工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった   作:ストロングゼロ

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容疑者・毛利小五郎 前編

「ピーチにメロンにさくらんぼ! やっぱ、夏はフルーツ! 食べ頃っすな! おおっ! こいつは今日最大級のフルーツッ! ――ぬわああああっ!」

 

「や〜〜ん。先生ったら、えっちぃ♡」

 

 軽井沢のホテルに行かないかと小五郎に誘われてあたしは蘭と共に彼に同行して遊びに行った。もちろん、ホテル代はあたしも出してるんだけど……。

 そんな小五郎だけど、お目当てはプールで女の子を眺めることだったみたい。あたしもひと泳ぎしてたんだけど、蘭はちょっとお怒りモードで彼の聞いてるMDの音量を最大に上げちゃってた。あれは耳に響くわね……。

 

「んなんてことすんだぁっ!!」

 

「アリスちゃんをやらしい目で見ないでもらえる?」

 

「何が軽井沢のホテルに避暑に行かないか……よっ! こっそり海パン用意して」

 

「アリスだって泳いでるじゃねーか!」

 

「そういえば、何でアリスちゃん水着持ってきたの?」

 

 小五郎は確かにあたしたちにはプールのあることは言ってない。

 でも、あたしは彼がプール付きのホテルに行くと確信していた。

 

「えっ? 先生が流れるプールのCM見て、これだって呟いてたから。プール付きのホテルにしたのかなって」

 

「んもう。無駄に推理力を使わないでよ。とにかく、もう行くよ。MDもお母さんに買ってもらったものなんだから、エロオヤジには貸しません」

 

 ということで、早々とプールからは退散となった。もうちょっと泳ぎたかったけど、仕方ないわね…。

 

 

 

「仕方ねーだろ? 毎日、毎日、事件続きでストレス溜まってんだから」

 

「お母さんに悪いと思わないの?」

 

 小五郎はストレス解消がしたいと口を尖らせたが、蘭は英里のことを持ち出して悪いと思わないのかと言及する。

 彼女からすると早く復縁してほしいんだろうな……。だから、女性にうつつを抜かしている小五郎が許せないんだろう。

 

「わかんねーぞ。あいつだって今ごろ、若い男と――」

「ネクタイ選んでますね。英里さん……、割とイケメンの男性と……」

 

 なんてことを話してると、目の前で男の人にネクタイを選んでいる英里と遭遇した。

 なんて、偶然だし、なんてシーンでばったり出会ってるのよ……。

 

「お、お、お母さん!」

 

「嘘っ!? あなたたち、どうしたの?」

 

 英里は気まずそうな顔をしてこちらを見ていた……。いやー、何がどうなってるのかな……。

 

 

 

 

「だから、言ったでしょ。弁護士仲間で軽井沢に旅行に来てたって」

 

「じゃあ、あのネクタイって誰かへのプレゼントなんですか? 随分と真剣に選んでましたけど」

 

「そ、そうよ。知り合いへのプレゼントを探すのを手伝ってもらってたの」

 

 英里は弁護士仲間と一緒に旅行に来ていて、誰かさんへのプレゼントを選んでたみたい。

 なるほど、そういうことか……。

 

「へぇ、それはてっきり僕へのプレゼントかと思ってましたよ」

 

「ちょっと、佐久くん!」

 

 英里とネクタイを選んでたのは佐久法史(さくのりふみ)。刑事事件を専門的に扱う弁護士みたい。

 彼は英里をからかっているようだ。

 

「けっ、ガキじゃあるめーし。一人で選べねーのかよ」

 

「あら、悪かったわね」

 

「まぁまぁ、先生も英里さんも空気が悪くなりますから。落ち着いてくださいな」

 

 小五郎と英里は一触即発って感じでバチバチと火花を飛ばしている。いやー、いっつもこの二人って一緒になるとこんな感じよね……。

 

「なるほど、No.1の女王様もダンナがからむとただの庶民に戻っちゃうんですね!」

 

「女王様?」

 

「知らないの? いかなる者も寄せつけない法廷での凛とした態度! 裁判長をも圧倒する弁論術ついた(あざな)が法曹界のクイーン」

 

 英里のことを持ち上げるのは碓氷律子(うすいりつこ)という名前の弁護士で、他の弁護士によると現在話題となっている工場の汚水問題の裁判を二審で逆転し、最高裁まで持ち込んだやり手らしい。

 彼女は英理の足元にも及ばないと皆の前では謙遜していたが……。

 

 佐久、碓氷に続いて姿を現したのは塩沢憲造(しおざわけんぞう)三笠裕司(みかさゆうじ)――二人とも英里の弁護士仲間だ。

 

「しかし別居中とはいえうらやましいですな。無敗の女弁護士に迷宮なしの名探偵カップルとは」

 

「いやぁ、高慢ちきで高飛車な女王陛下を妻に持つただのしがない男ですよ」

 

「そうね、だったら私は人のアラを探す事に長けている、姑息で不潔で女に見境のない名探偵さんを人生の伴侶に選んでしまったバカな女ってところかしら?」

 

 二人とも、お互いの悪口を言うときはなんでこんなにウキウキになるんだろう。

 小五郎なんて、こんなに切れ味の鋭いセリフ滅多に言わないのに。

 

「ったく、無理しちゃって。毛利さんが解決した事件記事を一つ残らずスクラップしてるじゃないですか」

 

「じゃあ、お父さんと同じだ。お母さんの担当した裁判の記事を夜中にこっそり見てるもん」

 

「へぇ〜〜。いがみ合っているように見えていい夫婦してるんだね。やっぱりお互い意地張ってるだけじゃないですか!」

「そうよね。アリスちゃんの言うとおり! 意地なんて張らないで、ちょっとは歩み寄ってよ」

 

 とはいえ、この夫婦は割とお互いのことを想い合ってる。

 度を超えて意地っ張りなだけで、いつ寄りを戻してもおかしくないのだ。蘭もそれがわかってるからこんなに一生懸命なんだよね……。

 

「彼女たちもこう言ってることですし、ここ軽井沢では一時休戦しませんか?」

 

「英里が嫌じゃねーなら、おれは別に……」

「私は別に嫌じゃないけど……」

 

 あら、上手く行きそうじゃない。これは思いもよらず復縁なんてあり得るかもしれないわ。

 

 

 なんて、考えてるあたしや蘭は甘かった――。

 

 

「で、すっかり出来上がっちゃったと……」

 

「律子しぇんしぇーい、きゃわいい! 何もかもボクちんのタイプでしゅー! にゃははははっ!」

 

「…………帰るわ」

 

「ちょっと! お母さん!」

「あらぁ、こりゃ先生が悪いわ……」

 

 悪酔いして、碓氷弁護士に絡みまくる小五郎。

 あたしも蘭もこの人に酒を飲ませたことをしこたま後悔した。

 英里はムッとした表情を浮かべて退席する。

 

 

「お母さん! お父さんがお酒を飲むとああなるのは知ってるでしょ? それに、お母さんだって仲良く男の人とネクタイなんか……」

「英里さんが先生にイラッとするのは分かりますけど……、そのネクタイ、渡すの止めたりしませんよね?」

 

「えっ? アリスちゃん、それはどういう?」

「やだ、蘭ちゃん。明日が何の日か忘れたの?」

 

 昼間に英里が佐久とネクタイを選んでいたことを不快に思っていた蘭を見兼ねて、あたしは英里が誰のためにネクタイを選んでいたのか口にする。

 ホントは英里の口から言ったほうが良いんだけど……。

 

「まったく、あの人と違って鋭いんだから。アリスさんの言うとおり、これは明日の私たちの結婚記念日に渡そうと思ってたのよ。蘭も可哀想だし……、そろそろ許してあげようと思ってね……」

 

「お母さん……」

 

「でも、ダメにして正解だったわ。変な気を起こしたのが間違いよ」

 

「じゃあ、私がお父さんに渡してくる! 行こっ、アリスちゃん」

 

 英里の話を聞いた蘭は彼女からネクタイを奪い取り、小五郎に渡そうと彼のもとに向かおうとする。しかし――。

 

「――ちょっと、待ちなさい! ――や、やっぱり自分で渡すわ……」

 

「もー!」

「あらあら、これは盛り上がって来たわね」

 

 頬を赤らめて英里は自分でネクタイを渡すとあたしたちに告げた。

 なんか、ホントに仲直り出来そうじゃない……。

 

 

 

 ――だけど、どこを探しても小五郎は居なかった……。

 

 

 

「妃さん、どうしたのですか?」

 

「夜遅くにごめんなさいね。もしかして、うちの人が来てないかと思いまして」

 

「……来てないですけど。何かあったんですか?」

 

 最後に訪れたのは碓氷の部屋だ。小五郎が彼女にやたらと絡んでいたからもしやと思って――。まぁ、居たら居たで大問題だけど……。

 

「父が居ないんです。私たちの部屋にも他の方の部屋にも」

 

「そうなんですか……」

 

「…………外をぶらついているだけかも知れないわね。あの人、風に当たるの好きだから……。――あっ、ごめんなさい。外を探してみるわ」

 

 小五郎がホテル内に居ないなら外に居るだろうと英里は思い直して、外を探すことにした。

 なーんか、変な感じがするわね……。

 

 

 

「あの碓氷って人、ちょっと怪しいのよね。何か隠してるような気がする……。部屋ん中に強引に入ってみたほうが良かったかしら」

 

「こらこら、探偵が何の証拠も無しにそんなことしたらダメでしょ」

 

「冗談ですよ。でも、英里さん……、あの人には気を付けたほうが良いですよ。彼女からは敵愾心みたいなモノを感じましたから……。法曹界のクイーン……って言葉を発したときに、嫌な感じがしたんです」

 

 碓氷って人が何か引っかかって、それを口にすると英里に咎められてしまった。

 でもね。相手を過剰に持ち上げるのって、劣等感の裏返しだったりするのよ。あたしだって、あまり人を悪く言うのは好きじゃないけど……。

 

「珍しいね。アリスちゃんが人の悪口みたいなことを言うなんて」

 

「蘭ちゃんのお母さんだからね。嫌な目に遭って欲しくないじゃん」

 

「忠告は聞いておくわ。でもね、弁護士っていうのはやっぱり人を信じる仕事だから。疑うのはダメ探偵に任せておくことにしてるの」

 

「これは失礼しました。じゃ、ダメ探偵、じゃなかった、先生を探しに行きましょう♪」

 

 英里は弁護士とは信じることが大事だと伝えた。

 それはとても尊いことだと思う。まぁ、彼女がそう言うならあたしも小五郎を探すことに集中しましょう。

 

 

 

「午前2時……、さすがに遅すぎるわね」

 

「まだ、見つからないんですか? 毛利さん」

 

「ええ、外も探したのに、どこにも……」

 

 結局、外を探しても小五郎は見つからない。どこに彼は消えてしまったのか……。

 再び、英里の弁護士仲間も含めて全員があたしたちは碓氷の部屋の前に集まる。あれ? これって……。

 

「蘭ちゃん、こんな札さっきはなかったよね?」

 

「うん。無かったと思うけど……。まさか……」

 

 あたしが“起こさないで”という札がドアノブのところに引っ掛けてあることに気付くと、蘭は顔を曇らせた。

 いやいや、さすがに小五郎も不貞行為を働くなんてことないと思うんだけどな。

 

「それはないと思うよ。あの二人が……。――妃さん?」

 

 塩沢が蘭が想像してるようなことはあり得ないと呟いたとき、英里が電話をかける。

 おそらく、小五郎の携帯に電話したのだろう。

 

「……ちょっとお母さん。何を――」

「しっ……、静かに……」

 

 聞き慣れた電子音が部屋の中からする。これはタイミング的にも間違いなく――。

 

「これは先生の着信音……。碓氷さんの部屋から……」

「あなたの勘を信じてあげれば良かったわね……。三笠くん、フロントに言ってマスターキーを」

 

「あ、はい!」

 

 英里は三笠にマスターキーを取りに行くように頼み、まもなくホテルのボーイがマスターキーを持ってやってきた。

 修羅場の気配がするけど……。嫌だなぁ、殺伐とするのは……。

 

 

「どうぞ……」

 

「――っ!? う、碓氷さん?」

「どうかしましたか? ――あっ!」

 

 部屋の扉を開けた瞬間、英里と佐久の顔が引きつる。まさか……、嘘でしょ……。

 なんで、碓氷が倒れてるの……? だって中には小五郎の携帯が……。

 

「……こ、これは。――すみません。チェーンカッターをすぐに……!」

 

「そんなもの待ってられるか! おらぁっ!」

 

「うぇっ!? そんなに簡単にチェーンって千切れたっけ――?」

 

 あたしがボーイにチェーンカッターを持ってくるようにお願いした刹那、佐久が物凄い勢いで体当たりして、チェーンを千切りながら中に入った。凄いパワーね……。

 

 

 

「脈がない。もう死んでるわ……」

 

「首を何かで絞めたあとがある……。つまり絞殺……」

 

 碓氷は既に亡くなっていた。首を締めた跡があることから、紐状の何かで絞殺されたと容易にわかる。

 あたしがそう判断したとき、もそもそと布団が動いた――。

 

「う〜ん、うっせぇなぁ。さっきから……」

 

「えっ?」

「せ、せんせい?」

 

 最悪だ……。ベッドの中から小五郎が大あくびしながら出てきた。

 ええーっと、マジで何してんのよ……。

 

「ふぁ〜〜? なんだぁ? 今なにが起こって……」

 

「あっ、先生、そこ踏んじゃダメですよ〜。その電話のコードが多分凶器ですから」

 

「凶器?」

「はい。そこの碓氷さん、首を紐状のモノで絞められた跡があるんです。だから、多分それでギューッとされて……」

 

 あたしは小五郎が床に落ちてる電話のコードを踏もうとしたのでそれを止める。

 状況から考えて凶器はそれだろう。

 

「おい、殺害って? 誰がやったんだ?」

 

「あなたしかいないじゃないですか!」

 

「待ってください! きっと何かの間違いです! 父が人を殺したなんて……、そうよね? お母さん」

 

 当たり前だけど、状況が状況なので小五郎は殺人犯扱いされてる。

 蘭は当然、自分の父親が人殺しなんてするわけないと彼を庇ってるけれど。

 

「刑法第199条、人を殺害したものは無期または3年以上の有期刑、もしくは……死刑!」

 

「はい……?」

 

「いやいや、あり得ないでしょ……。こんなとこで寝てるのも含めてだけど……」

 

 英里は無情な宣告を小五郎に告げる。彼が殺したとは思ってないけど、女の部屋に酔ってるとはいえ何で入り込んでいるのよ……。

 そういう所は何とかして欲しいんだけどな……。

 

 

 

 そして、程なくして警察が現場に到着した――。

 

 

「ふうん、じゃこういう事ですね? あなたのご主人が行方不明で、この部屋が怪しいと踏んでドアの前で電話をかけた。すると案の定ご主人の携帯が部屋の中から聞こえ、マスターキーで鍵を開けて入ろうとしたら、チェーンロックがかかっていて、ドアの隙間からこの女性が横たわっているのが見えた。そしてドアを破って中に入ったら、女性はすでに息絶えていて、その時ご主人がこのベッドで寝ておられた、と」

 

「ええ……」

 

 うわっ……、小五郎ってツイてないわね。よりによって、山村刑事が来るなんて……。

 これは警察に任せておくと彼は犯罪者にされてしまうわ……。

 

「じゃあ残念ですが、犯人はご主人ってことになっちゃいますよ。あれ? あなた、ひょっとして毛利小五郎さん? ラッキーです。名探偵であるあなたがいれば百人力。聞かせてくださいよ、この事件に対するあなたの見解を」

 

「そうね、犯行当時の事をじーっくり話してあげれば? ここのベッドで高いびきをかいてた名探偵さん」

 

 山村が小五郎が居て頼もしいと声をかけると、英里は嫌味たっぷりに彼のことを話す。

 あはは、彼女……、思った以上に怒ってる……?

 

「え? ご主人? 毛利さんが? ――だってそれじゃあ、あなたが犯人? そんなぁ、どうすんですか? ズバリの小五郎の推理ショーは」

 

「知るかぁ〜〜!!」 

 

 まぁ、状況的に仮に目暮警部でも小五郎が犯人扱いされるのは仕方ないだろう。

 こりゃ、あたしが何とか彼の冤罪を晴らすしかないんだろうなぁ。

 

「山村刑事、とりあえず毛利さんに重要参考人として署まで来てもらいましょうか?」

 

「ええ、毛利さんがよろしければ」

 

「ふん!」

 

「あーあ、推理ショー見たかったなぁ」

 

 小五郎も自分の置かれた立場は理解してる。だから連行されることに素直に応じていた。

 何か可哀相になってきたわ……。

 

「じゃぁ起訴前弁護は英理さんだね」

 

「起訴前弁護って……?」

 

「警察に不当な取り調べを受けないように、弁護人が付く制度さ」

 

「悪いけど私パス。最初からクロだとわかってる人間の弁護なんて御免だわ。私の無敗の経歴に傷をつけたくないし」

 

 当然、あたしも起訴前弁護は英里が付くかと思ったけど、彼女は拒否した。

 無敗の経歴に傷がつくとか言っているけど、どうなのかしら……。

 

「ふん! こっちもハナから願い下げだよ! 下手に警察に顔出しやがったら承知しねぇぞ!」

 

 小五郎も売り言葉に買い言葉という感じで英里に自分のところに顔を出すなと忠告する。

 

 ということで、佐久が小五郎の起訴前弁護に立候補してくれて、この場は収まった。

 蘭はずっと不安な顔をしている。無理もないわね……。

 

「お父さん……、お母さん……。ねぇ、アリスちゃん、お父さんを助けてあげて! きっと何かの間違いで――」

「当たり前だよ、蘭ちゃん。先生に濡れ衣着せた奴がいるのは間違いない。大丈夫、あたし()()がきっと犯人を見つけてあげるから」

 

 あたしは蘭の両肩を抱いて大丈夫だと伝える。なんせ、今日は自分だけじゃなくて強い味方がいるからだ。

 

「……あたし()()?」

 

「うん♪だって、ほら――」

 

「手袋を貸してもらえる?」

 

「えっ? か、構いませんが……」

 

 英里が山村から手袋を貸してもらって現場の検証を開始する。

 どうやら彼女もこの殺人現場に残された違和感に気付いてるみたいね……。

 

「腑に落ちないのは次の三点。1つ目は凶器に使われた電話コード。衝動的に殺害したのなら、コードを引きちぎって使うはず。でも電話はずれていないし、コードの両端も無理やり抜いた跡は残っていない。2つ目はあの人の携帯電話。わざわざ音が外に漏れるようにドア口に置かれていたのは、作為的なものを感じるわ。3つ目は――」

 

「先生の両手ですね。最後にあたしたちが彼女に会ってから遺体を発見するまで40分くらい。コードで殺害したのならコードの跡が残ってるはずです。革製の手袋でもしていたのなら別ですけど、見当たりませんよね? 英里さん」

 

 あたしも手袋をつけて現場をもう一度観察してみることにした。

 幸いなことに小五郎への濡れ衣の着せ方はかなり雑と言っても良かった。よく見れば、現場は彼が犯人じゃないことを示している。

 

「ええ、そのとおりよ。あなたなら、気付くわよね」

 

「なるほど~、言われてみれば」

 

「じゃあ、もしかしてお母さんがお父さんと行かずにここに残ったのって……」

 

「バカね、あたしはあなたの倍もあの人と付き合ってるのよ。そりゃ最初はカッとなっちゃったけど、あの人が人を殺せる人間かどうかくらいはわかるわよ」

 

 そう。英里は最初から小五郎が殺したとは思っていない。

 どっちかと言うと碓氷の部屋で眠っていることに怒っていたのだ。その気持ちはよーく分かる。

 

「ねっ、言ったでしょ? 何だかんだ言ったって愛してるのよ。先生のこと」

 

「勝手なこと言わないで。自分の夫が殺人犯にされるなんてどんなに冷めてても嫌に決まってるでしょ?」

 

「はいはい。そういうことにしておきましょう。女王陛下がそう仰るのでしたら。――あたしも先生を殺人犯にしようとした奴を許すつもりはありません。一緒に頑張りましょう」

 

 今回の事件は無敗の弁護士とタッグを組んで捜査が出来るのでこれほど心強いことはない。

 彼女と事件に挑めば、きっと真犯人を見つけることが出来るはずだ。

 

「って、あなたはアリスちゃん。どうしてここに?」

 

「あたしは毛利先生の助手ですから、旅行に連れてきてもらってたんですよ。あれ? 軽井沢って長野県ですよね? なんで、山村刑事が?」

 

「ここは群馬県との県境だから、群馬県警の管轄なんだよ。この前の君の推理凄かったなー。生で聞けたって自慢できたよ〜」

 

 そっか、軽井沢って群馬県警の管轄になったりするんだ。何かこの地区の人は損した気分になりそうな話だな……。そこを何とか長野県警の管轄にしてもらえないだろうか……。

 

「あなた、こちらの刑事さんと知り合いなの?」

 

「ええ、前に有希子さんと群馬に行ったときに事件に巻き込まれちゃって」

 

 英里に前に有希子と事件に巻き込まれて山村と面識があると答えるあたし。

 あのときは苦い経験もしたから山村刑事のポンコツぶりもよく覚えてる。

 

「有希子と? ふーん。あら? このメモ用紙、千切れてるわね……」

 

「多分、これですよ。何ですかね? “ハヤシ 2”って書いてありますけど……。心当たりありますか?」

 

 英里がメモ用紙が千切れていると口にしたので、あたしはゴミ箱から発見した紙を彼女に見せる。

 これは……、何を意味してるのかしら……。

 

「これは、確かに碓氷さんの字……。もしかしたら、今度彼女と組むことになっていた林弁護士のことじゃないかしら? まだ、林さんのことは彼女には伝えてないけど……」

 

「あー、じゃあ林さんって人から電話とかあったんじゃないですか?」

 

 なるほど、林さんと関わる予定があるならそれで確定っぽいわね。

 なんでそのメモがゴミ箱に捨てられてたのか分からないけど……。

 

「でも、林さんにはこのホテルに泊まることは教えてなかったはず――」

 

「塩沢様に聞いたと仰ってましたけど……」

 

「「えっ?」」

 

「すみません、林様からのお電話をこちらにお繋ぎしたのは私なんです」

 

 急にホテルのボーイが話しかけてきて、林からの電話をこの部屋に繋いだと教えてくれた。

 じゃあ、やっぱりこのメモはそういう意味で間違いないわね。

 

「あなた、何ですか? 勝手に」

 

「ちょ、ちょっと気になることがございまして、刑事さんにお伝えしたほうがよろしいかと思いまして……」

 

 ボーイは何か伝えておきたいことがあるみたいだ。 

 これは何か大きなヒントになる予感がするわね……。

 

「気になること?」

 

「実は林様からのお電話は二度あったんです。一度目はきちんと繋がったのですが――二度目は繋がらず、こちらの部屋に様子を見に来たんです。2回ばかり……」

 

「2回も?」

 

 このボーイ、2回も碓氷の部屋に様子を見に来たらしい。

 これはちょっと普通じゃないわね……。

 

「ええ、林様が“風呂に入ってるだけかもしれないから、もう一度見に行ってほしい”って仰るものですから――そしたら、二度目に部屋を訪れたとき、“起こさないでください”という札と一緒に紙が貼られていたんです。――その紙には“すいません、お金はちゃんと払います”と書いてありました」

 

「それは、林さんには伝えたのですかね?」

 

「はい、でも林様は“2時の待ち合わせを4時に変えて欲しい”と――」

 

 うーん。何だこれ? 張り紙の意味が全然分からないわ。

 碓氷が残したメモの意味はわかったけど……。

 

「ゴミ箱のメモは林さんと2時に待ち合わせをしていたという意味でしょうけど」

 

「ドアのメモは2回目の電話が通じなくなっていたとき、既に碓氷さんが殺されていたならば――犯人が札と一緒に残したってことになりますよね? でも、それじゃ先生が犯人じゃないって言ってるようなものなんですけど」

 

「そうね。泥酔してたあの人がメモなんて書いて残せるわけないもの。しかもこのメモと林さんの用件は全く噛み合ってない」 

 

 そう、犯人の行動が理解出来ないのだ。わざわざ頓珍漢なメモを貼った犯人の意図が……。

 こんなことをしたら、泥酔した後に被害者を絞殺したという犯人の思い描いたストーリーが崩れるというのに……。

 

「なぜ、こんな行動を犯人が取ったのか……その辺りから探ってみますか」

 

「あ、あの〜〜、僕が刑事なんだけど……。まっいいか……」

 

 山村刑事はグイグイ捜査を進めていくあたしと英里を見て諦めたような表情をする。

 この人には悪いけど、今回は彼に気を遣う余裕なんて無いのよ。小五郎を殺人犯にするわけにはいかないのだから――。

 




一回、書いたやつが消えちゃって茫然自失してました。
英里の有能さに気付く回ですよね。

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