夜になり、桜を寝かしつけた雁夜は、いつもの様にリビングにいた。
そこには、ドラえもん、のび太も同席していた。
「そろそろ、聖杯戦争が始まってしまうが.......俺達には、情報が少なすぎる.......どう、作戦を練ったものか.......」
雁夜は腕組みをしながら、悩んでいた。
桜の救済や、自身の修行に時間を使ってしまい、どの様な陣営がいるのか把握出来ていなかった。
「だったら、ちょうど良い宝具があるよ。自家用〜衛星〜!!」
ドラえもんは、雁夜の話を聞けば自家用衛星という宝具を取り出す。
その宝具は、1m程のロケットと発射台がセットになったものだった。
「これで、偵察衛星とエコー衛星を打ち上げて、特定の場所を監視したり、音を聞く事が出来るよ。1日しかもたないけど、建物から何から透視できるから、情報を盗み見たり盗聴も出来るよ。」
ドラえもんは、自家用衛星について雁夜に説明する。
「なるほど、それなら時臣の家を監視して、あいつが集めた情報を盗める。情報があれば、俺の蟲達を使って、監視を続ける事は可能だ。早速、打ち上げよう。」
雁夜の言葉を合図に宝具を打ちあげれば、モニター型の宝具を取り出すドラえもん。
「これで、大気圏外にある衛星から送られてくる映像と音声を聞くことが出来るんだ。その時臣さんの家の位置は分かる?」
モニター型の宝具の説明をし、次いで遠坂邸の場所を聞くドラえもん。
雁夜は遠坂邸の大体の場所を教え、みんなでモニター越しに、遠坂邸の内部を盗み見る。
書斎にある、聖杯戦争のマスターのものと思しき情報を手に入れれば、そこへ3種類の使い魔の蟲を放っていく雁夜。
まずはカイコガのオスをベースに作成した『追跡蟲』と呼ばれる使い魔を放つ。
カイコガのオスは、メスのフェロモンを数キロ先から感知することが知られている。
そして、そのカイコガのオスを元に創られた追跡蟲は、魔術師の発する魔力の匂いを感知することができ、見分ける事も容易い。
尻の糸で追跡蟲に引っ付き、『潜入蟲』と呼ばれるハエトリグモをベースに作成した使い魔も移動を開始している。
ハエトリグモは体長が6mm程しかないが、虫の中では視力が良く、0.3程の視力を有すると言われている。
その小ささと視力を活かし、対象の魔術師の家に潜入させるのに使う。
そして、後を追うように飛び立ったのは『監視蟲』と呼ばれるコシアキトンボをベースに作成された使い魔だ。
コシアキトンボは体長4、5cmの都会にもわりと生息ししているトンボで、1万個以上もの複眼の視野は約270度もある。
その視野の広さを活かし、監視をするのに使われる。
とはいえ、追跡蟲はともかく、潜入蟲も人間にしてみれば視力は悪いし、監視蟲に至っては0.03程度の視力しかない。
そこで、出てくるのが
監視蟲と潜入蟲から送られてくる視界データを変換し、鮮明化するのである。
この
これにより、テレビやパソコンやスマートフォンといった電子機器でその映像を見る事が出来る。
これは、言い換えれば科学と魔術の融合とも言える。
魔術師の家系にありながら一般人の感性を持ち、蟲使いの術を会得している雁夜にしか出来ない芸当だ。
使い魔の蟲達の成果を待ちつつ、眠りについた雁夜。
翌日、桜と鶴野の見送りをし、鶴野は桜を連れてアメリカへと飛び立った。
鶴野は数年後ウォール街にて、財界の魔術師と呼ばれる様になるが、それは別の話だ。
使い魔の蟲達による、2日間の成果として6人のマスターの内、ケイネス、時臣、切嗣、綺礼の動向を把握出来るようになった。
ほぼ同時期に、切嗣、ケイネス、時臣の順に、サーヴァントを召喚する。
ケイネスのサーヴァントは槍を装備しており、切嗣のサーヴァントは剣を装備しているのが確認出来た。
さらに、見えた能力値とクラススキルから、ケイネスはランサーを、切嗣はセイバーを召喚したとわかった。
残念ながら、残る、プレラーティーともう1人のマスターは、情報の少なさから発見出来なかった。
「2人ばかり把握出来ていないが、まずまずと言った所か......ん?言峰綺礼が、時臣の屋敷に入って行くだと......協力関係にあるのか?」
使い魔の蟲達が収集した情報を見ながら、そう呟く雁夜。
所変わり遠坂邸にて、時臣と綺礼が言葉を交わしていた。
「綺礼、この屋敷に入る所は誰にも見られてないだろうね?」
「ご心配なく、可視・不可視を問わず、この屋敷を監視している使い魔や、魔道機の存在はありません、それは――」
時臣の問いかけに答えている綺礼の背後に、サーヴァントが現れ、割り込むように話す。
「一一それは私が保証します、いかなる小細工を弄そうとも間諜の英霊たるこのハサンめの目を誤魔化す事はかないません、マスターの身辺には現在いかなる追跡の気配もなし......どうか、ご安心いただけますよう......」
アサシンであるこのサーヴァントはそう話すが、実際は雁夜の蟲に見られている。
しかし、これはアサシンの落ち度というよりは、雁夜のずば抜けた蟲の行使の技術による所が大きい。
まず、雁夜の放った蟲は殆ど改造が施されておらず、元々の虫の特性を活かしている為、見分けが非常に付きにくい点。
そして、蟲との魔力パスは
それ故に、アサシンといえども、使い魔だと看破出来ずにいた。
((塀の上のトンボは気にかかったが......魔力の痕跡も見られなかったし、考えすぎだな......))
しかし、監視蟲にはほんの少しだけでも疑念を抱いているあたり、流石と言える。
「まぁ、良いだろう。それより見てくれ。ふふふ......遥かな太古......この世で初めて脱皮した蛇の抜け殻の化石だよ、これを媒介にして、首尾よくあれを呼び出したなら......その時点で、我々の勝利は確定する......!」
時臣は興奮気味に、綺礼にそう語れば、召喚の義に移る。
眩い光が収まり、描かれた陣の中心に召喚されたサーヴァントを見て時臣は宣言する。
「勝ったぞ綺礼......この戦い......我々の勝利だ!」
所は再び戻り、間桐邸、書斎にて召喚の様子を見ていた雁夜が呟く。
「やはり、協力関係だな......そして、時臣のサーヴァントはアーチャー......言峰綺礼のサーヴァントはアサシンか......」
アーチャーよりもアサシンに注目する様に、見ている雁夜。
「......追跡蟲から送られてきたデータによれば、アサシンのものと同じ魔力が、他の場所でも同時に観測されている......アサシンは複数体に分身する宝具か能力を持っているようだな......」
雁夜は蟲達が集めた情報を元に、アサシンが複数体いる事を看破していた。
時間は進み、夜更けになると、遠坂邸裏手にある山道からアサシンと綺礼が、遠坂邸を眺めている。
「聖堂教会から、7体目のサーヴァント、ライダーが現界したとの連絡があった。」
綺礼が、手に入った情報をアサシンに話して聞かせる。
「最後のサーヴァントが召喚されましたか......では、いよいよ......」
「.そういう事だ。......早速だが、お前にはこれから、遠坂邸へ向かって貰おう。」
アサシンの言葉に、肯定の意を示し、命令を下す綺礼。
「と、申しますと......?」
綺礼の要領を得ない命令に、確認の問いかけをするアサシン。
「お前なら......あの遠坂邸の要塞の様な魔術結界も、恐るるに足りぬだろう。」
「ふふふ......宜しいのですか?遠坂時臣とは、同盟関係と聞いておりましたが。」
綺礼の命令の意図を理解すると、愉快そうにそう問いかけるアサシン。
「それは考慮しなくていい。例え、アーチャーと対決する羽目になろうとも......恐れる必要は無い。」
「3大騎士クラスのアーチャーを恐れる必要は無いと仰るとは......」
綺礼の返しに、また、愉快そうに答えるアサシン。
「......任せたぞ。速やかに遠坂時臣を......抹殺しろ。」
その言葉を合図に、アサシンは山道の崖から飛び降り、更に風を切り裂き、その周辺に生息するトンボを横目に、疾風の如く駆け抜ける。
勢いを増しながら、遠坂邸内に飛び込めば、小石を指で弾いて外側の結界に使用されている宝石を砕く。
そして、着地すれば慎重に先に進み、もう一度小石を弾けば内側にある結界を見極める。
そして、不規則に動き回る警報装置の様な結界を避けながら進む様はまさに美しい舞踏の様である。
さらに、小石を弾き、自らが入り込める隙間を開ければ、結界の中心部に到着する。
「他愛ない......」
アサシンに取っては、児戯にも等しい警備に思わずそんな事を呟く。
そして、結界を破壊する為に宝石に手を伸ばした瞬間、手の甲を上から降ってきた刃が貫く。
「ぐぁぁっ!?」
手を貫かれ突然の痛みに驚愕しながらも、刃の飛んできた方向に顔を向けるアサシン。
「地を這う虫けら風情が、誰の赦しを得て面をあげる?」
アサシンの視線の先には屋根に立ち、宝具であろう槍や剣を、文字通り雨の様に振らせてくるアーチャーがいた。
「あれを......恐れる必要は無い......だと!?」
自身に向かって降り注いでくる、一つ一つが必殺の威力を持つ刃の雨とアーチャーを見て、捨て駒にされたのだと悟る。
彼はアサシンのサーヴァントである百貌のハサンでありながら、別の名を持っていた。
百貌のハサンは多重人格者であり、彼等の持つ宝具は、その幾多の人格を個別のサーヴァントとする宝具である。
そして、彼の名は、基底のザイードと呼ばれ、取立てて得手の無い人格とされ、捨て駒にされるのも頷ける。
自身のすぐ側まで迫る死を前に、景色がスローモーションの様にゆっくりと見えるザイード。
そして、サーヴァントとはいえ元は人間だからか、生前の記憶から最近の記憶までの走馬灯が駆け巡る。
そして、その走馬灯が意外な結果をこのザイードに与える事となる。
命令とあらば、子供を殺す事さえ躊躇しない冷酷さを持つ彼だが、だからこそ悲願達成の為、他の人格の為に死すことを半分受け入れていた。
だが、駆け巡る走馬灯の中で、先日見たトンボと、先程すれ違ったトンボに違和感を覚える。
そして、ザイードの持つ直感Dのスキルが、その2つの出来事を結びつけ、ある結論に至る。
即ち、トンボは敵陣営の使い魔であり、綺礼と時臣の同盟関係が漏れている可能性が高いという事実だ。
その事実を感じ取った時、ザイードの身体は考えるよりも早く駆け出していた。
地を這うゴキブリの如く無様に身体を低く保ちながら、ジグザグに逃げていくザイード。
しかし、爆撃の如く降り注ぐ刃に、手足を持っていかれるザイード。
それでも、生にしがみつく様に、這いつくばりながら逃げる。
「ふははははは、まさに虫けらよな。虫けららしく地べたを這いつくばっているならば、生かしておいてやろう。」
アーチャーは高笑いしながら、ザイードを見逃す事にした様だ。
アーチャーの気まぐれにより、右足と左腕から先を失いながらも生き延びる事に成功したザイード。
そして、ザイードは痛みに耐えながら念話を通してその事実を他の人格に伝える。
この事は綺礼と時臣にすぐ様報告され、ザイードはアーチャーに狙われる事も無くなった。
雁夜以外の敵陣営には、立ち上がる土煙により、生き延びたのは見えずアサシンは消滅したと認識されていた。
雁夜だけは、アサシンが複数体いる事を看破しており、消滅してないのを知っているが、それでもザイードが生き延びた事は知らなかった。
夜が開ける頃に、綺礼と女性人格のアサシンが会話をしている。
「どうした、アサ子?少し、嬉しそうにも見えるが。」
「大した影響でないとはいえ、それでも損失は損失でございます。
言ってみれば指の一本が欠け落ちるようなもの。死なぬに越したことはありませぬ。使い物にはなりませんがね。」
綺礼の問いに、そう答えるアサ子と呼ばれるアサシンの女性人格。
ザイードは回復に努めながら、走馬灯で見えた生前の記憶に対して思案していた。
((あれは、まだ若き日の私なのだろうか......?私は、自身の得手の無さに思い悩んでいたのか......?))
1人思い悩むザイードを置いてけぼりにしながら、聖杯戦争は進んでいく。
ともあれ、聖杯戦争の戦端は、偽りにより切られたのだった。