工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった   作:ストロングゼロ

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ジェイムズ・ブラック初登場回です。


シカゴから来た男

「あー、楽しかったわー。やっと哀ちゃんと二人っきりでデート出来たね〜〜」

 

「はしゃぎ過ぎ……、その辺の子供よりも興奮してたじゃない」

 

 あたしと哀は二人でポール&アニーのアニマルショーという、動物たちがサーカスのようなことをする興行を見に行った。

 哀に初デートだねって、言ったらちょっと照れてたのが可愛い。ショー自体はとても面白くて何度も歓声を上げてしまった。

 

「あはは、でもあのホワイトライオンのレオンくんの芸達者ぶりは誰だって感動するでしょ」

 

「よく躾けられてたとは思うけど……。……なによ」

 

「とか言って、レオンの記念ストラップをちゃんと買ってる哀ちゃんが可愛いなぁって」

 

 そっけない顔をしながら、きちんと人気者のレオンくんのストラップを一緒に買ってくれた哀。

 あたしがそんな彼女の顔を眺めていると、彼女は目をそらす。

 

「べ、別にいいでしょ。あなたが思い出に……とか言うから……」

 

 でも、哀もあたしと出かけたことは楽しいと感じてくれたのか、思い出は大事にしようとしてくれてるらしい。

 

「あら、あの人だかり……」

 

「ランディ・ホーク……、このショーのスポンサーね。石油を掘り当てたお金で世界中の動物を集めて、その趣味が子どもたちに伝染していつしか世界を股にかけて動物ショーをするようになったっていう」

 

 あたしたちの目の前で記者たちが外国人を取り囲んでいた。

 その外国人を哀はあたしにさっき見たショーのスポンサーであるランディ・ホークだと説明する。あー、この前テレビで見たような……。

 

「へぇ、詳しいじゃない。やっぱり今日のこと楽しみに――」

「勝手な想像しないで、ほらパンフレットに書いてあるでしょ。ボディガードをつけないのは代々カウボーイの家系だから自分の身は自分で守るんだって。だからマスコミに簡単に囲まれるのよ」

「ふーん。でも、そんなタフガイそうな感じじゃないね。明らかに困った顔してるもん」

 

 ランディ・ホークはカウボーイの片鱗も見えないような困り顔だった。

 ちょっと記者に囲まれたくらいで動揺しすぎじゃない? あれなら小五郎の方がハートは強そうだ。

 

「ワタシ、ホークサンではアリマセーン」

 

「またまた、ジョークがお好きなんですから!」

「今回、3年ぶりの来日ですが日本の感想はいかがですか?」

「日本のファンに何か一言!」

 

「ホークさん!」

「教えてくださいよ」

「ホークさん、頼みますよ!」

 

 彼は自分のことをホークではないと主張するが、記者たちはそれを信じない。

 それどころか、彼を質問攻めにしていた。

 

I can't answer your questions(あなた方の全ての質問に) at the same time(一度に答えられません)!」

 

「自業自得ね。こっちはボディガードを付けたくてもつけられないのに」

 

 記者たちに耐えかねた彼が英語で抗議するも、質問攻めは終わりそうもない。

 哀は自業自得と言うけれど――。

 

「まぁまぁ、困ってるんだから助けてあげましょ。勘違いで質問攻めは可哀相だし」

 

「勘違い?」

 

「ちょっと失礼。先生の依頼人に何か用事ですか?」

 

 あたしは記者たちをかき分けて彼の元に行って、彼を小五郎の依頼人ということにした。

 記者たちは一瞬だけ静まり返る。

 

「依頼人?」

「先生?」

「なんだ? 君は?」

 

「私は毛利探偵事務所の助手を務めております。藤峰愛梨寿です。彼はトーマスさんという方で、毛利先生の依頼人でここで待ち合わせをしていたのですよ」

 

 あたしは名刺を記者たちに配りながら、彼の名前を適当に述べてここで待ち合わせをしていたことにする。

 それなりに顔は売れてきたから報道関係者なら誰かしらあたしのことを知ってるだろう。

 

「も、毛利探偵の助手? 藤峰って、確か……」

「あの女子高生探偵だ――!」

「ズバリの小五郎の懐刀で本人も数々の事件を解決してるっていう!」

「この前、バスジャック事件を解決してたよな! 顔小さい……生で見るとこんなに可愛いんだ」

「取材したことあるから、本人で間違いない」

 

「ごめんなさい。記者さんたち。今日は仕事中なので、また何かありましたら毛利探偵事務所の宣伝お願いしますね♡ さ、行きましょ、トーマスさん」

 

 あー、良かった。誰それ……? みたいなこと言われないで。

 おかげでこの人を記者たちの元から解放出来たわ……。

 

 

 

「サンキューベリーマッチ! ホークサンとニテルとは言われたことはよくアリマスが、こんなにマチガワレタのはハジメテネ」

 

「いえいえ、ショーを見に来ただけであんな目に遭うのは可哀相でしたから。お好きなんですか? ポールとアニーのアニマルショー」

 

「オウ、イエス! 彼らのショー最高デス。それにこれがドウシテモ欲しくてネ。ニッポンに来たのデス」

 

 ホークと間違われた男はポール&アニーのアニマルショーの大ファンらしく、このために日本に来たとレオンのストラップを見せてきた。

 へぇ、熱心なファンもいるんだな〜。あのショーって……。

 

「あっ! そのストラップ、あたしたちも買いました」

「でも、それって世界中で大人気って聞いたけど。わざわざ日本に来るほどのものかしら」

 

「ノーノー、ストラップの裏を見てくだサーイ。インジャパンって書いてあるデショ? それ買えるのニッポンだけデース」

 

 哀がストラップは世界中で買えると指摘すると、彼はコレクターなのか日本のバージョンが欲しかったと主張する。

 こりゃ、筋金入りのファンだわね……。

 

「そういえば、なんでこの人がランディ・ホークじゃないって分かったの?」

 

「ああ、それはこの方が“can't”を“カント”って発音してたからよ。あれはクイーンズイングリッシュ。つまり英国訛りってことね。代々カウボーイの家系でバリバリの南部訛りのランディ・ホークがこんな喋り方をするのは変だもん。あと、写真と顔が違うし。似てるっちゃ似てるけど」

 

 要するに出身地が明らかに違うってことと写真の顔との差異から別人と判断しただけのことだ。

 これくらいの観察が出来なくて探偵は務まらない。

 

How perceptive of you(素晴らしい推理力だ)! 私の名前はジェイムズ・ブラック! お嬢サンは有名な探偵と聞きマシタがもう一度、お名前を聞かせてクダサーイ」

 

「藤峰愛梨寿です。こちらで探偵事務所の助手をしてますから、御用があれば是非よろしくお願いします」

 

 へぇ、ジェイムズ・ブラックっていうんだ。この人……。

 これは間違いない。覚えてるわよ、この人の名前は……。ジョディや、この前のバスジャックのときに出会った赤井秀一の上司だ。

 つまり、この人はFBIってことね……。

 

「アリスさんデスネ。実はフレンドとあそこで待ち合わせしてたのデスガ……長髪の男を見まセンデシタ?」

 

「いいえ、見ませんでしたが……。哀ちゃん、見た?」

「あんなにたくさん観客が居たのよ。把握しきれないわ」

 

 へぇ、長髪の男か……。誰のことだろう? 赤井秀一は短髪だったし……。ダメだ……、覚えがない……。

 

「そうデスカ。では、フレンドとのランチは諦めるとして、どうですか? お嬢サン方、ワタシの知っているとっておきのお店のとってもオイシイランチでも」

 

「あら、まさかこんなに歳上のオジサマにナンパされるとは思いませんでした。哀ちゃん、暇だし構わないわよね?」

「好きにしたら。あなたも物好きね」

 

 ジェイムズがあたしをランチに誘ってくれたので、それに乗ることにする。

 これから黒の組織と戦うにあたって、彼らの力はどうしても必要になるだろうし、彼の人となりを知っておくのは悪くないだろう。彼はカタコトおじさんを演じてるけど……。

 

「では、レンタルしたワゴンを取ってキマスので待っていてクダサイ。運転、ガンバリマス。右ハンドルとってもムズカシイ」

 

「へぇ、ジェイムスさんって今はイギリスに住んでないんですね。右ハンドルに慣れてないってことは……」

 

「イエース。生まれはホームズのいたロンドン……。育ちはシカゴ……The windy city where capone starred(カポネがいた町さ)……」

 

 ジェイムズの個人情報なんてみーんな忘れてる。よく考えたらFBIなんだからアメリカに在住してるに決まってるか……。

 

「ねぇ、あの人……、何か感じない?」

「んー、悪い人には見えないかな?」

「ふーん、だったら良いけど」

 

 警戒心の強い哀はジェイムズが怪しいと思ってるみたいだ。

 そりゃそうよね。あたしだって、ジョディも赤井秀一もジェイムズもみんな悪い人だと思ってたもん。

 

 

 そして、あたしたちは思いっきり待たされた――。

 

 

「遅い……、もう40分も経ってるわ」

「あの口ぶりだと近くの駐車場って感じだもんね。哀ちゃん。ここで待っててくれる? ちょっと見てくるわ」

 

 あたしはあまりにも待たされたので、付近のコインパーキングを探してみることにした。

 なーんか、事件の予感しかしないのよね……。

 

 

 

「で、この駐車場に止まってるワゴンがジェイムズさんの借りてたレンタカーってこと?」

 

「まず間違いないと思うわ。“わ”ナンバーのワゴンでレオンのぬいぐるみまで乗ってたし。何より鍵が挿しっぱなしで空いてたのよ。ドアが……」

 

「あなたじゃなくても事件を疑う状況ね」

 

 はい。やっぱり事件っぽい状況になってました。

 レンタカーの鍵挿しっぱなしってどう考えてもそういうことでしょう。何が起こったって言うのよ……。

 

「でしょ? 一番考えられるのはホークさんに間違われての誘拐とか……かしら」

 

「お姉さ〜〜ん、その車の人と知り合い?」

 

「ええ、お友達よ。外国人の方なんだけど、もしかして心当たりってある?」

 

「うん。コートを着た男の人が二人、その人を連れてあっちに行っちゃったのを見たよ」

 

「あっちに……? ありがとう! ボウヤたち!」

 

 駐車場の近くで遊んでいた男の子たちがジェイムズがコートを着た男と共に路地を歩いて行ったとあたしたちに教えてくれた。

 やはり、予想通り誘拐か……。ならば犯人たちの目的はおそらく――。

 

 

 

「これは……」

「レオンのストラップ……。彼がここでストラップを落として他の車に乗った可能性がありそうね。やっぱり事件?」

「うん。見て、このストラップ……」

 

 路地の先の歩道にレオンストラップが落ちていたので、あたしはそれを拾う。目の前は大きい道路……。車に乗せられた可能性が高い。

 

 “W with Paul & Annie”と書かれたレオンストラップは――“P”と“&”と“A”の部分が赤く血できれいに塗り潰されていた。

 なんだろう……? 何かの暗号と考えるのが自然だけど……。

 

「おそらくあたしたちが探しに来ることを予測してジェイムズさんがメッセージを残したのよ」

 

「意味分かる?」

 

「ううん、まだわからないけど……、とりあえず警察には連絡入れとこうかしら」

 

 暗号の意味は分からないけど、あまり悠長に構えている時間はなさそうだ。

 警察といっても細かい説明が面倒だから、やっぱり知り合いに連絡するのが早そうね……。

 

 

『アリスちゃん、どうしたの? まさか、また事件かい?』

 

「あー、良かったです。高木刑事に繋がって……目暮警部には繋がらなかったので。ちょっと、知り合った外国人が誘拐されてしまったみたいでして」

 

 目暮警部が出なかったので高木刑事の携帯に電話して彼に事情を話す。

 コナンだったら小五郎の名前を出さないと相手にされないこともあるけど、あたしなら真面目に話は聞いてもらえる。

 

『誘拐? それは大変だ。詳しく状況を教えてくれるかい? わっ、さ、佐藤さん……!』

『アリスちゃん、今どこにいるの――?』

 

 高木の近くに佐藤刑事がいたらしく、彼から電話を奪ってあたしがどこにいるのか質問してきた。

 あたしは今いる場所を告げると彼女は「わかった」と声を出して――。

 

『じゃあ、そっちまで行くわよ。アリスちゃんが事件って推理してるなら間違いなさそうだし』

 

「ほ、本当ですか? じゃあ待ってますので」

 

 佐藤と高木があたしのところまで来てくれるらしい。彼女曰く、夜まで特に用事がないみたいだ……。

 

「随分と信頼されてるじゃない」

 

「まぁ、日頃の行いってやつ?」

 

 何度も事件を解決したおかげで警視庁には力を貸してくれる人も増えたし、あたしのことも買ってくれてる。

 哀を守るためにも、心強い味方を増やさないと――。

 

「でも、警察が動いても車を使われたりしたら見つけるのは――。――っ!? ねぇ、今の車に乗っていた人見た?」   

 

「赤井秀一さん……。バスジャックの時に風邪を引いてマスクをつけてた人が乗ってたわね」

 

「やっぱり……。なんでこっちを見てたのかしら?」

 

 あたしたちが話をしていると、黒い外車に乗った赤井秀一がこっちをチラッと見てきた。

 あー、そういうこと。やっぱりジェイムズと待ち合わせてたのは彼だったのね……。

 

「そりゃ、可愛い女子高生がいたら見るでしょ」

「はぁ……? 脳みそ一回洗濯したら?」

 

 哀の疑問に冗談で返したら、本気でバカにされちゃった。

 だって、本当のこと言っても今は信じてくれないでしょう……。

 

 

 

 そうこうしてるうちに、佐藤刑事の愛車が目の前に止まって、二人の刑事があたしたちの元に駆けつけてくれた。

 さて、捜査を真剣に始めるとしますか……。

 

「その誘拐されたかもしれないジェイムズ・ブラックさんだっけ? 誘拐されるような理由がある人なの?」

 

「ええ、ランディ・ホークさんっているでしょ? この動物サーカスのスポンサー。ほら、この人に似てるんですよ」

 

「なるほど、彼はランディ・ホーク氏と勘違いされて誘拐されたってわけね。じゃあ、まずいかもしれないわね」

「はい。急がないと……、彼の身が……」

 

 ジェイムズが誘拐されたのは理由は身代金目的でランディ・ホークと間違われたという可能性が極めて高い。

 それを二人に告げると、彼女らは顔を曇らせた。

 

「どういうことですか?」

 

「今、ラジオでホークさんが生出演してるんだよ。犯人が気付かなければいいんだけど……」

「誘拐しようとしてる人間の予定を調べないはずないから、きっとチェックしてるでしょうね」

 

 なるほど、ホークはラジオで健在ぶりをアピールしてるのか。

 これはジェイムズはツイてないわね。彼が別人だと犯人が知れば――。

 

「だとすれば、間違いなくジェイムズさんは消されるわ」

 

「彼にたどり着くヒントは“P&A”のみ……。咄嗟に残した暗号とはいえ難しいのよね〜」

 

 哀の言うとおり犯人はそう遠くない未来にジェイムズを殺そうと考えるだろう。

 FBIの仲間がいて助けられるのかもしれないが、それも100%ではない。出来ることはやらなくては――。

 

「PとAねぇ……、誰かのイニシャルとか」

 

「それで絞るのはかなり厳しいですよ」

 

「ピストルとアサシン……」

 

「君って、物騒なことばかり言うねぇ……」

 

 P&Aについて連想出来ることを口々に述べるが、中々しっくりこない。

 高木は哀の子供っぽくない回答にちょっと引いていた。

 

「Parking Areaっていうのはどうかしら? そのジェイムズさんって人の車が停めてあった駐車場に何かヒントがあるとか」

 

「なるほど、さすがは佐藤さん!」

 

「あたしもそう思って探ってみたんですけど……特にこれといったものはありませんでした」

 

 佐藤のパーキングエリアはあたしも最初に連想したが、あのコインパーキングにヒントらしいものは一切なかった。

 うーん。なんか初歩的な見落としをしてるような気がするのよね……。

 

「そう。なーんか、クイズ番組の連想クイズみたいね。PとAが付くものなんて無数にあるし……」

 

「クイズ番組? そっか、そういえばそんなクイズもあったわね」

 

「この暗号が出題されたクイズを見たの?」

 

 佐藤の言葉からあたしは答えを閃いた。これは悔しいわね……。なんで直ぐに分からなかったのだろう……。

 

「うん。前に見たクイズ番組で似たような暗号があって、“&”を“a・n・d”として扱っていたのよ。つまりP&AはPとAで分けてるんじゃなくて――、それをつなげて読んで」

 

「“panda”……、パンダってことね!」

 

「じゃあ誘拐犯はパンダのいる場所に? 動物園とか……」

 

「いいえ、ジェイムズさんはパトカーに乗せられているということを伝えたかったんだと思います」

 

 ジェイムズが残した暗号は“panda”――そして、それが指し示しているのはすなわち、パトカーのことである。

 

「パトカー? 確かに白と黒のボディのパトカーは日本の警察の隠語でパンダと呼ぶことはあるけど」

「ジェイムズさんって、イングランド系のアメリカ人なんでしょ? そっちの人が日本の警察の隠語を知ってるなんて思えないけど……」

 

「ジェイムズさんがロンドン生まれだからこそですよ。昔はイギリスのポリスカーも白黒で塗装されてたんです。そこからポリスカー=パンダって呼び名が定着してます。英語の辞書にもパンダカーってあるくらいですよ。ですから、ジェイムズさんくらいの年齢なら警察車両を見てパンダって連想するはずです」

 

 佐藤と高木はパトカーという解答に懐疑的だったのだが、ここであたしは新一の記憶にあるウンチクを述べる。

 ロンドンで生まれ育ったというジェイムズはパトカーで攫われたというメッセージを暗号にして送っていたのは間違いない。

 

「検問を張りますか? 不審なパトカーを見つけ次第調べるような形にして……」

 

「そうね……、逃走経路が分からないから、かなり広範囲になりそうだけど……」

 

「おそらく犯人はジェイムズさんの人違いに気付いてます。ならば、きっと人目のつかない場所で殺すはず……。周到にパトカーまで用意して誘拐計画を立てているなら尚更バレないように始末したいと考えますよね? もう一度本物のホークさんを誘拐するためにも」

 

 誘拐にパトカーを用意するほどの犯人だ。そこまでしたからには計画は破綻させたくないと考えるだろう。

 ならば殺すとしても絶対に見つからない場所で行うに違いない。

 

「それなら山奥にでも連れていって殺しそうなものね。人里離れた場所に出ようとするのはまず間違いない」

 

「哀ちゃんの言うとおりです。この通りから東京都外に出るための最短経路を通っている可能性が高いと思われます」

 

 哀の予測はおそらく正しい。彼らが目指すのは田舎の山奥だ。

 埼玉を経由して群馬を目指したりしてそうね……。

 

「高木くん。検問をするわよ……、逃走経路になりそうなところ全部に」

 

「は、はい」

 

「あと、犯人は武器を持っている可能性が高いと思います。もしかしたら拳銃とか……」

 

 検問をするのは良いとして、あたしは不安要素を口にした。

 それは犯人が拳銃を持っている可能性だ。

 

「それはなぜ?」  

 

「そのパンダの暗号を残したのが、駐車場からここまで歩いて来た間だからでしょ。ここに来る前に怪しいと思っていたけど、抵抗出来なかったのは、武器で脅されていたから」

 

 そう、P&Aの文字に血を塗り込むなんて一瞬で出来るはずがない。

 ある程度時間の猶予があったのに逃げられなかったのは拳銃を突きつけられるとかそういう状況にあったからと考えられる。

 それにしても、今日の哀ちゃんは冴えてるわね……。

 

「なるほど……、下手に検問で怪しむと暴れられて、銃を乱射する可能性も高いってことか。不審な車両を見つけてもやり過ごして被害者の安全が確保できるまで追跡したほうがいいのかしら……」

 

「とにかくその車両の位置の特定を急いだほうがいいですね。こっちの方向に向かったのは間違いないのですから」

 

「そうね。高木くん、行くわよ……」

「あとは、僕たちに任せて。何かあったら連絡するから」 

 

 佐藤刑事と高木刑事はジェイムズを誘拐したパトカーを追おうとして、車に乗り込もうとした。

 いやー、このまま指くわえて待ってるなんて性に合わないわよ……。

 

 

「――こうやって犯人を追跡するのって憧れてたのよね〜♪」

「あなたは何でも楽しむんだから」

 

「えーっ! き、君たち! なんで乗ってるの?」

「仕方ない子ね。飛ばすから舌噛まないように注意するのよ!」

 

「「――っ!?」」

 

 あたしと哀は佐藤の車の後部座席に座る。やっぱり、気になるもんね……。

 そんなあたしたちを見て、佐藤刑事は楽しそうに微笑み、とんでもないドライブテクニックで車を爆走させた――。

 

 

「勢いよく飛び出したのは良いけど……、事故で渋滞か……」

「でも、犯人もここに引っかかった可能性はありますよ」

 

 車はすぐに事故現場で立ち往生してしまう。もちろん、緊急車両として通過するつもりなんだろうけど……。

 

「由美! ちょうど良かった。ちょっと前に変なパトカーがこの辺りにいなかった? 外国人を乗せているような」

 

 ちょうど佐藤の友人の交通課の宮本由美が事故現場付近にいたので、彼女に不審なパトカーの情報はないか尋ねてみた。

 

「えっ? パトカー? 被疑者を連行中のパトカーなら先に通したわよ」

 

「怪しいところはなかったかしら?」

 

「うーん。特に無かったけど……、ちゃんと刑事二人が被疑者の頭にコートを被せてたし……」

 

「それね」

「間違いありませんね」

 

 予想通り、この道が犯人の逃走経路だったらしく、由美は犯人連行中らしいパトカーを通していた。

 おそらく顔を隠されていた人物こそジェイムズだろう。

 

「えー、何なに? ていうかアリスちゃん乗ってるじゃん。今度、合コン開くんだけどどう?」

 

「あの、忘れてませんか? あたし、未成年」

 

「あ、そうだっけ? そういや、女子高生探偵だもんね〜〜」

 

 由美は相変わらず合コンばっかりやってるみたいであたしを誘おうとしていた。

 警官が高校生を飲み会に誘わないでください……。

 

「このまま行くと埼玉県警の管轄になりますね。追いますか?」

「当然でしょ? 出来れば、犯人が人質作戦を取る前に決着をつけたいし。由美! ここ通るわよ!」

 

「ちょ、ちょっと! 美和子!?」

 

 佐藤の顔つきがさらに真剣な表情に変わって、車を再び爆走させた。

 何気にこの人ってハイスペックよね。美人で頭もいいし、身体能力も高い上に車の運転まで上手いんだから……。

 

「すごっ! どんどん車を追い抜いていく」

「このまま行けば追いつく可能性は高そうね」

「問題はどうやってジェイムズさんの安全を確保しつつ犯人を追い詰めるか……、だけど……」

 

「じゃ、あたしたちが誘拐犯になるのって、どうです? 協力できる警察の人が沢山いれば面白い作戦が実行出来るんですけど」

 

「「誘拐犯?」」

 

 犯人の暴走を食い止める作戦をあたしは考えついた。

 名付けて“誘拐犯になりきろう大作戦”だ。そのためにはこの車に乗っているある人が、一番重要な役割をしなくてはならない。それは――。

 

「哀ちゃ〜ん♡ちょっとお願いがあるんだけど、引き受けてくれるかしら?」

「その顔はろくでもないことを考えてるときの顔ね。アリス……」

 

 あたしが優しく哀の手を握りながら声をかけると、彼女はとっても嫌そうな顔をした。

 でも、人助けなんだし……。やってくれるわよね……。

 

 

 

「由美、こっちに来てる?」

 

『言われたとおりに付いてきてるけど、何するつもりなの? アリスちゃんが関わってるなら変な事件が起きてるんでしょうけど』

 

「由美って、確か……この前の埼玉県警との合コンの幹事やってたわよね?」

 

『えっ? やってたけど、それが何か?』

 

「じゃあ、今から誘拐犯を捕まえる作戦を話すからよく聞いて――」

 

 佐藤の車を追うようにお願いした由美がパトカーで彼女に追いつく。

 由美の人脈のおかげで作戦は上手くいきそう。合コン好きって役に立つのね……。

 

 

 

「見つけたわ。あれが誘拐犯の乗ってるパトカーね。じゃあ高木くん、哀ちゃん、お願い!」

 

「いや〜〜! 助けて〜〜! 誰か〜〜!」

「静かにしなっ! このクソガキ! ハジキぶっ放すぞ!」

 

 高木が誘拐犯を演じて弾丸を抜いた拳銃を哀に突きつけ、哀は必死に助手席の窓から顔を出して外に助けを求める演技をする。佐藤は車を飛ばして誘拐犯のパトカーの真ん前を陣取った。

 ノーネクタイでスーツを脱いでもらったけど、高木刑事って悪役向いてない……。

 

「…………な、なんだ!?」

 

「お、おまわりさ〜〜ん! ぐすん……、たすけて〜! ふぇ〜〜ん!」

「うるせぇ! 黙れっ! ホントに撃つぞ!」

 

 困惑する誘拐犯にこれでもかと哀は迫真の演技を披露する。

 やるわね哀ちゃん。アカデミー賞ものじゃない。高木の棒演技をフォローしてるわ……。

 

「すいませ〜〜ん。本庁の宮本です。あの誘拐犯の確保に協力してください!」

 

 ここで、由美のパトカーがピタリと犯人のパトカーの右側について警察手帳を見せながら協力を要請した。

 犯人たちは自分たちが追われているのではないと安心したのか由美のパトカーが隣に居るのにそのまま速度を変えずにあたしたちの後ろを走っている。

 

「袋小路にご案内(あんな〜い)♪ ほら、哀ちゃん。もっと泣き叫んで……」

「覚えてなさいよ……。助けて〜〜! おまわりさ〜〜ん!」

 

 あたしが小声で哀に演技を続けるように指示を出すと彼女はちょっと怒気を含んだ声で不満を言ったが、素直に演技を続けてくれた。

 やっぱり根はいい子なんだよね……。哀ちゃんは……。

 

「こんにゃろ! 静かにしろって言ってんだろ!」

「高木くん……、悪役下手すぎ……。子供の哀ちゃんよりも演技下手って……」

「勘弁してくださいよ。佐藤さん……」

 

 高木の演技を見かねた佐藤だったが、それでも犯人を惑わすには十分だったみたいで、誘拐犯のパトカーは彼らが気付かない内にドンドン埼玉県警のパトカーに囲まれていった。

 

「じゃ、そろそろ蓋を閉めてあげますか。佐藤刑事……、上手く減速して進行を塞ぐことって出来ますか?」

 

「もちろんよ。ほら、こうすれば連中はもう逃げられない」

 

「チェックメイト……」

 

「ええ、あとは佐藤刑事の号令でブレーキをかければ――」

 

「犯人たちは一網打尽ってわけね」

 

 最後に止めといかんばかりに佐藤刑事の車で犯人のパトカーの進行方向に蓋をして完全に囲み込みが成功した。

 佐藤の号令で一斉にすべてのパトカーがブレーキをかけので、瞬間に犯人のパトカーは急ブレーキをかけざるを得なくなり、犯人たちはバランスを失い倒れ込む。

 

 こうなれば、もう人質をとる暇などない。彼らが気付いたとき――周りの警官たちは一斉に銃を彼らに向けていた――。

 

 

 

「みんなありがとう! 今度の合コンもきれいどこ集めておくわね」

 

「いえ、自分は佐藤さんさえ来れれば……」

「「うんうん……」」

 

「そ、それにあそこにいるのって、藤峰愛梨寿じゃないか?」

「ホントだ! スッゲー美人!」

「佐藤さんとのツーショット……、くぅ〜〜、カメラ持ってくりゃよかった!」

 

 埼玉県警の協力の元、無事に誘拐犯を捕まえることが出来た。

 なんか、すごく視線を感じるわね……。

 

 

「ねぇ、アリスちゃん。ジェイムズさん見なかった?」

 

「ふぇっ? そういえば、いつの間にか居なくなってますね……」

 

「さっきまでいたのに……、ねぇ由美〜〜!」

 

 そして、肝心のジェイムズだけど、居なくなっちゃった。おそらく赤井秀一に拾ってもらったんだろう。

 事情聴取くらい受けてもいいじゃん……。

 

「事情聴取前に姿を消すって、やっぱり怪しいわ。もしかしたら、あの人はワザと捕まったりしたのかも」

 

「何のために?」

 

「分からないけど、そもそもあの暗号からも何か誘われてるような気がしたの。バスジャックの時に居た得体のしれない男も近くにいたし」

 

 あー、なるほど。あたしの探偵としての力を試したみたいな感じかもなー。分からないけど……。

 なんか、大きな事件が近いうちに起こりそうな気がするわね……。

 

「まっ、良かったじゃん。ジェイムズさんは無事だったんだし。何かあるなら……次に会ったときに聞けばいい」

 

「無警戒なんだから。すべてを疑うくらいじゃなきゃダメよ」

 

「でも、信じることも同じくらい大切だとあたしは思ってるよ。哀ちゃん」

 

 あたしは疑うことも大事だけど、信じるって気持ちも大事にしたい。

 高木刑事や佐藤刑事は信頼に値する人たちだし、何もかも敵だと思っていると疑心暗鬼に潰されてしまう。

 

「無理よ、私には……。信じれる人はあなたや博士くらいしか居ないもの……」

 

「そっか、ありがとう。信じるって言ってくれて」

 

「うん……」

 

 哀から信頼されてるなら、あたしもそれに応えなきゃ。

 彼女の小さな手を握りしめながら、あたしはそう誓った――。

 

 




何気に佐藤刑事とまともに絡むのも拙作では今回が初めてだったりする。
とりあえず、可愛い灰原が描きたかったのでアリスと二人きりのデートをさせてみました。
前回もそうですが、少年探偵団が居ないのが割と縛りプレイみたいになってます。子どもたちのヒントとか、探偵団バッジ便利だったんだなぁって……。その代わり高校生の体で便利な部分もあるのですが。
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