工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった 作:ストロングゼロ
「アリスくん。君のご両親が来たぞ」
「えーっ、あたしの両親? やーね。博士も知ってるでしょ? あたしは――」
「転生したんじゃから、両親はおらんのは知っとる。じゃから、アリスくんの体の方の両親じゃよ。一応、簡単な事情は説明したんじゃが……」
「ま、まさか。帰ってきたの? 優作さんと有希子さんが……」
ある日の夜、阿笠博士の家でくつろいでいたら新一の両親がやってきたと博士が言ってきた。
やだ、あたしスッピンじゃない。完全に部屋着だし……。人前に出られるようになるまで……どんなに急いでも30分以上かかる。
そんなことを思っていたら、優作と有希子はあたしの目の前に現れた。
「驚いたな。ほら、見てご覧よ。昔の君にそっくりだ」
「まぁ、かわいい♡新ちゃん本当に女の子になっちゃったの?」
「え、えへへ……、ど、どうも」
これがあたしと工藤夫妻の最初の出会いである。
新一の記憶があるから初めましてという気がしないが、あたしの両親っていうのもおかしいし、どういう関係なのか考えるのが難しい。
とりあえず一通りの事情を話して、優作からいくつか質問されてそれに答えると彼は納得したように頷いた――。
「ごめんなさい! あの、勝手に服を持ち出したり、そのう高校に入り直したりしてしまって! あ、あたしは……、その……」
身の上話に一段落ついたあたしは勝手に工藤家の持ち物やお金を使ったことを謝る。
いや、そうしなくては新一の体も無事ではなかったので叱られるとは思わなかったが、ここまで何の連絡もしなかったこと自体は謝らなくてはならないだろう。
「うーむ。確かに家族しか知らないことも知っているし、以前私が教えた推理のコツもしっかり覚えてるみたいだ。事実は小説より奇なりというが、自分の小説よりも奇妙なことが起こるとは思わなかったよ」
「えっと、し、信じてくれるんですか? あ、あたしの体が新一くんのモノだってことを」
優作は冷静にあたしのことを分析して事実を受け止める。
さすがは、漫画で一番の推理力だと言われる聡明な彼だ。博士よりも簡単にこの荒唐無稽を事実だと認識してくれた。
「信じるさ。記憶もそうだけど、何よりその見た目――何せ世界一美しい私の妻に瓜二つなんだから」
「やだー、優作ったら。世界一美しいだなんて」
「…………そ、そうですか。あはは、仲が良いですね」
優作と有希子は記憶通り仲が良かった。急に惚気を出すんだもん。
でも、その理屈でいけばあたしも世界一美しいってこと? んもう、照れちゃう……。
「でも、今は新ちゃんであって新ちゃんじゃないのよね」
「そうです。あたしにはあたしの人格がありますから。そういう意味では新一くんは今はこの世には――す、すみません、あたしのせいで……」
あたしには愛梨寿という人格がある。それは新一とは全く違う人生を歩んだ固有の人格だ。
つまり、正確に言えば新一はこの世にはいない。あたしの魂が彼の体に憑依したから――。
「いいのよ。あなたが悪いんじゃないんだから」
「何とか出来る限りのことはします。元の体に戻れば、新一くんの人格も戻ってくるかもしれません。なのであたしは黒の組織をとっ捕まえて、薬の作り方を手に入れます」
「危険だよ。女の子には特に……。それに新一の人格が戻るということは君の人格が……」
有希子も優作もあたしのことを責めなかった。それどころかこちらの心配をする。
二人は愛する息子が居なくなって堪らない気持ちのはずなのに――。
「はい。覚悟は出来ています。でも、この体は工藤新一という男の子のモノです。彼を待っている方々も多くいらっしゃいます。ならば、あたしはどんなことをしたって元に戻る努力をすべきだと思うのです」
ここは本来あたしが居ていい世界じゃない。だから新一に早く体は返すべきだとあたしは思っている。
黒の組織を見つけだすために推理とかを頑張っているのはその義務感が原動力だ。
「健気ね。まるで若い頃の私を見てるみたい」
「有希子さんは今でもお若いじゃないですか」
「そうなのよ〜。まだまだ二十代で通せると思うわ。二人で並んだら姉妹に見られるかもしれないわね」
「じゃあその時はお姉さんって呼ばせてください」
有希子はさすがは元大女優だけあって自分のビジュアル自信が相当あるみたいだ。
実際、高校生の息子がいるとは思えないほど若々しく、お世辞じゃなくて二十代と言われても納得してしまう。
「新ちゃんじゃ絶対にそんなこと言ってくれないもん。私たちに娘が居たらこんな感じになっていたのかしら?」
「そうだね。もしかしたら、彼女のように愛嬌のある美人さんになっていたかもね。――しかし、やはりオススメ出来ないな。新一の父親としても君が危険を冒してまで恐ろしい組織に立ち向かうことは」
「優作さんの仰ることはわかります。この体が新一さんのモノだからこそ、危険には晒せないということですよね?」
優作はあたしが危険な組織に立ち向かうことに難色を示した。
確かに新一の体を持つあたしが死んじゃったりしたら目も当てられないもんね……。
「そのとおりだ。君さえ良ければ私たちと共に海外に住まないか? インターポールに知り合いが居るから、彼らにその組織の連中は探らせるとして、君は自らの安全を確保すべきだ」
「――安全ですか……。そうですね。それが一番なのかもしれません。でも、あたしは自分の手で決着をつけたい。論理的な理由はありませんが、もしも工藤新一なら自分の事件を他人に任せて逃げたりしないと思うんです。だから、あたしは日本を離れるわけにはいきません!」
驚いたことに優作はあたしに海外で一緒に暮らそうと提案してくれた。
でも、あたしは引き下がれない。何故だか分からないけど……この体に秘められている新一の魂が逃げるなと言っている気がするんだ。
「新ちゃん……なら、か」
「ふーむ。確かにあの子ならそう言って駄々をこねるだろうね。父さんたちは手を出すなって。……まぁいいか。しばらくは君の好きにしなさい。危なくなったら、すぐに海外に連れて行くからね」
「あ、ありがとうございます!」
優作はあたしに自由にしていいと言ってくれた。新一ならきっと自分でこの状況を打破しようとするだろうと理解した上で。
「…………礼を言うのはこちらの方だよ。君は何食わぬ顔をして生きていく事も出来たはずだ。それなのに自らの存在を捨てようとしてまで息子の体を元に戻そうと頑張っている」
「そうね。新ちゃんのために危険を承知で悪い人たちに立ち向かっているんだもん。母親として感謝させてね。アリスちゃん」
「いえ、当然のことをしているだけですから……」
二人はあたしが黒の組織に立ち向かおうとしていることに感謝するようなことを言っているけど、やっぱり後ろめたい気持ちしかない。
なんで、神様はあたしの魂を新一の体に入れたりしたんだろう? こんないい両親の元に子どもが帰って来れないなんて可哀想すぎるよ……。
「しかし、もしも君の体が元の新一の体になったとして――その精神は君のままだとしたら……」
「その時はそのときに考えるしかないですよね。男の子として生きていくのか……、それとも……」
「実験できるわけないもんね。私たちのことは本当の両親だと思って頼ってくれて良いから。あと、もしもアリスちゃんの気が変わったとしても、私たちはあなたのことを責めたりしないわ」
「はい。もしもどうしようも無くなったら、頼らせてもらいます」
この体が本来の新一の体に戻ってどうなるかなんてわからない。
とにかく、新一の両親は味方になってくれた。これは心強い……。
黒の組織の手かがりは未だに掴めていないが、大きく前進した気がする。
「じゃあ、また会いに来るから、今度は一緒にデートしましょう」
「くれぐれも慎重に行動するんだぞ。冷静さを忘れてはならないよ」
こうして、あたしは優作と有希子に一時的な娘として扱われるようになった。
それにしても、実験か……。確か、コナンくんは新一に何回か戻ってた気がするけど……。
なんだっけ? 灰原哀が作った解毒剤か何か飲んだからだっけ? あたしは忘れていた。そもそも、何がきっかけでその解毒剤を作っていたのか――。それを口にするまで……。
◆ ◆ ◆
「わりーな。連絡遅れちまって。ゴホッ、ゴホッ……」
『もう、新一。久しぶりに電話がかかってきたと思ったら風邪引いちゃってー。さっさと戻って来なさい』
「わ、わかってるよ。なるべく早く戻れるように、ゴホッゴホッ、頑張るからさ」
『あっ、誰かお客さん来たみたい。ちゃんと風邪治すのよ』
「へいへい」
今日は蘭の事務所に向かう前に彼女に電話をした。昨日、少しだけ寂しそうな表情をしていたから……。
しかし、喉が痛いわね……。これはどう考えても……。
「あー、完全に風邪引いちゃったわ。事務所に置いてきた資料持って帰って部屋でゆっくりしよ」
あたしは今日は家でゆっくりすることを決めて、事務所に足を運んだ。
事務所に着くと帽子を深くかぶった男が何やら喚いていた。
何をこの人は言ってるんだろう……。
「さぁ、出してもらおうか、工藤新一を。はよう、ださんかい!」
「なーに。この人、随分と態度大きいじゃない。ゴホッゴホッ」
「やだ、アリスちゃんも風邪?」
「そーみたい。そこの資料もらったら、退散するわ」
あたしは蘭に風邪だと告げて、資料を手に取ろうとする。
すると、喚いていた男があたしをマジマジと見つめてきた。いくらあたしが美人でも不躾じゃないかしら?
「あんたが藤峰愛梨寿か。ちょうどええ。あんたにも会いたかったんや」
「あら、お兄さん。あたしのファン? 良いわよ。サインくらい書いたげる」
「いらんわ。そんなもん」
あたしはファンの男の子だと思ってサインを書いてあげようと言ったら“そんなもん”って言われちゃった。
んもう。可愛げがない人なんだから……。
「むぅ〜〜。じゃああたしに何の用事なのよ?」
「毛利小五郎の助手として、ちょっと有名になった高校生探偵のあんたに興味があるんや。あくまでも、工藤の
「あ、そう。ゴホッゴホッ」
男はあたしとか工藤新一とか高校生探偵に興味があるみたいだ。
ついでとか言われてもあたしが藤峰であり、工藤なんだけどな。
「アリスちゃん、大丈夫? 新一も風邪みたいだったから、流行ってるのね」
「工藤が風邪? 工藤の居場所知らへんのに、何であんた、そんなこと知ってるんや?」
「電話よ。さっき電話で話してきたのよ、新一が」
「工藤が電話? どんなことを喋っとるん?」
蘭が新一のことを口に出すと、男はその会話の内容に興味を示した。
工藤新一になりきって頑張って話してるから変なことは言ってないと思うけど。
「新一が最近読んだ推理小説とか、サッカーの話とか……」
そう。あたしは新一になりきる為に興味もない推理小説を読んだり、サッカー中継を見たりしている。
その辺の話をしていれば、彼らしさが出ると思ったから。
「あんたのことは?」
「えっ? 私のこと? そういえば、新一は私のことなんて一度も……」
「変やと思わへんか? 何度も電話するくらい好きな相手に元気かどうか気にならへんて。それを聞かん理由はただ一つ。工藤はどっかであんたのことを見てるんや。多分、この近くでな」
あー、確かに蘭の近況は知ってるから彼女のことを気にかけることは少なかったかも。
それにしても、何気ない会話を聞いただけでここまで推理出来ちゃうなんて……。
あのね、窓を開けたって新一は外から覗いたりしてないわよ。
「ちょっと〜、何それ。新一がストーカーみたいなことしてるって言うの?」
「んっ? 俺の推理にケチつけるんか」
「ケチも、ケチャップも付けたげるわよ。新一はめちゃめちゃ蘭ちゃんラブなの。だから、声聞けば元気かどうかくらいわかるんだって。妙な言いがかりつけてこの子を不安にさせないでよ」
ただ、新一が覗き見してるとかそんなことやってることは否定したかったのでそこは否定しておく。
そっかー、蘭の近況を聞かなかったことはミスだったわね。気を付けよ〜〜。
「アリスちゃんったら……、恥ずかしいこと言わないでよ」
「ふーん。ようわからん。女の理屈は」
「大丈夫だよ。蘭ちゃん。新一はきっと戻ってくるから。ゴホッゴホッ」
あたしは顔を赤くした蘭を勇気付けようと言葉をかけようとするが、咳が邪魔をする。
「藤峰、風邪ならええ薬もっとるぞ」
「風邪だけど、あんた誰よ? 先生の知り合いですか?」
「知らん。上がり込んできて、工藤を出せの一点張りだったからな」
「おっと、言い忘れとったな。俺の名前は服部平次。藤峰や工藤と同じ高校生探偵や」
薬をくれると言った色黒の関西弁の男は服部平次だった。
アホだあたしは……。なんで、この特徴でこいつのこと分かんなかったんだろう……。
風邪で頭回んなくなってんのかな……。
「あー、あんたが西の名探偵の服部平次かー」
「なんや、俺のこと知ってたんか?」
「え、ええーっと、まぁ。な、名前くらいは」
平次はあたしが彼を知ってたからなのか意外そうな顔をしてこちらを見つめてきた。
この人はコナンくんの正体に気付いて味方になってくれてたけど、どーしよっかな? ある意味、コナン以上に説明しにくいんだよね。あたしの状況……。
「工藤とは西の服部、東の工藤って呼ばれた仲や。いつも比べられとったわ。最近、あんたの名前もよう聞くようになったけどな。ほれ、薬や」
「あ、ありがと」
あたしは平次から飲み薬を受け取り飲み干した。な、何か変な味ね……。体が熱くなってきた……。
「でな、その工藤やけど最近ぱったり話を聞かんようになってもうた。だから直接会いに来たっていうわけや。工藤新一はほんまに俺と並び称される程の男かどうかをな」
「男の子って競うのが好きね〜。キャハハハつ! ヒック」
あー、なんか変な気持ち……。体は熱いし、頭はフワフワするし……。
平次は新一の推理力を見に来たのかー。暇なんだね〜。
「ちょっと、アリスちゃん。顔真っ赤だよ。何飲ませたの?」
「パイカルっちゅう。中国酒や。工藤に出会えるまで、しばらくここに厄介になるつもりやからな。土産持ってきた」
あー、あれ、お酒だったんだ。道理でこんなに熱くなって頭がクラクラすると思ったわ……。
パイカル、パイカル……、どっかで聞いたような……。
あれ? 解毒剤って、そのお酒の成分を元にして使ってたようなそんな記憶が……。
待って、コナンって……これ飲んで一時的に新一に戻らなかったっけ……? あ、あたし、これ飲んじゃって大丈夫なのかしら? 変なことにならないわよね……。
「ぱ、ぱ、パイカル〜〜? あんた、あたしになんつーモンを飲ますのよ〜〜っ! ヒック! ダメよ、そんなの飲んだら、あたし……」
「酒弱かったんかいな。そんなに怒らんでもええやん」
あたしが平次に抗議しても彼はなんの意味か分かってないから悪びれない。
いや、未成年に酒飲ますなよ。あんたも高校生でしょーが。
「そ~じゃなくて〜〜」
「何度も呼び鈴を鳴らしても出てこないのですが、どうなっていますの!?」
あたしが平次に文句を言ってる間におばさんが毛利探偵事務所にやってきていた。
あら、依頼人……。こんなときに……。
小五郎は彼女を座らせて依頼内容を聞くことにした。
彼女は辻村公江――外交官の奥さんらしく息子の恋人の素行調査を小五郎に依頼する。
その恋人さんというのが桂木幸子――24歳。成績トップで高校を卒業して、医大生の彼女は一見完璧っぽいけど。なんで素行を調べてほしいんだろう……?
「完璧すぎるから気に入らんのや。人は誰しも嫉妬深くて疑い深い生き物や。完璧なものを見るとつい粗さがししとうなる」
平次は幸子のプロフィールが完璧だからこそイチャモンをつけたいと断ずるけど本当にそうかしら? 何か深い訳とかありそうじゃない? こういうのって……。
「あの、詳しい話は主人と交えて我が家で……」
「これから行くんですか? でしたら、最初にこちらに二人で来れば――」
「先ほども言いましたように主人は外交官です。こんなところに出入りするところが誰かに見られたら……」
「スキャンダルになるってことか。よっしゃ俺もついていったるで」
公江の家で詳しい話をすることとなったので、平次は自分も付いていくと言い出した。
子供連れの方が何かとカモフラージュしやすいと主張しながら……。
うーん。小五郎一人に任せるのは嫌な予感がするわ。体が心配だけど、あたしも行かなきゃ。
「あ、あたしも行くわ!」
「アリスちゃん、風邪大丈夫なの?」
「ええ、平次くんの薬で良くなっちゃった。ありがとね〜〜」
「ははっ、せやろ?」
嘘よ……。体調は最悪……。頭がガンガンするし……。
でも、もしかしたらこれで新一の魂がどうなっているのか分かるかもしれない。絶対に負けないんだから――。
小五郎は依頼を受けることにして、計画をたてるため服部を含む全員で公江の自宅へ向かうことになった。
「おかえりなさいませ、奥様。おや、そちらの方々は……?」
「古い友人とその家族です。主人は?」
「書斎にいらっしゃいます」
大きな邸宅に着いたあたしたちを出迎えてくれた執事は、公江の夫である辻村勲は書斎にいると教えてくれた。
「お母様! お邪魔してます!」
「ああ、写真――」
「先生! 大きな玄関ですね〜。さすがは外交官のお住まいです!」
さらにさっき写真で見た素行調査の対象である幸子が出てきた。もう、小五郎ったら口を滑らせすぎよ。素行調査することがバレたらどうするの? あたしは朦朧としながら声を張り上げて慌てて彼の口を塞ぐ……。
「…………」
「なぜ、ここにあなたが?」
「親父に会わせるために俺が連れて来たんだよ。何回言っても会ってくれねーから」
どうやら、公江と勲の息子である貴善が幸子を呼んだらしい。
恋人を父親に何度も紹介しようとしているのに会ってくれなさそうだから、業を煮やしたようだ。
「あの? そちらの方はお母様のお知り合いですか?」
「あなたに母親呼ばわりされる筋合いはありませんし、関係がないことですわ。こちらです。行きましょう」
「……なんだよ。後妻のくせに、エラソーに」
公江は幸子を突き放すような態度を取り、貴善はそれが気に入らないという顔をした。
ふーん。なるほど。そういう家庭なのね……。
「あら、お父様いらしていたのですか?」
「何を言っとるんじゃ。ワシが釣った魚の話が聞きたいと呼び出しといて」
「そうでしたわね。和室で待っていてください。後でうかがいます」
「うむ……」
書斎のある二階に上がると、勲の父である利光が現れた。
魚拓を見せながら公江が自分を呼んだと告げると、彼女は和室で待っていて欲しいと頼む。
なんで、こんな日に魚の話なんか義父に聞きたがったんだろう……?
そして、公江は書斎のドアの前に立って、ノックした。
「あなた、いらっしゃいましたよ。あなた……、あなた……! 変ね、居ないのかしら?」
しかし、何度もノックしても返事がない。彼女は首を傾げながら鍵を使ってドアを開けた。
部屋の中で勲は頬杖をついて寝ており、オペラが大音量で流れている。
あー、だからノックしても気付かなかったのか……。
「まったく、こんなところでうたた寝して、ステレオもつけっばなし……。あなた、起きてください」
「あれま。爆睡してるし。――えっ?」
公江が勲を揺さぶって起こそうとすると、彼は力なく床に転げ落ちる。まるで完全に意識がなくなっているように――。
「あなた! しっかりしてください!」
「あかん! もう死んでるで」
倒れる勲の脈をとった平次は首を横に振る。どうやら彼は死んでいたようだ。
やっぱり、小五郎と出かけると人が死ぬ。いや、あたしが出かけたからか……。
「現場には誰も入るな! アリス! 警察に連絡だ!」
騒ぎを聞いて家の人たちがこぞってこちらに駆けつけると、小五郎は彼らを一喝してあたしに電話をするように声をかけた。
「承知しました……! うっ……、やっぱ体調悪いわね……」
「アリスちゃん。大丈夫? 私が電話をかけるよ」
「ご、ごめんね〜。蘭ちゃん……」
あたしが電話をかけようとしたが、立ちくらみしてしまい蘭が体を支えてくれる。警察への電話は彼女に任せた。
と、とにかく現場の検証を少しでも――。
「死体はまだ温かい。死後それほど経過してないってことね。それになんだろう? この赤い点……。ん? あれは、針ね……」
あたしは死体の様子を確認して、髪の毛の生え際に赤い点のようなものを発見した。
そして、机の下に針のようなものも……。
「「痛っ――」」
それを拾おうとしたら、同時に同じような動作をした平次と頭をぶつけてしまう。
どうやら、彼もこの針が気になったみたいね……。
「ほう、やるやないか。あのおっさんの腰巾着かと思うとったけど。おれと同じところに目をつけるとはな」
平次はあたしが同じところに目をつけたことが嬉しかったのか口角を釣り上げる。
なんか、子供が玩具を手に入れたみたいな顔してるんだけど……。
「先生に色々と教えてもらってるから……。それよりこの針だけど」
「ちょい待ち。おれはあんたと仲良く推理するつもりはないで。ちょうどええ。工藤が居なくて退屈しとったんや。藤峰、おれとどっちが先にこの事件を解決できるか。勝負せえや」
「ふぇっ? 勝負すんの? あたしと平次くんが」
あたしは平次と針について意見を交換しようとしたら、彼はそれを手で制止しながら推理力勝負をしようと持ちかけてきた。
いや、暇つぶしに利用してほしくないんだけど……。
「なんなら、あのおっちゃんとセットでも構へんで。工藤の前に藤峰愛梨寿がどの程度の探偵なのか見極めたる」
平次はあたしの探偵の力を見ると言って別のところを調べだした。
なんで男の人ってこう暑苦しいのかしら……。
熱いといえば、あたしの体温よ……。脈も早くなってきたし……。こりゃ、早めに解決しないとマジでヤバいかもしれないわ――。
優作と有希子がアリスに普通に会ってきたのは、厳密に言ったら彼女が実の子ではないためです。原作のように力試しなんてしないと思ったんですよ。
近いうちに彼らと事件に遭遇するエピソードも書きたいです。