けるように声をかけられた。
園子はあたしに事件を解決するように言ってきたけど……。通り魔的な犯行はトリックを使った密室殺人なんかよりもよっぽど解決するの難しいのよね……。
「あちゃー、雨強くなってきたわね……」
「早く来てくれないかなぁ道脇さん」
「焦らない、焦らない。ヒーローは遅れてくるものなんだから」
道脇との約束の時間になったが、彼はまだ来ない。
ウチの園子を待たせるとはいい度胸してるじゃん。
「もー、それじゃ私がワクワクしてるみたいじゃん。――っ!?」
「…………」
「なんだろう? この傘……」
「使えってことかな……?」
急に旅館の玄関が開いたかと思ったら、海の家で会った店員の色黒の男が傘を無言で置いて去っていった。何か言えばいいのに……。
「あの人、園子ちゃんに気があるんじゃないの?」
「えっ……?」
「なんだー園子、モテモテじゃない」
「やめてよー。あんな暗い男……、ほらアリス、あんたカッコいいって言ったんだから責任持ちなさい」
あたしと蘭が園子にモテ期到来を喜んだら、彼女は好みではないと言ってきた。
あたしに責任って何を言ってるのかな……。
「だから、なんであたしが。ていうかあの人にも選ぶ権利あるし」
「そっかー、園子は道脇さんひとすじってわけね」
「も、もうー、照れるからやめてよー」
そっか、道脇のことがあるから他の男に目が向かないのか。
今日はずっと恋する乙女モードだなぁ。顔赤くしてて……。
「園子ちゃんって、恋愛になると純粋になるわよね」
「あっ、ヤバっ! 財布忘れちゃった。ちょっと取りに行ってくる!」
「うん。待ってるわ」
園子がどうやら部屋に財布を忘れたらしく、彼女は慌ただしく走ってそれを取りに行った。
そんな矢先である。今度は蘭の顔色が変わった。
「……アリスちゃん、どうしよう」
「どしたの、蘭ちゃん。青ざめた顔して」
「園子から取り上げたカメラ……海の家で置きっぱなしにしてたことを今思い出したのよ」
園子があまりにも変な写真を撮るから、蘭は見かねて彼女からカメラを取り上げて、しかもそれを海の家に忘れたらしい。
二人とも忘れ物なんて珍しいわね……。
「あ、そうなんだ。じゃ、明日取りに行く? まだ、店やってると思うけど、雨の中取りに行くのもなぁ。道脇さんも来るし」
「でも、あの写真も入ってるし。誰かに持っていかれちゃったら……。ご、ごめん。急いで取りに行ってくる。傘、借りちゃっていいよね?」
「わかった。じゃ、とりあえず園子ちゃんに伝えとくかな」
ということで、蘭は例の傘を借りて海の家に向かい、あたしは園子が思ったより遅いので彼女の元へと向かっていった。
「んんんっ〜〜! んっ!」
「あれ? 園子ちゃん、何してるの?」
部屋にたどり着くと変な声がしたので、あたしは襖を開ける。
すると苦しそうな顔をした園子が座っていた。
「ごほっ、ごほっ……」
「ちょっと、大丈夫? な、なにかあったの?」
「変な男がいきなり襲ってきて、窓から外に……」
なんと園子は暴漢に襲われていたらしい。なんてこった、また事件だ……。
園子が無事で本当に良かった――。
「窓から……!? ダメね、逃げられた後か……、でも、なんで園子ちゃんが……」
「知らないわよぉ……、襖を開けたらその男が私たちの荷物を漁ってて……、大声出そうと思ったらナイフで襲ってきて……。きっと下着泥棒よ。美人女子高生が3人も同じ部屋に居たから狙われたんだわ」
「ナイフ!? 連続殺人と同じね……。――それで? どんな人だった?」
下着泥棒がナイフなんて持つかしら? まずは状況を確認しましょう。荷物を漁ってたということは何かを探していたということね……。
「わからない……、部屋は真っ暗だし、怖くて……、何も見てないわ」
「え? でも男だったんでしょ? 声とか聞いたの?」
「ううん。もみ合ってる時、咄嗟に腕に噛みついてやったの。毛深かったから男だと思う」
「そんな状況で噛み付いたんだ……、すごっ……」
つまり部屋の中は顔が確認出来ないくらい暗かった。ということは単純な泥棒の類なら逃げ出すはずだ。
園子の衣服に乱れはなかった――となるとそういう目的で襲ったのではなく、本当にナイフで殺そうとしていたということである。
なぜ、園子が殺されそうになったのか――そして、その男は何を探していたのか……。
「どうしたんだい? 部屋に明かりもつけないで」
「あ、道脇さん……」
そんなことを考えていると道脇が電気をつけて声をかけてきた。
ズボンの裾に泥がはねている……それにシャツも濡れているわね……。
「車がエンストしちゃってさ。慌てて走ってきたんだけど、遅れて申し訳ない」
「そうだったんですか〜。それにしてもこの部屋がよくわかりましたね」
「うん。着いてすぐに旅館の人に聞いたから。玄関に君たちが居なかったし」
彼は車がエンストして遅れたと話していた。そして、旅館の人に尋ねてこの部屋に辿り着いたとのことだ。
「そーいえば、蘭はどうしたの?」
「カメラを忘れたって、海の家に」
「カメラを忘れたんだ……。どこに?」
蘭の話になったので、あたしがカメラのことを話すと道脇は急に真顔になって話に割り込んできた。
「えっ……? う、海の家ですけど」
「あははっ……、そっかカメラはあの海の家に忘れてたんだ。なるほど」
「…………」
なんで、この人……そんなにカメラのこと気にするんだろう……。
そういえば、心霊写真を撮ろうと言ってきたりしてカメラの話を切り出したりもしてたわね……。
「どうかしましたか? お客さん」
騒ぎを聞きつけたのか、旅館の息子だという色黒の男が部屋にやってきた。
右腕に包帯を巻いてるけど、どうしたんだろう……。
「それが、物騒な事件がありまして」
「物騒な事件?」
「ええ。変な男があの窓から入ってきて、あたしたちの荷物を漁ってたかと思えば、彼女をナイフを持って襲い……もしかしたら大惨事になるところでした」
「へぇ、恐らく泥棒か何かでしょう。前にも一回あったんで」
あたしが簡単にことの経緯を話すと彼はその男を泥棒だと断じた。
いや、それだけじゃないはずよ。普通の泥棒にしてはやることがおかしすぎる。
「前にもって……! なんで教えてくれなかったのよ!」
「戸締まりをきちんとするように言ったはずです! それに……、こんな時間ヘソを出した格好をしてるあなたもあなただ……、それじゃ襲ってくれと言ってるようなもの。あなたに似合うとも思えません」
「ひっど〜い! これ、お気に入りなのよ!」
戸締まりを怠ったのはあたしたちの落ち度よね。
色黒の男は園子の露出の多い服装が気に入らないみたい。なんか、古風な考えだなぁ。
「大丈夫。君は何を着ても魅力的だよ。もちろん。浴衣も水着もね……」
園子がどんな服を着ても似合うと慰める道脇。彼女はそれで気を取り直したみたいだ。
「んっ? まさか……」
あたしは今、恐ろしい結論に辿り着いている。まさか、園子が殺されかけた理由って――。
全てが一本の線に繋がった。あたしの想像が正しかったとしたら、とんでもないことに巻き込まれたわね……。
さて、どうやって話を持っていくか……。あたしは足早に部屋を出て旅館の玄関を確認した……。やはり、あの人は嘘をついている。園子を殺そうとしたのはあの人だ……。
「ちょっと、あなた何してるの?」
「部屋を移してあげるんですよ。空いている別の部屋に。男が侵入した部屋で一夜を過ごしたいなら別ですが」
「お気遣いありがたいですけど、部屋を移す必要はないですよ。あたしたちはこの部屋でも安眠出来ますから」
部屋に戻ってきたとき、色黒の男が部屋を移そうとしていたので、あたしは彼を止めた。
もうこの事件は解決するから――。
「アリス! あんたが物好きなのは知ってるけど、部屋を移して貰ったほうがいいわよ」
「そっちの方の言うとおり……。なかなか変わったことを言うお客さんだ。スリルでも味わいたいのですか?」
「いえいえ、侵入した男は警察に捕まるので、あたしたちは安心できるっていうわけです」
園子は訝しい顔をして、色黒の男は表情には出さなかったが、理解に苦しむみたいだった。
だから、あたしは宣言する。この部屋に入ってきた男が分かったと。
「へぇ、君は探偵って聞いたけど、すごいなー。もうここに誰が侵入したかわかったんだ」
「はい。まず、園子ちゃんは犯人の顔もよく見えていません。暗かったので、ナイフを持ってたことくらいしか判別できなかったんです」
「お客さん、さっき男だって言ってませんでした?」
「彼女は噛み付いたんですよ。その男の毛深い二の腕にがぶりと……。ねぇ、凄くないですか♪園子ちゃん、こんな状況で反撃したんですよ」
「アリス……、話が脱線してる……」
あたしは順を追って説明をする。園子が暗がりの中で噛みついた結果、まずは犯人は男だと絞ることができた。
異様に毛深い女もいるけど、まず男だと考えて良いだろう。
「ん? 二の腕? そういや、あんた……、右腕に包帯巻いてるな。それはなんだ!?」
「ああ、これは前に酔ったお客さんに絡まれて。疑うなら包帯を取って見せても構いませんよ」
「大丈夫です。園子は毛深いって言ってましたから。彼女が噛み付いたのは、あなたの腕ではない」
そのとき、色黒の男が包帯を腕に巻いていることに道脇が気付くが、あたしは毛深くないことを指摘して気にしなくても良いと口にする。
彼も平然としてるから、傷口を見せることに抵抗する気もないんだろう。
「な、なるほど。僕も大丈夫だ。毛深くはないし、ほら歯型もない」
道脇はシャツをめくり両腕を見せながら、自分が噛まれていないことを主張した。
うん。彼も腕は噛まれていないみたいね。
「てことは、アリス。私を襲ったのって、もしかして旅館の従業員とか?」
「まさか、ウチの従業員を疑ってるのですか?」
「いいえ。この部屋の中にいますよ。園子ちゃんを襲った犯人はね……」
「「――っ!?」」
あたしはこの部屋に園子を襲った男がいると言い切った。
園子は大きな勘違いをしてるんだ。だから、犯人は今もなお何食わぬ顔をしてる。
「おいおい、探偵ちゃん。犯人っていうのは毛深い二の腕を噛まれてるんだろ? 僕もそっちの男もどっちも毛深くはないし、僕なんて噛まれてもない。そっちの方は包帯でわからないけど」
「そうよ、アリス。二人とも違うわ。もしかして犯人がこの部屋に隠れてるの?」
「嘘だろ!? まさか屋根裏とか……」
「そんなところには居ませんよ。ねぇ、園子ちゃん……。腕を噛みついたって言ってたけど、顔も見えないくらい暗い中で絶対にそうだと言い切れる?」
あたしは園子に尋ねた。暗い中で腕だと確実に言いきれるのかどうか。
顔も見えないくらい暗かったのに――。
「えっ……、いや……、腕だと思って噛みついたけど……。太さ的にも……、絶対って言われたら自信ないけど……」
「園子ちゃんが噛みついたのが、腕じゃないとしたら……。例えば、ふくらはぎ付近……」
「――っ!?」
あたしは園子が噛みついた場所は本当はふくらはぎだったと推理した。
腕はつるつるでも脛毛はボーボーって男の人はよくいるでしょう?
「腕が毛深くなくても、その辺は毛が生えてる男の人っていますよね? そこで気になったわけですよ。変なことを言ってる人がいるなーって。園子ちゃんの浴衣姿が魅力的とか」
「むぅ〜〜、アリス! 私の浴衣が似合わなかったっていうの!?」
あたしが道脇が園子の浴衣姿が魅力的だと言うのは妙だと声に出すと、彼女はムッとした顔をする。
「違うわよ。あたしたちが浴衣を着たのは、昨日の夜に花火を見に行ったときだけなのよ。なのに、今日会ったばかりの道脇さんがそんなことを言うのはおかしい」
「そういえば……」
「変ですね……」
「そ、それは想像で……」
あたしたちが道脇に会ったのは今日の昼くらい。浴衣姿だったのは花火大会に行ったときのみ。
見てないのにわざわざ似合うというのは変なのだ。
「まだあるわ。あなたはカメラや写真にちょっと不自然なほど興味を示してた」
「ごめんごめん。面白い写真があると聞いて興味を持ってしまったんだ。別にいいだろ?」
そして、カメラに異様に食い付いてきたのも変だ。
心霊写真を撮りに行くという話から、さっき蘭がカメラを取りに海の家に向かった話まで……、この人はカメラのことを随分と気にしていた。あたしが探偵ということにも、どこか警戒していたし。
「うん。いいわよ。あたしが勝手に変だと思ってること言っただけだから、一番変なのはサンダルなのに、靴下履いてることだけどね」
「あっ! そういえば、靴下履いてる。さっきは裸足だったのに……」
「玄関に行って確認したけど、靴に履き替えたわけじゃなかった。靴下の下にはおそらく、園子ちゃんの歯型が付いてるはずよ」
サンダルなのにわざわざ靴下だけ履いてるのは不自然すぎる。
あんなことがあった後ではなおさらだ。その理由は一つ。園子に噛まれた跡を隠すためだ。
「み、道脇さん……、何で……?」
「簡単よ。彼があたしたちを見たのは浴衣を着て花火大会から帰っている途中。で、
「……ちっ! ああ、そうだよ! お前の言うとおりカメラを探していた! お前らが楽しそうに語っていた
引っかかってくれた。あたしはカマをかけてみたんだけど、見事に自分で殺しを告白した。
あたしは一言も“殺人現場の写真”なんて言ってないんだけどな。
つまりこういうこと――。道脇は昨日の夜にあの林で女性を殺した事件の犯人で園子に写真を撮られたと思い込んでいる。
おそらく、殺しの最中に電車のパンタグラフか何かの反射をフラッシュだと思ってその方向を見ると、ちょうど花火大会から帰っているあたしたちを見たのだろう。
そのとき、たまたま園子がカメラを持っていたから、彼は写真を撮られたと勘違いして海で彼女をナンパした。証拠隠滅のために……。
あたしは彼のその勘違いを逆手に取ってカマをかけたのである。
さて、あとはさっき横溝警部に頼んで呼び出した県警の刑事さんが部屋の外で待っているから来てもらって……。
あれ? 入って来ないわね……。
「殺しの現場写真? えっ、てことは道脇さんがあの茶髪の女ばかり狙っている。きゃっ――!?」
「言っただろ? ヒドイ振られ方をしたって! そこから無性にハラワタを抉りたくなるようになったんだ。お前らみたいなチャラチャラした茶髪の女を見るとな! まさか見るからにバカそうなあの女に全部見透かさられるとは思わなかったが!」
刑事が入って来ないことを気にしていたら、園子がナイフを突きつけられて大ピンチになっていた。誰が見るからにバカそうな女よ……!
というより、なんつーヒドイ理由で人殺してんのよ……。
「殺人現場の写真なんて知らないわよ! やっぱり、あの林にあった死体は……」
「そうだ。オレが殺したんだ!」
「やはりお前だったか! 警察だ! その子を解放しなさい!」
道脇が昨日の殺人も認めたタイミングで刑事が入ってきた。遅いわね……、園子が人質にされる前に来てほしかったわ。
スキを見て麻酔銃で眠らせるしかないか……。
「ちっ、サツも居たのか! お前ら、動いたらこの女を殺す! ナイフを腹に振り落としてなァ……!」
「……なんで、なんで……、私に言い寄る男はいつも……」
園子は悲しんでいる。自分にせっかく好意を持ってくれる男性が現れたと思ったのに、こんな男だと知ればヘコむのも無理はないわ……。
ごめん……、園子……。あたしが余計なカマをかけたから、あなたを危険に――。
そのときだ――あたしは衝撃の光景を目にすることになる――。
「…………だから、言ってるでしょう。そんな格好で歩いてるから――」
「なんだ? 動くなって……、――っ!? ぐふっ! げはっ! ごふぅっ!」
それは鮮やかな蹴り技だった。信じられないスピードでナイフが蹴り上げられたかと思うと、瞬く間に道脇の腹に膝裏に……あらゆる場所に蹴りが突き刺さり、彼は園子を手放して気絶してしまった。
「嘘っ……、ナイフが振り下ろされるより早く動いて――一瞬で……!? こんなの蘭ちゃんでも出来るかどうか……」
蘭が犯人をボコボコにするところを何回も見たことがあるあたしだけど、彼は明らかにそれ以上に強かった。
何者なの……、この人は――。
「まったく、危なっかしい人だ。私がたまたま側に居たから良かったものを」
「たまたま、じゃないでしょ。園子ちゃんのことずっと気にかけてたじゃないですか」
「さすがは探偵さん。よく見てますね……。あの男は前にも2、3人声をかけていたので、ちょっと心配していました」
この人は海の家からずっと園子を気にかけていた。
さっきまで……、ずぅーっと。熱烈な視線を送っていたのだ。
「でも、どうして私を?」
「あなたは知らないでしょうけど、私はあなたを一度空手の試合会場で見ているんです。必死で友人を応援するあなたの姿をね」
「空手……、蘭ちゃんより強い……、色黒……、ま、まさか……」
あっ、あたしは馬鹿だ。この人が園子の彼氏になる京極真さんじゃん。
そりゃ強いはずだ。素手なら名探偵コナンで最強の人物じゃん。目の前で強さを確認するとちょっと引いちゃうくらい強かった。
「あ、それと、必要以上に男を挑発するその下着のような格好はできればやめるのをお勧めしたい……。もちろんあなたに好意を寄せる幾多の男のうちの一人の戯言として、聞き流していただいても構いませんが……」
「は、はい……」
京極さんのおかげで事件は解決。園子も最高で最強の男性を手に入れることが出来た。
彼は海外に武者修行に出かけたから遠距離恋愛になるんだってさ。まだ強くなりたいんだ……。
とにかく、園子にはいい夏の思い出が出来てめでたしめでたし――。
「アリス! 蘭! 野球部の練習試合に行くわよ! 相手校のエースがイケメンで有名らしいのよ!」
「ふえっ!? 園子ちゃん、京極さんは?」
「あれは、あれ。これは、これよ……」
「もう、園子ったら」
京極さ〜ん、もうちっと肉食系になった方がいいわよ。まぁ、彼女のことだから浮気はしないと思うけど……。
このカップルもこれから楽しみね――。
原作どおりにすると、ひたすら傍観してるだけなので、たまにはスピード決着させてみました。
次回はバスジャック事件です。
日常回を挟みつつ、ベルモット編を中心に進めたいですね。