あなたがスターリンになったらどうしますか? 作:やがみ0821
「ヒトラーはこんなに物分りが良い人物だったのか、と疑問に思っていたが……なるほど、そういうことか」
スターリンはヒトラーに関する調査報告書を読み終えて、彼が潔かったことについて納得した。
ヒトラーは諸々の後始末を済ませた後、すかさずとある女性と入籍していた。
その結婚式は親しい者達のみで行われたらしい。
どうにもヒトラーの物分りが良すぎて、何かを企んでいるんじゃないかとスターリンが疑って調べさせたが、政治的なものではなく、どうやら個人的な企みだったようだ。
愛する女性と結婚した彼は購入した住宅で、日がな一日、回想録を執筆したり、絵画を描いたりと悠々自適な隠居生活を送っているらしい。
ドイツ政府もヒトラーには一定の配慮をしているのか、夫妻の邪魔にならない程度に遠巻きに警備の人員を配置しているとのこと。
近所の子供達にはアディおじさんと呼ばれて大人気らしく、ヒトラーも彼らの似顔絵を描いてやったりしているそうだ。
史実のように戦争によって、ヒトラーが精神的に消耗していなかったというのも大きいだろう。
「彼の絵を幾つか購入してみるか……」
スターリンはそう呟きながら、思考を切り替える。
1941年3月の段階で、インドはインド国民軍によって全土占領が成し遂げられ、イギリス軍は降伏するか、ほうほうの体で逃げ出した。
事前に情報があったセンチュリオンも大した数ではなく、また火力も装甲もT-44には劣った為、問題なく撃破し、回収して調査に回されている。
スターリンからすれば彼らがセンチュリオンを出してきたのは、驚くべき成果だが同時に頷けるものでもある。
T-34と長砲身75mm砲搭載の四号戦車の殴り合いやそれらが歩兵支援などをする様子を見て、衝撃を受けない方がおかしい。
イギリス軍の歩兵戦車と巡航戦車の2本立てという概念を木っ端微塵にするには十分だったのだろう。
独ソともに1種類の戦車によって、当時イギリス軍が配備していた戦車では到底なし得ない高いレベルで、万能的に仕事をこなしていたのだから。
T-34と四号戦車、それぞれ撃破された車両を現地で調査しただろうことは想像に難くない。
何よりも、イギリスは変なものを開発するときも多くあるが、偶にこういう奇跡的なものを開発することもある――という先入観もスターリンにはあった。
とはいえ、センチュリオンがあったところでT-44の方が数的にも性能的にも優越しているのに変わりはない。
もしも史実と同程度――マチルダやクルセイダーあたり――あるいは、それに毛が生えた程度の戦車であったならば、イギリス軍とソ連軍の間には、どうしようもない程の絶望的な差があった。
現状ではその差が僅かに縮まった程度に過ぎず、たとえイギリス軍が20ポンド砲搭載のセンチュリオンを出してきたところで、その頃にはT-44を上回る新型戦車をソ連が投入している。
また大口径の滑腔砲や既存の装弾筒付徹甲弾に代わる装弾筒付翼安定徹甲弾の研究開発も進められており、これらは10年以内の量産開始を目指している。
将来においても差が縮まることはないだろう。
「インドだけでなく、ビルマからも独立派がイギリス軍を叩き出した。どちらも今はゴタゴタしているが、それも程なく落ち着くだろう」
スターリンはそう呟く。
全体的に植民地における武装闘争はそれぞれの独立派にとって有利に進んでいる。
インドは地続きであったから、赤軍部隊を大規模に派遣できた。
しかし、海を隔てているとそうはいかない。
故にゲリラ戦術を徹底している。
ジャングルや森、山岳などを最大限に利用して一撃離脱を繰り返し、正面からは戦わない。
イギリスだけでなくフランスも本国軍を大々的に投入する動きがあったが、それはドイツによって阻止された。
ドイツ政府は軍縮に努めつつも、国防軍部隊をフランスとの国境に移動させた為だ。
そもそも歴史的にドイツにとってフランスは仇敵であり、ソ連から殴られる心配が無くなった為に独仏国境地帯へ防衛の為に兵力を動かすのは当然であった。
フランスからすると本国軍を動かした瞬間に、ドイツ軍に殴られるという恐怖から植民地に出せる兵力は中途半端なものとならざるを得なかった。
イギリス程ではないが、それでも世界各地に植民地を持つフランスからすると独立派を抑えるには、その程度の兵力では全く足りなかった。
「フランス植民地が独立すれば、そこを通じてイギリス植民地における独立派を支援できる。アメリカも足元に火がついている状態で、他を助ける余裕はないだろう」
フィリピンだけでなく、実質的なアメリカの植民地といえる中南米諸国。
そこにある反米組織にスターリンは手厚い支援をしている。
中南米を不安定化させれば、それだけ外に構う余裕は無くなる。
ソ連が黒幕だと分かって英米仏が宣戦布告してきたならば、しめたものだ。
イギリスとフランスはソ連単独か、ドイツが乗ってきたならば協同で落とし、アメリカに関してはひたすら迎え撃つ方針だ。
いくらアメリカとはいえ、大量の将兵が戦死すれば世論が和平に傾く。
膨大な生産力とそれを支える経済力があったとしても、100万単位で死人が出たら戦争を続けられない。
それが唯一の弱点であり、そのような損害を与えるには海上を進む船舶を攻撃して、海の藻屑にしたほうが効率が良い。
どんなに兵器を補充できるとはいえ、死んだ将兵を蘇らせることはできないし、育成にも時間は掛かる。
人的資源における消耗戦に引きずり込むことこそ、アメリカとの戦いにおける勝利への道だとスターリンは考えている。
「これまで以上に海空軍の強化が重要になるが、着実にやるだけだ。一足飛びにやったところで、失敗しては意味がない」
スターリンはそう確信しつつ、太平洋の抑えの為に日本をもっと強化すべきだという結論に至る。
さすがに軍拡によって経済破綻するという程に行き過ぎたりはしないだろうが、スターリンとしては心配だ。
日本海軍は現在、山本五十六が中心となって空母の増強と航空隊の整備に着手している。
WW2が起こっていない為、現状は第三次ヴィンソン案だけが議会によって成立したに過ぎない。
まだスターク案が出てきていないことから、日本海軍もそこまで慌ててはいなかった。
そしてソ連と同盟を結んだことで、日本陸軍は一安心、日本海軍は後顧の憂いなく軍備の充実に取り組んでいる。
中止になったG14型空母や改大鳳型だけでなく、史実には無かった空母が出てくる可能性も大いにある。
2000馬力クラスの液冷もしくは空冷エンジンの供給や現地で生産する為の技術指導も始まったが、日本での生産開始はしばらく先になりそうだ。
日本側の工作精度や品質管理をはじめとした、工業製品の大量生産に必要不可欠な要素がその水準に達していない。
史実よりは多少改善されているが、見違えるようなレベルではなく、その程度の変化ではスターリンにも分からなかった。
ともあれ、2000馬力クラスのエンジンをソ連が供給することで、早速新型機の開発が始まっているという。
烈風や流星、疾風などが出てくるのも遠くないだろう。
「ジェット機が本格的に登場するまでの短い間だが、それでも楽しみだ」
そう言って、スターリンは満足げに頷いたのだった。
イギリス「はぁはぁ……センチュリオンだっ! どうだっ!?」
スターリン「おっ、頑張ったな! じゃあ、今後出てくる戦車達を特別に教えてあげよう! 早いものは数年以内に出てくるぞ!」
T-54・T-62・T-72「対戦よろしくお願いします^^」
スターリン「戦車以外にも色んな陸戦兵器の新型を順次投入するからな。空軍はジェット機に切り替えて、海軍もジェット機運用を前提にした空母を建造するから。あ、各種ミサイルも並行して配備するからよろしくな」
イギリス「」
フランス「」
アメリカ「」
ドイツ「」
日本「」
ムッソリーニ「そんなことよりパスタ美味しい」