工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった 作:ストロングゼロ
ご了承ください。
「ちっ、板倉の野郎。まだ来てねーじゃねぇか」
あたしが待ち合わせ場所に着いてしばらくすると……、ウォッカがコインロッカーの近くに現れた。
ここまで来るのは大変だったわ。酔っ払いに成りすますためにコンビニで酒を買い込んで、服や髪をそれで濡らして臭いまで付けたんだから。うへぇ……、ひどい匂い……。
「ん? 小切手……?」
ウォッカは煙草に火をつけると、あたしがロッカーに挟んだ小切手とロッカーの中に入れたソフトを見つけたみたいだ。
よしよし、ここまでは順調ね……。
「こいつは板倉にくれてやった額と同じじゃねぇか……。で、これは板倉に作らせた例のシステムソフト……。バカなやつだ。金を手放した上にビビってブツだけ置いて行くとはよぉ。プッ……!」
煙草をプッと口から飛ばすウォッカ。やはり迂闊な奴ね。あれは後で回収しましょう。
唾液から彼の情報がわかるからね……。
あたしがテープでガチガチに固定したソフトを取りながら彼は電話を始めた。
「ああ、オレだ。板倉の野郎がまだこの近くをうろついてるはずだ。とっ捕まえてここに引きずってこい。何!? 駅の構内に入ったのは、酔っ払いだけだと!? そんなはずはねぇ! 探せ! ――っ!?」
やっぱり見張りが居たか……。板倉を殺すつもりだったのね……。
で、あたしが入ったのもバレてると……。板倉がいないことに驚いてるみたいだけど――そう思った刹那、ウォッカは頭に銃を突きつけられた。
「……何の真似だ?」
「あ、兄貴……」
マジか……。ジンが来ちゃった……。一気に嫌な予感がしてきたわ。
ジンったら、たまにはウォッカ一人に仕事を任せなさいよ。前もあたしが仕掛けた発信器を見つけたし、苦い思い出しかないのよね……。そもそも薬飲ませたのコイツだし。
「取引は明日0時のはずだぞ」
「や、やつが明日はまずいってごねたんで、この時間に変えたんでさぁ」
「ほう? 奴とメールを交わしていいように扱われたというわけか」
やばいなー。根掘り葉掘りウォッカを質問攻めにするじゃない。
一応、指紋を消したり手袋をつけてなるべく作業したりしたけど……。バレないわよね……。
「い、いえ、時間を決めたのはこっちですぜ。あいつ、例の別荘でメールを受け取りやがって、雪で停電したってほざきやがるから電話でじかに…。――や、やつはバラし損ねましたけど、ちゃんと目当てのソフトは手に入れやしたぜ。奴の心臓はかなり悪い。へへっ! ほっといてもどうせそのうちおっちん死まうと……」
「おい。これがどうしてテープで固定されていたと思う? お前の指紋を取るためだ。手袋のままじゃテープははがせねぇからな。そして、待ち合わせ相手が見当たらなければ、お前は苛ついて煙草に火をつける。こいつの唾液を調べればわかるだろうな、お前の血液型も」
「あ、兄貴……」
げっ……、やっぱり見抜かれてしまった。ウォッカの吸い殻も回収するし、テープに指紋が残ることも見抜くかー。こりゃあ一気にピンチになるかも……。
「おっと。オレたちの根城まで嗅ぎつける気だ。見ろ。ケースの内側に発信機だ。こいつはとんだキツネだぜ」
「い、板倉の野郎!」
あーあ、発信器がまたバレちゃった。この人、なんでも疑ってかかるし出し抜くにはかなり苦労させられそうね。
とりあえず、こいつらが居なくなって十分に時間が経ってから外に出ることにしましょう。
最悪明るくなって工事の人が来るまで待ったほうが良いかもしれないわ……。
「いいや、板倉じゃねぇ。温度差が激しいと交感神経が刺激され心臓に負担がかかる。心臓を病んでる男がわざわざ吹雪の中山奥の別荘になんて行きはしねぇよ」
「じゃ、オレが話した男は一体……」
嘘でしょ、この仕掛けが板倉じゃないことまでわかっちゃったの……。ウォッカが電話をかけたとき、近くにジンが居たら終わってたじゃない。
板倉の死が報道される前だから大丈夫だと思ってたんだけど……。
「恐らく奴が雇った切れ者の誰かだろうが、一つだけドジを踏みやがった。このケース、一応指紋はふき取ったようだが、まだ生暖かい……。まだこの近辺に身を潜めているという事だ……!」
やばっ! この瞬間あたしは色々と思い出した。このシチュエーションって、ジンが無言でロッカーを調べたりする話だっけ? んで、ロッカーに大の大人が隠れられるわけないって当たり前のこと言って調べるのを止めたシュールな話だ。
コナンはロッカーに入って助かったけど……。あたしって大の大人じゃ〜〜ん。よく考えなくても大の大人がロッカーになんて隠れられないよ〜〜〜!
そんなこと言ってるうちに足音はどんどん近付いてくる……。ええーっと、どうしよう。くっ……! こうなったら――。
「へへ……、残るはそこだけ。ずる賢いキツネも袋のネズミってわけか」
「つまらねぇこと言ってんじゃねぇ――」
あたしは賭けに出ることにした。哀ちゃんごめん……。後は頼んだわよ――。
◇ ◇ ◇
《灰原視点》
アリスが賢橋に向かって行ってしばらくすると目暮警部が通報を受けて宝石強盗犯を逮捕した。
あのとき私はなんで彼女を止めなかったんだろう……。いつもあの子はそうだ。私の言うことを聞いてくれない。
そのとき、私が持っていた追跡メガネが彼女からの通信を受信した。このタイミングで通信……? 何か良くないことが起こったのかもしれない……。
「哀くん。どうしたんじゃ? 予備の追跡メガネなどいじって……」
「通信機が作動したのよ。向こうのスピーカーはオフになってるけど……。音声は聞こえるわ」
私は博士にも聞こえるようにアリスからの通信の音量を上げた――。
『へへ……、残るはそこだけ。ずる賢いキツネも袋のネズミってわけか』
『つまらねぇこと言ってんじゃねぇ――』
「こ、これは……、ウォッカ……、それにジン……」
「おいおい、もしかしてアリスくんが、追い込まれとるんじゃ……」
嫌な予感は的中した。アリスはきっと連中に隠れていることバレたのね。
それで、追い詰められているという最悪の状況。
「博士! 目暮警部にお願いして! 銃の取引とか何でもいいから理由を付けて、賢橋駅の地下コインロッカー辺りに人員を送るように! 早く! アリスが殺されるわ!」
「こりゃいかん! わ、わかった!」
もうダメかもしれない。アリス、あなたにもしもの事があったら私は――。
『女!? なんでこんなところで倒れてやがんだ? ――まさか、こいつが板倉が雇ったキツネですかい? 早くバラさねぇと』
『いや、こいつはただの酔っ払いだ。板倉の送り込んだキツネに囮役に選ばれた憐れな女だがな』
『そういや、酔っ払いが中に入って来たって見張りが言ってましたぜ。確かに酒臭ぇ……。囮役ってのは、どういう意味でさぁ?』
『見ろ。この女、手袋を付けて寝てやがる。明らかに怪しい』
『それなら、板倉の雇ったヤツってのがこの女で狸寝入りを決め込んでやがるんじゃ?』
『本当に寝てるかどうかなんて、瞳孔を見れば一目瞭然。バカみたいに熟睡してやがるよ、この女はな。板倉の手下が思った以上にな……』
『思った以上? どういうことですかい?』
『ヤツはここで寝てる女を見つけ、手袋を付けて静かに立ち去った。オレたちがこの場でヤツを探すのも計算に入れてたんだろう。ヤツを探そうと物音を立てれば、こいつは目を覚まして起き上がる。そして、オレたちに見つかり……キツネとして処分されるって算段だ』
『たがよ、アニキ。それじゃあオレの指紋や吸い殻を取りになんか……』
『だから、この女の後ろに忍ばせていたのさ。見ろ……、盗聴器だ……! 例のロッカーから離れた場所に盗聴器を設置しておき、外からヤツはこっちの様子を確認してたんだよ。オレたちがこの中を探してる様子もほくそ笑みながら聞いてたんだろうぜ。おそらく盗聴器を仕掛けるときに偶然この女を見つけて保険をかけておいたんだろう。もしもの時に少しでも時間を稼げるように――』
通信はここで途切れた。おそらくジンが通信器を破壊したのだろう。
アリス……。あなたは無事なの……? それとも――。
◆ ◆ ◆
「ふわぁぁぁっ……、あーよく寝た。哀ちゃん、おはよ」
ロッカーにもたれて寝てたあたしが目を覚ましたとき、目の前に哀が居た。
どーやら、警察を連れてきてくれたのね……。組織の連中は退散した後だったのか、何か争った形跡もないから良かったわ。
「よく寝た……、じゃないわよ。あんな通信いきなり送ってきて」
「いやー、ウォッカは騙せそうだったんだけど、ジンが来ちゃってさ。逃げ場が無くなって困っちゃったんだよね」
ジンはやっぱり侮れない男だ。今回はマジで死ぬかと思った。
ロッカーの話、何でギリギリまで忘れてたんだろう……。前世の記憶がポンコツ過ぎる……。
「その様子は通信機で聞いてたわ。どうやって切り抜けたの?」
「博士に補充してもらった麻酔銃を撃ったのよ。自分に」
あたしの苦肉の策は自分を強制的に眠らせることだった。
ジンとウォッカがこちらに近づく瞬間に自らを麻酔銃で撃つことで。
「はぁ? じゃあ酔っ払って寝てる女って……」
「そ、あたし。臭いするでしょ?」
「アルコール飲んだの?」
「酔っ払いのフリして入ったから、酒を服や髪に振りまいて臭いをつけてたのよ。んで、寝る直前にお酒を口に含んで……口臭も変化させといた」
身体から酒の匂いを発してるだけじゃ足りないと思って口も酒を含ませて泥酔した後に寝てしまった感じを演出した。
生き残るための仕掛けはこれだけではないが……。
「…………だけど、危険な賭けをしたわね。下手したら問答無用で殺されてたわよ」
「でも、まぁ信じてたからさ。ジンは見逃さないって。あたしが残したヒントを」
「ヒント?」
あたしが生き残れたのはジンの洞察力が鋭かったおかげだ。
彼が上手くこの状況を読んでくれたから殺されずに済んだのである。
「あのとき、あたしは敢えて手袋を付けた状態で眠りについた。背中で通信機を隠してね」
「そんなことをしたら怪しまれるんじゃないの?」
「ううん。逆だよ、哀ちゃん。考えてみてよ。寝てる酔っ払いがそんな状態だったら、何かあるって疑うでしょ? ジンはあたしの思ったとおり勝手な敵を想像してくれた。誰かが酔っ払いの女を身代わりにして探りを入れてるってね」
疑い深いジンはあの状況できっと誰かがあたしを囮にしようと考えたと推理しただろう。
ロッカールームで騒ぐことであたしが起きて、射殺されるように何者かが手袋を付けて立ち去ったと想像しながら……。
雑に体の後ろに隠されていた通信器を見たとき、彼は確信したはずだ。外から中の様子を盗聴することで窺っている敵の姿を。
「そういうこと。確かに組織は人を殺すことに躊躇いはないけど、無駄な殺しはやらないものね。痕跡を出来るだけ残さないことを前提条件としてやってるから」
「……まぁ、寝るのは死ぬほど怖かったけどね」
「当たり前よ。大胆にも程があるわ。ヒットマン二人を相手にして、堂々と寝顔を見せるバカがいるなんて思わないっていう心理をつこうとしたのはわかるけど、本当にそれを実行する頭のイカれ具合は理解不能よ」
哀の言うとおり、十中八九上手くいくと考えても怖い賭けだった。敵の前で無防備に眠ることは。
しかし、確実な死と天秤にかけると生き残るために勇気を振り絞るしかなかった。
「ご、ごめん……、心配かけちゃって……」
「今回は結果オーライなんだから……、これに懲りたら今度からもっと慎重になりなさい。無茶はやめて……」
「うん。ありがと」
哀はまっすぐにあたしの目を見て無茶をするなと声をかける。その声の優しさは今までに発せられたどんな言葉よりも心に響いて……彼女をホントに不安にさせたのだと罪悪感を感じてしまった。
もっと慎重にならなきゃ……。死ぬわけにはいかないんだから……。
「アリスくん! 未成年の君がこれほど酒を帯びてるのはどういうことだね!」
「ふぇっ? め、目暮警部!! いや、これは違うんですって!!」
「――ちょっとは怒られて反省なさい。バカにはいい薬よ……」
哀はニコッと笑って立ち去って行った――。
このあと目暮警部からこっぴどく叱られてしまう。
カモフラージュするにも程があると……。髪まで酒まみれにしたのはやりすぎだったかしら――。
◇ ◇ ◇
以下本編とは関係ない次回予告――
特報!!
「好きだからだよ。 蘭ちゃんのことが、好きだからだよ。 この地球上の、誰よりも――」
あたしの名前は藤峰アリス、自分で言うのもなんだけど結構有名な女子高生探偵よ! その正体は平成のホームズって呼ばれてた高校生探偵の工藤新一なの!
それを知っているのは一緒に住んでいる阿笠博士と灰原哀……西の高校生探偵の服部平次、さらに工藤新一の両親である優作と有希子だけ。こうやって考えると結構いるっちゃ、いるわね……。
バカっぽいってよく言われるけど、迷宮なしの名探偵なんだから! どんな事件だって解いてみせるわ!
――ある日警察関係者が次々と狙われる事件が発生した。あたしと小五郎が捜査しようとすると白鳥警部が「
そんな中――佐藤刑事が襲われ、その場にいた蘭が犯人の顔を目撃したんだけど……ショックが大きかったからなのか記憶を失ってしまって、もう大変! 蘭の記憶も取り戻さなきゃだし、もちろん彼女をこんな目に遭わせた犯人を捕まえてみせるわ!
劇場版名探偵アリス〜瞳の中の暗殺者〜 Coming Soon
自らに麻酔銃を撃つというアホみたいなギャンブルを躊躇なく実行するアリスの精神力は並外れてきたかも。
色々と考えたんですけど、ツッコミどころ満載の無理のある展開にしてしまって申し訳ありません。
尺がかなり余ったので劇場版の予告みたいなのを書いてみました。