工藤新一に転生したけど、薬を飲まされて女子高生になっちゃった 作:ストロングゼロ
次回への導入となると思います。
「俺の推理のどこが違うっちゅうんや、工藤」
「お前の推理は机上の空論。100パーセント不可能だって言ってんだよ」
新一は平次の推理は不可能だと断じた。あたしも最初に彼と同じような推理をしたから、大きなことは言えないが、平次の推理には致命的な欠陥があるのだ。
「おいおい、工藤くん。言葉を挟むようだが、彼の推理した密室トリックは完璧だよ! さっき、ワシのズボンで実験をやったんだ」
目暮警部が新一に先ほどやったらしい実験の説明をした。
まずは、針付きのテグスの針のついてない方の先にセロハンテープでキーホルダーを固定して、針のついてる方をズボンのポケットの内側から通す。
そして、テグスの両端を持って部屋の外に出て、針の付いた方のテグスを引っ張る。
すると、鍵は自動的にポケットに収まり、さらに引っ張ればテグスはテープから外れて、あとはそれを巻き取れば密室が完成という理屈だ。
「本当に鍵が入っているのですか? 目暮警部」
「えっ?」
平次はこの実験により目暮警部のズボンの二重ポケットの中に鍵が入っていると言ったが、新一はそれを疑う。
平次は少しだけイライラを顔に出していた。
「もちろんや。嘘やと思うんなら、よう見とけよ。きちんと二重ポケットの中に……」
とまで言ったところで目暮の二重ポケットの外側から鍵が床に滑り落ちる。
そう、新一の言ったとおりに二重ポケットの中に入っていなかったのだ。
彼は自分の推理通りにならなかったことに驚いていた。
「そんなアホな……。俺はちゃんと二重ポケットの中にテグスを通したはずや……」
「鍵を入れた時、目暮警部が座っていたからだよ……」
そう、警部が座っていたから、ポケットが折れ曲り鍵の通り道を狭め、奥にある二重ポケットに入る前にテープからテープから外れてしまった……。つまり、このトリックを使うと犯行は失敗する。
「ほ、ほんでも万が一……、いや十回に一回くらいの確率やったら……」
「何回やっても同じ事――思い出してみろ……。被害者のポケットに入っていた時の鍵の向きを……」
「――っ!? あっ!?」
新一が鍵の向きについて指摘すると、ようやく平次は自分の推理の論理的な破綻に気が付いたみたいだ。
「万が一、二重ポケットに入ってもキーホルダーだけのはずだ。狭いポケットの中で、鍵とキーホルダーが“くの字”に折れ曲って入るわけが無い。それがキチンと入っていたということは――犯人が予め鍵を二重ポケットの中に入れていたってことだ……!」
新一はこうして利光犯人説を否定した。実は新一は針付きのテグスをここに来る前に和室以外で五、六個見つけていた。
そう、利光に濡れ衣を着せたい真犯人が彼がどこに居ても良いように仕掛けられていたのだ。
利光がなぜ犯行を認めたのかは謎だが……。
そして、真犯人の施したトリックについて彼は説明をした。
「藤峰から聞いたぜ。被害者を発見した際、部屋にオペラがかかっていて、被害者の前には本が積まれていたことを。前者は毒針を刺した際、被害者が出すかもしれない呻き声を歌声で消すため。後者は同じく刺した際、被害者の苦痛に歪むかもしれない顔を隠すためだ」
「藤峰愛梨寿から聞いたやと? 何を誤魔化すためにそんなことを?」
「それは、お前や藤峰……、それに蘭や毛利探偵に気付かせないためだよ! そう、犯人は奥さん! あなただ!」
あたしも真犯人は公江だと断定していた。被害者はあらかじめ薬で眠らされており、あたしたちが書斎に入ったあとで彼女は被害者に起こすフリをして毒針を刺して殺した。
警察が睡眠薬を体から検知したとしても殺す時に抵抗されないように眠らせただけだと誤認するだろうから、あの瞬間に殺されたと気付かれない限りトリックはバレない。
“密室にわざわざ探偵を招いて、目の前で人は殺さない”だろうという盲点をついた心理的密室トリックというわけだ。
公江のバックには毒針を収納できる溝のついたキーホルダーが入っており、それが物的な証拠となり、新一の推理が正しかったことが証明された。
何ていうか、すっごく鮮やか……。あたしも公江が犯人だってわかったけど、こんなに流れるように説明は出来ないかも。
動機は復讐――公江の元旦那は被害者の勲と同じく外交官だったが、彼によって嵌められて汚職で捕まり15年前に獄中死する。
実は幸子は山城との間にできた実の娘であり、書斎に飾ってあった20年前の写真の公江と瓜二つだった。
貴善が恋人として紹介した幸子の姿を見た時、最初は他人の空似と公江は思ったが、写真を見た勲は激しく動揺して交際を強硬に反対する。
公江が勲を問い詰めたところ、20年前に山城に汚職の罪を着せた事などを洗いざらい話して真相を知ることになったのである。
利光のそれに関わっていたからスケープゴートの対象に選ばれたが、彼も後悔していたのか……、濡れ衣をかけられてもそれを否定しなかったみたいだ。
「にしても、工藤。藤峰から聞いただけで、よくこれだけ推理出来たな」
「まぁな。実はあいつがほとんど解いててさ。俺はそれをまとめただけなんだ」
新一は気を遣っているのか、この事件の真相にあたしも辿り着いていたことを平次に告げた。
解けたのは新一のヒントのおかげだけどね……。
「なんだ。アリスちゃんのおかげじゃない。それなのに、よくそんなにエラソーにできるわね」
「うっせー、あいつが解けるってことは俺だって簡単に解けるんだよ。うっ……、ゴホッゴホッ」
「新一……、大丈夫? そうだ、アリスちゃんのために呼んだお医者さんが――」
ここに来て、新一の体調が悪化する。そして、あたしも意識が吸い込まれるような感覚を覚える。
蘭は彼のために医者を連れてこようと部屋から出た。
「今回は何から何まで完全に俺の負けや。藤峰にもお前にも」
「バーロー。推理に勝ったも負けたも、上も下もねェよ。だってよ、真実はいつもたった一つしか存在しねぇんだからな」
「そらそうや。今回は俺は推理勝負に拘りすぎて冷静やなかった」
平次は新一の言葉を受けて自分が勝負で頭がいっぱいになって真相を究明することを疎かにしたことを反省した。
そうよね。あたしならともかく、彼が普段どおりなら……あんな誘導に引っかかるなんて思えない。
その時……、あたしは大きく意識が吸い込まれるような感覚に再び陥った。ヤバい……、これはおそらく――。
「ぐっ……、ううっ……」
『やっぱり、この感覚……。多分だけど元の体に戻りそうなんだわ。新一、走ってそこから離れて!』
「おい、大丈夫か工藤! どこいくんや!?」
新一は胸を押さえながら玄関を飛び出した。しかし、平次も後を追いかける。
だ、ダメだ……。これは振り切れないかも……。
「う、動けねぇ……、はぁ……、はぁ……」
「どうしたんや? 工藤。ほんまに大丈夫か? 医者に見てもらったほうが……。な、何や、それ……」
家の裏の壁にもたれかかった新一の目の前には平次。
彼は青ざめた表情でこちらを見た。そりゃあ、驚くわよね……。どんどん新一の髪が伸びて色素が落ち――胸が膨らんでいるんだから。
「…………はぁ、はぁ」
『す、すまねぇ、藤峰……、蘭のこと……オメーに頼むわ…………』
新一の声は徐々に小さくなって……そして、聞こえなくなってしまった――。
さっきみたいに意識を共有し続けるのは無理だったのか……。推理しなくて済むと思ったんだけどな……。
「ふ、藤峰? な、なんで工藤が藤峰に……? ど、どういうこっちゃ?」
平次に新一が愛梨寿になるところをバッチリと見られた。
彼は死体を見たとき以上に信じられないって顔してる……。
「平次くん……、後生の頼みよ。訳は話すから……、このことは誰にも喋らないでもらえるかしら?」
「わ、訳がわからん。俺は夢でも見とるんか? 痛っ……! 何するんや!?」
平次が夢とか言うから頬を抓ってやった。ほら、夢じゃなくって現実よ。
さて、どうやって説明しよう? まぁ、優作とか博士に説明したのと同じ感じでいいか。
「夢じゃないわ。工藤新一と藤峰愛梨寿は一心同体なの。もっとも人格はまるで別だけどね」
「……工藤と藤峰が一心同体?」
あたしは平次に自分がこうなった経緯を説明した。
彼はあまりにも現実離れした話に頭を押さえながらも最後まで黙って話を聞いてくれた――。
「工藤が薬を飲まされたら女に……、んなアホなって言いたいんやけど。実際、目の前で見てしもうたら信じるしかないやんけ」
平次は新一があたしになるところを目撃しているので、容易に話を信じてくれた。
やはり、百聞は一見に如かず――ということだ。
「平次くんのことを信じて話したんだから、お願いよ。このことは――」
「他言無用ってことやろ? 心配せんでええって。そんなこと言うたら俺の方が変人扱いや」
「ありがとう。助かるわ。そう言ってくれて」
平次はこのことを秘密にしてくれると言ってくれた。
あたしは新一じゃないからイマイチ不安だったけど、彼は誠実な人のはずだし安心ね。
さすがに間違ってあたしを“工藤”とは呼ばないだろうし――。
「アリスちゃん! ここに居たんだ。新一を見なかった?」
「し、新一? なんか、新しい事件があるとか言って、玄関から出ていったわよ」
「あんにゃろう〜〜っ! 急に帰ってきたかと思ったら何も言わずに居なくなるなんて〜〜!」
新一が居なくなったことを告げると蘭は拳を握りしめて怒り出した。
あら〜〜、思った以上に腹が立ってるみたいね……。平次が引くくらい……。
「まぁまぁ、久しぶりに会えたんだし怒らないの。あと、この事件に関わったこと……、誰にも言わないで欲しいんだって……」
「えっ? どうして?」
「わかんないけど、あたしの推理を披露して手に入れた手柄なんてプライドが傷付くから要らないんだってさ……。あと……、ごめん……、蘭ちゃん……、ちょっと寝るわ……」
「アリスちゃん!?」
あたしは蘭に新一のことを黙っておくようにお願いして、その場に倒れた――。
それから、2日ほどあたしは熱にうなされながら入院することになる……。
「で、その高校生探偵とやらに正体がバレてしまったというわけじゃな」
「うん。新一には会えたけどね。彼はやっぱり生きているんだよ。あたしの頭の中に……」
病院から退院したあたしは博士に平次のことについて話した。
新一の意識が頭の中にあることも含めて――。
あれから彼の声は聞こえないけど、確かに新一は生きていた。
「科学的に何が起こっているのかわからんが、そうとしか言えんのう。そのパイカルという中国酒が何らかの作用を起こして、新一の体に戻ったということか」
「そう考えるのが自然でしょ。めっちゃ体がきつかったけど」
「そりゃあ、骨格から何まで変わるんじゃから負担は大きいのじゃろう」
「うん。そうなんだよね〜。ところでさ、これで解毒剤作れる?」
パイカルを飲んで新一の体になったり、あたしの体になったりするのはかなり身体的な負担が大きかった。
ちなみに後でこっそり小五郎のパイカルを拝借してみたが、酔っ払うだけで新一の体にはなれなかった。どうやら、風邪を引くという条件とかもあるらしい。
しかし、解毒作用があるのは間違いない。だから博士にこれをヒントにして何とかならないのか質問してみた。
「無理じゃよ。それだけの情報で。それが出来るとすれば、薬の開発に携わった科学者くらいじゃ」
「だよね〜〜。薬の開発者か〜」
やはり解毒剤を作るには毒薬の製作者である灰原哀の協力が必要不可欠みたいだ。
あの子は漫画と同じように小さくなったりしているのだろうか……。そしてあたしは彼女に会えるのだろうか……。
その答えはまだわからない……。
しかし、知らない内にあたしは巻き込まれてしまう。彼女に深く関わる事件に――。
◆ ◆ ◆
それから、間もなくして毛利探偵事務所は奇妙な人探しの依頼を受けた。
依頼人は広田雅美――彼女は急に居なくなった父親を探してほしいとあたしたちに頼んだのだ――。
一週間くらいで彼女の父親は見つかって解決かと思われたが、そこからが奇妙だった。
その雅美の父の広田が殺された――。
そこから、あたしたちは雅美が心配になり、彼女を追うこととなる。
その過程である事実が浮かび上がった。雅美が最近、世間を騒がせていた“10億円強奪事件”の首謀者だということが――。
彼女はお金を持ち逃げした男を父親だと言ってあたしたちに探させようとしたのだ。
いろんな紆余曲折を経て、あたしと蘭は雅美を発見することに成功する。しかし――。
あたしたちの前で雅美は倒れ込んだ。
「しっかりして!」
蘭は彼女に声をかけたけど、側に拳銃が落ちている。彼女はおそらく――。
「蘭ちゃん、救急車を呼んでくれる? あと、先生にも連絡を……」
「わ、わかったわ」
あたしが彼女に用事をお願いすると、駆け出してこの場から離れた。
なんでこんな状況になってるの? 彼女を撃ったのは――誰?
「驚いたわね……。アリスちゃん、どうしてここがわかったの……?」
「偶然あなたの腕時計に発信機をつけてしまってさ、そしたら人が死んでるんだもん。気にするわよ。あと大きなスーツケースをあなたが持っていくところも見たからね。入ってるんでしょう? あの中に10億円」
雅美の時計に付けた発信器を追ったら、なぜか知らない男に出くわした。
そして、その男は殺されたことがきっかけで、あたしは雅美とこの男と、雅美が父親だと言ってた男が10億円の強奪犯だということを推理したのである。
「か、可愛い妹みたいな子だと思ってたのに……、とんだ名探偵もいたものね……」
彼女から依頼を受けてあたしは毎日のように彼女と電話で会話をしていた。
そのとき、彼女はやたらとあたしのことを妹みたいで可愛いと言っていて、あたしもそんな彼女を慕っていた。
だからこそ、こんな結末望んでなかった。最後の最後まで――何かの間違いであってほしいとあたしは願っていたのだ。
「……喋らないほうがいいわ」
「……計画は完璧だった。何としてもやり遂げて妹だけでも組織と縁を切らせたかったのに……、結局、みんな死んじゃった。私も組織の手にかかって……」
「妹? 組織……って、まさか……」
「謎に包まれた大きな組織よ……、ま、末端の私にわかっているのは組織のカラーがブラックって事だけ……。あなたの声を聞く度に……、妹を助け出したいって……」
雅美を殺したのは黒の組織――あたしが追い続けている組織だ。
彼女は最後のお願いとして強奪された10億円の入ったスーツケースはホテルのフロントに預けてあるから組織より先に取り戻すよう頼んで絶命する――。
その後、雅美の言うとおりにホテルのフロントに預けられたスーツケースを警察が押収。
彼女の死は近くに落ちていた拳銃の指紋が明美の物だったことから自殺とされる。
「黒の組織……、狡猾な連中だわ……。それにしても、彼女が最後に言っていた妹というのは――」
あたしは雅美の妹という言葉が気になっていた。
そして、その言葉は間もなくどういう意味だったのか理解することになる。
新一の家の前で倒れていた少女との出会いによって――。
展開の都合上、平次に正体がバレるタイミングを早くしました。
少しだけ早いですが、次回は灰原登場回をやります。
そのあとは、一応、キッドとか和葉あたりの登場回をやるつもりです。