工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった   作:ストロングゼロ

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遺産相続殺人事件 後編

「あ、あのう刑事さん……? どうかしましたか……?」

 

「す、すいません。現場の様子を想像すると寒気がしちゃったもので……。とすると、犯人はあなた方の中にいるってことになりますよね」

 

 群馬県警から来て現場を取り仕切っている山村刑事は、井戸から死体が上がってきた話をすると青ざめたような表情で身震いする。

 あれ? なんか、この人ってやばい人だったような……。

 

「いえ、それはおそらく無いかと。真知子さんは9時までは生きていて、駅前のホテルから電話をかけてました。そこからここまで、車で一時間以上かかります。10時以降……遺体を発見するまでここの家の方はみんな部屋にいましたから。唯一、部屋を出たのはお風呂に行った、こちらの有希子さんだけですが……」

 

「えっ? じゃあこの人が犯人?」

 

 あたしは簡単に真知子が殺された時間帯には有希子を除いて全員が一緒に居たことを説明した。

 すると、彼は平然と有希子を指差して犯人だと口にする。いやいや、そんな簡単な話なわけないでしょ……。

 

「ち、違います。真知子さんとは今日あったばかりで……。ねぇ? アリスちゃん」

 

「ええ、彼女はずっとロサンゼルスに住んでいて昨日帰国したばかり……それにこちらの広美さんに呼ばれて偶然こちらに――あの〜、刑事さん? 話を聞いてらっしゃいますか〜?」

 

 あたしが有希子が犯人じゃない理由を話していたが、山村刑事はボーッとした表情で有希子を凝視する。どーしたんだろう……。

 

「あ、あ、あなたはひょっとして! 女優の藤峰有希子さんじゃないですか!?」

 

「は、はい」

 

「うわぁっ! 毎週見てましたよ〜! あなたが主演されてた危ない婦警物語! 僕はあなたに憧れて刑事になったんですから!」

 

「あら〜、そうなんですか?」

 

 どうやら有希子の女優時代を知ってる人みたいだ。危ない婦警物語ねぇ……。

 

「――いや、となると益々怪しい……」

 

「はぁ?」

 

「だって、手慣れてたじゃないですか。拳銃やナイフの扱いに……」

 

「あれはドラマの中だけです!」

 

 ダメだ、この人……。そして、思い出したわ……。山村刑事って……すっごいへっぽこ刑事だってことを……。群馬県が心配になるくらいの……。

 

「今までにいないタイプの刑事さんね。弁護士の仕事が捗りそう」

「哀ちゃん、嫌味を言わないであげて。――ねぇ、広美さん。2回目の電話は確かにホテルからだったのですか? 別の場所ってことは」

 

 哀もどうやら山村のヤバさを察知したのか遠慮なく毒舌ぶりを発揮する。

 あたしは有希子の他にこの中で犯行が可能な人がいないか確かめるためにもう一度、2度目の電話はホテルの会場内からだったか確かめた。

 

「会場からで間違いないと思うわ。中の音も聞こえてたし」

 

「じゃあ、やっぱり。犯行が可能なのはあなただけじゃないですか」

 

「ね、ねぇ、アリスちゃん。助けてよ」

 

 有希子は割と本気で疑われていることに気付いてあたしにSOSの視線を送ってきた。

 いやー、それだけで逮捕とかさすがにしないと思うけど……。

 

「そ、そういえば、さっきから気になっちゃってたんですが、あなた、もしかして女子高生探偵の藤峰愛梨寿ちゃんじゃないですか〜〜?」

 

「あ、はい……」

 

 そして、彼はあたしの正体にも気が付いた。あたしは有希子と違ってアリバイは完璧だけど、何かとてつもなく嫌な予感がした。

 

「藤峰有希子さんと似てるって思ってたんですよ! 一緒にいるってことはやっぱり親子だったんだ! そうでしょ!?」

 

「いえ、有希子さんとは親戚で」

 

「群馬県警でもファンは多いんですよ。僕も警察やめて探偵になっちゃったりしようかなーって思っちゃったり」

 

「はぁ……そうですかぁ」

 

 なんだろう……、この会話。まぁ犯人って疑われた有希子よりはマシかー。

 

「いや待てよ……探偵ってことは、あなたも怪しいなー。ほら、遠隔操作とかそういうトリックを使って、部屋に居ながら人殺しとか出来そうじゃないですか」

 

「ええーっ! 探偵は超能力じゃありませんよ! それにあたしだって初めて会ったんですよ。真知子さんと……。なんでまた、知らない人を殺すなんてことを」

 

 凄くふわふわした理由で疑ってくるじゃん。

 遠隔操作で真知子を殺して井戸にポイってするトリックって何なのよ……。

 

「探偵をしてるうちに自分でもやってみたくなって殺したとか……」

 

「怖いです! そんな発想したこともありません!」

 

 しかも動機も酷い……。サイコパスじゃん、そんなの……。

 

「有希子さんも、アリスちゃんも違いますよ! きっと犯人はここを覗いていた怪しい人です!」

 

「あ、怪しい人?」

 

「サングラスとマフラーで顔を隠している人がこの近くをうろついていたんですよ」

 

「そいつは多分、おふくろの兄ってやつだ。おふくろはそこの井戸から落ちて死んじまったんだけどよ。そいつはオレたちの中の誰かが突き落としたって最後まで疑ってたんだ」

 

 見兼ねた広美と義行がサングラスの男について彼に説明をする。

 良かった。この家の人がまともで……。

 

「で、でもその人だって決まったわけじゃ……」

 

「可能性は十分にあります。真知子さんのポケットの中から出てきたんですよ。この姫椿が!」

 

「うひゃああっ! あ、あ、あ〜〜っ! うわぁあああっ!」

 

 あたしは15年前の事件と関連がある理由として姫椿が被害者のポケットに入っていたと、遺体のポケットを山村に見せながら説明をする。

 すると、山村は腰を抜かして大声を上げた――。

 

「何ビビってんだよ? あんた、殺人課の刑事だろ?」

 

「い、いや〜、課で風邪が流行ってて、動けるのが僕しかいなくて……現場初めてなんです。だから、死体はちょっと……」

 

「ま、死体に慣れてるあたしの方がどーかしてるか」

 

 死体にビビりまくっている山村に半分呆れてはいたけど、よく考えたら慣れてる方が普通じゃないのかもしれない。

 

「血なまぐさい出来事が日常になってるんだもの、あなたが興味本位で自分の手を汚したくなるって彼が推理してもおかしくないかもね」

 

「勘弁してよ。あたし殺人なんかしたいって――」

 

 哀は事件に巻き込まれまくっているあたしに対して、変なことを言ってくる。

 

「思うはずないでしょう、そんなこと知ってるからさっさと自分の無罪を主張しなさい。あなたの近くで殺人を犯すなんて……犯人に愚行だったと教えてあげればいいだけでしょ?」

 

「うん。そうだね、哀ちゃん。必ず犯人を見つけてみせるよ」

 

 哀はあたしなら事件が解決できるって信じてくれてるみたいだ。

 そうだね。今までだって、なんとか犯人を見つけたんだもん。頑張ってみるよ――。

 

 

 

 

 

 

 

「アリスちゃん、エンジンはちゃんとかかるわよ」

「ガソリンも十分にありますね……」

 

 真知子が乗って帰ってきた車はなぜか敷地内ではなく近くの林の中に停めてあった。

 エンストでもないみたいだし……。なんでこんなところに停めたんだろう。

 

「気になるのはこの空のカセットテープのケースね。中身は一体……」

 

「この林の中に車を停めたのは真知子さんで間違いないと思いますから……、その理由に繋がると思うのですが……」

 

 有希子と共に車の中を観察すると空のカセットテープのケースを発見する。

 真知子の不可解な行動の謎を解き明かすことがこの事件の真相に近付くために必要なことのような気がするわ……。

 

 

「ねぇ、アリスちゃん、事件解決出来そう?」

 

「しなければ、あたしか有希子さんが犯人にされちゃうかもしれませんね」

 

「あーん。まさか、あんなへっぽこ刑事が捜査に来るなんて〜〜」

 

「大丈夫です。真実は一つですから。わかってる情報を丁寧に繋ぎ合わせれば、ちゃんとパズルは完成するんです。とにかくもっと情報を集めましょう」

 

 この事件には不可解なことが多すぎる。だけど、今までだってどんなことにも必ず理由があった。

 じっくりとパズルのピースを1つずつ丁寧に埋めて行けばいつかは真実にたどり着くということをあたしは知っている。

 

「そうね。まだ分からない謎が多すぎるもの。でも、事件になると見違えるくらいしっかりするのね。ちょっと驚いたわ」

 

「あはは、何度も事件に巻き込まれてますからね。慣れちゃってて」

 

「アリス、あの蔵の扉開いてた?」

「ううん。多分、閉じてたと思うけど……」

 

 有希子に探偵らしくなったと言われて少し誇らしく思ったとき、哀が蔵の扉が開いていることに気が付いた。中に誰か入ったのだろうか……。

 

「うーん。何もないかな……」

 

「ねぇ、アリスちゃん。あまりこっそり動くとあの刑事さんが……」

 

「……そうですね。戻りましょう」

 

 蔵の中には誰も居なかった。有希子が山村刑事を警戒していたみたいなので、あたしはこの中の探索を諦める。

 

 今夜は警察の監視下の中でみんなで一箇所に集まって寝ることになった。そして、翌日――。

 

 

 

 

「凶器と思われる包丁とそれを包んでいた雨ガッパ……、なんで雨ガッパなんかが?」

 

「真知子さんが着ていたわけでも無さそうよね」

 

「そうねぇ。着ていたなら、何か目的があるはずだけど……」

 

 井戸の中から見つかったのは凶器の包丁と雨ガッパ。

 包丁はともかく雨ガッパがなんで……? 順調に謎が増えていくわね……。

 

 そんな折、薮内家の弁護士を名乗る男が現れた――。

 

「私はこの家の弁護士だ! 遺言状の発表に来た!」

 

「あー、そういや、そんな話だったわね」

「こんな事件があったのよ。延期にしないのかしら?」

 

「ううん。山村刑事は延期にしたらって、言ってたわよ」

 

 有希子によると、山村刑事は事件を理由に遺言状の発表を延期するように口出ししたらしい。

 あー、だから義行たちが山村に突っかかってるのか……。

 

「じゃあ、あっちで揉めてるのって。それが原因?」

 

「延期なんてしてられるか!」

「あんたにそんな権利ないでしょ!」

 

「ふん、欲深き者たちが騒ぎおるわい」

 

「んだと! ジジイ、失礼なこと言ってんじゃねーぞ! どうせ偽者なんだろうが! ああんっ!」

 

 山村に抗議してる義行と敬子を強欲だと断じた義房。

 義行はそれに対して激怒し、義房の胸倉を掴んで怒鳴り散らす。うわぁ……、山村刑事……、ドン引きしてないで警察なら止めなさいよ……。

 

「――痛い目をみんとわからんか?」

 

「「――っ!?」」

 

「ぐわぁああっ! いてぇぇぇぇっ!」

 

 なんか、気付いたら義房が義行を組伏せてた……。

 すっご〜い。ええーっと、あの技って確か――。

 

「あ、あれは……、ブラジリアン柔術……」

「かなりの使い手ね。組織でも暗殺者が出来るくらい」

「じゃあ、あのカルロスはもっと強い――いや十分でしょう。あんなに強いなら……。なんで、ボディガードなんか雇ってるのよ……」

 

 なんと義房はブラジリアン柔術の達人みたい……。

 カルロスがもっと強いのかもしれないけど、あんなに護身術に長けた人がわざわざボディガードを雇うのは違和感があるわ……。

 

 結局、山村刑事の提案により警察の立ち会いのもとで遺産相続についての遺言状の発表を予定通りすることとなった。

 

 そして、夜の10時が近付きあたしたちは、部屋に集まった――。

 

 

「それでは、薮内義親氏の遺言の発表を致します」

 

 弁護士がカセットレコーダーを用意して遺言の発表の準備をしている。

 んっ……? さっきからずっと“カチカチ”って音がしてるけど何かしら……。

 あたしは異音に気付いたがそれが何なのか分からずにいた。

 

「生前、義親さんはテープに遺言状の内容を録音していましたので、こちらを再生します」

 

「「…………」」

 

「はて、何も聞こえませんな……」

 

「それ、録音ボタンじゃないですか?」

 

 弁護士がテープの再生をしたはずなのに、何も聞こえない……と思っていた矢先、広美が録音ボタンを押していると指摘する。

 いや、そりゃ絶対にやっちゃいけない間違えでしょ……。

 

「あっ! 間違えた……!」

 

「早く止めんと……! ああっ!」

 

 焦って録音を止めようとした義房が目の前のお茶を溢したとき、あたしは何かが作動した音を察知した。

 

「――っ!? 伏せて!」

 

「なんだ!?」

 

「……こ、これは?」

 

 咄嗟に放ったひと言で義房は何かを躱す。そして、その何かは襖を突き破って隣の部屋に行ってしまった。

 

「た、タンスよ! 後ろの茶箪笥から矢が!」

 

「……こ、これは……、ボウガン……!?」

 

「時間が経てば自動的に矢が発射されるようになってたって、わけね」

 

「い、一体誰が……」

 

 隣の部屋の畳には矢が刺さっている。そして、敬子の指摘によって義行が茶箪笥を開けると中にはボウガンに時限装置のようなものが仕掛けられていた。

 なるほど、何者かがこれを使って――。

 

「狙われたのは義房さんみたいです」

 

「あら、どうしてそれがわかったのかしら?」

 

「こっちの部屋に何度も仕掛けを実験した跡が残ってました。義房さんが座るのは当然、上座ですから……犯人は彼を狙ったと考えるのが自然です」

 

 隣の部屋にあったのはボウガンを試し撃ちした形跡。

 ならば意図的にあの場所を狙っていたことは容易に読み取れる。となると、上座に座ることが予測できる義房を狙ったとしか考えられない。

 

「やはりわしの命を狙った不届き者が()()おったか。くわばら、くわばら……」

 

「……でも、こうは考えられませんか? 自分を狙うようにわざと叔父さん本人が矢を仕掛けたとか」

 

「それはないわ。アリスの声で義房さんはギリギリ矢を躱してたし。自作自演をするならもっと的を外して仕掛けるでしょ」

 

「まぁ、哀ちゃんったら賢いのね〜」

 

「…………」

 

 秀和は義房の自演を疑ったが哀の言うとおりあのギリギリの回避からそれは考えられない。

 リスクが高いし、第一そんな事をやる意味もない。

 哀は有希子に頭を撫でられて複雑そうな表情をしていた。

 

「じゃあ、やっぱりあのサングラスの人が……」

 

「それは分かりませんが……」

 

「あのう。お話中すみません。いいんですか? あの録音……、止めなくても……」

 

「――っ!? いかん、録音しっぱなしだった!」

 

 そんなやり取りをしていると、山村刑事は遠慮がちに録音を止めなくても良いのかどうか口を挟む。

 えっと、弁護士さんはずっとそのまま録音し続けてたの……?

 

「おい! 親父の遺言消しちまったんじゃねーのか?」

 

「い、いえ……! 間違ってB面を入れていたみたいでして、録音は無事です! 今、巻き戻します!」

 

 うっかり弁護士さんが間違ってB面を入れていたおかげで遺言は無事だった。

 なんか、録音した音声を聞くだけで面倒な感じになってるわね……。

 

「山村刑事! 風呂の釜戸の側から不審なカセットテープを発見しました!」

 

 トラブルが一段落ついたころ、警官が現れてカセットテープが見つかったと告げる。

 山村は自分が戻るまで大人しくするように指示して釜戸へと向かった。

 

 

「変ね。広美がお風呂の準備をしてるときにはそんなことひと言も……」

 

「となると、このテープはその後に置かれたのかしら?」

 

 有希子は広美が風呂を炊いてるときにはこんなテープの存在は口にしてなかったと首をひねる。

 ならば、その後にこれは置かれていたということになるわね……。

 

「山村刑事、それと凶器の包丁がちょっと妙でして……、凶器からは被害者の指紋と血痕しか検出出来なかったのですが――その指紋から推測しますと……凶器の包丁は被害者が順手で持っていたみたいなんです」

 

「確かにおかしいですね。思わず被害者が握ってしまったにしても、自殺に見せかけて持たせるにしても逆手が自然なはず……。他に鑑識は何か?」

 

 また、妙なことになってきたわね。それじゃ、真知子が何かを突刺そうとして包丁を構えていたみたいになるじゃない……。

 

「いいえ、鑑識からは特に他には……。あと、ホテルに電話をしてみたのですが――」

 

「あ、あの。アリスちゃん。僕が刑事なの。君が現場をあまり仕切ると僕の立つ瀬が……」

 

「す、すいませ〜〜ん。つい、うっかり♡」

 

 警官と普通に会話していたら、彼も真剣に話をしてくれるものだから、山村刑事は自分の仕事が取られたみたいに思って複雑そうな表情をしていた。  

 あたしも普段はここまで出しゃばらないんだけど……。

 

「山村刑事、薮内真知子さんは確かにホテルには来ていましたが、何時に帰ったのかは分からないみたいです」

 

「そういえば、広美は11時に真知子が帰って来るって思ってたみたいよ。でも、実際は10時頃に帰宅していたから不思議がっていたわ……」

 

 んっ? ちょっと待って……、この扉からなら風呂から釜戸にはすぐ出られる。それにこの釜戸は遺体が隠されていた古井戸の近く……。ということはあのテープは――。

 

 

「どうしたの? 有希子さん。それ、吸殻?」

 

「う、うん。ゴミを拾っとこうと思ってね♪」

 

「そう……」

 

 裏木戸の側で有希子がタバコの吸殻を拾ってる様子を哀が眺めていた。

 

「ところで哀ちゃん。サングラスの怪しい人ってここから覗いて居たんでしょ?」

 

「ええ。あまりに怪しすぎて笑えるくらい不審だったわ」

 

「ふふっ、そっかそっかぁ。……じゃあ、テープの音を聞きに行きましょう。哀ちゃん、アリスちゃん」

 

「何なの? あのテンション。あなたを何倍か奔放にした感じよね」

 

 それから有希子はニンマリと笑って上機嫌になりあたしたちの手を引いてみんなが待っている部屋へと向かった。哀はそんな有希子の行動が理解できないみたいだ。

 

 やっぱりそういうことか……。大体わかってきたわよ……、色んなことが……。

 

 

「思ったとおり、ホテルの会場内の音が入っていたのね」

 

 発見されたカセットテープには真知子が出席したホテルの会場内の音声が録音されていた。

 やっぱり、そうだったか……。これを使えば色んな前提が覆るわ……。

 

「予想してたの? てことは、もしかして……」

 

「うん。わかったわよ。誰が真知子さんを殺したのかと、ボウガンを仕掛けたのか……それに関してはね」

 

 謎がすべて解けたわけではないけれど、真知子を殺した件やボウガンを仕掛けた件が誰の仕業なのかはわかった。

 

「含みがある言い方をするじゃない。まだ、足りない情報があるの?」

 

「分からないことはあるけど、それは後回しで良いかな。とりあえず、みんなを安心させるほうが先だし……」

 

「じゃあ、アリスちゃんの推理が聞けるのね! 楽しみ〜〜!」

 

 あたしが真知子を殺した人がわかったと口にすると、有希子が大きな声でそれをみんなに伝えた。

 周囲の視線がこちらに集まる――。

 

「えっ? アリスちゃん、わかったのかい? 誰が犯人なのか!?」

 

「そうですね。今回の事件はかなり複雑なので、順を追って説明しましょう。まずは茶箪笥に仕掛けたボウガンで義房さんを狙った事件ですが――」

 

「おいおい、あれはサングラスの男が犯人だろ?」

 

「いいえ、あのとき変なことを口走った人が犯人です。録音が残ってますよね? そちらのカセットのB面に……」

 

 あたしはまずボウガンの事件の話を切り出した。

 あのときの様子を弁護士が間違って録音をしていたので、それを再生してもらう。

 

『早く止めんと……! ああっ!』

 

『――っ!? 伏せて!』

 

『なんだ!?』

 

『……こ、これは?』

 

『た、タンスよ! 後ろの茶箪笥から矢が!』

 

『……こ、これは……、ボウガン……!?』

 

「はいストップ〜。わかりませんか?」

 

「いや、特に変なところは……」

 

 カセットから流れたのは先程の騒動の様子だ。

 この録音にはある人が妙なこと口走った証拠が残ってる。

 

「もー、思い出してください。あの矢は一瞬で襖を貫いて隣の部屋にいったんですよ。あたしたちは何がどうなったかなんてわからなかったはずです。なのに……、どうやってボウガンを見つける前にあれが矢だって気付いたんですか? ねぇ、教えてもらえませんか? 薮内敬子さん♪」

 

「ま、まさか、敬子……お前……」

 

「そうです。理由は簡単ですよね。敬子さんがボウガンに矢を仕掛けた張本人だからです」

 

 あんな一瞬で茶箪笥から矢が放たれたことを言い当てる事が出来るのは、その仕掛けを施した本人しかいない。

 だから、ボウガンを使って義房を狙った犯人は敬子ということになる。

 

「いや、それだけで敬子の犯行だって決めつけ――」

「私がやったの! で、でも、殺す気は無かったわ。ちょっと脅かそうと思って――」

 

 敬子は観念して犯行を告白した。彼女は夫に黙って作った借金があり、遺産で精算しようとしたけど義房が現れて自分の取り分が減ることを恐れてブラジルに帰るように促すために脅しをかけたそうなのだ。

 はぁ……、お金って人をダメにすることが多いわね……。

 

「じゃあ、義母さんを殺したのも……、君なのか……?」

 

「ち、違う。あれは私じゃない!」

 

「ええ、真知子さんを殺したのは敬子さんではありません」

 

 しかし、敬子は人を殺してはいない。真知子を殺した人物は別にいる。

 

「じゃあ、誰が……? あのサングラスの男か?」

 

「いいえ。真知子さんを殺したのは……、この中にいます!」

 

「変なことを言うわね。広美さんが言ってたでしょう。駅前のホテルからここまで一時間はかかると……。9時くらいにホテルにいた彼女が戻ってきたのは10時過ぎ。10時以降にこの部屋にいたこの家の住人には犯行は無理じゃない?」

 

 あたしが真知子を殺した人物がこの部屋の中にいると告げると哀はそれはおかしいと反論する。

 まぁ、彼女のことだから状況の確認を兼ねてあたしにそう言ってくれてるんだろうけど……。

 

「うん。だからあたしも犯行は10時以降だって思い込んでいたの。でも、実際は違うのよ。昨夜、真知子さんは最初の電話をしてすぐにこちらに戻ってきたの。そして、林の中に車を停めてカセットに録音した会場内の音声を流しながら電話をした。あたかもまだホテルの中に自分がいると錯覚させるように……」

 

 あのテープは真知子が自分のいる場所をまだホテルの会場だと錯覚させるために用意したものだ。

 つまり、彼女は2回目の電話のときには既にこの家の近くに居たのである。

 

「ちょっと待ってください。な、なんで被害者の真知子さんがそんなアリバイ工作みたいなことを……?」

 

「事実が逆になってしまったということです。真知子さんはある人物を殺そうと考えていたんです。そのアリバイトリックを使って……。そして、逆に殺されてしまった――。つまり、皮肉にもアリバイトリックは自分を殺した人間のアリバイを証明する結果になっちゃったんです」

 

 山村刑事の疑問にあたしは答える。そう、真知子はアリバイトリックを用意して殺人をしようとしていた。

 そして、返り討ちにされてしまったのだ。

 

「井戸で見つかった雨ガッパは返り血を浴びてもすぐに風呂で洗い流せるように真知子さんが着ていたもの。そして、あの姫椿は15年前の事件に関連付けようとして彼女自身がポケットに入れていたものでしょうね。釜戸の近くに落ちていたカセットテープは犯行に行く途中に落としたものか、殺されたあとに井戸に運ばれている途中に落としたものか分かりませんが……どちらにせよ、真知子さんは犯行後に薪と一緒に燃やしてしまうつもりだったのでしょう」

 

 見つかった様々な物が真知子が殺人の準備をしていたことを物語っていた。

 こんなに準備をしたのに、殺された上にそのアリバイトリックを利用されるのは本当に皮肉としか言いようがない。

 

「で、誰なんだよ? 探偵の嬢ちゃん。あの女を殺した奴ってのは」

 

「真知子さんが狙ったのは、毎日決まって一番風呂に入るほどの風呂好き――つまり風呂に入る順番が唯一決まっていた人物……薮内義房さん、あなたですね……」

 

 真知子を返り討ちにして殺めてしまったのは、薮内義房だ。

 彼だけがいつお風呂に入るのか決まっているのだから――。

 

「叔父様が……!? まさか……」

 

「ブラジリアン柔術には刃物で襲ってきた相手の腕をひねって逆に相手に刺す技があったはずです。あなたは襲われたときに、咄嗟にそれを使ってしまった――。真知子さんが彼を殺そうとした動機は恐らく遺産の取り分の関係でしょう……」

 

 真知子は包丁で義房を刺そうとしたが、彼のブラジリアン柔術の技によって自らの胸を刺して絶命した。

 このおじいさんが強いなんて思っても見なかったんでしょうね……。カルロス引き連れていたんだし……。

 

「しかし、それでは叔父は正当防衛だ。黙っている理由がない」

 

「2通あったんですよ。脅迫状が……。ボウガンで襲われたときに義房さんは言ってましたよね? 『不届き者がまだ居たのか』……と。どう考えてもアレは一回誰かに襲われた経験がある人の反応ですもの」

 

「…………」

 

 あたしは自分の推理を披露したが、義房はひと言も声を発しない。

 やはり言えないことがあるのね……。それがあたしにずっとまとわりついていた違和感の正体……。

 

「はぁ……、ここまで言っても何も話さないところを見ると……、やっぱりあなたは守ってるんですね。大切な人を……、いやカルロスさんを」

 

「――っ!?」

 

 正当防衛なのに義房がなぜ口を割らないのか……。それはカルロスが関係するのではないのかと、あたしは推測した。

 

「叔父様がカルロスを守ってるってどういうこと? アリスちゃん」

 

「ここからは、憶測になっちゃうんですけど、義房さんはカルロスさんをボディガードと言いながら、本人は強いですし、風呂は一人で入ってます。カルロスさんをみんなの目に付く場所に置いて……。それに――あのボウガンを避けるとき……カルロスさんを庇って避けていた。だから思ったんですよ。義房さんがカルロスさんに守られてるんじゃなくて、逆に守ってるって」

 

 刃物で襲われても自衛出来るほどの義房にはボディガードは不要。

 それでもカルロスから入浴時以外は離れずにいて、ボウガンが飛んできたときも彼を庇いながら避けていた。

 

 何故だか分からないけど、義房がカルロスを守っているようにしか思えない。そして、その理由こそ彼が未だに沈黙している理由なのでは――とあたしは思っている。

 

 悔しいけど降参するしかないみたいね……。あたしはひと呼吸置いて、障子の外に向かって声をかけた――。

 

「はぁ……、ですから、聞きたいんです。あの蔵の中にはその答えはありましたか? 工藤優作さん?」

 

「「えっ?」」

 

「驚いたな。私が居たことを知っていたのかい?」

 

 あたしが声をかけると障子が開いて外からサングラスとマフラーで顔を隠している男が入ってきた。

 声は思いきり優作の声だったが……。

 

「さ、サングラスの男!」

 

「やっぱり、優作さんじゃないですか。怪しい格好なんかしてるから……ちょっと戸惑っちゃいましたよ」

 

「はっはっは、悪かったね。ちょっと姿を現すのが気まずくて……。ほら、だって……」

 

「むぅ〜〜」

 

 優作はサングラスとマフラーを取って笑顔を見せ、有希子はムッとした表情で彼を睨む。

 ああ、気まずいからあんな怪しい格好でこっちを探っていたんだ……。

 

「コホン、とにかく全ての答えは遺言状のテープの中にあります。かけてみてください」

 

 弁護士は優作に促されて遺言状のテープを再生させる。テープを再生したら遺産の相続人に予想外の名前が出てきた。

 

「真知子、広美、秀和、義行、敬子、そしてカルロス――」

 

 そう、義房がボディーガードとして連れてきたはずのカルロスの名前が入っていたのである。逆に、本来入っているはずの義房の名前が入っていなかった――。

 

「か、カルロスの名前がなぜ……? それに叔父様の名前が無いなんて……」

 

 そこから優作は説明した。義房だと思われた人物の本名は“ヒクソン田中”。義房本人ではなく、彼に成り済ました日系二世のブラジル人である。義房の息子であるカルロスを守るために同行したブラジリアン柔術の達人だったのだ。

 

 本物の義房とは同じ農場の友人であり、竜巻で左腕を失った義房の代筆をしていたので、彼の筆跡が年賀状と同じであたしは彼が偽者だと判別できなかったってわけ。いやいや、何その偶然……。

 蔵の中に隠し部屋があって、そこにあった手紙に書いてあったみたいだけど……。

 

 彼は半年前に死んだ義房のふりをすることで脅迫者の矛先をカルロスから自分に向けるようにしたみたいだ。

 

 そして脅迫者を捕まえるつもりだったが、真知子に殺害されそうになり、返り討ちにした。

 彼は困った。正当防衛とはいえ警察に連行されてしまうからだ。

 脅迫者はもう1人おり、それが誰か分からないうちにカルロスの下を離れると彼が危険な目に遭う可能性がある。

 

 そう考えた彼は井戸に死体を隠した。 

 理由はあたしの言ったような見せしめのためではなく、やって来る刑事が話せる男かどうか見極めるためだった。 

 しかし、山村刑事があまりにも頼りなかったため、仕方なく遺言発表まで沈黙を守っていたのだった。

 

 田中はすべてを見抜いた優作を信頼して、最後には彼が呼んだ目暮警部に連行されていった。

 

 

「やっぱり、あの蔵の中に答えがあったんですね。ちゃんと探しておけばよかった」

 

 全てが終わって、あたしはあの蔵の中を徹底的に探さなかったことを後悔した。

 まぁ、負け惜しみも良いところなんだけど……。

 

「そういえば、アリスちゃん。どーして、あの人が蔵に居たのがわかったの?」

 

「タバコの残り香ですよ。2回目に蔵に入ったとき――タバコの匂いが仄かにしたんです。それが前に優作さんと会ったときに吸ってたタバコの銘柄の香りに似ていた気がして……。確信したのは、有希子さんが吸殻を拾って嬉しそうな顔をしたとき――やっぱりサングラスの男は優作さんで、蔵の中に何かあると探っているんだろうなって推測したんです」

 

 変だと思ったのは哀が蔵が開いていると指摘してその中に入ったときだ。

 新一の記憶にも刻まれている香りが人よりもちょっとばかり敏感なあたしの嗅覚を刺激して、そこから優作が愛する妻を追ってここまで来たのではないのかと疑ったのだ。

 

「見事な観察力だ。ツメの甘い部分はあるけど、探偵として頑張って経験を積んでるみたいだね」

 

「でも、蔵を探ったってことは、最初から疑っていたんですよね? 義房さんが偽者だって」

 

 優作はあたしを褒めてくれたけど、腑に落ちないのは彼が最初から義房を偽者だと疑っていたような感じがしたことだ。

 じゃないと蔵の中の隠し部屋なんて見つけられないと思うし。

 

「それは簡単なことだよ。考えてみたまえ、左利きのファーストが足を伸ばすのは左足だ。つまり右足を怪我していた彼は偽者ってことだよ」

 

「あー、そっかー。蘭ちゃんと話すためにサッカーはよく見てるんだけど、野球はあんまり見てないんですよね」

 

 割と簡単なことを見落としていて、あたしは愕然とした。  

 もしかしたら、年賀状を下手に見つけてなかった方が気が付いたかもしれない。筆跡が同じなら同一人物だと決めてかかったのは浅はかだった。

 

「タバコの残り香に気付いて、そういう初歩的なことにうっかり気付かないのはあなたらしいわね。本当に甘いんだから」

「哀ちゃんだって、気付かなかったじゃん」

 

「しかし、それでもカルロスを守ろうとしている田中さんの行動に気が付いたんだ。もっとその観察眼を磨けば、いい探偵になれるさ」

 

 優作にはいい観察眼をしてるって言ってもらえたけど、惜しいじゃダメなんだよね。

 今回は命の危険は無かったけど、こういう見落としには気をつけないと……。

 

「ふーんだ。何がいい探偵になれるさ、よ。変な格好してアリスちゃんの捜査の邪魔しちゃったりして。結局、正体もバレてるし。格好悪いんだ〜」

 

「有希子さん。わざわざ迎えに来てくれたんですから、許してあげたらどうですか? 吸殻を見つけたとき、すっごく嬉しそうにしてたじゃないですか」

 

 旦那がロサンゼルスから群馬まで駆けつけて来たのにまだ拗ねている有希子。

 あたしは何とか仲裁しようと口を出した。

 

「そんなに嬉しそうにしてたのかい?」

 

「それはもう満面の笑みで、王子様を見つけたお姫様みたいでしたよ」

 

「結局、口でなんと言おうと待ってたっていうことでしょう」

 

 哀もいい加減この夫婦喧嘩が終わってほしいと思っているのか、あたしと一緒に援護射撃してくれた。

 

「あー! アリスちゃんも哀ちゃんも敵に回るつもり〜!? ――っ!?」

 

「帰るぞ。有希子」

 

 あたしと哀が有希子を諭したので、それにも文句を言おうとした彼女だが、優作は彼女の両肩をポンと抱いてひと言告げると助手席のドアを開けた。

 

「も、もう。しょうがないわね……」

 

 彼女は少しだけ頬を桃色に染めながら、彼のエスコートに従って車の中に入る。

 素直にロサンゼルスに帰ってくれそうね……。

 

「女って意外と単純ね」

「それをあたしらが言うのはどーかな? でも、新一が気付いたときに両親が離婚しちゃってた、ていうのは避けられて良かった」

 

 まぁ、何というか……、色々と疲れた――。

 あたしの力不足がわかったから、もっと経験を積んで名探偵を目指さなきゃ――。

 




コナンもそうですが、年賀状の下りがなかったらもっと足の怪我を疑ったりして義房が偽者だって早い段階で見抜いてたんじゃないかなって思ってます。
真実に辿り着かなかった珍しいエピソードなので入れてみました。

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