工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった   作:ストロングゼロ

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赤井秀一初登場のエピソード。
原作とは色々と違う話になりました。


謎めいた乗客

「いや〜〜、哀ちゃんが一緒に旅行をオッケーしてくれるとは思わなかったわ」

 

「あなたが毎日しつこいくらい誘うからよ」

 

「まぁまぁ、哀くんもたまにはリフレッシュした方が良いじゃろう。ゴホッ、ゴホッ」

 

 博士が懸賞で当てたスキーツアーにあたしと哀は同行することになった。

 哀は最初は留守番をすると言って聞かなかったが、あたしが半ば強引に外に連れ出したのだ。

 

「もー、張り切ってスキーのハウツービデオなんてずっと見てるから。風邪引くのよ」

 

「若い君たちに負けたくなかったんじゃが……、ゴホッ、ゴホッ」

 

「自業自得よ。私も藤峰さんも止めたし」

 

「返す言葉がないのう」

 

 夜ふかしして風邪を引いた阿笠博士……。家で休むことを勧めたんだけど、美味しい料理も食べれるからって薬を片手に出てきた。

 悪化しないようにホテルではゆっくりしてほしい。

 

「でも、ホントに嬉しい。こうやって哀ちゃんと遠出するのが」

 

「……あなたは怖さを知らないから、そんな呑気なことが言えるのよ」

 

「まぁ、そうかもね。――っ!? あ、あの人、黒ずくめの――」

 

 哀は相変わらずあたしのことを呑気者扱いする。でも、警戒くらいしてるわよ。ほら、黒ずくめの男が来たわ……。気を付けなきゃ。

 

「違うわよ。匂いがしないもの。組織に染まった人間から発する独特の嫌な――、んっ……、何するの?」

 

「哀ちゃんいい匂いだなぁって……、あたしは好きだな。哀ちゃんの匂い」

 

「……バカなんだから」

 

 哀に抱きついてうなじの匂いを嗅ぐと、彼女はちょっと頬を桃色に染めてそっぽを向く。

 最近、こうやってスキンシップを取っても嫌がられなくなったけど、少しは仲良くなれたのかな……。

 

「でもさ、ピスコのときはどうだったの?」

 

「何となくわかってたわよ」

 

「えっ? じゃあ、教えてくれても良かったんじゃない?」

 

 嘘でしょ、あのときあたしはピスコの正体を見破るのに必死だったのに……。知ってたなら、早く言って欲しかった。

 

「自信がなかったのよ……、もう一人居たような気がしたから……ピスコよりも、もっと強烈で……魔性のオーラを纏ったような――」

 

「あー、なるほど。もう一人仲間が居たんだ。だから、ピスコは紫のハンカチを持ってたのね。やっと疑問が解決したわ。ん? 哀ちゃん?」

 

 そういうことか。あの会場に黒の組織の人間が他にも居たのね。

 だから、紫のハンカチを持っていたのか……。納得したわ……。

 てことは、枡山を除いた6人の中に黒の組織の人間が居たってことね。

 

「――うっ……、また……、この感じは……、藤峰さん……席を変わって。私を隠して……お願い……」

 

「……うん。大体わかった。組織の人間が近くにいるのね」

 

 哀は杯戸シティホテルで巨匠を偲ぶ会に潜入したときみたいに怯えた表情をした。

 組織の人間がこのバスに乗り込んで来たのね……。

 

「…………」

 

「黙ってていいわよ。あたしに任せて……。あの二人は……なるほど」

 

 哀は窓際の席に移ってフードを被って俯いている。

 今さら思い出したわ。あの6人の中でクリス・ヴィンヤードって人が黒の組織の一員だった。確かコードネームは――ベルモット。

 

 変装の名人であの人に化けているんだっけ……。

 

「おや、藤峰さんじゃないですか」

「Oh! アリスサ〜〜ン、偶然デスネ」

 

 バスにジョディと新出先生が揃って乗車した。そうそう、新出先生にベルモットって化けたんだよね。

 てことは、あたしの正体を知ってる? あの人って有希子の友達っぽかった気がする……ならば彼女と似てるあたしの姿から新一を連想するかもしれない。

 

 哀が前に言ってたネズミの性転換という実験結果を知ってたらなおさらだ……。取り敢えずあたしがとる行動は――。

 

「あはっ♪新出先生とジョディ先生じゃないですか! デートですか?」

 

「ザッツライト! 上野美術館でこれからデートシマス!」

 

「これは、連休明けのゴシップは決まりですね♡新聞部にビッグカップル成立と――」

 

 いつもどおりの自分を精一杯演じる。女優の彼女を騙しきれるかわからないけど、あたしが気付いてるということに気付かせてはならない。

 

 漫画の知識とか彼女は想像もしないだろうから警戒はされないだろうけど。

 

「勘弁してください。彼女とはたまたまバス停で出会っただけでして」

 

「およ、新出先生が女性に恥をかかせるとは思いませんでした」

「アリスサンの言うとおりデス。私じゃダメなのデスカ?」

 

「いやー、参ったな。藤峰さん、噂をばら撒くようなことはしないと信じてますよ」

 

「にしし、どーしよっかなぁ」

 

 うんうん。いつものあたしなら、こんな感じでからかうよね。

 自然体を演じるのって思ったより神経を使うわ……。

 

「アリスくん。知り合いかね?」

 

「うん。うちの学校の校医の新出先生と英語教師のジョディ先生だよ」

 

「ジョディ・サンテミリオンデース、よろしく」

 

「ゴホッ、ゴホッ……」

 

 ジョディが博士に挨拶をしたとき、咳をしている帽子を被ってマスクをした目つきの鋭い男がバスに乗ってきた。

 

「風邪流行ってるわね……、大丈夫……、安心して……」

「はぁ、はぁ……」

 

 哀はベルモットの気配に完全に飲まれてるみたいね……。組織の人間を判別できるのは便利だけど、ここまで精神的に追い詰められるのは考えものね……。

 

「今からもうスキーウェア? 気が早い人もいるもんね……、いや……ゴーグルまで付けてるのは……」

 

「騒ぐなァ! 騒ぐと命はないぞッッ!」

 

「「――っ!?」」

 

 スキーウェアにゴーグルを着た男が2人入ってきたことを不審に思った刹那、彼らは銃を片手にバスジャックをしようと動き出した。

 

 なんてことを……。ベルモットとかFBIとか色々いる中でこんなこと――。ああ、外出すると面倒が起きるコナンの体質が恨めしい。

 

「きゃあああッ!」

「あの銃弾……、本物の銃ってことね……」

 

 撃ち出された弾丸はバスに穴を空ける。本物の拳銃だ。

 下手に動けば死人が出るわね。コナンとは違ってあたしは大人だから軽率な行動は子供の悪ふざけでは済まない。

 落ち着いて、慎重ならなきゃ……。今、あたしがすべきことを考えるのよ……。

 

 

「とりあえず、扉をしめて、行き先を回送中にして適当に都内を走らせろ!」

 

「は、はい」

 

「さてと、携帯電話を預からせて貰おうか。隠すなよ。隠せば一生電話をかけられないようにしてやるぜ」

 

 バスジャックの男たちは拳銃を突きつけ、運転手にバスを走らせ、あたしたちの携帯電話を回収しようとした。

 参ったわね。外部との通信手段が断たれるのは痛いわ……。

 

 一人ひとり銃で脅されながら携帯を男に差し出す。さて、あたしの番が回ってきたか……。

 

 

「け、携帯ですかぁ? えっと、どこにやったっけ? ううっ……、すぐに出しますのでぇ」

 

「早くしろ!」

 

 あたしは涙目になりながら、テンパったふりをして携帯が見つからない演技をした。

 伊達に普段からぶりっ子を演じてはいない。これくらいは慣れたものである。ここはなるべく無害な人間を演じることが肝心だ。

 

「ごめんなさぁい。ぐすっ……、ぐすっ……、ここにも無いし……、ああ、ありましたぁ。これが1つ目の携帯で〜〜す」

 

「まだ、あるのか!」

 

 あたしは時間をたっぷりかけて1つ目の学校用の携帯電話を差し出した。

 実はあたしは携帯を2台持ちしてて、もう一台、探偵の仕事用で使っている携帯を持っている。

 この携帯には目暮警部や高木刑事に佐藤刑事など警視庁の刑事たちの番号から横溝警部など地方の刑事の番号まで入っている重要なアイテムだ。

 

「あ、はい。い、急がれてるなら、他の方のを先に回収されます? 探してますから……」

 

「ちっ!」

 

 あたしは一生懸命にトロい感じの女を演じてバスジャックの男を先に行かせた。

 よし、彼は後ろを向いているし、もう一人の男は運転手に銃を向けていて座席で隠せば携帯は見えない……。

 

「……さて」

 

「おい! お前! 何をしてやがる!」

 

 隠れて目暮警部に電話を発信させたとき、大声を上げた男に後ろから肩を掴まれた。

 あれま、さっそく下手打ってんじゃん……あたし。でも、落ち着かなきゃね……。

 

「ひぃっ!? す、すいませぇん。彼氏から着信があったので、ついいつものクセで〜〜。ほら、あたしの彼氏の十三クンから……。いやーん、あ、あたしったら間違って発信押しちゃってた〜〜。――ご、ごめんなさい、ごめんなさい。バスジャックされるなんてぇ、初めての経験なんです〜〜」

 

 あたしは死ぬほどビビりながら泣くふりをして、彼にあえて発信中の電話を見せた。

 目暮警部は十三くんで登録してるので、パッと見では警察に電話してるようには見えないし、警察に電話してる人がバスジャック犯にわざわざそれを見せるとは思われないだろう。

 

 そして、自分も大声を上げることで目暮警部の声をかき消し、バスジャックに遭っている状況だけ一方的に伝えて電話を切る。

 

「うるさい! さっさと、それを寄越しやがれ! ったく、バカ女が!」

 

「ふぇ〜ん、バカって言われた〜、ぐすんっ……」

 

 あたしは泣きながら2つ目の携帯を手渡して、演技を続ける。

 とにかく警戒されないように徹底しなきゃ。牙を見せるときは連中を仕留めるときだ。

 

「くそっ! 余計な時間を――。――っ!? がっ……!」

 

「先生……?」

 

「この女!」

 

 そんなことを考えてると、ジョディが携帯を回収し終わった男を足で引っかけて転ばした。

 うわー、大胆なことをするわね……。

 

「Oh! ソーリー、オーマイゴッド、What have I don't……」

 

「もういい! 変な女ばかり乗り込みやがって!」

 

 あたしたちはあ然としていたが、ジョディはまくし立てるように英語で謝罪をして、手を握るふりをしながら、相手の拳銃の安全装置をかける。

 さすがはFBIね。銃に対しての対応が上手い。

 

It's very very exciting(ワクワクしてきたわね)

 

「くすっ、Me too(わたしもです)……」

 

 とりあえず、ジョディは頼もしい仲間だ。彼女と連携しながらこの事態を何とかしたい――。

 

 

 

「たった今、あんたのところのバスを占拠した。要求はただ一つ。現在服役中の矢島邦男の釈放だ。出来なければ、一時間毎に乗客の命が一人ずつ亡くなると警察に伝えろ! 20分後また連絡する。それまでに準備を済ませておけ!」

 

 ここにきて、ようやくバスジャック犯の目的が明らかになる。

 矢島邦男――先月、爆弾を作って宝石店を襲った強盗グループの一人……。ということは、この人たちもその強盗グループの……。

 確か、強盗グループは4人組で捕まったのが矢島だけだったのよね……。彼は元宝石ブローカーと聞いたわ。

 

 ――なるほど、奪った宝石が捌けないからボスを奪還しようってことか……。

 矢島の仲間は3人居るのにバスジャック犯は2人しかいない。そして、あたしが2つ目の携帯で電話しようとしたとき――2人の死角を突いたのに、すぐさまその行為がバレてしまった。

 

 てことは、おそらくもう一人仲間がいるってことね。

 あたしの後ろの座席のうちの誰かが宝石強盗犯のはず。まずはそれが誰なのか特定しないと動きが取れないわ……。

 

 

 それから、20分は直ぐに過ぎて、バスジャック犯は再び連絡を入れた。

 

「へっへっへ……、そうか……解放する気になったか……。1時間後に矢島に連絡させろ。奴が安全な場所に逃げられたことを確認したら……まずは人質を3人解放する。いいか、くれぐれも下手な真似するんじゃねーぞ」

 

 どうやら、矢島は解放されたらしい。とすると、彼らがやることと言えば逃げることだけど……。

 スキー袋を2つ――バスの通路に並べて置いたわね……。あの中身はまさか……。

 

 あたしは見られていることを想定しながら、バスジャック犯が後ろ向きになっているところを見計らってスキーバッグを覗き見た。

 

「おい! 何をしている!?」

 

「……き、緊張を紛らわそうとガムを噛もうとしたら、落としちゃって……、ぐすん……、ご、ごめんなさぁい」

 

 すぐさま、バスジャック犯はあたしに近づいて拳銃を向けながら怒鳴ってきた。

 あたしはワザと落としたガムを拾おうとしていると主張しながら謝る。

 

「てめー、大人しくしてねーんだったら、永遠に眠らせてやってもいいんだぜ!」

 

「ふぇっ!? そ、そんなぁ。あ、あたし……、まだ死にたくない……」

 

「やめてください! 彼女は謝ってるじゃないですか! それにあなたたちの要求は飲まれた。殺しなんてしたら、計画に支障が出るのではないですか!?」

 

 苛ついているバスジャック犯が銃を持つ手に力を入れると、新出先生が身を呈して守ってくれた。

 なんで、あたしをこの人が庇ってくれるんだろう……。

 

 

「なんだと、この青二才! お前から死ぬか!」

 

「バカ! 下手なことをして、あれに当たってみろ! とっとと戻ってこい」

 

「……そ、そうだな」

 

「……ふぅ。やばかったわ……、やっぱ目立った動きをするのは控えなきゃね……」

 

 スキーバッグに銃弾が当たるとまずいということは、やっぱり中身は爆弾っぽいわね。

 となると、いよいよ選択肢を間違うと大惨事が起こるわ……。

 

「はぁ、はぁ……、うう……」

 

「哀ちゃん……」

 

「無茶はダメネ、アリスサ〜ン。グッドチャンスはすぐにキマ〜ス。Oh? 怖がらなくてもダイジョーブ。赤ずきんチャン、お名前は……?」

 

 ジョディに無茶しすぎだと怒られた。確かにちょっと攻め過ぎたかもしれない。

 赤いフードを被ってる哀を赤ずきんちゃんと気にかける彼女だが、哀はあたしの手をギュッと握りしめ何も言わないようにと無言で訴える。

 

「――そんなことより、前を向いた方がいいかもしれませんよ。先生」

 

「おい! 何をやっている!?」

 

「ジョディ先生……、あまり彼らを刺激しない方が……」

 

「イエース。わかりマシタ。Let's talk about it later(また後で話しましょ)

 

 あたしと新出先生がジョディに前を向くように促すとそれ以上なにも聞かれなかった。

 

 とにかく、哀は新出先生に扮するベルモットを警戒して身動きが取れない。でも彼女は得体の知れない奴だから、知らんぷりするしかない。

 

 それよりもバスジャック犯のもう一人の仲間の特定ね……。

 後ろの座席に居る三人の乗客で一番怪しいのは音を出しているマスクの男だけど――咳なら博士もしてるし、音もほとんど同じ。あたしがバスジャック犯なら、判別しやすいように博士を移動させるなりするわ。

 

 音ならガム噛んでるあの女も出してるけど、咳の音のほうが大きい。あとはあの黒ずくめの男の補聴器がワイヤレスの通信機ということも考えられるけど……、バスジャック犯は2人ともイヤホン付けてないし、声なんてブツブツ出してたら両隣の二人が怪しむはずよね……。

 とにかく最後尾に座っているあの三人のうちの誰かがバスジャック犯の仲間に違いないわね……。

 

 

「おい! ジジイ! 何をしてやがる!」

「せ、咳止めの薬を……」

 

 また察知した。阿笠博士が薬を飲もうとするとすぐに彼らは気付いてやって来た。

 やはり何かしらの信号を飛ばしているのね……。一体どうやって……。

 

 

 

「じゃあ、3日後……いつもの場所で落ち合いましょうや」

 

 奴らのボスである矢島が解放されたみたい。目的を達成した奴らが次にすることは警察がマークしているこのバスから逃亡することだ。

 バスだってガソリンが有限なんだからいつまでも走らない。

 給油なんて悠長なマネはしたくないだろうし……どうするつもりなのかしら……。爆弾を置いていることも気になるわ。

 

「よし、運転手。首都高に乗って中央道に入れ」

 

 高速に入る……? ますます袋のネズミになるような気が……。

 んっ……? あれって……。あたしは窓の外を飛んでいる風船を見てあることに気付いた。

 

 

「おい! そこの青二才! そして、後ろのマスクの男! こっちに来い!」

 

「「――っ!?」」

 

「何をしている? 早くしろ! 殺されてぇのか!?」

 

 高速に乗ると連中は新出先生と最後尾に座ってたマスク男を呼びつけた。

 なるほど……、そういうことか……。だからこいつら……。

 ともすると、思った以上にヤバい状態ね。あいつらの計画が成功すれば、あたしらは全員死ぬ……。

 さて、どうやってこの状況を打破するか……。あたし一人じゃ無理だわ。手助けしてもらうしかない――。となると、頼りはジョディと博士ね。

 

 あたしはチョーカーのダイヤルを捻って、博士の眼鏡に内蔵している通信機と交信する。

 

「博士……、博士……、聞こえる……? 聞こえたら黙って頷いて……。これから話すことをよ〜〜く聞いてね――」

 

 博士は通信機からあたしの声を聞き頷いてくれたので、これから行う作戦について話した。

 失敗は許されない。あたしはこれから勝負を仕掛ける。

 

 

「あとは……ジョディ先生に……」

 

 さらにあたしは座席の下から彼女に作戦内容を書いたメモを渡した。

 読み通りならトンネルで連中は行動を起こすはず――。

 

「お前ら、このスキーウェアに着替えて座れ。おっと、ゴーグルも忘れるなよ」

 

「少しの間、オレたちの身代わりになって時間を稼いでもらうぜ。解放された客に紛れて逃げるオレたちのための時間をな。心配しなくてもお前らの無実は他の乗客が教えてくれるさ」

 

 トンネルに入ってバスジャック犯は二人にスキーウェアとゴーグルを身につけるように命令した。

 そう、彼らの作戦は解放した人質に扮してここから逃げること。新出先生とマスク男を身代わリにして……。

 大胆な作戦だが、これはまだ連中の作戦の半分だ。

 

「運転手、お前がオレたちの指示どおり動くために人質を1人取らせてもらうぜ。――さて、誰にするか……。一番後ろのガムの女! 前に来な。お前を人質にする!」

 

「は、はい……!」

 

 ガムを噛んでいた女が人質として選ばれて彼の元に行こうとする。

 彼女は怯えながらも、バスジャック犯たちの方に向かっていく。

 

 下手ね――怯える演技が……。見てられないわ……。

 

「……さて、と。あんたらの思い通りにはさせないわよ」

 

「――っ!?」

 

 あたしはガムの女に麻酔銃を撃つ。彼女は一瞬で眠りにつき倒れそうになるので、あたしは彼女を抱き止めた。

 そう、この女がバスジャック犯の仲間だ。彼女は不審な行動を発見すると風船ガムを割って知らせ、ガムを取る手の左右と指の数で座席の位置を仲間に教えていたのだ。

 

 バスジャック犯は、この女を人質にしたフリをしてバスを降りたら、起爆装置を使ってバスを爆破して全員の口封じをする計画を立てている。

 そうなれば、警察は何かしらのアクシデントで爆弾が誤って爆発したと判断し彼らは逃げ果せるだろう。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 あたしは女を介抱するフリをしながら声をかける。バスジャックの男たちは突然彼女が倒れたので困惑しているみたいだ。

 

「ど、どうした!? おいっ! 何があった!」

 

「わかりませ〜〜ん! 急にこの人、倒れちゃって……、ぐすっ……、あたしで良ければ代わりに人質になりますからぁ……、この人は助けてあげてくださぁい」

 

「ええいっ! お前なんかどうでも良いんだよ!」

 

 あたしが泣き真似をしつつ、バスジャック犯をこちらに誘導する。

 そりゃ、あたしなんか人質にしても仕方ないわよね。こちらに向かってきたのは、ジョディが銃の安全装置をかけた方のバスジャック犯だ。

 

「今よっ!」

 

「がっ――! 何しやがる!?」

 

 バスジャック犯がジョディの横を過ぎ去ろうとしたとき、足払いをされてすっ転んだ。

 

「テメー、覚悟は出来てるんだろうな! なっ――!? た、銃弾(たま)が――」

 

「バカね……。トカレフは撃鉄を軽く起こして中間で止めると安全装置がかかるのよ? これくらいジャックする前に勉強しておきなさい……」

 

「なんだとッ……!?」

 

 すかさず起き上がって彼女を撃とうとする彼だけど、拳銃から弾丸は当然出てこない。

 彼は動揺してフリーズしてしまう。トンネルで車内が暗いのでもう一人の仲間も状況が飲み込めてないみたいだ。

 

「ジョディ先生、カッコいい♡」

 

「ぐはっ……」

 

 バスジャック犯の男はジョディの強力な膝蹴りで昏倒した。

 さぁ、このバスを解放できるまでもう少しよ……!

 

「あと一人ね♪」

It's like a spy movie(まるでスパイ映画みたい)!」

 

「こいつら! ぶっ殺してやる! なっ、あのジジイと女……! 爆弾を盾に――」

 

 最後のバスジャック犯は怒りに声を荒げたが、銃を簡単に使えないことに気付いた。

 あたしと博士がそれぞれ彼らがスキーバッグに入れた爆弾を盾にして立っているからだ。

 トンネルの中で視界が悪いのに拳銃なんて正確に撃ち込めるはずがない。間違って爆弾を爆発させれば自分も死ぬのだから。

 

 つまりこのトンネルを抜け出すまでが勝負――。

 

「急停車! 運転手さん、早く!」

 

 あたしが拳銃がこちらを向いたのを確認して運転手に急停車を指示する。

 運転手はトンネルの出口寸前でブレーキを踏み、バスを止めた。バスはトンネルから出たところで車体が止まる。

 

「うわっ――!」

 

「よしっ!」

 

 バスの急停車の勢いによって、男は立ってられなくなり倒れてしまった。

 あたしも博士も爆弾を必死に倒さないように踏ん張り、何とか耐える。さて、とりあえず爆弾は床に置いて――あの男を……。

 

「くそっ! この(アマ)ッ!」

 

「仕方ないキック力増強シューズで……、――っ!?」

 

 出来ればベルモットが見てる中で切り札は使いたくなかったが、思ったよりも男が体勢を立て直すのが早かったのであたしはそれを使うことを覚悟した。

 

 そのとき――。

 

「ぐはっ……」

 

「何、あの手刀……!?」

 

 マスクの男が恐ろしい速度の手刀をバスジャック犯の首に見舞う。

 あたしじゃなきゃ見逃すほどではないけれど、あの動きは只者じゃない。まさかあの人って……、ええーっと超重要人物の……。

 

 

 

「よしっ! これで事件は解決♪ ねぇ、哀ちゃん……」

 

「――はぁ、はぁ……、ううっ……」

 

 あたしは哀にバスジャック事件が解決したと声をかけたが、彼女は明らかに精彩を欠いている。 

 そうよね……。解決したということは彼女と――。

 

「きゃあああっ! 今の衝撃で! 爆弾の起爆装置を押しちゃったわ! 早く逃げないと! 爆発する〜〜〜!!」

 

「――っ!?」

 

 そんな中で起爆装置が起動したという声がバスの中に響き渡り、あたしたちは急いでバスから脱出した――。

 

 

 

「こちら、佐藤……。トンネルの出口でバスは急停車した模様……。――っ!? アリスちゃん! 目暮警部が言ってたとおりバスに乗ってたのね! これは、一体どうしたの!?」

 

 バスの近くで車を止めて様子を窺っている佐藤刑事があたしに声をかける。

 よかった。周りに警察の人が集まってくれてるみたいね。

 

「爆弾の起爆装置が作動したみたいです! 周辺に人を近付けないでください! あ、あとバスジャック犯、三人の検挙をお願いします!」

 

「わ、わかったわ!」

 

 あたしは口早にバスジャック犯の検挙とこの場から離れることを佐藤刑事にお願いする。

 犯人は警察に捕まり、乗客たちや周りの車両はここから離れていった。じゃあ、あたしはこれから――。

 

 

 

 

(あ〜い)ちゃん♪やっぱり逃げ出さなかったのね」

 

「藤峰さん……! 何で来たのよ?」   

 

 哀は逃げずにバスの座席に座っていた。そして、戻ってきたあたしに驚いた表情をしている。

 

「よっこいしょ……、そりゃ哀ちゃんとお話するためよ」

 

 あたしは彼女の隣に座って彼女の手を握りしめた。哀の手は血の気が引いているのかとても冷たい。

 

「何くつろいでるのよ! 早く逃げなさい。私だけ死ぬのが最善策よ。この場は助かっても、事情聴取の時に否が応でもあの人と鉢合わせになる。このまま私が消えたら、彼らから見た組織とあなたや博士の接点は消滅するから……」

 

「…………」

 

「ホントはわかってたの……。組織を抜けた時から、私の居場所なんてどこにもないことは……。わかってたのに。バカなのよ、私……、あなたと出会って……、今の生活が好きになってしまってた……。でも、もう終わらせないと――。――っ!? 何、してんの?」

 

 哀はそれなりにあたしとの生活を気に入ってくれてたみたい。それだけであたしは嬉しくて、彼女をゆっくりと抱きしめる。

 

「もーう。まだそんなこと言ってる。哀ちゃん、そろそろ諦めなさいよ」

 

「だから、諦めてるでしょ。生きることを……」

 

「じゃなくて、死ぬことよ。あたしはあなたと運命を共にするし、博士も覚悟は出来てるわ。繋がりってあなたが思ってるほど簡単には切れないの」

 

 彼女がどんなに逃げたくても、切りたくても、そんなことをあたしはさせない。

 あたしの中で彼女の命はそんなに安くない。理屈じゃなくて感情で動いているけれど、それが間違った選択ならあたしは喜んで間違える。

 

「だからって、こんな心中するようなマネしないでもいいでしょ? このままだと、このバスは爆発して2人とも死んじゃうのよ!」

 

「死なないよ? 起爆装置の時計はあたしが彼女から奪ってるし。そのあとで、あたしがこうやってあの女の声で“爆発する”って……、言ったんだもん」

 

 哀が心中という言葉を持ち出すものだから、あたしはポケットからガムの女が持っていた起爆装置の時計を取り出して、チョーカーの変声機を使って爆発の話をしたことを打ち明けた。

 

 そう、起爆装置なんてそもそも作動していない。

 彼女があたしの横を過ぎるとき1時という表記の腕時計をしていてピンときたのだ。これは起爆装置だと……。おそらく起動すると1分で爆発する仕掛けなのだろう。

 

「はぁ〜〜〜? な、な、何のためにそんなことを!? あなたのことバカだと思ってたけど、こんなにバカだなんて」

 

 なぜこんなことをしたのかと、今までにないくらい呆れたような声を出す哀。

 いや、なんでって言われても――。

 

「だって、こうでもしないと腹割って話せないでしょう? もう死にたいなんて言わないでよ……。あたしは哀ちゃんのこと家族だって思ってんだかんね! 哀ちゃんの居場所ならあたしがなるからさ……」

 

 バスジャック事件の事情聴取が行われる前に人払いをして、彼女とキチンと話したかった。

 哀に自分さえ死んだらとか考えて欲しくなかった。

 彼女にはあたしと一緒に前を向いて欲しい。孤独なんて感じて欲しくない……。

 

「…………はぁ、よく考えたら私が死んだら、あなたみたいな甘い人――直ぐに組織に殺されそうよね……」

 

「哀ちゃん……?」

 

 哀は諦めたような口調であたしが簡単に殺されそうだと口にする。

 まぁ、確かに黒の組織の非情さは怖いけど……。

 

「起爆装置を持っていても何がきっかけで爆発するかわからないから……、早く出るわよ。()()()……」

 

「うん♪ じゃあ、ちょっとズルいことするわよ」

 

「ちょっと? 何を?」

 

 このバスから出ようと声をかけた哀をあたしは抱き上げて、車外へと足を進める。

 じゃあ、奥の手を使うとしますか……。

 

 

 

 

「アリスちゃん、無事で良かった。バスはまだ爆発して……ないみたいだね」

 

「高木さ〜〜ん。お願いなんですけどぉ……聞いてくれますぅ?」

 

 あたしは現場付近に来ていた高木刑事の姿を発見すると、哀を抱えたまま彼の近くに駆け寄った。

 そして、甘えるような声で彼に声をかける。

 

「えっ? な、なんだい?」

 

「この子なんですけど、熱と吐き気があるみたいで……病院に連れて行って欲しいんですぅ……。事情聴取は隣に座ってたあたしで十分ですし」

 

「返事を聞く前に車に乗せるんだね……」

 

 あたしは高木刑事が乗っていた覆面パトカーに哀を乗せながら、病院に連れて行って欲しいと頼み込んだ。

 事情聴取でベルモットと鉢合わせるのが怖いならそれをさせなきゃいい。あたしならそれが出来る。

 

「今度、佐藤刑事が最近ハマってるケーキ屋さんのケーキ教えますよ……」

「……ま、まぁ、わからないことがあったら後日聞けばいいし。アリスちゃんが隣に座ってたなら証言も問題なさそうだ。わかったよ」

 

 高木刑事の弱点は知ってる。佐藤刑事の情報をチラつかせながらあたしは彼に哀のことを託した。

 

「ありがと〜♡高木さん! 大好き!」

「ははっ……、佐藤さん見てないよね……? じゃ、じゃあ急いで病院に行ってくる!」

 

 彼に飛びついてお礼を言うと、高木刑事は佐藤刑事の視線を気にしていた。

 この人たちの恋愛事情もかなり面白いのよね〜〜。

 

「……哀ちゃん。今度こそは楽しいお出かけをしましょ」

 

 あたしは高木刑事と哀を見送って、ひと息ついた。

 ようやく事件が解決したという達成感に浸りながら――。

 

 

 

「ミステリアスガール……、本当に不思議デ〜ス。――ナゼ、英語の先生の私にあんな指示を出しマシタ?」

 

 哀を見送ったあたしにジョディはストレートに自分の疑問を伝えてきた。  

 あたしが手放しに彼女の能力を信じたことが不思議なのだろう。彼女は彼女なりにそれをカモフラージュしてるのだから。

 

「えっ? ええーっと、そうですねぇ。I'm sorry,I can't tell you(残念だけど教えられないわ)……A secret makes a woman woman(女は秘密を着飾って美しくなるんだから)……」

 

「――っ!?」

 

 新一の母、有希子が好きな英語のセリフをカッコつけて言ってみる。

 すると、ジョディは目を見開いてあたしを見た。あれま、なんか滑ったみたいな雰囲気になってるわね……。

 

「冗談ですよ♪もっと仲良くなったら教えてあげます。先生(せ〜んせい)♡」

 

「……Oh! アリスサンはお人が悪いデス」

 

 あたしは彼女にハグをして冗談だと告げると、ジョディは困ったような顔をして微笑む。

 

「うふふ……」

 

「藤峰さん、大丈夫ですか? 無茶しすぎですよ。探偵とはいえ、まだ高校生なんですから」

 

「あはっ、新出先生、あのとき庇ってくれてありがとうございます。やっぱ、恋人にするには先生みたいな人がいいかも♡」

 

 新出先生はベルモット……のはずだけど、さすがの演技力なのか完璧に彼にしか見えない。

 だけど、そのおかげであたしも彼として接することが容易にできる。

 

「大人をからかわないで下さい。でも、怪我はなさそうで良かったです」

 

「……うん、ホントに良く無事だったなぁ、あたし。さ、早く行きましょ、事情聴取は多分長くなりそうですよ♪」

 

「わっ! 藤峰さん」

「アリスサン!」

 

 あたしは笑いながら二人の手を掴んで走る。

 何が本当で何が嘘なのか……騙し合う戦いなのかもしれないけど、自分の中で絶対だと思うことを信じていこう。

 哀ちゃん、大丈夫だよ。あたしは誰にも負けるつもりはないからね――。

 




久しぶりにぶりっ子満載のアリスでした。
バスジャック犯がアリスが探偵だと気付かなかったのは彼女の演技力とご都合主義のおかげということで……。
新出先生=ベルモットに気付かせるかどうか迷ったのですが、気付いた方が自然なのでそうしました。

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