工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった   作:ストロングゼロ

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今回は原作の初期のエピソードなんですけど、灰原が出た後という設定で書いてみました。



遺産相続殺人事件 前編

「やっぱ、ハンバーグにはチーズトッピングよね」

「私はデミグラスソースがあれば何でもいいわよ」

「じゃ、一緒に特製デミソースを作りましょ」

 

 あたしは哀と夕飯の買い物に行って帰宅している最中だ。

 今日は博士が発明品の売出しに遠出していて戻らないので哀と二人きりでご飯を食べる。

 

「大根おろしも良いんじゃない? 久しぶりに日本らしいものを食べたいわ。――アリスちゃんって、ちゃんとお料理するのね。感心、感心」

 

「「――!?」」

 

 ハンバーグの話をしてるあたしたちの後ろから聞き慣れた声がする。

 いや、聞き慣れているのはこの体だけなんだけど……。

 

「ゆ、有希子さん!?」

 

「久しぶりね。アリスちゃん」

 

 振り向くと工藤有希子が居た。旅行かばんを引っさげて。

 ロサンゼルスから帰ってきたのね……。なんでだろう……。

 

 

 

 

「でね、優作ったらいっつも朝早くから出かけたと思うと、ベロンベロンに酔っ払って帰ってくるのよ。もう、頭に来ちゃう! あら、とっても美味しいわね。これ」

 

「お口に合って良かったです。……えっと、まさかそれでロサンゼルスからこっちまで戻ってきたんですか?」

「工藤くんには会ったことないけど、彼が一人暮らししてた理由が何となくわかるわ」

  

 どうやら有希子は痴話喧嘩して日本に戻ってきたらしい。しかも優作に黙って……。

 最近物騒な事件ばかり相手にしてるから平和な話にしか聞こえない。

 あ、でもあたしと哀が作ったハンバーグを美味しそうに食べてくれたのは嬉しいな。

 

「だって酷いのよ。シャツにキスマークまで付けて! 私だって浮気してやるんだから!」

 

「どーすんのよ? この人」

「いや、新一の体借りてるし、お母さんの浮気くらいは止めてあげなきゃ……」

 

 初対面がこの感じで漫画とは違って新一をほとんど知らない哀はちょっと引いてる。

 あたしは割と彼女と性格が似てるから話は分からなくもないけど、こうなると頑固になっちゃったりするのよね〜。

 

「とにかく、しばらくこっちに住むわ。アリスちゃんも哀ちゃんも、お隣さんになるけどよろしくね」

 

「は、はい。でも、優作さんが心配して迎えに来るんじゃ?」

 

 あたしの知ってる優作は愛妻家のイメージだし、慌ててこっちに迎えに来そうなものだけどな。

 有希子はかなりご立腹みたいだけど……。新一がいない間に夫婦仲が悪くなったらどうしよう……。

 

「迎えに来るわけないもん。優作は私が居ないほうが気楽で良いとか思ってるはずだわ」

 

「そうですかね?」

 

「そうよ〜〜。あっ! そうだ、アリスちゃん。明日からの連休、ちょっと一緒に遠出しない? 哀ちゃんも一緒にどう?」

 

「「…………?」」

 

 そんな話をしていると、突然有希子は遠出しようと誘ってきた。

 別に特に用事があるわけじゃないから構わないけど……。

 

 

 

 

「こうやって女だけで出かけるなんて久しぶり! 新ちゃんも可愛かったけど、女の子も欲しかったのよね〜〜!」

 

 有希子は女3人で出かけることが楽しいと上機嫌そうだった。

 もしかして、こうやって一緒に出かけることであたしのことを知ってくれようとしてるのかもしれない。

 

「それで、どこに向かってるのですか?」

 

「群馬県に住んでる幼馴染のところよ」

 

「あー、そういえば有希子さんって小学校の頃まで群馬に居たんでしたね」

 

 新一の記憶から彼女が群馬県に住んでいたことを思い出して納得するあたし。

 着替えを用意するように言われたけど、どこかに泊まるつもりなのかな……。

 

「その幼馴染になんの用事があるの?」

 

「うん。調べて欲しいことがあるって言われたから、アリスちゃんの推理力を借りたくてね。結構、探偵として有名になってるって聞いたわよ」

 

 ロサンゼルスに住んでいるのにあたしのことを気にしてくれてたんだ。

 探偵としてちょっと名前が売れたのは新一の知識のおかげだけど、頑張った甲斐はある。

 

「あはは、新一くんほどじゃないですけどね」

 

「またまた、謙遜しちゃって。さあて、飛ばすわよ〜〜!」

 

 高速道路に乗って、車はとんでもない加速を見せた。

 すごい! どんどん車を追い抜いていく。そういえば、彼女は運転の技術が高かったんだっけ……。

 

「――っ!? この前の佐藤刑事の運転も凄かったけど――負けないくらいのスピード感ね」

「どうでもいいけど、早く止めなさい。日本の高速には制限速度ってものがあるのよ……」

 

 哀があたしに有希子の暴走を止めるように促す。確かにこれは免停になってもおかしくないかもしれないわ……。

 

 

 

 

「有希ちゃ〜〜ん。来てくれたんだ。忙しいのに、ありがとう」

 

「幼馴染の広美のためなら地球の裏側からだって飛んで来るわよ」

 

 有希子は幼馴染の薮内広美との再会を喜んでいた。

 彼女の話だと昔はよくこの薮内家に遊びに行っていたらしい。こうやって同い年の人と並ぶと有希子って若いわ。37歳って嘘でしょってくらい……。

 

「あら、優作さんと新一くんは?」

 

「二人とも忙しいから。でも、この子たちを連れて来たわ。私の従兄妹の娘のアリスちゃんと哀ちゃんよ」

 

 有希子はあたしたちを従兄妹の娘だと紹介する。

 まぁ、彼女とあたしはそっくりだし親戚といえば誰もが信じるだろう。

 

「あっ! この子って女子高生探偵の藤峰愛梨寿ちゃんでしょ? やっぱり有希ちゃんの親戚だったんだ。顔がそっくりだから、間違いないって思ってたわ」 

 

「ど、どうも」

「なんで、私がアリスの妹に……」

 

 広美はあたしのことを知っていた。しかも有希子を知る彼女は親友の旧姓と同じことから親戚だと思ってたらしい。

 哀はどうやらあたしの妹にされて不満みたいね……。

 

「それで、私に調べてほしいことって?」

 

「えっと……」

「広美さん、お客人かね?」

 

 有希子が調べてほしいことを尋ねたとき、お爺さんと背の高い外国人の男が現れた。

 

「よ、義房(よしふさ)叔父様。幼馴染の有希子さんです。ほら昔、よくこの家に遊びに来てた」

 

「お久しぶりです」

 

「はて。とんと思い出せんの。なんせブラジル生活が長くてな」

 

「あら、そうですか。うふふ」

 

 どうやらこの義房は広美の叔父で有希子とも面識があったみたいだ。

 彼は有希子のことを忘れてるみたいだったけど……。へぇ、あの人ブラジルに住んでたんだ。

 

「まぁ、ゆっくりして行きなされ。ゆくぞ、カルロス」

「…………」

 

「か、カルロスさん……?」

 

 どうやら、あの外国人はカルロスという名前みたい。

 ひと言も発さないところを見ると日本語が不得意なのかしら……。

 

「義房叔父様がブラジルから連れてきた友人だと言っていたけど……。――ねぇ、義房叔父様どうだった? 昔と感じが変わってなかった?」

 

「そうねぇ、義房おじさんにはよく遊んでもらったけど……、私たちが小学校に行く前にブラジルに行ってしまわれたから……。――えっと、調べてほしいことって、そのこと?」

 

「ええ。3日前にブラジルから帰ってきたんだけど、何か前と雰囲気が違うかなって……」

 

 広美は義房が偽物ではないかと疑っているらしい。

 しかし、有希子からすると彼と会ったのは三十年前の話だ。顔を覚えてるほうが難しい。

 最近ブラジルから帰ってきたと言ってるがなんで本物かどうか調べたいんだろう?

 

「だったら、あなたのお父様に会わせればいいじゃない。実の弟なんだから」

 

「それが、父の義親(よしちか)は先月癌で死んでしまったから……無理なのよ。母も15年前に亡くなってて、義房叔父様の友人も運悪く皆んな既に……。だから何度も彼と会っているのは私とあなたくらいなのよ」

 

「あら、そうなの? でも、なんでそんなに義房おじさんのこと――」

「遺産ですよ。みんな疑っているのです。あの老人はお義父様の遺産を騙し取ろうとしてるのではってね」

 

 日本で義房と関わりのある人間がほとんど他界してるらしく、有希子と広美くらいしかいないらしい。

 そこまで聞いたとき、中年の男が義房が本物かどうか気にしてる理由は広美の父親である義親の遺産が関係しているとあたしたちに教えてくれた。

 

「あなた……」

 

「お義父様はこの辺り一面の大地主で。その遺産は結構なものになる。弁護士によるとお義父様は生前に遺言状を残しておられて。それが発表されるときにその場にいない者には1円たりとも相続させんということらしい」

 

 後から聞いたが、この中年の男は広美の夫で婿養子ある薮内秀和。彼は義親の遺産がかなり大きいことと、彼の遺言が近々聞かされるということを話した。

 あー、なるほど。だから、義親の弟である義房は急遽日本に帰ってきたわけか。

 遺産は遺言状の発表のときにその場にいた人にしか渡さないとか義親が言っていたから……。

 

「それで、その発表はいつなの?」

 

「親父の喪が明ける明日の夜10時だよ。つまり、それまでにあのジジイの化けの皮をはがさねーと――」

「私たちの取り分が減っちゃうってわけ」

「遺言状によっては、減るだけじゃ済まないかもしれませんよ。無いも同然になるかも……」

「それまでに何とかしねーとな」

 

 広美の弟である薮内義行とその妻である敬子。さらに義親の後妻で、広美と義行の義母にあたる真知子が現れた。

 へぇ、こんなに遺産が絡んでいる人がいるんだ。こりゃ、義房を快く思ってない人も居そうね。

 

「あら、中々ドロドロしてて面白い話じゃない」

「もう、哀ちゃんったら」

 

 哀はこの人間関係と遺産問題に若干の興味を持ち始めたらしい。

 こういうのって、ドラマとかではよく聞くけど、生じゃなかなか見れないもんね〜〜。

 

 

 

 

 

「ったく、写真くらい残ってねーのかよ」

 

「叔父様、ブラジルに行く前に全部処分しちゃったみたいで」

 

 何か義房についての手がかりがないものか、薮内家の蔵をみんなで探すことになった。

 この写真……。あたしは野球をしてる大人たちの中に子供が二人写っている写真を見つけた。

 

「あれ? この写真違いますか? 幼い有希子さんが写ってるように見えますが……」

 

「ああ、間違いない。この真ん中の人が義房叔父様よ」

 

 あたしが見つけた写真には若い頃の義房が写っていた。でも、この写真では――。

 

「でも、若すぎて参考にならんな」

「それに帽子も被ってるし」

 

 そう、これだけじゃあ何も分からなそう。すごく昔の写真だし顔も隠れてるから――。

 

「懐かしい。ねぇ、有希ちゃん。覚えてる? この町内野球大会で義房叔父様、足を怪我して何針も縫うことになったの」

 

「あー、そうだっわね」

 

「なら、その時の怪我の跡でも残ってるかもしれませんよ?」

 

 義房が野球大会で大怪我をした話を聞いたあたしは、傷跡が残っている可能性が高いと呟いた。 

 それでも分からなかったら、()()を使ってみましょうか……。

 

 

 

 

「傷じゃと? ああ、この傷か? 三十年前、一塁ベースに伸ばした足をランナーが思いっきりスパイクしおったんじゃ」

 

「じゃ、じゃあ本物?」

 

 足の傷と聞いて義房は右足にある大きな傷跡を見せてきた。

 あらあら、これは彼が本物の可能性がかなり高まったわね……。

 

「やはり、疑っておったか。兄が言ってたとおり家の連中はろくでもないやつばかりじゃわい。カルロスを連れてきて正解だったか」

 

「どういうことですか……?」

 

「カルロスはわしがブラジルで雇ったボディガードじゃ。こんな手紙が届いたからのう」 

 

 カルロスの正体は義房が雇ったボディガードらしい。彼を雇った理由として義房は一枚の手紙をあたしたちに見せた。

 それには“お前にやる遺産はない。命が惜しくば帰ってくるな”って書いてあった。

 なるほど、だから警戒してるってことね……。ここの人間たちを――。

 

「ふーん。脅迫状が届いてたからボディガードを……」

「自衛するのは当然ね。金目当てで殺されるほど馬鹿らしい事はないもの」

 

 義房によると、一ヶ月前に差出人不明で脅迫状が届いたらしい。

 これは、一気に何か起こりそうな感じになってきたわね……。

 

「兄の遺産なんぞには興味はないが、わしを殺そうとしたものの顔くらいは見てやろうと思っての。こんな手紙を寄越した――たわけ者共の顔をのう!」

 

 義房は殺そうとした人間の顔を見に来たと宣言する。へぇ、“たわけ()()”ってことは彼を疎んじてる人が複数いるって思ってるのかしら……? ボディガードを雇ったとはいえ、乗り込んで来るなんて豪胆な人だわ……。

 

「ちょっと哀ちゃんお願いがあるだけど――」

 

「――最近、そういうの多くない?」

「ダメかしら?」

「……仕方ないわね」

 

 あたしはこの義房が本物かどうかはっきりさせたくて、哀にあるお願いをした。

 彼女は露骨に嫌な表情をしたが、義房の元にペンと紙を持って近づく――。

 

「ねぇ〜、おじいさ〜ん。謹賀新年ってかける? お姉ちゃんに聞いても書けないっていうの〜」

「ん? 謹賀新年じゃと? ほれ……」

 

「「ひ、左利き?」」

 

「ありがとう! おじいさん!」

 

 哀が子供のフリをして、漢字の書き方を質問すると、義房は左手でペンを持って文字を書いた。

 なるほど、彼女のおかげで分かったわ。彼の利き手、そして――。

 

 

「サンキュ、哀ちゃん」

「こんなワトソンにはなりたくなかったわ」

 

 情報収集能力にかけて、コナンに劣るのはこういうときだ。

 だから哀が一緒にいて助かっている。

 

「叔父様が左利きだったなんて覚えてる?」

全然(ぜ〜んぜん)。でも、足に傷もあったし、義房おじさんで間違いないんじゃない」

 

「そんなのたまたま足に傷があってそう言い張ってるだけかもしれない――」

 

 有希子や広美は義房の利き手を覚えてなかったし、足の傷だけで本物と決められないという意見もあったが、あたしは彼についてある程度の答えが定まっていた。

 

「ううん。あの人は義房さんで間違いないと思いますよ。写真のファーストミットは右手に付けてましたし。――あと、あのとき写真と一緒に見つけたんです。彼の送った年賀状を。哀ちゃんが彼に書かせたものと筆跡を見比べてみてください」

 

「お、同じ字だ……」

「じゃあ、君はそれを確かめるために妹を使って――」

 

 あたしは写真と一緒に年賀状も見つけていた。

 さすがに筆跡まで一致すれば彼が本物であることは疑いようがないだろう。わざわざ調べて良かった……。

 

「さすが、話題の女子高生探偵ね!」

 

「女子高生探偵……?」

「そういえば……、テレビで見たことあるような」

 

「やるじゃない、アリスちゃん。やっぱり、色んな事件を解いて探偵として成長してるのね」

 

 筆跡をヒントに義房が本物であることを見抜いたあたしは有希子に褒めてもらえた。ここに来た意味が出来てよかったわ……。

 

「えへへ。そ、そうですか?」

「子供使わないと筆跡も確かめられないけどね」

「うん。哀ちゃんが居てくれたおかげだよ」

 

「そっか。二人とも……仲がとても良いのね」

 

 あたしと哀が仲良さそうにしていると、有希子は複雑そうな顔をしてこちらを見ている。どうしてだろう……?

 哀とはバスジャック以降さらに距離が近くなった気がして最近は特に楽しい。

 

 

 

 

「あら、まだあったの? あの古井戸……」

「ええ……」

「あんな事件があったのに……」

 

 ふと有希子は裏木戸の傍らにある古井戸を指差して、井戸が存在することに対して疑問を呈した。何か事件があったみたいだけど……。

 

「事件って何があったんですか?」

 

「それは――」

 

 あたしが事件について尋ねると、広美が説明してくれた。

 彼女によると、15年前の大雪の日に藪内家の井戸の中で彼女の母で義親の前妻である女性が死亡している事件があったらしい。

 井戸のそばにある姫椿を取りに行った際に、井戸の縁に乗り、足を滑らせて井戸に落ちたとされており、彼女は姫椿を握って亡くなっていたとのことだ。

 さらに話が荒れたのは彼女の兄が誰かが妹を突き落としたと葬式の席で騒ぎ立てたことだ。

 事件は事故だと処理されても最後まで納得しなかったらしい。

 

 なんか、後妻である真知子は、遺言状に誰に相続させるか書いてあるのか分からない以上は、その兄って人もここに現れるかもとか言い出してるし……。だとしたら、面倒ごとが起きそうね……。

 

「もっとも、前の奥様が亡くなられたとき、まだこの家の家族では無かった私には関係のない話ですけどね――。私、これから友人の結婚式の二次会に行ってきます。あとはよろしくお願いしますよ、広美さん」

 

「は、はい。お義母様……」

 

「――っ!? アリス! 向こう!」

「えっ!? どしたの? 哀ちゃん」

 

 真知子が出かけると広美に告げたその時、哀が大きな声を上げながら裏木戸を指差した。

 何かあったのかしら……。

 

「居たのよ、裏木戸の隙間から覗いている怪しい人影が……」

 

「うーん。誰も居ないわね。どこかに隠れたのかしら?」

 

 どうやら彼女は怪しい人影を見たらしいけど、裏木戸の外には誰も見当たらない。

 警戒心の強い哀に限って見間違いはないだろうし……。

 

「さっき言ってた、前の奥さんのお兄さんだったりして」

 

「おいおい、お嬢ちゃん。怖いこと言わねーでくれよ」

 

 哀がさっき話しに出てた義親の前の奥さんの兄の話をだすと、義行は気味が悪いというような表情をする。

 誰だかわかんないけど、気をつけなきゃいけないわね……。

 

 

 

 

 

 

「悪いわね〜〜。泊めてもらう上にご馳走になっちゃって」

 

「良いのよ。心強い名探偵さんも連れてきてくれたんだから」

 

「いやー、名探偵だなんて。照れます」

 

 あたしたちは薮内家に一泊することになった。あー、この鍋物美味しいそう♡

 有希子が着替えを用意しておけって言った意味が分かったわ……。

 

「私の記憶が正しければ、着替えを持ってくるように言ってたけど……。元々泊まる気だった――」

「あら、哀ちゃんったら。お腹空いたの〜? もうちょっと待ってましょうね〜。よしよし」

「えっ……? ちょ、ちょっと……うむっ」  

 

 哀が有希子のちゃっかりした感じにツッコミを入れようとすると、彼女はニコニコしながら哀を胸に押しつけて黙らせる。

 

「あの哀ちゃんがいとも簡単に……。あれ? 電話……?」

 

「こんな時間に誰かしら? あら、お義母様?」

 

 電話の先の相手は結婚式の二次会とやらに行ってる真知子からだった。

 どうやら新しい薪を買っておいたから、お風呂の準備をしてほしいという話だったらしい。  

 薪のお風呂かー。古いお家だもんね〜。

 

「ほう、今夜は鍋物かこれはいい。カルロスに毒味をさせないで済むわい」

 

「叔父様……」

 

 義房はかなり警戒心が強いみたいね。あのカルロスに毒味までさせてるんだ。

 なんか、お鍋ってもっと和気あいあいとして食べるもんだと思ったけど、無理そうね……。

 

 

 

「へぇ、五右衛門風呂なんですね」

 

「アリスちゃんと哀ちゃんと一緒に入ろうと思ったけど無理そうね」

 

 薮内家のお風呂は古風な五右衛門風呂。浴槽は小さいので大人二人で入るとなると窮屈で仕方ないだろう。

 ていうか、有希子はあたしたちと入る気満々だったみたいだ……。

 

「あはは、それはまた次の機会に。哀ちゃんはお姉ちゃんと一緒に入ろうねー」

「……一人で入るに決まってるでしょ」

 

 哀にお姉ちゃんアピールをしてみたけど、彼女はそっけない態度を取る。今日は色々と疲れてるのかしら……。

 

 

 

「ねぇ、叔父様に風呂が沸いたって伝えてきてくれる?」

 

「そういえば、義房おじさん、風呂好きだったわね。いつも決まって一番風呂だったし」

 

「へぇ、義房さんってカルロスさんと一緒に入ったりするのかしら?」

 

 義房にお風呂の準備が出来たことを伝えるように言われたあたしたちだけど、ふとカルロスと一緒に彼が風呂に入っているのか気になってしまった。

 

「ボディガードなら当然そうするんじゃない? 私が暗殺者なら間違いなく丸腰になる入浴時を狙うわ」

 

「あ、哀ちゃんって、面白いこと言うのね〜〜」

 

 哀が当然のように義房を殺すなら入浴時を狙うとか言い出すと、有希子は唖然とした表情をする。

 ちなみに彼女は哀が新一が飲まされた薬と同じ薬を飲んだことで小さくなったことと、彼女がその薬の開発者だということを知っている。あたしの秘密を知っているなら、彼女のことを知ってても同じだと哀から話したのだ。

 息子をあたしにしてしまった薬を作ったという事に対して責任を感じてるから話したのかもしれないが……。

 

「義房叔父様は毎日一人で入浴されてたわよ。カルロスはいつも部屋で待っていたけど……」

 

「それは変ね。わざわざボディガード連れてきてるのに――」

 

 哀の言うように一番スキが出来やすい風呂場で一人になるのは妙だと思った。

 一緒に入らないまでも近くに待機させるなりしそうなんだけどな。

 

 

 

「逆にああやって、ボディガードに他の人を監視させてるんじゃないの? 怪しい動きをしそうな人を先に止められるように」

 

「うーん。そうかなー? ま、それくらいしか考えられないか」

 

 無言で威圧感を出しているカルロスを見て、あたしも哀の意見に一応納得する。

 ま、こうやって全員の動きを把握してれば確かに安全は守れるかもしれないけど。

 

 

「カルロス、後は頼んだぞ――」

 

 こうして、義房は一番風呂へと向かって行った。本当に一人で行くんだ……。

 

 

「およっ? また電話だ……」

 

 義房が風呂に向かって間もなく、またもや真知子から電話がかかってきた。彼女は11時くらいに帰るとのことだ。

 風呂の準備の確認みたいね……。薪を炊かなきゃいけないから……。広美が色々と大変そう……。

 

 義房が風呂を出てから、次々と家の人たちが風呂に入りに行く。

 うーん。家族が多いと順番待ちが凄いわね……。

 

「やっぱ、一緒に入らない? 最後の方に」

「そうね。真知子さんが帰るまでに済ましておきたいし」

 

 あたしと哀は自分たちが入る時間が相当遅くなることを見越して二人でお風呂に入ることにした。

 

「じゃあ、二人とも先に入る?」

 

「いえ、有希子さんは運転とかされて疲れてると思いますのでお先にどうぞ」

 

 そんなあたしたちの言葉を聞いて有希子は入る順番を譲ろうとしたけど、彼女には先に入ってもらうことにした。

 彼女は、昨日、海外から帰ってきたばかりだし、今日も運転とかで神経使っているから……。

 

 

 

 

 それからしばらく経って有希子が風呂から上がってきた。

 

「湯加減どうだった?」

 

「ちょっと、冷めちゃってたかな」

 

「じゃあ、炊き直してくる。名探偵さんが風邪引くといけないし」

 

 どうやらお風呂の温度が下がっていたみたいで、広美は炊き直しをしてくると立ち上がる。

 なんか、悪いことしてる気になるなぁ……。

 

「あっ! お構いなく!」

「いいのよ。どっちみちお義母様も入るのだし……」

 

 あたしが大丈夫だと告げても彼女はどのみち真知子が入るのだからと部屋から出ていった。

 

 そのあと、数秒もしなかったと思う。彼女の叫び声が聞こえたのは――。

 

「きゃあああああ!!」

 

「どうしました!?」

 

「あ、あそこにサングラスをかけた人が裏木戸から外に……!」

 

 広美に何があったのかと尋ねると、裏木戸の外に怪しい人が居たと答える。

 やっぱり哀の見た人影は見間違いじゃなかったんだ……。んっ? ちょっと待って……。

 

「あれ? 誰も使ってない古井戸の桶がなんで上がってるの!?」

 

「「――っ!?」」

 

 あたしはさっきまで見えなかった古井戸の桶が上がっていることに違和感を感じる。

 これはどういうことだろう……。猛烈に嫌な予感がする……。

 

 

 

「結構重いぞ……」

「とにかく引き上げてみよう!」

 

 井戸の縄を不審に思って手繰ってみると、何か重いものが結ばれているみたいだ。

 そして、その正体はすぐにわかった――。

 

「「――っ!?」」

 

「お、お義母様……」

 

 引き上げられたのはなんと真知子の遺体だった。

 こ、これはいつも以上に衝撃的な光景ね……。外出するといつもこれだ……。

 

「まさか、井戸に身を投げして自殺を――」

 

「いいえ、胸を刃物で刺されています。死因はそれです」

 

 あたしは真知子の遺体の胸の部分の傷を確認して、刃物で刺されて殺されたと皆に告げる。

 しかし、変ね……。真知子は電話で言ったことを考えると――。

 

「じゃ、じゃあまさか……、この中の誰かが……」

 

「ねぇ、真知子さんから電話がかかってきたのって9時頃よね?」

 

「そのぐらいだったかしら」

 

 この家の人の誰かが真知子を殺したのかと秀和が呟くと、有希子が状況を整理し始めた。

 そう、真知子は電話をかけた9時頃までは健在だったはずだ。

 

「私が風呂に入ったのが10時前――。そのとき部屋を出た人は?」

 

「居なかったと思うけど」

 

「じゃあ、家の中に居た人に犯行は無理ね。駅前のホテルからここまでどう車を飛ばしても一時間はかかるもの。私の入浴中に誰かが忍び込んで、真知子さんを殺したと考えるのが自然。そうよね? アリスちゃん」

 

 真知子が電話をしてきたホテルからここまで1時間かかるので、電話をし終わってからこっちに戻ってきても10時は過ぎる。

 有希子が風呂を上がって、遺体が発見されるまで誰も部屋を出てないなら、みんなには犯行は不可能だ。

 

「ええ、そうですね……。この家の中で犯行が出来るとしたら有希子さんだけですが、真知子さんとは初対面ですもんね。動機がなさ過ぎる」  

 

「そういうこと」

 

 唯一、犯行が可能なのは有希子だが、ロサンゼルス帰りの彼女と、この家の後妻である真知子には接点がなさ過ぎるし、彼女をここに呼んだのは広美だ。彼女を疑う意味はない。

 

「じゃあ、一体誰が?」

「姉さんの見た怪しい奴じゃ……」

 

「あっ、ポケットの中に何か入ってる。こ、これは姫椿……」

 

「じゃあ、まさか私が見た人って……、15年前の――」

 

 あたしは真知子のポケットから姫椿を見つける。  

 そこから皆は嫌でも連想してしまった――15年前にこの家の人間を恨んで騒ぎを起こした男を――。

 

 しかし、本当にその人なのかしら……。どうもしっくりこないような気がするわ……。

 

 とにかく警察を呼びましょ。そういえば群馬県ではまだ事件に遭遇したことなかったわね……。群馬県警ってどんな刑事さんがいたっけ……?

 

 




本当ならも最初の方にこの話を書くつもりでしたが、後回しにしたおかげで灰原を入れられて、かなり書きやすくなりました。
劇場版を書くときもこの手法は使えるかも……。
山村刑事はまた次回ということで……。
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