バタフライエフェクトという言葉が存在する。
これは、蝶の羽ばたきという、遠く離れた場所での極々小さな出来事が竜巻の様な大きな事象を起こしうるという例えである。
遠く離れた異世界にて、ドラえもんとのび太が時空乱流に巻き込まれたこと。
運び屋が速度を優先したあまり、予定よりも早くランスロットを呼ぶ為の聖遺物を届けたが、洗浄不足によりどら焼きの食べカスが付いていたこと。
それらが、天文学的確率により結び付き、ドラえもんとのび太が召喚されたこと。
ドラえもんとのび太が召喚されたことにより、桜が苦痛から解放され、さらには臓硯や雁夜が救われたこと。
この様に、連鎖的に様々な偶然が重なり合い、奇跡とも呼べる結果を生み出す事がある。
そして、その様な事象はさらなる結果を生み出す事になる。
それは、龍之介がドラえもん達の接近により、本来より早い段階で令呪を宿し、ジルを召喚したこと。
それにより、図らずもジルが、ドラえもんに召喚されたジャンヌにより救われたこと。
さらに、それだけではなく、彼等のさらに預かり知らぬ場所、他のサーヴァント陣営でもそれは起きていた。
まずは、遠坂家、言峰綺礼の間で起きた結果を見ていこう。
「な、何!?それは本当か!?」
いつも、魔術師の名門である遠坂家の当主として家訓である「常に優雅たれ」という言葉を守り続けていた現当主、遠坂時臣も言峰綺礼の報告におどろいていた。
「間違いありません。エクストラクラスである、フォーリナーが召喚されました。それも、2体。さらには、キャスターの消失と、同時期に、あのプレラーティ家が動き出しました。」
エクストラクラスの召喚、さらには、名門の魔術師であるプレラーティ家の参戦、それらが時臣を動揺させた。
「此度の聖杯戦争....かなりのイレギュラーが起こっています。エクストラクラスの参戦....そして、キャスターの消失と、あの名門の参戦....どう見るべきでしょうか?」
綺礼は動揺する時臣に、指示を仰ぐべく、そう問いかける。
「.......エクストラクラスの参戦はこの際、問題は無い。何せ、こちらには最強の手駒がいるのだから。それよりも........今まで、表舞台には殆ど現れなかったプレラーティ家の参戦.......恐らくは、外部の者を雇ったが、目当ての英霊を呼べず、仕切り直して、自らが表舞台に出てきた....そんな所だろう。」
その動揺故か、はたまた、持ち前のうっかりか、キャスターの消失はその魔術師による何らかの戦略と勘違いしてしまう。
「綺礼、まずは、プレラーティ家の動向を探ってくれ。私も、出来る限りの情報を集めてみよう。此度の聖杯戦争、何としても勝たなければならない。まずは、情報を集め、それから最強の英霊を召喚し、優雅に勝ち抜く。」
「わかりました。」
それ故に、情報戦略として、サーヴァントの召喚を後回しにしてしまう。
「.......ところで、その資料、少しお借りしても....?」
綺礼は何か気付いた様に、時臣から資料を受け取る。
「衛宮切嗣....彼の経歴も気になるが.......間桐雁夜、間桐の家を出奔後、ルポライターとして、紛争地を転々としているが、出没する時期は、戦況が激化したころばかりだ.......まるで、死地へと赴く事に、何らかの強迫観念が有ったかのような、明らかに自滅的な行動原理.......これは、どういう事だ.......」
綺礼は、1人資料に目を通しながら呟く。
「この男に利己と言う思考は無い、彼の行動は、実務とリスクの釣り合いが完全に破綻している.......さらには、突然の間桐の家への帰還....そして間桐の家督を受け継いだ.......こいつが、ただ、間桐の家を嫌い出奔しただけの落伍者な訳が無い.......!」
「そして、キャスターの消失が、プレラーティ家の策略であるならば、些か登場が遅すぎる.......私の推測が正しいとすれば.......エクストラクラスを2体召喚し、キャスターを倒したのも、この男だ.......恐らく....彼は戦場で何かをみつけ、その時彼は答えを得たのだ、ならば問わねばなるまい、何を求めて戦い、その果てに.......何を得たのかを.......!」
綺礼は、間桐雁夜という男をそう分析し、1人決意を新たにする。
続いて、アインツベルン家及び、聖杯戦争の為に雇われた、衛宮切嗣の陣営を覗いてみよう。
アインツベルン家の居城である、アインツベルン城の礼拝堂にて。
「かねてより、コーンウォールで探索させていた聖遺物が、ようやく見つかった、それを媒介とすれば、剣の英霊としておよそ考えうる限り、最強のサーヴァントが召喚されよう…切嗣よ、そなたに対するアインツベルンの、これは最大の援助と、思うがよい。」
アインツベルン当主、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン、通称アハト翁が男に告げる。
「痛み入ります、当主殿。」
答えるのは、アインツベルン家の悲願を達成する為に雇われた男、衛宮切嗣、またの名を魔術師殺し。
「今度ばかりは、ただの一人たりとも残すな、6のサーヴァントの全てを狩りつくし、必ずや第三魔法、ヘヴンズ・フィールを、成就せよ。」
「御意。」
悲願達成の為、激を飛ばすアハト翁に頭を垂れる切嗣、しかし、その目には悲しみと、ある種の決意が宿っていた。
ところ変わり、アインツベルン城、執務室。
先程の、魔術師殺し事切嗣と、彼の妻、アイリことアイリスフィール・フォン・アインツベルンがその場にいた。
届いたFAXの情報を見ながら、切嗣は口を開く。
「集めた情報を整理してみよう、アイリ…聖杯が選ぶ7人のマスターのうち、現在判明しているのは5人…遠坂時臣、遠坂家当主、火の属性で宝石魔術を扱う、手ごわい奴だ。ケイネス・エルメロイ・アーチボルト、風と水の二重属性を持ち、降霊術・召喚術・錬金術に通ずるエキスパート。言峰綺礼、聖堂教会からの派遣で、遠坂時臣に師事し、令呪を授かった事で師と決別.......この男は、様々なカテゴリーの魔術を習得し、あと一歩でゴミ同然と切り捨てている。教会の出世街道からも外れ、代行者だった時期もある.......この男からは何の情熱も感じられない......なのに、何を願う?....僕はこの男が恐ろしいんだ....だが、それ以上に、他の2人が.......」
「........切嗣....貴方の恐怖は私にも伝わってくるわ....でも、貴方の口ぶりだと、そんな言峰綺礼以上に.......恐ろしい相手がいるというの?」
アイリは、切嗣の言葉に、言峰綺礼のえも言われぬ危険性を感じ取ったからこそ、切嗣の言葉の続きに疑問を感じた。
「.......ああ、恐ろしい。1人目は、フランチェスカ・プレラーティ。15代も続く、プレラーティ家の現当主の女性.......だが、これは表向きの話だ。彼女....いや、彼....どう呼ぶべきか分からないが、このプレラーティは、肉体を乗り換えているという噂がある.......確証は得られないが.......もし、真実だとして....こいつは何故今頃になって、聖杯を欲する?しかも、令呪が宿ったというより、奪い取った形跡がある。警察の拘置所で爆発事故が起こり、容疑者の赤いタトゥーの入った腕が千切れ、その場から跡形もなく消え去った。プレラーティが冬木の地に入って直ぐにだ。....僕には、偶然とは思えなかった....そこで.......経歴を洗って行くと、不明な部分やちぐはぐな部分が多すぎる.......まるで、混沌.......狂気の体現者の様に僕は感じるんだ.......」
切嗣は弱音を吐くように身体を震わせながら、そう説明する。
アイリは、そんな切嗣の手を取りじっと見つめながら。
「貴方は、アインツベルンが用意した、最強の切り札。.......そして、私の最愛の人....きっと大丈夫。.......それで、最後の1人というのは?」
元気付けるように、優しくそう諭して、続いて問いかける。
「そうだね....ありがとう、アイリ。....続けるね。間桐雁夜、当主を継がなかった落後者を、強引にマスターに仕立て上げた.......最初はそう思っていたが、どうも違う様なんだ.......報告によると、この男は戻って来てから、正式に間桐の当主を継いでいる。そして、一瞬だが、間桐の結界が壊れ、中を覗く事に成功したらしいんだけど.......2体のサーヴァントを確認出来たそうだ。つまり、間桐雁夜は、間桐臓硯の切り札の可能性が出てきた.......そこで、もう一度経歴を洗い直してみたんだが.......」
切嗣はそこで言葉を切り、報告書をアイリに手渡す。
「間桐雁夜、間桐の家を出奔後、15歳でルポライターになる。そこから....数々の戦場をルポライターとして渡り歩く....!?....これって....!?」
アイリは報告書を読みながら、驚きの表情を浮かべる。
「彼は、幾多の戦場を渡り歩き、時には戦争孤児を助け出し、時には、彼の暴き出した真実が、和平交渉の間接的な要因となっている.......そう、彼は、僕とは違った方法で人々を救っている.......彼の経歴を見ているとね....僕は---」
「---大丈夫、切嗣。貴方は間違っていない。貴方の理想は、気高く、そして、尊いものよ.......だから、私は貴方の理想に賛同したの。大丈夫、大丈夫だから.......」
アイリは切嗣の言葉を遮り、抱きしめて、優しく諭す様に言葉を紡ぐ。
そのつぎに、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトとその婚約者、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの陣営を見てみよう。
「ウェイバーめ!!忌々しい!!まさか、この私の聖遺物を盗むとは!!!」
アーチボルト家9代目当主、ケイネスは怒りに打ち震えていた。
「新たに、聖遺物も手に入るのだし、新参の魔術師とも呼べない生徒がやったことでしょ?もう、忘れたら?」
婚約者である、ソラウは、どうでも良さげに、ケイネスを落ち着かせようとする。
「だからこそ、私は怒っているのだ!新参の赤子の如き学生が、妄想を膨らませるだけの学生が私の物を盗んだのだぞ!?例え、妄想としか呼べない論文とはいえ、出自を気にせず足掻く姿を私は評価していたのだ!!妄想を抱いた赤子で、凡愚な生徒とはいえ、流されるままに努力もしない虫けらよりは遥かに期待出来たんだ!!だからこそ、今の魔術教会での現実をぶつけ、発破をかけてやったというのに!!少し、背伸びが過ぎたようだな!!!ウェイバー・ベルベット!!!」
ケイネスは、期待を裏切られた事と、プライドを傷つけられた事に怒り狂っていた。
「はいはい、うるさいわよ。....だったら、天才の貴方が、再度教育すればいい事でしょ。.......それより、あの、プレラーティ家が参戦すると聞いたのだけれど?」
ソラウはケイネスを窘めるように、そう答えれば、次に問いかける。
「....そうだな、この私ともあろう者が、少し取り乱してしまった様だ。勿論、奴にはこの私の手で恐怖という名の教育を施そうではないか.......そう、あのプレラーティ家が参戦する。だが、天才の名を欲しいままにするこの私が全ての敵を薙ぎ払い、優勝する事で、このケイネスの名に、泊を付けようではないか。嬉しいだろう?ソラウ。」
ケイネスはそう締めくくると、ソラウにドヤ顔を見せつける。
「そうね....嬉しいわ、ケイネス.......」
ソラウは、ケイネスにそう言って微笑むが、それは上っ面だけのものだった。
別に、ケイネスを嫌っているわけでも無ければ、婚約に不満がある訳でもない。
と、言うよりも、彼女にとってはどうでもよかった。
両親からも、誰からも、愛されず、道具の様に扱われ育った彼女は情熱や何かを求めることも無く、流されるままに生きてきたからだ。
最後に、新たな参戦者、プレラーティ家を見てみよう。
フランチェスカ・プレラーティは、本来であれば、間桐臓硯の妨害により参戦するはずでは無かった。
しかし、ドラえもんとのび太の召喚により、狂った歯車が彼女を呼び寄せたのだ。
「銀とー鉄をー♪ひっとかけらー♪ぐっつぐつ煮るよー大番頭ー♪アーテー様のー素敵なレーシピー♪閉じよー♪閉じよー♪閉じー♪閉じー♪閉じよー♪閉じた傷口合ーわせーていーつつ♪私のかーらだーはあなたの下にー♪私のこーころーは……アハハ!面倒臭いから以下省略……ッと♪」
プレラーティは、雨生龍之介の令呪を腕ごと奪い自身に宿せば、自分の身体を触媒に、適当な呪文でサーヴァントを召喚する。
「えっと、君が僕のマスター?なんか、僕と似てない?」
「そりゃそうでしょ、私は君の未来の姿....つまり、同一人物だからね♪」
なんと、フランチェスカ・プレラーティが召喚したのは自分自身だった。
「嘘!?そんな事出来るんだ!?.......まぁ、いいや。僕の名前はフランソワ・プレラーティ!我がマスター、フランソ……おっと、今は女の子の体だから……フランチェスカ・プレラーティかな?まぁ、君の忠実な僕として、命がけで聖杯に導くと約束しよう!嘘だけどね!」
彼の名はフランソワ・プレラーティ、そう、ジル・ド・レェを魔道に落とした張本人だ。
「ところで、なんで僕は呼ばれたんだい?」
「実はね、ジルがキャスタークラスで召喚されてさ!」
「なんでさ!? ジルがキャスターって! ああ、僕のせいか! ハハハ!それで?」
「ところが、そのジルが救われちゃってね!面白そうだし、私も参戦する事にしたんだ!」
「そうなの!?....本当だ....僕の宝具に
2人の間で、そんな外道な会話が繰り広げられていた。
この様に、各陣営は、ドラえもんとのび太の召喚により、少しづつ歯車が狂って、聖杯戦争の開始が遅れていった。