工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった   作:ストロングゼロ

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かなり、エピソードが飛びます。
妃英里の初登場回です。


コーヒーショップ殺人事件

「あーあ、完全に出来上がっちゃってる……」

 

「ごめんね。アリスちゃん。今日はお父さん仕事は無理だと思うから諦めて」

 

 今日もいつものように毛利探偵事務所に行くと小五郎は酔い潰れて項垂れていた。

 昼間からこの人は――これは、今日は仕事なんか無理ね……。

 

「そりゃそうよね。わかった〜。あれ? 今日は随分とオシャレじゃない。誰かとデートするみたい」

 

「えっ? そ、そうなの。ちょっと新一と出かけに……」

 

「へぇ、そうなんだ。だから、そんなに嬉しそうなのね。じゃあデート頑張ってね〜」

 

「うん、また学校で!」

 

 蘭はいつもよりもお洒落に気を遣っていて楽しそうな顔をして新一とデートに行くと言っていたので、あたしは邪魔しちゃいけないと思って事務所から退散した。

 そっかー。デートかぁ。青春って感じよね〜。

 

「……蘭ちゃんったら。そんなに楽しみなんだ。新一とのデート……。あれ? 新一とデート? って、新一ってあたしじゃん!」

 

 あたしはようやく自分の間抜けさに気が付いた。

 ちょっと待ってね。蘭は誰と会うんだろう。あたしに嘘までついて……。

 ダメだ……。あたしの中の新一が様子を見に行けと言ってるような気がする……。

 

 

「おーい。蘭ちゃ〜ん」

 

「あれ? アリスちゃん。どうしたの?」

 

 あたしが事務所に引き返すと蘭はちょうど出かけるところだった。

 どうやって聞き出そうかな……。まっ、適当でいいか。

 

「いや〜。新一がこの前さ。博士に電話してたの思い出して。結構長いこと帰らないみたいなことを言ってたから、気になっちゃってさ」

 

「えっ、そ、そうなんだ。ごめんなさい。嘘は付きたくなかったんだけど、ちょっとプライベートな話で……。でも、よく考えたらアリスちゃんのことも紹介すべきだと思ったから、一緒に会ってくれる?」

 

 あたしが彼女に新一と会うのではないということを指摘すると、蘭はバツの悪そうな顔をしたが、あたしを誰かに紹介したいと言い出した。

 

「あ、あたしを紹介? 誰に?」

 

「私のとっても大切な人だよ」

 

「大切な人ってどんな人なのよ」

 

「それは話すと長くなるんだけど……、あっ、財布持ってくるの忘れてた。ごめん。アリスちゃん、そこの喫茶店の中で待ってて!」

 

「う、うん。気を付けてね」

 

 その大事な人とやらと、この喫茶店で待ち合わせをしているらしく、あたしは蘭に言われるがままにお店の中で待つことにする。

 一体どんな人だろう……。推理してみましょう。

 

 

 

「いらっしゃいませ。お席にご案内します」

 

「…………コーヒーッ!」

 

「えっ?」

 

「コーヒーっていったらコーヒーよ! 早く持ってきなさい!」

 

「は、はい」

 

 中に入ってきたのはサングラスをした怖そうな女性。

 うわぁ、店員のいうことを無視して腰掛けたくせに、コーヒーの注文もなんか怒鳴ってるよ。この人ではないことを祈ろう……。

 

 

 

「す、すみません。書き上げなきゃいけない論文があるので、静かな席がいいのですが」

 

「かしこまりました。こちらにどうぞ」

 

「カフェオレをひとつ頼もうかな」

 

 次に入ってきたのは大人しそうな男性。なんか、論文を書くためにこの喫茶店に来たらしい。

 待ち合わせって雰囲気じゃないわね……。

 

 

「ちょっと人と待ち合わせをしているの。後で相席になっても構わないかしら」

 

「は、はい。大丈夫ですよ」

 

「じゃあ、ホットコーヒーをひとつ」

 

 そして、びっくりするくらいの美人が入ってきた。

 あれ? あの封筒に妃法律事務所って書いてある……? あっ! あの人……妃英里さんだ。間違いない。

 蘭のお母さんだよ。敏腕弁護士の。じゃあ、あたしをお母さんに紹介しようとしてくれたのね……。なんか嬉しい……。

 

 ちなみに今のは新一の記憶じゃなくてあたしの漫画の知識だ。新一は蘭のお母さんの旧姓とか顔を忘れてたみたいね……。

 

 

「いや〜っ、参ったぜ。マスター。ラグビーの試合で突き指しちまってよぉ。おかげで結婚指輪がはめられねぇぜ」

 

「それは不運でしたね……」

 

 そんなことを考えていると、体格の良いおじさんが豪快に笑いながら、包帯を巻いた薬指を見せていた。

 ふーん。ラグビーって激しいスポーツだもんね〜〜。

 

「ちょっと、トイレはどこ?」

 

「ああ、トイレでしたら、あの奥です。でも、当店のトイレは男女共用でして……」

 

「知ってるわ!」

 

 マスターにサングラスの女性がトイレの場所を尋ねていた。あれ? なんで場所知らないのに男女共用は知っているのかしら……。

 

 

 

「おう、女の子と待ち合わせなんだが、まだ来てないみたいだな」

 

 その後、長髪のチャラそうな男性が女の子と待ち合わせとか言って席に案内されていた。

 うわ〜。電話で女の子とかモノにしてしまえばこっちのモンとか言っているし、引くわ〜〜。

 

 その男性が電話している間に、論文の男、英里、突き指の男の順番で入れ替わるようにトイレに行っていた。

 そういえば、怒鳴ってたサングラスの女の人はまだトイレから出ていないわね……。

 

 彼女のことを気にしていたら、電話を終えたチャラ男がトイレの方に向かっていく。  

 すると、間もなくしてその男が絶叫した――。

 

「うわぁああああッ!」

 

「どうした!」

「何があったの!?」

 

 あたしと突き指をした男は同時にトイレへと走った。

 こ、これは血液? なんで、個室トイレの中から血が出てるのよ。ま、まさか……。

 

「あ、開かないわ。鍵はかかってなさそうなんだけど……」

 

 トイレの個室のドアを開けようとしても、何かがつっかえていて、開きそうにない。

 中で一体何が……。こうなったら――。

 

 あたしはドアをよじ登って上からトイレの個室の中を見た。すると凄惨な光景が目に入ってしまう。

 

「うっ……!」

 

 サングラスの女性が心臓をナイフで一突きされて血まみれで倒れていた。

 じ、事件みたいね……。とりあえず警察を呼びましょう。

 

 

 

「目暮警部……、死因はわかりましたか? 首を紐か何かで絞められた跡がありましたが……」

 

 被害者はフリーターの姫野弥生。ナイフでの外傷とともに、首が絞められた跡もあった。

 現場に駆けつけてきた目暮警部とはもう顔馴染みなっている。

 短い間に訳がわからないくらい事件に巻き込まれているから――。

 

「アリスくん。通報ご苦労だった。いつも捜査に協力してもらってすまないね。毛利くんよりも鋭いことがあるから助かっているよ」

 

「いえいえ、先生の教えの賜物ですから♪ それより――」

 

 今や警部にはそれなりに探偵の助手として信頼されている。

 99パーセントはあたしが事件を解いてるんだから、推理力に定評があって然るべきね。

 

「ああ、死因はナイフで心臓を刺されたことによる失血死だが、その前に首を絞められて気絶させられたらしい」

 

「ふむふむ。なるほど」

 

「トイレの窓は開いていたし、外は人気がない路地。それに、凶器のナイフとともに荷物が荒らされていて、サイフも空だった。遺体もトイレの入口を塞いでいた事から外部の犯行と見て間違いないだろう」

 

 警部は外部の犯行だと決めてかかっているみたいだ。

 この個室トイレの入口が塞がれているので、当たり前だろうけども……。

 

「それはどうかしら? あたしは内部の犯行だと予測してますよ」

 

「ど、どういうことかね? アリスくん」

 

「あの窓、綺麗すぎます。外部の犯行なら、あり得ないくらいに」

 

「清掃が行き届いているだけではないのかね?」

 

 最初に違和感を感じたのは掃除し終えたばかりのようなピカピカの窓。

 ナイフで人を刺した犯人がもしも、外に逃げたのならこれは変だ。

 

 あたしは違和感の説明をしようとした。

 

「ううん。そうじゃないの。窓が綺麗なのが変なのは――」

「これだけの出血……、体に返り血を浴びているはず。でも、逃走に使った窓にはその痕跡はない。ナイフをここに放置するような犯人が痕跡を拭き取ったとは考えにくい。つまり、ナイフがここに放置されていたのは持ち帰れなかったからよ。だから内部の犯行だと考える方が自然。そう言いたいのでしょう? お嬢さん」

 

「は、はい。そのとおりです」

 

 あたしが説明しようとしたことを、全部英里に言われてしまった。

 もーう。格好良く説明しようと思ってたのに。

 それにしても、弁護士をしているだけあって、洞察力はかなりのものね。

 

「き、妃弁護士! どうしてあなたがここに?」

 

「偶然、この店に居たんです」

 

「警部さんは、こちらの女性と顔見知りなんですか?」

 

「何を言ってるんだね。彼女は君の先生の奥さんだよ」

 

 あたしは知っていたが警部に英里のことを質問した。

 すると、当然のように小五郎の妻だと返事が帰ってくる。

 

「ええーっ! 先生の奥様!? じゃあ、蘭ちゃんのお母様なんですか?」

 

「あら、あなたうちの娘の友達? あと聞き間違いでなかったら、あの人のことを先生と言っていなかった?」

 

 あたしはオーバーなリアクションをとってみると、彼女は小五郎を先生と呼んでいることに疑問を持ったみたいだ。

 やっぱり、奥さんなら気になるよね……。

 

「あ、はい。あたし、毛利探偵の助手を務めています。藤峰愛梨寿です。蘭ちゃんとはクラスメイトでして」

 

「藤峰……? それにその顔……有希ちゃんにそっくり……」

 

「親戚なんですよ。工藤有希子さんとは」

 

 あたしは英里に自己紹介をする。小五郎の助手をしている蘭のクラスメイトで有希子の親戚だと。

 それにしても、英里は見た目が若いなぁ。小五郎と同級生みたいだけど。

 

「親戚? ふーん。一つ忠告しておくけど、あの人の助手なんて趣味の悪いことは辞めたほうが良いわよ。どうせ、ろくでもないことしか教えてもらってないんでしょ?」

 

「いえいえ。とぉーっても勉強になってますよ。先生の教えを活かして、この事件も解決しちゃいますね♡」

 

 あたしは英里にウィンクして事件を解決してみせると意気込んだ。

 蘭と英里の時間を短くしたくない。早く終わらせないと。

 

「アリスくんも内部の犯行だと言っていたが、どうやってここから抜け出したのかわかるのかね? 死体でドアが塞がれていて、ずらした跡もないし、隣のトイレには窓が無いんだよ」

 

「上から出るって方法がありますよ。体格は限られますが。試してみますか? ほらっ、こうやって」

 

「ほ、本当だ。脱出出来る」

 

 あたしはトイレの個室の壁と天井の隙間を通って見せて、入口が塞がれていても外に出られることを実演してみせた。

 

「で、ここからが大事なんですけど、被害者がトイレに行ったあとにこちらに向かった人は4人います。それは――」

 

 トイレに行ったのは論文の男性――皇祐一、妃英里、突き指のおじさん――殿山十三、チャラ男――若王子士郎の四人だ。

 

 皇は論文を書きに来ており、英里は当然娘の蘭に会いに来ていて、殿山は毎日マスターとおしゃべりしているらしく、若王子は女の子と待ち合わせ。

 

 つまり容疑者は四人なんだけど――。

 

「まぁ、蘭ちゃんに会いに来た英里さんが犯人なわけないですけどね」

 

「あら、甘いのね。いかなる可能性も想定しないと真実には辿り着けないのではなくて?」

 

「ふふっ、なるほど。さすがは名探偵の奥様。良いことを仰る」

 

「あのね……」

 

 あたしが英里を犯人から除外するようなことを口にすると彼女はそれを良しとしなかった。

 なんて、フェアな人なんだろう。いい弁護士なんだろうな。

 小五郎の奥さんってところを強調すると、嫌な顔をするところがちょっと可愛い。

 

「大丈夫です。毛利小五郎の名にかけて、助手であるあたしが真実を突き止めます!」

 

「毛利小五郎の名にかけて、ね……。頼りないわ」

 

「ありゃ、手厳しい」

 

 あたしたちは捜査を進めた。

 トイレの隙間から移動できそうなのは皇と英里としかいなかった。

 若王子はぎりぎり無理で、殿山は大柄な体型からひと目で脱出不可能だということがわかったから。

 

 つまり皇が犯人って感じになりそうよね……。うーん。何か引っかかるんだけどなぁ。

 

「警部! あちらのテーブルからこのような紐が!」

 

「何っ! 被害者は紐で首を絞められていた。だとしたら犯人は――!?」

 

 さらに皇の席の近くで紐が発見される。被害者の姫野は首を紐で絞められていたので、ますます皇の犯行の可能性が高くなった。

 

「ち、違う! 犯人は僕じゃない! それは本とノートを縛っていた紐です。信じてください!」

 

 状況的に怪しいのは皇……。あそこから出ることが出来て、なおかつ紐まで持っているから。

 英里が犯人ではないならそれでいいはずなのよ。でもなぁ……、こんなに単純な話なのかしら……。

 

「あなた、顔に何か付いてるわよ」

 

「へっ? これは血……かしら?」  

 

 英里の言葉に促されて、あたしが鏡で顔を確認すると右頬に僅かに血がついていた。

 なんで、こんなところに血が……? そういえば、さっき痒くて頬を掻いたけど――。

 

「あっ!? 手にも血が付着してる。もしかして……」

 

 そう思って自分の両手を確認すると手のひらにも血痕が付着している。死体にも触れてないのにどこで血がついたのかしら?

 

「まさか――」

 

 あたしはトイレの壁の上部を確認する――。

 

「やっぱり……。だとすると……。――あ、あの。凶器のナイフを見せてもらえませんか?」

 

 思ったとおりね。ならば、凶器のナイフにはその痕跡が残っているかも。あたしはナイフを見せてほしいと鑑識の人にお願いした。

 

「ナイフがどうかしたの?」

 

「握り柄の部分まで血がついていて、細かく途切れています。ということは――逆だったということ? 被害者はトイレで刺されたわけじゃないんだ」

 

 見せてもらったナイフには握っているところにも血が付着していた。普通に刺して抜いたのならこれはあり得ない。

 それにその血痕は途切れ途切れになっている。このことからあたしは被害者が刺された場所は個室内ではないと推理した。

 

「トイレで刺されていない? こんなに血まみれになっているのよ。個室の中は」

 

「ええ。なので、あたしたちはまんまと騙されたということです。自分だけは絶対に疑われないように準備した犯人によって。あとは、犯人があれをどこに持っているかだけど……」

 

 犯人はあるトリックを使ってあたかもトイレの個室で姫野が刺されて亡くなったように見せかけた。

 問題はその証拠となるモノがどこにあるか、だ。

 

「あれ? 英里さんったら、結婚指輪はされてるんですね〜〜」

 

 それを考えているとき、ふと英里の左手の薬指の結婚指輪が目に入った。

 

「何を急に? べ、別にうざったい男を寄せ付けなくするための虫よけよ。他意はないわ。勘違いしないで」

 

「あはは、英里さんは美人ですからモテるんでしょうね。あたしは別に、気持ちがまだ先生にあるって指摘したわけじゃないんですよ」

 

 英里の結婚指輪のおかげで謎は全て解けた――犯人はあの人に間違いないわ。

 真実を早くみんなに教えなきゃ。

 

「じゃあ、どうして――」

「皇祐一、これから署に連行する!」

 

「やばっ! 待ってください、目暮警部! 皇さんは犯人じゃありません! 真犯人がわかりました!」

 

 あたしはお腹から大きな声を出して犯人がわかったと警部に伝える。

 さてさて、ここから推理ショーといきますか。犯人さん。

 

「アリスくん!? それは本当かね?」

 

「はい。それでは順を追ってわかりやすく説明しますね。犯人は姫野さんをトイレの個室で殺害した後に、上の隙間から出てきたとあたしたちは考えていましたよね?」

 

「ああ、内部の犯行なら逃げ道はそこしかないからな。トイレに行った人物でそれが可能なのが、皇さんと妃さんの二人しかいなかった」

 

 そう、入口が塞がれた個室から出ることができる人間が犯人だという前提だと容疑者は二人に絞られてしまっていた。

 

「しかし、実際は逆なんですよ。犯人はトイレの外で首を絞めて姫野さんを刺したんです。そして、その後トイレの中に彼女を上の隙間から放り込んだ。これなら、トイレの個室から脱出する必要がなくなります。その証拠にトイレの壁の上に血痕が残っていました」

 

 犯人が姫野を刺したのはトイレの外だ。これなら、四人全員に犯行が可能となる。

 

「何!? 血痕がそんなところに? しかしだな。トイレの外で刺したなら血液が外に見当たらないのは変なのではないかね?」

 

「簡単なトリックです。犯人は紐でナイフの柄を縛っていたのですよ。ナイフを抜いたのは個室に姫野さんを放り込んだ後――。紐を外から引っ張ったときです」

 

「なるほどね。血が吹き出すのはナイフを抜いた後だから、トイレの外はキレイなままというわけね」

 

「そのとおりです。英里さん♪」

 

 犯人は紐付きのナイフを時間差で抜いた。姫野を個室に入れた後で。

 こうすれば、あたかもトイレの中で彼女が刺されたように見えるから。

 

「だが、一体誰が犯人なんだ? このトリックを使えば誰でも犯行は可能だが……」

 

「そもそも、こんなトリックを使う理由は個室から出られないことを主張して、容疑者から逃れることが目的です。さらに姫野さんはトイレの場所をわざわざマスターに尋ねていました。これは犯人にこれからトイレに行くというサインでしょう。とすると、それまでにこの店に居た人物が犯人となります。……つまり、犯人は――殿山十三さん。あなたですね」

 

 あたしが言う条件に当てはまるのは殿山しかいない。

 彼の大柄な体は見るからに狭い隙間から逃げるのは無理だと思えるし、若王子が現れたのは姫野がトイレに向かった後だ。

 

「ば、バカを言うな! 何の証拠も無しにそんなことを!」 

 

「藤峰さん。彼の言うとおりよ。これじゃ証拠不十分。私が弁護すれば100パーセント無罪に出来るわ」

 

「あれま。証拠不十分ですか」

 

 しかし、英里は証拠が弱いとして彼を弁護する。

 なるほど、この人はやはり有能な弁護士ね。

 

「アリスくん。あるんだろうね? 他に証拠が……」  

 

「えへへ。大丈夫ですって、警部さん。ちゃーんと、証拠はありますから♡別居中でも旦那さんラブな英里さんの結婚指輪のおかげで気が付きました」

 

「ちょっと、私は別に!」

「まぁまぁ、後で話は聞きますから。殿山さん。確か、マスターさんと大声で話してましたよね。ラグビーで突き指をして結婚指輪がはめられない、と。あの時は左手の薬指に包帯が巻かれていたとあたしは記憶してるのですが……」

 

 あたしが殿山の結婚指輪について言及すると、彼は咄嗟に左手を隠そうとした。

 あー、今ごろ自分のミスに気がついたんだ。この人は……。

 

「中指に包帯を巻いているぞ。どういうことだ?」

 

「首を絞めたのも、ナイフを縛ったのもその包帯。だから、あなたは犯行の後で慌てて巻き直して指を間違えちゃった。おじさん、ちょっと雑すぎるわよ。被害者の姫野さんの血が付着した包帯をずーっと持ち歩いているんだから。警部さん、あの包帯こそ彼の犯行を指し示す証拠です」

 

「殿山十三……、殺人の容疑で逮捕する!」

 

 殿山はお粗末にも証拠をずっと身につけていた。

 その上、包帯を巻き間違えるという痛恨のミスもやらかしている。悔しいのはあたしが最初にそれに気付かなかったこと。

 あーあ、それにさえ気付いていればもっと早く真相に辿り着いていたのに――まだまだ修行不足ね……。

 

 

 

「お手柄だよ。アリスくん。もう既に毛利くんを超えたんじゃないのかね?」

 

「うふふ、そんなことはないですよ。先生ならもっとスムーズに解決していたと思います」

 

 目暮警部は事件が解決したので、嬉しそうにあたしの背中を叩きながらお世辞を言ってくる。  

 色々と反省点はあるけど、無事に解決したからよかった。

 

「大した推理力だったわ。あの人の助手なのが信じられないくらい」

 

「あはは、ありがとうございます。――あっ! 蘭ちゃ〜ん! こっちこっち!」

 

 英里にも褒められてあたしの機嫌が良くなったとき、蘭がこの店に入ってきた。

 

「アリスちゃん! そ、それにお母さんも! 私、アリスちゃんにお母さんのこと言ったっけ?」

 

「一緒に事件に巻き込まれちゃったのよ。ほら、またそんな格好して短いスカートはお腹が冷えるから止しなさいって言ってるでしょ」

 

「もう、いつまでも子供扱いしないでよ。それより、事件に巻き込まれて大丈夫だったの?」

 

「ええ、あなたのお友達が全部解決したわ。面白い子ね」

 

 英里は母親らしい一面を見せつつ、あたしが事件を解決したことを蘭に伝えた。

 あくまでも蘭の友達として接するつもりか……。蘭は家に彼女が戻ってくるのをずっと待ちわびてるみたいだけど。

 

「アリスちゃん、また事件を解決したんだ。だんだん、新一みたいになってきたね」

 

「えへへ、たまたまだって」

 

「お母さん、知ってるかもしれないけどアリスちゃんは――」

 

「へっぽこ探偵の助手なんでしょ。信じられないけど」

 

 あらら、やっぱり世間で“ズバリの小五郎”として認知されてきても、英里的にはダメダメなイメージが強いか……。

 

「もーう。お父さんとそろそろ仲直りしてよ。10年も経ったんだよ」

 

「嫌よ、あんなグズで不潔で女たらしの飲んだくれ! 大嫌い!」

 

「でも、お父さんも最近は格好良くなったんだから。ほら、見てよ。この前、テレビ局で事件を解決したVTR」

 

 小五郎の悪口を言う英里に、ちょうど喫茶店のテレビがこの前あたしたちがテレビ出演したときに解決した事件の放送をしていた。

 あはっ、あたしも映ってる。

 

「あら、本当に真面目に事件に取り組んでいるのね……」

 

 あたしと小五郎が推理を展開して犯人を追い詰めているシーンが映っており、英里は少しだけ感心していた。

 

 しかし、そのシーンは移り変わり――。

 

『イズミちゃ〜ん。今夜お店行ってもいいかな〜? 女房? いいのいいの、どうせ別居中! 今夜は熱い夜を過ごそうね〜』

 

「……あ、あれ? ち、違うの、そのこれは……」

 

 小五郎が盗聴などの注意喚起を促すために電話を飲み屋にかけるシーンが映し出される。だらしない顔だなぁ……。

 実際はこのあと、こんな会話も盗み聞きされているから注意しろ……、に続くんだけど……。

 

 編集でなぜかカットされているみたいね。

 

「どうやら、まだまだ帰るわけには――」

『も〜う。先生ったら。奥さんが居なくて寂しいからって。あんなこと言ったらダメですよ』

『ああ、確かにお前の言うとおりだな。夜は特に女房が居ないことを寂しく思うときもある』

 

 あっ、このシーンは使うんだ。あたしがもしも、小五郎の奥さんである英里が見ていたときのために、スタジオで見ていたヨーコさんに寂しいアピールをしたほうがいいですよって小声で伝えたんだっけ。

 

「えっ?」

「ほ、ほら! お父さんだってお母さんが居なくて寂しいから羽目を外そうとしたりしてるのよ」

 

「あ、あの人が私を……?」

 

 英里はやはり心の底では小五郎に惚れてるらしく、彼が寂しがっていると聞くと頬を赤らめる。

 

「英里さんみたいな綺麗な奥さんだと未練しかないのは間違いないですよ。先生も変なプライドが邪魔して頭を下げられないのかと」

 

「そ、そうかしら?」

 

「アリスちゃんの言うとおりだよ。一回戻って来てみてよ。お母さん!」

 

「う、うーん。じゃあ、少しだけよ」

 

「やった〜!」

 

 あたしと蘭がダブルで説得して英里は少しだけ事務所に顔を出すと言ってくれた。

 自分も親や兄弟がいない寂しさがわかるから、蘭がお母さんに戻ってきてほしいという気持ちが良く分かる。

 

 やっぱり蘭には幸せになってほしいよ……。

 

 でも、あたしと蘭は失念していた。小五郎が昼間っから酒をアホみたいに飲んで泥酔していることを――。もう、小五郎のバカ……。

 

 




とりあえず、主要キャラの初登場回を中心にやっていこうかと思います。
アリスが活躍するエピソードが多そうです。
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